ある無名のアトリエ 〜名もなき絵画の錬金術士〜 作:メルヴェイユ市民
齎された情報は、私にとって…そして双子にとっては、それ以上に、絶望的なものだった。
「《黒の絵の具》が…『天海の花園』に現れた…!?」
あの絵の中のアトリエの地下室に、真っ黒に侵食された絵が現れたって…そんなこと、あり得るの?
あの絵には…オネットさんが居るんだ。
それが、侵食なんてされたら。
「多分、その絵…相当侵食が進んでるわ」
「そんな!」
「地下室の絵…真っ黒な絵があったんでしょう?あまり見たことのない例だけど…それだけ侵食された絵なら、強い侵食源になると思う」
「じゃあ!…お母さんは?お母さんはどうなっちゃうの?」
「残念だけど…」
レンプライアに侵食されるという事は、《不思議な絵》の機能を侵されるという事。
世界を維持できるだけの機能すら破壊されては…その世界の住人だって、きっと…!
「そのまま侵食が進んだら、跡形もなく消えてしまうかも知れない」
「そんな!どうにかならないの!?…せっかく会えたのに、また…!」
「…ごめんなさい。レンプライアを駆逐する方法は、私にも分からない」
レンプライアがそこに居る限り、絵の世界は侵食を受け続ける。
脅威を完全に払うには、駆逐するしかない、んだけど…。
駆逐する方法なんて分からない。
レンプライアは《不思議な絵》のダメージが形となって現れたようなもの。完全に解決するなら、それを根本から取り除かないことには…。
でも、あの絵のなにが負担になっているのかなんて、分からない。
「そういえば、ティティも…ねえ。何か知らないの?黒い絵の具、使ってたよね!?」
「…なんですって?」
「…知ってるよ。多分、ネージュと同じくらいには…」
「ティティ?…どういうこと?」
「ごめん、ネージュ。私、隠し事があるの」
…影はゆらめく。
いつもと同じ感覚で…でも、いつもと違う何かが溢れてくるのが分かる。
そして、私の影のゆらめきから飛び出してきた物は…虹色をしていた。
やっぱりだ。
『黒の色彩』の《黒の絵の具》は、『新たなる四季』になるにあたって全て色のついた絵の具に変わった。
レンプライアを駆逐するのでは無く、その性質を矯正することで絵は復旧された。だから私の生み出す絵の具も、性質が変わったらしい。
《虹の絵の具》、とでも呼ぼうか。
とにかく今はそこはどうでもいい。
「な、なに?今の…」
「”叶えるもの”がくれた力。でも『新たなる四季』を復旧するまで、この絵の具の色は黒だったよ」
「聞いたことない。人が、レンプライアを…いや、まさか」
そこまで言って、ネージュは何かに気が付いたように言葉を変える。
「門を使ったのね、”叶えるもの”は」
「何か、思い当たるの?」
「あの門よ。輪廻転生を操る力を持つあの門を通っている間なら、霊魂に干渉できるはず。絵の中に入って魂の枷が外れていたら、絵の住人と外の人間の魂の差はほとんど無い。あの子は、貴方の魂に色のカケラ*1か…或いは別の何かを埋め込んで、生きた《虹のパレット》にしたのよ」
門?でも、そんなものは通ってない…ん?
