ЯeinCarnation   作:酉鳥

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8:28『vs メデューサC』

 

「どうしてお前がいるんだ?」

「不敬者、お前ではありません。姉上と呼びなさい」

 

 大鎌をゆったりとした態度で構えるスノウ。大剣の鞘をエウリュアレへ向けるクレス。二人は険悪な空気の中でそれだけ言葉を交わすとしばし沈黙する。

 

「ネ、ネエ様……ボクらで相手しきれるカナ?」

「クッククッ、怯えちゃダメよエウリュアレ。ここで雪月花をまとめて喰い殺すことができるの。むしろ幸運なことを祈りましょう」

 

 ステンノとエウリュアレの標的が切り替われば、クレスの背後に駆け寄るのは一人の異世界転生者。

 

「気を付けろクレス! ステンノとエウリュアレは厄介な力を持ってる!」

「その力の詳細は?」

「ステンノは『視界に捉えたあらゆる物体の時間をゆっくりにする力』で、逆にエウリュアレは『視界に捉えたあらゆる物体の時間を速くする力』だ! あの二匹を同時に相手にするのはやめた方がいい!」

 

 カイト・キリサメ。

 クレスの後方へ姿を見せればステンノとエウリュアレの力の詳細を語り始める。聞こえていたステンノたちは図星だったのか、蛇の目を丸くしながら眉間にしわを寄せた。

 

「あの小童、何者? アタクシたちの力をどうして知って……?」

「分かったネエ様! あのガキ、ボクら眷属の情報を網羅してるっていう……!」

「あぁそういうこと……。ノエル様が話していた例の異世界転生者だったのね」

 

 知った口ぶりでキリサメを眺めるステンノとエウリュアレ。スノウはキリサメが姿を見せたことで表情をより強張らせる。

 

「クレス、異例を捕縛する為の首輪が何故この場にいるのですか?」

「残念だが部外者に話すことは何もない」

「……後程言い分を聞かせてもらいます」

 

 長女のスノウは長女のステンノを、次男のクレスは次女のエウリュアレを見据えた。同じ立場だが

 

「今は異例となる存在を──速やかに排除しましょう」

 

 大鎌を左手に構えながらゆっくりと前進を始めるスノウ。そんな彼女の背中を見るとクレスはキリサメの方へ視線を向けた。

 

「キリサメ、怪我人をラミたちの元まで避難させてくれ」

「あぁ分かった! 負けんなよクレス!」

 

 キリサメは壁の隅に倒れているベッキーを抱えて、ロックたちの方へと運び始める。その際にラミはキリサメへ殺意を込めた睨みを利かせた。

 

「んで、誰こいつ?」

「史上最悪の疫病神よ。自分が死にそうになったら周囲の人間に死を押し付ける最悪の疫病神」

「ふーん、死神じゃん」

「聞いてくれラミ! それについてなんだけど俺は自分の奇術を──」

 

 ベッキーをエリンの隣に寝かせるとラミたちへ奇術の説明をするキリサメ。クレスはその光景を神妙な面持ちでしばらく眺め、エウリュアレへゆっくりと視線を移す。

 

「アタクシの炎で灰に変えてあげるわ……零度の冬雪ッ!!」

 

 無数の深緑の炎球がステンノの直線状に放たれ、スノウの元へと飛んでいく。しかしスノウは避ける素振りすら見せず、

 

「なッ!? 炎が消されて……ッ!?」

 

 正面から衝突した瞬間、炎球は跡形もなくかき消されてしまう。何故ならスノウの全身を硝子のように透き通った円状の氷壁が覆っていたからだ。

 

「くッ、エウリュアレ……!」

「分かってるよネエ様ッ──」

 

 ステンノの元まで前進を続けるスノウ。エウリュアレはステンノを援護するために大剣で斬りかかろうとしたが、

 

「──ッ!?」

 

 スノウの紅の瞳で睨まれた途端、エウリュアレの全身へ悪寒が駆け巡り、脳内で警鐘が激しく鳴り響く。生物としての生存本能がその巨体を止めてしまう。

 

