コトブキ受難シリーズ
レオナの受難
イジツの乾いた空を一機の隼が飛んでいる。翼には橙の円に紅のプロペラのマーク、尾翼にはユーハング語の『寿』をモチーフにしたマークが施されている。イジツでは名の知れたコトブキ飛行隊、その隊長レオナの愛機だ。普段隊員を伴って空を飛ぶ彼女が一人で飛んでいるのには訳があった。彼女が生まれ育った孤児院の院長からの頼みで休暇を利用してラハマより遠く離れたガドールの街の友人に贈り物を届けに行っていたのだった。そして今がその帰りという訳だ。
普段ならば彼女たちが雇われているオウニ商会の所有する飛行船『羽衣丸』に乗船して仕事にあたるので道中地上に寄ることはないのだが今回は彼女の一人旅だ。いくら航続距離が長いとはいえ彼女の乗る隼では何度か道中に点在する空の駅で燃料補給をする必要がある。実際彼女はすでに何度か給油を繰り返していた。すでに前回の給油からかなりの距離を飛行して残りの燃料はわずかになっていたが、現在彼女が飛んでいる位置であれば次の空の駅まで飛ぶのには十分足りる量だった。
イジツの荒野はランドマークとなるものがあまり多くはないので航路は基本的に空の駅や街、そして今はもう人の住まない街の跡を経由することが多かった。現在レオナが通過しようとしているキマノの街もそういったかつて栄えて資源の枯渇で滅んだ街の一つだった。そしてこのような街の跡は元々いた住民に変わって空賊やならず者達がよく住み着くようになるものだ。
(これだけ残っていれば数分は見回れるな)
レオナが燃料計をチェックしてから高度を下げ始める。この航路は羽衣丸やほかの航空機も通るルートだった。もし空賊が住み着いていれば襲われる可能性がある。イケスカ動乱以後自由博愛連合から脱退して空賊に身を落とした者や横流しされた戦闘機等で空賊たちが力を強めている。もしもそんな連中が住み着けば航路の安全が脅かされてしまう。だからこうして空賊がいないかどうか見回って次の空の駅に状況を伝えればみんなのためになる。そう思ってレオナが自主的にやっていることだった。
レオナがキマノの街の上空で緩やかに旋回し始める。かつては鉱物資源の採掘で栄えた街はゴーストタウンと化し、建物も崩壊が始まっていた。見る限りでは最近人が活動したような形跡はなかった。以前レオナがムラクモ空賊団の目撃情報を受けてここを訪れ、そして事件に巻き込まれたあの時以来誰も来ていないように見えた。
彼女がそろそろ行くかと思い高度を上げながら方位を次の空の駅に向けようとした時、視界の端に光が見えた。その後すぐに機体を激しい振動が襲う。機体を確認するとすぐに原因がわかった。右翼の燃料タンクから炎が上がっている。先程見えた光は隠されていた対空機銃からの発砲炎だった。消火しようと急降下を始めるとなんとか炎は消えた。だが炎上した影響で元々少なかったタンクの燃料はかなり減っていた。今の残量では一番近くの空の駅までたどり着くのも難しかった。
「ほかに方法はないか…」
レオナはそう呟いて高度を下げ始める。撃たれたということは敵意を持った何者かがこの街に潜伏しているということだが、このまま飛び続けても途中で落ちてしまうのは明白だった。荒れてはいるがキマノの飛行場へ着陸するしかない。不時着前に近くの空の駅へキマノに不時着するということをラハマの街に伝えるよう連絡しておく。連絡を受けてやってくるのはおそらくザラだろう。また彼女に迷惑をかけることになるなと思いつつレオナが着陸の準備をしていく。
