ある無名のアトリエ 〜名もなき絵画の錬金術士〜   作:メルヴェイユ市民

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ワイルド・ハンティング


 

 

 入った時から分かってたけど、この森は恵みでいっぱいだ。

 

 まだ入って数十分だけど、近くじゃ採れない植物や鉱物が沢山!沼っていうからどうなのかと思ってたけど、湧き水も澄んでるし、なにより極め付けはこれ!

 

 

「わーい!キノコ!おそば森じゃ見たことないのばっかりだ!」

 

「お、おい。そんなぽんぽん触って大丈夫か?見分けついてるか?」

 

「ちゃんと図鑑持ってきたから大丈夫!予習もしてきたし!」

 

 

ボフン!

 

 

「うわぁっ!?」

 

「あ、パールがやった」

 

「《ケムリキノコ》!?弱いけど毒があるやつじゃないか、大丈夫かパール!」

 

「ケホッ、ケホッ…だ、だいじょ〜ぶ…うぇーっほ!うぇー、顔がひりひりするぅ」

 

 

 《ケムリキノコ》。衝撃を与えると、多少の麻痺毒を含んだ黒い煙になって飛散するのが特徴のキノコだ。モクモクした黒い煙みたいな見た目で、大体は今のヤツみたいに近くにいなければ影響はない程度。だけど、物によってはプニ程度なら吹き飛ばせるくらいの気流を発生させることもある。

 

 そういうのは見ればわかるくらい、見た目がモクモクってしてるから近づかなければいいんだけどね。

 

 

「目、開けられる?ほら、水。目拭いて、そしたらこっちに水場があるから顔洗おうね」

 

「うん…」

 

 

 別に失明したりはしないけど、あの煙は胞子だから放っておくとキノコが生えてくる可能性がある。流石に寄生されたら一大事なので、煙を浴びたらちゃんとその部分を洗わないと———。

 

 

 

 

 

キュッ!キューッ!

 

キキーッ、キー、キキーッ!

 

キャッ!キャッ!キャッ!

 

 

「なっ…!?」

 

「えっなになに?何が起きてるの!?私まだ見えないよ!?」

 

「魔物…!気を付けろ2人とも!狙われてるぞ!」

 

 

敵!?こんな、いきなり————!

 

—————っ、今度こそ冷静に!

 

 

 

 私とパールを囲むように周回、エドは輪の外でもう構えてる。パールは視界が効かない、動けるのは私とエド。

 

 数は、5。白が4、黒が1。毛むくじゃらに犬の耳、二本の足で立ち、棍棒や刃付きの杖で武装した姿。間違いなく《ケモノ》系の魔物だ。リーダー格は色違いで模様付き、一人だけ刃物を持った…!

 

 

「エド!あの黒いのがリーダー!避けて突破してこっち来て!」

 

「オオッ——!」

 

 

 荷物を上着ごと落としたエドが武器を腰だめに構え、そのまま突っ込んでくる———そうだ、私も。荷物はコートごと下ろして身軽にしないと!

 

 エドの武器は槍だ。先端を付け替えてスコップや簡易ツルハシにできるようになってるから軸が安定しなくて威力に難があるけど、それでも突破力には長けている。

 

 

「ギィッ…!?」「ギギャーッ!」

 

 

 突撃は誰にも当たらなかったけど、無事に合流。狼狽えたケモノをリーダーが一喝し、陣は崩れない。

 

 

「これはキンキュー事態…えいっ!」

 

「パール…?」

 

 

 いつかの時に見た金色の光がパールの顔を覆う。光は数秒で消え、パールがぱっちりと目を開ける。

 

 

「ごめんティティ、もう大丈夫!」

 

「了解、後ろは任せた!」

 

「前は俺が守る。攻撃は任せたぜ、ティティ」

 

 

 承知!

 

 取り出したるは文明の印、炎の爆弾(フラム)

 

 

「ギィッ!」

 

「おらぁ!どうしたどうした、そんなんじゃ俺は抜けないぜ!」

 

 

 棍棒を振りかぶって跳躍し、体重を乗せて振り下ろしてくるケモノ。

 

 対するエドは槍を長く持ち、中ほどの部位(太刀打ち)を空中の棍棒の柄の部分に横から振り当てて攻撃を逸らす。しかしケモノは攻撃が失敗したと見るや、即座に飛び退って円陣に戻る。

 

 

 

 …うわっ、後ろのやつエドが気を取られてるからって石投げてきた!

