私の視界に映るのは荒れ果てた城内。
四方八方の至る箇所に深々と突き刺さる鉄の武装類。何らかの負荷に耐えられず亀裂を走らせた大理石の床。周囲に充満するのは鉄の錆びた臭い。顔をしかめながらゲリュオンが待つであろう荒んだ城内を突き進む。
(アモンイシルとは天地の差だな)
二階への階段を昇れば大穴を空けられた壁が目に入る。そこから少しだけ顔を覗かせて荒廃した城下町を一望し、アモンイシルの城へ視線を移した。
アモンイシルの城内は修繕されすぎていたが、アモンアノールの城内は修繕しなければまともに暮らせない有様。それこそ朝方になれば穴から日光が差し込み、吸血鬼共の肉体を灰へと変えかねないほどには荒んでいる。
「……?」
足元に散らばるのは紅色の縦模様が入った銀の鉱石。縦に長く歪な見た目をし手の平程度の大きさ。私は片手で拾い上げるとその鉱石をじっと観察する。
「
名称は
子爵以上の吸血鬼共の『灰』と心臓に突き刺した『銀の杭』が混合することで稀に生成される鉱石。吸血鬼の肉体に流れる死んだ血液に含まれた鉄分が反応を起こし、銀の杭の原型を崩す。だからこそ縦に長く歪な形をしているのだが、
(……多すぎるな)
稀とは思えないほど数が多い。
周囲を見渡してみれば紅銀石は私を導くかのように一つずつ廊下に落ちていた。私はしばらく考える素振りを見せた後、特殊銀の大剣を握り直してから痕跡を辿ることにする。
「上の階……」
紅銀石を辿って廊下を歩くと視界に入るのは三階へと続く階段。私は一段ずつ慎重に上りながら三階へと赴く。
(気配はない、か)
点々と床に転がる紅銀石を視線で辿った先に顕在する突き当りの部屋。その場に立ち止まり周囲を窺うが人の気配はおろか物音一つ聞こえない……だが念には念をと足音を最小限にして突き当りの部屋を目指す。
(静かすぎる……)
扉の前に立つが未だに静寂が去ることはない。私は不信感を覚えながらも目の前の扉に手をかける……が、壊れているのか何度押しても開く様子がないため、一歩だけ後退し無言で蹴り破り、
「この部屋は……」
扉の先の光景に思わず渋い表情を浮かべる。
部屋の中に保存されていたのは山のように積み上げられた紅銀石。床には吸血鬼共の灰らしき粉塵が散布され、日光が差し込むであろう窓は鉄の大剣で塞がれている。そんな妙な部屋を目にして私は言葉を詰まらせた。
(始末された吸血鬼共の数……。紅銀石の量からするに千は優に超えているだろうな)
紅銀石は銀の杭を突き刺せば必ず生成されるわけではない。すべては環境と運次第で大きく変わる。踏まえればこの膨大な紅銀石を収集するのに千匹は始末されたと憶測を立てられるだろう。
「何故この部屋に集めようと──」
そう言いかけ、私は振り返りざまに背後を銀の大剣で薙ぎ払った。刃と鎧が衝突し合う甲高い音が周囲へ鳴り響き、私の右腕に痺れと凄まじい反動が駆け巡る。
(この鎧ッ……)
背後に立っていたのはゲリュオン。
二メートルを超えた巨体に薄汚れた鋼鉄の鎧を纏い、左手には刃こぼれした血錆が目立つ大剣。遠目で眺めた際は気が付かなかったが、鉄の棺が繋がった三本の鎖を腰に繋げている。私は右腕の痺れに顔をしかめ距離を取ろうとしたが、
「去れ」
野太い声が兜の下から発せられ動きを止める。この場にいるのはゲリュオンと私のみ。つまり野太い声はゲリュオン自身のものとなる。
「この部屋は戦友が眠るモルグだ。アナタが立ち入る場所ではない」
「……貴様は喋れるのか」
「もう一度言おう。去れ
この部屋は吸血鬼共の死体安置所。
