ЯeinCarnation   作:酉鳥

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7章:死者の町
7:0 "──────"


 彼女の意識は呼び戻され、自由落下していた肉体は生い茂る草むらに包み込まれていた。仰向けに倒れたまま辺りの様子を窺えば、後方には無風の渓谷が微かに見える。

 

「お前は弱者を救おうと志した浮遊生物を打ち倒した。だがその見返りとして罪人の烙印を与えられてしまう。……そのスマートフォンによってな」

 

 杖を持った男は彼女へ一台のスマートフォンを投げ渡す。彼女は受け取ると静かに立ち上がった。

 

「さぁ次なる記憶を取り戻す。私の後に続くがいい」

 

 その反動で頭に乗っていたであろう青葉がゆらゆらと足元へ落ちる。彼女は青葉を見つめ、身に纏う衣服がリンカーネーションの制服へと変わっていることに気が付いた。

 

「……お前はどこまで知っている」

「どこまでも知っているとも。お前の記憶、歩んできた道、そのすべてを知り得ている」

 

 彼女の問いかけに杖を持つ男は歩を進めながらそう返答する。声色や口調から嘘を付いているとは思えず、彼女は表情を険しくさせた。

 

「私は記憶を辿り、多くの人間や吸血鬼共と出会った。だがお前の姿を一度も見かけていない」

「……」

「これは私の憶測に過ぎんが……お前は私の記憶に存在しない人物で、今この場で初めて顔を合わせた。あの世か地の底かも見当がつかんこの場所でな」

 

 杖を持つ男は取り戻した記憶に一度も映らない。彼女が不信感を抱きながら自身の考察を淡々と述べると、向かう方角から鐘の音が聞こえてきた。

 

「その素晴らしい憶測の褒美としてだ。この空間があの世なのか、地の底なのか、それとも現なのか。その答えを教えてやろう」

 

 いつまでも鳴り止まない鐘の音を聞きながら、彼女が杖を持つ男の背中を見つめる。その黒色のコートは長い年月使い古されているようで、色がやや落ちていた。

 

「この空間は現でもなく、地の底でもなく、あの世でもない。選ばれし転生者のみが集う空間。ただの人間や吸血鬼には辿り着けない空間」

「……なら私の生死は曖昧ということか?」

「それはお前自身が決める。私が決めることではないのだ」

 

 気が付けば二人を取り囲む木々には小さな鐘が実る。遠くから鳴り響く鐘の音に共鳴するようにして、実った鐘もまた小さな音を鳴らす。

 

「……? あの女は……」

 

 ふと逸らした視線の先には一糸纏わぬ姿で水浴びをしている寡黙な女性。煌めく水の雫が飛び交い、艶やかな青髪を濡らしていた。

 

「逃亡者となったお前は北に位置するAdar(アダール) RambA(ランバ)を目指す。しかし通り抜けなければならないのはこの死者(ししゃ)の町だ」

「……死者の町?」

 

 前方に見えてきたのは三本の鐘塔(しょうとう)が目立つ町。黒と白の修道服を着た修道女が町の中心部に建設された教会へと集い、祈りを捧げていた。

 

「かつては生者(しょうじゃ)の町と呼ばれていたが、吸血鬼たちの侵攻によって死者が絶えず、死者の町へと変わり果ててしまった」

「……吸血鬼共の侵攻をそこまで許しているのか」

「不幸な死者の町へ君臨したのは一人の司祭。彼は死者の町と人々を統治し、吸血鬼たちの侵攻を食い止めたのだ」

 

 教会から姿を現したのは小さな鐘をイヤリングとして付けた女の人影。耳だけではなく、白い司祭服もびっしりと小さな鐘で飾られていた。

 

「お前たちはこの町へ派遣されたリンカーネーションの者たちと合流をし、侵攻を始めようとする亡者たちから死者の町を防衛することになる」

「……亡者」

「そして亡者たちが根城とする腐蝕(ふしょく)の楽園を攻め落とすだろう。しかし待ち受けているのは──」

 

 杖を持った男は開いていた口を閉ざし、正面にそびえ立つ鐘塔を見上げると、杖の矛先を鐘へと向けた。

 

「"あぁ鐘の音よ"」

「……?」

「"生者の我らに祝印を与えたまえ。死者の我らに呪印を与えたまえ"」

 

 ぼそぼそと呟き始めた杖を持つ男。彼女は眉間にしわを寄せながら矛先にある鐘を見上げると、

 

「……ッ」

 

 彼女の鼓膜を突き破らんばかりに三つの鐘塔が鳴り響く。手に持っていたスマホの画面には亀裂が入り、彼女は思わず両耳を押さえながらその場でうずくまる。

 

「お前はしばしこの空間へは戻って来れない」

「何を、言っている……ッ?」

「次にこの場へ顔を出す時は……お前に新たな変化が訪れた後だろう」

 

 鐘の音に歓喜するように司祭や修道女たちは天へと両手を掲げた。その顔は修道服のベールで隠されておりよく見えない。

 

「さぁ思い出せ。お前が歩んだ──逃亡生活を」

 

 脳に語り掛けてくる鐘の音。彼女は両耳を押さえながら、意識を軽く手放してしまった。

 

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