アマイマスクの弟   作:アマクマスイ

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バースト

「そこまで! 勝者リリー!」

「やったー!」

「クソッ、悔しい……」

 

 相手は3つ年下の14歳の少女。体格はこちらのウェビギャザが上。競技歴の差はあるが、彼女も俺の元でみっちり鍛えてきたはずだった。にも関わらずこれほど差がついたのは、ひとえに才能の違い。

 

「また負けちゃいましたね。年下にボコボコにされて負けちゃうアイドル。これはこれで、需要はあるんですが……」

「それは、彼女の覚悟を踏みにじる行為だ。最もやってはならない」

「で、ですよねー」

 

 テレビ屋、いやネットアイドルのディレクターと言っていたか。彼のような金のために心を捨てる生き方というのが、この世界では当たり前なのだろう。だが、俺はそれを覆すために武術を広めているのだ。ここで折れるはずがない。

 

「せ、先生。私、これからどうすれば……」

「下を向く必要は無い。負けて、挫けて、それでも前を見て進み続けろ。その先に、光を掴める時が来る」

「でも、はっきり言って、私には才能がない!」

「……アマイマスク、という男を知っているか?」

「え!? は、はい! もちろん!」

 

 ビュウト。情けないが、お前の名を借りるぞ。

 

「俺は昔のやつを知っている」

「え!?」

「やつはとても弱い男だった。修行にすぐに根を上げて、逃げ出して、泣いて親にすがりつく」

「そ、そうなんですか! アマイマスクの正体を知ってるんですか!?」

「だが、やつは諦めなかった。その結果が、今のやつだ」

「そ、そうだったんだ……。私、もう少し頑張ってみます!」

「うむ。その意気だ。さあて、休んでる暇はないぞ! 夕日に向かって走り込みだ!」

「はい!」

 

 試合会場を後にし、カメラマン達と別れ、門下生達とランニングをする。実力に差があるので、同じペースで強度不足にならないよう、実力に応じて重りをつけさせている。試合の疲れもあり、いつもより足取りが重い。

 

 ん? この気配はボンボンか。だが、隣にすさまじいエネルギーを持つ人間がいる。それも歪なエネルギーだ。警戒した方がいいかもしれんな。

 

「ごめん兄さん、それに皆さん。ランニング中にお邪魔しちゃって」

「初めまして、ボンボン君のお兄さん」

 

 若い女だ。と言っても15歳のボンボンとは不釣合い、25歳くらいに見える。スタイルがとてもいい。だが注意を引くのは、その身に纏う不気味なエネルギーだな。

 

「どうも、初めまして」

「加入希望者ですか?」

「その、今日環境対策集会をやってくれたサイコス先生。兄さんの修行に興味あるから、見学をって」

 

 科学者が俺の修行に興味? このどす黒いエネルギーと言い、きな臭いな。何を企んでいる?

 ……ムッ、やつの思考が読めんな。遮断しているのか。このレベルの超能力使いとはな。と、やつも俺の思考を読もうとしてきたな。遮断してやったが。

 

「へえ。あなたも使えるんですね」

「何が目的だ?」

「兄さん、恐い顔しないでよ。相手女の人だよ?」

 

 チッ、ボンボンめ。女に優しくしろとは教えたが、こいつはそういう弱い人間ではないぞ。分からんのか?

 

「ただの見学ですよ。才能溢れるボンボン君のご兄弟がどんな方なのか、興味ありましてね」

「サイコスさんはトレーニングの研究もやってるらしいんだよ。別にいいでしょ」

「……いいでしょう。うちは見学は自由です」

 

 簡単に馬脚を表すとは思えんが、正体を探るために、一度引き込んでみるのもありか。いくらこの黒いエネルギーと超能力があるとは言え、肉体的には素人に近い。俺が負けるとは思えんからな。

 30分程でランニングを切り上げ、道場兼ジムに戻る。ウェビギャザはバイトもあるので帰った。

 

「門下生は、これで全てですか?」

 

 今ここにいるのは、俺とボンとこの女と、弟子達が10人。

 

「彼らとは別に、部活の合間に来てくれる子もいます。ジムに通っている人は20人ほどいます。正式な弟子は、彼らだけですがね」

「少ないですね。あなた程の実力がありながら。宣伝に力を入れてらっしゃらないのですか?」

「半端者が来られても困りますからね。真に強くなりたい者でなければ、弟子には取りません」

 

 ま、弟子にしたとしてもそういうやつはすぐに辞めていくからな。

 

「怪我をしている人が多いようですが」

「彼らは皆、怪人被害で家族を失ったり自身が重症を負った者達です。覚悟が違いますから、多少の怪我ではへこたれません」

「なるほど。スパルタ上等、というわけですね」

 

 俺は弟子達にいつも通りの指導をしていく。女は何かを言うでもなく、ただ観察するような目で眺めていた。そして、いつも通り修行が終わる。不意に女が近づいてきた。

 

「きついと言われたその先にしか修行の成果がないとおっしゃっていましたね。これはつまり、人間という種の壁を意識した言葉では?」

「ふむ。どうやら頭でっかちの研究者ではないようだ」

 

 種族としての壁。これは表に回っている論文では見かけない表現だ。それを知っているとなると、ただの科学者ではない。

 

「しかし、私から言わせると効率が悪い」

「効率? 壁を超える方法に、近道なんてないでしょう。何せ、自分の心で乗り超えるしかないのだから」

 

 女はにやりと笑った。

 

「自分の心で乗り越える。そうだとしても、そのお手伝いだってできるのですよ」

「無論俺とて、それはしているつもりだが?」

 

 女はさらに笑みを強めるが、何も言わなかった。もしや、後ろ暗い実験でもしているのか?

 女の視線を軽く流し、女は去っていった。怪しい。ボンとこいつをもう会わせん方がいいだろうな。

 

「先生、あの女の人は……」

 

 女が帰ってすぐ、弟子の女2人、タマノとコシが話しかけてきた。

 

「気になるか?」

「あっ、いえ、そういう意味では」

「別にいいんですよ? あの人が入ってきても」

 

 こいつらはボンボンがヒーロー活動で助けた娘だ。だからあいつに心底惚れている。あの女がボンボンを取ってしまうのではないかと、気が気でないのだろう。

 

「安心しろ。やつを弟に近づかせはしない」

「えっ!? いや、別にそういうのじゃないんですけどね!」

「そっかー、先生が言うなら仕方ないなー。ボンボン君と並ぶと、老けすぎてるって、思ったりしたけどね!」

 

 こいつら……。色恋で他人を貶すようなことはするなと、教えてやらんといかんな。

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