ЯeinCarnation   作:酉鳥

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9:8『目を覚ませ』◎

 

「──!」

 

 意識がハッキリとすれば暗闇に閉ざされた視界。両手両足は粘り強いもので拘束され、目元には肉塊らしきもので覆われている状態。俺は全身に力を込めてまずは両手両足を粘々したナニカから引き剥がす。

 そして目元を覆う肉塊を両手で乱暴に掴み、引き千切った後に勢いよく床へ叩きつけた。 

 

「はぁはぁっ……なんだよこれ……!?」

 

 視界が開けて俺はその場で目を丸くする。

 壁や床は赤い肉塊が脈を打つように小刻みに震え、人の頭部ほどの大きさを持つ眼球が至る所に埋められていた。

 

「人が、壁に取り込まれて……」

 

 何よりも目を引かれたのはその肉壁に取り込まれた無数の人間。四肢の関節部分まで肉壁に取り込まれ、目元にはギョロギョロと焦点が定まらない二つの眼球が埋め込まれた寄生体に覆われている状態。

 俺が先ほど床に叩きつけた肉塊も同系統のものだったが、眼球は白目を剥いて機能を果たせなくなっているようだった。

 

「こいつが、俺にあの世界を見せていたのか?」

 

 外部からの干渉。

 多分この肉塊のゴーグルが元凶だ。どういう原理かは分からないけど、干渉を受けた状態で自分の目玉を潰せば機能しなくなるらしい。

 

「そうだ、アレクシアたちはどこに……!?」

 

 周囲を見渡しつつその場から駆け出してアレクシアの姿を探す。特徴はリンカーネーションの制服を身に纏い、ミディアム程度の青髪。とても分かりやすい容姿の為、数十秒ほど探し回って、

 

「……」

「アレクシア、おいしっかりしろ!」

 

 肉壁に取り込まれたアレクシアを見つけ出した。俺は駆け寄ると両肩を雑に掴み、前後に何度も揺さぶって呼びかける。けど全くといって反応を示さなかった。

 

「だったら無理やり引き剥がして……!」

 

 根源は目元を覆う肉塊と四肢を取り込んだ肉壁。俺は全身に力を込めてアレクシアの四肢を引き抜こうと試みる。

 

「俺の時は引き剥がせたのにッ! 何でこいつは引き剥がせないんだよッ……!?」

 

 自分の時は簡単に引き抜けたのに何故かアレクシアのはピクリとも動かせない。四肢だけでなく目元を覆う肉塊すらも剥がせない状態。俺はそれでも諦めずに何度も肉塊を引っ張っていると、

 

「手伝ってあげよっか?」

「あ、あぁ頼む! この変な物体を剥がして……」

 

 唐突に背後から女性に声をかけられた。焦っていた俺は無意識のうちに返事をし、動かしていた手をピタッと止める。

 どこかで聞いた覚えのある女性の声。それは俺に対して慈悲も好意も感じさせない冷酷なもので、何度でも俺を殺そうとしたあの声に似ている。誰がいるのか見当がついた俺は、息を呑んだ後にゆっくりと後ろを振り返り、

 

「お前はッ──がぁはッ!?!」 

 

 首を片手で締め上げられる。

 宙に浮いた俺の肉体を見上げるのは原罪ニーナ・アベル。吸血鬼の真っ赤な瞳で俺を無表情で見つめ、締め上げていた力を更に強める。

 

「ああ言葉足らずだったわね。『死ぬのを(・・・・)手伝ってあげよっか』だったわ」

「げほッごほッ……うッぐッ、はなせッ──ぐッはあぁあッ!?」

 

 吸血鬼の怪力で反対側の肉壁まで俺を投げ飛ばすニーナ。そのまま受け身も取れずに背を打ち付ければ脊髄から軋む音が聞こえ、俺の肉体は床へと仰向けの状態で倒れ込んだ。

 

「何で、お前がここにいるんだよッ……!?」

「私、かなり神経質なのよ。部屋に虫が一匹でも湧いたら殺すまで眠れないぐらいには。だって物凄く気になるでしょ?」

「は、はぁ?」

「ああ面倒ね、面倒だわ。私は今あんたに『気になって眠れなくなるでしょ?』って聞いたの。言葉が通じていないのかしら?」

 

