ЯeinCarnation   作:酉鳥

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7:6『ルーナ班』◎

 

「地下室ってここだよな?」

「あぁ」

 

 翌日の昼前。

 私とキリサメはランタンを片手にクロウデル家の地下室まで足を運んでいた。入り口である銀製の扉は綺麗に磨かれ、私やキリサメの姿が反射して映り込む。

 

「なぁ、ここに何があるんだ?」

「……入れば分かる」

 

 鍵を開き中へと足を踏み込めば、やや埃が舞った。その先に広がる光景は刀剣やら杭やらの武装。

 

「おー……ここってもしかして武器庫?」

「私のような転生者は過去の武装を転生前に保管し、転生後に保管した場所へ訪れ、再利用することが多い」

「じゃあさ、ここには他の転生者の武器もあったりするのか?」

「他の者は転生者が集う拠点に保管している。ここにあるのは私物だけだ」

 

 地下室へと足を踏み入れ、ランタンで木箱の中を確認する。中に並べられているはずの銀の杭は一本も残っていない。

 

「……やはり千年前に使い切っていたか」

 

 この時代に転生する千年前。公爵(デューク)の城へ乗り込む際にすべて持ち運んでしまった。一本でも残っていないかと確認してみたものの、どうやらそう都合の良いことは起きないらしい。

 

「アレクシア、このでかい棺みたいなのは?」

「銀の棺だ」

「銀の棺……?」

「公爵を封印するために作られた処刑道具。公爵の四肢を斬り落とし、その中へ封じることができる。封じた後は銀の棺に日光を当て、灰へと変えるだけだ。加護を与えられない転生者の間でよく使われていたな」

 

 過去に孤児院でクレアとイアンへ同じような話をした記憶。そんな記憶を脳裏に過ぎらせながら、使える武装がないかと地下室を物色する。まず手にしたのは貯金してあった金貨の袋を二つ。

 

「……先を見越すべきか」

 

 Zweihander(ツヴァイハンダー)と呼ばれる大剣を改良した武器。大型のリボルバー銃。やや赤みを帯びた短剣。この三種類を手に取り、地下室の入り口まで戻る。

 

「へぇー、なんか博物館に来たような気分だ──」

「閉めるぞ」

「ちょっ、出ていくなら声ぐらいかけろって!」

 

 慌てた様子で地下室から飛び出すキリサメ。私は地下室の扉に鍵をかけ、マノンが待つ居間まで戻ると、机上に昼食が並べられていた。

 

「お目当ての物は見つかりましたか?」

「求めていた武装は無かった」

「……そうでしたか」

「それよりもだ。AdarRambA(アダールランバ)へ向かうための通行手段はこの町にあるか?」

「そうですね……。確かお隣さんが『馬車に乗ってアダール・ランバまで向かう』と以前に仰っていました」

 

 私は地下室から運んできた武装を扉の横に並べる。そしてマノンに数枚の金貨が入った袋を手渡した。

 

「あの武装をアダールランバまで運べるか交渉しろ。この金貨はその対価に使え」

「ヒュブリス様、アダール・ランバの何処に運べば……?」

「人目の付かない場所に隠すだけでいい。後は自力で探す」

「分かりました。あなた様方が旅立った後、お隣さんへすぐに声を掛けておきます」

  

 金貨を受け取ると懐に仕舞ったマノン。私は周囲にリディやジョスの姿が見当たらないことに気が付き、キリサメへ視線を移す。

 

「あの二人を呼んで来い」

「えっ? 何か話すことでもあるのか?」

「昼食が冷めるだろう」

「あー、そういうことね」

 

 キリサメが納得した様子でリディたちを呼びに向かった。私はマノンと二人きりになったことを確認し、金貨の袋をもう一つ手渡す。

 

「こちらもお隣さんへの交渉に使う金貨ですか?」

「違う。お前たちの分だ」

「……私たちの?」

「吸血鬼共に畜産物やらを献上する必要はなくなったが、しばらく生活は安定しない。女手(おんなで)一つであの二人を育てるのも苦労するだろう」

 

 呆気にとられ、こちらの顔を見つめてくるマノン。私は視線を逸らしながら温かい昼食が並べられた机上の前に座る。

 