 

 

「ほれっ!」

 

「あ、ティティもできるんだね。そういうの」

 

「へ、何が?」

 

 

 え、何のことだろ。

 ただ杖から水を出して石を受け止めただけだよね?

 

 まあいいや。

 

 

 

 子分たちは二匹一組で動き、片方が飛びかかって来てももう片方が陣を維持して抜けができないようになっている。ツーマンセルを単位にして包囲陣形とかこいつら賢い!まずはこの陣形を崩さなきゃ。

 

 敵は狙わない。だって、武器を持ってるから弾かれるかもしれない。

 

 だから———周回軌道上の地面を狙って、投げる!

 

 

「キッキ、ギィー!?」「ギャギィ…ッ!」

 

 

 地面で破裂したフラムは液体を撒き散らし、人ひとりがすっぽりと入る程度の円状の範囲を火の海にした。

 

 魔法の火だから威力は爆弾の出来に依存する。多分あの炎は見た目は派手だけど火力はそんなに無い。

 

 けれどそれが火だと見れば、陣を崩してでも避けてしまうのが本能。

 

 

 目論見通り円陣は崩れ、包囲に穴が空く。これで包囲を抜けられる!

 

 

「ギィー!ギィ、ギャギギッ!」

 

「キッキッ!」「キュイッ!」

 

 

 と思ったのも束の間。即座にリーダーの号令に従い、陣が再形成される。今度は周回せずにただ包囲するのみだけど、ツーマンセルは変わらない。

 

 

「手強い…!」

 

「それなら…私に任せて!風精シルフェス、お願い守ってっ!」

 

 

————[フォロースキル:シルフェスヴェール]

 

 

 後ろから聞こえたパールの声に振り向けば、宙に浮いたパールのかざした手の先で、なんと緑色の光でできた半透明の壁が広がっていた。

 

 視界いっぱいに広がった壁は、突撃したケモノたちが触れるたびに局所的な強風を起こして侵入者を転がしていく。

 

 

 …っていうか!

 

 

「浮いてる!?」

 

「魔法!詳しくは秘密!」

 

 

 知ってた!

 

 

「その壁どれくらい持つの!」

 

「これくらいの相手なら破れない!」

 

 

 よし来た!

 

 

「エド、後ろは壁が出来た!パールとペアを組んで前に!」

 

「よろしくエド!」

 

「壁!?うぉっ、パールかすげぇ!でも横が空くぞ!」

 

「それでいい!片方ずつリーダーに突っ込んで!」

 

 

 言いながら、エドはしっかりパールと合流し、先のケモノたちの戦術を真似する。

 

 これで私の正面は守られ、リーダーはエドとパールの相手で手一杯になる。号令は、先に突っ込んだパールがリーダーに到達するまでのあと一回きり。

 

 

 

 パールが作り出した壁は完全に平面。2人が共に前に出たことで、私の両側面が無防備になる。

 

 あまりに突然の壁生成で流石に面食らっていたリーダーだったけど、こちらが隊形を変えるのと同時に気を取り直し、この戦いで三度目の号令を発して子分に左右から挟み撃ちを仕掛けさせる。

 

 

「ティティ!?」

 

 パールが叫ぶ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

()()()()っ!

————[アクティブスキル:ブルースケッチ]

 

 

 

 

 

 目もくれず左右にフラムを放る。

 

 

 私たちを周回していたさっきの時とは違い、今回のケモノはこちらに向かって突撃してきている。

 

 さっきの戦術からも分かるように、こいつらは見た目よりずっと賢い。だから、さっき見せたこの爆弾なら、たとえ火の海が広がっても、一瞬で通り抜ければ大した怪我にはならないと踏んで通り抜けてくるだろう。

 

 

 

 ほら…避けようともしない…!

 その半端な賢さ!

 

 

 

「命取り!」

 

 

「「キュッ———?」」

 

 

 

 

 《フラム》は地面ではなくケモノに当たり()()()()()()()

 

 左右2匹ずつ、計4匹で飛びかかったケモノは、残らず()()()の炎に焼かれ、()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

 何が起きたか説明すると。

 

 

 

 最初に投げた《フラム》はパールと会う前に完全に自力で作ったものだ。これは火力を犠牲に「付着し」「燃え続ける」ことを重視して作り、さらに『火傷付与』の特性を付けた搦手仕様。

 

 なぜそうしたのかといえば、自力ではそもそも火力を上げることが出来なかったからなんだけど、結果としてこれは布石として役に立った。

 

 

 

 

 そして今投げた《フラム》はパールの協力の下、火力だけを求めて作ってあった。

 

 手持ちの効果表によれば、このレシピで作れる最高強度の効果『炎ダメージ・強』に及ぶ代物。極め付けに、特性は複数体を巻き込むことで連鎖的に威力が増大する『範囲ダメージ+』と、直撃した時の効果を大きく上昇させる『クリティカル』。

 

 

 

 この渾身の《フラム》が、会心のタイミングで当たれば…結果は一目瞭然だ。

 

 

 

 これで敵はあと一匹————リーダーのアイツだけ!

