ЯeinCarnation   作:酉鳥

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第10話『小さな約束』

 

 私たちがブルーナに案内されたのは南東の隅に位置する隠れ家。丸太の壁際にある家屋の周囲には丁度木々が生えており、村の中にあるにも関わらず完全に隔離されている状態だった。

 

「確かにここなら見つからないよね」

「……」

「ユユ、大丈夫……?」

 

 私は入り口から最も遠い位置で背中に壁を付け、ティアナは室内の中央で腰を下ろしていたが……ユユだけはこちらに背を向けて俯いてしまっている。

 

「こんなことになるなんて、思ってなかった……」

「ユユ……」

「ナナもミミもあんな簡単に死んで……村から出られない呪いもあって……。これから、これから私たちはどうなるのだ……?」

 

 休息が訪れたことで色々と考え込んでしまうユユ。

 ティアナは立ち上がるとそんな彼女の身を案じるように隣に座り、無言のまま身体の向きを変えれば、

 

「……っ!」

 

 何も言わずユユを優しく抱き寄せた。

 ユユは突然のことでしばし硬直していたが、緊張の糸が切れたかのように表情を歪ませてティアナに自ら抱き着く。 

 

「ぐすっ、うぅあぁあっ……」

「……ごめんね、ユユ。今の私にはこうしてあげることしかできない」

 

 ティアナはユユを励ますよりも吐き出せる居場所を作るべきだと考えたのだろう。抱えすぎた不安と哀しみを吐き出せる居場所を。

 

(しばらく黙っておくか)

 

 私は二人の姿を遠目に眺めつつ状況の整理を始める。まず考えるべきは足切り沼に住んでいた人魚様という存在。

 

(……あの怪物は明らかに私を警戒していたな)

 

 最初は位置を知らしめて襲い掛かっていたが後半は姿を捉えられないよう潜伏をしていた。踏まえるにあの怪物は確かな知能を持つ。伝承にある人魚様の可能性が高いだろう。

 

(正体は人魚か……もしくは吸血鬼の変異体)

 

 吸血鬼がこの村の伝承を利用してそれらしき怪物を作り出していてもおかしくはない。仮に吸血鬼が関与しているとなれば、元凶となる対象を見つけ出す必要がある。

 ただ課題となるのはその元凶が村の外にいる場合だ。一度でも村に踏み入れた女性は村の外に出ると人魚様に呪い殺されてしまうと言われた。

 

(本当に呪い殺されるのだろうか?) 

 

 しかしこの噂には引っかかることが多い。ふと頭の中に浮かぶのは呪い殺されたとされる商人の馬車。ナナたちを追いかける途中で偶然見つけて調べた時、その馬車は野盗に襲撃を受けたと結論付けた。

 

「ああそうか。呪い殺されるというのは……」

 コンコンッ──

 

 突拍子もなく引き戸から聞こえるノック音。

 その場にいる者たちが一斉に引き戸へ注目すれば、ティアナはこちらへ「私が出る」と視線を送る。そしてゆっくりと引き戸へ近づき、喉に手を当てて一呼吸入れると、 

 

「はいはい、どちら様ですかぁ~?」

 

 老婆の声を装って引き戸の向こうにいる誰かに呼びかける。彼女が使ったのはパーキンス家の『変声(へんせい)術』だ。相手を騙すために自身の声を偽れる技術。

 

「あれっ? お姉さんたち、ここにいないのかな……?」

「えっ? サリアちゃん?」

 

 返ってきたのはブルーナの娘であるサリアの幼い声。ティアナはゆっくりと引き戸を開けると、向こう側には寝間着姿のサリアがぽつんと立っていた。

 

「お、お姉さん!? でも今、お婆ちゃんの声が聞こえたような……」

「あははっ、き、気のせいじゃないかな? それよりもこんな夜遅くにどうしたの?」

 

 不思議そうにするサリアに対してぎこちない笑みを浮かべたティアナはサリアを中へと招き入れ、外の様子を確認してから引き戸を閉める。

 

「お姉さんたちとお話したかったから来たの」

「もしかしてサリアちゃん……。ブルーナさんに何も言わずこっそり出てきたんじゃ……?」

「うん、出てきちゃったー!」

 

 悪気を一切感じさせない明るい返事。

 こんな少女も狂いに狂った村に住んではいる。だが何も知らない、教えられていないからこそ無邪気に振る舞えるのだろう。

 