ゲリュオンに去れと伝えられた私はしばし身体を硬直させた後、ゆっくりと歩いて部屋から出ていく。際立つ風貌とは裏腹に敵意と気配を感じさせない妙な眷属。懐疑心だけを抱きながら廊下へと赴けば後続でゲリュオンも部屋から姿を現す。
「若人」
「……?」
「始めるぞ」
その一言を発した同時に薙ぎ払われる血錆の大剣。私は振り向きざまに銀の大剣で防御態勢を取り、ペンデュラムで遅延を付与したのだが、
「──ッ」
遅延は付与されず、全身に伝わるのは凄まじい衝撃と染み渡る関節への苦痛。例えるなら至近距離で爆撃を受けたような感覚。当然耐えしのぐことはできず、肉体は三階の廊下を弾丸のように吹き飛ばされ、
「馬鹿げた怪力だッ……」
受け身を取る間もなく頑丈な西側の壁を突き破って、城外へと放り出されてしまう。私は蒼い蔓を巻き付けた銀の大剣を四階の壁まで力任せに投擲し、一気に手繰り寄せて窓へと体当たりをしながら何とか城内へと帰還する。
(痺れがまだ収まらん)
麻痺した両腕と捻挫した右足首。
血涙の力であるスパイラルで治療を施す。その最中で私は自身の震える手の平を見つめつつゆっくりと呼吸を整え、キリサメと交わした列車での会話を脳内に過らせる。
『ゲリュオンの見た目は大柄の騎士でさ。他の眷属と違って変な力とか特性とかはないし、不死身みたいなチート染みた眷属じゃないけど……』
『……? 何だ?』
『身に着けた鋼鉄の鎧はあらゆる衝撃や刃を通さない。血錆の大剣はどんなものでも破壊する。特徴がない分、馬鹿みたいに強い眷属なんだ。真正面からやり合うのはあまり有効的じゃない』
特殊銀の大剣で斬りかかったが鎧には傷一つ付かない。血錆の大剣による一撃は私を軽々と城外へ吹き飛ばすほどの威力。聞いていた通りの怪物像に私は顔を強張らせる。
(……ペンデュラムの遅延と停止は効かんらしいな)
眷属以上の爵位にはペンデュラムの遅延と停止を付与できない。せいぜい使えるのは自身に付与する加速だけ。他の血涙の力を多用することが得策だろう。
(足音と気配を消せるのはなぜだ? ストーカー卿とやらが手を加えたのか?)
疑念を抱いているのは音が目立つ鎧や鎖を身に着けているというのに足音と気配を消せるという点。実習訓練で遭遇したケルベロスのように周囲の環境音をかき消すことができるのか。
様々な可能性を過らせながらも私は銀の大剣を握りしめ立ち上がった。
「仕掛けやらを準備して弱らせるのが最善策だろうが──」
そう言いながら廊下まで前転しながら飛び出すと同時に部屋の天井が崩壊する。立ち込める砂埃の中に薄っすらと見えるゲリュオンの影。血錆の大剣を振り下ろし、兜の下から覗かせるのは紅の瞳。
「──そう一筋縄ではいかんな」
追撃を加えようとこちらに薙ぎ払われる血錆の大剣。私はその場で屈んで回避をすれば、半径三メートル内の壁や装飾品が粉々に砕け散る。凄まじい破壊力を目の当たりにし、私は大型の回転式銃であるカヌスをゲリュオンの額目掛けて一発だけ発砲した。
(……この世の道理を知らんらしいな)
しかし空いている片腕をかざして向かってくる弾丸を握りつぶす。巨体と見合わない敏捷性と反応速度。私は独白してから屈んだ状態で四階の廊下を駆け出す。
(一度最上階まで退くべきか)
交戦するには場所が悪すぎる。
立地が整った場所を目指すために追いかけてくるゲリュオンを視認しながら、見えた階段を手当たり次第に上り、王室のある最上階を目指すことにした。
「……ッ」
六階へ上がった途端、床を突き破って目の前に現れるゲリュオン。渾身の一撃を叩き込もうと血錆の大剣を私に向かって振り下ろす。
「
私は背後に眷属スフィンクスを具現化させると即座に左手を西から東へと振り払う。窓際の壁から飛び出すのは蒼の角柱。ゲリュオンの巨体へと勢いよく衝突させ、近くの部屋まで吹き飛ばした。
