「……ん?」
俺は我に返ると観衆の中に混ざっていた。
辺りを見渡すとそこはグローリアの首都アルケミス。ふと顔を上げた先には処刑台。研ぎ澄まされたギロチンが縄によって結ばれている。
「アレクシア……!」
ギロチンの先にいたのはアレクシア。
無情な顔で斬首刑を受け入れていた。取り囲む観衆は誰もが憎しみを抱き、罵声にも似た怒りを塊をぶつけ、今か今かと処刑を待ち望んだ。
「どいてくださいッ、どいてッ!!」
観衆を力づくで掻き分けてアレクシアの元まで突き進む。その度に鉄の斧を持った処刑人がアレクシアの前まで近づく。
「どけ、どけよッ、どけって言ってんだろぉおぉッ!!」
ギロチンに結ばれた縄へ斧を振り上げようとする処刑人。心臓の鼓動が早まり、観衆に声を荒げながら前進する。
「待て、待ってくれッ……!!」
そんな俺の声は周囲の歓声にかき消されてしまう。処刑人は期待に応えるように鉄の斧を振り上げる。俺に出来ることは手を伸ばすことだけ。
「やめろッ、やめろぉおおぉおーーーーッ!!」
斧が振り下ろされる瞬間、俺は反射的に身体を起こす。観衆も消え、処刑台も消え、声すら聞こえない。右手を伸ばした状態で辺りを見渡すとそこは寝室だった。
「遅起きねサメサメ。もうお昼は過ぎたわ」
「ラミ? ……それじゃあここは?」
「アダールランバ。ラミのお城よ」
窓のそばにはカーテンを開けるラミ。
悪い夢だったのだと理解した俺は胸を撫で下ろす。
「酷い顔ね。とんでもない間抜け面」
「『鳩が豆鉄砲を食ったような』ってことわざ、知らないのか?」
「そうね、鳩は豆鉄砲を食べないから」
「どういう返答だよ、それ……?」
絶妙な返答をされた俺は頬を引き攣った後、ハッと我に返りラミへこう尋ねた。
「そうだラミ! アレクシアはどこに……」
「……」
「ラミ?」
ラミは何も答えない。
知らないというよりはどう答えるべきかと考えているような表情。俺はしばらくラミの返答を待っていると寝室の扉が開く。
「目が覚めて何よりよ、キリサメ・カイト君」
「……エリザさん?」
姿を見せたのは十戒のエリザさん。寝室に立ち入ると俺のベッドまで歩み寄って、窓際に立つラミへ視線を向けた。
「あなたは席を外して貰える?」
「グリーリアのわんこがラミに命令するのね」
「なら別に席を外さなくてもいいわよ。私たちが
「……仕方ないわね」
納得がいかない顔をしつつもラミは寝室から出ていく。エリザは足音が遠ざかるのを耳にしてから黒の手袋を付ける。そして俺の額に左手を乗せながら顔を近づけ、ペンライトで俺の瞳を照らしてきた。
「どこか痛むところはない?」
「はい、特には」
「具合はどう?」
「そうですね、少し身体が重いぐらい……?」
「……身体が重い、ね」
エリザさんから漂うのは保健室を思い出させる匂い。間近で診察を受けながら俺がそんなことを考えていると、エリザさんは軽く笑みを浮かべて顔を離した。
「それにしてもよく生きていたわね」
「よく生きていたって……。そんなに俺の怪我って酷かったんですか?」
「ええ、あなた重傷だったのよ。肋骨が三本ぐらい折れて、臓器の損傷も数箇所以上。おまけに鼓膜も破れて目は
「そ、それってやばいんじゃ……!?」
「大丈夫よ、私の加護でもう治療したから。後遺症どころか傷痕すら残らないわ」
エリザさんに医者らしい落ち着いた声でなだめられ二度目の安堵をする。そんな俺を見ながらエリザさんはペンライトをしまい黒の手袋を外す。
「リハビリよ、歩きながら話をしましょう。これからと、
「……! はい、分かりました」
差し出された右手を掴んでベッドから降りる。寝室を後にして廊下を歩き始めると、ややこっちに顔を向けたエリザさんが今の状況をこう教えてくれた。
「あなたが眠っている間に、アレクシア・バートリはグローリアへ連れていかれたわ。ヘレンがエレナとソニアを同伴させて」
「そうです、よね」
もしかしたら誤解が解けたのではないか。
そんな期待はあっという間に砕けた。分かってはいたけど受け止めきれない事実。俺は言葉を詰まらせながら受け答えをする。