「それよりも私ね、お姉さんたちみたいなリンカーネーションになりたい!」

「サリアちゃん、どうしてリンカーネーションになりたいの……?」

「お父さんからお話をいっぱい聞いたんだ! きゅーけつきと戦ったり、困ってる人たちを助けたりするお話!」

 

 サリアが口にしたのは父親の話題。

 そういえば私たちはブルーナから父親のことについて何も聞いていない。ティアナは瞳を輝かせているサリアに優しい口調でこう尋ねる。

 

「サリアちゃんのお父さんは……リンカーネーションなの?」

「うん、そうだよー! 私のお父さんは『ぐろーりあ』ってところで頑張ってるんだって!」

「……ねえサリアちゃん。最後にお父さんと話したのっていつかな?」

「うーんとね、すっごく前かなぁ……?」

 

 ティアナは私に視線を向けてくる。

 その瞳から汲み取るにティアナはサリアの父親について何か知っているようだった。

 

「お母さんは『お父さんは仕事で忙しいの』って言ってたから……。村には帰ってこれないんだって」

「……そうなんだ。サリアちゃんのお父さんはすごく立派な人なんだね」

「でしょー? だから私もお父さんやお姉さんたちみたいになるんだって決めたの!」

 

 誇らしげに胸を張るサリア。

 ティアナは少女の頭に手を置くと優しく撫で始める。

 

「サリアちゃんならきっとなれるよ」

「ほんとっ!?」

「うん、だってこんなに良い子だから。お父さんみたいなリンカーネーションになれる。……そうでしょ、ユユ?」

「へっ? ……も、もちろんなのだ! サリアちゃんには見込みしか感じないぞ!」

 

 一瞬だけキョトンとすると腕を組んで共感し始めるユユ。サリアはユユの方へと勢いよく飛びつき、尊敬の眼差しを送る。

 

「ねえねえお姉さん! リンカーネーションでどんなことをしてるのかいっぱい聞かせて!」

「う、うむ、そうだな……。ならば特別に我が凶暴な吸血鬼をズババーンと成敗した

 

 サリアと戯れるユユを他所に私とティアナは少し離れた位置へ移動する。そして師弟関係のようなやり取りを眺めながらティアナが口を開いてたった一言だけこう呟く。

 

「……サリアちゃんのお父さん、戦死してる」

「やはりそうだったか」

「孤児院の神父様を護衛する任務で亡くなったみたい。男爵(バロン)から神父様を庇おうとして致命傷を……」 

 

 私は他者に関心はないためすべて聞き流しているが、一般的に殉職(じゅんしょく)した情報は耳に入るのだろう。

 

「ブルーナさんはサリアちゃんを悲しませたくないから話していないのかな……」

 

 太陽のように明るい笑顔で誇らしげに父親のことを話すサリア。そんな一人娘をガッカリさせたくないからブルーナは母親として真実を隠している。

 

「……仕方ないか」

 

 私は立ち上がるとサリアの元まで歩み寄った。突然立ち上がったことでティアナは途中までこちらを見上げていたが、何かに気が付いたようですぐさま私の両肩を掴む。

 

「ヘレン! さっきの話は私たちが伝えるべきじゃ──」

「明日の朝、君は母親とグローリアに行け」

「……へっ?」

 

 呆気に取られた表情を見せるティアナ。どうやら私が父親の死をサリアに教えるとでも思っていたらしい。

 

「行きたい、けど……お母さんがダメって言うよ?」

「そうだよヘレン。人魚様の呪いが……」

「それはハッタリだ。呪い殺されることはない」

 

 私が呪いを否定すればサリアとユユが「どういうこと?」とこちらに注目する。しかしティアナはハッとした様子で何かに気が付き、私に真剣な眼差しを送ってきた。

 

「商人の馬車を壊したのは──村人の仕業ってこと?」

「ああ、どうりで不可解な状態だったわけだ」

 

 道端で商人の馬車を発見した時、積み荷は残されたまま。更に言えば馬車は吸血鬼からではなく、人為的な損傷を受けて女商人だけが見当たらなかった。

 私とティアナはあの瞬間、野盗から襲撃を受けたのかと考えたが、

 