飛行場の上空を旋回して回ったが滑走路はなんとか着陸できそうな状態だ。主脚とフラップを展開して滑走路へ正対する。速度を下げていき機首を上げた状態で緩やかに高度を落としていく。タイヤが地面に接地した音の後に機体がガタガタと振動を始める。フットペダルを踏んでブレーキをかけて減速してから滑走路の端に機体を走らせる。滑走路端で機体を旋回させ機首を滑走路に向けて停止させてエンジンを止めた。燃料計を見ると針は0の近くを指していた。
シートベルトを外してレオナが機体から降りる。機体の右側に回ってみると翼に穴が空いてた。幸い先ほどの炎上以降燃料は漏れてはいないようだ。さらに機体の周囲を回って確認したが重要部分への被弾は右翼のタンクのみのようだった。被弾はしたが愛機を無事降ろせたことにレオナが安堵のため息をつく。
だが状況で言えば良くはなかった。敵意のある人間がいる街で機体は燃料切れ、一人では逃げることができない状況だった。腕を組みながらこれからどうすべきか考えていると視線の先に格納庫が見えた。うまくいけば以前ここに隠れていたモモノキ団の残していった燃料があるかもしれない。そう考えてレオナは格納庫へ歩き始めた。その姿を遠くから眺めている存在には気づいていなかった。
隼を止めた場所から少し離れた場所にある格納庫の前へレオナがたどり着いた。正面大扉は閉じている。そのすぐ脇に人が出入りするためのドアがあった。ドアノブを捻って開けようと試みるが押しても引いても開かなかった。多少強引だが蹴破れるどうか試して見ることにした。
「ふん!」
力強くドアを蹴り飛ばす。一回二回と蹴ってみるが開く気配はない。さらに何度か力を込めて思い切り蹴り飛ばす。七回ほど蹴りつけたところでドアが大きな音を立てて開いた。
「ふう…」
レオナが大きく息を吐く。開いたドアから中を覗いてみると戦闘機の残骸が何機か見えた。薄暗く彼女が開けたドアからしか明かりの入らない格納庫へ足を踏み入れた。格納庫内は古びた戦闘機や部品、残骸が転がっていて荒れ果てていた。まだ使えそうなガソリンが入ったドラム缶が無いかどうか格納庫内を歩きまわると何本かドラム缶が格納庫の端に集められていた。叩いて音を聞いてみると一本は中身が入ってる音がしていた。薄暗い中栓を外してみるとガソリンの匂いが鼻をくすぐった。
「これで燃料はなんとかなりそうだな…あとは……」
そう言ってドラム缶が置いてあった近くの棚を見てみると目当てのものがあった。手動の給油用ポンプだ。幸いなことにドラム缶を移動させるためのカートも近くに置いてあった。これだけあれば愛機をすぐに空に上げることができそうだとレオナは思った。
ドラム缶をカートに乗せて押しながら先ほど入ってきたドアの方へ向かう。早く給油を済ませて離陸してラハマに帰ろう。今のレオナの頭の中にはそのことしか無かった。だが給油に意識を向けすぎていたことが仇となった。ここには敵意を持った相手が潜伏しているのだ。
格納庫から出たところで死角から男が飛び出てレオナに襲いかかった。油断していたレオナは対応が遅れた。完全に背後に回られ首を腕で絞められた。咄嗟に肘で相手の鳩尾に一撃を加えた。相手が一瞬怯んで首を絞める腕の力が弱まる。その瞬間を逃さず相手の腕を自分から引き剥がしそのまま背負い投げで投げ飛ばす。地面に叩きつけられた相手がうめき声をあげる。咳き込みながら息を整えようとするレオナの目の前で投げ飛ばした男が立ち上がろうとしていた。なんとか息を整え立ち上がった男がどう攻撃してくるか備えているとレオナの首筋に何かが刺さった感触が走った。
「ッ!」
