テイクオフガールズの受難   作:ジャック伍長

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第二話 ザラとレオナの受難

ラハマの一角のとある場所、溜息をついている美しい女性がいた。長いウェーブの茶髪にヘソ出しミニスカートという煽情的な服装をした美女。コトブキ飛行隊の副隊長、ザラだ。彼女は足を組んで座りながら物憂げな顔をしてビールが満ち満ちと入ったジョッキを眺めている。今日の彼女は一人だった。大抵は親友であるコトブキ飛行隊の隊長レオナが隣にいるのだが今日は違った。

先日のアレシマへの輸送任務からラハマに帰ってくる際の航路で損傷を受けた羽衣丸は修理のために一週間程度使用できなくなっていた。そのためコトブキを含む乗組員には修理の完了までの休暇が与えられていた。彼女の親友は自分が育った孤児院の院長に使いを頼まれ休暇の最中にラハマより離れたガドールまで一人飛んでいたのであった。

「………」

ザラは酒が好きだった。だが一人で飲む酒はどうしても苦い記憶も蘇らせてしまう。まだレオナに出会う前、特にやりたいこともなく無為に過ごしていた日々を。

「……はぁ…」

昔のことを思い出すと酒が進まなくなる。その度に彼女と一緒に居られることがどれほど素敵なことなのだろうと改めて実感するのだった。

彼女が再び溜息をつこうとした時彼女の周囲が急に暗くなった。空を見上げようとした瞬間に目の前に巨大な鳥が現れた。

「あら船長、どうしたの一体?」

特に驚くそぶりも見せずにザラが言った。もしもこの場にレオナがいたら飛び上がって怯えていただろうなと考えてザラが微笑を浮かべる。

「グエ!」

ザラから船長と呼ばれた巨大な鳥の嘴には赤い紐で括られた紙が咥えられていた。オウニ商会が緊急の連絡を流す時に使う手だ。船長から手紙を受け取り開くと大至急オウニ商会の事務所まで来るように書いてあった。羽衣丸が飛べない状況で一体何があったのだろうかと考えながらザラはジョッキのビールを飲み干した。

「店長さーん。お代ここに置いとくわね〜」

ジョッキの下に札を挟めながらザラが言った。

「あいよー!ザラちゃんまた来てよー!」

と店の中から威勢のいい声が返ってくる。その声を聞いてからザラはオウニ商会の事務所へと歩き出した。

 

ラハマの一角にあるオウニ商会の事務所にザラがたどり着く。他のコトブキのメンバーはまだ来ていなかった。事務所の壁に背をつけて一息つく。キリエ達はどれくらいで着くかということを考えながら空を見上げた。太陽の明るさに目を細める。いつもなら隣に話し相手がいるのでこうやって待つのも苦ではないのだが、今回は暇を持て余していた。

「ガドールか…着いていけば良かったかな…」

そんな風に待っているとザラの目にキリエ達四人がこちらに向かってきているのが見えた。キリエの髪はまるで激しい風に吹かれたように乱れていた。

「あーもう最悪!」

キリエが髪の乱れを手櫛で直しながら忌々しそうに言った。

「あらキリエ寝坊?」

ザラがキリエに聞いてみるとキリエが声を荒げて言った。

「違うよ!バカ船長のせい!」

ザラが詳しく聞いてみるとエンマと町を歩いていたキリエに手紙を持って来た船長が上から飛びかかってきたということだ。よくよく見ればキリエの服に羽毛と砂埃が付いている。髪を整えたキリエがそれを払いながら言った。

「なんで私の時は上に飛びかかってくるのさ!」

「キリエはきっと船長に舐められてるんだよ」

「なんだとこのバカチ!」

キリエとチカのいつも通りの喧嘩が始まりそうなところでエンマが二人の名前を呼んで止める。そして事務所の窓を指差した。窓からは彼女達の雇い主であるマダムルゥルゥが彼女達を見ていた。それに気づいたキリエとチカが仲の良さをアピールするように肩を組んでぎこちない笑顔をマダムに向ける。そのいつも通りのお約束な行動に副隊長として溜息をつきながらザラが言った。

「ほらみんな行きましょう」

ドアを開けて事務所の中に入ったザラに続いてエンマとケイトが続く。キリエとチカは肩を組んだ状態のままそれに続いた。マダムから見えない位置に来るとすぐにお互いを突き飛ばして離れる。いつも通りの二人のやりとりだった。

 

一行がマダムルゥルゥの待つ社長室に着きザラがドアをノックするとマダムのどうぞという声が聞こえた。中に入るといつも通り赤いドレスを身を纏ったマダムルゥルゥが煙管から紫煙をくゆらせながら窓の外を見て立っていた。

「急に呼び出してごめんなさい。でも急を要する事なの」

「急を要する?」

マダムの言葉をキリエが聞き返す。次にマダムの口から出た言葉はこの場にいる者にとって意外すぎる事だった。

「レオナが空賊に囚われたわ」

「レオナが!?」

キリエが驚きの声を上げる。自分たちの隊長が囚われたとあれば当然の反応だ。声こそ上げはしなかったがザラも強く拳を握りしめていた。キリエとザラだけではなくこの場にいる全員が驚愕していた。エンマが落ち着いた口調でマダムに聞いた。

「本当にレオナが囚われてしまったんですの?人違いとかでは…」

エンマが言い切る前にマダムが口を開く。

「残念だけど本当よ。レオナは不時着前に私のところに事を伝えるよう空の駅に頼んでいたの。その連絡の一時間ほど後に空賊から身代金の要求がここにあったのよ」

マダムが再び煙管に口をつける。彼女が再び紫煙を吐き出した時キリエが問いかけた。

「それでマダムは空賊にどう返答したんですか?」

マダムが煙管の灰を盆に捨ててからそれに答える。

「今は一応答えを引き延ばしている途中よ。…当然だけど身代金を払う気は無いわ。そして私の可愛い小鳥ちゃんの一人を見捨てる気も無い」

そう言ってマダムが社長室にいる全員の目を見る。この部屋の全員がその目に宿る意思を分かっていた。

「ここからが本題よ。今すぐキマノまでレオナを救出に行ってちょうだい」

その言葉を待っていたと言わんばかりに全員がはいと大きな返事を返した。

 

