ある無名のアトリエ 〜名もなき絵画の錬金術士〜 作:メルヴェイユ市民
メリメール・デプス、大広場。
台座のように盛り上がった薄く平らな石段の上に、その火竜は居た。
「赤い…前に出会ったのとは違う…」
————グルルルゥ……。
「あ、あの…スー?ほ、本当に戦うんですか?あれと」
「え、ええ!あたしに!?…ど、どうしよう…」
————ゴアァァッ!
「わきゃうっ!?」
「ひぇー、あれは随分気が立ってるよ…」
「やべーってやべーって…俺、ちゃんと前に立てるかな…」
「た…戦うよ!うん!いざとなったら…助けてよね?ルーシャお姉ちゃん、ティティお姉ちゃん♪」
「こんな時だけお姉ちゃん扱いしないでくださぁい!?」
「じゃあ先制攻撃、行くよっ!それっ」
————[アクティブスキル:フロールミラージュ]
鏑矢となったフィリスの矢は光の尾を引いて火竜の喉元へと突き進み———閃光を伴う大爆発を起こし、火竜の姿を飲み込んだ。
「ど、どうなんです?やったんですか!?」
「気を抜かないで!こんなんじゃ全く効かないよ!」
その言葉の通り、その赤い巨体は、翼を一打ち、爆煙を吹き飛ばして現れた。身体にはまるで傷一つない。
「まだまだこっちのターン!ほらっ、これでもかー!」
———[アクティブスキル:スペシャルリロード]
———ダダダダダダンッ!
一瞬の間に、6発の銃声。スーちゃんの二丁拳銃のリボルバーが超人的な指捌きによりコマの如く回転し、僅かに半秒未満の間に連続して放たれた6発の弾丸が竜の喉のただ1点を狙い
そう、なんと、スーちゃんの武器は二丁の銃…錬金銃と呼ばれる特殊な銃器。人間とは思えない精度とスピードの連射は、母親譲りの神業だ。
「射撃、上手くなりすぎじゃないかな…」
「くふふっ!あたしの早撃ちを、舐めちゃいけないよっ…と、これもダメ?」
しかし、1発1発が軽い銃撃では竜の皮膚を破ることは叶わない。依然、竜はまるでこちらの攻撃に傷ついておらず、挑発になっているかすらも怪しい。
…かと思われたが、どうやら竜はしっかりとこちらを獲物と見定めたようだ。
「っ、くるぞ!気をつけろお前ら!」
「マティアス頼んだ!」
「ああ隠れてろ!」
———[エネミースキル:破邪の雄たけび]
竜が大きく息を吸い込み、天を見上げる。
呼び起こされる記憶———咆哮———そして衝撃。
「っ、伏せてっ!!」
———グオオオオオオオオオッ!!
「「きゃああああっ!?」」
「リディー!?ルーシャ!?」
記憶に深く刻まれたトラウマから身を伏せていた私と、マティアスの影に隠れていたスーちゃんは無事だったものの、体格が小さく竜に慣れていない2人は抵抗しきれず吹き飛ばされた。
「まだ油断するな、もう一度来るぞ!」
天高く突き上げた頭の、その顎に光が集まっていく。
ブレスの予兆。しかし、大沼林のドラゴネアとは比べ物にならないエネルギーを感じる。
———[エネミースキル:ホーリーブレス]
ズキッ、と頭が痛む。
これから訪れる未来の、あまりにも鮮明な予想が、また世界からインプットされてくる———白い、聖なる力を帯びたエネルギーが私たちを飲み込み…無防備に転がる2人に直撃する未来。
「私が…盾に!」
「ティティさん!?」
リディーとルーシャの下までなりふり構わず駆け寄り、迫り来る白の波に背を向けて覆い被さる…前に!
———[アクティブスキル:ブルースケッチ]
「———あぐっ…!」
衝撃が背中を打つ。次いで、抉られた地面の石片、そして熱風。
熱源の発生による、急激な温度変化。魔力が、気体の対流という科学現象を
ごお、と風が鳴り、私の身を揺さぶる。
「ぐ、ううっ…!」
———直撃していれば、ただでは済まなかった…!
背後で、一抱えほどの大きさの《威圧する火龍の像》から、猛る豪炎が噴き出している。炎は聖なるブレスとぶつかり合って相殺し、その余波が爆風を産む。
襲い来たのは聖なるブレスそのものでは無く、フランプファイルと像の2つのブレスの衝突の余波だった。
しかし、その拮抗はやや劣勢。火竜のブレスのいくらかは炎を突き抜けてこちらまで届いてきている。
…なぜか、背中の皮膚の感覚が薄い。麻痺しているような感じ。
どうやらあのブレスは物理的な破壊力も相当だけど、それ以上に厄介な特性があるようだ。
「白いブレスに当たると体の感覚を奪われるみたいです!気をつけてください!」
「りょ、了解!鎧着てて良かったぜ…おらっ!こっち向きやがれ!」
マティアスさんが前に出てドラゴンに斬りかかり、ブレスを撃つ隙を与えぬよう牽制している。
今のうちに態勢を立て直さないと!
