警戒しながら青の塔へと踏み込んだ俺たち。視界に広がるのはファンタジー作品に出てきそうな石の螺旋階段や宝箱が置かれた光景ではなく、
「何だよこれ? ショッピングモールか……?」
現代でよく見かけるショッピングモールだった。けど日本というよりも海外のショッピングモールの雰囲気に近い。軽く辺りを見渡してみると金属の買い物カゴやショッピングカートが周囲に散らばっている。
「カイトくん、ショッピングモールって?」
「俺たちの世界にある店みたいなものでさ。服とか食べ物とか雑貨とか……とにかく色んなものが売られてるデカい店なんだ」
「へぇ、あなたの世界には便利な店があるのね」
「折角だ。お前さん、買い物していくか?」
「冗談言わないで」
鉄製の白い棚は至る所に並べられているが商品は何一つ置かれておらず、天井に付いた白い電灯も微かに点滅を繰り返している状態。人の気配もないのでまさに廃墟のような場所だった。
「しかし奇妙だな。外から見た時の大きさと中の広さがズレていないか?」
「ああ、確かに三倍ぐらいは広い。前に話していた『
「……お前さん、何でアレクシアの声真似をしているんだ?」
「何となくだ」
何故かアレクシアの口調と声色を真似て喋るクライドにクリスは苦笑する。
しかしクリスが言っていた通り、青の塔を外から見た時の面積と内部の広さがまったく釣り合わない。眷属の仕業ではないかとも考えたがここまで精巧にショッピングモールを作りだせるのだろうか。様々な憶測を過らせながら俺たちは取り敢えず前へ前へと進む。
「それに何で顔を隠してるのよ?」
「恥ずかしがり屋さんだからだ」
「あいつはそんなこと言わないだろ……」
顔を隠した状態でアレクシアを真似るようで真似ていない口調で返答するクライド。俺は頬を引き攣りながらツッコミを入れる。
「ねぇ、妙に人形の量が多くない?」
「うん、これだけ多いとちょっと不気味かも……」
どこを見渡そうと必ず視界に映り込むのは等身大マネキン。ワルツを踊るようなポーズ、可憐にお辞儀をするポーズ、カッコよく決めているポーズ……マネキンは色んな構えを取っている。
サラはそれらを注意深く観察しながら険しい顔で言及し、クレアは怖がる様子でサラのそばへ移動をし密着した。
「……階段が見当たらない。カイト、ショッピングモールっていうのはどうやって上の階にいくんだ?」
慎重に歩を進めてモール内を歩き回るが上の階へ上るための手掛かりが何一つ見つからない。俺はクリスに方法を問われて腕を組んで俯きつつ考え込む。
「んー、階段以外の方法なら……エスカレーターかエレベーターだと思う」
「だったらその『エスカレーター』と『エレベーター』を探した方が良さそうか」
「あぁその方がいい。俺の予想だけど『エレベーター』がどこかにあるはずだ。壁に鉄の扉が張り付いてるような見た目で──」
「きゃあぁあぁっ……!?!」
突如、響き渡るクレアの悲鳴。
俺たちは一斉にクレアへと注目してみれば、クレアは後方に置かれた『指差しポーズを取ったマネキン』を見ながら顔を青ざめていた。
「ちょっとどうしたのよ? びっくりしたじゃない」
「に、人形のポーズが変わってる……!」
「はぁ?」
何を言っているんだと表情をしかめて疑うサラ。けどクレアはその疑いを晴らそうと必死になって俺たちの顔を何度も見渡しつつ詳細をこう説明をした。
「あの人形、さっき見た時は腕を下ろしてたの! それが目を離した隙にポーズが変わってて……!」
「あなたの見間違いじゃない?」
「違うよ! 私が見た時はぜっったいあんなポーズじゃなかったもん!」
こんな状況で怖がらせる為に冗談を言う性格かどうか。そう考えた時にクレアは到底当てはまらないはず。少しは怖がりかもしれないけどクレアがここまで訴えかけるなら無視はするべきじゃない。
俺の考えはクリスたちと一致していたようで目が合うと小さく頷いた。そしてサラとクレアをその場に残し、俺とクリスとクライドで『指差しポーズのマネキン』を調べる為に来た道を引き返す。