痛みを感じた場所に手を当ててみると針のような物が刺さっていた。彼女にはこれが何かは何と無く想像ができた。おそらくなんらかの毒だろう。急いで針を掴んで投げ捨てたが
視界がすぐに揺れ始めた。その視界の中で先ほどの男がニヤニヤと笑みを浮かべている。まんまと罠にハマってしまった。なんとか逃げなくてはと焦るレオナを嘲笑うかのように男が近づいてくる。だんだんと視界が暗くなり始めていた。せめて目の前のこの男だけでも倒せればとそう思い殴りかかったが、今の状態では当たるわけもなく躱されて地面に倒れ込んでしまった。薬が回ってきてしまったせいか立ち上がることも出来なくなっていた。そうしているうちにレオナの近くに数人の男が集まってきた。一人の男は吹き矢の様な物を持っている。自分の甘さをレオナは恨んだ。
先ほどレオナに襲いかかってきた男が他の男に命令した。
「おい、縄と布を持ってこい。連れてくぞ」
「分かりました。ボス」
男に命令された部下の一人が縄を持ってきて地面に倒れているレオナに近づいてくる。逃げよう体を動かそうとしたが力がほとんど入らず意識を失いそうだった。男がレオナの手を後ろに回し縄をかけていく。
「は…な……せ…」
朦朧とする意識の中レオナが言った。するとそれを聞いてボスと呼ばれた男が感心したように言った。
「ほう、まだ意識があるのか。大体のやつは今頃はもう気を失うんだがな。口も塞いでおけ」
「ま…て……むぐっ」
ボスが命じるとレオナを縛り上げた男が口に布を押し込んでその上からさらに布を噛ませた。失われそうな意識の中縛られ猿轡を噛まされた状態でレオナにできる抵抗はただ相手を睨みつけることだけだった。それを見てボスが笑みを浮かべながら言った。
「なかなかいい面構えだ…連れて行け」
それがその時レオナが聞いた最後の言葉になった。意識が暗闇に飲まれ彼女が気を失う。
気を失った彼女を部下の男が担ぎ上げて格納庫の陰に止めてあるトラックの荷台に乗せた。残りの男達がトラックに乗り込むとボスの号令でトラックはキマノの廃墟へと動き出した。
「…んぐッ!」
男が雑に床に投げ下ろしたことでレオナは目を覚ました。今までで一番悪い目覚めだった。
「むぅぅ…」
言葉を発すことができたなら乱暴に床に下ろしたこの男に恨み言の一つでも言ったことだろう。だが猿轡をされた今の状態では呻き声をあげることがせいぜいだった。呼吸をしようにも口の中の布が邪魔で息苦しい。今のレオナには男たちを睨みつけるのが精一杯の抵抗だった。一人の男が再び縄を持ってきて床に転がされたレオナの膝の上と足首にさらに縄が巻かれる。
「しかしあのコトブキの隊長さんを捕まえることができるとはなぁ…俺たちにも運が回ってきたな」
「その通りですな親分!」
レオナと格闘したリーダー格の男が下衆な笑みを浮かべながら満足そうに言った。駐機してた隼のマークを見たのかレオナの身分はすでに割れているようだった。
「で、こいつはどうします親分」
「こいつの雇い主はあのオウニ商会だ。うまくいけばたんまり身代金をいただけるだろうよ」
「もし断ってきやがったら?」
「そんときゃ他の女どもと同じようにイヅルマの闇競売にでも流す」
「ッ…!」
レオナの背筋に寒気が走った。とんでもない集団に捕まってしまったとレオナは思った。力が入り噛まされた猿轡を思い切り噛み込みながら男たちを睨みつける。それを見たリーダー格の男がうすら笑みを浮かべながらレオナ見下ろしている。
「ま、隊長さんよ。せいぜいマダムが素直に交渉に応じてくれることを祈るんだな。そうでなきゃお前は富豪の慰み者にされちまうからな。ハッハッハ!!!」
