ある無名のアトリエ 〜名もなき絵画の錬金術士〜 作:メルヴェイユ市民
色々と進行上重要な場面なので、後々改稿するかもしれません。
大きな変更をした時はたぶん前書きに書くと思います。
「…見えたな。アレが…」
「雷神…ねぇ。まあ、神々しさはあるけど」
先発した第一班が雷神を発見したのは岩と砂が地を埋める荒野、ブライズヴェストだった。
「うおおおおおおおおおおおッッッ!!」
雷神の周囲は、無差別に撒き散らされている落雷によって破壊され続けており…僅かに残る、文明の残滓のような遺跡が次々と粉々に打ち砕かれて行く。
———弓兵隊、用意はいいか!
———凄まじい雷撃だ…耐電装備のチェックは徹底しろ!気を抜いた奴から黒焦げになると思え!
———重装下馬騎士隊は盾になるのが役目です、ダメージの大きい者から順に交代してくださいね!
「がっはっは…血が滾る」
「おいおい、突っ走らないでくれよ?」
「分かってらぁ。どのみちアレは…俺たちじゃあ倒せねぇだろ」
「だろうねえ。ちょっと想像以上」
軽口を叩き合う男2人に、もう2人の影が近づく。
「随分余裕なんですね?」
「おお、ラインウェバーの!ヴォルテール共々、頼りにしてるぜぇ」
「言ってくれるな…はっきり言って戦力が足りない。この戦いは厳しいぞ」
「そのためのわたしたちですよ。伝承では、錬金術士によって雷神は封じられた」
「そうだね。…あの様子を見ていると、ちょっと信じがたいことに思えてくるけど」
徐々に、徐々に…ファルギオルは歩みを進める。目指す先はやはり東。
そこに人が住まう場所は…メルヴェイユしかない。
「封じるための準備も無い。せめて、その方法が伝承に伝わっていれば良かったのだが」
「無いものは無い。諦めるんだな!それより…そろそろ気づかれるんじゃねぇか?」
「いいや、もっと前から気づいてはいるだろうね。何か強気に出る理由があるのか、それとも気にするだけの存在とも思われていないのか」
「む…失礼なヤツね。このわたしを無視しようだなんて」
「ふむ、じゃあやる気十分のラインウェバーさんに先陣を切ってもらおうか。頼めるかい?」
「任せなさい!後ろの騎士たちとの連携は取れてるかしら?」
「問題ない。…おい、ラインウェバーのが仕掛ける。合わせてくれと伝えろ」
近くに待機していた伝令の騎乗兵が、連絡のために後方へ駆けていく。ピンと張り詰めた空気。
この場の全員が、たとえ自分たちの存在が時間稼ぎに過ぎないと知っていても、覚悟と誇りを胸にこの場に立っている。
「よし…じゃあ、数を数えるわ。3つから数えるから、0で仕掛けるわよ?3…2…1…」
金髪の少女が、炎の魔力が渦を巻く爆弾を取り出して振りかぶる。既に十分、当たる距離だ。
雷神はなお、気にする素振りもなく…歩みを止めない。
———ぜろっ!
そして、紅蓮の華が荒野に咲き———第一班の死闘の始まりを告げた。
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《目的メモ》
『伝承の雷神』
第一班から連絡が来た。
雷神ファルギオルが居るのは、
荒涼とした『ブライズヴェスト』。
メルヴェイユを守る…そのために
この戦いには負けられない。
【ティトラ】
□・『ブライズヴェスト』に行く
↑あたしたちならゼッタイ大丈夫!
