ЯeinCarnation   作:酉鳥

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7:26『vs 黒薔薇の開花B』

 

「あぁ鐘の音は、祝福は、すぐ目の前にッ!!」

(……やはり行動が読まれている)

 

 日本刀と刀剣による至近距離での攻防。カムパナを間近で観察をしてみれば、私が繰り出す不意を狙う一打のみ、動きを変えて寸前で防いでいる。

 

(数秒先の音が聞こえるとなれば……日本刀と刀剣が衝突する音で判別しているのか?)

 

 キリサメが述べていた『カムパナは数秒先の音が聞こえる』という仮説。私は確証を得るために左手をカムパナまで伸ばす。

 

(……試す価値はあるな)

 

 視線を一瞬だけ私の左手に向けるカムパナ。その佇まいや表情からはどこか耳を澄ましているように見えた。

 

「ふっふふふっ……狂愛によって咲き誇る黒薔薇に、貴方は触れることすらできないでしょうッ!」

「──Inferno(インフェルノ)

 

 カムパナは血涙の名を耳にする前にそう強く確信し、日本刀を私に向かって振り下ろす。インフェルノは燃やし尽くす獄炎の力。肉体を再生可能なカムパナは後退する必要はないと判断したのだろう。

 

「……? この音は、違うッ──」

「もう遅い」

「くあぁぐッ!?」

 

 しかし私の左手が獄炎に纏われることはない。飛び出したのは無数の蒼色の蔓。カムパナの首元に巻き付き、強引に床へと叩きつける。その一打を無駄にすることなく、私は刀剣を振り下ろし、右頬から床にへばりついた左頬まで刀剣を突き刺した。

 

「ふッふふッ……私を、嵌めるとはッ──ごッゥぼッ!?」

 

 瞳孔が開いた顔で喋ろうとしたカムパナ。私は握っていた刀剣を時計回りに捩じり、黒い血液で満たされた口内を抉る。

 

「やはり貴様には数秒後の音が聞こえるらしいな」

 

 カムパナは私が力の名前は述べる前に動き出した。それが意味するのは「Inferno(インフェルノ)」という単語で獄炎を放つと予想を立てたから。

 

「ええ、貴方の仰る通りです……ッ。私には、行く末のあらゆる音が聞こえます」

「それが呪印の──」

「『それが呪印の力なのか? それとも黒薔薇の開花とやらで発現した力なのか?』……と貴方はそう聞きたいのでしょう?」

 

 私の言葉を先読みしたカムパナは刀剣で貫かれた両頬を吊り上げ、こちらを見上げながら不敵に微笑んだ。その不気味な笑みに私は思わず顔をしかめる。

 

「ヒュブリス、貴方へ手向けの言葉を送りましょう。呪印とは狂愛であり、狂愛には代償が伴うのです」

「代償だと?」

「ふッふふふッ……狂愛を授かる資格を得た者は、その狂愛に見合った『人間性』を捧げなければなりません。私が黒薔薇に捧げたものは──五感の一つである『聴覚』」

 

 カムパナは両頬を貫いた刀剣を右手で握りしめると、その怪力で少しずつ持ち上げていく。ルクスαの刀身がギシギシと軋む音に、頬の肉が削れる不快な音が聞こえてくる。

 

「狂愛へ捧げた五感は不完全となり、苦痛の日々を送ることになるでしょう。あらゆる音が遅れて聞こえる地獄の日々。私はその日々を歩んできました」

「……」

「ですが、それはすべて呪印による狂愛を受け取るためッ……! 黒薔薇の開花を迎えた今、私はマニア様から狂愛を授かり、あらゆる行く末が聞こえるのですッ!! 狂愛に、黒薔薇に、私は愛されているでしょう……ッ!!」

 

 カムパナはそう声を荒げながら私の刀剣を押し退けた後、右手で床を強く叩き、その反動で後方へ身体を大きく逸らしながら、宙で回転して立ち上がる。

 

「……手を出した理由を答えろ」

「ふふッ、貴方には何度も伝えましたよ? 呪印とはマニア様からの狂愛ッ! 黒薔薇の使徒として、この心臓をマニア様に捧げるため──」

「呪印とやらについてではない。私が聞きたいのはこの町の人間に手を出した理由だ」

 