二時間後、ザラ達五人は陽が傾き始める中キマノにほど近い空の駅に到着していた。レオナからのキマノに不時着するという最後の連絡を受け取った駅だ。

ザラ達にとっては幸いなことに今のところこの空の駅は彼女達の貸切状態だった。テーブルの上にはまだキマノの街が栄えていた頃、15年ほど前の地図が広げられていた。

「それでどうするの?一気に全員で殴りこむ?」

チカが拳を突き出しながらそう言うとエンマがため息をついて言った。

「レオナを助けに来たのに考えなしに殴りこんでどうしますの…ひとまずはキマノの周辺状況を空から把握するのがよろしいのではなくて?」

エンマは地図をなぞって飛行ルートを描くとケイトが口を開いた。

「先行して偵察した場合警戒されて空賊の拠点の警備が強化される可能性が高い。偵察と潜入を同時に行うことが望ましい」

「同時にやるとしてどう分けるの?またエリートの時みたいに出張酒場のフリするの?」

かつてやったことのある方法を思い出しながらキリエが言った。

「あの方法は今回みたいな相手には危険すぎますわ。バレて捕まってミイラ取りがミイラってことにもなりかねません」

「管理人さんが言うにはレオナの最後の通信だと隠されてた対空機銃に撃たれたって言ってたそうよ」

「……」

みんなが口に手を当てて考え込んでいる時にザラが言った。

「私が忍び込むわ。一人でね」

「ちょっと、いくらザラでも無謀じゃありませんこと?」

驚いた顔でエンマがザラに言ったが、ザラ本人はいつも通りの表情のままだ。まるで何も問題はないと言うかのように。

「大丈夫よ、策はあるわ。あまり大勢で行っても見つかる可能性が増えるだけだしね」

「どうやって街に忍び込むのさ?」

キリエが浮かべた疑問にザラが地図の一点を指しながら答えた。

「街から外れたこの辺り。誰かの機体に同乗してここまで低空飛行で接近、ここから歩きで街に入るわ」

当たり前のように平然と答えるザラにケイトが続ける。

「ザラが街に入るまでケイト達が上空で敵を引きつける事を提案する。上空に注意がむけば地上への監視が減る」

「頼むわ。囮は任せるわね」

「はいはい!逃げるときはどうするのさ。二人だけで空賊の機体を盗むの難しいっしょ」

チカが手を上げて言うとザラが考えてた答えを言った。

「ええ、だから私とレオナが脱出するタイミングに合わせて奇襲して欲しいの」

「できるとは思いますけどタイミングはどうしますの?」

エンマが聞くとザラは少し考えてから言った。

「携帯無線機を持って行くわ。みんなに離陸してほしい段階になったら連絡するわね。だいたい街に入ってそうね…二時間もあれば助け出せると思う」

「…もし連絡が来なかったらどうすればいい?」

少し間を置いてキリエが言った。

「私を降ろして二時間以上経っても連絡が来なかったらその時点で攻撃する準備をお願い。多分大丈夫とは思うけどね」

「……うん、分かった」

「それじゃあ作戦も決まったことだし行きましょう。キリエ、後ろ乗せてもらえるかしら?」

ザラが砂避けのマントを羽織り地図をしまいながら言うとキリエが頷いて応じた。

「さて、私達も準備しましょう」

「オッケー」

コトブキ飛行隊の隼が出撃準備を始めるエンマ機以外の隼のプロペラが回り出し排気管から数回炎が上がる。準備の終わったザラがキリエの隼のハッチを開け胴体に乗り込む。彼女がハッチを閉めようとした時チカが彼女の元にやってきた。彼女の手には丸められた少しボロくなっている地図が握られている。

「これは?」

「これ私がキマノにいた頃にみんなで作った地図。ひょっとしたら役に立つかもって!」

チカがザラに向けて笑顔で地図を渡す。

「ありがとうチカ。助かるわ」

そう礼を言うザラにチカが拳を向けて言った。

「レオナを頼んだ!」

「ええ任せて。王子様は私が救い出すわ。それが一番の騎士の務め」

その拳に自分の拳を当ててザラが言う。だがチカにとってはなんのことかさっぱりだった。

「王子様?騎士?なにそれ?」

「ザラ、そろそろ行くよ。ほらバカチ!離れないと吹っ飛ばすよ!」

キリエの言葉を聞いて謎を抱えたままチカはキリエの隼から離れて自分の隼へと向かう。

「よろしく頼むわね」

ザラが服の裾を止めるベルトの飾りを撫でる。プロペラの回転数が上がり音が変わってキリエの隼が動き出した。

隼が滑走路を走り出して少しすると機体が空へと浮かび上がる。普段ならこれから上昇に移るが低空侵入するザラ達はほとんど高度を上げずにそのまま水平飛行に移った。エンジン音が地面に反響するのがよく聞こえる。こういう飛行をコトブキの中で正確に行えるのがキリエだ。

離陸して少ししたところでケイトからの通信がキリエの機体に入る

<<こちらケイト キリエ 聞こえるか?>>

<<聞こえるよ>>

<<作戦通りチカと先行してキマノの上空を偵察しつつ気を引く>>

<<了解>>

<<キマノの周囲9キロクーリルまで近づいたらそちらからの無線発信は厳禁>>

<<分かった>>

ケイトが淡々とキリエへ指示を出す。キリエも高度をピタリと維持しながらそれを聞いていた。二人を乗せた隼がもうすぐ陽の落ちそうな空を駆けていく。

 

数十分ほど低空飛行を続けてザラとキリエは事前に予定していた着陸場所へと近づいていた。すでに辺りはほとんど暗くなり太陽の代わりに空に輝く月の明かりが地面を照らしていた。そんな時に再びキリエの機体に通信の声が聞こえてくる。

<<よしケイト 始めるよ!>>

<<了解>>

無人とされている街の上空へとチカとケイトが侵入する。その無線を聞いたキリエが後ろに座るザラに言った。

「ザラ?こっちも行くよ」

「ええ、よろしく頼むわね」

ザラの声を合図にキリエが隼を今まで以上に高度を落とす。

<<撃って来ないね… ん?>>

キマノ上空を旋回しながらチカが何かに気付く。視線の先には飛行場があった。

<<ケイト レオナの隼見つけた!>>

<<了解 レオナはここにいるようだ>>

ケイトがそう言った瞬間、月明かりに照らされた街に小さな炎が見えた。その瞬間ケイトはスロットルを押し込み操縦桿を左に倒して手前に引いた。彼女の隼が鋭く左へターンすると光の尾を引いて曳光弾が彼女が通り過ぎた場所へと飛来する。