あ、通ったのかも。あの落書き…結局塗り潰しただけだったんなら、見えなくなっただけで門はあの時も湖にあったんだ。
プニみたいな黒い魔物に突き飛ばされたあとの、落下するような、吸い込まれるような感覚。
そうか、あの時私は実際に、『輪廻転生の門』の向こう側に落っこちていたんだね。
そんなタネがあったんだ、この力…。
「その、ごめんね…言ったら、きっと怖がられると思って…」
「…いいわ、そんなこと。それより今はリディーたちよ。何か知らないの?…わたしはお手上げよ」
レンプライアは、絵のダメージに反応して現れる。
聞けば、絵の中のアトリエの地下室に真っ黒な絵があるらしい。それが絵の世界に深刻な負担を与えているのは間違いない。
…でも、元からあったとは思えない。それが根本的な原因とは考えにくい。
だとしたら、一体何をどうすれば…。
「なあ、ティティ。その地下室の絵、”復旧”してやったら解決するんじゃないのか?」
「…そうだね。今はとにかく、その絵をなんとかした方がいい」
「な、なに!?何でもいいから!」
「この絵を見て」
テーブルに置いていた『新たなる四季』を抱えて見せる。
「その絵が、なんなの?」
「『新たなる四季』。さっきも言った通り、この絵は元々真っ黒だったんだ」
完全にレンプライアに侵食され、世界そのものがレンプライアの源となっていた『黒の色彩』。
多分、その地下室の絵と同じ状態だったはずだ。
「そういえば、そうね…どうやって色を戻したの?」
「”復旧”だよ。レンプライアに色を付けられる方法があるの。この虹色の絵の具を見て」
宙に浮かべた虹色の絵の具は、見る者の心に安らぎと勇気の感情を喚び起こさせる。
元の《黒の絵の具》から感じられた恐怖や忌避感とはまるで違う。その性質も、多分。
「泥のような《黒の絵の具》はレンプライアの身体そのもの。でも、あの泥は”復旧”によって無害化した。その地下室の絵にも同じことができるのなら…」
「お母さんも助かるってこと!?」
「…だと思う。でも、ごめん。たぶん、その絵は完全には”復旧”できない」
「えっ?どうして…その絵だって、直せたのに…!」
「”復旧”には、必要なことがあるの」
“復旧”のためには、その絵の元の姿を知る必要がある。
一度、復旧を果たした今なら分かる。その色は、その絵の作者が込めた願いや想いに寄り添ったものじゃなきゃいけないんだ。
そうでなければ、既にある世界に大きな歪みを引き起こして、結局また新しいレンプライアの発生させる原因になってしまう。
一度復旧した絵画も、レンプライアの脅威から完全に解放された訳じゃない。
その絵が傷つく事があれば、再び《黒の絵の具》は姿を表すはずだ。
思えば、このレンプライアという名前も含めて、《不思議な絵》についての知識は”叶えるもの”の記憶から得たものだ。白黒の世界の中で聖櫃を目にした時に感じ取った記憶の知識だ。
“叶えるもの”は、意思だけの姿無き存在。ネージュはそれを、自分自身の精神や魂を見本にするようにして生み出したんだろう。ネージュの知っている知識を断片的に持っていたのはその為だ。
そして、その私がネージュの知らないことまで知っているという事実は…様々なことを忘れる前の”叶えるもの”が、どうにかして《黒の絵の具》の侵食を食い止めようと、たった一人で足掻いていた証なのかもしれない。
「私にできることは多くない。でも、少しくらいなら時間稼ぎにはなると思う。私に、手伝わせてくれないかな?」
「ティティ、お願い。あたしたちを助けて」
「お母さんを…お母さんを助けたいんです。だから…!」
「うん。分かった」
そうと決まれば、やることは一つ。
その真っ黒な絵に少しでも色を塗って、侵食を食い止めるんだ!
ただ…その為に、絶対についてきて欲しい人が居る。
何も言わなくたって、いつだって助けてくれた、この男の子に…。
今度は、ちゃんと自分の口で、言いたい。
「…エド」
「なんだ?」
「助けて、くれる?」
「…!ははっ…ああ、いいぜ。やってやる」
心底嬉しそうに、私の騎士は笑ってくれた。
「復旧の作業には護衛がいるだろ?守ってやる。いや…守らせてくれ。ティティ」
「うん…うん!お願いね、エド!」
これまでも、この時も、これからも、きっとエドは私を守ってくれる。
その気持ちも、今なら信じられる。
「ネージュ、お話ありがとう。私、行くね!」
「ええ。わたしからもお願い。リディーとスーを…そして、”叶えるもの”を頼んだわ。2人とも」
「…頑張る!」
任せて、とは言えない。
それでも、私たちにできる事があるなら、それを全力でやり通すだけ!
