ЯeinCarnation   作:酉鳥

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10:4『一方的な友情』

 

 キリサメたちが魔女の馬小屋へ訪れている時刻。グローリアではレジスタンスのメンバーたちが各々行動を始めていた。その中でも一際やる気に満ちているのはアリス・イザード。

 

「よぉしナタリアさん! アレクシアさんを助ける為に頑張りましょうね!」

「はいはい、勝ちましょうか!」

「勝つ……? よく分かりませんが勝ちましょう!」

 

 彼女に託された役目はアルケミスでオルフェンたちの動向を窺うというもの。その相方として同行するのはナタリア・レインズ。息が合うのか合わないのか分からないコンビでアルケミスの町を歩き回る。

 

「むむっ!? ナタリアさん、あれを見てください!」

「はいはい、どうかしましたかぁ?」

「教皇さんのお仲間がお婆ちゃんと話しています!」

 

 アリスが木箱の陰に身を隠して指差すのはPupa(プーパ)。桃色髪のツインテールを左手で弄りながら老人の女性と何かを話していた。

 

「きっと教皇さんの秘密を喋っているはずです! 近くで聞いてみましょう!」

「その辺の老人に秘密を喋るんですかねぇ?」

「はっ!? もしかしたらお婆ちゃんに意地悪してるのでは!?」

「そんな風には見えないですけどねぇ?」

 

 空の木箱を抱えながらプーパのそばまで慎重に近づいていくアリス。ナタリアは小首を傾げてその姿を棒立ちで見送るだけ。

 

「あいつら、何してんの……?」

 

 そんな二人に気が付かないわけもなくプーパは横目で苦笑する。アリスは隠れているつもりだが頭頂部と腰から下がはみ出ているせいでプーパ視点では丸見えだった。

 

「ありがとねぇお嬢ちゃん。荷物を運んでくれて」

「いいのいいの。こういう時は助け合いっしょ?」

「ふふ、それもそうだねぇ」 

「じゃ、オルフェン様の応援お願いね! また困ったことがあったらうちに声かけて!」

 

 愛想よく老人に別れを告げると木箱に隠れるアリスの前まで歩み寄るプーパ。アリスは未だにバレていないと思い込んでいるのか、その場に硬直してやり過ごそうと試みる。

 

「お前、何してんの?」

「……にゃーにゃー」

「あぁ何だ、猫だったかー……って騙されるか!」

「ありっ!? き、気付かれちゃいました……!?」

 

 棒読みで騙されるフリをしながら木箱を取り上げるプーパ。アリスは「マズい」と言わんばかりの顔であたふたした後、後方で棒立ちしているナタリアへ助けを求めるが、

 

「おやおやぁ、あそこにいるのは……」

「ナ、ナタリアさぁあぁん!? ど、どこに行くんですかぁあぁっ!?」

 

 何かを見つけるとアリスとは正反対の方角へドタバタと走り去ってしまう。アリスの声は空しく響くだけでナタリアは見向きもしない。

 

「こそこそ何してんの? うちになんか用でもあるわけ?」

「特に用はありません!」

「ふーん、用がないのにガン見すんの?」

「み、見てなんかいませんよ~! ふーっふーっ!」

 

 視線を逸らしながら誤魔化すように口笛を吹くが漏れるのは空気だけ。そんな下手くそな口笛を吹いたアリスをジト目でしばらく見つめた後、

 

「どーせ、盗み聞きしようとしたんでしょ?」

「ギ、ギクッ……!? な、なな、何のことですかねー?」

「何でこの子を送り込んできたんだか……。もうちょいマシなやつ送れし」

 

 全てを見抜いているかのように言及した。露骨に動揺するアリスに思わず呆れてしまったプーパはため息交じりの苦言を呈する。

 

「あ、あのぉ~……」

「なに?」

「もしかして、お婆ちゃんを助けていたんですか?」

「そーだけど?」

 

 恐る恐る質問してきたアリスに淡々と返答するプーパ。アリスは逸らしていた視線をゆっくりと戻しプーパと顔を合わせる。

 

「す、すみませんでしたっ!」

「は? 何で謝ってんの?」

「私、あなたのこともっと怖い人だと思ってました。だからお婆ちゃんに意地悪してるんだと勝手に決めつけて……」

「そう思われても仕方ないっしょ。うちはお前らの敵なんだから」

 

 時刻を刻む時計が飾られる噴水。その近くにいるのは買い物をする親子や悪人を捕らえる為に徘徊する自警団。そんな光景を自身の眼に映すとプーパは思わず頬を緩めた。

 

「あなたは、えっと……」

「プーパでいい」

「じゃあプーパさんは……どうして悪い教皇さんの味方をしてるんですか?」

 

 あまりにも直球な問いかけ。しかしプーパは平然とした様子で賑やかな街の景色を眺め、隣に立っているアリスの方を見る。

 