<<撃ってきた! ケイト 発射元は見えた?>>

<<確認した>>

続いてチカの機体に別な場所から曳光弾が飛来する。だがケイトと同じように急旋回したチカには当たらず光の筋を残しながら曳光弾は暗闇へと飛び去っていった。

<<二箇所目…>>

ケイトが太ももにつけたキマノの地図に対空機銃の場所を書き込みながら呟いた。

<<分かってれば当たらないけどやっぱり楽しくない!早くアイツらコテンパンにしたい!>>

再び飛び去る曳光弾を躱しながらチカが言った。

その二人の声を聞きながらキリエとザラは着陸地点へと近づいていた。ケイトとチカの二人が上空で意識を引いているからか今の所こちらの二人には妨害は一切なかった。

「ザラ、そろそろ着くよ。掴まっててね」

キリエの声を聞いたザラが後部胴体で着陸に備える。

キリエがスロットルを絞り速度を落としていく。その後フラップと主脚を展開して着陸態勢を整える。機首が上を向き機体が地面へと近づいていく。その少しのちに車輪が地面に設置し機体がガタガタと揺れ始める。キリエがブレーキを踏み地面を滑走する機体が速度を落としていく。完全に機体が停止するまでそれほど時間はかからなかった。

「それじゃ行ってくるわね」

「うん、気をつけてね」

そう言葉を交わしザラがキリエの隼から降りる。プロペラ後流でザラの羽織る茶色のマントがはためく。ザラが隼の胴体ハッチを閉め手を振るとキリエが再び滑走を始める。

キリエが飛び立ったのを確認するとザラはキマノの市街へと歩き始めた。夜風がザラの髪をなびかせる中、キマノ市街へと周囲に目を配りながら歩みを進め始める。

<<チカ そろそろだ>>

<<分かった!>>

上空ではケイト達がキマノ市街上空から退避を始めていた。今の彼女達ができることはこれが全てだった。

(とりあえずレオナがどこにいるか確認しないと)

歩きながらザラが方法を考え始める。今いる位置から一番近い手がかりになりそうな場所は先程チカがレオナの隼を見つけたキマノの飛行場だ。ザラはこれから進もうとしている道の跡を調べ始める。

(轍も足跡も古い…この道は最近使ってないようね)

ザラが道から少し外れた場所を飛行場へ向けて走り始める。見つかる可能性もあったが轍から予測した使用度であれば警備も対してないという予測だった。

その予想は実際当たっていた。ザラは空賊に見つかることもなく数分で飛行場の端へたどり着いていた。飛行場近くの草陰に身を潜めながらザラが息を整え、その間に飛行場の周りの確認をし始めていた。遠目で見た限りここにも人気はない。唯一目立っているのがたった一機だけ外に放置されているレオナの乗っていた隼だった。

(人気がないとはいえ流石にいきなりレオナの機体に近づくのは危険ね)

何名規模の空賊組織なのかはわからないが人気がないとはいえ街の外へ行ける唯一の場所である飛行場を監視の手を置いていないとはザラには思えなかった。

ザラが草陰から出て動き始める。飛行場中を横切るのではなく街よりの方向から回り込むことに彼女は決めた。瓦礫の転がる道を音を立てないように素早く動きかつての飛行場事務所だった建物までたどり着いた。

ザラが建物の周りにある資材に隠れ再び近くの道の地面を確かめる。今度は真新しい轍と足跡を見つけることができた。

(これは昨日か今日できたもの…この轍を追っていけば空賊のアジトに辿り着けそうね…)

ザラが轍を追って行こうと思い立ち上がったその時近くでドアの開く音がした。バレないように再び資材の陰に隠れる。そのまま耳を澄ませると二人の男が話す声が聞こえた。

「ったくなんだってこんな暗くなってから街を歩き回らなきゃいけねえんだ」

「仕方ねえだろ。あの女隊長がせっかく捕まえた女を三人とも逃しちまったんだ」

「だからってわざわざこんな暗い中探さなくても良いだろうがよ。どうせ街からは逃げられねえんだ」

「ボスはイヅルマの闇競売に間に合うように捕まえておきたいんだろ。あの隊長も含めて四人連れて行くって伝えてたしな」

「…クソ、イライラしてきた。アジトに戻ったらあの女に鬱憤ぶつけてやろうか…」

近くから男達が離れていったのを確認すると、ザラは彼らが出てきたドアを開けてかつての飛行場事務所に忍び込んだ。

(レオナの他にも囚われてた子がいたのね…なんとか見つけてあげたいけど…)

そう考えるながらザラは足音を立てないように事務所の中を確認していく。ザラが調べて行くといくつかある部屋の一つに彼らが詰所代わりに使っている一室を見つけた。

(何かしらこれ…吹き矢?…あら?)

室内のテーブルの上には一端が漏斗状になっている筒が置いてあった。しかしザラが興味を持ったのはその下に敷かれている紙だった。ザラが持っているのと同じキマノの地図だったがあちこちに色々と書き込まれている。

(街中の対空機銃の配置図ね……レオナが捕まってる場所も書かれてるかしら…)

そう思いながらザラが地図を眺めていると後ろに人の気配を感じた。

「動かないで!」

女性の声でそう言われたザラがその場で動きを止める。背後に何人かいるというのは分かっていた。そしてザラにはこの声の主が空賊ではないことも分かっていた。

「落ち着いて。私は敵じゃないわ」

両手を上げながらザラはゆっくりと背後に立つ女性の方を向きなおし言った。チカほどの身長の小柄な女性がザラを睨みつけながら拳銃を向けている。その背後には赤い髪の女性と彼女に肩を貸す長い黒髪の女性がいた。激しく動き回ったのか全員服も顔も汚れている。