結果なんて、関係ない。
自分を偽らずに全力を尽くすことが大切なんだ。そうすれば見えてくるものがあるはずだ。
(だ、め……)
(とまっ、て…とまら、ないと…)
(……あ、あし…とま、らな……)
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———『天海の花園』。
アトリエへと続く丘の階段を上ると、その向こうに爆弾の炎が見えた。
戦っている…!
「…ロジェさん!助けに来ました!」
「ティティちゃんか!助かる!」
すぐに駆けつけ、ロジェさんの前に出る。
「レンプライア…!本当に湧いているなんて…っ!」
「ロジェさん、その人を連れて後ろに。俺たちがやります!」
「ああ、気をつけろ。こいつら、強い上に倒しても倒しても出てくるぞ…!」
具合の悪そうなオネットさんを背中に庇って戦うロジェさん。
その正面には、見たことのない大きな黒い魔物が2体、蠢いていた。
その身体にはそれぞれ、黄色と緑色の模様がある。一応、上半身と下半身を見分けることができそうではあるが、下半身は地面に沈むようにべちゃりと広がっており、上半身にも、頭部と思われる突起、そして太く短い2本の腕のような部位が辛うじて存在するのみである。
人の2倍はある巨体。
そのずんぐりとした見た目の印象どおり、動きは遅いけれど…。
「ォォォォオオッ!」
「うおっ…馬鹿力かよ!?」
「は、花が…このぉっ!」
あの巨腕の振りは、驚異的だ。
少し離れた所には、3体目の残骸と思われる黒い泥が、沼のようにべちゃっと広がっている。ロジェさんが、さっきの爆発で倒したんだろう。
不安になる光景だけど、《混沌の泥》は侵食しない。今は放置でいい。
「俺が一体やる!ティティはもう一体…いけるか?」
「…いける!」
「よし…背中合わせだ。速攻でやるぞ!」
———戦闘開始。
…といっても、私はまともに相手をしてやるつもりは無い。
「…影よ!煌めけ!」
しゃがみ込み、揺らめく私の影に手を突き込めば、天高く、虹色に煌めく絵の具が噴き出す。
絡み合う七色の絵の具。混ざり合うことは無く、極彩の虹のアーチを描いて地上の一点へと降り注ぐ。
「虹の根元には財宝が、ってね!」
レンプライアへと降り注いだ《虹の絵の具》は、その巨躯をも虹へと染め上げる。
「ォォ…ォォ…!?」
———イロ…!イロだ…!
「ええ、そう!色をあげる!たーんと食らいなさい!」
尚も降り注ぎ続ける《虹の絵の具》を避ける素振りもなく、むしろ自ら浴びるように、レンプライアはその両腕を振り上げ、全身に絵の具を浸す。
少しずつ、レンプライアの身体が色づく。色づいた部分は
———ネガイ…カナウ…!
———オモイ…カタチニ…!
「ォォォ…ァ…ァァ…———」
そして、数十秒の”染色”を経て、巨大レンプライアはその身の全てを花びらに変え…消え去った。
「———エド!終わったよ!」
「ああ!こっちも終わる!」
振り向く。
緑色の模様を持つレンプライアが、エドの頭目掛けてその腕を振り下ろそうと天高く掲げ———その身を無防備に開いていた。
「据えた
右足を前に。左腕を引き絞る。
突き出された手のひらは、必殺の一突きの
「———
「オオオオオオッッ!!」
凶腕、振り下ろされる刹那、その身は一本の槍となり、瞬きの合間に閃いて隠れ。