(……城内を移動するのは手間がかかるな)
狭い空間でゲリュオンに追われるのは骨が折れる。ならばと窓から城外へと飛び出し、仰向けの状態で蒼い蔓を上の階にある十字架の像に巻き付け、手繰り寄せた瞬間、
「
上昇する肉体に加速を付与して七階、八階、九階と経由しなければならない階数を飛ばす。そして十一階辺りで威力が落ちたため、手前側に左手を動かすことでスフィンクスの角柱を呼び出し着地場所を用意した。
「……城というより塔だな」
軽い身のこなしで角柱へ着地をし最上階を見上げる。侵入者を迷わせるためか城内は複雑な構造を。城外は階層が上がれば上がるほど外部から侵入できないよう、窓や装飾品などが消えてただの絶壁となっていく。
最上階まで辿り着くには残り十階層。私は頭上に角柱で新たな足場を作り、蒼い蔓を巻き付けた。
「……? この音は……」
瞬間、下方から聞こえてくる崩壊音。
視線を下へと向けてみれば突き破られる壁と残骸。微かに見えたのはゲリュオンの血錆の大剣。窓際を薙ぎ払っては一階上がるを繰り返し、徐々に上の階層へと接近してくる。
「馬鹿げた真似をする」
力技で迫りくるゲリュオンから逃れるため、休む間もなく角柱に蒼い蔓を巻き付けては上空へ飛び上がる。しかし破壊音が迫る速度も徐々に早くなり、ついにはすぐ真下の階の壁が破られ、
「──ッ」
右脚を鉄の篭手が覆う左手に掴まれた。小枝のようにへし折られてもおかしくないほどの握力。ゲリュオンは城内へ引きずり込もうと力任せに私の右脚を引き寄せるため、蒼い蔓を頭上の角柱に固く結ばせて抵抗を試みる。
(……まずいか)
しかしゲリュオンの怪力から逃れられるはずもなく、右脚の骨が痛々しい音を立てて脱臼してしまう。抵抗するだけでは肉と皮膚が裂け右脚を持っていかれかねない。
「なら……」
角柱に巻き付けていた蒼い蔓を解き身体を降下させる。ゲリュオンはそのまま城内へ引きずり込もうとしたが、私は顔の半分を左手で覆うことで仮面を装着し女の頭部を三体呼び出すと、
「落ちろ」
ゲリュオンが立っていた床を頭突きで破壊する。体勢を崩したゲリュオンの巨体。僅かな隙を狙うため左手に握りしめた真っ赤な刀身の短剣。
「……ッ」
私はその短剣をゲリュオンに掴まれた右脚に突き刺す。鋭い痛みと共に溢れる血液。一瞬にして太腿から足首まで血液が伝わっていけば、
「つまらん力比べは終わりだ」
血液が粘液性を持ちゲリュオンの腕から滑るようにして右脚が抜ける。逃がさないと言わんばかりにゲリュオンは宙で血錆の大剣を振り回すが、私は解放された肉体をその場で回転させて一振りを避けると、
「失せろ」
右手に握られた特殊銀の大剣を振り下ろしゲリュオンの頭部に叩き込む。自身に加速を付与したうえでの加減なしの全身全霊の一撃。甲高い金属音が鳴り響き、全身に反動の衝撃が伝わる。それでも感じたのは確かな手応え。
「……今度は私が見下ろす番だ」
ゲリュオンの巨体が加速しながら自由落下する光景。角柱に着地をしながら見下しつつ、右脚に突き刺さった真っ赤な短剣を引き抜く。
「まさかこいつが役に立つとはな」
真っ赤な刀身を持つ短剣の名称は
「気味の悪い武装だ」
シレクスは『吸血鬼共のような怪物の拘束から抜け出す』ために携帯している。赤の刀身に染み込むのは
離血花は血液中に含まれる白血球や血小板といった成分を別の液体で分別する特性を持っている。当然だが血液に含まれた毒物も細かく分別を行うため、新たな解毒剤を作る際に多用されていた。
(……久しいな)
私は人生で一度だけ離血花を研究した。