「動かないでってば!」

自分の方を向き直したザラに声を震わせながら小柄な女性が言った。

「落ち着いて、私はコトブキ飛行隊のザラ。あなた達は?」

「コトブキ飛行隊…!?レオナさんの…」

小柄な女性がザラに向けていた銃を下ろす。彼女の後ろにいる二人も安心したように息を吐き出した。

「そうだレオナさん!レオナさんを助けて!」

小柄な女性が焦りながらザラを見上げてそう言うとその口元に指を当てながらザラが彼女に言った。

「しーっ…まずは落ち着いて、最初からそのために来たの。あなた達は?」

「ごめんなさい…私はレン、こっちはフェイにララです」

レンが先ほどレオナに助けてもらった時に話した事の顛末をザラに語る。

「それで空賊達のアジトに囚われてた時にレオナさんが助けてくれたんです。でも私達を逃がすためにレオナさんはまた捕まってしまって…ごめんなさい」

レンが俯いて涙をこぼす。その肩を抱きしめながらザラが言った。

「泣かないで。あなた達の責任じゃないわ。必ずあなた達もレオナもここから助け出すから安心して」

「ぐす……はい」

ザラの言葉を聞いてレンが涙を拭き心を落ち着ける。他の二人もなんとか落ち着いているようだ。

「それで教えて欲しいのだけど、ここの空賊達に関する情報を分かるだけ聞かせてくれないかしら?」

ザラが彼女達に聞くとまずレンが顎に手を当ててから答えた。

「人数は多分20…もしかしたら30人くらいだと思います…」

「結構いるわね…他には何かあるかしら?」

「アジトはこの飛行場から北西にある3階建の建物、この建物です。私たちもそこで捕まっていました」

ララが地図上の建物を指差して言った。小さい工場のような場所だった。そしてフェイが机の上の吹き矢を見ながら言った。

「あいつらはその麻痺毒付きの吹き矢を使うんです。私たちもそれで…」

「捕まっちゃったわけね。レオナが捕まった理由も多分これね」

ザラが手に吹き矢を持ち眺めながら言った。

「私たちがわかるのはこれくらいです。すみません…」

申し訳なさそうに言うレンの肩に手を当ててザラが微笑んだ。

「教えてくれてありがとう、すごく役に立ったわ」

人数やアジトの場所が分かったのはザラにとってかなりの収穫だった。この暗い中で先程の轍を辿るのは空賊達に見つかる可能性もあったからだ。

「隠れて見ている限り空賊達は私たち探して町中を回ってるみたいです」

「それなら今アジトは手薄そうね」

ザラはそう言うと腰につけていた無線機を手に取る。

「こちらザラ、誰か聞こえる?」

ザラが無線機で問いかけると小さな雑音後に声が聞こえてくる。

<<こちらエンマ 聞こえてますわ 状況はどうなってますの?>>

「今レオナの捕まってる場所が分かったところよ。レオナの助けた子達三人と一緒よ。それで聞きたいことがあるのだけどチカはいる?」

<<はいはいいるよー!どしたの?>>

「ちょっと聞きたいことがあったの」

 

「んんっ!……ふう…ふぅ…んっ!…」

静かな部屋にギシギシという縄の軋む音とうめき声が響く。音の主、レオナはうつ伏せで膝を曲げた状態で後手に縛られ天井から吊るされていた。床には棒状の口枷を咬まされた口から垂れた唾液が溜まっている。

(やはりダメか…緩みそうにないな…)

「……んんっ!!……むぅっ!!」

レオナは何度となく縄を解こうと身をよじったり身体を揺らしてもがいていたが厳重に身体にかけられた縄はビクともせず揺らした反動で余計に食い込むだけで疲労だけが溜まっていった。荒くなった息を整えながらレオナは先ほどの発砲音のことを考えていた。

「ふぅ…ふぅ……んぅ…」

(さっき聞こえた機銃の音、ザラが…みんなが来てくれたのだろうか)

親友の顔がレオナの脳裏に浮かぶ。なんとなくだがザラが近くにいる気がした。

(もしも助けてもらえたら…精一杯の感謝をみんなに伝えて酒を飲もう…閉じ込められてた部屋にあったあの酒がいいかもしれない…キリエはパンケーキが一番喜ぶかな)

先行きの分からない中でレオナは親友たちが助けに来ると信じながら再び身を捩り縄を解こうともがき始めた。

 

「ここなら安全そうね」

ザラが見回しながら言った場所は地下に掘られた秘密基地のような場所だ。助けた三人と一緒に先ほどの飛行場事務所を離れてここにやってきたのは安全な隠れ場所を確保するためだった。

「ザラさん…ここは一体?」

レンが梯子から降りて同じように見回しながら言った。ザラが壁に付けられた燭台に火をつけながら答える。

「うちのチカが昔この街に住んでてね。その時の仲間たちで作った秘密基地らしいわ」

「こんな立派な地下室を…すごい…」

「ここは彼女たちが作った場所だからキマノのどの地図にも載っていそうよ。だからあいつらが見つけない限り安全って訳」

そういうとザラは腰につけていた無線機を取り出す。

「みんな聞こえる?」

<<こちらキリエ 聞こえてるよ>>

「チカが言ってた場所に着いたわ。うまく入り口を隠してたわね」

ザラが褒めるとキリエを押しのける音が聞こえチカの声が聞こえてくる。

<<そりゃ大人達に見つからないようにてってー的にやったからね!簡単に見つかる訳ないっ……バカキリエ頭叩くな!>>

無線の奥で恒例の喧嘩が始まる。喧嘩を始めた二人に代わりエンマが無線に出た。

<<これからどうするつもりですの?>>

「予定通りレオナを助けに行ってくるわ。みんなの攻撃に合わせてレオナを連れて飛行場に向かうわね」

<<了解しましたわ>>

「アジトの場所と街の対空機銃の配置はさっき伝えたとおりよ。それから何かあって奪われるといけないから無線機はこの子達に預けてこの地下室に置いておくわね」

唯一の連絡手段である無線機を置いていくというザラの言葉を聞いてエンマの回答が一瞬遅れる。

<<……分かりました 気をつけてザラ…ご武運を>>

「ありがとう。それじゃあ攻撃よろしく」

遠く離れた仲間との通信が終わる。ザラがレンに無線機差し出した。

「本当にザラさん一人で大丈夫ですか…?」

「大丈夫よ。必ずレオナを連れてあなた達を迎えに来るからそれまで待ってて。もし近くに人の気配がしても絶対に焦っちゃダメよ」

ザラはそう言うと先ほど降りてきたハシゴに手をかけ登り始める。蓋になっている岩を押し避けて辺りを警戒しながら地上に出る。

「それじゃあまた後で会いましょう」

ザラが自分を見上げている三人に大丈夫よと言うようにウィンクをしてから岩を元に戻し、地下室の入り口を隠した。

「さてと…待っててレオナ…今行くわ」

アジトの方角に向き直したザラの目つきが険しくなる。助けを待つレオナの元へと歩き出した。

 