 興奮した様子で語り続けるカムパナ。私がその言葉を遮れば「何故そんなことを聞くのか」と言わんばかりに冷めた顔をする。

 

「それは信頼の為です」

「信頼?」

「愛を育むためには……まず信頼という過程を歩まなければなりません。マニア様は酷く、苛烈なほどに人間共を憎んでいる。そのマニア様と信頼を築くためには──憎き人間共を排除しなければならない」

 

 カムパナは黒い薔薇の模様が浮き出る肉体を愛おしそうに両手で弄った。刀剣で貫いたはずの両頬は既に完治している。

 

「マニアとやらから信頼を得る為に殺したのか」

「ええ、そうですよ」 

「なら呪印を分け与えたのは何故だ? 貴様にとって人間はただの道具に過ぎんはず──」

「貴方は何を仰っているのですか? 呪印を分け与えたのは私が慈悲深いからでしょう?」

「……貴様が慈悲深いだと?」

 

 そう信じ込んでいるかのように返答するカムパナ。私は眉間にしわを寄せ、慈悲深いと主張するカムパナを見つめる。 

 

「従来ではマニア様の狂愛を授かる資格など愚かな人間共にはありません。ですが私は慈悲深い。人間共に愛という名の呪印を分け与えました。あぁこの町の人間共は果報者です」

「……当事者がそれを望んでいると思うのか?」

「望んでいる? ……ふふッ、ふふふふッ!」

 

 何が可笑しいのか口元を軽く手で押さえ、カムパナは静かに微笑した。そしてこちらに向けた瞳には、

 

「当然でしょう? 『平穏』を望んだのは、『救済』を渇望したのは人間共です。現に私はあの者たちを救済し、永久なる平穏を授けました。吸血鬼や死を恐れる必要のない──不死の肉体へと変えて」

 

 自身が慈悲深いと信じて疑わない盲信。黒薔薇への、マニアとやらへの忠誠に入り混じった狂気。それらが浮かび上がっているようだった。

 

「あぁヒュブリス、これが慈悲深いと言わずして──」

 

 姿をその場から一瞬にして消し去るカムパナ。私は左手から蒼い蔓を天井まで伸ばし、一気に手繰り寄せてその場から飛び上がった。

 

「──なんというのでしょうッ!」

 

 カムパナは私の真上へ姿を現せば、落下しながら日本刀の(かしら)に両手を乗せ、その剣先をこちらの胸元へ突き刺そうとする。

 

「下らん慈悲だな」

 

 しかしそれは憶測していた通りの動き。私が左手を更に手繰り寄せれば、カムパナの頭部目掛け、天井に吊り下げられていた銀の鐘が落下してくる。

 

「ふふッ、貴方のすべてが聞こえますよ?」

「──ッ!」

 

 カムパナは見上げることもせずに日本刀を振り上げ、向かってくる銀の鐘を弾き返し、追撃を加えるように宙で私を水平方向へと蹴り飛ばした。

 

「……どういうことでしょう? 弾き返したはずの鐘の音がなぜ──」

 

 カムパナがそう言いかけた瞬間、周囲に響き渡る甲高い鐘の音。心地よいものではなく、耳を劈くような金属同士の衝突音。

 

「──くぁあ"あ"ぁあ"ぁッ!?」

 

 そしてカムパナの頭部に勢いよく衝突するのは先ほど弾き返した銀の鐘。そのまま祭壇近くに飾られた鐘の銅像にカムパナは身体を打ち付ける。

 

「答え合わせは済んだか?」

 

 そう問いかけた私の右手から伸びているのは蒼い蔓。蔓の先に結ばれていたのは刀剣ルクスα。先ほどの衝突音の正体はこの刀剣と天井に吊り下げられた銀の鐘。

 

「音を、音でかき消すなんて……ッ! ふふッ、ふふふッ! ヒュブリス、貴方は頭がよく回りますね。とても、非常に、狡猾だと憎いほどにッ!」

 

 数秒後の音を聞かれ行動が読まれるとなれば、対策法はたった一つだけ。カムパナの耳元に届かないよう、他の騒音でかき消すのみ。利口な策とは思えないが、こうするしか手立てはない。

 