「ティトラちゃん大丈夫!?」
「なんとか…立てます!2人は?」
庇った甲斐もあり、見たところリディーとルーシャに傷はない。
「へ…平気です!こんな所で弱っていられないですから!」
「わたしも、なんとか…あっ痛っ…!」
ルーシャは震えながらどうにか立ち上がったが、リディーは足に力が入らず立ち上がれない。
どうも、吹き飛ばされた時に捻ってしまったのだろうか。
《リフュールパット》で直ぐに治療はできるだろうけど、そのためには一旦後ろに下げた方がいい。
「ルーシャ、リディーを頼むね。私が前に出るから!」
「分かりました。ほら、リディー!肩を貸しますから、掴まってください」
「ごめんなさい、頑張って…!」
「穿てッ!」
———[アクティブスキル:海神の裁き]
アルトさんの戦闘スタイルは独特だ。片手に神秘的なオーラを放つ本を開いて持ち、剣のような物体を繰って戦う。
身振りと呪文、そして開いたページの位置…それらの条件を変化させることで、剣は異なる属性の魔力を帯びる。
今放たれた攻撃は氷の魔力を帯びていた。
竜の両側面の虚空から青い光を纏った剣のような物体が4本ずつ現れ、竜に切っ先を向けて整列。号令に合わせて突撃した剣列は竜のウロコによって弾かれてしまった。
ただ、弾かれてはいるものの、その反応は他の攻撃とは異なっていた。
———グルァウ…ゴァアアッ!
「い、嫌がっているみたいです!」
「どうしてだろう、あたしの銃も同じように…っ!」
———バン、バン!
スーの銃撃。開かれた口腔に向けて、2発の銃弾が放たれる。
ウロコすら無い明らかな弱点であるにも関わらず、全くの無反応。先ほどと同じように、効いている様子は無い。
「ほら、全く気にもしないのに!…もう!自信なくなっちゃうなあ!」
アルトさんのあの剣に、何か秘密があるのだろうか。それとも、別の理由で?
「気になるな、試してみるか…怒りよ!」
———[アクティブスキル:霹靂の怒り]
今度は雷を帯びた剣が回転しながら4つ飛んでいき、竜を上下左右から斬りつける。
しかし、これもまるで効き目はない。
それどころか、今度は嫌がる素振りも無い。
「今度は嫌がった感じ、ないね…?」
「うーーん?…あ、もしかして…」
敵を観察することは、錬金術士の戦いの基本。
弱点を突く道具で、相手に理不尽を押し付ける。それこそ錬金術士の本懐なのだけれど、これまで、この火竜にはまるで弱点は見つからなかった。
それだけに、この反応は見逃せなかった。現実の竜とは違う、”災厄”の象徴、化身。絵の作者が定義した概念、それがカタチとなった火竜を打ち倒すには、力押しでは無く、同じように定義された”解法”や”対処法”が要るということを、私は薄々と感じていたのだ。
火竜を観察して弱点を探す私たちの目の前で…しかし、ついに限界が来た。
———グルォアッ!
「ぐあっ…!?し、しまった!」
「マティアスさん!?」「マティアスっ!この…!」
マティアスが尻尾の薙ぎ払いを受け損ない、お腹に打撃を受けて吹き飛ばされた。
追撃を防ぐべく、今度はスーちゃんが前に出るが…素早い動きで相手を翻弄し、回避することで相手を押さえつけるのがスーちゃんの前衛での戦闘スタイルだ。しかし、ドラゴンは巨体。一撃一撃の危険範囲が大きいため、常に大ぶりな回避を強いられる。
その上、火竜はその攻撃をものともしていない。
“時間切れ”———頭を過ぎる諦念のカケラを振り払い、思考を巡らせる。
せめて、せめて何か火竜の攻撃を受け止められるような方法がないと。
「あっ、こら!あたしがいるのにそっぽ向くなぁっ!」
ついに火竜はスーちゃんを全く気にしなくなり、空へと飛び上がった。口腔は大きく開かれ、その内に再びエネルギーが集まっていくのが分かる。
しかし、今度の一撃はさっきの聖なるものとは違う。もっと純粋に、破壊という一点に特化された、暴威そのもの…!
「うぁっ…!?」
あ、頭が…また、あの痛み…!?
