アマイマスクの弟   作:アマクマスイ

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初仕事

 僕のヒーロー補佐としての日程は、土日にマッコイが集めているヒーロー候補生との訓練のみ。実戦については、マッコイから連絡があった時に駆けつけるだけ。連絡がない間は待ち。ただし、清掃活動や現行犯への対処等、ヒーローとしてできる当たり前の活動はすればいいらしい。正式なヒーロー名を名乗れないのは残念だが、まあ顔が売れていればヒーローになった時のスタートダッシュくらいの効果はあるだろう。

 

 ヒーロー試験を落ちたことについては、家族に報告した。マッコイという幹部からヒーローを補佐する彼の民間警備会社のバイトに誘われたことも報告した。父親は少し渋ったが、結局了承してくれた。何事も経験だと言って。

 

 そして土曜の訓練初日となる。指定された訓練施設は以前のヒーロー試験会場と同じ場所だった。広くて頑丈だから都合がいいのだろう。

 そこに、10人くらいの若者達と、マッコイと、一際大きな黒い人がいた。彼はよく知っている。超合金クロビカリ。S級ヒーローだ。常に黒光りしている屈強な肉体はあらゆる攻撃を無効化し、その怪力は災害レベル鬼の怪人さえも一撃の元に葬り去るという。最強の地球人の候補にも名前が上がる超有名人。ぱっと見た感じ、確かに底知れない強さを感じだ。だけど兄や父と比べてどちらが強いかと言われると、よく分からない。とにかく、僕より強いのは間違いない。彼は教官かな? だとしたら文句はない。他の若者は、僕と同じ訓練生かな。

 

「おいてめえ、遅いぞ。何時間ちょうどに来てやがる」

 

 父からは30分前が当たり前と言われているが、本当にそうだったのだろうか。だとしたら申し訳ない。

 

「いやあ、ごめんごめん。クロビカリさんもすみません。時間にルーズなもので」

「いや、お構いなく。遅れたわけじゃないしな」

 

 あれ? クロビカリさん、やけに腰が低いなあ。指導する側のはずなのに僕にへこへこしてる。もしかして気が小さい? 人見知り?

 

「よし、集まったか。では軽い自己紹介の後、早速訓練を始めよう」

 

 マッコイに促されて自己紹介が始まる。皆、ヒーロー志望。本気の戦いをするためにいる。仲良しごっこをする気はないので、挨拶は簡潔なものだ。しかし、さすがに前回見たヒーロー希望者達よりはレベルが高いな。特にブルーとかいうやつ。僕と同い年くらいに見えるが、ひょっとしたら僕より強くね? 立ち振る舞いでそんな感じ

がする。

 

 クロビカリさんの訓練は、まずは筋力測定から始まった。いつの間にか白い服の研究者も集まっている。詳細な身体のデータを取っていく。

 

「あの、本当にこんなデータいるんですか?」

「ふむ、これはインナーマッスルの左右差のデータだな。人間の身体というのはいろいろつながっていてね、中心部の小さな誤差が先端部では大きなズレとなって現れてしまうんだよ。良質なトレーニング、良質な休息のためにも自分の筋肉を精密に認識する必要がある」

 

 軽く聞いたらクロビカリさんは詳細に答えてくれた。見た目に反してトレーニングは頭脳派みたいだな。

 

「ですけど、細かい筋肉より大きなパワーの方が重要なのでは?」

「ほう。察するに君はカタボリックを誘発する持久性のトレーニングを中心に行っているようだね」

「分かるんですか?」

 

 兄のトレーニングはきつ過ぎて痩せちゃうって、正直思ってた。

 

「自分で言うのもなんだがオレは筋肉マニアでね。筋肉のつやや張りを見ればだいたいのことは分かるんだよ。君の筋肉は持久面では良質だが最大パワーの面では少し劣る。高出力トレーニングに、休息と栄養が足りていないのではないか?」

「そうなんです。実はパンチングマシーンで9000kgしか出なかったのがショックで」

「なあに、君はまだ若いんだ。オレと共に科学的なトレーニングをすればすぐに伸びるさ」

「はい、ありがとうございます」

 

 データを取った後、クロビカリさん指導の元にウエイトトレーニング。僕はほぼ全ての項目で二位だった。一位はブルー。クロビカリさんは、全ての項目でそのブルーを10倍以上ぶっちぎっていたが。トレーニングの後は、科学的なストレッチ、マッサージ、高タンパクの食事。そして、酸素室で休息。それで土曜日は終わった。なかなか充実した一日だった。

 

 翌日は実戦形式の訓練。ウエイトトレーニングばかりで神経系を疎かにすると実戦で使えない筋肉になる可能性もあるが、クロビカリさんにその辺りのぬかりはないのだ。

 ここでは僕が他の若者を圧倒した。ブルーをもだ。ま、僕は毎日兄にしごかれてきたからな。中学に入ってからは兄のジム兼道場にも毎日通わされた。特に武術という面ではこの年齢では飛びぬけた位置にいる。才能もあるしな。

 

