銘柄はエヴァンゲリオン   作:もちダイフク

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本当に有り難い、感謝感謝です。正拳突きはしません。

今回は前回言った通り、煙草の謎に触れています。

ではどうぞ


タール6:好きなモノ

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 サードチルドレン:碇シンジの煙草の検査及び調査結果 Vol.2

 

 先日依頼された特徴が似ている煙草を製造している国内企業があるかの調査に進展がありましたのでデータを送信させていただきます。

 

 我々が調査したところ、条件を満たす企業が4社存在し、そのすべてにコンタクトを取ったところ△△社がうちの商品である可能性が高いとの返答がありました。

 その企業に例の煙草を持っていき比較した結果、自社製品に違いないとのことでした。

 

 しかし、その際に『こんなもの良く持っていたね』と奇妙なことを言われたので言及したところ、この商品は()()()()()()()()していたとのことです。

 

 人気商品だった為、そこからしばらくは受注生産を行っていたのですが、それも2年ほど前に終了したみたいです。

 その殆どが卸売業などだったらしいですが、個人で大量に購入した人物もいたそうです。

 一般人を装って伺ったため、これ以上は個人情報としてその話を聞くことは出来ませんでした。

 

 セカンドインパクトから直ぐに発足された”嗜好品等偽装禁止法”から煙草の入れ替えや箱自体への細工は考えにくいため、次はその個人購入者を捜査したいと考えております。

 ただしそれにはNERVの権限を使う必要がある為、許可を得て頂きたいです。

 よろしくお願いします。

 

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 タール6:好きなモノ

 

 午前10時頃…シンジは先日リツコさんからの依頼をこなすため、1人歩いていた。

 

「ホントにここであってるのかなぁ」

 

 進んでいくごとに廃れていく光景が明らかに普通でないと思わせる。

 そしてメモに記された場所にたどり着いたのだが…

 

「…どう見ても廃墟なんだけど」

 

 リツコさん曰く一人暮らしらしいが、明らかに女子中学生がすんでいい場所ではない。

 人の気配も全くない上に、取り囲むマンションが陽の光を遮るのでそれが恐怖感を演出する。

 

(薄気味悪いしサッサと渡して帰ろう…)

 

 煙草に火をつけないまま口に咥え、階段を登った。

 

 記された部屋にたどり着き、ポストに刺さっているチラシを横目で見ながらインターホンをおす。

 しかし音は鳴らない。

 

「ホントに大丈夫かな…こんなとこに1人で住んでて」

 

 ここまで見事に廃墟だと恐怖よりも心配が勝ってしまう。

 扉を強めにノックするがやはり返事がない…本当にまだいるのか不安になってきた。

 

 そんなことを思いながら扉をよく見ると少しだけずれていた。

 まさか…と思いながらドアノブに手をかけると、簡単に開いた。

 

「…もういいや。綾波!入るよ!」

 

 今更不用心だとか口に出すのも億劫になってきたので、直接乗り込んで渡すことにした。

 

「おじゃまし…っ!」

 

 そんなシンジの目に飛び込んできたのは薄暗い部屋に、床に転がる血で汚れた包帯、謎の錠剤類…もはや実験室だと言われたほうが説得力がある。

 そんな中、一際目立つところに置かれている黒い物体があり、それは黒焦げのサングラスだった。

 

「これって…父さんの?」

「何しているの?」

「あ、あやな…みィ?!」

 

 後ろから声が聞こえたのでサングラスを背中に隠しながら振り返ると、綾波の一糸纏わぬ姿が飛び込んできて思わず目を背ける。

 色々とヤバいがとりあえず通報されることだけは避けなければならない。

 

「ごめん綾波!勝手に入ったのは何というか…その」

「返して…」

「え…?」

「いいから…返して」

 

 綾波が珍しく強い声で催促してくる。

 恐らくサングラスのことなんだろうが、そっちを向けないので渡すこともできないし…

 

「返して…」

「あだだだだ!」

 

 そんなことを考えていたら綾波がサングラスごと腕を引っ張り上げたので、関節が極まって(ハンマーロック)しまい思わず悲鳴をあげる。

 あの細い腕のどこにこんなパワーがあるのか…それくらい綺麗に極まっている。

 それと同時に腕に柔らかい間隔が伝わる。()()が何なのか、経験の薄いシンジでも分かった。

 

「綾波、謝るから離して!折れるし…その、色々ヤバいから!!」

「それを離したら私も離すわ…」

「それが出来ないんだよお!とりあえず服着てえ!」

 