(……Masquerade(マスカレイド)Omen(オーメン)は一定の動作が必要になる。言葉で偽れん以上、この女に通用するのは『炎』と『蔓』だけか)

 

 左手を顔に付けるマスカレイド。右手に本を呼び出すオーメン。一度目は通じたが二度目はどうやっても誤魔化せない。私は礼拝堂の高い壁に張り付きながら、伸ばしていた蒼い蔓を片方ずつ戻し、刀剣を逆手持ちに握りしめる。

 

「ふふッ、ですがヒュブリス……そのような狡猾かつ消耗の激しい策がいつまで通用するのでしょうか?」

「貴様が失せるまでだ」

 

 お互いに壁を勢いよく蹴れば、礼拝堂の宙で刀剣と日本刀が幾度も衝突し合い、赤色の火花を散らした。

 

「あぁ鐘の音がッ、私を包み込むように鳴り響くッ!! まるで私とマニア様の狂愛を祝福するかのようッ!」

 

 壁を駆けながら銀の鐘を鳴らしつつ、カムパナとの攻防を繰り返す。けたたましい鐘の金属音と刃が擦れ合う音だけが礼拝堂を支配した。

 

(数秒後の音を聞かれないよう立ち回り、鬱陶しい空間移動にも対応しなければならない。対応できたとしてこの女は不死の肉体。始末するには解呪の鍵となる四つ目の銀の鐘が必要、か……)

 

 考慮するべきことが多すぎる現状。やや劣勢な戦況を覆すために思考を張り巡らせていれば、カムパナは空間移動を繰り返し、こちらの背後まで回り込んでくる。私はそばに吊り下げられた鐘を刀剣で鳴らしつつ、そのまま振り返ったが、

 

「あぁヒュブリス、その狡猾さはもう通用しません」

「──ッ!」

 

 その一手が失態だったと後悔する。何故ならカムパナは私の刀剣を回避しようとはせず、その不死の肉体で敢えて斬られ、日本刀を的確に私の胸元へ突き刺してきた。日本刀の刃が微かに心臓を掠め、思わず吐血をしてしまう。

 

「行く末の音が聞こえなくとも、私は授けられた狂愛によって不死となりました。この心もこの身も永久にマニア様と生き続けるのです。踏まえて貴方に現実を突きつけるのであれば──」

 

 胸元を抉るように日本刀を()じり、カムパナは私の前まで顔を近づければ、

 

「──どれだけ抗ってもなるようしかなりませんよ」

 

 勝利を確信したかのように不敵な笑みを見せつけてきた。私はその気に食わない顔を見つめ、眉を顰めていると、

 

「ェゥウ"ア"ァァア"ァ……ッ」

 

 鋏女が小さな呻き声を上げる。ふと視線を逸らせば、鋏女は私へ銀の鐘が埋め込まれた顔を向けていた。

 

『やったぁー! わたし、おかーさんのお弁当大好き!』

『はははっ! 俺の方がもーっと好きだぞ!』

『じゃあ私の方がもっともぉーっと好きだもん! おとーさんに負けないぐらい!』

 

 脳裏を過るのは鋏女が人間だった頃に家族と過ごしていたあの光景。救済など必要はないほどに平穏だった。

 

『ア"ッ……ア"ア"ァア"ァァ……ッ!!』

 

 脳裏を過るのは絶望するようにひれ伏していた亡者たち。その中でも私たちへ縋るように家族写真を渡してきた亡者が鮮明に過った。

 

『もうすぐ、おかーさんのおいしいごはんをたべれる。もうすぐ、おとーさんといっぱいおさんぽできる。あしたが──すっごくたのしみ』

『ゥア"ァェエ"ァア"……ッ! ェァウ"ゥウ"ア"ァア"ッ! ア"ァァア"ェア"ァア"ー-ッ!!』

 

 脳裏を過るのは愛する娘を弄ばれ、泣き叫びながら自害を試みようとする母親。亡者となった父親と抱き合う姿が鮮明に映り込んだ。

 

『だ、だすけて……ッ、だれか、だれか……ッ』

『ですがあなたと僕らは何もかもが違うッ……。僕らが何者になるかは、げほッ、僕らが何を守るかですべて決まるッ……。僕らは弱き民を守りたい、僕はこのルーナ班を守りたいッ……』