「エウリュアレッ! ……だったらアタクシがその肉体の自由を奪ってッ──」

 

 ならばとステンノはスノウを視界に捉え、肉体へ遅延の負荷を与えようと試みる。

 

「ひッ──!?」

 

 だがそれすらも叶わなかった。スノウの殺気が込められた紅の瞳。それを目の当たりにし、ステンノは全身が凍り付いたかのよう手足が動かせなくなる。

 

「蛇が睨まれ(かわず)となるのですか?」

 

 例えるのであれば蛇に睨まれた蛙。自身よりも圧倒的な強者を前にして、ステンノは身動きの一つすら取ることができない。 

 

「エ、エウリュアレ! 早く、早くその女を殺しなさいッ!!」

「で、でもネエ様っ……。コワくて、カラダがウゴカナイんだッ……!」

「お前は次女でしょ!? 長女のアタクシの命令を素直に聞けぇッ!!」

「……長女」

 

 ステンノから数メートル離れた距離で歩みを止めるスノウ。語気を荒くさせているステンノの「長女」という言葉を静かに反復する。

 

「不敬者、長女を名乗れる者は第一線に立つ者だけです。次女を肉壁にし、長女が安全圏に立つなど──言語道断」

「その女を殺せ、殺すのよエウリュアレェエェーーッ!!」

「理を揺るがす異例よ。あなたを導いてあげましょう」

 

 そして大鎌を左手で器用に回転させ、凍えるような吹雪を巻き起こせば、白銀の景色を創り出し、

 

永久(とわ)に溶けぬ──零度の底へ」

 

 大鎌を右から左へと一気に振り抜きながらステンノへ背を向けた。湾曲した二枚の刃は空気を斬り裂き、音すらも凍り付かせ、

 

「これが、氷の皇女の力ッ……」

 

 時が動かぬ氷塊の中のような空間でそんな声が虚しく響き、ステンノの肉体は一滴の血飛沫も上げず、バラバラの氷片へと成り果てた。

 

「ネ、ネエ様っ……」

「残された不敬者はあなただけです。続けて粛清を執行すべきとも一考しましたが……」

 

 一撃で葬られたステンノの残骸を目にして呆気にとられるエウリュアレ。スノウは淡々とそう述べ、大鎌を手元から消滅させる。

 

「クレス、あなたに後は任せましょう」

「ウギャッ……?!」

 

 そんなスノウからの呼びかけと同時にエウリュアレの六本の腕が軽く吹き飛ぶ。離れた場所ではクレスが真っ黒な弓を構えていた。

 

「今晩の天気予報は──」

 

 そう言いながらクレスが天井へ解き放つ一本の弓矢。真っ直ぐエウリュアレの頭上へと飛んでいき、

 

「──矢の雨らしい」

「ナ、ナニあれッ……!?」

 

 何百、何千もの弓矢へと分裂をし、一斉にエウリュアレの元へと降り注ぐ。エウリュアレはすぐさま腕を再生させ、自身の能力で肉体の時間を速め、大剣を振り回して弓を弾き返し始めた。

 

(アイツはイマ弓しか持ってイナイッ! 距離をツメれば……確実にコロせるッ!)

 

 エウリュアレは距離を詰めようと多少の弓矢を身体で受けながら、クレスのいる方角へ高速で距離を詰める。そして目にも留まらぬ速度で振り抜かれるのは、三本の左手に握られた三本の大剣。

 

「面白い力だな」

 

 クレスは予測していたかのように半身で避け切るが、三本の大剣はクレスの横髪を僅かに掠めた。エウリュアレに見えたのは微かな勝機。

 

(このニンゲンはウゴキがオソイッ……! 次のイチゲキで首を飛ばせてッ!!)