さっさと倒して帰ってくるよ!【スー】
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ブライズヴェストにて、雷神発見の報あり。
早馬が運んだ第一班からの連絡を受けて私たち第二班が出撃したのは、第一班が出発した翌日の朝早くのことだった。
「ブライズヴェストまでは、およそ20時間*1…ほとんど1日がかりの旅程になるね」
「…戦況は都度伝えられる手筈だ。その内容によっては戦場に駆けつけることになる。着いてすぐに戦闘できるように体調を管理しないといけない。ただでさえ雷雨の中での行軍だから、疲れたようなら俺に言ってくれよ」
「そうだね。急いだ所で、戦えなかったら何の意味も無い」
気は逸る。しかし、それに任せて急ぐことに意味は無い。
私たち8人からなる第二班が万全の態勢で、全力をぶつける———そのために、第一班は先んじて雷神を抑え込んでいる。
その私たちが焦っては、彼らの努力を無駄にしてしまうだけだ。
「雷神との戦いのために、あのぐにょぐにょは沢山持ってきたからね!」
「《アルケウス・アニマ》ね、スーちゃん」
「あ、それでしたら少し分けて頂けません?私も使いますので」
「ルーシャ…前から思ってたけど、パクったでしょ?あたしたちの『バトルミックス』!」
「おーっほっほ!パクったのではありません、参考にしたのです!優れた技術は常に模倣されるもの———むしろ、優れていることを認められたことに感謝して欲しいものですね!」
「むむむ…釈然としない……まあ、別にいいんだけれど……うーん」
「その点、私のはパクられないのよね…」
やっぱり、使い所が無いのだろうか。確かに、錬金術士ならわざわざ生き物を呼び出さなくても爆弾を使えば済むよね…。
「あー、ティティの…なんだっけ、『メタモルミックス』?真似しようとしてみたんだけど、うまくいかないんだよね」
「うまくいかない?」
「うん。『バトルミックス』の応用で、ホムンクルスみたいに調合できないかと試してみたけど…」
「大きくすることはできるんだよ?でも、生き物みたいに動いてくれなくてさ」
「それに、そもそも生き物みたいにならなくて。スーちゃんのプニのフィギュアで試したんだけど、大きくなっても粘土細工のフィギュアのままだったの」
つまり、あの力は《アルケウス・アニマ》を使っていても『バトルミックス』とは違う技術ってことなんだろうか。
「ティティはあの後試してみたりした?」
「ううん。そんな機会が無くて…」
仮に成功したら、突然街のすぐそばにドラゴネアが出現することになる。大騒ぎになっちゃうから、試そうにも試せなかった。
「絵の中も、調査が終わってる絵は錬金術士たちに公開されてるし、びっくりさせちゃうでしょ?『アンフェル大瀑布』はまだみたいだけど、せっかくフランプファイルが居なくなって安心してるフーコたちの隣で龍を呼び出すのは…ね?」
「あー…」
「今ならどうかな?もう結構メルヴェイユから離れたし、そもそも既にファルギオルが出ちゃってるし。この雷雨の中なら、ちょっとドラゴンが出たって気づかれないんじゃない?」
「あっ…そうだね。やってみようかな」
確かに、今の状況はちょうどいい。ようやく実験ができそうだ。
専用に作った腰の皮袋から《威圧する火龍の像》と《アルケウス・アニマ》を取り出し、像を両手で頭上に掲げて持つ。
「じゃあ…んんっ!め、『メタモルミックス・アニマライズ』!」
——………。
…え?
「え、えっ?」
も…もう一度!
何も、起きない。
「そんな…!」
《アルケウス・アニマ》は何の反応も示さず、《威圧する火龍の像》はただただ両手の上で虚空を睨みつけている。
あの時聞こえたドラゴネアの声も…眩い輝きも…何一つ起こらない。
「な、なあ…?ティトラ?何をしてるんだ?」
「あ、えっと…この間、ティティさんと一緒に《不思議な絵》に調査に行った時にですね———」
いや…理由は、分かる。そうであって欲しくないと、考えないようにしていたけれど。
そもそも、私があの調査で様々に活躍したことの最たる理由として考えられるのは、《不思議な絵》と私の反応だ。
この現実の世界では…私は、あんな大それたことはできないと。そういうことなのだろうか…?
「どうやら、『メタモルミックス』は絵の中で無ければ使えないようだね」
「アルトさん…」
「?…何をそんなに悲しげな顔をしているんだ」
だ、だって…『メタモルミックス』が無かったら、私なんてただの———お荷物じゃないですか。
とは、言えない。それこそ、他のみんなにとっての重しになってしまう言葉だろうから。
「まさか…それだけが君の力だとでも思っていないだろうね?」
「え?でも…」
「本当に君は…」
痛みを抑える様にこめかみに手を当てて、アルトさんは諭す様に続けた。
「いいかい?僕が忠告したことを思い出すんだ」
忠告———ええと確か、自分を見失うなって…。
それともう一つは…私が振るうべき力は私の中にある、だっけ。
「そうだ。もう一度、自分で考えてみるといい」
「あ、ありがとうございます…」
私の中にある力…?
