ある無名のアトリエ 〜名もなき絵画の錬金術士〜   作:メルヴェイユ市民

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アトリエはエンディングが解放されてからが本番。

以降の話は原作のクリア直前の世界が舞台となるので、今まで以上にネタバレ注意です。


最終話 賑わいのメルヴェイユ
灯火の乙女シャンドリエvs…


 

 

「ねえ、私と戦ってみない?」

 

 突然に口を開いたかと思えば、シャンディがそんなことを言ってきた。

 

「…えっ?なんて言った?」

「大丈夫…?耳かきしてあげましょうか?」

「いや、遠慮しておきます」

 

 絶対に酷いことになる。だってやらせたことが無いもの。

 

「残念ね」

「せめて包丁を使えるようになってから言ってよね」

「むう…まだ身体の扱いに慣れてないのよ」

 

 そりゃそうだ。

 ただでさえ今まで意識だけの存在だったのに、いきなり《虹の絵の具》と《黒の絵の具》、《万物不和剤・黒》の混合物でできた身体になるんだもの。

 

 私のように《不思議な絵》と繋がってはいないから、絵の具を生み出すことは出来ないけれど、人間の身体よりずっと”可動部位”が多い。

 

「そのためにも、戦って身体を動かしてみたいのよね」

「…つまり、私に耳かきしたいわけね」

「マッサージもどう?最近、リディーちゃんに教わってるのよ」

 

 リディーのマッサージは…あれは不味い。

 何が不味いって骨抜きにされる。気持ち良すぎる。

 まだ筋力のない以前のリディーですら気絶するかと思うほどの快感だった。コリをほぐすのに十分な筋力がある今のリディーのマッサージは凶器になり得る。心臓の弱い人は受けない方がいいだろう。

 

 そんな技術を、人間より身体が柔らかい*1シャンディが習得したら…危険だ。危険すぎる。

 正しく人類の脅威だ。そして錬金術士には天敵。

 同じ姿勢での作業が続く錬金術士は、いついかなる時もコリに悩まされている。とりわけ私は画家としての絵描き作業もしているので更にひどい。

 

「そのマッサージ、私にだけはしないでね」

(ふーん…貴重な情報ありがとう)

 

 しまった!全部筒抜けだ!

 

(いい顔が見れそうね。がぜん、やる気が湧いてきたわ)

(お願い、シャンディが不器用でありますように…)

(300年分溜め込んだ根気に不可能は無いわ。必ず習得してみせる)

 

 うう…逃げられないよぉ。

 

 終わりだ…せめて、お母さんにだけは見られちゃいけない。

 

 オネットさんの家に私の寝顔が飾られたように、そしてお母さんの部屋には私の…あられもない顔が飾られることになる。間違いなく。

 

「で、どうなの。戦ってくれる?」

「うーん…」

 

 まあ、戦うのって…正直言うと嫌いじゃない。

 身体を動かすとスッキリするし、派手に爆発させたり絵の具をぶち撒けたりすると、それはそれで気持ちいい。

 特に絵の具。なんて言うのかな、染め上がる地面や壁を見ていると、満たされる気分になるんだよね。

 私の色に染まれーっ!みたいな。

 

「ただ思うんだけど…私の戦い方、もう完全に錬金術士じゃないよね」

「ああ、それ気にしてたの?今更だと思うわよ、それこそ完全に」

 

 そんなこと言わないでよ…。

 

 『新たなる四季』の世界は色があるし、見た目にも綺麗だ。錬金術士であることと、あの双子が似たような効果の道具を普段使いしていることとが合わさって、外で展開しても何もおかしく思われない。

 

 そのせいもあって、『黒の色彩』を使ってた時よりもずっと頼りきりになっちゃってるのが…本当にアイデンティティの危機だと思う。

 

「貴方のアイデンティティ、もう錬金術士じゃなくていいじゃない」

「良くない!今でも錬金術は好きなんだから!」

「むう。どうしても戦ってくれないわけ?」

「いや、そうは言わないけど…うーん…」

 

 踏ん切りが付かないなあ…。

 

「あ、そうだ。エドと戦うのは———」

「貴方もいい加減———」

 

 ぎゅうっ。

 

「———学んだ方がいいと思うわよ…っ!」

「あだだだだだだっ…!?手の甲はダメぇぇっ!」

「消えろ!その、イメージっ!ティティの頭からっ!」

 

 嫉妬深いよぉおおおっ!?