「申し訳ありませんヒュブリス様。クロウデル家の家訓で、あなた様から希少品を受け取ることは禁じられて──」

「ならその家訓を消してこう付け足せ。『私から与えられたモノは素直に受け取る』とな」

「──!」

「それにクロウデル家の血筋が途絶えるのは私にとっても損害になる。受け取ることが私の為でもあることを忘れるな」

「……ふふっ、はい分かりました」

 

 私の言葉を聞くとマノンは静かに微笑んだ。お互いに口を閉ざせば訪れるのは静寂。すると遠くからキリサメたちの足音が聞こえてくる。

 

「おーい、リディとジョスを連れてきたぞー!」

「ありがとうございます。では少し早めの昼食を摂りましょうか」

「……? おかーさん、なにかうれしいことでもあったの?」

「今日から平和に過ごせる……って考えると嬉しくなっちゃいまして」

 

 不思議そうに首を傾げるリディ。その後、キリサメたちは談笑をしながらパンに齧り付き、私はただ黙々とスープを口まで運んだ。

 

「ヒュブリス様にキリサメ様、本当に行ってしまうのですか?」

「あぁ、私はAdarRambA(アダールランバ)まで向かう必要がある。この町に長居することはできん」

 

 そして私とキリサメは身支度を整え、マノンたちと家の前で向かい合う。リディは別れを惜しんでいるのか悲しそうな顔をし、ジョスはバツが悪そうに他所を見ている。

 

「おねーさん……」

「どれだけ悲しもうが私の考えは変わらんぞ」

「うん、わかってるよ。だからね、おねーさんにこれをあげる」

 

 リディが渡してきたのは一枚の画用紙。クレヨンで描かれていたのは私の姿らしき絵。右手にルクスαを、左手に杭を持ちながら吸血鬼を倒している。

 

「朝方から姿を見せなかったのはこれが理由か」

「おねーさん、もしかして嬉しくなかった……?」

「……貰えるものは貰っておく」

 

 画用紙を受け取りつつそう答えるとリディは表情を明るくさせた。その光景を傍観するキリサメは、温かい目で私を見つめてくる。

 

「ほら、ジョスも最後に挨拶をしてください」

「……」

「すみません。夫に似ているのか、少し頑固なところがありまして……」

「構わん」

 

 マノンにそう促されるが俯いたまま、だんまりとするだけのジョス。私はしばらくそのバツの悪そうな態度を見つめ、背を向けて歩き出した。キリサメもすぐに私の後を追いかけてくる。

 

「声を掛けなくていいのか?」

「必要ない。私はあの男に言葉を求めては──」

「あ、ありがとうッ!!」

 

 背後から聞こえてくるジョスの声。キリサメは思わず振り返り、私はその場に立ち止まる。

 

「この町を、母ちゃんを助けてくれてありがとうッ!!」 

「……ジョス」

 

 声を荒げながら初めて感謝の言葉を述べるジョス。マノンは驚きに満ちた顔で自分の子の名前を呟く。

 

「……助けたつもりはない」

「えっ?」 

「私はただ──吸血鬼共を始末しただけだ」

 

 ジョスにそれだけ伝え、私は再び歩き出した。歩きながら空を見上げると昨晩のような雨雲は消え、真っ青な空が視界に映り込む。

 

「おっ、T機関のお二人さん~! やっと来ましたな~?」

「誰だお前は?」

「やだなぁ昨日会ったじゃないですか!」

 

 集合場所では既にルーナ班と大型の馬車が待機していた。私たちの姿を見かけると、黒縁の丸眼鏡をかけた女が駆け寄ってくる。

 

「ほれほれ、早くあの馬車に乗ってください!」

 

 どうやら他の者たちは既に馬車へ乗り込んでいるらしい。私とキリサメは促されるがまま、乗車しようと丸眼鏡の女の後に続く。

 

「……?」

 

 その最中、泥水の中で銀色に発光する物体が目に入った。私はしゃがみ込んで発光した物体を拾い上げる。

 

「小型の(かね)……?」

 

 指で泥を拭うとその正体は銀で作られた小型の鐘。試しに一度揺らしてみれば、想像していた通りの高い音を鳴らす。

 

「……昨晩の伯爵が持っていたものか?」

 

 転がっていた場所は伯爵に銀の杭でトドメを刺した位置。私は伯爵がこの鐘を所持していた不明瞭な理由に、表情を険しくさせつつ懐に仕舞う。

 