 

 その勝機を逃すまいとクレスの首を目掛け、反対側の右腕で追撃を仕掛ける。クレスは静かにエウリュアレを見上げ、大剣は細い首へ斬れ込みを、

 

「……エッ?」

 

 入れられなかった。

 というより大剣はクレスの首をすり抜けてしまった。まるで実体を持たぬ幽霊のようにすり抜けたのだ。

 

「どうした? もう終わりなのか?」

「ぐッぐぐぐッ!! こんのニンゲンごときがァアァアァッ!!!」

 

 挑発されたエウリュアレは憤怒に支配され、大剣を何度も何度もやけくそになって振り回す。だがしかしクレスの肉体を一度も傷つけることはできず、すべてがすり抜けてしまう。

 

「ナンで、ナンでッ、ナンで何でなんでェエェッ!?! ナンでアタらないんだよォオッ?!」

無敵判定(むてきはんてい)

「ヘッ?」

 

 振り下ろされた剣を弾き返すのは、弓から大剣へと変形したクレスの獲物。ぼそっと呟いたその一言と共にエウリュアレの三本の右腕を斬り飛ばす。

 

「アクションゲームにおいて必須とも呼べる仕様だ。これがないと集団戦、もしくは強攻撃でハメ殺しにされる」

「ハッ? へッ?」

「お前の一振りは発生フレームが十フレームもない上に、持続フレームが百フレーム以上ある。全体フレームに関しては一フレームもあるかないか……。無敵判定の仕様を組み込まないととんだ死にゲーだ」

 

 クレスの奇術である『無敵判定』。

 被弾時直後の数秒間、もしくは攻撃の予備動作に無敵判定を生み出す奇術。エウリュアレの大剣がクレスの髪に掠った際に、この奇術が効力を発揮したのだ。

 

「ナニを、ナニを言ってるのかワカラナイんだよぉおぉおッ!!」

 

 残された左腕の大剣を螺旋状に動かしながら怒声を上げるエウリュアレ。クレスは避けようともせず、むしろ自らエウリュアレの懐へ潜り込み、

 

「噛み砕いて教えてやる」

 

 長方形の鞘から大剣を引き抜いた。その刃は欠けた三日月のように白く煌めき、その刀身は夜空のように紺青で彩られている。

 

「お前の判定負けだ」

「アゥグッ……!?!」

 

 エウリュアレの三本の大剣は全てがすり抜けてしまい、クレスの大剣だけが的確にエウリュアレの下半身と上半身のつなぎ目に食い込むと、

  

「月に狂い、一夜に散れ」

「ヒギャアァアァァアァアッーー!!!」

 

 真っ二つに斬り裂き、切断された上半身と下半身は粉々に砕け散る。足元に散らばるのは月の石。静かに大剣を鞘へと戻すクレスに対し、スノウは気に食わぬ顔で視線を送る。

 

「情けないですねクレス。武力を持たぬ一国の皇子がその程度ですか」

「俺も情けないと思ってるよ。お前みたいな姉がいることに」

「不敬者、先ほど忠告したはずでしょう。お前ではなく姉上と呼びなさいと──」

「喧嘩すんなら後にしろっつーの。今大事なのはお花の大好きな皇女さまだろ」

 

 相も変わらず顔を合わせば睨み合う二人。呆れたロックが立ち上がると二人の間に仲裁へ入る。クレスとスノウはお互いに視線を逸らした瞬間、

 

「「「──ッ!」」」

 

 その場にいる者たちを包み込むような低い地鳴り。そして宮殿全体を破壊しかねない地震。ロックたちは奥まで続いた通路の方角へほぼ同時に振り向く。

 

「メデューサってのが暴れてんなこりゃあ」 

「──! なぁ、今メデューサって言わなかったか!?」

「あ? そうだけど?」

「くそッ、やっぱりステンノたちがいたってことはメデューサが……!」

 

 メデューサという名を耳にしたキリサメがロックの返答を聞くと、険しい顔で奥へと続く通路へ顔を向ける。

 

「おっ、知ってんの? そうなんだよ、あいつ始末しねぇとなんちゃら蛇女が蘇生されんだよなぁ」

「メデューサ本体に蘇生させる隙を与えなければ対策できる! 例えば……誰かがメデューサの相手をするとか!」

「へー、んなこと初めて聞いたわ。てか、んでお前知ってんの──あっ」

 