それが『メタモルミックス』だと思ったのに、違った。じゃあ…何に頼ればいい?
この局面で私ができることなんて、他に何が…。
20時間の旅程。長いようであっという間に過ぎていく時間。
私にできることは何も分からないまま、気がつけば草原は湿地へ、湿地は荒野へ、景色は移ろい…一泊の休憩を経て、あの雷から2日目の昼。第一班から送られた伝令が、戦況逼迫の報を持って早馬で駆けてきた。
既に目的地は近い。急ぎ足で残りの道中を駆け抜ける。
そして私たちは、ついにブライズヴェストへ———運命の戦場へと辿りついた。
———うおおおおおおおおおおおッッッ!!
…っ、なんて強い威圧なの。
まだ、その姿は見えてすら居ないのに。
でも、怖気付いてなんていられない。
自分にできることは———この戦場で見つけるんだ!
「奥まで急ごう、みんな!」
———《ブライズヴェスト・焦雷風穴》
その先に見えた光景は、あまりにも絶望的だった。
「騎士隊が…いない…!?」
その場に立っていたのは僅かに2人。
「やっと来た…!遅かったじゃないの」
イルメリア・フォン・ラインウェバー。そして…。
「は…ざまぁねぇな…!ここまで保たせるのが、精一杯たぁ…」
エクトル・オードラン。
全身に電気を通さぬ様に皮の鎧を着込み、両手には大きなハルバードを握っている。
その鎧には幾本もの亀裂が走り、地面に突き立てたハルバードに体重をかけて片膝を突いている。満身創痍としか言いようがない。
そして、その向こうに———神は居た。
四つ足に、人間に似た上半身。右手には5本の指、左腕の肘から先には鋭い光沢を放つ剣。
背中からは翼の様な突起が伸びる。
体表は紺碧に暗く艶めき、神威を表すが如き銀の甲殻が胸部と脚部を覆う。
胸部から腕部にかけては黄色い宝玉がいくつも輝き…銀の頭部から伸びる一本の角は、
全身に纏われた破壊を振り撒く紫電が、その不可侵性を誇示する。
美しき異形。神の名に相応しき姿。
凡そ自然には成り得ない造形。
神がその姿を特別に拵えたというなら、それも全て不思議ではないのだろう———しかし、激戦の爪痕か。
その銀色の胸殻には、一文字の斬線の跡が残っていた。
自身の父親の姿が無いことにいち早く気づいたルーシャが、2人に尋ねる。
「あの…!お父様は…!」
「アイツの攻撃を食らってね…命に別状はないけれど…」
「代わりに、
良かった…パパも、騎士団も無事なのね。
エクトルさんも、イルメリアさんも全身ボロボロで至る所に傷がある。それでも傷を治す様子が無い所を見るに、イルメリアさんも既に、ほとんどの道具を使い切ってしまったのだろう。その華奢な身体も、火傷の跡や切り傷で痛々しい。
傷ついた身体を引きずるように、イルメリアさんとエクトルさんが戦線を離脱し、代わりに私たちが並ぶ。
その戦意を感じ取ったか、雷神ファルギオルが吼える。
「許さん…ッ!!許さんぞ人間どもめ…ッッ!!」
「何が許さん、だ!こっちこそ、俺たちの国を焼き尽くしちまうような奴は許さねーからな!」
「そ、そーだそーだ!お前なんか、とっちめてやる!」
神と、人間———その差が何だろうと、負けるわけにはいくもんか。
これは———滅びに抗うための戦いなんだ———!
