ЯeinCarnation   作:酉鳥

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9:10『ファンタズム』

 

「はぁはぁっ、これで倒せたんだよな?」

『ええ、よく戦い抜いたわねカイト君』

 

 斬り離されたアルゴスの胴体と頭部。

 俺はシビルさんに賞賛の言葉を伝えられると全身の力が抜けルクスαを床に落とす。どうやら補正値の変換が切れたらしい。俺はしばらく茫然とした後、ハッと我に返り、

 

「アレクシアたちは……!」

 

 倒れているアレクシアたちの元まで急いで駆け寄った。目元を覆う肉塊は砂のように散り散りとなり、アルゴスの力は失われている状態だと見て取れる。

 

「アレクシア! 起きろアレクシア!」

 

 真っ先に身を案じたのは仰向けになるアレクシア。身体を激しく揺さぶって目を覚ますよう呼びかければ、

 

「……っ」

「良かった! 目を覚ましてくれたんだな!」

 

 アレクシアは呼びかけに応えるかのように意識を取り戻す。そして上半身だけ身体を起こすと周囲を見渡し、その場の状況を何となく掴んだのか、俺の顔を見上げてきた。

  

「お前があの眷属を始末したのか?」

「ああ! 死にかけたけど何とか倒せたんだ!」

「……そうか。礼を言う」

「え? あ、ああうん、とにかく無事で良かったけどさ」

 

 俺に感謝の言葉を述べると自分の足で立ち上がるアレクシア。でもその言葉の節々に微かな怒りが込められているように聞こえた。俺は様子がおかしいことに気が付き、眉を顰めてしまう。

 

「クッ、クソォッ……このボクが、こんな有様になるなんてぇッ……」

 

 嘆いているアルゴスの頭部。アレクシアは無言で歩き出すと背中のホルスターへ左手を回し銃を一丁だけ握りしめた。俺は妙に威圧感のあるアレクシアの後姿を見つめていれば、

 

「うぎゃッ──?!」

「ア、アレクシア……?」

 

 左足に力を込めながらアルゴスの頭部を潰す勢いで踏みつける。横顔で滅多に見せない苛立ちを露わしつつ、瞳からアルゴスへ殺意を含んだ視線を浴びせていた。

 

「な、何してんだよキミはッ──ウギィア"ァア"ア"ァア"ッ!?!」

 

 アルゴスが反抗心を見せた途端、銃口を斬り離れた胴体へ向けて何発か発砲する。狙われるのは埋め込まれた目玉。次々と撃ち抜かれる度にアルゴスは断末魔を上げた。 

 無言のまま嬲り続けるアレクシアの振る舞いに俺は少しだけ怖くなって息を呑む。

 

「も、もうやめろよ! アルゴスは動けないんだからさ──」

 

 それでも見過ごすわけにはいかない。俺は急いで駆け寄ると銃を持ったアレクシアの左腕を掴んだ。

 

「吸血鬼共の肩を持つのか?」

「──ッ」

 

 こっちを振り向いたアレクシアの顔。

 対象を生き物として見ていないのか。底のない深淵を覗き込んでいるのか。冷酷そのものを表しているのか。俺はこの時初めてアレクシアから殺意(・・)を向けられ思わず後退りをする。

 そしてふとこんなことを考えた。もし互いに敵として対面したら、もし俺が吸血鬼と手を組んでいたら──アレクシアがどれだけ恐ろしい存在なのかを。

 

「い、一体どうしたんだよアレクシア……。そんなに取り乱すなんてお前らしくないぞ?」

「……そうだな」

 

 冷静さを取り戻したのか銃をホルスターにしまうアレクシア。片手で額を押さえて酷く疲れている。アルゴスが映し出した理想の世界で何を見せられたのだろうか。

 

「取り敢えずアルゴスを正気に戻そう。何か情報が得られるかもしれないしさ」

「あぁ」 

「こ、今度はボクに何をするつもりだッ──ウグッ、ギィアァアァッ!?!」

 

 返答したアレクシアは指先に切り傷を入れ、血の雫をアルゴスの口に垂らす。アルゴスは苦しみ悶え始めると胴体は溶け、少年の頭部から義眼が一つ飛び出してきた。

 

「な、んだ……キミはバートリさんの……」

「アルゴスの本当の姿は義眼なのか……?」

「らしいな」

 

 声が聞こえるのは碧の義眼から。

 これまた意外な正体を目にして俺は唖然とする。けどアレクシアはいつも通りの薄い反応をして転がる義眼を拾い上げた。

 