 

 ララが這いずり回る光景と血塗れのアランがカムパナに立ち向かおうとする光景。見覚えはないがあの鋏女によって映し出されている。ふと視線を下げればルーナ班が深い傷を負って倒れている姿が目に入った。

 

『ごめん、すげぇかっこ悪いけど……後は任せてもいいか?』

 

 最後に映った光景は両腕を犠牲にしてまで時間を稼いだキリサメ。そして時の進みがゆっくりとなった世界でハッキリと聞いた声。

 

『お願いです……呪印に囚われた私たちへ、カムパナに支配されたこの町へ──』

(……この声は)

『──どうか安らかな死を与えてください』

 

 聞いた覚えはないがすぐに理解した。鋏女が人間だった頃の、母親として生きていた頃の声だと。その声を聞いた後、鋏女は祭壇の背後にある巨大なステンドグラスへ視線を移した。私はその意図をくみ取ると我に返り、刀剣を強く握りしめる。

 

「……言われなくても」

「どうしましたか? 絶望のあまり返す言葉も見つからないのでしょうか──」

 

 その言葉を最後まで聞き終える前に私は蒼色の獄炎を纏わせた刀剣を振り上げ、

 

「──終わらせるつもりだ」

「くぁッは……ッ!?」

 

 反撃だと言わんばかりにカムパナの胸元へ突き刺した。想定外の行動だったのか黒い血液を口から大量に吐き出す。

 

「ふッ、ふふふッ!! 一歩後退するぐらいなら一歩を踏み出して刺し違えようとする……ッ。貴方の恐れのなさは、本当に、変わりませんね……ッ!」

 

 日本刀を引き抜き、地上の祭壇まで空間移動をするカムパナ。私は貫かれた胸元をスパイラルで治癒しつつ、地上へと降り立った。

 

「いいでしょうヒュブリスッ! 私が最期まで見届けてさしあげますッ!! 貴方が不死に肉体を前にし、朽ちていくその華奢な肉体をッ!!」

「朽ちるのは……貴様の方だ」

  

 その場を同時に駆け出せばお互いに正面から斬り合う。更に熾烈な攻防は足元に転がっている長椅子の残骸を吹き飛ばし、天井に吊り下げられた鐘の音を大きく揺らした。

 

「ふッふふッ、くッふひゃひゃひゃッ!! いいです、いいですよヒュブリス! 呆気なく散るのではなく、華やかに散ろうとしているのですねッ!!」

 

 この身が日本刀で斬られようが突かれようが、ひたすらカムパナを刀剣で斬り刻む。肉体の消耗戦。別の言葉で言い表すのなら、『血涙による再生能力』と『呪印の再生能力』での消耗戦に近い。

 

「さぁヒュブリスッ!! 貴方が、貴方が黒薔薇の開花を前にして手足を失っていく姿を見せてくださいッ!!」

「──ッ!!」

 

 お互いに後退りすらしない近距離での攻防。カムパナが日本刀の斬り返しで、刀剣を握っていた右腕が再び斬り落とされる。

 

「くあぁぁッ、何故怯まずに──くッごぉおッ!?!」

 

 だが私は一切狼狽えず、足元に転がっている刀剣を左脚の甲で蹴り上げ、左手で握りしめる。そしてカムパナの肉体を一度斬り裂いた後、左耳から右耳まで刀剣を貫通させた。

 

「あッあぁぁあッ、鐘の音が、私の鐘の音が聞こえませ──うぐぉごッ、くあぁぁッ!?」

 

 カムパナは破れた鼓膜に動揺を隠せず、刺さった刀剣を引き抜こうと必死になる。再生まで恐らく数秒はかかるだろう。私は音が聞こえないカムパナの顎を蹴り上げ、左手のみでひたすら斬り刻む。

 

「非常に狡猾……いえ、憎たらしいことをッ!!」

「……ッ! 逃がさん」

 

 空間移動で距離を取るカムパナ。私は右肩の切断面から斬り落とされた右腕まで蒼い蔓を伸ばし、血涙の力で結合を始める。血涙を持て余すことなく扱っているせいか、とにかく頭痛が煩わしい。

 

