ある無名のアトリエ 〜名もなき絵画の錬金術士〜   作:メルヴェイユ市民

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いにしえの伝承


 

 

 片っ端から錬金術士に声をかける、と言っていたものの…集まった錬金術士は、たった7名。

 

 リディー、スー、ルーシャ、フィリス、アルト…私、そして。

 

 

「お父さん…」

「やあ。きっと居ると思ってたよ、ティティ。今日はいい本見つかった?」

「もう…それどころじゃないよ!」

「いいや?それでいいのさ。ほら、肩の力を抜いて」

 

 

 そんな、こと…言われても。

 

 

 

「これで全員…?ずいぶん数が少ないわね…」

 

 

 ああ、なんとなく理由は分かる。

 

 私だって…ここが故郷じゃなかったら、来ようとはしなかったはずだ。

 

 アトリエ・ヴォルテールの先代…ルーシャのお父さんは、家で準備を進めているらしい。あと、リディーとスーの師匠だというラインウェバー家のお嬢様も。

 

 けれど、それ以外の大半の錬金術士は…もしかしたら。

 

 

「「逃げだしたんじゃ…」」

 

 

 あっ…と。

 

 アルトさんと被ってしまった。

 

 

「…そうか、やはり…君は僕に、少しだけ似ている」

「え?」

「分かるんだろう?…あれだけの雷鳴に、謎の咆哮。弱気になる、彼らの…弱者の気持ちが」

 

 

 それは…。そうだ。

 

 

「…はい。私、私も…怖くて、逃げてしまいたい」

 

 

 どうして、私と双子がここで待たされたのか…想像するのは容易い。

 

 あの謎の声の主を、撃退する…そのための戦力として、数えられているんだ。

 

 

「ティティちゃん…ごめんなさい。事態が事態だし、どうしてもダメなら———」

 

「でも!…でも、ここは私の故郷です。だから———」

 

 

 だから、逃げない。…逃げられない。

 

 

「———他の誰が逃げても、私は逃げません」

 

 

 焦りも、不安も、恐怖も、大切なものがあるなら、抑え込む。

 

 私の憧れた錬金術士は、こんな時に逃げ出さない。

 

 

「…ありがとう。それじゃあ、集まってもらった理由を話すわね」

 

 

 

 やっとだ。この街を脅かすものは、何なのか。それを知らなければ、対処できない。

 

 

 

「まず前提なのだけれど、みんな。『雷神の伝承』は知ってる?」

 

 

 『雷神の伝承』———この地方に古くから住む者なら、雷神さまの名を聞かない者はいないだろう。

 

 ああ、嫌な予感がする。

 

 

「かつてこの地方を焼き尽くした雷神ファルギオルが、英雄と錬金術士により封じられた…という言い伝えだね」

「ええ、実は———」

 

 

 そして語られた内容は、概ね予想通りで…最悪の内容。

 

 伝承は全て事実。雷神は実在した———当然、それを倒したのも錬金術士。

 

 雷神ファルギオルは消滅しておらず、封じられ、今もこの地方に眠っている———いや、眠って()()

 

 先程、エントランスを騒然とさせた雷と咆哮は…。

 

 

「…ファルギオルが目覚めたのが原因…ってことですか?」

 

「……そうよ。…でも、それがここまで早いとは思ってなかった」

 

 

 その予想のズレの結果が、この錬金術士の不足。

 

 

 元々このアダレット王国は錬金術を軽く見ており、その発展に力を注いでいなかったために錬金術士が少ない。

 

 アトリエランク制度はそれを踏まえた、ファルギオル対策だったんだろうけど…それにしても、いきなり呼びつけて戦わせようというのは無茶が過ぎる。

 

 多分、こんなに未熟な段階で運用されることになるとは思わなかったんじゃないだろうか。

 

 きっと、計画通りであれば…まずは錬金術士を誘致し、育て、教育機関を設立。そして、錬金術を修めた騎士の特殊部隊を組織し、雷神ファルギオルのような常軌を逸した存在への対策として運用する…それくらい長期的な視野で作られた制度だったんじゃないかと、思う。

 

 もう一つ…マティアスの騎士としての配属先は、非番の多い遊撃部隊だと聞いたことがある。その時間で錬金術士たちに同行して絵の調査をしていることも合わせると…次代国王候補のマティアスを、錬金術と歩む新たな時代のアダレット王国の象徴として印象づける為の下準備だったとも考えられる。

 

 

 

 けれど現実として、それら全ての策は、未だ成っていない。

 