「バートリさんは公爵に負けたんだね……。惜しいなぁ、これで描こうとしてた理想は全部潰えちゃったんだ」

「……お前は賛同したのか。バートリ卿とやらの理想に」

「そうさ、ボクは賛成したとも。バートリさんの理想は描かれるべきだと思ったからね」

 

 人間と吸血鬼の共存。

 バートリ卿が叶えようとした理想。様々な場所で色んな経験を積んだ今の俺にはその理想を築こうとする難しさがよく分かるし、

 

(この世界って人間と吸血鬼が殺し合うんじゃなくて──人間と人間を嫌う者たちが殺し合ってるんだよな)

 

 人間と吸血鬼が単純な敵対関係じゃないことにも気が付いた。

 吸血鬼だって結局は元人間だ。多くの人間が吸血鬼になるきっかけは人間が嫌いだから。共存という訴えは異なる種族間で分かり合うんじゃなくて、同じ人間として分かり合う必要があると。

 

「キミは……バートリさんの理想を継いでくれるの?」

「下らん理想に付き合うつもりはない。私は吸血鬼共をこの世から始末するだけだ」

「……過激だね。ボクは穏便に済ませてほしいんだけど」

「穏便で済むならこの惨状にならん」

 

 だからこそアレクシアは共存できないと断言していた。人間同士で分かり合えなかったから吸血鬼が増えていく世界の構造。そんな過去があるのに共存なんて無理じゃないか。

 

「まぁいいや。……ほらこれを飲んでよ」

「またか」

「キミはバートリさんの血涙を継いでいるし他の眷属たちがそうしたのなら……ボクもキミに力を託さないといけないからね」

 

 義眼から溢れる一滴の血の涙。

 アレクシアは躊躇しつつも指先で涙をすくうと舌で舐めとった。飲むときに痛みを感じるのか少しだけ表情を歪める。

 

「……! そうだアルゴス! 食屍鬼たちの進軍を止めたいんだ! どうすれば止められるのか教えてくれ!」

「止めたいなら……アモンアノールの最上階に向かって」

「最上階だと?」

「そう、最上階にいるゲリュオンさんを倒す。食屍鬼やタイラントを止める方法はそれしかない」

 

 ゲリュオンを倒す。

 俺が想定していた眷属の名前が挙がると、アレクシアは「まだ何も終わっていない」と言いたげな顔でこっちへ視線を送ってきた。

 

「アモンアノールへ行くための渡り廊下はこの奥にある。ゲリュオンさんに勘付かれる前に早く行った方がいいよ」

「そうさせてもらう」

「待ってくれ! まだ二人が目を覚ましてないんだ……!」

 

 フローラさんとジャンヌはまだ目を覚まさない。置いていくことができないと歩き出すアレクシアを呼び止めた。

 

「ここはボクの領域だから大丈夫。食屍鬼たちは入ることができないし……しばらくは安全さ」

「そ、そうなのか。なら置いていっても……」

「でもボクはここから出られない。出たら誰でも入ってこれちゃうからね」

 

 アルゴスが管理する空間だから当の本人が滞在する必要がある。アレクシアは手の平に乗せていた義眼を頭部付近へ置くと、渡り廊下が続いている通路を見つめ、

 

「……私はゲリュオンとやらへ会いに行く。お前はどうする?」

「勿論ついていくよ。少しぐらい戦力になれると思うしさ」

「そうか」

 

 俺に視線を移してからそう聞いてきた。根拠は何もないけど俺を気にかけるような声色だった気がする。……なんて考えているうちにアレクシアは既に奥の通路を目指して歩き出していた。

 

「……彼女のさ、理想の世界って何だろうね」

「えっ?」

 

 急いで後を追いかけようとした途端、義眼の状態で通路の方角を眺めるアルゴスが呟く。俺は足を止めて転がっているアルゴスに見下ろした。

 

「ボクは彼女の理想の世界を映そうとした。けどね、何も映せなかったんだ」

「何も映せなかった……?」

「彼女が見ていたのはどこまで続く闇の中。誰もいない光もない闇の中で、ただ孤独に彷徨っていたよ」

「闇の中って、そんなことあるのか? お前の能力は理想の世界を映すんだろ? 何も映せないなんてことは……」

 

 そう言いかけて口を閉ざす。

 確信までは至らないが可能性としてはあり得る一つの仮説。アルゴスは俺の仮説を読み取るようにこう語る。

 

「彼女には──理想がないんだ」

「でもあいつは吸血鬼をこの世界から消そうと……」

「それは本当に彼女の理想なの?」

「──っ! それはっ……」

 