初手。先んじて動いたのは雷神だった。
腰だめに引き絞られた右手に薄紫色の光球が膨らみ、天へと放たれ、電撃となって地へと墜ちる。
大丈夫、反撃で一気に打撃を与える。
雷神は既に傷を受けている。攻撃が効かない訳じゃないはず———。
「稲妻よ———」
———[エネミースキル:小雷]
「がっ…あ……っ?」
たったそれだけだった。
「マ、マティアス…?」
「ぁ…ぅ…」
前にも、こんな事があった。
突然に巻き起こった紫電が、見知った男の体を灼いて———倒れて。
その時と違うのは、倒れた男がそれきり起き上がらないということ。
奮い立てた心が、急速に冷え込んでいくのを感じる。
たったそれだけが———絶望的だった。
「っやはり…下がっていろ!」
「きゃっ…アルトさん!」
「行けっ!」
———[フォロースキル:矮星の猛り]
私を押し退けて前に出たアルトさんの本から、煌めく8本の錬金剣が撃ち出され…無惨にも砕け散る。
纏う紫電によって、ではない。直撃し、その上で、その体表の硬さを貫けない。
「ぐ、馬鹿な…!」
「無象が」
———[エネミースキル:小雷]
「ぐあっ!?」
「アルトさんっ!」
リディーの悲痛な叫びが響く。
「う、うそでしょう…?あの2人が、こんな、呆気なく…!」
「ま…まだ、まだ負けたわけじゃ…こいつさえ倒せば!くらえっ!」
スーが投げつけた《レヘルン》は…効いた。
偶然にも、この雷神ファルギオルはフランプファイルと同じく、氷を弱点とするようだ。
しかし。
「…何だ?今のは」
「そ、そんな…」
効いた。確かに、冷気の爆発はファルギオルにダメージを与えた。無傷では無い。あと、1000回も投げれば倒せるだろうか。
効いた。けれど、まるで足りないのだ。
「だったら…この1発でっ!」
———[フォロースキル:アズライトレイン]
場に満ちた氷の魔力を利用し、フィリスの射った矢が氷の棘を生み出す。ドラゴネアの生きた鱗をさえ貫き、痛手を負わせてみせたこの一矢は、《レヘルン》の何倍も強力。それならば。
「ぬ…今のは、お前か」
かの神の肩を叩いて気づかせる程度には、ちょうどいい威力だろう。
「……っ!」
「逃げて!フィリスさん!」
「消えろ」
三度、雷神の右手に雷が宿る。放たれた威光は一度は天へ昇り、地へと———フィリスさんの元へと落ちる。
「とりゃあっ!」
さすが公認錬金術士の貫禄か、フィリスさんはただでは倒されなかった。咄嗟にカバンから取り出したのは《精霊織りの帳》*2。白くひらめく薄いヴェールは、込められた神秘の力によって雷を逸らし、使い手をその暴威から護り、さらに加護によって身のこなしを助ける。
しかしその防護効果は、ただ一回の防御のために使い切られてしまったらしい。
「うそっ、真っ黒焦げ…」
「煩わせるか———我を」
続けざま、一本角に集った雷の魔力が無数に散らばり、雨となって放たれる。雷の嵐。光の渦。たった一人を殺すために、暴威が絶え間なく降り注ぐ。
———[エネミースキル:大雷]
「ちょ、ちょっ、ちょっと待っ……きゃああっ!?」
雷の嵐はただ焼き尽くすだけでなく、その持続性と範囲によってフィリスさんを閉じ込める檻となった。
「フィリスさんまで…ど、どうすれば…!」
「それは…フィリスさんを助ける!来て、リディー!ルーシャ!」
フィリスさんの悲鳴が聞こえる———まだフィリスさんはあの中で耐え続けている。それを悟ったスーが、この班の最大戦力であるフィリスさんを解放するべく、リディーとルーシャを連れてその嵐へと走り出す。
「ティティ!エドさん!何とか引きつけて!」
「…応ッ!」
引きつける…かあ。
マティアス…アルトさん…たったの一撃で、2人とも倒された。息はしている、と思いたいけれど、確認する術は無い。
「こんなに圧倒的なのか…雷神っていうのは」
「エド…」
「は…心配するな。守ってやる…守って見せる。あの時とは違う…!」
———[アクティブスキル:ディサイシブ]
———[能力変化(ディサイシブ):防御力上昇/攻撃力低下]
立派な拵えの槍を左手に構え、右手には身体を覆い尽くすほどの大きな丸い盾。全身を覆う、竜の皮革の鎧。いつもの採取の時とは違う、本気で武装したエドが前に出る。
「楯突くか」
———[エネミースキル:小雷]
再びの雷。しかし、竜の素材でできた鎧はただの革製の鎧やマティアスの金属鎧とは違う。
「ぐっ…」
もちろん無傷では済まない。今の一撃だけで、通常素材でできた鎧の接合部などは煙を上げて焦げているし、本人も感電はしている筈だ。
しかし、エドは耐えた。
「回復する———」
「要らねえ!ティティ、ありったけをぶつけろ!」
「わ、分かった!」
今回私が持ってきた道具は、微力ながらも全力。パールに手伝って貰って作った爆弾も含めた、後先考えない最大の道具の組み合わせだ。
《フラム》に、《レヘルン》、そして新たに作れるようになった《ルフト》*3。炎、氷、風の3つの属性は、同時に投げつけるより順に投げつけた方が効果を発揮する。
それら全ての爆弾はいざという時のために作っておいた特別製。付いている特性は、多く作成されるはずのアイテムが一回分にまとまって強化される『回数圧縮+』、そして本来の作成量を2回分増加させる『使用回数+2』。
1つ1つが大きくなってしまうから1発ずつしか持ってこれなかったけど…これなら多少はダメージを負わせられるものと信じる。パールの手助けもあるのだから。
「まずは…《ルフト》!」
こちらを雑魚と侮っているのか、雷神は投げつけた爆弾を避けようともせずにエドを見ている。何かをする気なのか…だとしても、その前に全部ぶつける!