「言い伝えだと人魚様の呪いを男の人は受けない。だから村の外に出てもおかしくないし……出ていった女の人を襲えるよね」

「ああ、村の中にいる女性は誰一人としてその真実に気が付かないだろう。村人たちは自由にイケニエを確保し、補充することだって可能になる」

 

 すべては村人の仕業。

 積み荷がそのままになっていたのも目的は女商人だったから。辻褄(つじつま)が合ったことで人魚の呪いが虚偽だと強く確信する。

 

「明日の朝、君は母親とグローリアに向かうべきだ」

「うん、私もヘレンに賛成だよ」

「えっと、えっと……どういうことなの……?」

 

 人魚の呪いが嘘となればこの村に住む意味もない。ティアナは私の意見に賛同すると困惑するサリアの前で両膝をついて目線の高さを合わせた。

 

「とにかくねサリアちゃん。明日はお姉さんたちがグローリアに連れて行ってあげる」

「ほ、ほんとにっ?!」

「ホントだよ。サリアちゃんとお姉さんとの約束」

「うん、約束だからねっ!」

 

 指切りを交わすティアナとサリア。

 そして少しの間だけ私を除いた三人で楽しく談笑した後、サリアは母親にバレる前に自分の家へと帰り、ティアナとユユは静かに眠りについた。

 

(……暇だな)

 

 加護の影響で眠気も疲れも一切ない。暇な時間が訪れた私は朝を迎えるまで銀の杭を指の間で回し続け、時間を潰すことにした。

 

 

────────────────────────

 

 

「起きろ」

「んっんんっ……もう朝……?」

 

 時刻は七時前。

 日が昇るのを窓から確認した私はティアナを揺さぶって起こす。

 

「ふぁああ~……おはよ、ヘレン……」

「……寝起きの顔はまるで牛だな」

 

 ティアナは意外にも朝に弱いらしい。完全に閉じ切った瞼を擦りながら欠伸をするだらしない顔を目にし、私の脳裏に牛がモーと鳴く姿が浮かんだ。

 優等生が聞いて呆れる、と隣で寝ているユユを今度は揺さぶってみれば、

 

「むにゃむにゃ……我の漆黒なる加護を受けてみるのだぁあっ……! はっはっはっ、はぁぬまぁんてぃうすっ……」

「君は瀕死の虫か?」

 

 理解が及ばない寝言をぼやきながら仰向けで両手足をバタバタと暴れさせる。それにしても長女と次女が殺されたというのにどうしてここまで熟睡できるのか謎だ。

 

 ゴンゴンゴンッ──

「……? 誰だ?」

 

 引き戸が叩かれる音。

 一瞬だけ警戒をしたがどうも叩かれる位置がおかしい。私たちの膝丈にも及ばない位置が叩かれている。私はゆっくりと歩み寄ると静かに耳を澄ませてみた。

 

「キュウッ、キューッ!」 

「……君は」

「キャップ! 良かった、無事だったんだね!」

 

 引き戸の先にいたのはアライグマのキャップ。ティアナは彼の姿を見ると瞼をパッチリとさせて無事だったことに安堵する。

 

「キューッ、キュウッー!」

「何かあったのか?」

 

 しかしどうも様子がおかしい。

 何かを伝えようと必死に小さな両手を動かしている。もっと言えば私の足を掴んで「付いてきて」と言いたげな振る舞いだった。

 

「キューッ!」

「あっ、キャップどこにいくの?」

「……どうやら何かあったらしい」

「うん、私もそう思う。それに、少し嫌な感じがする」

 

 そして突然走り出すキャップ。

 どうも嫌な予感がする。私たちは顔を見合わせると武装を装備し、キャップの後を追いかける形で村の裏通りを駆け抜けた。

 

「キュウッ、キュウッ!」

「ここって……ブルーナさんの家だよね?」

 

 キャップが待っていたのはブルーナの家の前。奇妙なのは屋内から物音一つすらしないこと。私は一呼吸置いてから先陣を切って家屋へと足を踏み入れるが、

 

「誰もいないようだが」

 

 もぬけの殻だった。

 私たちを出迎えたのは静けさと不穏な空気。ティアナとユユもやや驚きながら周囲を見渡す。

 

「ブルーナさん? ブルーナさん!」

「わ、私はサリアちゃんの部屋を見てくるのだ!」

 