大声で笑いながら男たちがレオナを閉じ込めた部屋を去って行った。厳重に縛り上げてるからか見張りすらつけていない。
(慰み者なんて冗談じゃない。ここから逃げ出さなくては…)
不時着前に出した救助要請が届いていなかったとしても身代金交渉をするのならオウニ商会には伝わるはずだ。マダムルゥルゥならば空賊との交渉には応じないだろう。救助のために頼れる仲間といつも隣にいてくれる親友が絶対に来てくれる。そうレオナは確信していた。そのためにも彼らの監視下から逃げなければいけない。
(なんとかこの縄を解いて彼らのアジトから抜け出すしかない…)
「むぅ…んっ…んんっ!」
身を捩って自分を縛る縄が解けないかやってみる。だが普段のトレーニングで鍛え上げられた彼女の身体をもってしても縄は解けない。ただ手首を縛られているだけでなく、手首を縛る縄を伸ばし胸の上下を通して背中でまとめることで手首が背中のところで固定されている。おまけに胸の下側を通る縄が腋の下で腕と身体の間を割るように別の縄で絞られている。このせいで二の腕の自由も効かない。
「むぅ!…んんっ…!んむぅ…ふぅ…ふぅ…」
何度もレオナは力を込めたが食い込むだけで縄が緩む気配はなかった。縄と格闘して息が上がるが口に押し込まれてる布のせいで息苦しくなっていた。
一度解く努力を止め改めて周囲を見回す。どうやら古い倉庫の一室のようだ。至る所に木箱が積み重なっている。ここに運ばれてくるまで気を失っていたので街のどの辺りにある建物かは分からない。
「んぅ…むう…」
(なにか縄を切れるものはないか)
これだけ色々なものが置いてあるなら何か使えそうなものがあってもいいはずだ。
(ガラス片でもあれば…)
レオナは自分の周りの床を見てみたが埃や細かいコンクリートのカスがあるだけで今見える範囲には何も無いようだ。
(何か…何かないか…)
レオナが転がる周囲に何も使えそうなものがない以上探すためには見えない場所を探すしかない。だが膝上と足首を縛られてる以上移動するためには床を這っていく他なかった。
「んぅ…んっ……むう…」
数クーリル進むのにもいつもの倍以上時間がかかってしまう。猿轡に息を遮られながら芋虫のように這ってやっとのことで先ほど見えなかった箱の陰が見える位置までたどり着いた。綺麗に箱が並んでいるが一つの箱だけシルエットが歪だった。よく見れば上側の板が剥がされて開いている。普通の状態であれば立ち上がって開いている部分から中身を見ることなど簡単だっただろうが手足の自由を奪われた状態では簡単ではなかった。
「むぅ…ふぅ…んっ」
なんとか背を箱に押し付けて立ち上がったが両脚を揃えて縛られていたのでウサギのように跳ねて向きを変えるしかなかった。
箱に正対して開いた面から中身を見てみるとありがたいことに酒瓶が入っていた。険しかったレオナの顔がやったというように少しだけ明るくなる。
(この瓶を使えれば…)
だが当然ながら瓶を掴むのですら一苦労だった。両腕は後手に縛られて手首を動かすのがやっとの状態だった。首を横に向け後ろを見ながら仰け反る様にして酒瓶を掴もうとするがなかなか上手く掴めない。何度かやったところで酒瓶の首の部分を掴むことに成功した。
(よし、あとはこれを割れば…)
動かしづらい手首を使って掴んだ瓶をできる限り力一杯床に向かって落とす様に投げつける。パリンという音が響いて酒瓶が砕け、酒の匂いが辺りに漂う。割れたのを確認したレオナが再び床に転がり一番大きなガラス片を掴んだ。
「ふぅ…ふぅ…んぅ…」
(頼む…切れてくれ)
