ЯeinCarnation   作:酉鳥

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第18話『リゾート大作戦:計画編』

 時間は(さかのぼ)り、場所はティアナの病室。

 見舞いに来たカミルとニコラスの二人に提案したヘレンとの距離を近くするための作戦。

 

「今度の長期休みに、ヘレンを遊びに誘ってみない?」

「……はっ?」

「ほら、ヘレンっていつも一人でしょ。心を開いてもらうにはやっぱり一緒に遊んだり、お話したりすることが大切じゃない?」 

 

 それはヘレンと一緒に遊ぶという至極単純な作戦だった。

 唖然としているカミルに対してニコラスは赤縁(あかぶち)の眼鏡をクイッと押し上げ、わざとらしい大きなため息をつく。

 

「ティアナ、結論を述べるなら君の意見には賛同しかねる」

「えっ、どうして……」

「ヘレンが誘いを必ず断るからだ。もし考えがあるのなら聞かせてもらえないか?」

 

 ヘレンの性格上、どんな誘いもあしらおうとする。

 ニコラスが簡潔に課題を上げると、ティアナはベッドの上で首を傾げながら考える素振りを見せ、

 

「来てくれるまで誘い続ける、かな?」

「「はぁ……」」

「どうしてため息つくの!?」

 

 自身の頭で必死に考えた(すえ)の答えを出した。

 すると今度はカミルも一緒になってため息をついたため、ティアナはあたふたしつつ二人の顔を交互に見る。

 

「それを実行すればどうなるか説明しよう」

「お、お願いします」

「恐らくヘレンは長期休みが終わるまで断り続け、次第に君を避けるようになるはずだ。これでは関係を深めることはおろか、離れていく結果になって大失敗に終わる」

「そ、それはちょっとまずいよねー……」

 

 的確な指摘にティアナは思わず項垂(うなだ)れる。

 課題はヘレンの首をどうやって縦に振らせるかだ。ニコラスとティアナの会話を聞きながら、思考を張り巡らせていたカミルはふと解決策を思いつく。

 

「……んなら、取引すればいいんじゃねぇか?」

「取引? それはどういったものだ?」

「あの皇女に『誘いに乗れば俺は二度とお前に関わらねぇ』って言うんだよ。あいつにとっても(うま)い話にはなるだろ」

 

 旨い話をちらつかせて誘いを断らせない作戦。

 ティアナはそれならほぼ確実に断れない、と納得をしていたが、ニコラスは新たな課題が生まれることに気が付いていた。

 

「カミル、その取引には大きな問題点がある」

「あ? んだよ?」

「君に与えられた任務だ。ヘレンと関わりを絶つというのは任務の放棄にほぼ近い。ましてやブレイン家の人間なら……これは天命を放棄することと同義だろう」

 

 任務として命じられた『ヘレンの付き添い』を放棄することは、カミルにとっても大きなリスクを伴う取引だった。ニコラスが挙げた問題点を聞いたカミルは「はっ」と鼻で笑い、林檎を剥いていたナイフを机に置く。

 

「俺はティアナに賭けてみることにした」

「賭けるだって? 賢明な判断とは思えないぞ、カミル」

「んなら賢明な判断であの皇女を変えられんのか? 俺から言わせてもらえば無理だ。じゃあ地道に距離詰めてくか? これも無理だろ、時間が足りねぇ」

 

 木の椅子に勢いよく腰を下ろすカミル。

 両脚に体重を乗せて前のめりの体勢になると、日光が差し込んでいる窓を見つめた。

 

「誰もあの皇女をテコ入れしなかった。誰もあの皇女を変えようと大きな行動を起こさなかった。だったらやることは一つ、俺たちが正面からぶつかってやるしかねぇだろ」

「カミル……」

「俺のことは気にするな。第一、俺はブレイン家の血筋なんか──いや、何でもねぇ」

 

 カミルは勢いのまま何かを言いかけ、途中で言葉を止める。

 ティアナとニコラスはその反応に少しだけ疑念を抱いた。けれど優先すべきはヘレンの一件だ、とニコラスが制服の懐から手帳とペンを取り出す。 

 

「ならすぐに計画を立てよう。ティアナ、具体的に君はヘレンをどこへ連れていく?」

「う~ん、一日だけ街へ買い物に行こう! ……ってのは時間が足りないよね。どうせならヘレンと一緒にいられる時間が、多くなる場所に行きたいかも」

「んなら遠出すればいいんじゃねぇか? 一日で帰ってこれねぇ場所ならあの皇女を拘束できるだろ」

 

 一日でヘレンとの距離を詰めることはできない。

 共にいられる時間が多くなるかつ、ヘレンに怪しまれないような場所。ティアナは脳内の引き出しから遊びスポットの候補をいくつか出していくうちに、たった一つだけ条件に当てはまる場所を思いつく。

 

「リパ島、とか?」

「良い案だ。あそこならロザリア大陸から離れ、ヘレンを拘束する理由になる」

「じゃあ決定にしよ! 題して『リゾート大作戦』! 実はね、私も一回は行ってみたくて……!」

 