「悪い教皇さん、ね。お前にはそう見えんの?」

「は、はい! 優しいアレクシアさんにあんな酷いことをしたんです! すっごく悪い人にしか見えません!」

「でもうちからすればアレクシアってやつが怪物に見えたけど」

「え?」

 

 その一言にアリスは思わずキョトンとしてしまう。自分の中ではアレクシアが怪物になんて見えない。そう言いたげな顔をしていればプーパは補足するように続けてこう述べた。

 

「もっと言うとね。うちからすればオルフェン様は悪い教皇さんじゃないの。ほんとのうちを受け入れてくれた神様」

「か、神様? あのお爺ちゃんがですか?」

「そっ、お前には分かんないかもね。まぁうちもあの怪物が優しいってのは意味わかんないけど」

「ア、アレクシアさんは本当に優しいんです! 実習訓練で私のことを助けてくれたり……あ、あとお部屋のネズミ退治をしてくれました!」

「ぷっ、なにそれ? あいつがネズミ退治してくれたの?」

 

 笑いを堪え切れず噴き出してしまうプーパ。対してアリスはやや不機嫌な様子で「本当です!」と両頬を膨らませて主張をする。

 

「オルフェン様だって行く宛のないうちに手を差し伸べてくれた。この世界に来て、ずっと独りぼっちだったうちを助けてくれたの」

「そ、そうなんですか?」

「そっ、流石にネズミ退治は流石はしてくれないけど」

 

 オルフェンの話をしながら清々しい微笑みを見せるプーパ。その顔が全く悪人の肩を持つ信者とは思えず唖然とした後、アリスはあることに気が付きハッとした様子で顔を上げる。

 

「あ、ありっ? も、もしかしてプーパさんはキリサメさんと同じ異世界転生者(トリックスター)って人ですか?」

「ふーん、なんでそう思ったわけ?」

「さっき『この世界に来て』と言っていたので……。後は何となく雰囲気が似ているなぁと」

「そう、うちは異世界転生者ってやつ。この世界に来る前は『アイドル』のセンターやってたんだけど……」

 

 プーパがそう言いかけてアリスの顔色窺ってみれば「あいどる?」と首を傾げ、疑念だらけの胸中で理解しようと必死に考え込んでいた。

 

「分かんない? 『りんご飴』っていうちょー人気のアイドルグループなんだけど」

「り、りんご飴ですか!? すみません、もっと分からなくなりました……」

「まっ、そだよねー。この世界にそんな職業あるわけないし、これが普通の反応か」

 

 異世界転生者にとっての常識はこの世界では非常識。プーパは改めてそれを実感したようで少しだけ寂しそうな表情を見せる。

 

「あの~……『あいどる』っていうのはどんなお仕事なんですか?」

「んー、歌って踊って人に夢を見させる仕事かな」

「あっ、分かりました! 『あいどる』というのは詩人さんなんですね……!」

「詩人って……。アイドルはそんな立派なもんじゃないから」

 

 表情を輝かせつつ閃いたアリス。そんな調子のいい彼女にプーパは苦笑すると懐から桃色の花模様のカバーが付いたスマホを取り出して一枚の写真を見せる。

 

「ほら、これがアイドル。真ん中にいるのがうちで周りにいるのがメンバー」

 

 その写真に映り込んでいるのは五人のアイドル。真ん中にりんご飴の装飾品を持ったプーパが堂々と居座り、左右に並ぶのは他のメンバーたち。誰もが可愛らしい笑顔を浮かべ、写真の中に納まっている。

 

「んん? プーパさんの後ろの方でピカピカしているのは何ですか?」

「ああこれ? ファンのペンライト……じゃなくて、うちらを応援してくれる人たちだけど」

「へっ、へぇえぇ!? こ、これ全部『あいどる』を応援してくれてる人なんですか!?」

 

 映し出される広大なドーム内に数万と光り輝くのはステージに立つ五人を応援するファンたちのペンライト。プーパは言葉を噛み砕いて伝えるとアリスは目をパチパチとさせながらスマホを凝視する。

 

「こんなにいっぱい応援してもらえるなんて……! 夢を見せるお仕事ってすごいですね! 応援されながら歌ったり踊ったりするの楽しそうです!」

「んなわけないっしょ。アイドルなんて楽しい仕事じゃないかんね?」

「へっ? そうなんですか?」

「夢見せる仕事って言ったけど実際はそんな楽しい仕事じゃないし。……ほら、これ見れば何となく分かるんじゃない?」

 

 次に見せた画像はSNSのスクリーンショット。そこに投稿されているのは人間が思いつく限りの誹謗中傷だった。彼女の外見を『可愛くない』『整形している』『不細工』だのとコメントし、彼女の性格を『媚売り』『性悪女』『枕営業』などと勝手に決めつける。

