ЯeinCarnation   作:酉鳥

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第1話『無愛想な皇女』

 

 栄光の国グローリア。

 私はこの国を治める皇女として自覚を持たなければならないと両親に言われ続けてきた。でも私自身、皇女としての器はないと思う。

 

「これはこれはヘレン様……。今日もより一層凛々しいお姿をしておりますね」

「誰だ君は?」

「へ? あ、ああ、私は貴方様に仕えるブレイン家の──」

「知らないし興味もない。私に付きまとうな」

 

 なぜなら私は無愛想だから。

 言い方を変えれば他人に興味が湧かなかった。世界がつまらないのか、私の感性が狂っているのか。その答えは明白だ。原因は私にある。

 

「お、お待ちください! ブレイン家として貴方様を野放しにするのは……!」

「これから一睡もせず……私の付き添いとしてずっと起きていられるのか?」

「一睡もせず?! そ、それは……」

「なら君には向いていない。第一、私の付き添いなんて誰にも務まらないが」

 

 私に与えられた『十聖(じゅっせい)の加護』のせいだろう。その中に疲労を一切感じさせない『不疲(ふへい)の加護』と眠らなくとも生きていける『不眠(ふみん)の加護』がある。

 疲れもしない眠くもならない毎日を幼少期の頃から歩んでいたせいで私の生活はとっくに狂っているのだ。

 

「コノッ、バケモノがァアァッ……!」

 

 そういえば吸血鬼からは化け物(・・・)だとよく言われた。 

 灰に変える間際に放つ言葉は「化け物」呼ばわりするという負け惜しみが多い。首を締め上げている時か、頭を踏みつけているときによく言われる気がする。

 

「君は……食屍鬼(グール)と何が違うんだ?」

「キ、キサマァアァッ! このオレさまをッ、ナメヤがってェエェェエェッ!!」

「ああやめてくれ。耳に響く」

「グギャアァアァァアァアッ!!」

 

 心臓に銀の杭を突き刺して灰に変える時、耳に悪い奇声もよく聞く気がする。吸血鬼に対しても興味が湧かないからあまり覚えていないが。

 

「あ、ありがとう……た、助かったよ! あんなに強い子爵(ヴァイカウント)をあっさり倒すなんてすげぇなお前!」

「……強い? 君が弱いだけだろう」

「は、はぁ? それはそうかもしれないけど……そういうのを口に出すとか気が利かないなお前は」

 

 他人に興味がないから言葉を選ばない。

 だからよく人を不快にさせる。人を助けたときにどう声を掛けるのかが正直分からない。粛正してきた吸血鬼たちはどれも食屍鬼と変わらない。だから私を賞賛する相手に事実を述べると大体嫌な顔をされてしまう。

 

「ねぇ知ってる。あのヘレンって子……次期皇女様らしいよ?」

「えぇホントに……? あんな無愛想なやつ、皇女様にして大丈夫なの?」

「何かセリーナ様と違って皇女様って感じしないよな。人間味に欠けているっていうかさ……いつか独裁者(・・・)になりそうじゃないか?」

 

 だから私に対して良い評判は聞いたことがないし誰も私に声を掛けてこなくなった。けどそれすらも興味がない。私は周囲がどう思おうが知ったことではない。なぜなら私と肩を並べられる存在なんてこの世にいないのだから。

 

(……暇だな)

 

 そんな無愛想で狂いに狂った化け物(・・・)が私──Heren(ヘレン) Arnet(アーネット)だ。

 

──────────────────────

 

 このグローリアは遠い過去に吸血鬼を粛正する組織『リンカーネーション』が結成された。そこへ所属するためには入学試験に合格した後、候補生として戦闘訓練や吸血鬼に対する知識を学ぶためにアカデミーを卒業する必要がある。

 

「次の座学まで時間あるから食堂に行こうぜー!」

「うわっ、最悪……。訓練用に着る制服、部屋に置いてきちゃった……」

 

 次期皇女を担わされた私もアカデミー候補生として在籍しなければならない……が、座学も訓練も大して興味が惹かれる内容じゃない。まるで何度も自分で読み込んだ絵本を読み聞かされているような毎日だった。

 

「ヘレン・アーネット、少しいいだろうか?」

「ああ君か。何の用だ?」

 

 私が所属したのは『五百七十五期生』のAクラス。

 担任はアーロン・ハードという名前だった気がする。少しだけ老いているが元銀の階級なだけあってそこそこ腕が立つ人間。その日、私は彼に声を掛けられた。

 

「座学と訓練の成績に文句はない。だがお前は協調性(・・・)連携(・・)の面において致命的だ。過去にお前が組んでいた班員から苦情が出ている」

「彼らと組ませたのは君だ。私は前に『彼らと組む意味はない』と忠告していただろう」

「それはお前の問題を解決するためだ。……余計に悪化しているようだがね」

 

