ЯeinCarnation   作:酉鳥

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10:13『白黒チャンネル』

 

「さぁスマホの前の皆さん! あの人気番組『モノクロウム』のお時間です!」

 

 青の塔の最上階。

 俺が見上げた先にあるのは大型モニターに映し出された『モノクロウム』の番組ロゴ。井上は首に巻いたスカーフを弄りながら高らかに放送開始の宣言をする。

 

「この『モノクロウム』では世間を賑わす物事に白黒ハッキリ付けていきまぁす! 白黒決めるのはスマホの前の皆さんです!」

 

 演者のようにカメラの前で振る舞う井上。

 視線をやや上にずらしてみれば大型モニターの左上に赤色の録画マークが表示されている。つまりこの舞台がばら撒いたスマホに配信されていること。

 

「では早速、本日の議題についてご紹介しましょぉう!」

「……!」

 

 流れるのはアレクシアが冤罪を掛けられることになった例の悪質な動画。物事に白黒をつけるという番組の趣旨。嫌な予感がした俺は「まさか」と高揚状態の井上へ視線を移す。

 

「皆さん、彼女をご存じですか? ……そう、彼女はアレクシア・バートリ! 世間を賑わす殺人鬼(・・・)です!」

「は?」

「その正体は人間や異世界転生者の命を奪ってきた人間と吸血鬼のハーフ! いいえ、吸血鬼と呼んでも差し支えない怪物(・・)!」

「何言ってんだよお前は……! 勝手に決めつけるんじゃッ──がッぐアァアァッ!?」

 

 好き勝手にアレクシアへ肩書を付ける井上。苛立ちが込み上げたためすぐさま怒声を飛ばしたのだが、俺を照らすライトが赤色に変わると全身に電流が走りその場へ膝を突いた。

 

「そして本日の特別ゲストはこちら! 彼女と長い間過ごしてきた……異世界転生者の霧雨海斗くんです! 彼には今回『白側』を、対して私こと井上拓哉は『黒側』となって議論していこうと思います!」

 

 カメラが一斉に俺の方へ向けられる。膝を突いた情けない姿の俺が大型モニターに映し出され、歯軋りした後に何とかふらつきながらその場に立ち上がった。

 

「それでは今回の議題はこちら、デデンッ! 『人間と吸血鬼のハーフである彼女の存在は白か黒か』!」

「はぁはぁッ……お前、何でそんな議題をッ──ぐッあアァァアッ?!」

「さてまずは初回投票ですね! 『彼女は存在しても良い』という方は白を、『彼女は存在してはならない』という方は黒を! お手元のスマートフォンにあるボタンを押して投票してください!」

 

 言葉を遮ろうとすると凄まじい電流が駆け巡る。今度は膝を突かずに何とかその場に立ち続けることができた。そんな余裕のない俺に井上は触れることもなく番組の進行に集中している。

 

『キリサメくん、彼が喋っているときに口を挟んだら駄目よ』 

七瀬(ナナセ)さん……? それってどういう……?) 

『彼の奇術は干犯品目(かんぱんひんもく)。台本に背いた言動……ここだと番組に背いた言動に罰を与える力。多分キリサメくんは司会者の語りに口を挟んだから罰を受けたのよ』

 

 井上の奇術干犯品目(かんぱんひんもく)

 テレビ業界で例えるなら干されるという言葉に近しいものを感じる。司会者は番組を回す大黒柱だ。その邪魔をすれば扱いづらいキャストと認識されテレビから干される。俺は脳内に響く七瀬さんの説明を聞いて納得する。

 

「さぁ集計が終わったようですねぇ! それでは初回投票の結果を見てみましょう!」

 

 アニメーションと共に大型モニターへ表示される長方形の枠。俺が立っている西側に白色のマーク、井上が立っている東側に黒いマークが浮かび上がる。

 すると白と黒のゲージがゲージの枠内を占領し合うようにしばらく衝突し合い、一気に黒のゲージが白を跡形もなく押しつぶす。

 

「おっと、何ということでしょうか……! 初回投票は黒側が九十九パーセント、白側が一パーセントという結果になってしまいました! これは驚きましたねぇ!」

(くそっ、何が驚いただよッ……! あの動画しか見てなかったらこうなるのが普通だろッ……!)