「…」

アジト近くの建物の残骸の陰に隠れながらザラは様子を窺っていた。アジトの周囲を一周回って見たが一階の窓は小さな換気窓以外板が打ち付けられたり見張りがいたりして侵入するのは難しそうだった。

(二階は…バレずに登るのは難しそうね)

ひびや突起のある壁を登り二階に忍び込む事自体は可能だ。だが壁を登るとなれば見張りや街を回っている空賊達に見つかる可能性が高かった。当然一階の正面入り口には見張りが張り付いていた。

(…ちょっと忍び込むのはきついかも…あまりやりたくない方法だけど…しょうがないわね)

ザラは少し考えて息を吐くと近くにあった瓦礫で窓ガラスを割って大きな物音を立てた。その音を聞いて見回ってる空賊達の足音がザラのいる方へ近づいてくる。ある程度近づいたところでザラが足音を隠さずに移動を始める。建物の角を飛び出ると通りを走っていた空賊がザラを見つけ叫んだ

「おい女だ!捕まえろ!」

叫び声を聞いてザラが路地に入る。その路地は袋小路になっていて当然どこにも逃げられない場所だった。ザラが突き当たった壁で行き止まる。少しして空賊達四人の姿が路地の入り口に現れた。ザラは焦りながら逃げ道を探るように辺りを見渡す素振りをした。路地の入り口でそれを見た空賊がザラに向かって言った。

「残念、行き止まりだぜお姉さんよ。大人しくそこで動くんじゃねえぞ」

空賊達が銃を向けながらザラへと近づいてくる。彼らが数mの距離まで近づくとザラは観念したように両手を上げた。

「ん?…おいこいつ見たことあるぞ。コトブキの副隊長だ!」

月明かりで照らされたザラの顔を見て気づいたのか空賊が驚いた声を上げた。その班のリーダーらしき男が笑みを浮かべる。

「捕まった隊長を救いに来たってとこか…だがコトブキの副隊長も大したことねえなぁ。こんなにあっさり捕まっちまうなんてよ」

男がザラの顎に手を当て品定めするように彼女を見つめる。ザラは言葉を発さずただ彼を睨みつけていた。

「そう睨むなよ、綺麗な顔が台無しだぜ」

自分を睨みつけるザラに男は再び笑みを浮かべていた。男がザラの顔から手を離し彼女が着けていた砂よけのマントを掴んで剥がした。短いスカートに腹部を露出したいつものザラの格好が露わになる。その身体を見回しながら男が言った。

「良い身体してるじゃねえか。コイツは高く売れそうだぜ」

ザラの身体を一通り観察すると男が部下達三人に命じた。

「拘束しろ。アジトに連れて行くぞ。ボスにいい土産ができた」

その指示を聞いた部下達が縄と布を取り出す。そして近くに落ちていた鉄パイプを拾うとザラに鉄パイプを担がせるようにして両腕左右に広げ縛りつけ始める。ザラが乱暴に縛る彼らに文句をつけようと口を開いた。

「っ…ちょっと、女性には優しくしたら…んむっ!」

ザラが文句を言い着る前に一人の男が彼女の口に布を押し込み、別の布を彼女の口に噛ませて後頭部で結びつけ吐き出させないようにする。

「むぅ…」

猿轡を噛まされザラにできることは相手を睨みつけることだけになった。両腕は鉄パイプに手首と肘のあたりでしっかり結わい付けられその姿は十字架に磔にされたようだった。

腕を縛り付け終わった男が今度はザラの脚に手をかける。低い声でザラに男が命令した。

「脚を閉じろ」

ザラが顔を上げると縛るよう指示した男が銃を突きつけて笑みを浮かべていた。逆らったらどうなるか分かるなと目が言っていた。ザラが大人しく両脚を閉じる。すると男が膝上のあたりをザラの履くサイハイブーツの上から縛り上げた。こうされると当然走れず小さな歩幅で歩くことしかできなかった。

「最後にコイツだ。俺はこれをつけた瞬間の女の顔が好きでねぇ…」

銃を突きつけていた男が再び気味の悪い笑みを浮かべながらザラに近づいてくる。その手には鎖のリード付き革製の首輪が握られていた。男がザラの首に首輪を回してバックルを固定する。そしてリードの先端を持ちザラに言った。

「さあ行こうか副隊長さん。隊長さんに会わせてやるよ。…ほら歩け」

「んぅ!」

男が乱暴にリードを引くとザラが引っ張られ猿轡越しに呻き声を上げながら前によろめく。

(サイテー……時間がなかったとはいえやっぱり失敗だったかも…)

先ほどこの作戦で行こうと決断した自分をザラは恨めしく思った。ただひどい目に遭ってはいるがここまではある程度ザラの予想通り事が進んでいる。

(一応想定どおり行ってる…彼らは私がドジって捕まったと思ってる……けど…)

「んっ…」

ザラが縛られ不自由な脚でふらふらと歩きながら鉄パイプに繋がれている腕に力を入れる。揺するように動かしてみたが縄でしっかりとパイプに固定されておりただ手首に縄が食い込むだけだった。

(ちょっと抜けるのは難しそうね…まずはこのパイプをなんとかしなくちゃ)

ザラが策を思案していると横を歩いていた男が急に彼女の足を引っ掛けた。

「むぅっ!?」

いつものザラなら避けることは難しくないだろうが膝上で脚を縛られて歩くのもやっとの今の彼女ではあっさりとかかり地面に両膝をついてしまう

「んぅ…」

地面に跪くザラを見て男達が笑う。そしてザラに足をかけた男が言った。

「おいおい姉ちゃんダメだろ〜?ちゃんと足元見て歩かなきゃ…へへへ」

気味の悪い笑いを浮かべている彼をザラが膝立ちのまま睨みつける。その直後に首輪のリードを持つ男がリードを強く上に引いた。

「むぐぅっ!」

呻き声を上げながらリードに引かれてザラが無理矢理立ち上がらせられる。リードを持つ男が言った。

「いつまで座ってるつもりだ。さっさと立て」

(サイアクね……)

