ある無名のアトリエ 〜名もなき絵画の錬金術士〜   作:メルヴェイユ市民

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注意:不思議シリーズにおける調合、および「素材の願い」についての独自解釈を含みます。


不思議な友達

 

 

 

 腰を痛め、ベッドに寝かされながら、パールに見守られている。

 お父さんの特製湿布とパールの謎治療のおかげでなんとか痛みが治まった。でもまだ動くわけにはいかない。しばらくは休むことになりそう。

 

 

「その…大丈夫?」

 

「なんとか…それで、私の錬金術が失敗する理由が分かるって言ってたけど」

 

「うん。あのね、身の回りの自然由来のもの…石とか、木とか、草とかから声が聞こえたことってある?」

 

「いや…ないけど。どういうこと?」

 

 

 そっかー、と一拍置いて続けるパール。

 

 

「この世界のあらゆるものには願いが宿ってるんだ。もちろん、世界そのものにも、レンキンジュツで使ってるっていう()()()()()にも願いがあるの。世界の大きな、ぼんやりとした願いの一部が、()()()()()として分かれる時に少しだけ輪郭を帯びて付いてくるの」

 

「願い…」

 

 

 突飛な話をされていると分かっている。

 けれど、目を閉じて語るパールの顔は夢を見るような、懐かしむような表情をしていて、それがまるで似ても似つかぬはずの、教会の神像と重なって見えた。

 

 

 だからなのか、私にはそれが真理なのだと抵抗なく納得できた。

 

 

「例えば、旅をしたいとか、友達が欲しいとか、誰かを助けたいとか…あるいは、戦いたい、壊したい、塗り潰したい、とか。まあ、こっちは別の子の領分なんだけど…そういうのを持ってるんだ。レンキンジュツはそう言った願いにカタチを与えることで、色んなものを作り出してるの」

 

「じゃあ、もしかして私の使ってきた素材が爆弾になりたくなかったってこと?いままでの素材、全部?」

 

 

 私の巡り合わせ悪すぎない?

 

 

「そんなことはないよ、多分本当に嫌がってた子もいるとは思うけど。でもね、小さなものたちもずっと同じ願いを持ってるわけじゃない。願いが変わることもある。これはニンゲンも同じことだよね」

 

「ってことは…」

 

「そう。ティティの使ってきたものはみんな、ティティに使われることで、爆弾になりたくなくなっちゃったってこと!」

 

 

 そんなぁ…。

 それじゃ私、一生爆弾作れない…いや、ちょっと待った。

 

 

「私もカンタンな爆弾なら作れるけど、それは?」

 

 《うに袋》とか、《フラム》とか。

 

「願いと違うものだって、単純な道具なら人次第で無理矢理カタチにできないこともない、んじゃないかな?力押しでこう、ゴリッと」

 

「えっ、私そんな強引なこと…」

 

「してたでしょ?何回も何回も練習して、そのうち願いの手助けなしで…それどころか邪魔されてるのに、カタチにできるようになったんだよ。…そういえば、似たようなことをしてた人も居たっけ」

 

 ああでもちょっと違うかな、と独りごちて、さらに語る。

 

「でもティティのはあまり気にかけなくてもいいんじゃないかな。それは、爆弾になりたくない理由にも関わってくるんだけど」

 

「そうだ、結局なんでなの?私なんかダメなことしてる?」

 

「…ティティって絵も上手だよね。毎日デッサンしてるの見てるけど、とっても素敵な絵を描くなぁって思ってたんだ」

 

 

 え、なに突然。そんな褒められたら私嬉しく…。

 

 

 

 ……。

 

 

 

 …まさか。

 いや、でもそんな。それなの?

 

 

「ティティの絵も、エレンさんの絵も、小さなものをみんな虜にしちゃうの。しかもそれを実際に絵にできる技術もあるから、みんな……あははっ!もう、こんな人初めて!」

 

「じゃあ、なに、私の素材はみんな絵の具なり画材なりになりたいと?」

 

「そういうこと♪」

 

 

 なんで!?どうしてそこで自分を曲げちゃうの!

 もっと自分を強く持ってよ!

 

 

 

 

 わたしと母の才能が怖い…ッ!

 

 まさか本心からこんなことを思う日が来るなんて!

 

 

 

 

「…つまり錬金術士になりたいなら絵をやめなきゃいけないの…?」

 

 

 夢、破れたり。

 

 お母さん、やっぱり貴方が正しかった。私に錬金術なんてできっこ無いんだよ。

 だって私、絵を捨てるなんてできないもん。錬金術だって捨てたく無いけど、せっかく褒めてもらった絵描きを辞めるなんて…。

 

 

 

 

 

 

 いやいやいや、と、大慌ての声が私の早合点を止めに入る。

 

 

「だめ!ダメだよ!?そんなことしちゃダメだよ、もったいないよ!そうじゃなくて…あー、でもこれわたしから言っちゃダメかも…えーと…応急処置だけど、近くにいる時はわたしがなんとかできるから!」

 

「でも結局、自力じゃあ調合できないってことじゃ…」

 