 そんな悲壮な願いがマンション中に響き渡った。

 

 

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 NERVに向かい街中を歩いていく色白の少女と、その後ろをトボトボとついていく少年の姿があった。

 その件の少年、碇シンジは先ほどの出来事を思い出してため息をついた。

 

 他人には(特にミサトさん)言えないような出来事があったというのもそうだが、先ほどから無表情のままの綾波の考えが分からないのもそれに拍車をかけていた。

 

(裸…見られたのに恥ずかしくないのかな…ひょっとして男として見られてないから?まさか…)

 

 父さんと…とも思ったがそれはリツコさんに否定されたばかりだ。

 

 とりあえず一服…とも思ったが、今の綾波に「煙草吸っていい?」なんて聞けないよな…NERV着くまで我慢するしかないか…

 

 先ほどより大きなため息をついたシンジであったが、そもそも路上喫煙が禁止であることは頭からさっぱり消えていた。

 

 それから15分ほど…NERVの入り口、の近くにある喫煙スペースにたどり着いた。

 

「あ、僕ここで一服してくから先行ってて」

 

 もうここならいいだろうと思い、綾波に一声かけてから喫煙スペースに体を向けた。

 

「何故…?」

「…え?」

 

 そう言って肩を掴まれた。

 一体何を言われるのだろうと思い振り返った。

 

「何故…あなたは煙草を吸うの?」

「へ?ああ…()()()()()?そんなの美味しいからだよ」

 

 先ほどの1件についてかと思いきやまさかの質問に拍子抜けだった。

 

「美味しいから…それだけ?」

「ま、まあそれだけって言えばそうだけど…なんで?」

 

 シンジの答えに何か引っかかった様子だった。

 

「煙草…非喫煙者に比べてがんの発症確率ははるかに高く、血管の収縮による血圧の上昇、血液の粘度の上昇、動脈硬化の進行、心臓への負担の増大などがある…さらに未成年なら尚更…。

 なのにあなたはいつも煙草を口にしてる…学校でもNERVでも…」

「つまり、こんなにも害があるのに何で吸うのってことか…」

 

 煙草を口に咥えたまま綾波のほうを見る。

 

「…綾波ってさ、何か好きな食べ物ある?」

「…わからない。いつも赤木博士の処方した錠剤で済ませてるから…」

「じゃあ何でもいいから好きななにか言ってみてよ」

「…ごめんなさい、分からないわ…」

 

 そういうと目を伏せてしまった。

 その様子を見て、シンジは少女のことを人間的(人形じゃない)と感じた。

 

「…それが分からないなら説明は難しいかな」

 

 何時ものように肺に入れるのではなくて、口の中で煙を燻らせると、煙草特有の味が舌を刺激して鼻を抜けていく。

 そんなところも煙草の好きなとこの1つだ。

 

「綾波が何か好きなもの見つけたら僕の気持ちわかるよ、って流石に偉そうか…ごめん忘れて」

「いいえ、大丈夫」

 

 ちょっと調子に乗ってしまい口が過ぎたと思ったが、何故か綾波は先ほどよりも顔が上がっている。

 

「じゃあ僕からも質問…いい?」

「ええ構わないわ…」

「なんでエヴァに乗るの?」

「…絆だから」

 

 まだ集合時間は余裕があったので、ずっと気になっていた質問をぶつけると、帰ってきた答えはすごく曖昧だった。

 

「絆…それは父さんとの?」

「ええ…あなたは感じないの?お父さんとの…」

「ないない、あったら多分煙草吸ってないよ…あ、ごめん」

 

 綾波の問いかけに思わず笑ってしまい、口から出た煙が綾波にかかる。

 

「別に平気…赤木博士で慣れているから…」

「なら良かった…まあ僕は特別エヴァにも父さんにも思い入れも絆もないし、好きでもないしね」

「そう…」

 

 父さんとエヴァへの思いを正直に話すと、ほんの少しだけ瞳が揺らいだ。

 …その表情をみて、誰も人形だとは言わないだろうと感じた。

 

「まあ座ったら?僕だけ座ってたらしゃべりにくいし…」

「それって命令…?」

「パイロット同士で命令なんてしないよ…勧めただけ」

 

 この少女は不思議という言葉がよく似合う。

 人間らしいとこを見せたと思ったら、腰掛けるのを勧めたことを命令と言い出すのだから。

 思わず笑みがこぼれた。

 

