銘柄はエヴァンゲリオン   作:もちダイフク

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人に優しくできるのは、同じシチュエーションを知っている人だけだと、もちダイフクです。

2話投稿後、多くのアクセスやお気に入り登録を頂きました。ありがたい限りです。

ただ1番嬉しかったのは、感想を頂いたときですね。もう心ポカポカですよ。

…冗談はさておき、やはり感想、アドバイスは投稿への励みになりますので送ってくれたら嬉しいです、はい。

では、3話どうぞ。
(今回リツコ目線多めです)


タール3:煙草とビールと衝突と

 夕方の公園、ブランコに並んで座っている2人。

 

「お兄ちゃんの言う通り自分から話しかけてみたら遊びに入れてくれるようになったよ!」

「いや僕はアドバイスをしただけに過ぎない、事を成したのは君自身さ」

「あーまたムズカシイ話し方してる! やめてって言ったのに!!」

「はは、ごめんごめんまだ慣れてなくてね、次からは気を付けるよ」

「それ、前も言ってた……」

 

 頬を膨らませて漏らす不満を楽しそうに微笑みながら答える。歳の差こそ大きそうだが、仲良さそうにしゃべる様子は見る人が見れば兄弟のようだった。少年はブランコを飛び出し、彼に向き直る。

 

「んーじゃあ次破ったら今度こそ”お兄ちゃんの名前”教えてよね!」

「なるほど……それは守らざるを得ないね」

「あー今!」

「まだスタートって言ってないだろ? ノーカウントというやつさ」

 

 少年の指摘をかわして立ち上がろうとするが、それよりも前に少年が背中に飛び乗る。それを驚く様子もなくしっかりと受け止めた。

 

 んーじゃあセーフの代わりにおんぶ! 

 それくらいならお安い御用さ

 

 なんて会話を交わしながら歩きだす2人は、さっきとは打って変わってまるで親子のようだった。

 

 

 

 

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 タール3:煙草とビールと衝突と

 

 赤木リツコは自身の研究室で情報をパソコンに入力していた。先日の戦闘記録、エヴァンゲリオンのデータ、碇シンジの質疑内容、そして……

 視線をパソコンの画面から机に落とす。そこには碇シンジ(サードチルドレン)の所持していた煙草が一本と、それの検査結果が記された書類が置かれていた。そこには文字が長々と記載されているが、そのどれもが『異常なし』を示している。そう、”一切の”異常が発見されなかったのだ。あくまでこれはただの煙草であると書類が示している。もう4度の検査を行ったが、そのどれも結果は同じだった。その異常なしの結果こそがリツコの頭痛の原因なのだが、科学者としてはそれを信じるしかないのだ。眉間に寄ったしわをもみながら一息入れようとコーヒーポットを手に取ったとき、ドアが開いた。

 

「ミサト、入るときはノックぐらいして、もう何十回言ったか分からないわ」

「はは、ごみんごみん」

 

 手を合わせて謝る友人(ミサト)を見て、またやるんでしょうねとため息をつく。それを軽快に無視し、私にもコーヒーよろしく~と呑気な声を出す。自分で入れろと言いたいところだが、コーヒー1杯や2杯くらい変わんないでしょケチね~とごねられても困るのでおとなしく入れることにする。そんなリツコを尻目にミサトがお菓子片手に、机の上に置いてあった煙草についての書類を拾い上げた。

 

「アンタまーた検査出したの? 懲りないわねー」

「お菓子食べた手で机のもの触らないでちょうだい。それに万全を期すのは科学者として当然のことよ、あなたこそたるんでるんではなくて?」

「るっさいわね~そんなの一緒に住んでるアタシが大丈夫だって言ってるのよ。私の観察力ちょっとは信用しなさいよ~」

「預かって3日目に『あの子はシロよ!』とかいう人の観察力を信じれるものですか」

 

 ひっどーい! と叫ぶミサトを無視して改めて碇シンジの情報を確認するが、どれも基本的には諜報部の調査と同じであり、違うところと言えば大人に対して反抗的な態度を取るぐらいで、それも命令違反というわけではなく中学生レベルのかわいいものである。また肝心の煙草に関してでさえも彼に直接お願いしたらくれる始末。それどころか彼の方から「1本いります?」とリツコに聞いてくるようになった……おそらく喫煙者である私が、この煙草にハマったと思っているのだろうが何か秘密があるとしたら不用心過ぎるわ……と思わざるを得ない。