 吸血鬼をこの世から死滅させる。あいつはずっと復唱してきたけどそれはアレクシア自身の理想じゃない。師匠のテレシアって人から託された理想だ。アレクシアが望んでいる世界とは限らない。

 

「彼女は誰かの為に生きているみたい。まぁ人生を歩むこと自体が彼女にとって責務なんだろうね」

「……」

「それが楽なのか、それとも辛いのか。ボクには測れないけど……きっと楽しい人生じゃないと思うよ」

 

 言葉が見つからずその場で項垂れる。今のアレクシアが責務を果たすだけの人生を歩んでいるのは間違いない。少しでも笑ったことはあるか、少しでも喜んだことはあるか。思い当たる節は何もない。

 

「……? 置いていくぞ」

「あ、ああごめん! 今行くよ!」

 

 表情をしかめるアレクシア。俺は苦笑いしながら返事を返しアルゴスを横目でチラ見した。

 

「なぁアルゴス。俺にさ、あいつの生き方を変えられると思うか?」

「……ううん、彼女の生き方を変えることはできない。変えられるのは彼女を取り巻く環境だけさ。キミが為すべきことっていうのは、多分そこにあるんじゃないかな」 

「環境を変える……」

「ほら行きなよ。時間がないんだろう?」

 

 俺はアルゴスに対して頷くとアレクシアの後を追いかけ、奥の通路へと足を踏み入れる。視界に広がるのはアダールランバに酷似した城内の通路。俺は奇襲に厨しながらもアレクシアの隣を歩く。

 

「この城ってさ、アモンイシルの城内だよな……?」

「気がかりなことでもあるのか」

「なんか綺麗すぎないか? 吸血鬼から襲撃を受けたって聞いたけど、その割には掃除されてるっていうか……」

 

 想像していたのは吸血鬼の爪で削られた壁の痕跡やボロボロのカーペット。けど全くと言っていいほどに綺麗な状態だった。隣で俺が疑念を抱いているとアレクシアは歩みを止める。

 

「……凝った作りだな」

「まじかよ。こんなのどうやって繋げたんだ?」

 

 前方に見えてきたのはアモンアノールの城内まで続く渡り廊下。窓から見えるのは月夜。真下はすべてを呑み込む深淵なる闇。俺たちは百メートル以上もある長い渡り廊下を進み始める。

 

「……小綺麗なのはそういうことか」

「ん? 何か分かったことでも──」

「伏せろ」

 

 アレクシアが納得する素振りを見せた途端、背後から飛んでくる無数の紅い杭。俺は即座にその場へと屈んだ。

 

Pendulum(ペンデュラム)」 

 

 血涙の力によって紅い左目に映り込む古時計の写像。向かってくる紅の杭の動きを一瞬で停止させれば地面へと力を失って落ちていく。

 

「ああ面倒ね、面倒だわ。奇妙な力を使われて本当に面倒」

「……やはり貴様か」

「あら、分かってたのね」

 

 後方から姿を現したのは原罪のニーナ・アベル。俺はアルゴスが創り出した世界で殺されかけた記憶が脳裏を過り息を呑んだ。

 

「わざわざ城内を修繕させるのは貴様ぐらいだろう。頻繁に出入りするのなら尚更だ」

「あら、よく分かってるじゃない」

「……今日は掃除でもしに来たのか?」

「ええ、そこにへばりついた廃棄物(・・・)を処分しに来たの」

 

 廃棄物と称して俺に微笑むニーナ。アレクシアは鞘から引き抜いたルクスαを構えると俺を守るように前へ立つ。

 

「先に行け。後で追いつく」

「ああ、分かったっ──あれ?」

 

 その場を任せて走り出そうとした。けど両足から力が抜けてうつ伏せに倒れこんでしまう。何とか動かそうにも痙攣するだけで全く両手両足を動かせない。

 

『おいてめー! マジやばちんだ! やばちんだぞよぉ!』

(シエスタ……何が……)

『ぐるぐるマシンが完全に止まっちまってるのよさぁ! こんなん補正値弄れへんやんけぇ!』

(止まった? まさか限界が来て……)

 

 身体が動かせない原因は一つ。

 アルゴスとの戦いで奇術を多用しすぎた反動。もしくは補正値を大きく動かしたせいか。アレクシアは倒れている俺の容態を察するとニーナを見据える。

 

「その廃棄物、私が処分しておきましょうか?」

「優先して処分すべきものがあるだろう」

「へー、それって何かしら?」

「貴様だ」

「言ってくれるじゃない」

 