 キリサメの説明に耳を傾けながら天井を見上げるロック。ふと何かに気が付き、キリサメへ視線を移した。

 

「そういや相棒が独りで戦ってるわ」

「相棒……?」

「アレクシアのことか」

「アレクシアが……!?」

 

 クレスに補足されると「そういやそんな名前だったわ」と呑気に呟くロック。彼を他所にキリサメは焦燥感に駆られた顔でクレスとスノウを交互に見た。

 

「聞いてくれ! メデューサは全員の力を合わせないと倒せないんだ!」

「んぁ? 全員の力? 友情パワーみてぇな話がしてぇの?」

「いや、そうじゃなくてさ! まず前提としてここはメデューサの体内。だから俺たちの前に姿を見せるメデューサは『細胞の一部』みたいなもので……。何度倒したって無限に復活してくる!」

 

 必死に訴えかけるキリサメ。遠目でその説明を聞いていたルミとラミも彼らの元まで歩み寄る。 

 

「ならどうすればいいのかしら。ラミたちに打開策はないの?」

「……たった一つだけある」

「キリサメ、その方法は?」

 

 誰もが口にするであろうクレスの問いかけ。注目が自身に集まる最中、キリサメはしばし口を閉ざした後に天井を見上げた。

 

「大蛇の風穴ごと──崩壊させるしかない」

「あ? どうゆうこと?」

「大蛇の風穴はメデューサの体内だから……。この洞窟全体を崩壊させればメデューサは確実に倒せる」

 

 大蛇の風穴で増殖を試みていた脱皮型や大蛇が赤血球。大蛇の風穴は通り道の血管。ならば崩壊させてしまえばいい。メデューサへの打開策を聞いたロックたちは険しい顔で来た道へ顔を向けた。

 

「てか崩壊させるって……けっこー無茶言ってね?」

「それに異例の首輪。その規模を実現させるのであれば単騎で事が済む話でしょう──」

「複雑な構造をした大蛇の風穴を単独かつ、メデューサに気が付かれる前にすべて崩壊させるのは不可能。だからこそ人手が必要になる。……キリサメ、お前が言いたいのはこういうことか?」

 

 意図を汲んだクレスが代わりに説明すると、肯定を示すよう頷いてから真剣な眼差しをスノウへ送る。

 

「でもこの方法は俺たちにもリスクがあります」

「……それは私たちが異例の存在と生き埋めになるリスクですか?」

「そうです。最深部にいるメデューサを相手にしながら、大蛇の風穴ごと崩壊させる。この方法は無事では済まないかもしれな──」

 

 キリサメが渋い顔でそう伝えていると、スノウたちは何食わぬ顔で入り口の方角へと身体の向きを変えた。

 

「まっ、そうなったらそん時にどーするか考えようぜ」

「あぁそうだな。ミールのことも心配だが、差し当たってそのメデューサという怪物を対処しないといけない。……だが氷の皇女さん、お前に協調性はないと思うが?」

「不敬者、理を超えた異例の排除は私自身の誓約と使命です。手を取り合いたければ……我が身を可愛がる甘えた思考を捨てなさい」

「そうか。意志表明と要求が素晴らしく上手なことで」

 

 氷のような対応をされたクレスは呆れた様子でため息をつく。そして呆然と立っているキリサメに視線を送る。

 

「キリサメ、俺たち三人が一暴れしてくる。メデューサは頼めるか?」

「……あぁ! こっちは任せろ!」

「ひゅー、やる気だけはあんじゃん」

 

 一瞬だけ躊躇ったがすぐに返事を返すキリサメ。クレスは安心するように無言で頷き、ロックは感心した様子で口笛を吹いた。

 

「ラミ、キリサメのことを頼めるか?」

「……大バカ皇子、ラミにこの疫病神を御守りさせると土に還るかもしれないわよ?」

「冷静になったお前を信じてるんだよ。……あと最後まで面倒見切れたら専用のスマホを支給する」

「仕方ないわね。信じられてあげるわ」

 