 

 想像通りの有様。

 アレクシアの判決に白を投票する者は一握りで黒が大半を占めている。わざとらしく驚いている井上に俺は腹を立てながら右拳を強く握りしめた。

 

「どうかな霧雨くん? この結果を見て何か一言貰えるかな?」

 

 やや煽り気味に俺にコメントを求める井上。吊り下げられたカメラは一斉に俺に向き、声を拾うマイクも俺のそばまで近づいてきた。

 ここで声を荒げるのは番組の進行を妨害する行為。反論の言葉をぐっと堪えた俺は大きく深呼吸をしてからこうコメントする。

 

「まだ最初の投票なのでこの結果は仕方がないと思います」

「ほほう、つまりまだ結果は分からないと?」

「はい、俺は最善を尽くして白の仲間を増やすだけです」

「わははっ、素晴らしい意気込みですね!」

 

 平常心を保ちつつ司会者らしい愛想笑いをした井上は自分を照らすライトを全身で感じながら周囲にあるカメラ一つ一つに視線を送ると、

 

「では早速議論を始めましょう皆さん! 白か黒か、レッツモノクロウム!」

 

 番組コールと共に大型モニターを次のスライドへ切り替える。映し出されるのはばら撒かれた例の動画。アレクシアが人間のケイタを殺すように見せかける場面、吸血鬼の一面を覗かせる場面が動画として流される。

 

「まずは黒側の私から提示させてもらうのはこちらの映像です。よく見てください皆さん。彼女はこのように助けを求める神父を見捨て、希望に満ちた青年を殺め……更には純粋無垢な少女の首を締め上げています」

 

 孤児院で食屍鬼に襲われる神父を見捨てる場面からドレイク家の洋館でウェンディの首を絞める場面。黒側の井上は嫌な言い回しをしながらカメラへそう説明をする。

 

「彼女は人間なのか? いいえ、彼女は人間ではないのです。この映像に映り込む彼女の目を見てください。そう、まさに私たちが恐れるべき吸血鬼ではありませんか」

(ん、待てよ? 俺が殺される場面はどこに……?)

 

 アレクシアが血涙の力を発現させる場面から紅の瞳を輝かせる場面まであるが、前に見た時に捏造されていた『アレクシアが俺を殺すように見える場面』が抜けている。気が付いた俺は眉を顰めて井上へ視線を移した。

 

(まさかあいつ、この時の為にカットしたのか……!)

 

 俺が生きていると矛盾が生まれて映像への信憑性が薄れてしまう。だから井上は編集し直して都合の悪い部分をカットした。

 

「ではでは霧雨くん、次は君の番です。白側の意見を主張してもらえますか?」

 

 明らかに不利な状況で渡してくるバトン。

 ニタニタとした井上の笑みには「どうするんだ?」という卑しい含みが垣間見える。けど俺は変わらず平常心のまま、奇術『暴食の手』を使って保管していたスマホを一つだけ取り出す。

 

「じゃあ俺はこの映像に対して二つ反論させてもらいます」

「ああいいとも。聞かせてもらえるかな?」

「まず一つ目はこの映像が本当に信じられるものかどうかです。取り敢えず、俺が持っているこの映像を見てください」   

 

 俺がカメラに見せつけるのは最初にばら撒かれた編集前の映像。しばらく流した後にカットされていた『アレクシアが俺を殺すように見える場面』で映像を停止する。

 

「本来映像にはこの場面も映っていました。どうしてカットされていたのかは知りませんが……仮にこの映像が真実だとしたら俺がこうやって話をしているのはおかしいですよね」

「何だねあれは……あんな映像私は入れた覚え……」

(……? あいつ、何で驚いてるんだ……?)