 ニーナは俺に対して首をやや傾げつつ苛立ちを露わにする。アレクシアが前にこう言っていた。『質問に短い答えで返さない』『質問に見当違いの答えを返す』とニーナの逆鱗に触れてしまうと。

 

「言葉は分かるけど……。俺はあんまり気にならないな」

「ふーん、私は眠れなくなるわ。殺し損ねた虫が自分の知らないところで成長して、いつか私に牙をむいてくるんじゃないかって」

「……! まさか、ここに来たのは……」

「そっ、殺し損ねた虫が一匹いたのよ。地の果てまで追いかけて死に顔を拝まないと気が済まない()が」

 

 一本の紅の杭を指の間で華麗に回すニーナ。こいつは俺を殺すためにわざわざ出向いてきた。最悪の状況下で俺は何とかその場に立ち上がると、右後方に通路があるのを視認し、

  

「そんな簡単にッ……やられてたまるかッ!!」

 

 背を向け全力で通路まで駆け抜ける。奇術はニーナの能力で使うことができない。今の俺にできるのは逃亡。逃げ切って生き延びてアレクシアたちを助ける。この状況を打破できるのは俺しかいない。

 

「そうね、人は簡単には死ねない」

「があぁッ……!?」

「でも人は人を簡単に殺せるのよ」

 

 背を向けた俺の左肩に突き刺さる紅の杭。激しい痛みに体勢を崩しかけ倒れそうになる。けど倒れたらそこで終わり。俺は歯を食いしばって通路まで気合で駆け込んだ。

 

「一本目は左肩。二本目は右肩を狙うわ」

(迂回してさっきの場所まで戻らないと……! アレクシアたちを、助けるんだ!)

 

 通路は肉に覆われているが構造的に城内だと見て取れる。俺は後方から飛んでくる紅の杭を木樽や壁を遮蔽にして避け、通路の奥へ奥へと突き進んだ。

 

(くそッ、分かれ道もないのかよ……!)

 

 どれだけ走り続けても一本道。

 迂回するために必要な他の通路も隙間道も見当たらない。後方を振り向けば紅の杭を俺に向かって投擲するニーナ。ゆっくりと歩きながら追いかけてくるその姿は、まるでこの先に逃げ道がないことを理解しているようだった。

 

「嘘だろッ、行き止まり……!?」

ご愁傷様(・・・・)

 

 前方に立ち塞がるのは通行止めを告げる壁。嘲笑うように同情するニーナの声を背中で聞いた俺は、通路の隅に置かれた絹の袋に視線が移る。破れた個所から溢れ出るのは白い粉。

 

「まだ、終わってねぇよッ……!!」

「──!」

 

 そう叫びながらすれ違いざまに絹の袋を両手で掴む。そして紅の杭で射貫かれた左肩の痛みを堪え、力任せに宙へと放り投げた。絹の袋に詰められた白い粉が辺りへと散布され、お互いに視界は不明瞭となる。

 

「今のうちに逃げッ──」

 

 奥に見える西側と東側の部屋。

 俺は身を潜めるため東側の部屋までそのまま走り続ける。けど白い粉に満ちた向こう側から紅の杭が真っ直ぐ投擲され、

 

「──あぐぁあぁッ!?!」

「二本目は右肩。三本目は左足ね」

 

 俺の右肩へ的確に突き刺さる。血飛沫と鋭利な痛みで叫んでしまったが、倒れまいとその場で踏ん張り東側の部屋へと駆け込んだ。

 

(今は隠れてチャンスを狙うしかないッ……)

 

 視界に映り込むのは鉄製の武器や埃の被った木箱が置かれた物置。俺は身を隠すために奥にある空いた木箱へと飛び込み、急いで真上の蓋を閉めた。

 

「ああ面倒ね、面倒だわ。逃げて隠れるなんて本当に虫じゃない。自分が惨めに思わないのかしら」

 

 物置に入ってくる足音。

 俺は木箱に空いた小さな穴を覗いてニーナの姿を視認する。片手で器用に回していた紅い杭を一本、二本と数を増やすと少し離れた場所にある木樽の前に立ち止まり、

 