 協調性と連携。

 アーロンからやや強めの口調で指摘された。けどそんな指摘は全くもって心に響かない。というより改善することに興味がなかった。

 

「君ぐらいだな。私に強く出れるのは」

「アーネット家であろうが次期皇女であろうが……今はAクラスの生徒、つまり私の生徒だ。甘やかすことはしない。それに……」

 

 アーロンは視線を逸らすと私の後方へ視線を移す。そこにいたのは少し変わった顔つきをしている男の候補生二人組。

 

「ははっ、やっぱ異世界ってすごいね。日本の文化と全然違うよ」

「マジで同感。変な力も使えるし可愛い女の子もいっぱいいるしで最高じゃん」

 

 学年の成績上位者十名。

 その中で八位と七位を取った候補生だ。名前は興味がないから覚えていないが噂では違う世界から来ただとか耳にしている。彼ら以外にもあのような顔つきをちらほら見かけたような。

 

「あのような『異世界転生者(いせかいてんせいしゃ)』も私たちは教師として平等に扱わなければならないだろう」

「君は彼らのことをそう呼んでいるのか」

「知らないのかね? 『Gino(ジーノ) Perkins(パーキンス)』と『Nicholas(ニコラス) Irvine(アーヴィン)』の二人が彼らの種族を提唱したのだ。お前と同じAクラスに所属しているはずだぞ」

「……見かけたような気がしなくもない。女性のような顔つきと眼鏡が薄っすらと思い浮かんだ」

 

 だが鮮明には覚えていない。

 思い返してもみれば同じAクラスの生徒で名前を憶えている人物がいるかも怪しい。

 

「どちらにしてもだ、ヘレン・アーネット。お前は他者への関心と敬いが欠けている」 

「欠けているわけじゃない。原罪や公爵(デューク)には関心があるからな」

「そのような意味ではない。人と人同士の関心と敬いの話をしているのだ──」

「人間の話には興味がない。もちろん君にもだ」

 

 どうせまた同じ話をされるだけ。私は踵を返してその場を後にする。背後からアーロンのため息が聞こえてきたが何も思わない。

 

「ティアナ~! 次の座学が終わったら街に遊びに行こ!」

「すっごい可愛いブローチがあってね! ティアナに似合うと思うんだ!」

「そうなの? じゃあ行かないとだね。 ……あっ、でもちょっとだけ訓練所に寄ってもいい?」

 

 私の向かい側から廊下を歩いてくるのは和気あいあいとした様子で友人と会話する可愛らしくも儚げのある女性生徒。桃色の長い髪に白のカチューシャを付け、太もも丈の長い黒のソックスを履いている。

 

「もしや今日も剣技の練習? 相変わらず精が出るねぇ」

「ティアナって総合成績、二位なんでしょ? そんなに頑張らなくても大丈夫そーなのに」

「ううん、私なんてまだまだ。イザード家としての名を()げるためにはストイックに考えないとだから──」

 

 彼女と互いにすれ違う。

 私は興味がなかったのでそのまま歩みを止めずに教室まで戻ろうとしたが、彼女の足音はピタリと止まったような気がした。

 

「あの子って……?」

「あー、Aクラスのヘレンでしょ? アーネット家出身だけど……あんまりいい噂とか聞かないよ」

「そーだね。なんか声を掛けたら『君に興味がない』ってあしらわれたとか、自分より成績悪い生徒を下に見てるとか……色んな噂があるよね」

 

 そんなこと言われていたのか。

 軽く聞き流しながら反応はしないようにする。しかし成績が悪い生徒を下に見ているという噂は事実無根(じじつむこん)だ。正確にはほぼ全ての人間が私と肩を並べることはできないと考えているだけ。

 

「あいつがグローリアをまとめる皇女様になるらしいよ」

「えぇー!? あんなのが皇女様になったらこの国おわりじゃん!」

 

 つくづく私もそう思う。

 皇女としての器じゃない私がグローリアを統治することになったらおしまいだと。それでもその運命は変わらない。

 

「あぁあっ! 座学始まっちゃうよ二人共、早く教室に行こ!」

「ホントだ! 怒られるのはホント勘弁……!」

 

 彼女の両脇に立っていた二人が走っていく。ただ桃色髪の彼女は立ち止まって私のことを見つめていた。

 

「……ヘレン・アーネット」

「何してんのティアナ! 遅刻したら先生に怒られるよ!」

「あっ、うん。そうだよね、早く行こっか」

 

 友人に名前を呼ばれた彼女は我に返ると可憐な走り方で去っていく。私は少しだけ歩みを止めると横目で彼女の後ろ姿を見る。

 

「彼女の走り方は……(ヒツジ)みたいだな」

 

 彼女に対して思ったことはそれぐらいだ。

 これから私にもつまらない座学の時間が待っている。私はゆっくりとAクラスのある教室の方角へ向くと、重くも軽くもない歩みを進めることにした。

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