 ……私も出来ることならミサトのように彼はシロと言い出したいが、それは叶わない。E計画担当者としては煙草にあった”Evangelion”をただの偶然では片づけられない……それにあの人のためにも……。

 

「おーいリツコ~? だーいじょーぶ?」

「ええ……何でもないわ、疲れてるだけ……」

 

 ミサトの呼びかけに何とか平静を保ちながら答える。あらそう? ならいいんだケド……とすぐに信じる友人の人の好さが今はありがたかった。机に置いた猫型の時計を見ると16時を指していた。

 

「ミサト、そろそろ仕事に戻ったら」

「それもそうね、コーヒーご馳走様」

 

 そう言って立ち上がり部屋を出ていこうとするミサトが、突然振り返ってこちらに向かってきた。とっさに身構えた私の腕は、ミサトの今日の食事会忘れないでねん❤の一言で力なく机に落ちた。

 

 

 

 ─────────────────────────────

 

「いらっしゃいリツコさん」

 

 そう言って出迎えてくれたのは疑惑の対象(碇シンジ)だった。首からかけたエプロンと奥から漂うおいしそうなにおいから、彼が料理を行っていたことはすぐに分かった。ミサトの彼って意外と家庭的なのよ! と言っていたのも頷ける。

 

「リツコさん……?」

 

 彼が不思議そうに見つめてくる。すぐ考え込む自身の悪い癖を出してしまった。彼のことを直接確認するためにわざわざ時間を割いたというのに、こんなことで疑われてしまったら元も子もない。

 

「いえ、そのエプロン似合ってると思ってね、かわいいわ」

「……ミサトさんにも言われたんですけど、男ってかわいいって言われてもうれしくないですからね」

「あらごめんなさい、悪気があったわけじゃないのよ」

 

 そういうとならいいですけど……とまだ不満の残った顔で奥に引っ込んでいった。そういうところも中学生らしいといえば中学生らしいなと感じた。

 

 

 

「見事なものね。美味しかったわシンジ君、ご馳走様」

「お粗末様です。そこまで言ってもらえると作った甲斐があります」

 

 少し頬を赤く染めて皿洗いを続けるシンジ。調査のために来たとはいえ、お世辞抜きで彼の料理は本当に美味しかった。それにミサトから聞いたであろう好物の洋食で固める心意気には、普段出来合いのものでご飯をすますリツコにとっては暖かく感じられた。

 

「ほーら言ったでしょ! シンちゃんの料理はおいしーんだから!」

「なんであなたが偉そうなのよ……それに私はシンジ君を疑ったわけじゃなくて、同種だと思ってただけよ」

 

 5本目になるビールを片手に突っかかってくるミサトを適当にあしらう。こんなにも飲んでいるのに料理も1番食べるのだから不思議である。

 

「リツコさんの言いたいことはわかりますよ、僕が喫煙者だからってことでしょ」

 

 洗い物が終わったのであろう濡れた手をエプロンで拭いながら答えた。

 

「ええそうね、絶対とは言わないけど喫煙者は食への関心は薄いからここまで料理が得意なのは珍しいと思うもの」

「まああれですよ、慣れってやつですかね」

「謙遜することはないのよ~シンちゃん! 喫煙者だろーが何だろーがうまいもんはうまい! 得意なもんは得意でいいじゃない!!」

「いや謙遜ってそういうわけじゃないと思うんですけど……それに自分でいうのもなんですけど僕の喫煙認めていいんですか……?」

「ミサト、あなた少し飲みすぎよ」

 

 少し目を離した隙にもう2本も開けている酒豪っぷりに改めて驚きながらも、ビール7、8本やそこらでつぶれるなんてリツコの記憶にはなかったが、恐らくは急ピッチで飲み過ぎたせいだろう。酔ってな~い! と叫ぶミサトをシンジ君と両脇で抱え寝室に運んでいく。

 その時に彼が漏らした、まったくしょうがないなあミサトさんは……という言葉に、呆れと少しのうれしさを感じとれた。

 

 

「ごめんなさいね、ミサトを止めれなくって」

「いえいいんです。それにしても、僕まだここに住んで1週間しか経ってないですけどこんなスピードで飲むの初めて見ました。ほんとしょうがない人ですよ全く……」

 