「あぁそうだったわ。元々あんたは惨めだったわね」

 

 右手を薙ぎ払って指の間に挟んでいた四本の杭を木樽へと打ち込んだ。中には葡萄酒が入っていたのか、紫色の液体がドクドクと溢れ出てくる。

 

「何の力もなくて守られてばかりでただ声が大きいだけの人間。ヒュブリスの背中に隠れるだけの滑稽な異世界転生者(トリックスター)

「……っ」

「何十人、何百人と犠牲にしてきたんでしょ? ……ああ違ったわね、殺してきたの間違いだったわ」

 

 木樽や木箱が次々と紅の杭を打ち込み、俺が隠れた木箱へと一歩ずつ近づいてくるニーナ。飛び出すわけにもいかず、ただ木箱の中でじっと身を潜めることしかできない。

 

「あんたの足元には何百人もの死体が積み重なってるわ。恨み辛みを抱いた亡者共が、あんたを地獄(ゲヘナ)へ手招きしているのよ」

「……」

「ねぇ思わない? 自分なんて生きてる価値がないって」

 

 すぐ隣の木箱に紅い杭を打ち込めば、飛び出てくるのは手の平サイズの蜘蛛。腹部に一本の杭が貫通し、もぞもぞと生にしがみつこうとした末に絶命する。

 

「あんたは死んだ方がいいのよ。私たち吸血鬼や──」

 

 右手を振り上げるニーナ。俺は息を呑みながら尻餅をついてゆっくりと木箱の中で後退し、

 

「──人間の為にも」

「ぃッ……!?!」

 

 隠れている木箱に紅い杭を打ち込まれた。咄嗟に背を向けたことで背中に二本、右の脇腹に一本、右腕の肘に一本、肌を貫いて肉まで突き刺さる。泣き叫びたいほどの耐え難い痛みが全身を支配したが、自分の両手で口を押えて何とか声を堪えた。

 

「……この物置にいると思ったけど違うのね」

「ふぅッ……ぐぅッ……」 

「隠れているのは反対側の部屋かしら。面倒だわ、とてつもなく面倒」

 

 声を我慢したことでバレずに済んだのか、ニーナは木箱に踵を返して物置から出ていく。俺は小さな穴からその後姿を眺めた後、苦痛に悶えるように身を震わせた。 

 

「い、今しかない……アレクシアのところまで戻らないと──」

 

 立ち上がろうとした途端、周囲の空気が百八十度変化する。肉体の芯まで凍えさせる寒気と背後から感じる捕食者の気配。俺は呼吸を荒げながらすぐさま振り返れば、

 

「見つけた」

「んむぐッ!?!」

 

 口の端を吊り上げたニーナが俺の口を左手で塞ぎ、その顔をゆっくりと近づけてきた。思い返してみればアダールランバで遭遇した時、ニーナは影に溶け込む能力を見せている。

 そもそも隠れること自体無駄だった。自分の痕跡となる血の跡を辿ればいいだけなのだから。

 

「ふーん、まだ暴れる元気があるのね」

「うぐッ、んんんんッ……!!」

「ならこれでどうかしら?」

「ん"ッん"ん"んんッ!?!」

 

 ニーナは右手に握っていた紅の杭を俺の左足へ深々と突き立てる。口を塞がれながらも叫び声を上げ、両手でニーナを押し退けようとするが動かせる気配が全くといってない。

 

「一度目は楽に、二度目は苦しめて、三度目は恐怖を植え付けて殺す。あんたは二度殺し損ねたから苦しんで死ぬの」

「ん"ッぐぁあぁあッ……!?!」

「良かったわね。三度目じゃなくて」

 

 傷口を抉るように杭の先端で左足の肉をかき回す。鋭い痛みで声を漏らす最中、ニーナは俺の苦しむ顔を観察するのが義務だと言わんばかりに間近で眺めていた。

 

「この世界で奇術が使えない異世界転生者(トリックスター)に価値はないわ。無駄死にするだけの運命。……けどあんたの奇術は価値がありすぎた。『出る杭は打たれる』ってことわざ知ってるでしょ?」

「ぐぅッ……この、野郎ッ……!!」

「あんたはここで死ぬのよ。誰も守れず、誰も救えず、ただ周囲を巻き込んで死人を出しただけの──災厄の種として」

 