 このままでは、この地方はまた雷に焼き尽くされてしまうだろう。…この都も、当然そこに含まれる。

 

 

「このままなら…ね。でもそうならないように手は打ってきた。アトリエランク制度はそのためのもの」

 

 

 ああ、やっぱり。

 

 

 

「あなたたち錬金術士が、ファルギオルに対する最大の切り札なの」

 

 

 

 …そうだよね。現段階で切れる札の最大は、せいぜいが私たち、個々人のもつ錬金術士としての特別な力。

 

 

 伝承にある錬金術士の存在…それこそが唯一の希望。

 

 錬金術士が(もたら)す不思議の力が、人智を超えた存在である雷神に届き得ること。それだけは、伝承に記された事実が証明している。

 

 その奇跡が、今また、この時代に起きることを信じること。それだけが希望…。

 

 

 

「皆さん」

 

 

 王族の、青い瞳が私たちを真っ直ぐに捉える。

 

 

「アダレット王国、第一王女———ミレイユ・フェリエ・アダレットとして頼みます、どうか…どうか、アダレット王国に力を貸していただけないでしょうか!」

 

 

 そして、黄金に煌めく長髪が、揺れながら静かに下げられた。

 

 第一王女としての名を持ち出し…その上で王女ミレイユは私たちに頭を下げて願っている。それほど苦しい状況が予想されているのだろう。

 

 もしこの場で、錬金術士たちが参戦を拒否するようなことがあれば…対抗戦力はメルヴェイユの騎士団が全てだ。彼らが死兵となって雷神とぶつかり合う他ない。…きっと、マティアスさんも。

 

 ここの騎士団は精鋭揃いだから、善戦はするだろう。けれど、伝承で雷神を封じた者たちを「英雄たち」ではなく「英雄と錬金術士」と伝えた理由を考えると、雷神ファルギオルはもしかしたら…騎士たちには倒せないかもしれない。そうなれば、待っているのは伝承の再現。メルヴェイユを含む、この地方全体の壊滅だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 けれど、ここに揃った錬金術士は、それを黙って見過ごすようなことは決してしない。

 

 

 フィリスさんも。

 アルトさんも。

 ルーシャも。

 リディーも、スーも。

 

 

 そして…私も。

 

「二言は、ありません。メルヴェイユを脅かすというのなら、私は…何とだって戦います」

 

「はは…まあ、娘がこういう調子ですからね。父親として、逃げ出すわけにはいきませんよ」

 

 お父さん、も…。

 

「お父さんは、帰って欲しかったけど…」

「まさか。僕だってこの街は守りたいと思ってる」

 

 

 …うん。

 

 

 

 

 

 

 

 錬金術士が仕事を覚えた時、まず初めに学ぶことがある。

 

 それは人々から向けられる感謝の心が…何よりも暖かく、尊いということ。

 

 

 だから、錬金術士(彼ら)は絶対に逃げない。

 

 

 

———私と違って、ここが故郷でなくとも。

 

 

 

 

 

 

 

「みんな…ありがとう。貴方たちの決意に感謝します」

 

 

 

 

 

 

 それから、ミレイユさんは少ない人数で実行できるよう作戦の練り直しを行うと言って、城の奥に入っていった。この場にいない2人を含めても、参加する錬金術士は9人…多いとは言えない人数。

 

 でも、伝承では英雄に付き従ったのは1人の錬金術士らしいから、決して絶望すべき状況ではないだろう。数字上は。

 

 

 

 

 

「ファルギオルの復活…完全に予想した通りになってしまったね」

「え…?アルトさん、分かってたんですか?」

「ああ。独自に伝承を調べていて、見つけてね。『アンフェル大瀑布』はその途中で僕が発掘し、あの双子の交渉に応えて寄贈したものだ」

 

 

 そっか…。アルトさんは分かってて、それでもこの街に留まっていたんだ。

 

 

「ティティ。これからの戦いの中で何が起きるか、それは誰にも分からないことだ。その上で一つだけ言っておきたいことがある。忠告だと思って聞いてくれ」

 

「…はい、聞かせてください」

 

 

 アルトさんの忠告…。アルトさんは、私が自分に似ていると言っていた。

 

 自分でファルギオルのことまで調べ上げて…そんな立派な錬金術士と私が似ているだなんてちょっと考えにくいけれど…ただ、私はアルトさんが葛藤したり、迷ったりする一面を持っていることを知っている。

 

 もしかしたら、本当にアルトさんは私に自分と似ている部分を見出したのかもしれない。

 

 

 

「“自分を見失うな”」

 

 

 

「自分、を?」

 

「ああ。たとえ、何があってもだ。安易に力に手を伸ばせば、待っているものは破滅だ。僕たちみたいな弱者にとってそれは、とても甘美なものだけれど…決して惑わされてはいけない」

 

 弱者…アルトさんが、弱者だって?