ガラス片を使い手首の縄を切り始める。何時空賊が戻ってくるかわからない焦りを抱えながらレオナは懸命に手首の縄を切ろうと努力した。その甲斐もあって手首を結ぶ縄が一本、また一本と切れていった。そしてブチっという音と共についに手首を結ぶ縄が全て切れた。手首の縄が切れたことで前腕の自由がかなり確保できた。
自由になった前腕で胸の上下を通る縄をガラス片で切り始める。目の前で出来る分手首よりも早く切ることができた。ハラリと縄が床に落ちレオナの上半身の拘束が完全に解ける。
「んぅ…ぷはっ!」
レオナが口に噛まされていた猿轡を外した。口に押し込まれていた唾液にまみれた布を床に捨て、一息深呼吸してから脚を縛る縄を解いた。四肢の自由を取り戻したレオナが立ち上がる。縛られていた手首を軽くさすりながら脱出の方法を模索し始める。
武器になりそうな物は先ほどの箱に入った酒瓶くらいのものだった。よく見ればかなり年代物の酒だった。ザラならこの酒を武器に使うなんてもったいないと言いそうだなとふとレオナは思った。部屋の中を見回す。転がされてた先ほどとは違い今は自由に部屋を見回すことができた。部屋の出入り口は先ほど男たちが出て行ったドアだけだった。搬入用のシャッターは歪んでいて開きそうになかったし窓もあるがどれも換気用の小さいもので体格のいいレオナには通れそうにないものだ。
ドアに近づいてドアノブを捻ると鍵はかかっていなかった。少しだけ扉を押して隙間から外を覗き込む。間の悪いことに男が二人廊下をこちらにやって来ているところが見えた。
(まずい…他の奴らに気づかれない様に倒さなくては)
レオナは急いで箱の中から酒瓶を一本取りドア近くに積み重なった箱の上に登ってそこから梁の上に上がった。するとその直後に二人が扉を開けて入ってきた。その瞬間に彼女が梁から飛び降りて上にのしかかる形で片方の男を床に叩きつけた。すぐさま奇襲に驚いているもう一人の男を持っていた酒瓶で強く殴りつける。瓶が砕け散り先ほどの様に床に酒が飛び散ると同時に男が床に倒れた。
息を整えながら床にのびる男たちの懐を探る。拳銃を見つけたので拝借して腰のベルトに挟み弾倉は腋のポーチにしまった。
再びドアを開けて覗き込んだが今度は誰もいない様だった。レオナが姿勢を低くしながら音を立てない様に廊下を歩く。ここに連れ去られてきた時彼女は気を失ってたいたので見張りの配置も分からぬまま手探りの状態で移動していた。
少し廊下を進んだ先で再び部屋のようなものを見つけた。よく耳を澄ましてみると二人の男の声が聞こえる。
「…で、あの女たちはいつイヅルマへ運ぶんだ?」
「明後日だ。にしてもなんで三階の部屋に閉じ込めてんだろうな?縛り上げてるとはいえ毎度毎度暴れる女を下まで降ろすのは骨が折れるってのによ」
「簡単に逃げられないようにするためだろ?」
レオナの表情が険しくなる。女性に体を食い物にしている連中に対してレオナは憤りを感じた。
(三階の部屋と言ってたな)
囚われていたのが自分一人でないことが分かったことでレオナは脱出を後回しにした。脱出するなら彼女たちも共に連れていかなければと。
レオナが盗み聞きした部屋の前を立ち去り上階へ向かう手段を移動しながら考え始めると廊下の角に差し掛かった。左側を覗くとすぐ近くに中途半端な位置に止まった昇降機と階段が見える。どちらにも見張りはいないようだった。音を立てないように急ぎながら彼女は階段付近に一気に駆け寄った。今までほとんど巡回がいなかった事を考えるとアジト内ということで内部の警戒はほとんどされていないように思えた。