 悪魔のような笑みを浮かべて距離を詰めてくるニーナ。アレクシアが迎え撃とうと逆手持ちへ切り替えれば、杭を握りしめた右腕が真上から振り下ろされ、

 

「──ッ! あんたは……」

 

 聖書によって受け止められた。ニーナは割って入ってきた女性を視認して露骨に嫌な顔をする。

 

「何とか間に合いましたね」

「フローラさん!」

 

 立っていたのはフローラ・アベルさん。ニーナの右手首を聖書で受け止めつつ間に合ったことに安堵する。

 

「あんたと顔を合わせるのは初めてね、五ノ戒フローラ・アベル」

「原罪ニーナ・アベル……。アベル家の始祖とお会いできるなんて光栄です」

「ふーん、サインでも書いてあげよっか」

「遺書なら受け取りますが?」

 

 いつにも増して素っ気ない態度をとるフローラさん。そこに天然なフローラさんの面影は残っていない。ジェイニーさんとの茶会で俺たちの前に姿を現した十戒としての一面を見せていた。

 

「「フゥーッフゥーッ……」」

「マジかよっ、変異体に挟まれて……!?」

 

 前後を確認すると群れを成して一歩ずつ向かってくる鎧型の食屍鬼。俺が声を上げればアレクシアとフローラさんは険しい顔を浮かべる。

 

「アレクシアさん、あなたに残りの眷属を任せてもいいでしょうか」

「ああ、だがお前にこの男を任せる。……その女から守り切れるな?」

「はい、誓いましょう──」

 

 アイコンタクトだけで思いついた二人の作戦。俺が意図を汲み取れないまま茫然としていると、フローラさんは聖書を振り上げつつニーナの右腕を弾き返し、

 

「──我が主とシーラさんにかけて」

「……!」

 

 渡り廊下の床へ聖書を全力で叩きつけた。

 壁や床に崩壊の亀裂が走れば辺りは大きく揺れる。俺はフローラさんに担がれ、アレクシアはアモンアノールの城を目指して廊下を駆け抜けていく。

 

「フローラさん、何でシーラさんの名前を知って……?」

「いずれ全てを話すと約束します。なので今は私と我が主を信じてください」

「……分かりました」

 

 二人が思いついたのは渡り廊下を分断する作戦。口を開いたまま崩壊していく渡り廊下を眺めるニーナ。しかしその顔には焦りなどはない。

 

「ああ面倒ね、本当に面倒だわ。また掃除しないといけないわ、どうしてくれるのかしら十戒様?」

「聖書の三十章五節にこのような言葉があります。『夜は泣き悲しんでも朝と共に喜びが来る』」

「あんた『灰になれ』って言いたいの?」

「いえ、そのようなことは一言も」

 

 渡り廊下で群れを成していた変異体の食屍鬼が奈落の底へ落ちていく。その隙間を潜りながらアレクシアは廊下を疾走する。けどニーナが冷静なのには理由があった。

 

「ギギィァアァアアァアッ!!」

「あの怪物は列車を追いかけてきたムカデ……」

「ギィア"ァア"ァアッ!!」

「しかも二匹もいるのか……!?」

 

 奈落の底から飛び出してくる二匹のタイラント。渡り廊下ごとアレクシアを落とすために城壁を這いずり上がると、

 

「──ッ」

「あーあ、落とされたわね」

「アレクシア!」

 

 口元のドリルで渡り廊下を粉々に破壊した。アレクシアは真っ逆さまに落ちていく中で血涙のペンデュラムを発現させる。そして周囲の瓦礫を停止させて足場を確保した。

 

「「ギギィァアァアアァアッ!!」」

 

 が、タイラントは東西で挟みながらアレクシアへ突進を仕掛けてきた。このままだと下まで落とされる、と俺はすぐさま息を吸って大声でこう叫ぶ。

 

「アレクシア、アルゴスに名前を付けるんだッ!!」

 

 今の俺が出来るのは名付け。アルゴスから引き継いだ新たな力に名前を付けてこの状況を覆すしかない。俺が腹の底から声を出せば、アレクシアまで届いたようで周囲に白い霧が漂い始める。 

 アルゴスの力は相手に幻影を見せること。幻影は景色や人物へ変化し幻想的な世界を映し出した。そこから連想させる名前は、

 

「その力の名前は──Phantasm(ファンタズム)だッ」

 

 Phantasm(ファンタズム)

 俺が名前を伝えれば周囲の白い霧が青色の粒子へと変化していく。そして発光する青の粒子は見覚えのある形状を模り、

 

「……Phantasm(ファンタズム)