「あの、俺たちは吸血鬼に勝ったんですか?」
「ええ、この第二次終末聖戦は雪月花の勝利よ。……けど失ったものは多かった」
「……? 失ったものって──」
「姉様っ、しっかりしてください姉様っ……!」
部屋から聞こえてくるミールさんの悲しむ声。
目に入ったのは半開きの状態になった扉の向こう側。ベッドの上で天井を見つめる氷の皇女スノウ。あの厳格な皇女とは思えないほどに生気のない虚ろな瞳。まるで目を開いた人形のようだった。
「スノウさんに……何があったんですか?」
「植物状態になったのよ。端的に言えば今の彼女は生きている人形」
「植物状態? どうしてそんなことに……」
「私とルーナが駆け付けた時、彼女は生と死の淵を彷徨っていたわ。だから私が加護で致命傷になる怪我をすべて治療した……何の異常もなかったわ、その時はね」
ベッドへ泣きつくミールさんとその身体を優しく支えるヤミさん。そばには棒立ちで立ち尽くすクレスと自分の不甲斐なさに歯を食いしばるルミさん。エリザさんはその光景を静観しながら説明を続ける。
「彼女は摂取していたのよ。世界三大毒花、永久氷花の毒の蜜を」
「毒の蜜……それってどんな毒なんですか?」
「永久氷花の蜜は人の心を凍らせるのよ。医学的に言えば感情を生む
「ん? その毒とあの状態がどう関係して……」
毒の内容と植物状態の関係性をあまり感じない。俺が首を傾げながら質問するとエリザさんは半分開いていた扉を静かに閉め、落ち着いた口調でこう答えた。
「半端な解毒状態で、致命傷を負い、意識を手放した。この三つの要因が重なった結果……大脳全体が麻痺してしまったのよ。だから反応もないし自分から動くこともできない」
「助ける方法はないんですか? ほら、エリザさんの加護で治せば……!」
「……ごめんなさい、私の加護でも治せないわ」
首を左右に振って否定するエリザさん。加護でも助けられない。そんな無力感から少し辛い表情をするエリザさんを見てられず俺は視線を逸らしてしまう。
「今から話すことは……誰にも言わないって約束してくれる?」
「えっ? は、はい」
「……私の加護はどんな病気でも治せるわけじゃないの。治せる範囲は病に対する治療薬や毒を消せる解毒剤があるものだけ」
「じゃあ新しい病とかが出てきたら……。加護は使えないってことですか?」
「ええそうよ。私自身か薬学を研究する誰かが治療薬を見つけない限りはね。要約するなら私の加護は『医学の進歩』によって左右されるってこと」
てっきり俺は加護で何でも治せると思っていた。
でも実際は未知の病や未知の毒は治せない。『医学の進歩』に左右される。この言葉の意味は裏を返せば──加護に頼りすぎる時代が続けば続くほど治せる範囲が狭まるということだ。
「永久氷花の解毒剤はこの世にまだ存在しない。彼女を治療できないのはそれが理由なの」
「そうなんですね……」
「あなたの身体が重い理由も、恐らくそこに結び付くと私は考えているわ」
「えっと、結び付くっていうのは……?」
「身体が重いのはあなたが『
奇術の反動を軽くする薬。
そんなものはこの世界に存在しないし誰かが開発するはずもない。俺が内心納得をしていると閉まっていた扉が開き、クレスが廊下に姿を見せた。
「……エリザ、礼をまだ言えてなかったな。姉さんを助けてくれてありがとう」
「私は、医師として当然のことをしたまでよ」
クレスは深々と頭を下げる。でもエリザさんは思うところがあるようでバツが悪そうに表情を曇らせた。
「それとあなたに頼みがある」
「頼み?」
「姉さんを、姉さんを助ける方法を教えてほしい」
いつになく真剣な眼差しを送られたエリザは口を閉ざす。クレスの前で腕を組みどう返答するかを考える。
「彼女を助ける方法は二つあるわ。一つ目は永久氷花の解毒剤が調合される時を待つことよ。それが最も安全で、医師の私から推奨できる提案」
「もう一つの方法は?」
「二つ目は……永久氷花の毒の蜜をもう一度摂取させること」
「何だって? そんなことをして大丈夫なのか?」
