ある無名のアトリエ 〜名もなき絵画の錬金術士〜   作:メルヴェイユ市民

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Initiation from the Fate


 

 えー、こちらティティ。現場のティティです!

 

 『アンフェル大瀑布』、メリメール・デプスよりお送りしております!

 

 普段は溶岩の熱で極限環境が形成されているこちらメリメール・デプスですが、現在こちらは…きゃあっ!?

 

 

 はい、大丈夫、大丈夫です!

 

 こ、こちらは現在、極寒の猛吹雪となっています!逆方向の極限環境です!

 

 視界は半ばホワイトアウト、たまらずフランプファイルですら逃げ出すのでは無いでしょうか!

 

 凄まじい光景です!溶岩の流れ落ちる火山に、吹雪が吹き荒れています。道中の溶岩の滝では、滝に飛び込んだ雪が蒸発・爆発する様子が確認できました!

 

 

 以上現場から、ティトラ・メルローがお送りしました!はい、引き続き取材を続けます、何か変化があれば速報を…あっ!

 

 に、逃げます!あの火竜が、フランプファイルが逃げていきます!あまりの気候変動、天変地異に耐えきれなかった様子です!

 

 繰り返します!フランプファイルが逃げました!フランプファイルが逃げました!

 

 これにより、以降は火山活動の沈静化が予想されます!住民の皆さんの一刻も早い避難解除が望まれます!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「や・り・す・ぎ・で・すっ!!」

「ふぎゃっ!」

「うぅ…ぶるぶる…さ、さみゅ、さむひ…」

 

「ささささささ寒いですうううう!!」

「フーコちゃん…わたし…フーコちゃんに看取られるなら…」

「フィリス!フィリスー!寝ちゃダメですよ!寝たら死んじゃうんですよ!起きてください、フィリスーっ!」

 

「おい『氷晶の輝窟』より寒いじゃねえかぁ!スー、早く装置止めろ!みんな凍えて死んじまうって!」

「わわ、止めます、止めました!」

 

 

 ことの発端はというと、フーコちゃんに約束していた装置…《冷風機関》の設置だった。

 

 

 

 

 

 

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「フーコちゃーん!」

 

「あ、スー!フィリスに、リディーに…!皆さん来てくれたんですね!」

「もちろんだよ!フーコちゃんの故郷の危機、忘れるわけがないんだから!」

 

 

 翌日、再び『アンフェル大瀑布』の世界を訪れた私たちは、その火山の麓にある”ルゴット村”でフーコと合流した。

 

 

 

 双子はバッチリと約束した通りの冷却アイテムを調合してきたみたいで、使う前から自慢げにあれこれと話す様子は実に微笑ましかった。

 

 

 

「これは《レヘルン》を改造したものなんですよ。本来なら爆発によって一度に噴き出してしまう冷気を少しずつ出すようにして、さらに神秘の力をもった素材を組み込んでエネルギー量自体を…」

 

「へえー…結構錬金術ってのも考えて作るもんなんだな。なあ、ところで”神秘の力をもった素材”ってどんなものなんだ?」

「はい、《プニプニ玉・青》*1です!」

「プニ?あんな弱っちいのにそんなすげー力があったのか…」

「マティアス。プニをバカにするつもりなら、あたしの銃が火を噴くよ…?」

「プニの何がお前をそんなに駆り立てるんだよ!?」

 

 

 

 さて、灼熱の環境も2度目、道も分かっているということで足取りも早く、早々にメリメール・デプスまでやってきた。

 

 例の分かれ道を今度は左へ———細く曲がりくねった隠れやすい道へと進み、フランプファイルが見える場所で身を隠す。

 

 

 

「さて、確認するけど…この装置———《冷風機関》をあの火竜に向けて使えば、この大広場を冷たくできるんだね?」

「はい。魔力も外部から要りません、決められた通りに操作すれば、あとは全部放っておいて大丈夫なはずです」

 

 

「あの…その役目、ボクにやらせてくれませんか!」

「フーコちゃん…でも、危ないよ?」

 

「構いません。ここは、ボクたちの故郷です。あんなに必死に戦って、こんな道具まで作ってくれて…逃げるしか無かったボクに、手を差し伸べてくれました。だから…」

 

 

 ひと息、大きく吸い込んで、吐き出して。

 

 

「だから、ボクも…ボクも力になりたい…胸を張って、ルゴット村のみんなの所に帰りたい…!お願いします!」

 

 

 

「うん。いいよ、フーコ!あたしたちここで見てるから!」

「頑張って!フーコちゃん!」

「…はい!それじゃあ…行ってきます!」

 

 

 そして、作戦が始まった。

 

 

 

 気合十分、クリーム色のツインテールを靡かせてフーコが駆けていく。

 

 

「やい!火竜!」

 

———グルゥ…。

 

「よくもルゴット村を、この火山を荒らしてくれたな!」

 

 

 しゃがみ込み、一抱えほどの大きさの白煙を放つ装置を地面に置く。そして、青白い潰れた球体のような形状の上面に手を添えて———。

 

 

「これでも…くらええぇぇぇーっ!」

 

 

 

 力いっぱいに、押し込んだ———!