 

 三メートルは優に超えた三つ首の怪物を具現化させる。アレクシアはその背中へと飛び乗ると怪物をその場で跳躍させ、二匹のタイラントの突進を避け切った。

 

「あれって、ケルベロスだよな……?」

 

 見覚えのある怪物。

 それは実習訓練で遭遇したケルベロス。色はすべて青色だが輪郭だけはしっかりと具現化されているためすぐにその名が頭に浮かんできた。

 

「面倒ね、面倒すぎるわ。また余計な力を覚醒させるなんて──」

「エイメン」

 

 気を取られたニーナに波動を乗せた聖書を打ち込むフローラさん。ニーナは城内の壁を何枚か突き抜け吹き飛んでいく。俺はこの隙を狙い暴食の手から三つの武器を床へと吐き出した。

 

「フローラさんっ……これを、アレクシアのところまで飛ばしてくださいっ……」

「はい、お任せを」

 

 Zweihander(ツヴァイハンダー)って名前の大剣を改良したもの。大型のリボルバー銃。赤みを帯びている短剣。フローラさんは俺を地面に下ろすと、この三つをアレクシア目掛けて次々と放り投げる。

 

「アレクシアッ……後は、頼んだぞッ……」

 

 意識を保つのも限界。俺は武器をすべて受け取ったアレクシアを確認してからゆっくりと意識を手放した。

 

 

―――————————————

 

 

「……よくやった」

 

 私の元まで投擲された武装。

 それらをすべて受け取れば血涙の力で具現化させたケルベロスの背に乗って、崩壊した渡り廊下まで壁を登らせる。

 

(やはり力の規模が違うな)

 

 メデューサにアルゴス。

 受け継いだ血涙の力があまりにも強大。最初の獄炎こそ言ってしまえば炎を操るだけ。しかしメデューサは速度を自由に操作し、アルゴスは眷属を呼び出せるという始末。

 

「「ギギギィア"ァア"ァアアァアッーー!!」」

「……煩わしい」

 

 未だに追尾する二匹のタイラント。放置すれば城内まで入り込んでくるだろう。私は大剣を手に取って迎え撃とうと体勢を整えたが、

 

「──ッ!」

「ギギィア"ァア"ッ……!?!」

「グギギギィアァアッ……!?!」

 

 最上階から風を突き抜けて迫りくる一本の大槍。あの鋼鉄な肉体を持つタイラントの頭部を一つ、二つと容易く貫くほどの威力。

 

(避け切れんな) 

 

 そして具現化させたケルベロスの肉体に突き刺さった。凄まじい衝撃で壁から引き剥がされアモンアノールの城下町の方角まで共に吹き飛ぶ。私は角度と方角から索敵をし、アモンアノールの城の最上階を見上げた。

 

(あの鎧が──ゲリュオンとやらか)

 

 薄汚れた鎧を身に纏い、大兜の隙間から覗かせた紅い瞳を持つ巨大な人影。恐らくはキリサメから聞いていた眷属のゲリュオン。夜空の下で私を見極めるようにじっと見下してくる。

 

「……っ」

 

 吹き飛ばされた先は城と対称となる位置。私はブーツの底を地面に擦らせながらもややしゃがみの体勢となり無傷で着地をした。

 

(散らばっているのは……鉄の武装か?)

 

 周囲を見渡せば散らばるのは鉄製の武器と建造物の残骸。私は最上階にいるゲリュオンとやらへ視線を戻し、

 

「……どこを狙っている?」

 

 真っ直ぐ飛んできた大槍を半身で回避する。一キロ以上もある距離から投擲したのにも関わらず、狙う箇所に一分の狂いもない。私は地面に突き刺さった大槍を見つめた後、風を切る音が木霊する夜空を見上げる。

 

(あれが噂の鉄の雨とやらか)

 

 流星のように降り注ごうとするのは鉄の武器。アモンアノールの城下町を瓦礫の山へと変えた『鉄の雨』だ。夜空に浮ぶ白い半月を背後にゲリュオンは新たな大槍を握りしめる。

 

「……全く、この時代はどこまでも──」

 

 私が両手に持つのは銀の大剣Oriens(オリエンス)。何千年も前に錬成された特殊な銀を素材に打たれた大剣であり、私が前世から愛用してきた武装の一種。名は敵をあの世へ『昇天』させることが由来。 

 私は向かってくる鉄の雨と大槍を構えたゲリュオンを見据え、

 

「──遠回りをさせてくれるな」

 

 追い風と共にその場から威勢よく駆け出した。

 

 

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