「正直、賭けに近いわ。でも彼女がああなったのは半端な解毒が原因。なら毒を摂取して元の状態まで戻せば彼女は帰ってくるはず……この提案は医師の私からじゃなくて、私個人からの提案よ」
指を二本立てて説明するエリザ。二つの提案を聞いたクレスは神妙な顔つきで考え込んだ。俺がそのやり取りを静かに傍観していると覚悟を決めたのかクレスが顔を上げる。
「……俺は永久氷花をアンゲルス大陸まで取りに行く」
「本当にいいのね?」
「ああ、雪月花は三人で一つだからな。それに姉さんを助けられる可能性が少しでもあるのなら……俺はどんなリスクだって背負ってやるよ」
紅い瞳に宿っている強い意志。きっとクレスにとってのスノウさんは俺で例えるならアレクシア。決意したその台詞を聞いてそれほどに大切な存在なのだと俺でも汲み取れた。
「クレス……」
「すまないなキリサメ。本当はお前の手助けをしてやりたいが、俺は姉さんを放ってはおけない。だから──」
「俺は大丈夫だって! アイツのことは俺の方で何とかするからさ! クレスはお姉さんを助けてやってくれ!」
「……ふっ、本当にいいやつだなお前は」
俺が空気を重くしないよう明るく振る舞うとクレスは頬を緩めつつ、懐から白いコインを取り出す。そしてその白いコインを握らせてきた。
「このコインって……?」
「お守りだ。いつかお前の助けになる」
「……ありがとな、クレス」
白いコインの表に刻まれるのは白い薔薇。裏に刻まれるのはルービックキューブのような四角い紋章と『No.4』という数字。使い方は分からないけどクレスの想いが込められてる気がして、思わず感謝の言葉を述べた。
「短い付き合いだったが色々と世話になったな」
「ははっ、俺なんて世話になりすぎたよ。クレスがいなかったら俺は今頃どうなってたか……。とにかくこれからも互いにこの世界で頑張ろうぜ」
「ああ、お互いにな。……じゃあなキリサメ、上手くやれよ」
「クレスの方こそ!」
クレスは別れを惜しむようにその場を去っていく。同じ
「話を戻してもいいかしら?」
「あっ、はい大丈夫です」
「犠牲はあったけど第二次終末聖戦は雪月花が勝利し、アレクシア・バートリはグローリアに連れていかれた……。そこであなたに見てもらいたいものがあるの」
「見てもらいたいもの?」
「ええ、付いてきなさい」
連れられた場所は城の地下室。薄暗い地下を歩きながらエリザさんは俺に対してこんな話を持ち掛ける。
「知っているわよね? 吸血鬼に情報を漏らした内通者がいるって話」
「はい、知っています。俺たちの作戦が全部バレていたみたいで……」
「あなたが眠っている間に容疑者は二人まで絞られたわ。けどそこから情報不足もあって決めることができないのよ」
奥の地下牢から聞こえてくる女性の声と男性の声。俺はエリザさんの後に続きその場へ顔を出して覗いてみた。
「私ではない! 隣の彼女が内通者だ!」
「わ、わわわっ、私じゃないでしゅ……ですッ! な、なにが起きてるのかっ、わ、分からなかっただけでッ!!」
「ローレンさんと、隣の子はまさか……」
「そう、あなたと同じ
氷月騎士団の団長ローレン・アストリーさん。その隣には青色の制服、赤メガネに暗めの髪色、ミディアムぐらいの髪の長さをしている女子高生。二人が縄で拘束された状態で座らされていた。
「ルーナ、内通者は分かったかしら?」
「……ごめん、分からない」
「フローラ、あなたは?」
「えへんっ、それがみじんも分からないんですっ!」
項垂れているルーナさんと何故か胸を張っているフローラさん。俺はエリザさんたちを他所にして異世界転生者らしい女子高生を観察する。
「騎士団長の部屋からは差出人不明の空の手紙が何通か見つかったのよ。中身は抜かれて処分されていたようだけど封筒に日付が残っていたわ。……その中に、第二次終末聖戦が開戦する当日の日付もあった」
「その日に偶然届いただけだ!」
「中身を処分する必要はあったのかしら?」
「手紙の相手はアフェードロストにいる恋人で……中身を他人に見られたくなくて当然だろう!?」
ローレンさんはエリザさんに反論をする。