 

 

 

———ただいまーっ!

———おや…!そうか、君か!おかえり、よく来たね。

———うん!ありがとパパ!やっと来れるようになったの!

 

 

 …ん?何か、聴き覚えのある甘い声が。

 

「…この声って」

「あ、やっぱり?そろそろだと思ったんだよね」

「私以外の女の子をぉ……っ!!」

「ぎゃああああっ!?」

 

 ネージュ似の囁き声(ウィスパー)が不穏に震えてるぅぅぅ!?

 

———バタンッ!

 

「なになになにっ!?大丈夫ティティ!?」

「あ、ああ、お久しぶりぃったあああい!」

「初めましてねミス・パール…貴方に決闘を申し込むわ…!」

「えっ!遊んでくれるの!」

「決、闘、よ!」

 

 ああ…星が舞って…ちかちかする…。

 

 

 

 

 

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———————————————

 

 

 

 

 

———マール海、上空。

 

 パッと思いつく限り、戦場にしても問題なさそうな場所はここくらいだった。

 

 現在高度、鍛えてもいない目測で…300メートルとか?知らないけど。

 

 私以外の2人は飛べるから良いとして、私は飛べないので《旅するカーペット》の派生アイテム、《旅するカプセル》に乗っている。

 

 エーテル過剰という私の特性さえ理解していれば、私の錬金術は妨げられるどころかむしろ捗る。

 こうやって既存の道具を別の形態へと変えるくらい、まるで造作もないことだ。

 

 …まあ、丸くしたら寝にくいし過ごしにくいし、おまけに通気性最悪になったけど。やっぱり、エドという相談役は必要だ。私には発想力はあっても配慮が足りない。

 

 なお、乗り込み時は半分に切った玉ねぎのように、蝶つがいを軸としてカパッと開く。水中運用を考えて密閉には気を遣ったため、その時以外は換気されない。丸型の上に素材が硬いので強度も抜群。棺桶か、これは。

 

 ただ…こと、この2人の戦いを見るにあたっては、その密閉性と強度は安心材料でもあった。

 

 

「あっははっ♪久しぶりに遊びがいがありそうで嬉しいよー!」

「言ってくれるじゃない…すぐに遊びだなんて言えなくしてあげるわ。もう3ヶ月休む覚悟は出来たかしら」

「うぇ、それは嫌だなあ…ちょっとだけ本気だそっと」

 

「何が起きようとしているのかしら…」

 

 

 左、シャンドリエ・メルロー。

 右、パールシェル・アルミラージ。

 

 互いに”爪”と”白い盾”を出し、戦闘態勢は万全だ。

 

 両者見合って、見合って…!

 

 

———fight!

 

 

「終わりよ」

「まーだだよーっ♪」

 

 開幕早々に終了宣言したシャンディが繰り出したのは、あの”堕ちた願望機(ミニングレス)”の時にもたくさん撃ってきた光線(ビーム)

 ただし、その色はその眼と同じ炎の色。黒い時よりもよっぽどビームらしくなった。

 

 パールの方は背中から前へと移動させたクローバー型の白い盾でこれを防ぎ、まだまだ余裕の表情だ。

 

「そう言えば、あのビーム一回も食らわなかったな…どれくらい強かったんだろ」

(気になるのならちゃんと見てなさい…次は当ててやる)

(殺意抱いてない?加減してよ?)

(この子がそんな易しい相手かしらね?)

