アマイマスクの弟 作:アマクマスイ
森を進む僕達一向。中には怪人化した猫、犬、猿、がうろついており、僕達の隙を伺っている。しかし、手を出してこない。おそらく野生の観で、父さん兄さんの放つ強者のオーラに気付いているのだと思う。
ふと、虫の飛ぶような音がした。蚊だ。蚊の大群が前方から襲ってくる。ただの蚊ではない。人間大の蚊の大群だ。
「珍しいな。こういうやつは見たことがなかった」
「超大陸の環境破壊が、こちらに影響したのか?」
構える父さんと兄さん。だが、こちらに視線を向ける。僕や、弟子だけで切り抜けられる相手だと言いたいのだろう。やってやるさ。
相手は思考能力のない蚊。本能ままに襲ってくる。戦うしかなかろう。
「ほい!」
殴ると、蚊の身体が砕け散り、変な色の血が飛ぶ。やはり蚊だ。弱い。
「オラオラオラオラオラ!」
僕は得意の連打で、次々と蚊を落としていく。
「はっ! やっ!」
「おりゃあ! せいっ!」
弟子達も次々と蚊に攻撃していく。当たれば蚊は落ちるが、蚊は機動力に優れるので、当てられない弟子もいる。そして蚊に接近を許し、吸われてしまう。この大きさに吸われたら貧血間違いなしだろう。
「しまっ」
「ほい!」
僕は急いで移動し、蚊を潰す。他の弟子達も見て、危ない子から助けていく。
少し打ちもらしも出るが、姉さんが超能力でカバー。
しばらくすると、蚊は風に乗ってどこかへ飛んでいった。
「大丈夫ですか? 皆さん」
僕は当たりを見回す。血を流している人はいるが、苦しんでいる人はいない。貧血になるほど吸われた人はいなさそうだ。
「くぅー。あんな低レベルな怪人にやられるなんてー」
「クソッ。俺のストレートが当たりさえすれば」
「気を落とさないでください。一匹一匹は弱くても、あの大群なら災害レベル鬼はあると思いますよ」
ないかもしれないけどね。
「で、ですよね! 鬼か。じゃあ仕方ないかな」
「私が弱いわけじゃ、ないよね」
慰めたらすぐ調子に乗る。いいのかな? これ。
さらに歩くと、今度は強い9つの気配が現れた。ミノタウロスのような、半身だけ虎の怪人。言うなれば半身タイガース。頭にはヘルメット。腕にはバット。
「ここがチバやと分かって来とんのか? ワレ?」
「あれよ。地元なら負けるわけあらへんよ」
「おそよう、チュッ。かわいい7人食べちゃいたい」
よく分からないふざけた口調だが、こいつらはヤバい。1人1人が災害レベル鬼クラス。僕でも勝てるか分からないのに、それが9人。父さんと兄さんに任せるしかないだろう。
「初めて見る怪人だな。よそ者か?」
「こいつらが先程の蚊を連れてきたのかもしれないな」
構える父さんと兄さん。この2人はまだ余裕だ。だが、僕にはあまり余裕はない。この2人が打ちもらして、誰かがこちらに攻撃してくると、命をかける必要が出てくる。
一触即発の空気。敵もこちらの実力を感じたようでうかつに仕掛けて来ない。だが不意に、一匹の虎が動いた。
「セイバーメトリクスの基本や! 弱いやつから潰す!」
やつの狙いは最年少の弟子、13歳のオトトだった。虎だけにしなやかな動きで、とても速い。僕は弟子を庇おうと前に出るが、変則的な動きを捉えきれない。
「もらったで。ホームランや!」
敵はバットをぶん回し、弟子の1人を襲う。が、当たる直前に突然ぶっ飛んだ。彼が吹き飛ぶ直前にいた場所のすぐ傍では、兄が拳を突き出していた。気付かないうちに攻撃していたのだろう。
「ア、アライさんがホームラン打たれてどないすんねん!」
動揺する敵。兄は拳を出して睨みつける。
「何やあの兄はん。ちょっとおかしいんちゃうか?」
「ドーピングしとるんやろ。アホらし」
「やってられへんわ。帰ろ帰ろ」