 脳裏を過るのは『連れ去られた』という仮説。数分ほどかけて屋内を捜索してみるがブルーナとサリアの姿は見当たらなかった。

 

「これは泥……?」

 

 しゃがみ込んで木の床を観察してみるとこびりついていたのは腐敗した泥。これは間違いなく足切り沼のもの。

 

「……イケニエか」

「えっ?」

「彼女たちは足切り沼に連れていかれた。目的はイケニエにすることだろう」

「そ、それはまずいのだッ! 今すぐ助けに行かないとあの怪物にッ……!」

 

 足切り沼に向かって三人で駆け出す。裏通りなどは使わず、ただ一直線に走った。だが不思議なことに村人とは誰一人遭遇しない。

 

「──けてぇッ! いやだよぉッ!」

「サリアちゃんの声……!」 

 

 微かに聞こえるサリアの泣き声。

 私たちは更に走る速度を上げて足切り沼まで辿り着けば、

 

「サリアちゃん、ブルーナさんっ!」

「あなたたちっ……! どうしてここに来たのよっ……!?」

 

 ブルーナとサリアが足切り沼へ落とされていた。周囲から草陰から感じるのは大勢の視線。これはブルーナたちを利用して私たちを誘き出すための罠だとすぐに悟る。

 

「か、怪物がすぐそこまで来てるのだ……!」

 

 ユユが指差すのはサリアとブルーナの背後。

 そこには揺れる水面、人魚様の影が写っていた。ティアナとユユは急いで足切り沼の崖際まで近づき、ブルーナたちに両腕を伸ばす。

 

「は、はやくこっちまで来るのだっ!」

「サリア、お姉さんたちのところまで走って!」

「う、動かないっ……! お、お母さん、足が動かないのっ……!」

 

 サリアは何とかこちらまで動こうとするが足が泥に沈み、その場で立ち往生してしまった。ブルーナはすぐさま引き返せばサリアの身体を支え、一歩ずつ前へと進ませる。

 

「このままじゃ間に合わない……ヘレンっ!」

「ああ、君は彼女たちを引き上げろ」

 

 側面へ移動し構えるのはリボルバー銃。

 水面に映り込む影に狙いを定め、何度か発砲を繰り返した。

 

(届いていない? いや、これは……)

 

 しかし一向に影が止まる気配はない。

 ただただブルーナたちの元へと前進を続ける。私は一瞬だけ眉をひそめると銃口を水面の影からブルーナとサリアの右隣へと向け、

 

 バンッ──

「きゃあぁあぁああッ!!?」

 

 引き金を引いた瞬間、付近の水面からナニカが飛び出す。

 その姿はやせ細った上半身の肉体、(うろこ)が剥がれ落ちた魚の尾びれ。両腕の皮は捲れ落ち、爪は研がれた刃のように鋭い。

 

「ブルーナさん、サリアちゃん!」

 

 海藻のようにぬめぬめとした真っ黒な髪。顔色が窺えないよう長い前髪で両目などを隠していたが、明らかに私を見て「どうして分かったのか」と驚いていたため、

 

「君ならそうすると思ったからだ」

「キァア"ァッ……!!」

 

 人魚様と謳われている怪物にそう答え、引き金を引いた。

 弾丸は真っ直ぐ額を貫けば人魚様は水面へと背中から倒れ込む。

 

「二人とも! 今のうちに上がるのだ!」

「ええ、サリア走って!」

「う、うんっ……!!」

 

 その隙にブルーナとサリアはティアナたちによって沼から無事引き上げられた。私は未だに映り続ける水面の影を見つめていれば、

 

(……やはりフェイクだったか)

 

 上半身だけの死体が浮かび上がってくる。あの怪物は私の注意を引き付けている間にブルーナとサリアを沼へ引きずり込もうとしたのだろう。

 

「こ、怖かったよぉおぉおっ……!」

「よく頑張ったわねサリア。……あなたたち、本当にありがとう」

 

 恐怖に怯えて泣き出すサリア。ブルーナは自分の娘を優しく抱き寄せた後、その場に立ち上がるとティアナたちへ感謝の言葉を述べる。

 

「ううん、気にしないでください。とにかく無事で良かった……」

「そ、それよりもなのだ! は、早く村から出てッ──」

 パァンッ──

 

 ユユがそう言いかけた瞬間、鳴り響くのは銃声。

 誰もが呆気に取られている空間でブルーナはゆっくりと自分の胸元を見る。

 