「どばばーん! ここが私たちルーナ班の馬車ですよ!」

「そ、そうなんすねー!」

「どうですか?」

「えっ? あ、あぁー……なんかアットホームな感じがするような?」

 

 内装は他の馬車と変わらない……にも関わらず、しつこく迫りくる丸眼鏡の女にキリサメは苦笑する。

 

「……アーちゃん、おはよ」

「その呼び方はやめろ」

「ここ、空いてる」

 

 馬車の奥ではルーナが座っていた。私に挨拶するなり隣の席を軽く叩いて、座って欲しそうにこちらを見つめてくる。

 

「私はここでいい」

「じゃ、じゃあ俺もその隣で──」

「ありゃぁー!? 駄目ですよアレクシア氏にキリサメ氏! 二人の席は私が決めたんですから!」

 

 妙に張り切っている丸眼鏡の女に腕を掴まれると、違う席に座らされた。左側には丸眼鏡の女が、右側にはキリサメという座席。

 

「ララ、何をしているんですか……。僕らには時間がありません。もう出発しますよ」

ごめんめん(・・・・・)です、アラン氏。この馬車の行く末、頼みますぞ~」

「行く末も何も、ネクロポリスまで馬を走らせるだけでしょう。……まぁいいです、出発しますよ」

 

 御者はあの堅苦しい男のようで、ルーナの後方からそんな声が聞こえてくる。そして馬車がゆっくりと動き出した。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「さてさて、それではお二人にルーナ班のイカしたメンバーをご紹介しますね」

「あぁ」

「まず私はLala(ララ) Angell(エンジェル)と申しますぞ。O機関ではエレナ氏と共に戦場を颯爽と潜り抜ける……まさに『戦場の天使』とも呼ばれて──」

「……『戦場の雑音』の間違いじゃないか?」

「あっちゃちゃ~! これは痛いところを突かれましたなぁ……!」

 

 私が皮肉を述べればララは自身の額をぺちんと軽く叩き、わざとらしく舌を出す。私やキリサメだけでなく、ルーナたちも冷めた眼差しをララに送っている。

 

「お次のメンバーは……じゃじゃ~ん! O機関のNorman(ノーマン) Hamond(ハモンド)氏です。厳つい顔をしていますが……こんな顔をして、片手で林檎を握り潰せるんですぜ」

「いや、どこのギャップで驚けば……?」

「な、なんとっ!? 片手で林檎を握り潰せるんですかノーマン氏!?」

「何で自分の言ったことで驚いてるんですか……?」

 

 キリサメが苦笑交じりにそう言及すれば、ノーマンと呼ばれた男は両耳の銀のピアスを揺らしつつ、呆れた様子で溜息をついた。

 

「そいでそいで、あそこのザ・反抗期くんはTim(ティム) Brian(ブライアン)氏です。十七歳という若人な身で、このルーナ班に入ってるエリートくんでもあります」

「十七歳……ってことは俺やアレクシアとほぼ同期ですね」

「はややっ!? 今気づきましたがお二人はティム氏と同期ですか!?」

「あの、今そう言ったんすけど……?」

 

 ティムは紫髪のくせ毛を弄りながら他所の方向を向いている。私たちのことをよく思っていないらしい。

 

「最後にR機関のAlan(アラン) Warner(ワーナー)氏です。はい、以上です」

「なぜ僕だけ機関名と名前だけなのですか!?」

「だって、アラン氏……面白味ないじゃないですか」

「これが普通ですよ!」

 

 短縮された紹介に不満の声を上げるアラン。そのやり取りにティムとノーマンは「また始まった」と言わんばかりに目を瞑る。

 

「そもそも僕らの使命は吸血鬼から人々を守ることであり、面白味など何の優位性も得られないもので──」

「でもその優位性の差が今出てますよ?」

「ぐぬっ……ゆ、優位性というのは吸血鬼との戦いに関する──」

「つまらん男ですなぁアラン氏は。口を開けば『ルーナ様』や『吸血鬼』や『使命』とかばっかり言って。ルーナ氏もそう思いませぬか?」

 

 ララが共感を求めるように声を掛けると、ルーナは沈んだ表情でララを見つめ返し、

 

「私の紹介、どこ……?」

 

 と聞き返したことで馬車内は静寂に包まれ、

 

(……この班は曲芸団(・・・)か)

 

 幸先不安な始まりに私は現実逃避をするように俯くことにした。

 

 

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