最初は階段を登ろうとしたレオナだったが、鉢合わせになる可能性があったので昇降機の縦穴を登ることにした。昇降機の籠はレオナのいる1階よりも下の位置で止まっていた。籠の上に人が通れる隙間が空いている。彼女はその隙間に身体を入れて籠の上に登った。レオナの体重を受け籠がギシギシと揺れる。急いでレオナは縦穴の中の構造材に手をかけ上へと登りだした。2階の開口部に差し掛かるところで建物内にサイレンが鳴り響いた。次いで放送が鳴り響く。
『建物内の全員に告ぐ!コトブキの隊長が逃げ出した!探し出せ!!』
この人攫い空賊のボスの声だった。逃げ出したのはバレたが好都合かもしれないとレオナは思った。開口部から2階を覗き込んでみると内部にいた空賊たち数名が階段を駆け下りて行ったのが見えた。おそらく3階の人員も多少少なくなるだろうとレオナは考えた。彼女が再び縦穴を登り始め3階を目指す。
3階にたどり着いて覗き込んで人の気配が無いのを確認してからレオナは3階の廊下に出た。
(一体どの部屋にいるのだろう)
警戒ながらレオナが廊下の部屋を当たっていく。すると部屋の一つから呻き声のようなものが聞こえた。よく耳を澄まして聞くと縄の鳴るような音も聞こえる。レオナが扉を開けると三人の少女が先ほどの自分と同じように縛り上げられて床に転がされていた。彼女たちが怯えるような目でレオナを見つめている。
「三人共落ち着いてくれ、私はあいつらの一味じゃない。今縄を解く」
そう言ってレオナは一人の縄を解きにかかる。腕が自由になった少女が猿轡を取り別なもう一人の縄を解く。それと同時にレオナが最後の少女の縄を解いた。全員が拘束を解かれたところで少女の一人が口を開いた。
「助けてくれてありがとうございます。あの…あなたは?」
「私はコトブキ飛行隊の隊長レオナだ。君たちは?」
「コトブキ飛行隊の……私はレンと言います、こっちの二人がフェイとララです」
小柄な少女、レンがそう言うと残る二人がレオナへ会釈した。みんな歳で言えばチカやユーカ達とさほど変わらないように見える。
「三人はどうして奴らに?」
レオナが聞くとその赤い髪を整えながらフェイが答えた。
「私たちはガドールを拠点に三人で運び屋をしてたんです。それでたまたま二日くらい前にこのの街の上空を通りかかったら救助を呼ぶ無線が聞こえて…」
フェイが言葉に詰まると黒髪を低い位置で結んだララが続きを語った。
「救助のために高度を下げたらどこからか対空機銃を撃たれて…三人とも不時着はしたんですけど奴らに捕まっちゃって…もう私たち助からないかと…うっ…」
ララの目から涙が溢れ出す。その頭を撫でながらレオナが言った。
「…三人ともよく頑張ったな。あと少しの辛抱だ」
三人に声をかけながらレオナは脱出方法を考え始めていた。三人を連れて抜け出すのは厳しいだろう。その時先ほどまで彼女達を縛っていた縄がレオナの目に入った。三人分の縄を繋げば3階から降りるのには十分な長さだった。流石に空賊達もこの階の窓からは逃げられないだろうと思ってか窓は封鎖されていなかった。
「三人とも聞いてくれ、今からこの縄を使って窓から逃げる」
それを聞いた三人がコクリと首を縦に振った。レオナが縄の一端を室内の柱に結び窓を開けて縄を下へ下ろす。ここからは時間との勝負だ。流石に縄を下ろせば誰かが気づいてしまうだろう。
「ララ、まずは君からだ」
レオナがララに行くよう促す。ララが縄を掴み恐る恐る下へ降りていく。彼女が下に着くとレオナがフェイに声をかけた。
「次はフェイ、君だ」