「解決法はあるから!錬金術の腕前じゃなくて、もっと簡単な方法があるから探してみて?」

 

「そうなの?」

 

 

 声なんて聞こえないから、もうどうしようもないのかと。

 

 

「ただ、今は手助けするね。道具が作れないと探索もできないでしょ?」

 

「…いいの?パールにも旅でやりたいことがあるんじゃないの?」

 

「いいのいいの!別にわたし、目的があって旅してるんじゃないし、泊めてもらってるんだし。ほら、釜まで材料持って行こ?」

 

 

 まだ、自分の力じゃない…それでも。

 

 

 ついに私にも、まともに調合ができる時が来るんだ…!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、私いま動けないや」

 

「あっ…」

 

 

 全治3日でした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 久々に足腰をまともに動かせるようになった。

 

 お父さんにもこういった怪我に覚えがあるらしく、ベッドの上で食事を取る様子を見て懐かしむように目を細められた。良かった、腰を痛めたのは私だけじゃないんだね。良くないけど。

 

 

「それじゃあ…始めるよ。パール」

 

「うん。いいよティティ」

 

 

 今はパールの言うことを確かめるべく、《クラフト》の調合に挑戦するところだ。釜は既に十分に熱され、使うつもりの素材も整っている。準備は万端だ。

 

 それでも…何度も何度も繰り返した行程が今はとても難しいものに思える。

 

 

 

 まず《うに》を2つ、《ハチの巣(火薬)》を1かけら。

 

 

 《クラフト》は初歩的ながら調合の基本を教えてくれる重要なレシピだ。素材となるのは《うに袋》、《金属》、《中和剤》。

 

 うに袋と中和剤は素材でありながら、それ自体が一つの調合品。そして金属も、《クラフト》を初めて作るような錬金術士なら往々にして《インゴット》、すなわち調合品を用いることになる。

 

 加えて、魔法の力に頼らない爆発を起こす爆弾はそう多くないため、後々まで採取に《クラフト》を携行する者も少なくない。そうした場合、秘境の深くに踏み入るにつれて強力になっていく魔物に対抗すべく、このレシピでいかに強力な爆弾を作れるかを悩むことになる。

 

 つまり、素材から吟味する、という最も重要な点を成長に寄り添って教えてくれるレシピといえる。

 

 

 そして、ありがたいことに先人たちは、素材がもつ有益な特徴をまとめ、数々の本に記してくれている。

 

 それは『特性』と呼ばれる力。

 

 『破壊力増加』、『回復力増加』、『品質上昇』といった基本的なものから『高値』、『安値』という変わり種。また、ある種のリンゴのみが持つ『凍てつくおいしさ』のような素材固有のものも含むその力は、素材がもつただの特徴にすぎない概念だ。

 特性は、特性という不思議な力が素材に備わっているのではなく、単に私たち人間がその品々を見て評価したラベルに過ぎない。

 

 けれど錬金術には、その特性を素材から調合品に継承させ、実際の結果として反映させることができる力がある。

 

 例えば、トゲの鋭い《うに》は『破壊力増加』のような特性を持っていると見做すことができる。そして、これを使って作られた爆弾は勢いよく爆発するなどして高い威力を発揮するようになる。

 

 

 今回選んだ2つの《うに》もそれぞれ『破壊力増加』と『威力固定強化』を持っている。片やトゲが鋭く、片やずっしりと重い。

 透き通った蜜を覗かせる《ハチの巣》は『品質上昇』を持っているけど、たぶん私の力では継承させることができるのはこれらの内からたったの1つだけ。

 

 

 これら素材を全部放り込んで、混ぜる…あれ?

 

 なんだか、かき混ぜ棒が軽い…釜の中身がさらさらしてる。

 後押しされているように感じるほど軽くて、抵抗が全くない。

 

 これってパールの()()()のおかげ?

 一体パールって…あ、これ、もう出来上がる!えっと、『威力固定強化』を…。

 

 

「《うに袋》…はやっ、もう完成した!」

 

「うんうん、どんどん行こー!」

 

 

 よ、よし。次始めよう!

 

 

 《インゴット》。レシピに指定された材料は、手のひらほどの鉱石を2つと燃料をコップ2杯分。

 こないだおそば森で拾った《砕けた石材》のかけら2つ。そして《植物油》1杯と《アブラ木の実》1掴みを使う。

 

 こちらには少ないながら手に入った『威力固定強化+』を付ける。

 

 

 

 お昼ご飯を挟んで調合続行。

 

 最後に中和剤。中和剤はいくつか色の種類があり、それぞれ色ごとに要求される素材が違うし、出来上がった後に含まれる成分も異なる。

 

 これは最も初歩的で、高威力なクラフトの調合にも適している緑色を使おう。

 

 《中和剤・緑》…指定された素材は、植物類が2株と水が1杯。ちょうど『品質上昇』を持った《赤い花》と『品質上昇+』を持った《青い花》を手に入れているので、このレシピは都合が良い。

 