「———セィヤァアアアアッッッッ!!!」
「ォ…オ……ッ…!?」
捉え得ざる速度。
光陰の時で突き抜けた、重力の槍の突撃。
その眼の煌めき、槍の輝き、
貫かれた事にすら気づかぬまま、レンプライアの巨体は崩れ、未解の泥へとその身を還した。
「……」
残心。
「……ふぅ。終わったぞ、ティティ」
「す、すっご…その槍、こんなに使えるようになったんだ」
「へへっ、練習してたからな」
「お前ら…ははっ、とんでもない奴だらけだ!俺たちの次世代は!」
「ケホっ…ふふ、そうみたいね?」
「あ、ロジェさん!オネットさんも、怪我はありませんか?」
ロジェさんは動けないオネットさんを庇いながら、一人で戦っていた。
どれだけ辛い戦いだったのか…。
「ああ。俺も
「あはは…ロジェさんが公認だなんて、思いもしませんでした」
「おいおい、それは酷い———」
「———っごほっ!ごほ、ゲホゲホっ…!」
「っオネット!気を楽にしろ…!」
「はぁ…はぁ…っ、ええ。ありがとう、ロジェ…」
「オネットさん…!」
…本当に辛そうだ。
普通の病気なら、薬を与えれば治せる。けど、この症状の理由は…。
多分、普通の薬では意味がないんだろう。
「…ねぇ、ティティちゃん」
「は、はい!オネットさん、何か…?」
「さっきの、虹色のあれ…少し、貰えないかしら…。見ていると、何か気が楽になるのよ」
「いいですよ。ちょっと待って…」
再び影の中に手を突き込む。その波紋が虹色に煌めき、今度は湧き出す泉のように虹色の絵の具が現れる。
《黒の絵の具》だった時とは違い、全く手や服への粘性———執着が無い。
手に掬うと、サラサラと流れるように流動する。しかし、どろりとした絵の具のような性質も持っているようで、たっぷりと掬い取っても手の隙間から流れ落ちるようなことは無かった。
とても、不思議な光景だ。表面張力、というやつだろうか。
「はい、どうぞ」
「ああ…すごいわね、それ…。見ていると、意識がはっきりしてくる…ねえ、触ってもいい?」
「大丈夫ですよ。これで、どうですか?」
ロジェさんに身体を支えられながら、オネットさんが両手で私の手から僅かに絵の具を掬い取る。
「あっ…」
「どうした?大丈夫か?」
「オネットさん、無理はしないで…」
「これ…欲しいわ…」
オネットさんが焦がれるような目になって、掬い取った《虹の絵の具》を見つめ、少しずつ器にした両手を顔に近づけていく。
…と、次の瞬間。
「…んくっ」
「の、飲んだ!?え、ちょっと…!」
「オネットぉっ!?お、おい!それ飲んでもいいのか!?」
「し、知りません!ついさっき出るようになったんです!」
「おいおい…ど、毒じゃないよなティティ…」
まさか飲用するとは…そんな発想すら無かった。
「え、あの…だ、大丈夫ですか?…その、おいしいんですか?」
「…ううん。味はしない、けど…」
「けど?」
「不思議…すっごく身体が楽になるの。今なら、さっきの魔物もヤれちゃいそうよ?」
「いやいや!病人は大人しくしててくれ、頼むから!」
…これ、薬なの?
確かに、《黒》よりは《虹》の方がまだ身体には良さそうだけど…。
「いや、ティティ。どっちにしても食べ物や飲み物の色じゃないからな。間違っても虹色のキノコとか食べるなよ」
「た、食べないわよ!…でも、これは気になる…よし」
いざ、実食。…じゃない、実飲!