「かッ、うぁぁあ"ッ……」

「ブルーナさん……!?」

 

 溢れ出す赤い血。

 弾丸は心臓付近を貫いておりブルーナは両膝をついて横向きに倒れる。

 

「何てことをしてくれたんじゃお前たちっ!? 人魚様へ無礼を働くなど……!」

 

 草陰から姿を見せたのは長老と猟銃を持ったタローに斧を持ったジロー。更に周囲の草陰からは得物を手に持った男の村人が続々と現れる。

 

「お母さん、お母さぁんッ……!!」

「サリアっ……」

「ブルーナさん、今すぐ治療をっ……!!」

 

 止血を試みるが大動脈が損傷しているため血は止まらない。サリアは恐怖と焦りに支配された表情で母親のブルーナへ必死に呼びかける。

 

「サリアっ……ごめん、なさいっ……」

「お母さん、行かないでお母さぁあ"ぁんっ……!」

「立派な……リンカーネーションにっ……なって……」

 

 自分の娘の頭に右手を置き、悲しみに溢れた声と表情で謝るブルーナ。サリアは涙をボロボロと流し続け、ひたすら母親に呼びかける。

 

「あなたたちっ……サリアのこと……頼んだわ、ねっ……」

 

 そして彼女は最後の力を振り絞りティアナの左手を強く握りしめ、希望と娘のことを託すとゆっくり手の握る力が失われ、

 

「……ブルーナさん? ブルーナさんッ!!」 

 

 ガクンッと全身の力が抜けた。

 目を見開き絶望するサリアとティアナ。ユユは顔面を真っ青にさせる。

 

「いやだ、一人はいやだよぉっ……! お母さんっ、お母さぁあんっ……!!」

「どうしてっ……どうしてこんなヒドイことをするのだッ!?」

「お前たちが人魚様を怒らせたからじゃッ! 怒らせなければわしらもこのような手は使わんかったッ!」

「どんな理由があってもブルーナさんを殺していいことにはならない……! あなたたちは狂ってる!」

 

 悪いのはお前たちだ。

 そう言わんばかりの反論にティアナとユユの瞳に怒りと敵意が満ちる。

 

「黙れ黙れッ! 今すぐブルーナとサリアをイケニエにするんじゃ! そうすれば人魚様の怒りが収まる!」

「イケニエだ! イケニエにするんだッ!」

「全員でそやつらを捕らえるんじゃッ! 人魚様に捧げるんじゃ!」

 

 響き渡る長老の命令。

 耳にした村人たちは猟銃やら斧やらを構えて私たちとじりじり距離を詰め始めた。ティアナとユユはサリアを守りながら村人たちと向かい合う。

 

「「「イケニエッ、イケニエッ!!」」」

「ティ、ティアナ! サリアちゃんを抱えて逃げるしかないのだ!」

「向こうは銃を持ってる……。抵抗したら撃たれるよ」

「で、でも捕まるわけには……!」

 

 刀剣の鞘へと手を近づけたり離したりを繰り返すティアナ。人間を相手にしたときの迷いを断ち切れていないようだ。

 

「さぁお前たちッ! わしらのためにこの者たちをイケニエにするんじゃッ! 人魚様のイケニエにして、この村の繁栄と存続をッ──」

 

 だから私はリボルバー銃の銃口を長老の方へと向け、

 

 バンッ──

「──はっ?」

 

 有無言わず引き金を引いた。

 弾丸は長老の心臓を貫いていたため、うめき声を上げる間もなくうつ伏せに倒れる。突然のことで斧を構えていたジローは呆気に取られていたが、

 

「お前ッ、よくも爺ちゃんをッ──あグァッ?!」

 バンッ──バァンッ──

 

 我に返ると私に殺意を向けてきた。だがその先は何も言わせず右脚の膝へ一発、そして眉間に弾丸を一発と撃ち込んで大人しくさせる。

 

「へ、ヘレンっ……?」

「私は君に『最期まで正しくあった生命(いのち)は、正しく(とむら)われるべきだ』と言ったが──」

 

 後退りをする男の村人たちと目を見開くティアナ。私は次なる標的をタローへと変え、

 

「──彼らはそうあるべきじゃない」

 

 引導を渡すかのように引き金を引いた。

 

 

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