 玄関に向かいながら、そんな言葉を交わす。言葉には棘があったが、やはり端々でうれしそうな様子だった。諜報部の報告書にもあった通り、面倒を見てくれていたという親せきとは関わりが薄く、シンジ君にしてみたら初めての保護者に感じていることだろう。ミサトもそれを理解して彼と家族を演じているのだ。

 偽善ね……と感じた。疑いのあった彼を監視する名目で始めた同居が、今や心の拠り所になっていると思うと正直反吐が出る気分だ。いっそのこと、それとなく観察日記のことを教えれば……との考えが浮かんだがすぐに辞めた。そもそもなぜ自分がここまで癪に障るのかが分からなくなったからである。彼に疑いがなかったとしても、いずれにせよ監視と調教を兼ねてミサトに頼むつもりだった。それなのに何故……

 

「あ、そういえばリツコさん」

「なに、シンジ君」

 

 もう靴を履いて出ようとしたタイミングで彼に声を掛けられる。恐らくは煙草のことか、先日の戦闘シミュレーションのことを聞かれるのだろうと思った。

 

「この前”パイロット観察日誌”を見つけて、それについて聞きたくて」

 

 だからこそ彼の発した言葉がすぐには理解できなかった。

 

 

 ────────────────────────────────────

 

 日付は食事会の5日前、ミサトがリツコに『彼はシロ』と報告する前日のこと。

 

 シンジはベランダで食後の一服として煙草をふかしていた。元々禁煙を言い渡されていたのだが、食事を作らないと脅し文句は、すっかりこの数日でシンジに胃袋を掴まれていたミサトからベランダでなら……の言葉を簡単に引き出したのは言うまでもない。それでも吸い過ぎだとお小言を食らうこともあるが、そのミサトさんから今日は帰りが遅くなるとの連絡が先ほどあったので、心おきなく煙草を味わえる。

 

「どうしてこんなに煙草っておいしんだろ……」

 

 もちろんシンジも最初から楽しむことが出来たわけではないが、気付かぬうちにハマっていた……それが煙草の不思議なとこである。とは言えあまり本数を吸ってもにおいからばれてめんどくさくなるのは必至なので、これでやめとこ……と2本目となる煙草の残りをもみ消しながら、ふとミサトさんの部屋がカーテンの隙間から目に入る。見えたのは少しだけだが、明らかにゴミだらけだった。

 

「しょうがないなミサトさんは……」

 

 そんなことを言いながらズボラな同居人のために、掃除を代行してあげることにした。ミサトさんがシンちゃんありがと~!! と言ってくる光景を浮かべながら善意で部屋に入り、そしてパイロット観察日誌(悪意)を発見した。

 

「何ですか……これは?」

 

 改めて日誌を突き出すと、対面に座った女性は唇を噛みながら目を伏せる。その様子はまるで、隠していた赤点のテストがばれた子供のようだった。言い訳も謝罪もせず無言を貫く様を、煙越しに見る。

 

「あくまで黙秘……ですか、大人って楽で汚いですよね。都合の悪いことが起きても向き合おうとしないんだから、黙れば済むと思ってるんだから」

「……シンちゃん」

「いつまでも……馴れ馴れしくしないでください」

 

 伸ばしてきたその手を跳ね除けた。その時の驚いた顔がムカつく……拒絶されて当たり前のことをしてるくせに。所詮は従順な道具としてしか見てなかったってことだろう……きっとそうだ。

 何た言いたげな様子だったが、無視しまとめてあった荷物を抱えて玄関に向かう。

 

「……短い間でしたがお世話になりました。エヴァの操縦はほかのだれかに頼んでください。あとさっき言った通り煙草の入った段ボールは元の住所に送っといてください」

 

 返事はない……何か言われたとしても相手にする気はないからちょうどよかった。

 

「こんなことなら……こんな家族ごっこなんてしたくなかった……」

 

 そう漏らしながら家を出ようとしたその時だった。

 

「アンタに……」

 

 振り向くとそこには怒り奮闘といった様子のミサトさんがいた。飛び出してきたんだろう、奥のリビングの椅子が倒れている。

 

「煙草吸ってかっこつけてる様なガキに、アタシの……あたしたち大人の何が分かるってのよ!!」

「その”ガキ”に世界救ってもらってるくせに!!」

 