「んく、んく…」
「結構行くなあ!おい、解毒薬は持ってるんだろうな」
「…あ。今日は持ってないかも」
「ああ、それなら俺が。何かあったら使ってやろう」
「すみませんロジェさん、うちのティティが」
あ、確かに。
水みたいに飲める。喉が渇いた時は使えるかも。
効果は…。
「…分かんないや」
「そりゃあなあ。お前、ケガもしてないし。ゲンコツでもしてやろうか?」
「怒らないで!?」
で、でも、とりあえず無害みたいだ。
…本当に不思議だ。《黒の絵の具》の成分からして、この絵の具にも有毒な物質が含まれているはずなのに。
それこそ、《不思議な絵》の性質…矛盾した物質を生み出す力が関係しているのだろうか。
とにかく、これも時間稼ぎに役立つことが分かった。
含まれている物質を考えると、あまり沢山飲ませるのも怖いけど…背に腹は変えられない。
「ロジェさん、コップとか、お椀とかありますか?」
「ああ、アトリエにあるはずだ。取ってくる」
レンプライアの発生源は、アトリエの地下室だ。
本当はアトリエに寝かせたいけど、そうもいかない。外にベッドなどが持ち出され、この庭のような広間が拠点になっているようだ。
幸い、この絵の世界は暖かい。しっかりと着こませてやれば、十分に安静にできる。
「お願いします。よいしょっ…オネットさん、《虹の絵の具》、出来るだけ多く置いておきますね。どんな効果があるのか分からないので、本当に辛い時だけ使ってください」
「ええ。ありがとう、ティティちゃん。…エドくんも、来てくれてありがとう。カッコ良かったわよ?」
「あ、ありがとうございます!」
もう、エド。
美人だからって緊張してるのかな。
「取ってきたぞ!これくらいでいいだろ」
「はい、それじゃあ…」
大きなどんぶりに、お椀に、コップ。洗面器まである。
全ての容器に、出来る限り《虹の絵の具》を注いだ。
「ふぅ…ちょっと、使っちゃってるかも」
「ティティ、お茶飲むか?」
「あ、うんお願い。…ゼリーも食べよっと」
魔力や精神力を回復すれば、霊魂の回復も早まる。
…さっきまで長時間の復旧作業をして、今も沢山の絵の具を出した。
これから、もっと長丁場の作業になることを考えると、少しでも回復させておきたい。
「はむっ…んくっ。…ロジェさん」
「おお、なんだ?」
「私、これからアトリエの地下室に入ります。…いま、双子が解決策を探しています。そのための時間稼ぎができるので」
「地下室に…だが、あそこは今は…」
ふふ…困った時に顎の無精髭を擦るクセ、変わらないなあ。
「大丈夫です。エドが…いえ、エドに、守って貰うので」
「はい。その為に、俺たちはここに来ましたから」
「…分かった。無理はするなよ。オネットは心配だが、そのためにお前らが倒れても意味はないんだぞ」
「分かってます!それでは…行きますね。時々、こっちにも顔を出します」
助け合うロジェさんとオネットさんに見送られ、アトリエの扉を潜る。
…アトリエの中は荒れて散らかっている。
床には、太い線になって続いている《黒い絵の具》の跡がある。レンプライアが移動した”足跡”だろう。
これは何とかしておこう。《混沌の泥》と違って、こちらはまだ侵食作用が残っている。
虹色の絵の具を刷毛のような形で出し、掃き掃除のようにしてこそぎ取っていく。やはり色に執着しているようで、この方法でならよく取れる。
「地下室はこっちか。俺が先に行くぞ」
「うん、お願いね」
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地下室は、さらに真っ黒に汚されていた。
全ての汚れを掃き取りながら辿り着いた先は———。
「これ、なのね…」
「…ティティが見つけた絵、みたいだな」
現実のアトリエなら、『天海の花園』が掛けられている場所。
そこに、まさにあの時の『黒の色彩』と同じような状態の黒い絵があった。
濃淡から、わずかに見えるのは…未知の様式で造られた、街。
石造りだろうか…崖の上、いや、浮遊した巨岩の上に築かれた街は、荒廃し、崩れ、廃墟と化している。
「やっぱり…怖い絵だな。これ」
「…そうだね」
取り外そうとも思ったけど、何かの力で固定されているのか、びくともしない。
額縁は表面の保護が無いタイプのようで、キャンバスの絵は露出している。仕方がない、このまま作業に取り掛かろう。
「魔物が出てきたら…」
「ああ。俺が何とかする。ティティは集中してくれ」
やっぱり、この絵の作者が込めた気持ちは分からない。
それどころか、この絵に作者と呼べる存在が居るのかも分からない。この絵は地下室に突然現れたというから。
それでも、少しでもオネットさんの命を延ばすために。
…始めよう。私の戦いを。
勝負は、双子が解決策を探し当てるまで。
負けないことは、できるはずだ。
「諦めないよ…もう、絶対に」
絵の作者の想いの結晶、と言われることもある。