「何度も何度も貴方には伝えたはずでしょうッ!? 私は狂愛によって不死の肉体を得ていると!! 貴方には殺せないというのに、何故そこまでして立ち向かうのですかッ!?」 

 

 再び始まった日本刀と刀剣の攻防戦。カムパナはどこまでも食らいつく私に表情を険しくさせ、そのようなことを尋ねてくる。

 

「これは私の憶測に過ぎんが──」

 

 そう呟きながらも私は脇腹を日本刀で突かれたが、代わりにカムパナの右脚を刀剣を斬り裂いた。

 

「──貴様は『四つ目の銀の鐘』を礼拝堂のどこかに隠しているはずだ」

「……ッ!!」

 

 図星を突かれていたのかカムパナの剣筋が僅かに狂う。私は激しい攻防をしつつも

、追い詰めるように続けてこう話した。

 

「貴様は黒薔薇の使徒とやらの新米だ。呪印の力に対しての不安要素、マニアとやらが信頼に値するかを懸念していてもな」

「ふッふふッ、虚言を吐くなど憎たらしいですねッ! 私はマニア様を心から愛しています! そのような虚言は所詮貴方の妄想に過ぎないでしょう!」

「そうか、虚言に過ぎないか。なら試してみよう」

 

 私が視線を向けるのは祭壇の背後に飾られる銀の鐘が描かれた巨大なステンドグラス。そこへ足元の長椅子を蹴り飛ばした。

 

「──ッ!」

 

 カムパナは即座に祭壇まで空間移動をし、長椅子を日本刀で真っ二つに斬り刻んでしまう。まるでステンドグラスを守護するように。

 

「貴様は祭壇の前まで頻繁に後退していた。露骨すぎるほどにな」

「……」

「そこまで後退したのは数秒後の音が聞こえたからだろう。……そのグラスが割れる音(・・・・)が」

「……ふッ、ふふふッ、くッふッひゃひゃひゃひゃひゃッ!!」

 

 空いている手で顔を押さえながら高笑いするカムパナ。私は切断された右腕を完治させ、右手で銃を構えた。

 

「無数の虚言を並べたところで真言にはなりませんよ? 私がマニア様を信頼していない? 呪印の力を不安視している? ヒュブリス、その口を塞ぎなさいッ!!」 

「……」

「私はマニア様を海の底より深く愛し、黒薔薇の開花を誰よりも強く望んだのですッ!! それらに恐怖して解呪するための銀の鐘を保身の為に用意したなど……マニア様を、黒薔薇を裏切るような真似をするはずがありませんッ!!」

 そう叫んだカムパナは私の目の前まで空間移動すると、こちらへ日本刀で斬りかかってくる。私は左手で日本刀を受け流しつつ、右手に構えた銃をステンドグラスに向けて発砲した。

 

「──ッ!」

 

 やはりカムパナはステンドグラス前まで空間移動をし、弾丸を日本刀の鞘で弾き飛ばす。言葉と身体が乖離するような行動を起こすカムパナに私は眉を顰める。

 

「……ヒュブリス、貴方と戯れる時刻は過ぎました。今この瞬間──貴方には死刻を迎えてもらいましょうッ!!」

「……っ」

 

 カムパナは私に一瞬で詰め寄り、右手に握りしめていた銃を破壊した。そして日本刀と鞘の二刀流で連撃を繰り出してくる。

 

「死ぬのは貴様だ」

「あッあぁあぁあ……ッ!! 私が、狂愛を授けられた私が、貴方に押し負けることなんてあり得ませんッ!! そのような真実が──」

 

 私は二刀流の連撃を刀剣で真正面から受け止め、祭壇まで一歩ずつ押し込んでいく。数秒後の音を聞こうが私はこの身を削り前進を続けているため、カムパナが後退りを続ける一方だった。

 

「──あってはならないのですッ!!」

「……ッ」 

 

 カムパナは私の胸倉を掴むと空間移動で礼拝堂の天井まで連れていく。そして天井へ私の身体を叩きつけ、日本刀で胸元を突き刺し、鞘で腹部を押し込み、動けぬよう固定をした。

 

「このまま尽きるまで見届けてあげましょうッ! 鐘の音と共に……苦痛と共に天へと昇りなさいッ!!」

(……まずいな、抜け出せん)