 

 井上は俺が提示する映像を目を凝らして見ていた。その反応に俺は奇妙に思いながらも今度は自分のスマホを取り出してとある写真をカメラに見せる。

 

「そして二つ目の反論です。先程黒側の主張で『純粋無垢な少女の首を締め上げている』というものがありました。けどこの写真を見てください」

 

 その写真はシーラさん、アレクシア、ウェンディ、俺の四人が写った家族写真。アレクシアの前に立つウェンディの表情はとても穏やかで幸せに満ち溢れたものだ。

 

「元々この子は吸血鬼の命令に従わないといけない境遇でした。だから事情を知らないアレクシアに吸血鬼の味方をしていると勘違いされて首を絞められたんです」

「わははっ、なるほどなるほど……」

「でもこの子はアレクシアに救われこうやって生きています。この子の笑顔が無理をしているように見えますか? この子がアレクシアを恐れているように見えますか? ……俺には到底見えません」

 

 これらは映像への信憑性を下げるための反論。まずはアレクシアの評判を下げる映像を潰すべきだと判断した俺はカメラの向こうにいる誰かにひたすら訴えかける。

 

「この二つの反論から俺が見ている人たちに言いたいのは……本当にこの映像を信じていいのかってことです。最初に黒へ投票した人たち、もう一度考え直してもらえませんか?」

「……素晴らしい! とても理にかなった反論だったよ!」

 

 俺の主張が終わると井上は盛大な拍手を送ってきた。だがその顔には「小賢しい」と言わんばかりの不快な気分が露わになっている。

 

「では互いの主張を終えた今、二回目の投票をしてみようじゃないか! さぁ『彼女は存在しても良い』という方は白を、『彼女は存在してはならない』という方は黒を! お手元のスマートフォンで投票をお願いします!」

 

 再び大型モニターに表示される黒と白のアイコンと長方形の枠。集計の間、井上は全てのカメラを一度だけ止めると思い出したように俺の方を見る。

 

「ああそうだそうだ! ゲストの霧雨くんに伝え忘れていたよ!」

「伝え忘れていたって何を……?」

「三回目の投票数で負けた方は死ぬ(・・)からねぇ」

「は? ま、待てよ、死ぬって……」

「わははっ、言葉通りだとも! ただ議論するだけの番組はつまらない! やはりハラハラするような……人間の命を懸ける過激な番組こそ求められているのさぁ!」

 

 投票で負けた方は死ぬ。

 あまりにも唐突な報告に俺は一瞬だけ思考が停止する。揺さぶるための井上のハッタリなのかと疑ったが視聴率だけを考えている井上ならやりかねない。

 

(大丈夫だ、俺には生存補正がある。投票で負けても生存補正を百パーセントまで振り切れば生き延びられ──)

 

 他所へ逸らした視線の先。俺は思わず言葉を失う。何故なら視線の先にある影から顔を覗かせていたのは、

 

(ニーナ?! まだこの塔にいたのか……!?)

 

 原罪のニーナ・アベルだったから。

 今は奇術を問題なく扱えているが多分最後の投票が終わった時点で俺の奇術を無効化してくる。そうなったら生存補正も効かない。俺は息を呑んで大型モニターを見上げた。

 

「皆さん、お待たせいたしました! 集計が終わったので第二回の投票結果を見てみましょう! 投票結果は……こちら!」

 

 カメラが再起動し井上へ丸いレンズが向けられると大型モニターで白と黒のゲージが伸びて衝突し合う。しばらく眺めていれば白のゲージが三分の一程度まで押し切られ、

 

「なんと黒が七十パーセント、白が三十パーセントという結果になりました! 白が着々と追い上げてきています! やはり霧雨くんの主張に心を動かされた人がいたのでしょうねぇ!」

 

 白のゲージが半分以下の結果になってしまった。俺はその結果を見て思わず頬を引き攣る。

 

「くっ、あの反論だけじゃ半分までいかないのか……」

「わははっ、どうでしょう霧雨くん? この結果を見て何か一言お願いします!」

「……少しでも考え直してくれた人がいて嬉しいです。このまま俺なりに主張して白の投票を増やせるように頑張ります」

 

 悔しさを堪えながらも無難なコメントを返したが俺は少しだけ焦りを感じていた。半分まで持っていくのには残り二十パーセントは必要。だけど俺から出せる証拠は数少ない。何ならおおよそさっきので出し切っている。

 

「さぁ最後の議論の時間です皆さん! 白か黒か、レッツモノクロウム!」

 

 大型モニターが映し出すのは俺と井上の姿。高らかに議論再開の宣言をすれば照らすライトは一斉に井上へと向けられる。

 

「では黒側の私から反論をさせてもらいます。この映像が正しいのか正しくないのかをハッキリとさせる証拠と共に」

(証拠……?)