衝突の直前、空中で《ルフト》は炸裂。一瞬、空間が揺らめいて見えるほどに強く巻き起こった衝撃波は強風となってこちらにも及んだ。打ちつけられる雨粒が顔に当たり、目を細める。
「なに……っ!?」
効果あり…!
残り2発と考えると希望を抱かせてくれるほどでは無いけれど…せめて意味があったと思いたい。
「小娘が…!」
———[エネミースキル:小雷]
———[アクティブスキル:ブルースケッチ]
———[サポートガード]
「させるか!」
先の2人を撃ち抜いた雷が、私に向かって前方斜め上から落ちてくる———のをエドが盾を使って払い除ける。
その一撃で盾は大部分が赤熱して融解。使い物にならなくなった鉄屑を投げ捨て、盾を失ったエドは槍を構えて突撃する。
これまでにエドが受けた攻撃は2発。
ただの2発…それだけで、身体の丈夫なエドが竜の防具を身につけていてさえ、最早次の攻撃を受けきれる状態では無くなっていた。
———[能力変化(ディサイシブ):攻撃力上昇/防御力低下]
「《フラム》っ、そして、《レヘルン》!」
エドがファルギオルまで到達すると、巻き込みかねない。それより先に、爆弾は使い切る。
《フラム》の起爆。続いて、《レヘルン》の起爆。豪炎がファルギオルの銀の甲殻を炙り、氷の爆発が熱せられた体表を急激に冷却する。水蒸気でファルギオルの頭部が隠れ、図らずも視界を奪った。
「ぐおぉっ!?」
「エドッ!」
「はああああッ!!」
———[アクティブスキル:ハンティングスラスト]
肉薄するエド。突き出される槍の穂先。もう後がない。この一撃で戦いの有利を少しでも得られれば…!
———[リアクション:接触感電]
———バチィッ………!
「うっ………!?」
弾けるような鋭い音。
パッと閃くような光がエドの身を通り過ぎた。
「……な………が……?」
私も、エドも…遠くでフィリスさんを助けようとしていた3人も。
何が起きたのか、その瞬間に理解できた者はきっと一人も居なかった。
エドの槍撃がまさにファルギオルに命中しようとしたその時…予想外の出来事が起きた。
ファルギオルが纏う”紫電”———それが、突如意思を持ったかのように蠢き、突撃したエドを目掛けて殺到したのだ。
「エ…エドぉっ!?」
突撃の勢いのまま地に倒れ伏す寸前———一瞬、ほんの一瞬だけ、こちらの声に応えるように地を踏み締め———。
———全身から煙を上げ、目を白く剥き…エドは天を仰ぎ、両膝を突いて、倒れた。
「小賢しい…!その程度で我を妨げるか!」
ファルギオルの前足に蹴り飛ばされたエドが、気絶したまま足元まで転がってくる。
「エド…エド!返事して!」
「…………ぁ………」
駆け寄り、抱き上げるようにして上体を起こさせ、揺さぶる。
脈…ある。息は…小さいけど…。まだ生きてる。
「貴様らも———疾く消えろ」
「…っ!やらせませんっ!」
「きゃっ!?」
———[エネミースキル:小雷]
雷が、真紅の少女を貫いた。
「……ぁ…っ……!」
「ルーシャ!」「ルーちゃんっ!」
生きてるけど…!もう、この状況じゃ…。
「娘よ———」
「……あ…」
気がつけば、ファルギオルの巨体がそばで私を見下ろしていた。
どこが目なのかは、分からないけど。…でも、その視線が私に向けられていることは間違いなかった。
「———身の程を弁えず———」
心が軽い。
何故だろう。もう、全てを諦めたから?