フェイが降り始め地上に着くか着かないかのあたりで男の大声が響いた。
「女どもが逃げやがったぞ!」
その声を聞いてレオナの表情が険しくなる。扉の外が騒がしくなり始める。レオナが先に下に行った二人へ大声で叫ぶ。
「二人とも遠くへ走れ!すぐに追う!レン、急いで降りるんだ」
残ってたレンに縄を渡してレオナは部屋のドアを部屋にあるもので押さえつけにかかる。空賊達がドアをこじ開けようとする音が聞こえる中、レンが下に降りたのを見てからレオナも縄を掴み一気に下へ降りて駆け出した。先に逃げた二人の姿は見えなくなっていた。走りながら後ろを見れば5、6人の男が追いかけてきている。レオナがベルトに挟んでいた拳銃を抜いて狙いをつけずに追いかける男達に何発か発砲する。銃声で追いかける男たちが怯み遮蔽物に隠れたことでレオナたちとの間隔が開く。だが次の瞬間前を走るレンの悲鳴が聞こえた。前を向くとレンが建物の残骸の陰から飛び出てきた男に背後から首を押さえつけられ銃を突きつけられていた。咄嗟にレオナがその男に銃を向けようとするが男の声がそれを遮った。
「動くんじゃねえ!動いたらこの女の頭をぶち抜くぞ?」
「レオナさん…ごめんなさい…」
羽衣丸の酒場のマスター、ジョニーの様な銃の名手であればこの状態からでも男だけを撃って彼女を危機から救えただろうがレオナは自分の射撃でそれを成せる自信がなかった。近ければ男を格闘で倒すことができたかもしれないが距離が開きすぎていた。
「待て、落ち着いてくれ」
「うるせえ!さっさと銃をこっちへよこせ!さもなきゃ…」
男が銃を彼女の側頭部に押し付けレンの顔が恐怖で歪む。
「…わかった」
レオナが銃を男のほうに投げ捨てると男が銃を拾うためにレンを引きずりながらレオナの近くに寄ってきた。レオナの捨てた銃を拾おうとレンから銃口を外したその瞬間レオナが動いた。蹴りが男の持つ銃を弾き飛ばす。その隙を逃さずレンが腕に噛みつき、男から逃れた。レンが男から離れた瞬間、レオナの拳が男の顔面に炸裂した。男が意識を失い後ろへ倒れこむ。それと同時にレオナが叫んだ。
「レン!走れ!!」
「は、はい!」
レンが勢いよく走り出し建物の残骸が散らばる街へ姿が消えていく。だがその姿を確認したすぐ直後にレオナは追いついてきた男たちに囲まれてしまった。銃を突きつけられたレオナにリーダー格の男が近づきながら忌々しそうに言った。
「やってくれたなコトブキの隊長さんよ。せっかく捕まえた女どもを逃がしちまうなんてよ」
彼が合図して再び部下が彼女を縄で後手に縛り始める。胸の上下に縄が巻かれた上今度は首の後ろを通す形で乳房の間にも縄を通されレオナの豊満な乳房が強調される。周りにいた男達から下品な笑顔を浮かべた。先ほどと同じように膝上の辺りにも縄がかけられ膝を開くことができなくなる。さらにレオナの股間に結び目のできた縄が通され腰に回されて手首を固定する縄と繋がれる。レオナの秘部に瘤が当たり刺激を与えてくる。
「ッ…く…!」
「股縄は初めてか?そいつをつけられた女はみんな大人しくなっちまうのさ」
リーダー格の男がゲスな笑みを浮かべながら得意げに語った。さらにレオナの口に木でできた棒状の口枷が噛まされ、首には鎖のついた革製の首輪までつけられてしまった。
「逃げ出した上に可愛い子分を痛めつけてくれた罰だ、見せしめとしてアジトまで自分の足で歩いてもらおうか」
「んぅ…!」
子分の男が首輪に着いた鎖を引きレオナを強制的に歩かせる。引かれた勢いで前のめりになった瞬間レオナの秘部に強い刺激が走った。
「ッ!むうッ!」