 

 

 

 

 

 

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「…………」

「アルトさん…!?大変、アルトさん目を閉じて動かないと思ったらカチカチに凍ってる!?」

「あっ、こ、この野朗、暑さ対策を独り占めしてやがったのが裏目に出てやがるぜ!」

「言ってる場合かー!ええと、ルーシャの時と同じ…《フラム》、《フラム》はどこ!?」

「待ってください!?え、えっ!?私まさかあの時《フラム》で…爆弾の熱で解凍されたんですかぁ!?」

 

 

 

 

 結果はご覧の有り様である。

 

 

 

 まさか火山にこんな極低温環境を作り上げるなんて、あの《冷風機関》*2って装置はいったいどれだけの出力を持っているのやら…。まあ、溶岩は相変わらず噴き出しているから、しばらくすれば元の環境に戻るだろう。

 

 

 

「今の様子はまるで雪山だけれどね…錬金術ってすごい…」

 

「あ、あは、あはははは…そ、そうだねー?」

 

「…なんですか?その笑い…まさかフィリスさんもこんなことをしたことがあるっていうんじゃ…」

 

 

 《不思議な絵》の世界みたいな特異環境じゃなかったら元通りとはいかないよ…?

 

 

「そ、その…はい…」

「はいぃ!?」

「ちょ、ちょっと!ちょーっとだけ!ちょっとその…太陽を作って雪原を溶かしただけだから!」

「はぁ!?太陽を作った!?こ…公認錬金術士ってそんなことまでできるんですか…!?」

 

 

 おお…もう…。

 

 

 やっぱり錬金術にもやっちゃいけないことってあると思いますよ。氷漬けになってるアルトさん。

 

 

 

 

 

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 如くして『アンフェル大瀑布』の調査は終わり、私たちは絵の世界を脱した。

 

 

 あの時から、1週間ほど。

 

 

 あの調査に同行して得た力は…とても、とても大きな進歩だ。『メタモルミックス』の効果はまだ分からないことばかりで、その対象にどんな条件があるがあるのかも分からない。

 

 

 そうだ、その『メタモルミックス』について…アルトさんに弟子入りするかというお誘いだけど…あの後、アルトさんをウチに招いて、色々と話を聞いてみた。

 

 

 

———やあ、お邪魔するよ。

———………!………っ!

———痛い、痛いってエレン!腕引っ張んないで!背中か叩かないで!

———ティティが…ティティが男をウチに連れ込んで…っ!

———違うからぁ!

 

 

 …案の定、お母さんは大騒ぎだった。

 

 

 

 肝心の弟子入りについては、残念ながら———その話は流れることになった。というのも、アルトさんの方から次のような告白があったのだ。

 

 

———弟子入り、という話を持ち出したのは自分ですが、勢いで話を進めてしまった。

 

———人を導くということについて考えてみたが、今の僕ではその責務を果たすことができるか、断言できない。

 

———勝手ですが…今回の話は無かったことにできませんか。

 

 

 少々意外な結末だったと思う。理知的で、博識、好奇心旺盛ながら、判断は冷静。『アンフェル大瀑布』の調査中は、彼をそのような人間だと感じた。さすが、並以上の錬金術士はみな、一味違うものだなあ、と。

 

 しかし、アルトさんにも葛藤があるのだという所を見て…これこそ等身大に近い姿なのではないか、と認識を改めた。彼の中には、好奇心に駆られて話を進めようとする心と、自分自身を内省して判断する自制の心があるのだ。”錬金術士は、知識を求め、目的を忘れずにいること”…私を弟子に誘った時のあの言葉を、誰よりもアルトさんが噛み締めているのだろう。

 

 優れた錬金術士は迷いを捨てなければならない、などということは無いということを彼の姿から知った、そんな一幕だった。

 

 

 

 

 まあ、客観的に言って失礼な話ではあったのだけれど、それで怒り出すような父と母じゃあない。それどころか、新たな優れた錬金術士の知り合いができたことを喜んでいたし…私のことを頼まれてもしまった。

 

 

———もしティティが、何か錬金術のことで意見を求めたりするようなことがあれば、その時は相談に乗ってやってくれませんか?

 

———はい。それは、もちろんです。…ティティ、この両親を大切にするんだよ。

 

———ははは…これからも、良ければウチに来てみてください。…アルトさんは年齢の割に貫禄を感じますが…なに、男はいつまで経っても少年です。悩める少年の相談に乗るのも、また人の親の務めですからね。

 

———っ…貴方は、良い錬金術士ですね。クレメントさん。

 

 

 

 

 

 言われなくても———当然だ。

 

 私の父は自慢の父だし、母もまた愛しき母。この家族に守られて育った分…私も、家族を守りたいと思う。

 

 守りたいと思う、この感情そのものも含めて…私の宝物なのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて。

 

 結局分からずじまいである『メタモルミックス』だけれど…あの時起きた出来事は、原理はともかく文脈としてはとてもシンプルで分かりやすい。

 