よろめく脚でザラが再び歩き始める。縛られて小さな歩幅で歩くザラを男が面白がって引く。男にリードを引かれるたびにザラは弱々しい女性の顔を作るようにしていった。連れて行かれる途中で抵抗する意思を失った様に思わせようとザラは考えていた。

よろけたり転びそうになる事を繰り返しながらザラと空賊達がアジトにたどり着いた。入り口の前には先ほどザラが物陰から様子を伺ってた時に見た男二人が立っていた。彼らはザラを見て驚いたような顔をするとザラのリードを引く男に質問した。

「その女は?」

「コトブキの副隊長さ。街の中に隠れてやがった。ボスが喜ぶと思ってな」

見張りの男の片方が縛られながら引かれるザラを見て言った。

「隊長もそうだが良い女じゃねえか。ボスなら二階の部屋だ」

「あいよ、ほらさっさと歩け」

「むぅ…」

再び男がザラのリードを引っ張る。小さく呻きながらザラがそれに従ってアジトの中へと歩き出す。

(アジトの中には入り込めた…)

歩きながらザラが周囲を見回すと開いている扉の向こうに壁掛け時計が見えた。時計を見る限り捕まってからすでに20分程度経っている。

(そこまで時間をかけてはいられないわね…)

二階へと上がり引かれるがまま歩くと一つの部屋の前で男が止まった。

「ボス、入ります」

ドアをノックして男がザラを引き連れて中に入る。部屋の中では彼からボスと呼ばれている男が高級そうな椅子に座り葉巻を燻らせていた。男が葉巻を手に持ちながらザラを見つめる。

「そいつは?」

「コトブキの副隊長でさあ。隊長を助けに来たらしいですぜ」

男がリードを引き自分の斜め後ろにいたザラを無理矢理前に出す。

「んぅっ!」

投げ出されるようにリードを引かれザラがよろめきながら前に出てボスの前で膝をつく。

「んぅぅ……」

ボスが葉巻を片手にザラの前に来る。ザラが彼の顔を弱々しい表情で見上げる。

「何か言いたげ顔だな」

ボスがザラの噛まされているボロ布掴んで首元に下げ唾液にまみれた口の中の布を取り出す。ザラ目を潤ませながら彼を見て言った。

「ゴホッ……手の縄が食い込んで痛いの…抵抗しないから解いて…」

その姿を見て口から煙を吐き出しながらボスが言った。

「……いいだろう。おい解いてやれ」

ボスの言葉で後ろに控えていた男達がザラの腕をパイプに縛りつけていた縄と首にかかる猿轡用の布を解く。膝上の縄と首輪はそのままだ。解かれるとザラが縄の巻かれていた痕の残っている手首をさすりほっと息をなでおろした。その直後縄を解いた男達がザラの腕を掴んで後ろに回し再び縄をかけ始めた。

「ちょっと約束と…んむっ」

ザラが言い切る前に再び口に布が押し込まれその上から結び目で瘤のできた布を噛まされ口を塞がれる。両手を後手で縛ると男達はザラの身体に余った縄をかけ始める。胸の上下に縄が通されザラの豊満な胸が強調される形になった。

さらに縄が継ぎ足され腋の下に閂縄を入れられ腕胸の上下を通る縄が絞られる。肩から乳房の間を通すように縄がかけられ、その縄で胸下の縄が引き上げられより胸を強調される。

腰にも縄が回され性器を刺激する位置に瘤のついた縄が股間に通される。股間縄の端は手首を拘束している縄に繋げられている。一瞬解放ののちザラより厳しい縛りを受けてしまった。ボスがしゃがみこんで縄の感触の心地悪さに身体を動かすザラの顔に葉巻の煙を吹き付け満足そうに笑みを浮かべながら言った。

「解いてやるとは言ったが縛らないとは言ってないからな。二人してまんまと捕まってくれてありがとうよ。お陰で俺たちはがっぽり大金をいただけそうだ」

そう言うとボスは手で控えていた男達に合図をした。先ほどの男がリードを引きザラを無理矢理立たせる。先程までとは違い立ち上がる際の姿勢で股間縄がザラの秘部に食い込んだ。

「んうっ……!」

よろけながらザラが股間縄に反応して声を上げる。周囲の男がニヤニヤと気味の悪い笑みを浮かべて眺めている。睨みつけたいところだったが作のためにザラは我慢して弱々しい表情を演じていた。

リードを引かれ部屋から出るところでボスが言った。

「隊長さんには会わせてやるよ。売られるまでせいぜい二人の時間を大切にすることだ…ハッハッハ!!」

高笑いを聞きながらザラが部屋を後にする。だが彼の戯言はザラの頭には残っていなかった。

(上手くいってる。このままレオナと合流できれば…)

ザラが自分の胸元をちらりと見る。今大切なアレは誰にも気づかれていなかった。

「んっ…んうっ…」

(それにしても…この縄…サイテーね)

男に引かれて前のめりに歩くザラの股間には先程巻かれた股間縄が一歩一歩歩くたびに食い込んでいた。腕の縄と繋がれているせいで縄の感触に身体を捩っても軽く食い込んでしまう。感じているわけではないが身体の防衛本能か秘部から愛液が染みて下着を濡らしていた。

(やな感じ…終わったらシャワーね)

ザラがそう考えながら引かれて歩いていると不意に横を歩く空賊がザラのスカートを捲り上げた。ガッチリと縛り上げられているザラにはその手を防ぐ方法はない。今の彼女にできるのはただ無視して歩く事だけだった。

「……」

スカートを捲った男がザラの下着を見て下衆な笑みを浮かべて言った。

「おいこの姉ちゃん濡らしてやがる。縛られてこんな状況で濡らすなんて余程の好きモノだな」

「ほんとかよ!」

リードを引き前を歩く男以外の三人がザラの下着を凝視して下品に笑う。

「……」

(ほんとサイテーねコイツら…)

過去の仕事で男達の前に身体を晒すのには慣れていたがやはりこういう手合いに見られるのはいい気分ではなかった。

縛られて歩きづらい足を引きずりながら階段を上がり三階に辿り着く。長い廊下に多く並ぶ扉の中に一つだけ見張り付きの部屋があるのが見える。

(あそこみたいね)

股間縄の食い込みに耐えながら廊下を歩き見張りのいる扉の前に着く。到着するとようやく男がザラの首輪からリードを外した。見張りの男がそれと同時に部屋の鍵を開ける。今までリードを持っていた男が首で指しながら言った。

「ここに入れ」

見張りが扉を開けるとザラの目の前に宙に吊られた親友の姿が現れる。

「っ……!」

(レオナ…!)