 リパ島と呼ばれるリゾート地。

 イゾーレオリヴィア諸島のうちの一つ。海に囲まれているため船を経由しなければ辿り着けない。遠出と拘束時間を延ばせるとっておきの場所だった。

 

「迷子にはなんなよ。島に行くのはヘレンとお前しかいないんだからな」

「何言ってるの? カミルたちも来るでしょ?」

「はっ? 行かねぇけど」

「えっ? 来てよ」

 

 まったく話が噛み合わない。

 見兼ねたニコラスはコホンッと一度だけ咳ばらいをして場をまとめ始める。

 

「ティアナ・イザード、今回の計画は君とヘレンの二人を主軸に進めると僕は思っていたぞ」

「私の計画だとカミルたちにも来てもらうつもりだったんだけど……」

「待て待て、何で俺たちまで必要になんだ? お前だけで十分だろうが」

「ううん、人数多い方が楽しいに決まってるよ!」

 

 まるで子供のような理由。

 信じて疑わない純粋な眼差しを送られたカミルとニコラスはわざとらしく視線を逸らし、どうしたものかと呆れ果てた。

 

「ティアナ、念のため君に聞いておくが……今回の計画に参加させる候補はまだいるのか?」

「うん、名家の生徒を全員誘おうかなって思ってるよ」

「は? 本気で言ってんのかお前?」

「本気もちょー本気! ヘレンが普通の生徒に興味を持つわけないから、もし心を開いてくれるとしても名家の誰かかなって」

 

 数打てば当たる作戦を決行しようとしているティアナに、ニコラスとカミルは険しい表情を浮かべる。しかし否定したところでティアナは考えを改めないと二人は言葉を呑み込む。 

 

「はぁ、他の名家の連中が行くんだったら付いていってやるよ」

「僕もカミルと同じ条件にする。僕は気まずいのが大の苦手だ」

「じゃあ決定ね! ありがと二人とも!」 

 

 渋々了承する二人に笑顔を見せるティアナ。

 感謝される最中、カミルは真剣な眼差しを向けつつ「喜ぶのはまだだ」とティアナへ言い放った。

 

「問題がある。俺たち生徒はリパ島へ行くには、親の許可が必要になるだろうが」

「へっ? 許可を出してもらえばいいだけじゃ……」

「ヘレンはどうする? あいつに『親の許可を取りに行け』なんて言ったら、取引ありでも断られる可能性があるぞ」

 

 誰も汲み取れないヘレンと両親の関係。

 ただ決して良いものではないと雰囲気で分かるため、カミルの意見は最もなものだった。 

 

「……代わりに私がヘレンの親に会って話をするよ」

「なに言ってやがる?」

「行くために許可は必要だけど、行く本人が自分で許可を貰う必要はない。書類もサインだけだから誤魔化せる……って友達が言ってたんだ」

 

 ティアナがクラスメイトから聞いていたルールの抜け穴。

 カミルは「わりぃやつだ」とポロッと言葉をこぼし、もう一つの問題点を挙げる。

 

「けどな、そんな簡単に面会できるような相手じゃねぇぞ?」

「それについては問題ない。僕がどうにか手配しよう」

「あ? おい眼鏡、何をするつもりだ?」

「僕の姉さんが『近々エゴン様たちと面会する』と言っていた。ティアナ、君を同伴してもらうよう頼んでみる」

 

 解決策を提示するニコラス。

 途中で発していた姉さん(・・・)という言葉を聞いたカミルは前のめりの体勢を元に戻し、ニコラスの方へ身体の向きを変えた。

 

「姉さんってのは……パティのことか?」

「パティ……って、えぇっ!? ニコラス、パティ・アーヴィン様の弟なの!?」

 

 九ノ戒パティ・アーヴィン。

 グローリアの文明や教養を大きく発展させた偉人と呼ばれる者の一人。吸血鬼の性質や集団戦による戦術に関して偉大な貢献をし、アカデミーに在籍する候補生たちのカリキュラムも製作している本人。

 特に戦術面では吸血鬼との交戦で戦死者を五割削り、勝率を五割上げるほど磨き込まれたものだった。

 

「ああ、こいつの姉は偉人らしいぜ」

「じゃあニコラスはいつもパティ様とご飯を食べたりしてるんだ……! いいなぁ……!」

「その妬みは理解できないが……僕は姉さんを偉人とは思わない。あの人はただの変人だ」

 

 そんな彼女は十戒の一人でもありニコラスの実の姉だった。

 羨ましがるティアナとは裏腹にニコラスは表情を曇らせて苦言を呈する。 

 

「あちゃ~! 私のことを変人呼ばわりときたかぁ~!」

 

 病室に立ち入る明るい女性。

 コスモスの髪飾りを付け、後頭部で髪を団子にまとめた紫髪。金属製のフレームの丸眼鏡をかけ、ベストを付けたスーツ姿の女性。脱いだジャケットを手に抱えて意気揚々と三人の近くまで歩み寄ってくる。

 

「姉さん……!」

「姉さんってことは……パ、パティ様!?」

「ハーイ、パティ様でーす。……んんっ、林檎うまっ!」

 