新たな可能性を求めいくつもの花を交配させる日々。その結果として生まれたのは交配種の
「このまま進むしかないか」
怪力を持つ吸血鬼共に拘束されれば振りほどくのは困難。このような事態が起きたときにシレクスを吸血鬼共の肉体に突き刺せば、滑りが良くなり拘束から逃れられる。
(不快極まりない)
ゲリュオンの鎧には突き刺さらないため咄嗟の判断で自身の右脚に突き立てたが、血涙の力で傷を再生しても尚、粘着性のあるぬめりは残されたまま。不快な気分をやや募らせてしまうがこの武装には何度も命を救われている。
認めざるを得ない事実にため息をつき、再び頭上の角柱に蒼い蔓を巻き付けて階層を超えていく。
「……拗らせた城だな」
見えてきた最上階。
私は難なく着地をすると顔を上げて周囲を一望してからそう呟く。最上階だと思った場所には長い階段が天へ昇るように続く。階段の先にはこちらを見下ろす巨大な大聖堂。
(なるほど、城自体が偽装か……)
広大な城の頂上に巨大な大聖堂が建てられた光景。歪な構造に眉を顰めながらも私は長い階段を一段ずつ上がっていく。
(……紅銀石)
階段に散らばる無数の紅銀石は人間と吸血鬼共の死闘が繰り広げられた痕跡となる。一つ一つ視線を移しつつも階段を上り続けていれば、大聖堂の両扉の前まで辿り着く。
(あの鎧の姿は見えんな。この隙に中で細工を施すべきか)
ゲリュオンは未だ追いついてこない。ケリを付ける場所を大聖堂に決めた私は両扉を片手で押す。地面を擦る重苦しい音と木が軋む音が響き、私は大聖堂の内部へと足を踏み入れた。
「……荒れてるな」
視界に映り込むのは廃れた室内。
首が痛くなるほど巨大な女神像が奥に四体ほど並び、長椅子の残骸が周囲に捨ててある。床に敷かれた赤い絨毯は好き放題に破れ、錆びた鉄の十字架と硝子の破片が散らばっていた。
「あれは……」
四体の女神像が見下ろす先に積み上げられるのは無数の書物。脳裏を過るのは『千年の空白はアモンアノールに眠っている』という言葉。私は静かに歩み寄ると中心に置かれた一冊の書物を手に取った。
「このまま
後方から投擲される大槍。
私は振り向きざまに遅延を付与すると特殊銀の大剣で他所へ弾き飛ばす。両扉の前に立つのはゲリュオン。頭部を覆う兜には先ほど叩き斬った傷が残っていた。
「──まずは貴様の相手が先か」
傷がついたのなら勝機はある。
私が自身の肉体に加速を付与してから駆け出せば、ゲリュオンも迎え撃とうと血錆の大剣を引きずって迫りくる。
そして互いの距離が大剣の刃が届く圏内に近づいた瞬間、力強く一歩を踏み出し、
「……ッ!」
振り上げられたゲリュオンの血錆の大剣と振り下ろされた私の特殊銀の大剣が激しく衝突し合う。力量は五分五分なようで互いの大剣は反動で大きく
「
周囲を瞬時に取り巻く蒼色の獄炎。私はゲリュオンの視界を遮りながら背後へと回り込み、両手持ちに切り替えた銀の大剣を背中へと叩きこもうとした。
「……っ」
だが位置を把握しているのか、左腕による高速の裏拳をこちらに向かって繰り出してくる。私は即座に大剣の動きを止め寸前で回避した後、代わりに左手で顔を押さえ、呼び出した女の頭部による頭突きをゲリュオンの背中に二度打ち込む。
(この鎧、後ろに目でも付いているのか……)
確実に視界は遮ったはず。
後退しつつ位置把握の鋭さに疑念を抱く。恐らく視覚でこちらの居場所を認識しているわけではない。
(試すしかないな)
大聖堂の中央でぶつかり合う大剣。ゲリュオンは有り余る怪力と敏捷性を奮い、私は持てる血涙の力を多様かつ柔軟に発現させる。聖堂内は立ち込める砂煙に満たされ、金属同士が鳴らす不協和音の合奏が奏でられた。
「……っ!」