「アライが悪い」
「負ける気しとったわ。チバやし」
「でもこれじゃあ邪異暗痛戦のメンバー足りんがな。どないするの?」
「アライの弟がおるやん」
「期待の若手やな」
敵は、よく分からないことを口にしながら、去っていく。兄は追おうとしない。やはり、兄も怪人にトドメを刺さないのか。あれほど強い怪人なのに。恨まれてもう一度襲われたら、その時に僕だけならば死んでしまうかもしれないのに。
僕達の安全よりも、怪人の命の方が大事なのだろうか。よく分からなくなってしまった。
その後も、人間大のねずみ、アヒル、犬、バットを振るうクマ、ブタ、犬、剣を使う猛獣なんかに襲われたが、何とか切り抜けることができた。さすがに暗黒大陸、災害レベル鬼を超える怪獣の宝庫。僕だけなら100回以上死んでいたことだろう。兄さんにもさすがに疲労が見える。だが、父さんだけは余裕の表情だった。
そうして、ようやく目的地に辿り着く。森の奥に、美しい湖があった。その湖はとても澄んでいて、怪人化されていない超大陸で見かけるような動植物もあった。何故ここだけは怪人に襲われないのか。水場は強者のたまり場のはず。その理由は簡単だ。この湖を覆うようにバリアーが張られている。それをやった、強者がいる。
父さんは目で、僕にそのバリアーに触れるように促す。何故僕? 大丈夫なんだろうか。まあ、たぶん父さんの知り合いなんだろうけど。
そっとバリアーに触れる。ちょっとだけ痛みを感じたが、すぐにバリアーに穴が開き、僕は中に招かれる。そして、不思議なオーラに包まれた。
「これは、何? 懐かしい感じがする」
このオーラの持ち主は、湖の中にいる。とても大きな力だけど、恐怖はない。僕に対する敵意を微塵も感じない。むしろ、守られているような……。
「顔を見せないのか?」
父さんが湖に向かって言う。
「まだ恥ずかしい」
湖から、女性の声がした。やはり懐かしい感じがする。聞いたことがある気がする声だ。
「気にすることはない。そんなものは既に乗り越えている。もう15歳になったんだ。私の真似か知らないが、ヒーローの真似事もしている」
父さんが湖に話しかける。女性から返事はない。しかし気配が乱れている感じがする。姿を見せるかどうか、迷っているのだろう。
しばらくすると、決心がついたのか、オーラが定まった。そして、水面が動く。これは、大きいな。
湖から出たのは、とても大きな怪人だった。20m近くあるだろうか。一見すると人魚のようなだが、髪が蛇のようだったりヒレがコウモリのようだったり、色んな怪人が混ざっている。いや、父さんの言い方を真似るなら怪人ではないのだろう。そういう生物であるだけだ。オーラは穏やかであり、こちらに敵対する意志は感じられない。
この怪人の見た目、見たことのある顔だ。というか僕の母そっくりだ。だが、これは作り物だ。超能力で本物の姿を隠している。証拠に肌がボロボロと崩れて、中から蛇のような皮膚が見える。
「どうして、母さんのような見た目をしているのですか?」
彼女は、一瞬泣きそうな顔になった。まさか、と思った。彼女は、僕にそっと手を伸ばし、指で包み込んだ。
「私があなたの、母だからよ」
そうなのか。そうなのだろう。このオーラ、声、雰囲気。確かに母さんのものだ。僕は、母さんは10年前に行方不明になったと聞かされていた。どこかで生きていると思いながらも、ずっと戻らないから、死んでしまったと諦めていた。だけど父さんが濁すから、生きている可能性もあるかもしれないとも思っていた。
それが、実は、怪人化してこんな所に隠れていたとは。たぶん、あの日、怪人化して町に住めなくなったから、暗黒大陸に移住したのだろう。