「お前さんが言っていた人形はこれか?」
「うん、気を付けてねみんな……」
俺たち三人はマネキンをじっくりと観察し始める。外見は特に異常はない。ならば触れてみるがごく普通の強化プラスチックのツルツルとした感触。どれだけ調べようとも動く気配すらなかった。
「……これは」
「ん? どうしたんだクライド?」
俺とクリスがマネキンを調べている最中、アレクシアの声色を真似るクライドが何かに気が付くような声を漏らすとマネキンの足元で屈む。しばらくクライドの様子を見ていればマネキンの右脚に踏まれた一枚のメモ用紙をゆっくり引き抜いた。
「お前さん、それはメモか……?」
「らしいな」
「よく気付いたな。ちなみだけどさ、何か書いてあったりは……?」
「ああ、書いてあるな。拗らせている文章が」
クライドが掴んでいるメモ用紙。サラとクレアもこちらまで歩み寄って、全員でそのメモ用紙に書かれている文章に目を通すことにする。
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最高にツイてないな。これ読んでるってことはオレはもう死んでいて、あんたはもうすぐ死ぬよ。まぁ折角だから死に際にオレの名前でも覚えてくれ。オレの名前は
白薔薇の使徒にこき使われてこの青の塔に来た調査隊だ。何か良からぬことしてんじゃねぇかって調査するために派遣されてきた。オレ以外、全員死んだけどな。
あんたにアドバイスすんなら死ぬ前にやれることやっておきな。今イイことすれば天国にイケるかもしれないぜ。
……分かってるさ。あんたはここで何があったのかを知りたがってるんだろ。落ち着けって兄弟。どうせ死ぬんだからオレに好きに喋らせてくれ。そうだな、何から話そうか。
まずこの塔は
けどオレらはその謎が分かった……ヤツらと遭遇してな。
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「私たち以外にこの塔へ入った連中がいたのね」
「そうらしいな。続きは……なさそうか」
「そうだね……。この辺にはなさそうかな」
そこで途切れるルイスと名乗る調査隊の記録。続きのメモ用紙を探すが周囲には見当たらない。俺は考えながらもふと目の前のマネキンが指を指す方角を視線で辿る。
「……もしかして」
指差しの方角にあるのは更なる指差しのマネキン。俺は近づいて二体目のマネキンの足元を確認してみるとメモ用紙が左足に踏まれていた。
「ご丁寧に教えてくれるなんてな」
「はぁ、誘導されてるみたいで気味が悪いわね」
不気味に感じるクリスとサラ。俺は皆に見えるようにメモ用紙を持って続きの内容に目を通すことにした。
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ヤツらの見た目は人形だ、顔無しの人形。おっと待て待て、目の前にある人形を見て焦んなよ。全部が全部ヤツらってわけじゃねぇ。どっかで人形に擬態して息を潜めてやがるんだ。
ヤツらと初めて遭遇した時、隣を歩いていたデイブが最初に襲われた。今でも忘れられない。ヤツら、デイブの腕を軽々と折りやがったんだ。そんで紙みてぇに引き千切りやがった。腕も足も髪も全部だ。
その千切った部位をどうしたと思う? ヤツら、自分の肉体のパーツを外して付け替えたんだよ。不気味なのは付け替えたデイブの腕も足も、全部人形のものに変わっちまったってことだ。肉が、プラスチックに変わっちまったってわけ。
……オレはビビっちまってヤツらから逃げた。耐えられなかった、情けないだろ。仲間も見捨てて変な鉄の扉に逃げ込んだんだ。途中で断末魔が聞こえてきた。あれはスライスの声か、ああいやダウラの声か。もしかしたら助けを求めていたのかもしれない。でもオレはボタンを押して上の階に逃げた。
けどな、オレはこの階に戻ってきたんだ。どうしてか分かるか? 単純な理由だ、単純な理由。上の階はもっと地獄だ。何がいたかは分からない……が、ナニカはいた。ラウルもケリンも、いつの間にかいなくなっちまった。だから下の階に逃げてきた。また仲間を見捨ててな。