 今週は体力測定もあって土曜ウエイト、日曜実戦だったが、今後は土曜実戦日曜ウエイトとなる。月から金はウエイトで傷ついた筋肉を修復する時間となる。べきだが、僕は兄のしごきから逃げられないのでやはりカタボリックは起こってしまうと思う。残念だが仕方ない。あの兄は苦痛を乗り越えた先に人間の限界を超える何かがあると信じきっているのだ。実際にその方法で壁を乗り越えた人でもある。僕が言ってどうにかなる相手ではない。

 

 長い春休みも終わり、高校に入学する。女子高生や制服はいいなあと思いながらも、授業や部活はつまらないので高校に思い入れはない。僕の心はヒーロー活動にあった。高校は言うなれば、休憩や目の保養で英気を養う場所だ。それ以上でもそれ以下でもない。

 

 訓練を始めて約3ヶ月後の平日、マッコイから電話が入った。

 

「君に初任務だ。災害レベル竜、ワクチンマンがA市に現れた。市を破壊し多くの犠牲を出した後、何物かに撃破されたようだが、瓦礫に埋まった人や怪我をして動けない人が多くいる。救出に参加してもらいたい。また、ワクチンマンの残骸を見つけた場合は、触ったりせず私に報告してもらいたい」

「了解です」

 

 災害レベル竜。その言葉を聞いた時、一瞬心臓がビクンと跳ねるのを感じた。すぐに撃破された後だと感じたが、この高揚感を失ったわびしさ、恐怖心が出た直後に救われた感じは、何とも言えないわびしさがあった。

 実は僕は、ほんの少し超能力を使うことができる。それは、人の気配を感じられるというものだ。寝ている人の気配は見えにくいが、起きている人の強い思いや、強いエネルギーは、詳細な場所まで感じやすい。戦闘でもたまに役に立つ能力である。救助においては、これがとても役に立つ。

 

「こ、これは……」

 

 負の残留思念というのだろうか。見たことないような嫌な気配が、A市に漂っている。それは現場に近づくに連れて強くなっていった。

 

「大丈夫ですかー! 誰かいませんかー!」

 

 現場ではヒーロー達や正義心の強い人や医療関係者が何人もいて、瓦礫に向かって声をかけたり重傷者を運んだりしていた。僕も真似をしよう。

 

「大丈夫ですかー! 誰かいませんかー!」

 

 声を出し、目を瞑って気配を探る。地面にいくつか気配がある。近いのは、右斜め下か。

 

「えーっと、とっとっと」

 

 潰れた家を持ち上げる。バキバキット割れて、一部の瓦礫が下に落ちていく。これがけが人に当たって致命傷になったら目も当てられないな。気をつけないと。どう気をつけたらいいかよく分からないが。ある程度は計算できても、運要素が大きいな。

 

 最後の瓦礫を上げた途端、泣きじゃくるお婆さんが現れた。

 

「孫があ。どうか孫をお。お助けをお」

 

 孫? の、気配はない。でもお婆ちゃんが見ている方に血の跡はある。死んじゃってるな。でも、言わない方がいいだろう。はあ、憂鬱だ。

 

「大丈夫ですよ! きっと助けて見せます! お婆ちゃんは危ないので先に救急車に乗ってください!」

「わしはどうでもいいから、孫をぉ! 先にぃ!」

 

 どうしよう。困ったなあ。死んでる姿なんて見せたくないのに。

 

「君、僕がお婆さんを連れて行くよ。君は救助をやってくれ」

 

 と、ヘルメットを被った人がお婆さんを誘導してくれた。これで死体と対面できる。……対面する必要あるか? 一応墓のために、やっておいた方がいいのか?

 よく分からないが、一応瓦礫をのけてみた。やはり死んでいた。墓を立てた方がいいのかもしれないが、今は時間がない。他の現場へ急ごう。

 

 このように救助活動は続いていく。家族全員助かることもあったが、誰かが死んでいる場合の方が多い。それくらい町は木っ端微塵にされていたのだ。悲劇だ。見ているだけで憂鬱になる。だが、俺はヒーローになると決めたのだ。これで挫けてはいけない。むしろ、力にしなければ。このようなことを起こさないために、強くならなければならないのだと。

 

 なお、しばらく救助活動を続けていると、超能力者のタツマキと、多くのロボットを従えるメタルナイトがやってきた。彼らが来てからはとても素早く瓦礫が撤去され、生き残りの人々が助けられた。今日は寝ずの救助活動も覚悟していたが、どうにか夕食には間に合いそうだ。食欲ないけどね。

 それにしても、あのハゲてる人のパワーすごいな。瓦礫となったビルをものともしない。格好からするとヒーローか。しかしS級やA級上位ではない。ヒーロー名簿で見たことないからな。A級下位やB級にもあんな人がいるってことか。俺が思っていたよりヒーローは層が厚いのかもしれないな。ビュウト兄さんが上の方って自称しているのは、うそ臭いな。残念ながら。名簿にもそれらしい人いないしな。我が兄ながら情けないものだ。

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