 

 

 

 

「やっちゃえ、エドッ!」

 

「やってやるともォッ!」

 

————[通常攻撃:ピアス]

 

 

 

 

 呆然とするリーダーに、パールと入れ替わるように前に出たエドが襲いかかり、一突き。リーダーも咄嗟に身をかわしたものの、武器を持つ方とは反対の手を穂の刃が深々と切り裂く。

 

 気を戻すや否や、即座に逃げの姿勢に入るリーダーをそうはさせじと追いすがるエドを見て、パールが援護に入る。

 

 

———[フォロースキル:ヒューレトリック]

 

 

「氷精ヒューレ、凍らせてっ!」

 

「ギャッ?」

 

 

 瞬時に凍結した地面に足を滑らせ、身を転がす黒いケモノ。手を付き、少しでも早く体を起こそうとするものの、無慈悲な刺突が迫り、そして。

 

 

「遅い!」

 

———[アクティブスキル:ハンティングスラスト]

 

 

 槍が、黒い体の中心を貫いた。

 

 

「ギッ!ガ…ァ…」

 

「…どうだ…?」

 

 

 死んだ…?倒したの?

 

 

「どう、エド?」

 

 

 エドが地面まで貫通して突き刺さった槍を引き抜く。

 

 もう、黒いケモノは動いていないように見える。

 

 

「…よし。終わったぞ、ティトラ」

 

「はぁぁぁぁ〜…怖かったぁ…」

 

「おいおい、油断するなよ?ここは森の中なんだ、別の魔物が来たっておかしくない」

 

 

 それでも、直近の戦闘が()()なんだもん。半分トラウマだよ、あの角ウサギは。

 

 ああそうだ。襲い掛かられたとはいえ、殺したんだからちゃんと解体して素材にしないとね。

 

 

「えーと、ナイフナイフ。でも、ちゃんと動けてよかったよ。…動けてたよね?」

 

「ああ、指示も判断も、良かったと思うぜ。ただ、それにしても…」

 

「…うん?わたし?」

 

 

 あー、パールね。

 

 まあ、あのびっくり魔法に関しては私からは聞けないので。

 

 

 

「あの壁とか、地面凍らせたのとか。あれ、どうやったんだ?それに戦ってる時、なんか浮いてたし」

 

「ああ!あれは魔法だよ、魔法」

 

「魔法!?やっぱりパールも魔法使いだったのか!」

 

「うん、レンキンジュツも魔法も似たようなものだし、使えると便利だからね♪」

 

「まあ、確かにな」

 

「いやいやいやいや!」

 

 

 私は魔法とか使えませんからね!

 

 

「え、使えないの?魔法」

 

「そんな、さも使えて当然みたいに言われても…」

 

「おっかしいなー、わたしの知ってるレンキンジュツシはみんな魔法も使えたんだけど」

 

「どんな超人集団よ!」

 

「でも、ティティの杖とか、たまに魔法使ってる感じするよ?」

 

「どんなのよ?」

 

「ほら、さっき囲まれてた時に石投げられたじゃん」

 

「うん」

 

「その時水を出して受け止めてたでしょ?」

 

「うん」

 

「それが魔法だよね?」

 

「違うよ?」

 

 

 そりゃ杖使ってたら水くらい操れるでしょ。

 

 

「いや、ティトラ。俺もそれは魔法だと思ってたぞ」

 

「えっ?いや、見たら分かるでしょ。杖使ってるだけだって」

 

「ああ、杖がそういう道具なのか?」

 

「いや、これは普通の杖だけど」

 

「ええ…?ちょっと貸してくれ」

 

 

 エドが私の杖を持って振ったり何事か念じたりしている。

 いやいや、そうじゃないってば。

 

 

「貸しなさいって…ほら、こうやるの」

 

 

 杖の先から手のひらほどの水の球を生み出して放り投げる。

 人によって何を操れるのかは違うみたいだけど、杖があれば誰でもできるよね。

 

 

「ううん…ティトラの…というか錬金術士のこういうところが分からないぜ…」

 

「ねー…魔法だと思うんだけどなー」

 

 

 だから魔法じゃないってばー!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「———ォ——-ァァ…ッ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 呼吸が止まる。

 

 戦闘の緊張から解放され、わずかに気を緩めていた私の背に冷たく電流が走る。

 

 遠くから響く竜の遠吠え。否応なしに喚び起こされる本能的恐怖。

 

 身を竦めて固めずにいられない…動いてはいけない!少しでも、少しでも静かに…!