 ラミが会話の最中にやれやれと言いたげな顔を浮かべていれば、スノウはルミへと顔を向ける。

 

「ルミ、あなたに命令を与えます。異例の首輪の側近を務めてください」

「スノウ様、私もこの方と共に……?」

「ええ、ですがミールを見つけ次第……護衛すべき対象をミールへ変えること。優先すべきはミールの安否です」

「承知しました」

 

 釘を刺したスノウに軽くお辞儀をするルミ。そんなやり取りを聞いていたロックは首を傾げる。

 

「てことは、誰が気絶したなんちゃら騎士の世話すんの? ここに置いてったらバケモン共のエサじゃん」

 

 問題となるのは気絶したエリンとベッキー。このまま置いていけば二人の身に危険が及ぶ。そんなロックの訴えに対してルミとラミは、寝かせていた場所を見るよう視線で促す。

 

「……んぁ? なんちゃら騎士いなくね?」

 

 そこにエリンとベッキーの姿が見当たらない。ロックが何度も辺りを見渡すがどこにもいなかった。何故いないのか、どこに移動させたのか。ロックは小首を傾げていたが視線は自然とキリサメへ向けられた。

 

「お前、何したんだ?」

「あー、その、まぁなんて言うんだろうな……。俺の力で安全な場所に移動させたっていうか……」

「……ふーん」

「でも安心してくれ! 二人はちゃんと無事だから──ぶはッ!?!」

 

 疑いの目を向けられたキリサメが必死に弁解する姿。ロックはしばらくそんな姿を見つめた後、キリサメの頬を右拳で勢いよく殴る。

 

「いっつぅ……な、なにすんだよいきなり?!」

「もうたぶらかすんじゃねーぞ」

「えっ?」

「相棒……いや、俺の女をもうたぶらかすなっつってんだよ。何のことか分かんねーなら自分の胸に手を当てて耳を澄ましてみろ」

 

 心当たりがあるキリサメはすぐにハッとした様子で顔を上げた。ロックの表情は沈静させた憤怒が込められたもの。

 

「やれんだな?」

「……やれる」

「どーだか。『二度あることは三度ある』って言うじゃねーか」

「二度や三度どころじゃない。数え切れないほど迷走してアレクシアには迷惑をかけた。だからもう──後に引くつもりはない」

 

 中途半端な考え、中途半端な言動。

 悪目立ちしてきた自身を顧みたキリサメの眼差し。ロックは睨みを利かせて瞳の奥を覗き込むと、唐突に鼻で笑う。

 

「んじゃあ、さっさと行けよ兄弟(・・)。相棒のことは任せたぜ」

「は? きょ、兄弟……?」

「いいから早く行けっつーの。急がねぇと相棒がくたばっちまうぞ」

「──! わ、分かった! 誰か知らないけど任せられたぜ兄弟!」

   

 そしてキリサメはルミとラミに視線を送ると、そのまま最深部までの通路を駆け下りていく。残されたクレスとスノウは、黙々と大蛇の風穴を崩壊させるために歩き出した。

 

(ふーん、あれが相棒が話してた『情けねぇ男』か)

 

 キリサメの後ろ姿見えなくなるとロックは独り言をボソッと呟く。彼の脳裏を過るのは前日にアレクシアと交わしたとある会話。

 

『そういや相棒。この時代でもずっと一人で吸血鬼共と戦ってきてんの?』

『……いや、一人役に立つ男がいた。吸血鬼共が従わせる眷属の情報を持つ男だ。情けない面を見せるのが気に食わんが……それなりに役には立った』

『んぁ? 役には立ったって過去形じゃね?』

『その男とはそりが合わずエメールロスタで別れた。綺麗ごとを並べては崩し、並べては崩しを繰り返すだけの男だったな』

 

 淡々と述べているアレクシアの横顔。腐れ縁のロックはその横顔を見るだけで理解していた。

 

(相棒、露骨にしょげてんだよなぁ……)

 

 アレクシアは平然を装っているだけだと。過去の彼女を常に見続けてきたロックだけに汲み取れる──アレクシアの僅かな負の感情。

 