 

「あっははっ!こっちからも行くよーっ!そー、れっ!」

 

 パールの十八番、アイスコフィン。

 今にして思うと、この技の元は、あの本体の時に座っている台座を投げる攻撃だったのかな。

 破壊力はまったく及ばないものの、その勢いと攻撃範囲はほとんど同じ。巨大な氷塊が弧を描き、シャンディの頭上へと振り下ろされる。

 

「…シャァアッ…!」

「斬った!?」

 

 自分を抱きしめるように両腕を交差して爪を構え、振り払うように双閃。

 10の爪によって、氷塊はバラバラに分割された。断面がバターを斬ったかのように滑らかだ。

 

 …爪はちゃんと切っておくように言っておこう。あれで抱き枕にされたらベッドが血の海になる。

 

(本物の爪じゃないわよ!作ってるの、身体から)

 

 よく見ると、確かに爪の色が鈍色。明らかに金属で出来ている。

 全身の造形は”堕ちた願望機(ミニングレス)”の時から変わらないけれど、色がついたことでこう言った部分にも変化があるみたいだ。

 

「だったら近づいてやるわ…!」

「そう簡単に近づけるかなー?」

 

 静止状態から急加速して接近するシャンディを迎え撃つべく、パールもビームのように尾を引いて飛ぶ光球を二、三放った。色は赤、炎の魔力の塊だ。

 赤い光球は若干の誘導があるようで、曲線を描いて飛びシャンディの接近を制限…するかと思ったのだけれど。

 

「嘗めないで頂戴」

 

 わあ、すごい動き。

 

 不安定な軌道の光球の間の空間をすり抜けるように、シャンディはさらに加速。

 ほとんど一瞬でパールと接触。上体を引いて後ろに身を倒すパール、押し倒すかのように迫るシャンディ。黒と白の髪色、似た色に輝く瞳が刹那見つめ合い、お互いに、ニヤ、と笑みを浮かべる。

 

「楽しいわね…」

「楽しいね!もっと遊ぼうよ!」

「エスコートなさい。見定めてあげる」

 

 乱れ舞う2人、乱れ飛ぶ光線。

 マール海の上空で踊る2人をスケッチブックに次々と描きながら、紅茶を飲んでビスケットを頬張る。…ああ、至福。

 ジャムも持ってくればよかったかな?

 

 

 

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「お父さん!行ってきまーす!」

「晩御飯までには帰ってくるから、適当なもの食べたりしないでね!」

「おう!気をつけてな!」

 

 リディーと一緒にアトリエを飛び出す。

 メルヴェイユの昼下がりは人が多い。恰好も評判も目立つあたしたちは、いつだって街では注目の的だ。

 

「さてと。今日はどんな依頼が———あいたっ」

「リディー?大丈夫?…なにこれ、氷?」

「うう、ついてないなあ…(ひょう)でも降ったの?」

「ええ?でも、今日はいい天気だけど…」

 

 空を見上げる。太陽が眩しい、いい天気だ。

 

 アトリエを振り返って海の方の空を見ると、小さい雲や蛇みたいな雲が散らばるように浮かんでいる。あ、あの雲クロワッサンみたい。

 

 他にも、珍しい雲もある。ひゅんひゅんと飛び回って、くるくると入れ替わったりしている。すごいなあ、ひとりでに遊び回るなんて、最近の雲は進んでる。

 あたしじゃついていけな———。

 

「す、スーちゃん…あれ、人間じゃない?」

「あ、やっぱり?じゃあ、あの黒い方は…」

 

 

———キィィ……ィン!

 

 言った瞬間、黒い方の人影がめちゃくちゃな高速移動を始めたので目で追えなくなった。

 すごい。風切り音がここまで響いてる。

 

「白い方と戦ってるのかな?」

「黒い方はシャンディだとして…白いのって誰だろ」

 

 あの速さに対応できるって、相当な強者だと思うんだよね。

 メルヴェイユ、王都だけあって都会だと思っていたけど、こんな凄い人まで集まるなんて。

 

「あいたっ」

「あ、スーちゃんにも当たった」

「…もー!戦うんなら場所を考えてよね!」

 

 遅れて、海の方からも豪快に水が跳ねる音が聞こえてくる。

 うっひゃあ、派手にやるぅ。

 

「言ってる場合!?早く止めないとまずいんじゃ…」

「そ、そうだね。今日は冷えるし海には人は居ないけど…このままじゃあの2人がミレイユさんに怒られちゃうし」

 

 

 怒られないうちにそっと止めてあげるのも優しさってものさ。

 あの辛さは、あたしみたいな常習犯にしか分からないからね…イタズラっ子も辛いよ。

 

「それはスーちゃんが悪いんでしょ!」

「あ、やっぱり?」

 

 

 

 

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「あはははははっ♪」

「ふふ、うっふふふふ…っ!」

 

 …あれ本当に正気?