「さぁ登場してもらいましょうか! 二人目の特別ゲスト──伊吹(イブキ) 圭太(ケイタ) くんです!」

「──は?」

 

 噴射する煙と共に舞台の隅から上がってくる人影とよく知っている名前。俺は突然のことでその人影をじっと見つめていれば、 

 

「おっす、海斗! 元気そうだな?」

「け、圭太? 待ってくれ、何でお前が……?」

 

 制服姿の伊吹圭太が、本試験で死んだはずの伊吹圭太がいつもの調子で挨拶を交わしてきた。何度も瞬きをして幻かと怪しむが圭太の姿は視界から消えやしない。

 

「皆さん、彼は伊吹圭太くんです! あの映像で彼女に殺された本人!」

「おっ、これって生放送だっけか? ……おーい、俺が見えてるかみんなー?」

 

 調子よく手を振る圭太。

 俺は未だに信じられず呆然とした後、現実かどうかを判別する方法を思い出してシエスタへとこう呼びかける。

 

(シエスタ! 聞こえるかシエスタ!?)

『おー、なんじゃい小僧! 聞こえとるに決まってるわよ!』

(聞こえてるってことは、ここは夢の中でも幻覚でもないのか……?)

『なにみとるのねんあんたは? そこは正真正銘の現実世界リアルワールドだっちゅー!』

 

 アルゴスと対峙した時に見せられた幻覚。それと同種のものかと疑ったがシエスタの声から現実世界だと認めざるを得ない。俺は死んだはずの親友を前にして何とも言えない気持ちが込み上げる。

 

「圭太、どうして生きてるのか分かんないけどさ。ほんとに、ほんとに生きてて良かったっ……」

「んだよ海斗、そんなしんみりとすんなって」

「はは、だってさ……俺はてっきりもう会えないかと──」

「俺を殺そうとした卑怯者のくせに気色悪いんだよ」

「えっ?」

 

 そう言うと圭太が送ってくる軽蔑の眼差し。何を言われたのか理解ができず言葉が止まると井上が伊吹の隣まで歩み寄り、カメラの向きを伊吹へと集中させる。

 

「わはは、まずは彼が本物であることを証明しましょう。では伊吹くん、例のものを」

 

 伊吹は井上に促されるとブレザーとカッターシャツを脱ぎ捨てた。露わになった上半身には引っ掻き傷や噛み傷など見るに堪えない無数の傷痕。そして刀剣で斬られた傷がくっきりと残っていた。

 

「伊吹くん、彼女に殺されたときの状況を説明してもらえますか?」

「いいぜ。あの時、俺は本試験で金の十字架を手に入れる為に食屍鬼と戦っていた。そん時に白を主張するそいつとアレクシアって殺人鬼、おまけとして名家出身の二人もいたんだけどな」

 

 少しだけ俯く圭太。

 やや浮かべる笑みに込められる感情は復讐と怒り。

 

「俺は嵌められたんだよ、そいつら四人に」

「は?」

「背後から突然あの女に斬られてな。そのまま俺を食屍鬼のエサにして逃げたんだ。金の十字架を奪うためだけに」

「な、何言ってんだよ圭太ッ──ぐッアァあッ?!」

 

 虚偽の発言をする圭太。

 親友がそんな発言をするとは信じられず言葉を遮ろうとし全身に電流が走る。片膝を突いてしまった俺に向ける圭太の視線から感じ取れるものは敵意(・・)

 

「そいつも共犯だった。あの女と手を組んで俺を嵌めたんだよ」

「おっと何ということでしょう! 被害者の伊吹くんから霧雨くんが共犯者だったという情報が出ました!」

「あの殺人鬼を庇ってるのもそういうことなんだろ海斗? 悪事がバレたらヤバいもんなぁ!?」

「違う、違うんだ! あの時、あの時は……!」

 

 弁解しようとするが言葉が出てこない。何故なら親友から憎しみに近い感情をぶつけられたことなんてなかったから。 

 

「そうだ教えてやるよ海斗。イキりすぎて嫌われてたお前と何で仲良くしてやってたか」

「は? それってどういう?」

「ほら、妹に文香ちゃんっているだろ? 俺さ、あの子めっちゃタイプなんだよ。だからお前と仲良しごっこしてワンチャン狙ってただけ」

「文香に、近づくため……?」

「つーまーり、お前なんて親友でも何でもねぇよ。この裏切者が」

 