 

 そんな…訳はない。

 

「えっと…『メタモルミックス』のこと、ですか?確かにまだ得体の知れない力ですけど…」

 

「いや。それは多分、大丈夫だろう。あの力は…僕が考察するに、君の画家としての優れた視覚的イメージ能力と《不思議な絵》の特異性が相互に作用した結果で…ああいや、これは今はどうでもいい。僕が言いたいのは、もっと…都合のいい力に出会った時のことだよ」

 

 

 都合のいい力、かあ。何でもかんでも自由に調合できる力、とか?

 

 そんなものがあるなら、むしろ使ってしまえばいいと思うんだけど。

 

 

「忘れないで欲しい。君が振るうべき力は、君の中にある」

「すいません、意味が良く…」

「いや、意味が分からないならそれでいい。けれど、君はどうしても…」

 

 

 要領を得ない…。

 

 珍しい。アルトさんは確かに回りくどい言い方をするけど、意味が通らないことは言わないと思ったのに。

 

 

「まあ、今言ったことは必要な時に思い出してくれればいい」

「は、はあ…」

 

 

 一応、忘れないように覚えて置こう。

 

 

「あらら、先を越された…おーいティティ、お父さんとも話そうよ」

「…ホントーにさあ。お父さんはどうしてそんな、おちゃらけて居られるわけ?」

 

 

 神妙な感じだったアルトさんを見習ってよ。少しくらいはさ。

 

「ええ?だって…こういう時っていつもの調子を崩した方が危ないものだし…」

「それにしたっていつも通りすぎ!って、あれ?そういえばエドは?一番に来ると思ったんだけど、全然来ないし…何か知らない?」

 

 

 あと、いつの間にかパールの姿もない。

 

 “何処にでもいるし何処にもいない”って…本当に冗談だったのかな。神出鬼没な感じ、とても真実味があるんだよね。

 

 

「ああ、オードランさん家の親子なら、家で戦支度をしてたよ」

「へ、へえ…話を聞いたわけでもなし、勘が効くのね」

 

 

 古本屋…だよね?エドの家って。

 

 

「それよりも、ティティ。これからの予想なんだけど、多分ミレイユさんは錬金術士を二手に分ける。先発隊と、後発隊だ。身軽な先発隊が雷神の足を止めて位置を知らせ、準備万端の後発隊がそこを狙い撃ちにすることになるだろう」

「え?いきなり何よ…どうしてそんな事が分かるっていうの?」

「錬金術士の数が少ないからなあ…それくらいしか執れる手段が無いだろうって理由の予想さ。もちろん、あっと驚くような天才的な作戦が飛び出すかもしれないけど、その時はお父さんを笑ってくれ」

 

 

 はあ…本当にそうなったら家に帰ってからお母さんと一緒に笑ってやるわよ。

 

 

「そうなると、事実上戦略の優位なんて無いに等しい。ってことは、次に意味を持つのは戦術…現場に立つ僕らの個々の力だ」

 

 

 でも、人間は弱い。

 

 数に頼れず、策もなく、それで立ち向かえる相手なのだろうか。

 

 

「ティティ、僕は先発隊に入るつもりでいる。…そこが失敗すると後がどうしようも無いからね」

「あ、じゃあ私も…」

「いや、それはダメだ。情報も与えた損害もない状況で戦う先発隊は後発隊より危険だ。ティティもこの所、随分と成長してるみたいだけど…まだ荷が重いよ」

 

 

 うっ……。

 

 正直なところ、この場の錬金術士の中で頭2つ分ほど弱いのが私だと言う自覚がある。

 

 私が戦場に意味をもたらす駒になるためには、あの切り札———切れるかどうかもまだ分からない札である、『メタモルミックス』、それ一つだけが頼りだろう。

 

 うう、せめてパールがまだ居てくれたら、またどうやって知ったのか分からないような知識でアドバイスをくれたかもしれないのに…こんな時に何処にいっちゃったのよ、もう!