口枷を嵌められたレオナの口から呻き声が溢れ、彼女の周りを囲む男達が薄ら笑いを浮かべる。背中に固定されている腕と股間を通る縄が繋がれていることで前のめりになるたびに秘部に瘤縄が食い込むようになっていた。その刺激に思わずレオナの息が荒くなる。
「ふぅ…んぅ…むう…」
「おらっ、まだ先は長いぞ、さっさと歩け!」
膝の上を縛られて歩幅の小さいレオナの鎖を子分の男が荒々しく引っ張った。よろけるようにレオナが前に引かれ再び股間縄が強い刺激をレオナに与える。
「うぅ…んぅ!」
棒状の口枷をつけられているせいでレオナの口からは彼女の意思とは関係なく涎が溢れていた。呻き声をあげ地面に彼女の涎が落ちるたび空賊達が歓声をあげる。よく見ればレオナが酒瓶で殴り倒した男達もいた。さっきのお返しとばかりにレオナを舐め回すように見ている。その連中に彼女ができることは睨みつけることだけだった。
(くそ…縄の食い込みが…)
股間縄の刺激を避けようと姿勢を正そうとするたび鎖を引く男が姿勢を崩させて股間縄が食い込む。ひたすらその繰り返しだった。当然ながら体を縛り付ける縄が解けるわけもなく、レオナはアジトへの道のりを歩む中この拷問を受け続けるしかなかった。
ようやくアジトへたどり着いた時、レオナは体力をかなり消耗していた。幾度となく瘤縄が食い込んだ秘部からは防衛反応で愛液が溢れ出て下着を濡らしていた。息はずっと荒いままだ。
「ふぅ…ふぅ…むぅ」
「まだ終わりじゃねえぞ。歩け!」
まるで家畜のように首輪を引かれてレオナは先ほど少女を逃した三階まで連れて来られた。先ほどの部屋とは別の部屋に入れられたところでレオナが床に転がされる。
「むぅっ!」
床に転がされたレオナから股間縄が取り払われ代わりに再び足首に縄がかけられる。そして今度は膝を曲げた状態で足首の縄と後手に縛られた手首の縄とが繋がれた。こうされてはもうレオナは満足に動くことはできなかった。
「また逃げられちゃたまんねえからな」
リーダー格の男が子分達に指示するとレオナを縛る縄の各所に別の縄がかけられていく。レオナはすぐに彼らの意図を身をもって理解することになった。縄が天井に吊りさがった滑車に通されレオナの身体が吊り上げられていく。
「んぅ!?むぐぅ!!」
身体が宙に浮き体重が縄にかかったことでレオナが思わずくぐもった悲鳴をあげた。縄の軋む音が鳴る中レオナの身体が空中で揺れる。自分の目線と同じ位置に浮くレオナの目を見ながらリーダー格の男が言った。
「散々手こずらせてくれたなコトブキの隊長さんよ。さっきオウニ商会に連絡したらお前の雇い主は身代金を払うのを拒みやがったよ。これでお前の競売行きは確定ってわけだ!ハッハッハ!」
男が高笑いするのをレオナは睨みつけるしかなかった。だが心は折れていなかった。
「ま、せいぜい自分を買う奴が優しいことを祈るんだな」
そう言い残してリーダー格の男が子分達を連れてレオナを押し込めた部屋を去っていく。部屋に残ったのは釣り上げられた状態で放置されたレオナだけになった。だが一人で脱出することはもう叶わない。今のこの状態では先ほどのように部屋の中から使えそうなものを探すこともできなかった。何度か身体を揺すって吊っている縄が切れないか試してみたが縄が食い込むだけで手応えはなかった。
吊り下げられながらレオナは無力感に苛まれていた。やはり自分一人だけでは何もできないのかと。それと同時に親友の顔が頭に浮かんでいた。今の頼みは彼女と仲間達だけだ。今のレオナにできることはただ仲間達の助けを待つことだけだった。
(ザラ…来てくれ…!)