その最中、ゲリュオンが血錆の大剣による連撃を打ち込む瞬間をわざとずらす。加速した銀の大剣は空振りし、隙を狙って振り下ろされる鉄の籠手が装着された左拳。凄まじい威力の拳骨が私の頭頂部へと叩き込まれ、意識と首が飛びかける。
瞬間、両脚に力を込めて踏ん張ると大型の回転式銃であるカヌスを取り出す。そして四発の弾丸をすべてゲリュオンに向け撃ち出した。
(ただでは済まさんッ……)
大剣を交えたうえで立てられた憶測。
前提としてゲリュオンの鎧は凄まじい強度を持つため、斬り傷程度の損傷しか与えられない。鎧を破壊する前にこちらの大剣が使い物にならなくなる。
(鎧を狙うのは愚策……)
獄炎でゲリュオンの視界を塞いだ後、最初のように背後へ回り込む。当然だがゲリュオンは私の位置を把握しているだろう。弾丸は物ともしないと思い込み、こちらへ振り向いて反撃をする。……しかし私の狙いはそこではない。
「──ッ!」
狙いを定めたのは鎧では覆い隠せない
「頑丈なのは──」
狼狽えたゲリュオン。
私は銀の大剣を振りかぶると兜と鎧を繋ぐ鎖帷子の部分へ鋭利な矛先を向け、そのままゲリュオンの首元から腰にかけて深々と突き刺し、
「──面の皮だけだろう」
蒼色の獄炎を鎧の内部から発現させた。隙間から火山のように噴出する蒼の獄炎。鎧の内側にあるであろうゲリュオンの肉体を隅々まで焼き尽くす。これは過去にステラ・レインズと対峙した際に使用した『外側が駄目ならば内側を狙う』手法だ。
「──」
(……動かんな)
効いているのかゲリュオンはその場に片膝を突いて静止する。私は突き刺していた銀の大剣を引き抜き、警戒を怠らぬよう少し距離を置いてからしばらく様子を窺う。
(手応えはあったが……この鎧が呆気なく始末されてくれるとは思えん)
募らせていく不信感に反応するのはゲリュオンが引きずっていた鉄の棺。腰に巻き付けていた三本の鎖が揺れ、三つの鉄の棺が小刻みに震え始めた。
(あの棺には何が入っている……?)
千切れる鎖と独りでに動き出す棺たち。重々しい音を立てて片膝を突いたゲリュオンの元まで近寄ろうとする。止めるべきか、と一瞬だけ脳裏を過ったがそう考えた時には既にゲリュオンの目の前まで移動してしまっていた。
(あれは遺体か?)
棺の蓋が一斉に開いていく。
左の棺には王女らしき女性の遺体、中央の棺には王らしき男性の遺体、右の棺には息子らしき少年の遺体が供養されていた。そのどれもが腐敗せずに原型を留めており、花束の代わりに紅銀石が敷き詰められている状態。
「──
「……!」
俯きながらこちらへ呼びかけてくるゲリュオン。まだ始末し切れていなかったか、と私は眉を顰めながら臨戦態勢へと入る。
「『罪に非はなく罪人に非がある』と。ならばこの方々を守り抜けなかった鎧の私に、罪はないのだろう」
(鎧の表面が、剥がれている……?)
剥がれていく鎧の表面。
薄汚れた鉄の錆を洗い流すかのように次々と一枚皮で剥がれていく。その下から輝きを見せるのは傷一つ付かない純正の銀。
「だが償わなければならない」
錆びていた鉄の鎧は瞬く間に光沢が眩い銀の鎧へ変われば、棺の中に供養されていた三人の遺体はいつの間にか骸へと成り果てる。
「
一瞬だけ視界に映るのは背中に刻まれた十字架の模様。淡々と語り続けるゲリュオンは仕上げだと言わんばかりに血錆の大剣を拾い上げ、持ち手を力強く握りしめると軽く素振りをし、
「──罪を背負う資格はあるだろうか?」
銀の刀身と紅の刃が煌めく──紅銀石の大剣を露わにして見せた。
※2023/09/18/※
今週は『月曜・火曜・水曜・木曜・金曜』の週5更新となります。更新時間は変わらず7:00です。