その後は奇術に呪われた塔の、身を隠せる棚の中に隠れて……オレは暗闇の中でずっと考えた。考える時間なんて山ほどあるからな。ヤツらが動く音は聞こえるがバレちゃいねぇ。
あんたがこれを読んでいることを願って、オレは当たってるか当たっていないか分からねぇ憶測と知っている情報を残す。
まずこの塔は四階建てだ。あの鉄の扉に書いてあったからな。だが鉄の扉一つごとに一階ずつしか上がれねぇらしい。オレが言いたいこと、分かんだろ? 最上階までいくにはクソッタレな階層を三回も探索しなきゃならないってことだ。
そんでこっからは憶測になるが……多分一階ごとに異世界転生者が一人隠れてる。上の階に行きゃあ分かると思うが空気がまったくちげぇ。疑問だったんだ。連中が何でわざわざ目立つ塔にしたのか。簡単だ、互いの奇術が干渉しちまうからだろう。だから階層で分けるしかなかった。
その証拠に下の階のヤツらは上の階まで追いかけてこないし、上の階のヤツらは下の階まで追いかけてこない。
それとヤツらは何度殺そうと湧いて出てくる。親玉の異世界転生者を潰さなきゃ意味がないんだろうな。
オレは薄情者だ。二度も仲間を見捨てて逃げてきた。クソッタレな塔にお似合いのクソッタレな男だ。だからこのままでは終われない。
オレは、オレはこの階の異世界転生者を探してみる。次にこの塔へ来たヤツが同じ目に遭わねぇように、オレがクソ野郎を始末する。もし、もしこれを読んでるあんたに余裕があったらでいいんだが……オレに似ている人形を見つけたら破壊してくれ。ハンサムでイケてる顔の人形だ。ああ、顔無し人形だから顔なんてないのか。ははっ、笑えねぇぜ。
オレは薄情者だ。けどあんたは薄情者にはなんなよ。このクソッタレな塔に目的があるんだろ。仲間と来てるなら最後までやり遂げろ。死ぬときは一緒に死んだ方がいい。一人は寂しいからな。
じゃあな名も知らぬ兄弟、地獄で会わないことを祈ってるぜ。
薄情者の
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「ねぇこれって……」
「ああ、そうだな。俺たちはやっちまってるってことだ」
メモ用紙に残された記録。
俺たちは全ての内容に目を通すと不穏な空気に包み込まれた。そして無意識のうちに目の前のマネキンが指差す方角へ全員で顔を向ける。数メートル先にあるのは鉄の扉、上の階に向かう為の『エレベーター』だった。
「あれが例の『エレベーター』か」
「は、早く行こう? なんだか嫌な予感がするし──」
カチカチッ──
クレアの声を遮るように天井の電灯が何度も点滅を繰り返す。俺たちは周囲を見渡しながら背後を取られないように全員で背中を合わせた。
バチンッ──
「ちょっと!? 何も見えなくなったわよ!?」
「分かってる! 今すぐ明かりになるものを──」
「待って! 何か変な音がしない?」
電線が千切れるような音と共に視界が暗闇に閉ざされる。動揺するサラとルクスαを光源にしようと鞘に手をかけるクリス。しかしクレアが二人の会話を止め、耳を傾けるよう促す。
カタカタカタカタッ──
「この音って……足音だよな?」
「ああ、それも俺たちに向かってきている!」
四方八方から聞こえる軽い足音。
人間が履いている靴底が立てる音じゃない。プラスチックが床を叩く音。俺たちはマネキンが動き出しているのだとすぐに理解する。
「……足音が、止んだ」
「実は一人やられてるとかないわよね?」
「私は大丈夫だよ!」
「私もだ」
「あなた、こんな時にアレクシアの真似するのやめなさ──」
サラが苦言を吐こうとした途端、天井の電灯が一斉に点灯した。それは白い光ではなく青色の光。しかも全員の顔が青く照らされているだけじゃない。周囲の状況が確認できた瞬間から顔を青ざめている。何故なら俺たちは、
「……ほんと最悪」
静止した状態でこちらを見つめる無数のマネキンに囲まれていたからだ。