 アリスにとって理解が及ばない名詞もいくつかあったが、プーパが様々な人間に悪口を言われているのだとすぐに理解できた。

 

「うちのこと嫌いなやつらはね、毎日こうやって見えるところで悪口言ってんの。うちらの世界ではアンチって呼んでんだけど……ちょーきしょいっしょ?」

「こ、この人たちはどうして酷いことを言うんですか? プーパさんは応援してくれる人たちの為に頑張ってるだけですよね?」

「こいつらはそーいうもんなの。誰かを否定しないと自分らが立ってられない。そーいうのがアンチだから」

「私には……その人たちの気持ちが分かりません……」

「あははっ、そっかそっか。あんたはアイドル向いてないからやめた方がいいよ」

 

 気分を落ち込ませるアリス。

 誹謗中傷に慣れているプーパは平然と笑って見せると前の写真へと画面を戻し、すぐプーパの右隣にいるメンバーの一人を指差す。

 

「ちな、うちを殺したのこいつね。毒で()られちゃった」

「へっ? こ、殺した? な、何でプーパさんを? お、同じ『あいどる』なんですよね?」

「さぁ? センターのポジションが欲しかったんじゃない?」

「で、でもでも! こんなに仲が良さそうなのにどうして……!」

 

 自身の死因をプーパに告げられてアリスは動揺を隠せずそう尋ねた。しかしプーパはそこまで動揺する話でもないと言わんばかりにアリスの左肩に手を置く。

 

「うちらの世界は大体そんなもん。そーいう仕事って自分を偽ってるやつしかいないし、純粋に『アイドル』楽しんでる連中なんていないから」  

「そ、そんなに辛いお仕事なんですね……」

 

 俯いているアリスに顔を上げさせようと肩を揺さぶるプーパ。アリスは純粋な眼差しで彼女を見上げる。その瞳には一切の曇りもない。

 

「実はさ、最初お前を見た時……うちみたいに仮面被って生きてんのかなって思った」

「へ? か、仮面を被ってるって……?」

「だってすっごい良い子で素振りも全部可愛いもん。仮面被ってないとそんな子になれないからさ」

「ははっ……なんか、複雑な気分です」

 

 遠回しに『ぶりっ子』とアリスは思わず苦笑する。プーパは悪口として受け取った彼女に「褒めてんの」と補足をし、左肩に置いていた手を離した。

 

「じゃっ、うちは用があるしこれで。せいぜい頑張ってね良い子ちゃん」

「あ、あの、待ってください!」

「んー? まだうちに言いたいことがあんの?」

 

 用があるとその場を去ろうとしたプーパを引き留めるアリス。その顔に少しながら迷いを感じたプーパは足を止めて、小首を傾げつつそう尋ねた。

 

「お、お友達になりませんか……?」

「……は?」

「プ、プーパさんとお話しするのとても楽しかったので、お友達になりたいって思ったんです。……だ、だめですか?」

 

 唐突な誘いに鳩が豆鉄砲を食らったような顔になるプーパ。しばらく静止した後、やや不信感を抱くような表情でこう口を開く。

 

「うちはお前の敵でしょ? 自分が利用されたらどうすんの?」

「プーパさんはそんなことしません!」

「……なんでそう言い切れんの?」

「だって、プーパさんが悪い人には見えないからです! お婆ちゃんにも優しいし敵なのに私にも優しくしてくれるし……!」

「ぷっ、なにそれ? 根拠もなんもないじゃん」

 

 思わず噴き出してしまうプーパ。対してアリスは本気でそう思っているかのような真剣な眼差しで訴えかけていた。 

 

「……まっ、いっか。お前は裏表とかなさそうだし、付き合いも楽そうだから」

「あ、ありがとうございます!」

「ああそういや、お前の名前は?」

「アリス! アリス・イザードです!」

 

 名前を尋ねながらプーパが右手を差し出す。その右手を両手で包み込むように握るアリス。二人の間に生まれたのは微かな友情。

 

「よろしくアリスちゃん」

「えへへ、よろしくお願いしますプーパさん!」

「って言いたいところだけど敵同士なのは変わんない。裁判は絶対に負けないかんね」

「へ? わ、私だって負けません!」

 

 プーパは軽く微笑み、アリスは満面の笑みを互いに浮かべる。友情の中には敵対意識も混在しているが、プーパは向けられた満面の笑みに少しだけ心を癒されてしまう。

 

「じゃね、アリスちゃん。またうちに声かけてきてよ」

「はい、勿論です! またお話をしましょう!」

 

 その後、プーパとアリスは軽く手を振って別れを告げる。一人その場に残されたアリスは後ろ姿を見送ると友達ができた喜びに浸り、

 

「……あぁあぁっ!? ナタリアさんを探さないとぉおぉおぉっ!?」

 

 共に情報収集に来たナタリアを探すために慌てながら街中を駆け回り始めた。

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