何となく理由は分かるけど中身を捨てるまでしなくてもいいんじゃないか。そんな疑念を抱きながら俺はエリザさんにこんな質問をした。
「あの、この子はどうして内通者の候補に……?」
「エレナ曰く、彼女は奇術で別の人間や食屍鬼に姿を変えられるみたいよ。『変異体の食屍鬼になりすましていた』って聞いているわ」
「ち、ちち、ちがいましゅっ……すッ! そ、それは、死にたくなかったからっ、す、姿を変えていただけです
「『か』は余分だろ……って、あれ? そういえばどこかでこんな感じの喋り方をしてた人と会ったような……?」
喋り方だけは初対面とは思えないぐらい聞き馴染みがある。俺が思い出そうと頭を捻って考え込んでいると、女子高生は「あっあっ!」と何かに気が付くように指を指してきた。
「あ、あの変なシスターが沢山いた、町にいた人でしゅ、ですよねっ……!?」
「えっ? どうしてそれを知って……」
「わ、わわ、私が、ほら、偽物か本物を確かめた、正真正銘の偽物ですっ!」
「──! その言葉……!」
脳裏を過るのはネクロポリス。鐘の教会の地下室でアランさんとララさんの偽物を判別しようとしたときの記憶。
『ま、まま、待ってください! そうです、そうなんです! 私は正真正銘の偽物です!』
『正真正銘の偽物ってなんだよ……?』
『偽物、偽物ですから殺さないでください! 私は偽物でも生きてるんですぅう!』
アレクシアが早々に見つけたララさんの偽物。記憶にある偽物と目の前の女子高生の像が一致する。更に一致するのは奇術の詳細。
『わ、私の変な力は、ですね……。手を向けた人に、なりすますことができ、でき、できるみたいなんです……』
あの時の偽物はそう言って実際にシスターに変化して見せた。変な力と自称している辺りも
「君はさ、どうやってここまで来たんだ?」
「ま、まま、魔女の馬小屋って場所から逃げてきてっ! 谷みたいなところを越えて、変なシスターのいる町から逃げてきてっ! 気が付いたら変なお城にいてっ!」
「魔女の馬小屋……! じゃあ、そこで誰かと会ったりも?」
「ま、
「……っ! 牧貝香と雪兎……!」
「エリザさん、この子は内通者じゃありません」
「……あなたは分かるのね? 彼女が嘘をついていないって」
「はい、俺の中では色々と辻褄が合うので……。この子は本当に生き延びようとしていただけで、奇術も襲われないように使っていただけだと思います」
「少年、君は私が内通者だと疑っているのか?! 敵に情報を売る理由なんて私にあるはずないだろうに──」
「ちょっといいかな?」
言葉を遮るのはラファエルさん。右手に持っているのは一通の手紙。それを俺たちに見せびらかしながらローレンさんの前へと放り投げた。
「ローレン、ついさっき君宛にこの手紙が届いたんだ。中を読んでみたらどうかな」
「私宛にこの手紙が……?」
「ああ、縛られて読めないよね。じゃあ代わりに読んであげるよ」
ラファエルさんはわざとらしく振る舞い放り投げた手紙を拾い上げる。そして一文ずつ丁寧にこう読み上げ始めた。
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ローレン・アストリー
情報を提供してくれてありがとう……と言いたいところだけど十戒が数名いるなんて聞いてないよ? おかげで第二次終末聖戦で二体の眷属を失うことになったじゃないか。だから君の命だけは助ける約束は無しだからね。
ああ、薄情なんて言わないでよ。こっちは君の為に栄光騎士のミシェル・アルフォードを殺してあげたんだ。君が騎士団長として選ばれたいと望んだから、アモンアノールとアモンイシルの内部情報を条件に殺してあげたんだし。
その時はフェアだったけど、今回はフェアじゃない。僕も私も君にはがっかりしちゃった。……あっ、多分この手紙って他の人に見られてるよね? じゃあここにいる人たちに教えてあげよっかな。
このローレンって人は裏切者です。雪月花の故郷が奪われる前から僕らに情報を売っていました。吸血鬼と繋がっていた内通者はこの騎士です。騎士の家系のアルフォード家に妬みを恨みを持ってたんだってさ。