 

 

「だから…お父さんから、今しかできないアドバイスをあげよう。逃げることを恐れちゃダメだよ」

 

「え…で、でも逃げたら街が!」

 

「ううん。大丈夫だ。…後発隊が逃げてくる時、先発隊はきっと、態勢を立て直しているはずだ。チャンスは一度だけじゃない…一人だけの戦いじゃない。逃げることを、恐れなくていいんだ」

 

「…わ、わかった…」

 

 

 でも、錬金術士はここに集った7人と、各自で準備を進めている2人だけ。一度逃げてこれたからって、次に打てる手が変わるわけじゃ無い。

 

 やっぱり逃げ出してしまったら、それは負けを認めるってことで…事実上の詰み、だろう。

 

 お父さんには、ああ言ったけど…何とか、後発隊が倒さないと!

 

 

 

 

「またせたわね、みんな!」

 

「あ、ミレイユさん!」

 

 

 

 結局、ミレイユさんが持ってきた作戦はお父さんが予想した通り、錬金術士を2つの班に分けて運用するというものだった。

 

「先代ヴォルテールとイルメリアさんの2人の錬金術士、そして騎士団員が総出でファルギオルを足止め」

 

 

 そして同時に、可能な限りのダメージを与える。…尤も、錬金術士は2人だけなのでサポートで手一杯。そして、騎士団員の装備は通常の鍛治や彫金で作られたものばかり…魔術を宿した兵装もあるかもしれないけれど、雷神という存在にどれほど通用するかは分からない。

 

 

 

「その後、第二班がとどめを刺す。第二班には、絵画を調査しているいつものメンバー…つまり、双子にルーシャさん、フィリスさん、アルトさん、マティアスに加わって欲しいの」

 

 

「あの…私とお父さんはどちらに入れば?」

 

「それなんだけれど、ティトラちゃんとクレメントさんの力量が分からなかったから、本人たちに決めて貰うことになったの。…第一班は人数は多いけど、その分一人一人の損耗が度外視される消耗戦になるわ。できればこちらに人数を割きたいのだけれど…」

 

「それでは、私、クレメントはそちらに加えて頂きたく思います。錬金術士としては凡夫ですが、冒険者としての戦力はそれなりであると自負しております。…な、戦友?」

 

 

 

 お父さんの言葉に、その視線の先を追ってみると…いつのまにやら、エントランスには、エドと、1人の初老の騎士が入ってきていた。

 

 

「…ふん。相変わらず口はよく回るようだなぁ?足腰は衰えてねぇだろうな、クレム!」

「そっちも健勝のようだね…エクトル。いつもありがとうね」

「はっ…アレのことなら、俺も願ったり叶ったりだと言ったろ」

 

 

 だ、誰だろう…エドと一緒の人、すっごい威厳のありそうな顔のおじさまなんだけど。しかも強そう。シルバーの髪と無精ヒゲが無骨な表情と合わさって…とてもグッとくる。正直タイプ。

 

 見た感じ、お父さんよりもずっと年上な感じ。お父さんがもう2つか3つで40だから、50歳くらいかな。

 

 

「おっ?アンタはクレムのとこの嬢ちゃんか!なんだかんだで暫く見なかったが…なんだ!母さんに似て綺麗になったじゃねぇか!」

「きゃっ…ど、どうも…?」

「やめなよ、怖がるだろ…ティトラ、遅くなってごめん」

 

 

 えっ?このおじさま、私を知ってるの?やばい、忘れてるのかな…いやいや、こんな濃い人、一度見たら忘れないよ。

 

 

「あれ?古本屋で会ってないのかい?」

「俺が奥から出てこねぇからな」

「また君は…まあいいか。ティティ、コイツはエクトルだ」

「久しぶりだな!エクトル・オードランだ、よろしく頼むぜ」

 

 

 いや久しぶりって言われても…ん?待てよ?

 

 ———オード…ラン……?

 

 確か、エドの名前も…。

 

 

「俺のオヤジだよ。普段は顔も見せないから見覚えないかもだけど…」

「いつもエドが世話になってる。ありがとな」

「え、いやいやこちらこそっていうかこっちが助けられてるっていうか…え、エドの…お父さん!?」

 

「ついでに言うと、教会騎士団長さ。…ちょっと前まで」

「もう2年は前だろう?今はしがない老人だ」

 

 はい!?

 

「オードラン前騎士団長…!来て下さったのですか!」

「王女さま。そう畏まった言い方はいりませぬ。言った通り、今となってはただの老骨。…しかし、未だこの腕、衰えたつもりは御座いませぬ。一義勇兵として、どうかこの戦友、クレメントと共に、最前線の戦列に加えて頂きたい所存で御座います」

 

 

 ほ、本当なんだ…!

 

 この人がエドの父親にして…アダレット王国の、前教会騎士団長…!