 売り言葉に買い言葉。その瞬間、乾いた音が聞こえ、後からやってくる左頬の熱が、何を喰らったか教えてくれる。そんな頬を抑え、この暴力女に反撃を行うために振り上げた右手は、泣きはらした顔を見て行き場を失った。

 

「……誰が子供を好きで送り出したってんのよ! そんなわけ…そんなわけないじゃない!」

 

 泣きわめきながら崩れるミサトに、シンジは何も言う気が起きなかった。上司というにも、同居人というにもその姿はひどくちっぽけに見えたから……。

 

「でも、理由は何であれ送り出したのは事実……だから謝ることもできないし許してもらえなくていい。恨んでもらって構わない。けど、エヴァからは降りないでほしいの、世界をサードインパクトから守るために」

 

 涙声で話す姿はさっきと同じようだったが、涙をこぼすその眼だけは強くこちらをとらえていた。

 そんな視線から逃げるように、煙草に火をつける。煙草の先が赤く燃え、口から紫煙が漏れる音が聞こえるくらい、静かだった。

 

「逆切れして……叩いて……泣いて……自分を盾にしてまでして、それでお願いを聞いてほしいなんて随分勝手ですね」

「そうね……」

「不器用過ぎにもほどがあります」

「返す言葉もないわ……」

 

 床に座ったまま、罰が悪そうに苦笑する。

 

「そして”僕と似てます”」

 

 ミサトさんはバッと髪を振り上げ僕を見た。まるで信じられないとでもいうように目を大きく開いている。

 

「だから……気持ちはわかります。許せるかどうかってのは別ですけどね」

「シンジ君……いえ、許してもらえるだなんて思ってないわ。戦場に送り出したのも、監視をしていたのも紛れもない事実なんだから」

 

 そう言いながら立ち上がってこちらを見る。その様子は未だ申し訳なさそうだ。

 

「ええ許せません。けどそれって作戦部のミサトさんとしてやったことですよね? 同居人としてではなくて」

「え、ま、まあそう言われればそうね」

 

 僕の言葉に理解が追い付かないようで、口ごもりながらおずおずと答える。

 

「なら上司としてではなくて……家族としてなら許します」

「……! シンちゃん!!」

 

 そう言って抱き着いてくるミサトさんを受け止めた。

 

 ちょっと! 鼻水と涙でべとべとの顔をふくにこすりつけないでくださいよ! あはは、ごみんごみん……大体元はと言えば……

 

 そんな言い合いをしながら、二人は”わが家”へ帰っていった。また、後日提出されたパイロット観察日誌には『彼はシロです。ただ思春期で煙草に手を出しただけの、心優しい中学生です』と記されていた。

 

 ─────────────────────────────

 

 リツコは夜道を一人歩いていた。その口には火のついた煙草が咥えられている。妙齢の美女が煙草を口に歩く姿は、人々の目を引くだけの魅力があった。そんな視線もつゆ知らず、1人物思いにふけっていた。その理由は、先ほど見せられた日誌……パイロットが直接関与を聞いてきたこともそうだが1番はその時の表情。

 

『これのおかげでミサトさんと仲良くなれたんです』

 

 そう言ってあどけなく笑う様は、関与を認めたリツコへの嫌味などこれっぽっちもなかった。その顔の記憶を煙に巻くように、立ち止まって口から煙を吐き出す。

 

「彼はシロね、あくまでサードチルドレンとして……だけど」

 

 煙草の成分調査、今日の食事会、先ほどの日誌についても疑いをかけられていると感じたなら、避けるなりは出来たはず……にも拘らず向こうからアクションをとってきたのだ。つまりはそういうことだった。

 

 頭の中で情報を反芻して整理し、疑いを煙草そのものに向ける。

 それがどんな人物や組織によってもたらされたものなのかは知らないが、必ず見つけ出す……例えそれが親友を傷つけることになったとしても。

 そう決心する表情は、ひどく歪んでいた。

 




サードチルドレン:碇シンジの煙草の検査及び調査結果

先日依頼された煙草を調査したところ以下のことが分かりました。

・成分は普通の煙草と変わらず、懸念されていた薬物反応も無し
・同一の煙草を所持している者はNERV内に存在せず

依頼されていた日本国内の煙草で、特徴が一致するものがあるかについてですが、量が量なので、時間がかかりそうです。また何かわかり次第追って連絡します。

使徒との戦闘描写について ご協力をお願いします。

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