イメージが———頭に流れ込んで———。
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溶岩を蓄えた火山を引き絞られた弓と見立てるならば。
それは地より噴き上げる炎の矢だろうか。
———いいや、違う。
それは銀河が産み堕とせし、地を焼き払う宇宙よりの裁き。
それは神話に謳われし、地を撃ち貫く太陽の怒り。
それは夜空に煌めく星々を羨み、火を噴き上げんとする大地へと落とされた———。
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————[エネミースキル:ギャラクシィロアー]
神話の一矢が、今、天より突き立たんと降りてくる。
顎門から溢れ出すものは
現実にはありえない、
滅び、そのもの。
星々の怒りに触れた大地は、滾る溶岩に沈む。
その最後の
それが、あの竜。あの、光。
あまりに恐ろしく。
それでもやっぱり、嗚呼、とても美しい光景。
だからこそ。
「———負けられない…!」
—————グルゥゥゥ…。
振り向く。
その時、私は確かに、記憶に深く刻まれたあの咆哮を聞いた。
空気ではない何かを通してこの空間に響いた声は、眼前の火竜と変わらない恐ろしい音色であるはずなのに、暖かく、勇気を奮い起こさせ…私を呼んでいるような意思があった。
地面に置かれたままの《威圧する火龍の像》へ、不定形のナニカが集まってゆく。とても不思議に満ちた、不気味ですらある光景。
「…《アルケウス・アニマ》…?ああ、これが…」
背後に煌めく竜の吐息の予兆も忘れ、私は、恐る恐る手を伸ばす———。
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「な、なに…?あれ…ちょっと離れてる間に何が起きてるの?」
「リディー!ねえ、あのティティが触ってるキラキラしてぐにょっとしたやつってさ…」
「う、うん。よく絵の世界で見かけるアレだよね。『
『バトルミックス』とは、リディーとスーの双子が編み出した、新たな錬金術のカタチだ。
絵の世界で採取をした時に付いてくる謎の物体、《アルケウス・アニマ》*1を消費し、戦闘中に即席で調合を行って様々な使い捨てのアイテムを作り出す。それが『バトルミックス』である。
錬金術の調合とは、釜に水を張り、素材を投入し、かき混ぜることで新たな物品を生み出す技術だ。そのためには、必ず《錬金釜》の役割を果たす入れ物が必要となるはずだった。
バトルミックスはその錬金術士の常識を完全に覆した、革新的な新技術である。
もっとも、この双子はそのことに気がついていないが…重要なことは一つ。
それは、《アルケウス・アニマ》には、《不思議な絵》を不思議足らしめる力が秘められているということ。
「像が輝いて…大きくなっていく?…と、とにかく流石にこれは守らなきゃ!」
「なんだあれは!あんな現象見たことが…いや、まさか」
「お、おい!竜が…火竜のブレスが来るぞ!伏せろ!」
眩い輝きを放ち、どんどんと巨大化していく《威圧する火龍の像》。
しかし、遂に火竜———フランプファイルの銀河の一矢が放たれる。
地上を焼き払う、神話を再現する熱量を秘めた光線が地へと突き立つその刹那。
———[メタモルミックス:アニマライズ]
「目覚めろ!———
「グルァアアアアアア————ッ!」
閃光。
輝度の暴力が調査隊の視界を灼き、全ては暗転した。
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「はぁ…はぁ…」
どうなった…というの…?
まだ、目の前は見えない。あまりに強烈な閃光に、目を閉じているのか開いているのかも分からないほど眩んでしまった。耳も酷く鳴っていて、状況がまるで分からない。
ただ…自分が
「なに…が…?」
———《そよ風のアロマ》!みんな、大丈夫!?
遠くにフィリスさんの声が聞こえた途端、甘くすぅっとした香りが嗅覚をくすぐり、急速に感覚が回復する。
開けた視界に見えたものは———。
「グルァアアアアアア————ッ!」
「グル…ォォオッッ!」
「なっ…なにこれ…?」
———大迫力、大スペクタクル!
———巨大怪獣大決戦!
そういう言葉で飾られた本の表紙に描かれていそうな、ビッグサイズの戦いが、眼下で繰り広げられていた。
《使用スキル解説》
○アクティブスキル
・『フロールミラージュ』(原作登場スキル)
使用者:フィリス・ミストルート
効果:
敵大範囲に中ダメージを与える
対象が少ないほど威力が上がる
・『スペシャルリロード』(原作登場スキル)
使用者:スール・マーレン
効果:
敵単体に中ダメージを与え、防御力を下げる
ウェイト値が低い
・『ブルースケッチ』(再登場)
使用者:ティトラ・メルロー
効果:
装備しているカテゴリ<爆弾>のアイテムを1つ選ぶ
1ターンの間、敵が自分を攻撃する時、その攻撃の前に選んだアイテムで迎撃する
この効果で使用した爆弾は確率で発動する追加効果が必ず発動する
アイテムの残り使用回数が無い場合は迎撃できず、受けるダメージが増加する
・『海神の怒り』(原作登場スキル)
使用者:アルト
効果:
敵単体に氷属性の小ダメージを与える
装備効力*1に比例した追加ダメージを与える
・『霹靂の怒り』(原作登場スキル)
使用者:アルト
効果:
敵単体に雷属性の小ダメージを与える
装備効力に比例した追加ダメージを与える
○フォロースキル
(登場なし)
○エネミースキル*2
・『破邪の雄たけび』(原作登場スキル)
・『ホーリーブレス』(原作登場スキル)
・『ギャラクシィロアー』(原作登場スキル)
使用者:火竜フランプファイル
(原作では使用者は異なる)
☆メタモルミックス
・『アニマライズ』
使用者:ティトラ・メルロー
効果:?????