 紅の杭をもう一本取り出したニーナは胸元に先端を突きつけてくる。俺は脈を打つ鼓動を全身で感じながら腕に込めていた力を緩めた。

 

「やっと諦めたのね。それでいいのよ──」

「奇術が使えない異世界転生者に価値がないってっ……今、言ったよなっ……?」

「ええ、今のあんたも奇術が使えない。価値なんてないの」

「じゃあ……この言葉を知ってるか……?」

 

 奇術は異世界転生者にとって唯一無二の力。ニーナの意見はごもっともだ。奇術が無ければただの一般人と変わらないだろう。けど今まで奇術に頼り切ってきたわけじゃない。

 俺は大きく深呼吸をし、俯きながら静かにそう呟いた後、

  

「『時に慈悲深く時に残酷であれ』って言葉をな……!!」

「──ッ!」

 

 波のような緩急を右足の蹴りに浸透させ、ニーナを木箱の外まで吹き飛ばした。辺りに散らばる木片。繰り出したのは動術の波動。自分自身を成長させるために習得した戦術。

 

「波動ね。かんっぜんに気を抜いたわ……」

(あの場所に戻るなら……今しかない!)

 

 俺は杭が突き刺さった左足と全身を引きずりながら物置から出て、持てる力のすべてを使い通路を逆走する。血を流しすぎたせいか視界がぼんやりと(かす)む。

 

「俺は、あいつに助けられたんだ……だから今度は俺が、アレクシアを、助けないとっ……」

 

 自分が走っているのか歩いているのかも分からない。ただ速度が落ちているのは分かる。更に視界が(かす)むだけでなく思考回路すらも停止しかけているのか、左右の認識もあやふやになってきた。

 

「あぐっ……」

 

 左足に突然力が入らなくなってその場にうつ伏せで倒れる。何が起きたのかと確認すれば左膝に紅い杭が突き刺さっていた。痛みはもうない。いや痛みすら感じる余裕がないのかもしれない。

 

「みんなを、アレクシアを助けるんだッ……。俺が、今度は、俺がッ……」

「ふーん、まだ動けるのね」

「こんなところで……俺は、終われないッ……」

 

 血塗れでも涎を垂らしてでも惨めな格好でも諦めるわけにはいかなかった。必死に手を伸ばしてうつ伏せ状態で前へ前へと進んでいく。

 

「……?」

 

 その最中、袖が捲れて右腕の関節辺りに何か貼られていることに気が付いた。血が付着して良く見えない。血を地面に擦り付けて何が貼られているのかを確認する。

 

「これって……。は、ははっ……そっか……」

 

 貼られていたのは赤い特売シール。それもマジックペンで雑に書かれた自作のシール。俺はすべてを悟って思わず笑いが込み上げてしまう。

 

「可哀想に、気でも狂ったのね」

「ああそうかもな……俺は狂っていたよ……」

「は?」

 

 壁に背をつけて座り込んでニーナの姿を見上げれば、俺に数本の紅の杭を向けてきた。けど全てを理解した俺は抵抗もせず、ただ自分の右肩に突き刺さった杭を引き抜く。

 

「あんた、何してんのよ?」

「……さっき俺にさ、誰も守れないし誰も救えないって言ったよな」

「ああ面倒ね、面倒だわ。質問に質問で返さないって教わらなかっ──」

「その言葉、覚えておけよ」

 

 俺は苛立つニーナを睨みつける。ニーナは随分と威勢がいい俺に対して疑心を抱いているようで半目になって口を閉ざした。

 

「俺はこの奇術で吸血鬼から人間を守ってみせる。助けを求める人たちに手を差し伸べてみせる。弱かった頃の俺が、そうされたように……」

「その決意、ここで(つい)えるけど? 来世の話でもしてるのかしら?」

「そうだ。お前、言ってたよな……? 殺し損ねた虫がいると、気になって眠れないって……」

 

 口をぽかんと開いて天井を見上げるニーナ。これはキレた合図。間違いなく殺される。俺はそれでも余裕の笑みを浮かべて見せて、右肩から引き抜いた紅の杭の先端を自分自身の顔に向け、

