アマイマスクの弟 作:アマクマスイ
いやあ、やっと義務教育から解放されたぞ。入学式はまだだけど明日から気分は高校生だ。よぉおおおおし! バイトやるぞおおおおおお!
堅苦しい父さんは中学生がバイトをすることを許さなかった。だが、高校生ならば姉さんという前例がいる。僕は姉さんと違って成績優秀。中学は常に1位だったし大学受験用の勉強も済ませてある。入学前からのバイトにも合格をもらっている。ふふふ、ようやくやりたかったことができるぞい!
「ヒーロー試験、受験会場。さすがに人気なだけあって人が多いな。500人くらいかな?」
そう、僕がやりたかったバイトとは、ヒーロー! 3年前にヒーロー協会っていうのができて、怪獣退治や災害対処のようなヒーロー活動が正式に仕事になったんだよね。強さに応じてC級からS級になれて、しかも順位と働きに応じてお金が貰える! S級なら年収1億円も夢じゃない! まだ15歳だから無理? いやいや、最年少S級はなんと10歳! 僕もS級になれると思う! ガッツリ稼いで高い物を買ったり毎日高級料亭に通いつめるんだい!
筋骨隆々の男達がズラり。と言っても、その中で使える筋肉の持ち主は5%もいない。
「なんだあ? お前も受験希望者なのかあ?」
「ガキが。世の中の厳しさってもんを教えてやるぜ」
「ぷくく、おっさん達、典型的な井の中のかわずだね。それじゃ災害レベル狼にも勝てないよ」
「なんだとガキが? 今潰されたいのかぁ?」
おじさん達は、そう言いながら僕に殴りかかる。
って、え、ええ!?
「ちっ。避けやがったか」
「ビビッてんじゃええよガキが」
「あのー。確かに僕は、おじさん達に煽られて煽り返したよ。でもさ、ヒーロー希望者なんでしょ? こんなのことに本気で怒るような人はヒーローになる資格ないと思うんだけど」
「ああん!? なんだって!?」
「もう一発殴ってやろうか!?」
うーん、ダメだこの人たち。巻き込まれて僕まで不合格になったら嫌だから、逃げよう。
素早く人ごみに紛れ込む。おじさん達の目には突然消えたように映ったことだろう。さて、試験開始まで大人しくしておきますかね。さすがに試験中まで暴力を振るわれることはないと思うから。
しばらく待つと、試験官が現れてゼッケンを渡していく。僕は列に並んで待つ。255番だった。
「それではただいまよりヒーロー認定試験を始めます。午前は体力試験。午後は筆記試験となっております。体力試験の項目は反復横飛び、1500m走、重量挙げ、砲丸投げ、垂直飛び、モグラ叩き、パンチングマシーンとなっております」
人が多いから、自分の番まで待たないといけない。ただ待つのも暇だから、強そうな人がいないか探そうと思う。
おっ、あの人ちょっと強そう。バンダナの人。
「こんにちは」
「ん? 何だ君は俺のファンか?」
「あっ……」
あー、この人この反応は、プロヒーローっぽいな。そりゃ強いわけだわ。
「すまないが、試験中にサインやサービスはなしだ。これは見回りだけでなく試験官も兼ねているからな」
「そ、そうですか。すみませんね」
「それにな、合格したら同じヒーローになるんだぞ。いつまでもファン目線じゃ合格できないぜ」
「は、はい。ご指摘ありがとうございます!」
うーん、なんだこの対応。先輩風吹かしていいこと言ってくれたから、感謝したけど、僕の方が強いんだよなあ。
「次255番、反復横飛び30秒、始め」
「ふん! はっ! ふん! はっ、ふん! ふん! ふん、ふんふんふんふんふん!」
反復横飛び。あまりやったことがないから時間がかかったけど、やっと無心になれた。この状態になれば、通常の約3倍の速さで動ける。
「お、おい! もう終わってるぞ!」
「おっと、すみませんね」
ただし、集中するあまり他の事が見えにくく、聞こえにくくなるのが弱点。
「次、1500m走!」
走るのはいつもやってるから、いきなり集中できる。
「次、重量挙げ!」
こういうのも動きがワンパターンだし待つ時間が十分あるから集中できる。
「次、砲丸投げ!」
これが一番難しい。普段こういう動きしないし、一発勝負だから。まあ、慣れないからこそ上手くはまることもあるんだけどさ。
「次、垂直飛び」
よくやってるから集中できる。
「モグラ叩き」
あまりやらないけど何度も叩くからそのうち集中できる。
「パンチングマシーン」
よくやってるからいきなり集中できる。ほい。
「またやったぁ! 9000オーバーだ!」
「やはりあいつはすごい!」
「ああいうのが本物のヒーローになるんだな。俺には遠い世界だったか」
最終種目ともなると、僕も有名人になっていた。観衆の期待を一心に集め、それに答えることができていた。
「ほう。9759kgか。ゾウをも吹き飛ばせるパンチだな。若いのになかなかすごい」
ただ、ヒーローからの反応はいまいちだったけどね。ビュウト兄さんでもヒーローで上の方の成績らしいから、僕だとぶっちぎりでS級だと思っていたのに。
体力試験が終わり、昼食。少しして、筆記試験。とても簡単だった。これなら満点間違いなしだね。試験の合格間違いなしでしょう。後はいきなりS級になれるかどうかの勝負だね。
「いよっしゃあああああああ! 合格ぅううううう!」
「ちっ、ダメだったか」
「クッソぉおおお! あと3点だったのにいいいい!」
1人1人通知書を渡され、開いた順に感想を述べていく。喋らなくとも反応で分かる。そのほとんどが不合格だ。合格は5%もいない。
僕は、え!? 69!? 体力69点、筆記0点!? どういうこと!?