 

 竜を象った像に、生命を吹き込み、竜として操った。

 

 

 これほど分かりやすい力はないだろう。もっとも、本当にその通りのことを他の彫像などにも行えるかどうかは不明だ。

 

 しかし、もし「生命を象ったものに一時的に生命を吹き込める力」という理解が正しいのなら…極論、あの『精霊の女王』の文献を漁って、それを象った像を作れば、パールの課題をこなす上でとても心強い味方になってくれるかもしれない———。

 

 

 そう思って、私はこのところ王城の図書室へと足繁く通っている。

 

 しかし、今日もあまり、進展はない。『精霊の女王』について述べた本は沢山あるのだけれど、そのどれもが独自の解釈に基づいて姿を描いている。

 

 とても、イメージがまとまらない。…浮かばぬ気分のまま、図書室を出ておなじみのエントランスに差し掛かる。

 

 今日もミレイユさんは”かわいく陽気”で、敏腕だ。…おや?あれは双子…そっか、またランクアップ試験を……あっちも頑張ってるなあ。

 

 

 

「あーあ…”目には目を、プニにはプニを”…精霊には精霊をぶつければーって思ったんだけどなあ…」

 

「うーん。それはちょっと…難しいんじゃないかなぁ?」

「へっ!?だ、誰…って」

 

 

 振り向くと、そこには見知った顔が居た。

 

 

「パールじゃない!どうしてここに?」

 

「ふふっ…わたしは何処にでもいて、何処にもいないのです!…まあ、冗談はさておいて、そろそろじゃないかなーって思ったから迎えに来たんだ」

 

「それは…ありがとう?」

 

「ううん、ティティにお礼を言われるようなことじゃないよ♪」

 

 

 

 あ、相変わらず掴みどころがないことを言うなあ…。

 

 

———ドォ……ン

 

———ゴロゴロ、ゴロゴロゴロ…。

 

 

 まあいいや。それなら早く帰らなきゃ。どうも外は、またもや雷雨らしい。どうせ帰り道でびしょびしょになるから、早めにお風呂に入って着替えたいし…あんまり酷くなると、王城から出られなくなるかもしれない。

 

 

「あ、それは無理だね。諦めて、ティティ」

「…どういうこと?」

「今に分かるよ…ほら」

 

 

 

 

 

 意味ありげにパールが窓の外を眺めたのに釣られて、そこに視線を向けた———その瞬間。

 

 

 その、一瞬から起きた一連の出来事を…私は、一生忘れることは無いだろう。

 

 たとえ何枚の絵画に描こうとも、褪せることも、薄れることもない———。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あの悪夢を。

 

 

 

 

————ピシャァァァァ…………ン!

 

————オオオオオオオオオオオッ!!!

 

 

 

「「きゃああああああっ!?」」

 

 

 

————な、なんだ!今の雷は…近いぞ!?

 

————うああああん!怖いよ!怖いよママぁ!

 

————大丈夫、大丈夫よ…。

 

 

 

 

 エントランスは一瞬にして騒然となった。

 

 雷鳴…?いや、違う。それだけじゃない。もう、聞き間違えなんかじゃない。これまでも雷雨に混じって聞こえていたあの音!

 

 あれは、声だ———-それも、それも…!

 

 

————うおおおおおおおおおッッ(許さんぞ…人間……ネージュ……)!!!

 

 

「今度は何!?や、やだ…こわいよ、スーちゃん…!」

「……っ」

 

 

 

 

 

「怨嗟の…声…?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その時、エントランスの門が勢いよく開かれ、必死の形相のマティアスが飛び込んできて…何事か、ミレイユさんと緊迫した様子で二、三の会話を交わし。

 

 

「双子ちゃん。悪いんだけど、しばらくここで待っててくれる?…ティトラちゃんも、お願い」

「え、ティティ…あ、本当だ…」

「はい、でも…」

「怖がらせてごめんなさい。何が起きてるかは、後で必ず話すから…」

「分かりました…リディー、ティティ、あっちで待ってよう…?」

 

 

 私たちは突如として、この未曾有の脅威に対する戦力として数えられることとなった。

 

 この時の私たちは、あの咆哮が齎すものが何なのか、まだ理解していなかった———。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 地に突き立つ、天よりの鏑矢(かぶらや)の音が告げるのは、逃れ得ぬ神判(しんぱん)の始まり。

 

 運命の出会いと別れは、刻一刻と近づいていた。

 

 

 

 

 

*1
プニを倒すとたまにその場に残る素材。色によって異なる味があって美味しいというウワサがあるが、一般的に好んで食べるものではない。

*2
リディーとスーが《レヘルン》を元に作り出した、環境破壊装置。原作中の図鑑において、もし間違ってアトリエで起動したらメルヴェイユが極寒の氷の都と化す、などという説明がある超危険物。何より恐るべきはそのコストの低さで、《レヘルン》2つと大沼林から採れる素材のみから、わずかに1日で作り上げられる。錬金術士とは爆弾魔の別名、とは至言であろう。

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