 

 強引に抜け出すとしても自ら肉を斬り落とすしかないが、そのような荒業をこなせるほどの体力は残っていない。鞘で腹部を圧迫され、乾いた空気を吐いてしまう。

 

「さぁヒュブリス、黒薔薇の名の下に貴方へ死刻を告げ……銃声? どこから──くッあぁぁぁあぁあぁッ!?!」 

 

 そう言いかけた瞬間、カムパナは奇声を上げながら両耳を塞いだ。地上で僅かに動くのは這いつくばったララ。私はすぐさま両耳を塞げば、

 

「くッあぁぁあぁあぁあッ!!? 耳が、私の耳が何も聞こえなくッ!!」

 

 大型の狙撃銃から発砲音がすると同時に、跳弾が私に突き刺さっていた日本刀へ直撃し、真っ二つに叩き折った。間近で聞けば鼓膜が狂うほどの金属の破裂音。カムパナは数秒先でこの音を聞いたらしい。

 

「……エンジェル……バレット……ッ」

 

 そう小さく呟いて気を失ったララ。キリサメがカルキノスで日本刀の耐久度を削っていたからこそ、ララの一発の弾丸で折れたのだろう。

 

「今を逃せば──次はない」

「くッあぁあ……ッ!?!」

 

 私は胸元に日本刀の刀身を突き刺したまま、カムパナの顔を右手で掴み、逃げられぬよう蒼色の蔓で固定すると、天井を力強く蹴って、ステンドグラスまで落下を始める。

 

「ヒュブリス、この時代に私たちリンカーネーションの居場所はありませんッ!! 私なら貴方に黒薔薇十字団という居場所を用意できるでしょうッ!! 貴方にも黒薔薇の開花がどれほど素晴らしいものか理解したはずですッ!」

「……」

「私は、私は貴方と同じ転生者でしょう!? 吸血鬼ではなく、転生者なのですッ!! 転生者殺しの汚名を背負い続けてもいいのですか?!」

「……転生者殺しか」

 

 そう訴えかけながら私の手を引き剥がそうとするが、蒼い蔓で頑丈に固定しているため剥がせない。修道女が押さえ込まれたことで空間移動が使えないように、やはりカムパナも身動きを封じられると空間移動を扱えないようだ。

 

「下らん栄光を理由にこの町の人間をエサにし……」

「ヒュブリス、貴方はまだ理解していないのですッ!! 人間共がどれだけ愚かしい存在なのかを……ッ!! レナトゥス裁判でどれだけの犠牲者が出たのかをッ!!」

「この町の平穏(・・)を、貴様の下らん平穏(・・)で塗り変えた」 

 

 カムパナの訴えを無視しながら私は冷めた眼差しで荒んだ瞳を覗き込み、

 

「貴様を生かしておく理由が──どこにある?」

「ひッ……!?」

 

 軽蔑するように睨みつけた。巨大なステンドグラスが数メートルの距離まで近づけば、カムパナは私の首を怪力で締め上げてくる。

 

「まだ、まだ鐘の音は鳴り止みませんッ!! 私へ、私へ祝福を与える鐘の音は、勝利を告げる鐘の音は、もうすぐ聞こえ──」

「違うな。聞こえるのは祝福でも勝利でもない」

 

 顔を掴む右手の力を更に強め、降下中に体勢を前のめりにしてから、ステンドグラスに向けて右腕を大きく振りかぶる。

  

「私をここで始末することは、貴方が黒薔薇に仇を成すことを意味するのですッ!! 私以外の黒薔薇の使徒に、マニア様に命を狙われることになるでしょうッ!!」

「最期に聞こえるのは──」

「黒薔薇に、黒薔薇に牙を剥いた愚かな選択を、後悔する前に……ッ!! 離せッ、離しなさいヒュブリスッ!! 離せッ、離せぇえぇえぇー-ッ!!」

 

 巨大なステンドグラスをカムパナの頭部でバラバラに叩き割り、

 

「──終焉を告げる鐘の音だ」

「ヒュブリスゥウゥウウゥウゥー-ー-ッッ!!!」

 

 向こう側に隠されていた巨大な銀の鐘をカムパナの頭部で打ち鳴らした。

 

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