「———
それとも、脅威が本能の想定を超えていて、対応できていないから?
「———裁きを下す…!」
———[エネミースキル:招雷の鉄槌]
ファルギオルの左腕の剣に雷が宿り、高く高く振り上げられる。…ビリビリと空気が震える。これまでに無い圧力。振り下ろされた時、私は死んだことを理解できるだろうか。
「あなたに…何を裁けるというの?」
「———何…?」
ふと、口をついて言葉が出た。
「焼き尽くすだけの、ただの災害。意思のないあなたに私のどの罪が裁けるというの?」
言っていて、自分でも分からない。逆に…私に、裁かれなければならないような罪なんてあっただろうか。
もう目を見返すことも無く、ただ見えない雷雲の向こうを見つめる。
今は隠された澄み渡る空のように、心を留めるものは何も無い。
ただ…こんなものが”裁き”だとは思えなかった。
「…良かろう。消し炭となるが良い」
そして、雷槌は振り下ろされる———それが、とてもスローに見えた。
ずっと見ていても、どうしようもない。
目を閉じて、ただ待つ。
瞼の裏で、記憶がフラッシュバックする。
走馬灯、というものだろうか———。
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自分の存在がとても無価値だと気づいた日。
私はそれを忘れることにした。
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「痛っ…?」
鋭い頭痛に、薄く目を開ける。
…なんだろう。今の。
私の、記憶———?
「———待った!!」
「———!?」
目を閉じていたら見えなかった光景。
クローバーの形をした宙を浮く白い盾が、パールと共に雷を受け止めたその光景は…。
「ごめん!遅れた!」
完全に、予想外だった。
しかし、おそば森へは7時間、新緑のオーダリアへは4時間、グルムアディス大沼林へは49時間となっており、これをそのまま反映するとあまりにも各採取地が遠くなりすぎてしまう。特におそば森など、全然「おそば」では無い移動時間である。
そのため、本作では移動時間を原作の半分程度であるものとして扱っている。
《使用スキル解説》
○アクティブスキル
・『ディサイシブ』
使用者:エドワール・オードラン
効果:
【状態変化:ディサイシブ】
2ターンの間、ディサイシブ状態になる。
HPが多いほどDEFが上昇し、ATKが低下する。
HPが低いほどATKが上昇し、DEFが低下する。
さらに、敵の攻撃が集中する。
このスキルはターンを消費せず、連続して使用できない。
・『ブルースケッチ』(再登場)
使用者:ティトラ・メルロー
効果:
装備しているカテゴリ<爆弾>のアイテムを1つ選ぶ
1ターンの間、敵が自分を攻撃する時、その攻撃の前に選んだアイテムで迎撃する
この効果で使用した爆弾は確率で発動する追加効果が必ず発動する
アイテムの残り使用回数が無い場合は迎撃できず、受けるダメージが増加する
・『ハンティングスラスト』(再登場)
使用者:エドワール・オードラン
効果:
敵単体に中ダメージを与える
ブレイク中の敵に使うと必ず命中し、クリティカルし、
低確率で即死させる(強敵には発動しない)
○フォロースキル
・『矮星の猛り』(原作登場スキル)
使用者:アルト
条件:
敵にスキルを使用してダメージを与える
効果:
敵単体に魔法属性ダメージ
○エネミースキル
・『小雷』(原作登場スキル)
使用者:雷の魔神ファルギオル
効果:
敵全体に雷属性の中ダメージを4回与える
・『大雷』(原作登場スキル)
使用者:雷の魔神ファルギオル
効果:
敵全体に雷属性の中ダメージを4回与える
雷耐性を下げる
・『招雷の鉄鎚』(原作登場スキル)
使用者:雷の魔神ファルギオル
効果:
敵単体に雷属性の極大ダメージを与える
○リアクション
一部の敵は、プレイヤーの特定の行動に反応して即座に行動することがある。そうした場合に発生する行動がリアクションである。システム的には敵のフォロースキルとも言える。
・『接触感電』(原作登場リアクション)
使用者:雷の魔神ファルギオル
条件:敵からスキルによる物理ダメージを受ける
効果:
雷属性の中ダメージで反撃する