それじゃあばいばい、君は少し役に立ったよ。首チョンパ。
八ノ罪ノエル・イザード
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「……ローレン、これでも君はまだ──」
「ああそうだよ俺が裏切者だ。あーあ、結局俺は捨て駒かよあのクソガキッ……!!」
ラファエルが問い詰めようとした途端、態度が豹変するローレン。騎士団長としての言動は消え失せ、野蛮な男へと変わり果てる。
「ローレンさん、どうして裏切って……」
「吸血鬼に勝てるわけないだろ?」
「えっ?」
「人間がな、吸血鬼と戦争して勝てるわけないんだよ。今回だって俺らは戦争に勝っていない。考えてみろよ、もし今夜も攻めてきたらどうなると思う? 俺たちは全員死ぬ、ここで、全員死ぬんだ」
ローレンは自暴自棄になって言葉を吐き出す。そんな姿を目の当たりにした俺たちは黙ってローレンの話に耳を傾けていた。
「じゃあどうしてミシェルを殺そうと……?」
「ははっ、ムカつくからに決まってるだろ。栄光騎士もアルフォード家も、ムカつくんだよ。騎士の家系だからっていい顔して、俺らのことを下に見やがって……」
「それだけの、理由で?」
「ああそうだよ。雪月花の長女もミシェルの野郎にしか興味がなかった。俺がどれだけ苦労してたと思ってる? ……ああそうか、あの長女は今大変なんだってな? 生きてる死体になってんだろ? いい気味じゃねぇか──」
黙れと言わんばかりにルーナさんの蹴りがローレンの右頬を掠める。すぐ背後にある壁には大きなヒビが入り、辺りは衝撃で軽く揺れた。
「次は……頭を蹴り潰す」
「ひっ、ひぃいぃッ……!?」
蒼い眼光に込められる威圧と殺気。顔を青ざめたローレンは目を見開いてエリザさんたちに助けを請うと、ラファエルがルーナさんの肩を掴んだ。
「止してくれ、裁くのは僕らの役目だ。君らの出る幕じゃない」
「彼の言う通りよルーナ。内通者も自白してくれたことだし後は任せましょう」
「でも……分かった」
エリザさんは賛同しつつ容疑が晴れた女子高生の拘束を解く。ルーナさんは出しかけた言葉を呑み込むと早足で地下牢を出て行った為、俺たちもラファエルさんを置いて地下牢から出ていくことにした。
「た、たた、助かりましたっ……あ、ありがとうございますっ……。そ、それでその、あなたは一体……?」
「ああ名前言ってなかったっけ? えっと、俺はキリサメ・カイトだよ。君の名前は?」
「し、し、
「何で『か』がつくんだ……?」
白川初音。
メル以来に出会う女性の
「ルーナ、少しの間だけこの子の面倒を見ていてくれる?」
「うん、分かった。……行こう、シーちゃん」
「は、ははっ、はいぃっ! お、お手柔らかに、おお、お願いしますっ!」
「……? どうして怖がってる?」
「はぁ、さっき自分が何したのかを思い出しなさい」
ルーナさんは首を傾げて考えた末、「まぁいいか」というような反応をして怯えたシラカワ・ハツネを連れていく。エリザさんはその後ろ姿を眺めた後、俺の方へ視線を移した。
「事前に部屋を借りておいたわ。茶菓子でも摘まみながらこれからの話をしましょう」
「はい、分かりまし──」
「へっ、茶菓子があるんですか!? 我が主も大歓喜です! もしかしてご当地名物の桜餅もあったり……!」
涎を垂らして目をキラキラさせるフローラさん。一人で盛り上がっている姿に俺とエリザさんは頬を引き攣りながら無言で見つめていると、冷めた空気に気が付いたフローラさんは俺たちを交互に見つめ、
「ごほんっ、では行きましょう二人とも。我が主も時間が惜しいと告げております」
シスターらしい振る舞いを見せながら俺たちに背を向けて優雅に廊下を歩いていく。エリザさんはそんな調子のいいフローラさんに呆れた様子でため息をつき、
「フローラ」
「はい?」
「そっちに茶菓子はないわよ」
フローラさんはその場に硬直させる。
絶妙な空気の中で唯一聞こえるのは──外を飛び回る小鳥の鳴き声だけだった。