アマイマスクの弟 作:アマクマスイ
あれからいくつか仕事が入った。その全てが瓦礫の撤去作業、救助作業であり、怪人との戦いはなかった。若者であることもふまえ、マッコイは僕達をあまり怪人と戦わせる気はないようだ。それならそれで構わない。瓦礫の撤去作業やクロビカリさんの特訓を経て僕の最大筋力は高まり、それに合わせて戦闘能力もずいぶん向上している。今なら災害レベル鬼でも問題なく対処できるはずだ。やってやろう。
巨人が現れたというニュースがあった。これだ。ちょうど僕が試したかった筋力を見せ付けられる場だ。やってやろう。
巨人は非常に大きく、D市に着くよりも前に見えた。肉眼で見えたなら接近していくだけ。だが、近づくにつれて全身の細胞が警報を出す。こいつには敵わない、逃げろ、と。筋肉は強張り、嫌な汗が出る。それでも、ここで逃げるようなら、何のために訓練したのか分からない。自分の実力を試すこともしないで逃げていいのか?
そんなことを考えていると、突然巨人が腕を振るった。その腕に、驚異的なソニックブームを纏いながら。
「これは、ヤバい! ほぁああああああああ! おりゃああああああ!」
僕は咄嗟に地面を蹴りつけ、道路を割って固定物として取り出し、そのソニックブームに投げつける。これで相殺したいが、できるわけないとも思っている。
「ガハッ」
道路から作った岩はなんでもないように吹き飛び、直後に僕の身体も吹き飛ばされる。そして、衝撃。全身のいたる所に大小の石や瓦礫がぶつかり、ソニックブームの衝撃波が打ち付ける。
痛い。とても痛い。兄のしごきより痛いかもしれない。でも、耐えられない程じゃない。
「ぜえ、ぜえ、ぜえ。ガ、ガハッ。ぜえ、ぜえ」
でも、ダメだ。軽く振った腕でこのダメージ。とても戦えるレベルじゃない。中に入って臓器を破るとか、とんでもない方法を使うくらいじゃないと。正攻法では勝てない。このまま突っ込むでも死ぬだけだ。市民の犠牲は出るが、日中は諦めるしかないんじゃないか。
僕が絶望していると、巨人は突然怒り狂って、地面を殴り始めた。とてつもない連打だ。その一発でも当たれば一たまりもない。僕は一撃でぐちゃぐちゃになると思う。兄や父でさえ、この相手は無理なのではないか?
はは、絶望だ。こんな相手と戦えるわけがない。逃げよう。早く逃げよう。それしかない。
「え? は?」
僕が逃げようと決心したその時、巨人の顔が突然ぐにゃっと曲がった。その顔が曲がったまま飛んで行き、つられて全身も飛んでいく。まさか、誰かが巨人を殴りつけた? あのサイズを? あ! あのハゲの人! またあの人か!
巨人はそのまま倒れていく。その倒れただけで、とてつもない衝撃だ。町が吹き飛んだ。
巨人は倒れたまま動けない。まさか、本当に死んだ? いや、まだ生きている可能性はある。トドメを刺さないと。まあ、あのハゲの人がやってもらえると思うけど。問題は、僕がこのまま救助に行けるかどうかだ。正直、この状態の倒れている巨人にも近づきたくない。恐い。でも、ここで救助できなかったらヒーローとして終わっている。勇気がなさ過ぎる。どうすればいいのか。ど、どうすればいいのか。
もし、僕が行かないことで、死んでしまう女の子がいるとしたら? その子と将来結婚する可能性もあるかもしれないとしたら? ……や、やるしかない。そうやって、自分を納得させよう。ここで逃げたら、大切な物を失ってしまうから。こ、恐いけど、救助やるぞい!
「おーい。大丈夫かー? 誰か生きてるかー? 返事しろーい!」
ハゲている人は、救助活動している。パワーはあるが救助ペースはとても遅い。僕と違って人の気配を感じ取れないのだろう。瓦礫を退けて肉眼で救助者を探すのは時間がかかる。
何故僕がハゲている人と鉢合わせたかと言うと、巨人を恐がった僕が近づいたからである。しかし怪我の功名と言うべきか、僕とこの人が協力するのが一番救助活動の効率がいいように思う。だからこれでよかったのだ。
「あの、僕、救助得意なんです。どこに人がいるか分かりますから、手伝ってください」
「おっ、お前前もいたやつだなー。そうなのか。じゃあ教えてくれ」
「はい。一番近くだと、このあそこの下ですね。しかし死にかけ優先だとするならあっちを」
「ほいきた」
「はやっ。めっちゃはや」
そうして救助活動は地道に進んでいった。
活動途中には他のヒーローや一般人もやってきて、皆で救助した。例によってメタルナイトが来てからはすぐに終わった。やはりS級ヒーローはヒーローとしての格が違うな。
巨人に対する圧倒的な敗北。僕は強くなる必要性を実感した。いつも兄に言われるままにしごかれているが、それだけでは足りない。クロビカリさんのトレーニングだけでも足りない。時間が経てば強くなるかもしれないが、もっとすぐに強くなりたい。そう思うようになった。じゃあどうすればいいかというのは、具体的には分からない。既に感覚的な武術と科学的な方法の最先端にいるからだ。これ以上を望むのならば、心だろうか。僕自身が、最強を強く望む心を持つ。決して弱音を吐かない心を持つ。そうすることで今より先に行ける気がした。
「僕は、最強に、なる!」
「ほう、いい面構えになったな。ボン」
兄との修行で、今までに以上に、苛烈に打ち込んだ。
「絶対に勝つ! 勝ちしかない! 勝つんだ!」
「ボ、ボン君。時には戦略的撤退や仲間を待つことも必要だぞ!」
クロビカリさんとの組み手では、負けると分かっていても、勝つと言い聞かせて立ち上がった。
その心構え1つで、成長速度がグンと上がった。心技体とはよく言ったものだ。本当にそれぞれが相乗効果となってあがっていくんだね。
トレーニングの最中、蚊の大量発生が起きた。これによりたくさんの人がなくなってしまった。通常のヒーローなら蚊の問題はヒーローと関係ないと考えるだろう。でも、今の僕はそういう些細な諦めもしたくない精神状態になっていた。何が何でも勝つ。相手が知性の問題だろうと勝つ。そこで蚊の大量発生と言えばその天敵がいなくなったことが問題だろうと考えた。つまり、クモである。農薬や水質汚染のような環境破壊によってクモが死に、蚊が大量発生したのだろうと当たりをつけた。ネットで調べると、やはり正解だったようだ。人間の環境破壊がいかに生態系にダメージを与えているか、というブログがいくつもヒットした。そのブログのうちの1つ、サイコスという若い女性の研究者が権力と戦える若者を募集していたのが気になった。本当に戦いが必要なら力になるし、不必要にテロをしようとしているなら止めなくちゃいけない。僕はヒーローだからね。