 

 

「…分かりました。既に引退した貴方に再び剣を握らせるこの王国の不明、王女として…」

「その先は要りませんぞ。この腕、この魂。全ては教会と王国のために捧げた身。それに、なに…話に聞けば、敵はかの名も轟く伝承の雷神。武人として、この戦場に立つ事こそ誉れというもの。むしろ感謝すら覚える」

 

 

 

「そういう訳ですので…ティトラについては、第二班に入れてやって下さい」

「我が息子、エドワールもその方へと。まだまだ未熟ではありますが、護衛のための戦い方は叩き込んであります。開けた戦場でエドワールが守りについていれば、少なくともひとりの命くらいは守ってやれるでしょう」

 

「ティトラちゃんと…エドワールくんかしら。貴方たちも、それでいいかしら?」

「はい。そのつもりで来ました」

「私も…はい。どれだけ力になれるか分かりませんが…」

 

 

 私のその言葉に、ミレイユさんは少し怪訝な顔をして…すぐに優しい笑顔になって、こう言った。

 

 

「…ティトラちゃん。一つだけ、貴方の勘違いを直してあげるわ」

「勘違い、ですか?」

「ええ。私はね、さっきこう言ったわ…”あなたたち錬金術士が、ファルギオルに対する最大の切り札”と。私はそこに、一人の例外もつけたつもりは無いのよ」

 

 ……!

 

「もしかしたら貴方はまだ未熟かもしれない。まだ自分に何ができるか、分かっていないかもしれない。それでも…エレンと一緒に貴方を見てきたから分かる。貴方も錬金術士なのよ」

「私が…錬金術士」

「貴方が、絶対に逃げないって言ってくれた時、私は…とても嬉しかったし、心強かった。この王女(プリンセス)が保証するわ、貴方は誰かの力になれる人だって」

 

 

「自信を持って。貴方もまた、アダレット王国が次代に誇る錬金術士の一人よ」

 

 

 

 その言葉が、私には必要だったんだと思う。

 

 身体が、あったかい。ジン、と奥底から力が湧いてくるようで…どんな困難だって、乗り越えられるような気がしている。

 

 これからの戦いが怖いのは変わらないままだけれど…きっと何とかなる、そう思って先に進める。

 

「ありがとうございます。ミレイユ王女殿下」

「ええ。…どうか、気をつけて」

 

 

 

 

 

 

「…よし。じゃあ、第一班にはもう出発して貰うわ。その間に、第二班のみんなは準備を進めておいて。準備ができた人から、私に声をかけて頂戴。それじゃあ、解散!」

 

 

 

 

 ミレイユさんの指示を受け、錬金術士はそれぞれのアトリエへと戻っていく。

 

 

「それじゃ僕も行くね、ティティ」

「ん…分かった。…帰ってくるよね?」

「当たり前だろう?ティティも…気をつけるんだよ、僕らの可愛い娘」

 

 やや屈んで、お父さんは私を抱きしめる。私もお父さんを抱き返して…すぐに離れる。

 

「お父さんも…ね」

「はっはっは!もちろんだよ。じゃ、行ってくる!」

 

 

 駆け足でエントランスを出て行くお父さんを私と共に見送り、エドが話しかけてくる。エクトルさんはもう武装済みでミレイユさんについていったので、ここには今、エドと私だけだ。

 

 

「…で、ティティはアトリエに戻るのか?」

「それが…パールの居場所が分からないのよ。エド、後から入ってきたんならパールのこと見なかった?」

「いや…見てないな。アトリエに居ないのか?」

「それが…あの雷と咆哮が聞こえるまでは隣に居たのに、パッと煙みたいに居なくなっちゃって」

 

 

 あくまでも立場としてはうちに泊めてるだけの旅人だし、無理に戦って貰うつもりはないけれど…せめて居場所は知りたいなあ。パールは土地勘も無いし、こんな雷雨の中で迷子にでもなったら大変だもの。

 

 

「うーん、でも時間もないぞ?パールなら大丈夫だろ、レンキンジュツシなんだから」

「ああ、まあ…そうかしら」

 

 

 錬金術士じゃなくて、ね。…いや、調合をしている所を見たことがないんだもの。

 

 

「そうね。私たちの身も危ないもの、まずは準備をして、道中で見かけたら捕まえましょうか」

 

 

 

 しかし、結局出発までパールは現れず、少しの疑問を残したまま…私たちは第二班としてメルヴェイユを発ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 




げ、原作にジュリオの先代の騎士団長って登場してません、よね…?
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