ザラがその場で立ち止まる。レオナもザラの姿に気づくが、自分と同じように厳重に縛り上げられてるのを見て驚いた表情をして俯いた。すると見張りの男が言った。

「安心しな、大切な『商品』だから危害は加えてねえ。他の女を連れて一度脱走しやがったから厳重にさせて貰ってるがな。お前も早く入れ」

見張りがザラの背中を押して部屋の中に突き飛ばす。前に身体が傾きそのせいで股間縄がザラの秘部を締め上げる。

「んうっ!」

ザラが部屋に入ると同時に扉が閉まり鍵がかけられる。

「ふぁら……」

天井から吊るされたレオナが棒状の口枷を噛まされた状態で巻き込んでしまってすまないという声色でザラに名を呼ぶ。そんなレオナにザラは大丈夫という様にウィンクをして笑顔を浮かべてみせた。それを見てレオナも笑みを浮かべる。お互い言葉は話せない状況だがしっかりと意思は伝わっていた。

(さて…とりあえずは予定どおりね)

ザラが室内を一通り見回す。一度レオナに逃げられたせいか部屋の中からは家具や棚などが全て撤去されていた。床にもガラス片の様な縄を切れそうなものはない。ため息を吐きながらザラが壁に背をつけもたれかかる。

(痛いからこれ好きじゃないのよね…)

ザラは一度深呼吸をすると後手に縛られた両手を動かし左手で右手を掴み親指の付け根に力を込めた。ザラの右手に鋭い痛みが一瞬走り小さく呻き声をあげる。ザラは縄抜けするために親指の付け根の関節を外したのだ。

「んっ…っぅ…!」

(っ……!…上手くいった…)

痛みをこらえながらザラが縄を外そうと右手を引く。関節を外して自由の効く様になった右手が縄から抜ける。右手が抜け緩くなった輪から同じように左手も抜ける。ザラの両手

の自由が戻る。すぐさまザラは親指の関節を入れ直し、シャツのベルトに付いている飾りの裏に隠してあった小さくしたカミソリの刃を取り出して身体にかけられた縄と脚の縄を切りはじめた。数秒もしないうちにザラの身体から縄が解け落ちる。首輪と猿轡も外すとザラはレオナに駆け寄って彼女の口枷を外した。外にいる見張りに聞こえないようにレオナの耳元で静かにザラが囁く。

「お待たせレオナ」

「すまないザラ…来てくれてありがとう…」

「いいのよ、今降ろしてあげるわね」

ザラが滑車を通して壁の固定具につながる縄を切りレオナを静かに床に降ろす。そして先ほどのカミソリの刃でレオナの身体の縄を切っていく。数時間ぶりに身体の自由を取り戻したレオナが縄の痕をさすりながらザラに聞いた。

「ザラ、この後の計画は?」

「もうすぐエンマ達がここに来るわ。その時の混乱に紛れて脱出する」

「分かった。だがこの部屋からはどうやって出る?」

「ちゃんと考えてるわ。いい?」

ザラがレオナに考えた策を伝える。それと同時に建物内にサイレンが鳴り響き始めた。よく聞けばエンジンの音も聞こえている。

「さすが、いいタイミング!」

二人は音を聞いてすぐに行動に出た。二人がドアの横に立つとザラが口に先ほどまで噛まされていた猿轡を咥えて大きく呻き声を上げた。

「んぅうううう!!むぅうう!!!」

それと同時に扉をドンドンと叩きだす。今まで静かだったことで何が起きたのかと見張りが焦りすぐに扉を開けて入ってくる。

「おい何を騒いで…!」

「はあっ!!」

見張りがドアを開けると同時にレオナが彼の顔面に右ストレートを叩き込む。油断していた見張りは躱すことも出来ず昏倒した。二人がすぐに見張りを部屋に引きずり込んで先程自分たちを縛っていた縄で簡単に拘束し、周囲の廊下を確認する。三階の廊下には人影はないようだった。機銃を発射する音も聞こえている。

「敵はいないみたい…あの子達への対応に追われてるようね」

「よし、今のうちに行こう」

「ええ!」

レオナとザラが階段へと近づくと階段の角から二人の空賊が姿を現した。

レオナとザラが駆け出し彼らに接近する。その音で彼らが二人に気づく。

「き、きさま…ぐわっ!」

ザラの膝蹴りとレオナの右ストレートが空賊達二人に炸裂する。他の仲間達を呼ぶ間も無く空賊二人が床に伸びる。先ほどと同じように二人を近くの部屋に押し込んで動けないようにしておく。

二人が階段を降りて行くと空賊のボスが怒鳴る声が聞こえてきた。

「対空機銃を全て壊されただと!バカどもが!!何をやっていたんだ!!」

「それがあいつら隠し場所をまるで分かってるみたいに潰して来たんです!」

「クソ!仕方がない!捕まえたアイツらを人質にして時間を稼ぐ!」

二人のいる階段までドアを乱暴に開ける音が響く。

「こちらに来るようだな…」

「ちょうどいいわ、たっぷり今までのお返ししてあげましょう」

「ああ」

レオナとザラが階段と廊下の角で待ち構えると、ボスともう二人の足音が彼女達の元に近づいてくる。近づききったところで二人が角から飛び出して奇襲を仕掛ける。

「!?」

突然飛び出した姿に空賊達は対処が遅れた。一番前に歩いていたボスの顔にレオナがストレートを入れ体勢を崩す。その勢いを活かしたまま左の回し蹴りでボスの右後ろにいたもう一人を蹴り飛ばして壁に叩きつける。一番後ろにいた男は拳銃を抜こうとホルスターに手をかけるが、ザラが拳銃を抜ききる前に顎に強烈な掌底を叩き込み男が昏倒する。瞬く間に男三人が床に伸びていた。上手くいったとレオナとザラが顔を見合わせて笑みを浮かべる。二人が彼らに背を向け歩き出すと伸びていた男が一人が立ち上がった。ボスが顔から血を垂らしながら息を荒くしている。