 付ける特性は『品質上昇+』…ではなく『出来が良い』になる。

 

 特性は同系統のものを掛け合わせることで上位のものに変化することがあり、『品質上昇』と『品質上昇+』を掛け合わせた『出来が良い』もその例の1つだ。

 

 

 

 

 

「次が最後、《クラフト》の調合…」

 

 すぅ…はぁ……

 …よし。

 

 

 釜に《うに袋》と《インゴット》を入れ、強火にかける。

 かき混ぜ棒は慎重に、かつ勢いよく攪拌して。

 

 2つの素材の輪郭が完全にほどけたら、《中和剤・緑》を振りまくように入れる。

 

 そして、次第に球体に纏まっていく()()をまとめるように、かき混ぜ棒を手首を使って動かす。

 

 

 円を描いて等間隔に並び、宙に浮くようにして水面付近を漂うのは特性を抽出した自然の力の塊。

 ここに、すでに形を持ちつつある《クラフト》を近づければ、それを継承させることができる。

 

 いつもなら、一つを継承させた時点で他2つは維持できずに消えてしまうのだけれど…。

 

 

「もう1つ、行けそうな気がする…パール、一体なにをしたの?」

 

「ひーみつ!」

 

 

 仕方ない、今は調合を終わらせよう。

 

 『威力固定強化』系の2種が合わさった『実数で痛くなる』と、『出来が良い』を継承させると、もやの輪郭がトゲを帯び、球体はより真球に近づいた。

 

 もやが完全に集まり、釜の輝きが収まる。釜の底から、その球体を掬い上げれば!

 

 

 

 

 

「…できた…できた!形も色も絵と一緒、柔らかくもないし溶けたりもしない…!」

 

 

 しかも、特性が2つも付いたはず!

 品質は…特性で底上げしたと言っても、元々が低いからそこそこ止まりか。

 でも、ちゃんと爆弾になってる!

 

 

「ありがと…ありがとう…!」

 

「わっ…ティティ?また泣いてるの?…え、えぇっと…よし、よしよし…」

 

 

 私、思ったより泣き虫だったんだなぁ…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 よくよく考えれば。

 仲良くなったとは言え、私は会って1週間ちょっとの人になんて姿を晒したのだろうか!

 

 

「うー…ごめん、ごめんパール…」

 

「いーのいーの!初めてでちょっと戸惑ったけど…ふふっ。可愛かったよ?」

 

「え、ちょっ…うぅー…!」

 

 

 申し訳ないやら恥ずかしいやら…!

 しかもそんな私を見てまた楽しんでいるし!

 

 

「あ。そうだ、さっきティティが聞いてきたことなんだけど」

 

「え?」

 

「ほら、私が何をしたのか、っていうの」

 

 

 ああ、そういえばそんな質問をした。

 秘密ってことではぐらかされちゃったけど。

 

 

「教えてくれるの?」

 

「ただとはいかないよ?課題を出そうかなって!」

 

 

 その課題の内容は次のようなもの。

 

 

 夜明けの大地。

 そこに住まう、世界を作ったと言われる精霊たちの女王。

 

 彼女を倒せるくらい強くなったら、秘密を教える。

 

 

 

 

「いや絶対ムリでしょ!?」

 

 

 聞くだけでもおっかないんだけど!

 

 っていうか…その精霊の話は知ってるし。エドの本屋にある本で見たよ?神さまって呼ばれることもあるんでしょ?

 

 

「そうかなー?今すぐにはムリだけど、そのうちできると思うよ!」

 

「なんでそんな自信満々なわけ…?」

 

「ふふー、とにかく。それが条件!ティティなら目指してくれるよね?ね?」

 

「うぇー…?」

 

 

 まあ、錬金術やる以上、ある程度は強さも必要なのは確かだし…目指すだけなら…。

 

 

「やるだけ、やってみよう…かな?なんて」

 

「やった!」

 

「うぅん…?」

 

 

 この、「まあ」っていうのでとりあえず納得しちゃうのは私の悪癖なんだろうか。

 

 

 

————。

 

「ティティ、パールちゃん。夕ご飯できたからお母さん呼んできてくれる?」

 

 あ、お父さん。

 

「あ、うんわかった。お母さ———」

待ちわびる。

「お母さーん!夕ご飯だってー!」

 

「あ、ちょっとパール!私のお母さんなんだからね!」

 

来るべき主人(あるじ)。果たされぬ儀式。

 

 でも家族みたいなものだし、お母さん呼びでも問題ないのかな?

 

空白の光景にさざ波が響く。

 

 まあ、いいや。気にしない!

 

まだ、時は遠く————。

 

 

 

 

 

 

 

 

《目的メモ》

 

 

『パールの秘密』

 

パールの秘密を聞く条件は

精霊の女王を倒すこと、だって。

今はまだ全く倒せる気もしないけど…

期限もないし、のんびりと

目指してみようかな?

 

 

□・「夜明けの大地」で「???」を1体倒す

↑頑張ってねー♪ パール

↑あんまり期待しないでね…? ティティ

 

 

 

 


 

 

 

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