 圭太が吐き捨てた『親友でもない』という台詞。俺は怒りよりも悲しみが胸中を渦巻いた。親友が死んだときに渦巻いたダムが崩壊するような悲しみではなく、ズキズキと槍で射貫かれるような悲しみ。 

 

「皆さん、被害者本人から明かされる真実を聞きましたでしょうか! 霧雨くんが殺人鬼を庇うのは自身の悪事を隠すためとも考えられるでしょう!」

 

 注目されたくない最悪のタイミングで天井に吊られたライトが俺を照らす。額から垂れてくるのは一滴の汗。

  

「では霧雨くんの番です! 白側の主張や反論などがあればどうぞ!」

 

 思考を切り替えて反論を考える。

 けど何も思いつかない。思いつかないというよりこの状況を打破する証拠が何もない。

 

「おや、どうしましたか霧雨くん? 何かなければこのまま最期の投票に移りますが?」

「ま、待ってくれ! 今考えてるんだ!」

 

 考えたところで何も生まれない。

 そもそも俺はこの塔へ神命裁判の為に証拠を集めに来ている。こんな裁判染みた番組に巻き込まれるなんて誰も予想できないじゃないか。

 

「仕方ないですねぇ、一分あげましょう。一分の間に何もなければ投票へ移ります」

 

 与えられた一分という制限時間。

 伊吹が生きていることは映像に対して矛盾が生まれるではないか。いいや、伊吹はあの時死んでいなかったから身体にあれだけの傷痕が残っている。それが矛盾を消してしまうはず。

 俺は共犯者なんかじゃない。いいや、自分の潔白を証明するための材料が少なすぎる。それに議題の投票率がプラマイゼロになるだけで最終的な投票数に勝てない。

 

「大丈夫ですか霧雨くん? 残り十秒ですよ?」

 

 大型モニターに映されたカウントが進む。

 そこで俺はすべてを悟った。井上が観察していたのはアレクシアだけじゃない。俺も観察していたのだと。伊吹を呼ぶ準備をしていた時点で俺がこの番組でゲストになることは確定していた。

 

「さぁ皆さん、一緒にカウントしましょう! ごー、よん、さん、にー──」

(だったら、罰を受けてでもあいつを殺して──)

 

 瞬間、俺の懐から床へ何かが転がり落ちる。下を見てみれば落ちているのはクレスにお守りとして渡された白いコイン。向きは表、刻まれるのは白い薔薇。

 

 カタカタカタッ──

 

 小刻みに揺れる白薔薇のコイン。

 井上と圭太はコインを遠目で見つめ俺は無意識のうちに一歩だけ後退りをした。コインはそのまま小刻みに揺れ続けた後、その場で飛び跳ねて裏面へと切り替わる。裏面に刻まれるのはルービックキューブのような四角い紋章と『No.4』という数字。

 

「このコイン、一体なんだよ──」

 

 そう言いかけた途端、白い薔薇の花弁がコインから溢れ出す。視界は白の花弁に包み込まれ何が起きたのかと目を凝らすと、

 

「あっ、スマホに映ってる人」

 

 女性が俺の顔を覗き込んでいた。

 鶸茶(ひわちゃ)の長い髪にシャーロックホームズが思い浮かぶ帽子と衣服。低いデニールの黒タイツと黒のブーツを履いている。右手に持っているのはルービックキューブ、左手にはスマートフォンを持っていた。

 

「クレス坊じゃなくて貴方だったのね。私を呼んだの」

「あの、一体誰ですか……?」

Natora(ナトラ)よ。知らないの?」

「ナトラさん? すみません、知らなくて……」

「呆れた、貴方無知なのね」

 

 Natora(ナトラ)と名乗った女性はルービックキューブを片手で二度動かすと大型モニターへ自身のプロフィールを映し出す。井上は自身の奇術を勝手に利用され、やや驚きながら目を見開く。

 が、俺はプロフィールに目を通したとき井上が本当はナトラさんの正体に対して驚いているのだと分かった。何故なら彼女は──

 

白薔薇十字団(しろばらじゅうじだん)……白薔薇の使徒No4──全能(ぜんのう)第五列(だいごれつ)Natora(ナトラ)

 

 ──黒薔薇と対を為す白薔薇だったからだ。

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