(まっ、今のアイツならやれんだろ)

 

 今のキリサメなら汚名を返上できる。ロックはクレスとスノウの後に続いて、大蛇の風穴を崩壊させるために歩き出した。

 

 

────────────────────

 

 

「キャキャッ! どこどこオネエちゃッ──」

 

 開花させた鐘の呪印。

 大幅に向上した肉体の治癒能力と身体能力。そして鐘の呪印特有の力である『空間移動』。私は握りしめた鐘鳴刀(しょうめいとう)を振り上げ、こちらの姿を見失ったメデューサの顔を斬り捨てる。

 

(……これが、呪印とやらの力か)

 

 力の代償は苦痛ではなく『込み上げる高揚感』と『全身を巡る快感』。まさに『力に溺れる』という言葉に相応しい、使用者に中毒性をもたらす力。

 

「キャッキャッ! いっぱいワタシを斬ってもムダだよオネエちゃん! だってだって、ワタシはムテキだから──」

「その口を塞げ」

 

 無数に詰め寄ってくる岩の蛇を冷静に回避しつつ、こちらを見下ろしてくるメデューサの目前まで空間移動をし、鐘鳴刀で綺麗に両断する。この繰り返しが続いている現状。

 

「キャキャッ! ジャアジャア、オネエちゃん──これならドウするのかな?」

「転生者様、天井が……!」

 

 突如左右上下に揺れる空洞。

 顔を上げれば天井全体が蛇の頭部に代わり、大口を開いて徐々にこちらへと降下してくる。ミールはヤミを抱えて出口まで避難しようとするが、

 

「……っ! 出口が塞がれてっ……!」

 

 出口は岩壁で塞がれている。私は天井全体を模った巨大な蛇の頭部を見上げると鐘鳴刀を逆手持ちへと切り替え、

 

「キャキャッ! これならニゲられないよね──」

「思い上がるな」

 

 巨大な蛇の大口前まで空間移動をし天井を斬り上げた。天井全体が真っ二つに斬り捨てられ、残骸となった岩の蛇が雨粒のように落下してくる。

 

「キャキャキャキャァアァッ!!! すごいすごいすごい、オネエちゃんすーごっくすごいよッ!!」

 

 平然とした様子で一段と歓喜するメデューサ。私は降り注ぐ残骸を空間移動で避けながらメデューサの顔を捉えた。

 

「アレクシア!」

「ミール様、ご無事でしたか!」

「……! ヤミ、しっかりしなさい!」

 

 直後、聞き覚えのある声が出口から聞こえてくる。私はまさかと振り返ってその声の主を確認してみれば、

 

「……何故ここにいる?」

 

 エメールロスタで別れを告げたはずのキリサメ。傍にはミールとヤミを見つけて容態を確認するルミとラミ。

 

「キャキャッ! またアタラしいオネエちゃんとオニイちゃんが来た!」

(……標的を変えたか)

 

 メデューサの注意がキリサメたちへ向けられ、東側と西側の壁から飛び出したのは二匹の蛇。私は斬り捨てようと空間移動を試みようとしたが、キリサメは立ち向かうように二匹の蛇を見据える。

  

「よし、やるぞ」

(あの男、何をしている……?)

 

 自身を奮い立たせるようにぼそっと呟く一言。そんなキリサメを他所に西側から飛び出した岩の蛇は数メートルの距離まで接近すれば、

 

「シエスタ、補正値の変換を」

 

 ぼそぼそと呟きながらキリサメは西側の岩蛇へと振り上げた左手を向け、 

 

氷璃(ヒョウリ)、力を貸してくれ──」

(あの力は、魔女の馬小屋で見かけた男の奇術か……?)

 

 左の手の平へと西側から飛び出した岩蛇を一瞬にして呑み込み、

 

「──『暴食(ぼうしょく)()』」

 

 振り上げた右手から呑み込んだ岩蛇を吐き出し、東側から迫る岩蛇と正面から衝突させて粉々に破壊した。

 

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