「おかしいおかしいおかしい! おっ、おっ、おかしい! おかしいおかしいおかしい!」
「えっ、あいつ落ちたの!?」
「あれだけ体力試験よかったのに!?」
「くくくっ、あいつ相当なバカだったようだな」
僕の挙動を見て、周りの受験生が騒ぎ出す。は、恥ずかしい。あんな連中が、僕を笑うなんて。なんで、あいつとかあいつとか、あの辺の雑魚が合格で、僕が不合格? しかも、筆記0点!? 小学生の頃から大学受験の勉強をしていて、中学で常に一位だった僕が!? 絶対におかしい! な、何かの間違いだ!
「ちょっ、ちょーっと、採点する人が間違えたみたいだね。きっと、本当は合格だから、話を聞きに行こうかな」
チッ、この僕に恥をかかせやがって。許さんぞ試験官め。
内心怒り心頭だけど、僕はヒーローを目指しているんだ。こういう怒りを他人にぶつけてはいけない。頑張って笑顔を作り、受付のお姉さんに話しかける。
「あ、あの、たぶん採点ミスだと思うんです。もう一度僕のテストを確認してもらえませんか?」
「すみません。私に言われましても。今、担当者の方に確認してみますね」
「はい。お願いします」
受付のお姉さんが電話で上司に話しかける。反応を見るに、相手も僕のことを認識しているようだ。やはり採点ミスだったようだな。ホッとした。
「直に担当者の方が来られます。しばらくお待ちください」
「はい」
しばらく待っていると、スーツを着た偉そうなおじさんがやってきた。
「君が255番、ボンボン君かね?」
「はい」
「ふむ。少し席を替えようか。長い話になる」
試験会場の隅っこの方の部屋に移動する。受験生の喧騒は聞こえない。
「まずは名詞を渡しておこう。私は協会幹部のマッコイというものだ」
「そうですか。私はボンボンです。ちょうど中学卒業したばかりで、生徒手帳のような身分証明書はないんです。すみません」
「いや、構わん。10代にそう厳しくする気はないよ」
「ありがとうございます」
「ふむ。そう言った手前、言いにくいのだが」
「は、はい」
あ、あれ? この暗い言い方は、もしかして本当に不合格? 僕名前書き忘れたの? あんだけ名前書いているのを確認したのに? ええ?
「実は、ヒーロー協会の上層部に君のことを嫌っている人間がいる」
「えっ、ええっ!?」
「実際の所、君は合格点に十分到達している。しかし、その上層部の鶴の一声で、不合格にされてしまったんだ。名目上は、ヒーローとしての人格に問題あり、と言ってな」
「そ、そんなことって、ありなんですか? 僕、人に嫌われるようなことやった覚えが……あっ」
「なんだい? 覚えがあるのかい?」
「じ、実は、小学校時代に先生に難しい質問をして困らせたことが」
「ふ、ふむ。それは関係ないと思う」
「じゃ、じゃあ。5人に告白されて、全員に付き合うって言ったら、後から5人と先生に呼び出されて怒られたこととか」
「そ、それは……それかもしれんな」
「ええ!? そんなあ」
あれは、悪かったと思うよ。5股だもんね。でも女の子は僕と付き合えるならうれしいだろうと思ってさあ。5股だとしてもね。
「まあまあ、そう気を落とさないでくれ。私もヒーロー協会幹部。正義の代理人であり、少しは権力を持っている。5股はよくないが、未遂だったのだろ? それくらいで、若い将来有望なヒーローの芽を摘むべきではない」
「そ、そうですか」
「そこでだ」
マッコイさんは両腕を組み、悪そうな笑みを浮かべた。
「私と個人的に契約して、ヒーロー活動の補助をしてみないかね? そこで成果が認められれば、今度は正式なヒーローになることを妨げられることもないだろう」
「ほ、本当ですか!? やります! やらせてください!」