 

「──ご愁傷様(・・・・)

 

 自身の眼球へと勢いよく突き刺した。途端、視界は瞬く間に真っ白に染め上げられて意識が軽く飛びかける。 

 

「ウギィャア"ァア"ァア"ァア"ァアッーー!?!」

 

 耳元まで聞こえてくるのは少年の断末魔。

 視界はハッキリと切り替わり、目の前に立っているのは目玉が肉体に埋め込まれた少年。俺はルクスαで肉体に埋め込まれる目玉の一つを貫いていた。

 足元に落ちているのは白目を剥いた眼球が二つ埋め込まれた肉塊のゴーグル。 

 

「ボクの、ボクの目玉がぁああぁッ!!」

「もうお前の仕業だって分かってるんだよ──」

 

 俺は悶えている少年からルクスαを引き抜いて後退する。そしてすべての根源であるその名をこう告げた。

 

「──七ノ眷属Argus(アルゴス)ッ!」

 

 眷属アルゴス。俺に理想の世界を見せていた張本人でもあり原罪が従える異世界モノの怪物だ。相手の目を間接的に奪い、対象に宿った記憶から理想の世界を構築し、人の精神に干渉してくる眷属の一匹。

 俺は現実に帰還したことで密かに抹消されていたアルゴスについての情報を思い出す。

 

「どうしてキミは、あの世界が偽物だと分かったんだ……!?」

「右腕に残っていたんだよ。最初の世界でシエスタが貼り付けたシールが」

「くッ、あの子供……跡形もなく消してやったと思ったのにッ……!」

 

 右腕に貼られていた特売の自作シール。あれは最初の世界でシエスタが消える前に残していたもの。それが消えていないということは未だ現実へと戻れていない証拠となる。

 

「……! そうだ、アレクシアたちは……!」

 

 周囲を見渡せばそこは城内の大広間。うつ伏せに倒れているのはアレクシアやジャンヌたち。俺は駆け寄って身体を揺さぶるのだが、目元に肉塊のゴーグルで覆われて動く気配がない。

 

「ハハッ、そのヒトたちは目を覚まさないよ! 甘い世界で自分の目玉を潰さないとね!」

「じゃあ、お前を倒したらどうなるんだ?」

「へっ?」

「俺は異世界モノでお前を知っている。物語の中でお前が倒されて目を覚ました人間たちがいたこともな」

 

 全身の目玉をギョロッとさせるアルゴス。

 この場で目を覚ましているのは俺だけ。クレスたちには頼れないし増援だって見込めない。ルクスαを握り直してから戦えるのは俺だけだと自身を鼓舞する。

 

「……シエスタ、いるか?」

『バカヤローめ! 戻ってこれたかハナタレ小僧めー!』

「ああ、おかげで何とかなったよ。補正値の変換を頼んでもいいか?」

『ういー!』

 

 シエスタが死者の書を台に置く。

 その死者の書は氷璃(ヒョウリ)のものでも七瀬(ナナセ)さんのものでもない。輪廻の契約を結んだ三冊の最後の一冊。

 

「チッ、ボクは戦闘向きじゃないッ! オマエたちそいつを殺せぇッ!!」

「ギャハハハハハッ!!」

「グスッ……グスンッ……」

 

 食屍鬼がわらわらと姿を現して全速力で向かってくる。俺は平常心を保ちつつ大きく深呼吸をした後、

 

「ウゴァァアァアアッ!!」

「アッハッ、アッハハハハハッ!!」

 

 目を見開いた瞬間、俺はその場でルクスαを二度だけ振り回し、数匹の食屍鬼を叩き切って灰へを変えてしまう。

 

『──カイト君、今はどんな状況かしら?』

「あそこの少年は眷属アルゴス。アレクシアたちを助ける為に倒さないといけない敵です。手を貸してください」

『ええ、やってやりましょう』

 

 俺が補正値の変換をした人物。輪廻の契約を交わした最後の人物。その人物の正体は、

 

「頼りにしています──シビルさん」

 

 ドレイク家の館で俺を庇って命を落とした──銀の階級Sibyl(シビル) Astrea(アストレア)さんだ。

 





キリサメ&シエスタ

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