「はぁ…ハァ…ふざけやがって…お前ら二人ともぶっ殺してやる!」

彼がナイフを取り出しレオナとザラへ突進し始める。レオナが彼の振るナイフを避け、鳩尾に拳を叩き込む。彼がナイフを落としながらよろけた直後にザラが膝蹴りを同じように鳩尾に入れる。

「バカな…俺が…女どもに…」

流石に効いたのか彼が膝から落ち前のめりに倒れて気を失う。その姿を見届けるとレオナとザラは床に伸びる男三人をボスの持っていた縄で壁のパイプに繋いで身動きを取れなくし、階段へと歩き始めた。

 

出口の見張りを倒しレオナとザラはアジトを離れある場所へと向かっていた。全ての対空機銃を潰され迎撃に出ようとした戦闘機数機もも離陸中に殆どコトブキに撃墜された空賊達は全滅に近い状態になっていた。

歩きながらレオナはザラにずっと気になっていたことを聞いた。

「ところでザラ、私を助けるまでの間に三人組の女性達と会ってないか?」

それを聞いてザラが笑顔で答えた

「ええ、レン達のことでしょう?飛行場近くで会ったから今行く場所に隠れててもらってるわ。みんなすごくレオナに感謝してる」

それを聞いてレオナが胸をなで下ろしながら言った。

「良かった。三人とも無事だったんだな…すまなかったザラ…本当にありがとう」

「いいのよ…こうして無事にレオナといる為なら私はなんだってする…あ、お礼のビールはもちろん忘れずにね!」

「ふふっ…ああ、今回はザラが飽きるまでいくらでも付き合うよ」

何気ない会話をしながら二人がキマノの街を歩いていく。数分してあの岩の前に辿り着いた。ザラが岩を動かし穴を覗き込む。

「お待たせ!」

その声を聞いて穴の下へ、レン達三人が現れる。

「ザラさん!レオナさんは…無事ですか!?」

レンの声にレオナがザラと同じように穴を覗き込んで言った。

「三人共すまない、心配をかけた」

「レオナさん!良かった…」

「無事だったんですね!」

レオナの無事な姿にフェイとララも笑顔を見せる。ザラが三人にウィンクしながら言った。

「さあ、この街から出ましょ!」

穴から出た三人から預けていた無線機を受け取りザラが空にいるコトブキに発信する

「みんなお待たせ」

<<ザラ!レオナは無事!?>>

キリエの問いかけにレオナが自分で答えた。

「すまないみんな、心配をかけた」

<<ほんとだよ!すっっごく心配したんだから!>>

「これから彼女達も連れて飛行場に行くわ。回収の準備よろしく頼むわね」

<<分かりましたわ>>

通信を終えたザラが言った。

「さて、行きましょ。冷たいビールが待ってるわ」

 

レオナ達五人が飛行場に着くとコトブキ飛行隊の隼が滑走路に並んで待っていた。彼女達と相談した結果、機体のないザラとレン達三人はチカの機体を除いた四機に分乗していくことになった。

右翼のタンクに穴が開き燃料の切れていたレオナの隼に近くの空の駅まで飛べるだけの給油をして飛行の準備を整え帰り支度が完了する。月明かりに照らされる中追撃されることもなく無事に全員がキマノを飛び立ち、最寄りの空の駅へと帰還した。駅に着くとレン達が改めてコトブキのメンバーに礼を言った。

「コトブキ飛行隊の皆さん、この度は大変お世話になりました」

「皆さんが来てくれなかったらと思うとゾッとします…本当にありがとうございました」

「このご恩は忘れません!」

深々と頭を下げる三人にザラが言った。

「ご恩だなんて…。ほら頭を上げて。ところであなた達はこれからどうするの?」

ザラの質問にレンが頭を上げて笑顔で答える。

「管理人さんに頼んでしばらくこの駅で働かせてもらうことになりました。ガドールに帰る為のお金もありませんし」

「一緒にラハマに来ないか?マダムに頼めば仕事も回してもらえるかもしれないけど」

レオナがそう言って彼女達をラハマへ誘うがレンはその申し出に感謝しつつ断った。

「いえ、これ以上お世話になるわけにいきません!自分達の力でちゃんとガドールに帰ってみせます!」

彼女達の決定にレオナはそれ以上無理に誘わなかった。

「そうか…無事にガドールへ帰れるように祈っているよ。何か困ったことがあればラハマに来てくれ。力になるよ」

「はい。レオナさん達もお気をつけて!」

三人に別れを告げてコトブキ飛行隊がラハマへ向けて飛び立つ。数時間飛行してラハマに着く頃には地平線の向こうに太陽が顔を出そうという時間だった。ナツオ班長に壊してしまった事を詫びながら機体を預け、ようやくレオナとザラが自室に戻ってきた。レオナが服を脱ぎ下着姿でベッドに横になる。身体にはまだ縄痕が残っていた。枕に顔を埋めながらレオナが言う。

「流石に今回は疲れたな…」

「お疲れ様、……本当に無事でよかった…」

同じく服を脱いだザラがベッドに腰掛ける。ザラの身体にもレオナと同じ様にまだ縄の痕が残っていた。

「ザラ…助けに来てくれてありがとう…おかげで助かった」

改めて礼を言うレオナの髪を手櫛で解きながらザラが言った。

「いいのよ…こうしてレオナと一緒にいるためなら私はなんでもする。いつでもどこでも…」

「……本当にありがとう…」

ザラの手櫛に心地よさを感じながらレオナは再び感謝を口にする。

「さあ、今日はもう寝ましょ。明日はきっと忙しいわよ」

そう言ってザラはレオナの横に寝転がる。

「狭くはないか?」

「いいじゃない。…今日はこうしていたいの」

ザラがレオナにより密着する。二人の身体に揃って痕が残るのを見て少しだけ自分も縛られて良かったかもとザラは思った。その時不意にレオナが質問を投げかける。

「そういえばザラ、あの縄抜けはどこで覚えたんだ?」

その質問にザラはいつもの言葉で答える。

 

「昔ちょっとね」

 

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