 

「なんか、白と黒のオーラがぶつかり合ってるのが見える…」

 

 というかそれしか見えない。シャンディの動きが速すぎる。

 さっきからカプセルにバシバシと衝撃波(ソニックブーム)が当たってる音がする。ドラゴネアが振り切れないはずだね、あんなの逃げようとするのが間違ってる。

 生身で音速超えられるって、とんでもない錬金生物を生み出しちゃったかも…。

 

 

 対するパールはというと、何故か対応できるようで。

 

「しぶといわ…!」

「まだまだ!遊び足りないよ!」

 

 器用に盾に隠れては、シャンディの爪撃を逃れている。あの速さで飛ぶ相手がいつ攻撃してくるか分かるなんて、やっぱり精霊と人間じゃものの見え方が違うのかな?

 

「これでどうかしら!?」

 

 やや離れた所にシャンディの姿が現れ、揃えて構えた両手のひらから二条の極太光線が放たれる。

 一応、下から上に向けて撃っている。下に広がっているマール海のことを考える程度の配慮はあったようだけど、流石にこれは、下からも見えたんじゃ…。

 

 

———おーい!2人ともー!一旦とまってーー!

 

 

 …やっぱり。

 今の声、多分スーちゃんだね…良かった、止めに来たのが双子で。

 どうやら、私には気づいていないみたいだ。カプセルが白く反射する上に、まるで動いていないからね。見えはするだろうけど、あの2人が派手すぎる。

 

「おふたりさーん。そろそろ帰りますよー」

(…仕方ないわね。今のはちょっとやりすぎたかしら)

 

 動きを止めた2人が何やら話し合い、こちらへと戻ってきた。

 汗ひとつかいてない。そもそも汗という機能が無い可能性はある。

 

「楽しかったー!またやろうね、シャンディちゃん!」

「ええ、いいダンスパートナーだったわ。またお願いね」

 

 意気投合したのはいいんだけど…。

 

「あのさ。下見てみ?」

「「え?」」

 

 

 秋の冷たい海面には、大きな氷が無数にぷかぷかと浮かんでいる。

 

 最後のビームが致命的だったなあ…陸地からは離れてたし、りがんりゅう(離岸流)っていうヤツがある場所を選んだから、音だけなら氷なんて見つからなかったはずなんだけど。

 

 時刻は昼過ぎ。季節柄、人が少ないとはいえ、浜辺にはビアガーデンがあったりして目撃者は多数居る。特にミレイユさんとか。

 …なんで昼間からミレイユさんが居るのか。

 

 

「「……」」

「…じゃあ、行こっか。覚悟はいい?」

 

 その後、止めなかった私を含めた3人は、お客さんたちに冷やかされながら、やや頬の赤いミレイユさんからたんまりと説教を貰うこととなり。

 

 唐突に始まった、シャンディとパールの力比べ。どうやら、一番強かったのは…。 

 

「あーあ、結局間に合わなかったよ…ごめんね、同志たち…!」

「もう!スーちゃんも帰ったらお説教ね!」

「何もしてないのに!?」

 

「らからぁ!こんなほころへあばれひゃぁ、あぁぶらいのよぉ!わぁったぁ!?」

「あの、ミレイユさん、お酒はその辺にしておいた方が…」

「だぁらっしゃい!」

「「「ごめんなさい!」」」

「らいたいね、まひあすもおとうさまも、もっとしっかりしへくれらいと…」

 

 お酒を飲んだ、酔っぱらい王女、らしかった。

 

 

 

 

 

*1
(※物理的に)

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