 

 恐怖が私に…いや、私達に忠告する。

 

 あの兎ですら、コレの足元にも及ばないだろう。

 

 この声の主に、気づかれてはいけない————。

 

 

 

 

 

「…むー。いけない竜だなあ、ティティとエドをこんなに怖がらせるなんて」

 

 

 ……。

 

 なんか一人だけ反応が違う…。

 

 全く気にしてないのがいるんだけど。え、なに。本気だと少なくともドラゴンの遠吠えに怯えなくていい程度には強いの?それはちょっと予想以上なんだけど。

 

 

「ほら、ほら。2人ともしゃっきりして?」

 

「っあ…」「う…はぁっ…はぁっ…!」

 

 

 パールに背中をポンと叩かれ、緊張していた体が溶けるように自由を取り戻す。

 

 ああ、いつの間に息を止めていたんだったか。

 

 目が眩む程酸素が足りなくなっていた。

 

 …私のこの反応がまともなんだよね?あれ、私が小心者なだけ…?

 

 

「い、いまの…ドラゴンだよね…?」

 

「うん。何があったのか知らないけど、あれは威嚇の咆哮かな?」

 

「っはぁ…威嚇?何かと戦ってるってのか?」

 

 

 うーん、と首を傾げ。

 

 

「多分…?」

 

「聞いといてなんだが、どうして分かるんだ…?」

 

「パールだからね、不思議が当然だね」

 

 

 思考放棄。

 

 

「あっ、ティトラお前、ずるいぞ!悩んでるの俺だけになっちゃうだろ!」

 

「あっははっ♪おもしろーい♪わたしももっと面白いもの見せてあげようかなー?」

 

「やめろぉ!ああ、でも何が出来るのか気になる…ぬぐぐぐぐ!」

 

 

 あーあー好奇心を弄ばれてる。ま、楽しそうだからいっか。

 

 私はー、まあ考えないって決めちゃったし。パールはパール。答えは課題を超えてから、ね。

 

 

「さて、もう大丈夫そうだね。ティティ、早くケモノを解体して先に進もうよ!」

 

「うん、ありがとね」

 

 

 だいぶ恐怖も薄れたけれど、あの遠吠えをもっと近くで聞いたらどうなるか分からない。

 

 でも、せめてこの森を一通り見てから帰りたいし、何よりまだ入り口から1時間で来れるような場所だ。帰るには早すぎる。

 

 それに、今ので原住生物は警戒して出てこなくなるかもしれないし、そしたら探索も楽になる。つまり、チャンスでもあるはず!

 

 

 

 

 

 探索続行を決断した私たちは、森のさらに奥深く、『南アディス林道』へ足を進めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 




 スキルは原作に準えた一つの表現であり、この世界にゲーム的な法則が存在しているわけではありません。

 そのため、条件を満たしてもフォロースキルを発動しないこともありますし、逆もあります。というか、そもそも前衛後衛が定まっていないことが多いです。

 でもこういう設定を妄想するの好きだから書きます。


《使用スキル解説》


○アクティブスキル

・『ブルースケッチ』

効果:
装備しているカテゴリ<爆弾>のアイテムを1つ選ぶ
1ターンの間、敵が自分を攻撃する時、その攻撃の前に選んだアイテムで迎撃する
この効果で使用した爆弾は確率で発動する追加効果が必ず発動する
アイテムの残り使用回数が無い場合は迎撃できず、受けるダメージが増加する


・『ハンティングスラスト』

効果:
敵単体に中ダメージを与える
ブレイク中の敵に使うと必ず命中し、クリティカルし、
低確率で即死させる(強敵には発動しない)


○フォロースキル

・『シルフェスヴェール』

発動条件:
カテゴリ<爆弾>のアイテムを使い切る

効果:
味方全員に3ターンの防御力上昇と1回ダメージ無効を付与


・『ヒューレトリック』

発動条件:
敵単体に物理ダメージを与え、かつその敵を倒さない

効果:
敵単体のブレイク値を大きく上昇させ、睡眠を付与する
氷属性への耐性を持つ相手には効果が減少する
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