「なんで笑っているの…?」

「何でもないよ、そろそろ時間だし行こっか。あとあなたじゃなくて名前で呼んでね」

 

 コテンと首を傾げる姿を見ながら、煙草を灰皿に捨てて立ち上がった。

 

 入り口へと向かうシンジを見て、疑問に思う…。

 まだ集合まで1時間ほどあるのに、時間だと言ってさっさと歩きだしてしまった。

 

 それがシンジの照れ隠しであると、綾波レイには理解できていなかった。

 

------------

 

 『シンクロ成功しました!』

 

 オペレーターのマヤさんの声で本部が沸き上がった。

 モニターにはエントリープラグ内を映しており、流石の綾波も少し安堵の表情を見せていた。

 

「いやー良かったわねー!一先ずはってとこかしら?」

 

 ミサトさんが横で大きく体を伸ばす。

 作戦部としても戦いに出せるエヴァが増えて万々歳だろう。

 

「そうですね、綾波もホッとしてましたし」

「えっ?そんな顔してたかしら?」

「してましたよ、何を」

 

 見てたんですか…と言おうとしたとき、警報が鳴り響く。

 

「使徒…ミサトさん!」

「ええすぐに第二ケージに向かって!」

 

 短いやり取りで、自分がやるべきことを理解する。

 走り出した視界の端に青い水晶体のようなものが見えた。

 

 

 

 シンジ君を送り出して、視線をモニターに向ける。

 青く輝く八角の立体は、今までの2体とは明らかに異なるものであると予感していた。

 

 ただそれがどう違うのか、これが分からないのでは何もできない。

 

「ミサト、どうするの?」

「…直接の威力偵察か自走砲やミサイルで様子見かどっちかね」

 

 ただ出来ないと言っているだけでまたシンジ君(パイロット)を傷つけるだけになってしまう…

 それは何としても避けねばならない。

 

「MAGIはなんて?」

「直接は賛成1反対2、様子見は賛成2反対1よ」

[なら話は早いわ、あたしもそっちにしようと思ってたとこ」

 

 そういうと司令部の上に向き直る。

 

「碇司令、作戦部長として敵の能力を知るために偵察を行いたいと考えております」

「反対することなどない、好きにやりたまえ」

 

 代わりに副指令である冬月が許可を出した。

 

「ありがとうございます!では…」

『待ってください!』

 

 スピーカーからシンジの声が響き渡る。

 シンジが声を荒げたのを初めて聞いた司令部は、ほんの少しの静寂をもたらした。

 

「どうしてシンジ君!これが現状最もいい作戦なのよ?」

 

 ミサトがシンジに言葉を返す。

 敵への様子見という作戦に難色を示すシンジの本意が掴めない。

 

『だって使徒は直ぐそこまで来てるんでしょ?だったら一刻も早く出撃するべきだし、仮に敵が強かったとしても零号機まだ出せないんでしょ?だったら偵察しても変わらない』

「一理あるわね…シンジ君の言い分も分かるわ」

「リツコ?!アンタさっき…」

「それはMAGIの話、それに決めるのは作戦部長であるあなたよ」

 

 …シンジ君の言い分も分かる…使途がどんな攻撃をするか分からない以上、どれほどの被害が出るか分からない…それはエヴァもジオフロントも同じ、なら早く出撃して使徒の進行を止めることも手の1つだ。

 

「わかったわ、シンジ君の言う通り出撃よ。すぐに準備して」

『ありがとうございます!ミサトさん!』

 

 あらゆる要素を加味してミサトの出した答えは、シンジを、()()()()()()ことだった。

 

 ミサトの号令で急ピッチで発進準備が進められていく。

 

「準備はいい?」

『いつでも!』

「ならば結構!発進!」

 

 すさまじい速度で射出していく初号機…地上に出たそれを出迎えたのは、ミサトの励ましでも指示でもなく、眩い何かと熱だった。

 

「碇君!」

 

 戦場に出ることが出来ない自らと零号機を憂い、偵察を蹴って出撃した彼が、絶叫と苦悶に満ちた顔を見せる。

 それはまさに感情的(人間)だった。

 

 それをリツコとゲンドウが、冷え切った目で見つめていた。

 

 




あー綾波ってキャラ扱うのムズカシイ!

なんか可笑しなとこあったら指摘オナシャス…!

あ、今回はオマケなしでーす。

使徒との戦闘描写について ご協力をお願いします。

  • 増やしてほしい
  • そのままでいい
  • どっちでもいい

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