 その女性は話題に上がっていたパティ本人。

 パティはティアナの為に剥いてあった林檎をつまみ食いし、抱えていたジャケットを洋服掛けに放り投げる。

 

「どうしてここに来たんだ?」

「すぐに分かる! ってことでそこの君、退いてくれない?」

「あ? んで俺が退かねぇと……」

「私はあの十戒様ぞ? すぐに席を譲りたまえ。譲らなければ──」

 

 不満げな顔をするカミル。

 パティはそう脅すように言いかけると眼鏡をクイッと押し上げ、

 

「はいドーンっ!」

「うおっ……! 何してんだてめぇ……?」

「ぷっはは、勢いよくぶっ飛んだねぇ~!」

 

 押し退けるように身体で吹き飛ばす。

 まるで椅子取りゲームで遊んでいるかのようなパティの無邪気な笑みに、カミルは左頬を引き()らせながらパティを睨んだ。

 

「はい、というわけでティアナ・イザードくん。私は君に尋ねたいことがあってここまで来たんだ」

「た、尋ねたいことですか?」

「ずばり眷属について! 皆、私にだけ報告書見せてくれなくてさぁ~! 酷いよね? 『眷属』っていう面白そうな話があるのに仲間外れにするなんて~!」

 

 その言葉を聞いた誰もがこう思った。

 パティという人物は好奇心と童心だけで動いている変人だと。だから他の十戒は厄介なことにならないよう報告書を彼女に見せていなかったのだと。

 

「さぁ思う存分に話してくれ! 眷属とは一体どんな肌の色をしていて、どんな言語を喋っていたのか! ああその前に天気と気温と湿度まで詳しく聞かせてもらわないと──」

「姉さん、彼女は患者だ。それに面会許可も取っていないだろう」

 

 ニコラスは詰め寄ろうとするパティの右肩を掴んで引き留めた。

 しかし素直に諦めてはくれないようでパティは強引に振り払うと、右隣に立っているニコラスを見上げる。

 

「弟くん、今のを例えるなら……『林檎はなぜ食べてもいいのか』という議題に対して『林檎は果物だから』と答えるぐらいには下らない理由だよ」

「ならば姉さんは何て答える?」

「そもそも林檎を食べたことがない!」

「さっき食べてただろうが……」

 

 遠回しにルールは破るためにあると言わんばかりの返答をしたパティ。

 ニコラスとカミルは呆れて何も言えずにため息をついていれば、ティアナは小さく頷いてパティにこう答えた。 

 

「話してもいいんですけど、一つだけ条件があります」 

「話が早くて助かるよ! で、その条件ってなに?」

「今度、パティ様はエゴン様たちとの面会があるんですよね? 私をその面会に参加させてください」

 

 パティは「どうして知っている」と少し驚くような表情を見せる。

 だがすぐに自己解決したようでにやにやしながら横目でニコラスへ視線を送った。

  

「ははーん、やるねぇ弟くん~。私のスケジュールをこっそり把握しておくなんて」

「姉さんがいつも手帳を落としているからだろう」

「……まっ、いっか。それで君はなぜエゴンたちと会いたいのかな?」 

「それは──」

 

 ティアナは事情を説明する。

 リパ島へ行くためには書類に許可が必要なこと。ヘレンの過去を知る必要があること。包み隠さずパティへ伝えた。

 

「だからお願いします! 私をエゴン様と会わせてください!」

「いいよ。会わせてあげる」

「ほ、本当ですか!?」

「もちろんさ。女にも二言はないよ」

 

 親指を立てるハンドサインを見せるパティ。

 呆気なく許しがもらえることなんてあるのか、とニコラスとカミルは不信感を抱いて二人で視線を交わす。

 

「でも君は恐ろしい真実を知ってしまうかもしれないぞぉ~? その覚悟はできてるかな~?」

「恐ろしい真実、ですか? もしかしてヘレンの過去に関係する何か──」

「あちゃ~、そうなるよねぇ~。まっ、その時のお楽しみってことにしよっか!」

 

 パティは何やら意味深な一言をぼやく。

 だがその明るい声色からそこまで深刻ではないとティアナは受け止め、カミルとニコラスはただからかっているだけだろうと結論付ける。

 

「ってなわけで、眷属について聞かせてくれるかなぁ?」 

「あ、あの目が怖いです……」

「さぁ話したまえ、さぁさぁさぁ……!」

 

 その後、ティアナはたっぷりと質問攻めをされ気が付けば日没の時間帯となっていた。 

 

 

──────────────────────

 

 

 計画を立ててから数日後。

 無事に退院したティアナ・イザードはすぐさま行動を移した。目的は勿論名家の生徒を誘うこと。

 

「ジーノ、ちょっといい?」

「うん? ティアナさん、どうしたの?」

 

 まずは誘いに乗ってくれそうな人から声をかける。

 第一候補として声をかけたのはパーキンス家のジーノだった。

 

「良かったら長期休みにリパ島へ行かない? 実はかくかくしかじかで──」

「とても楽しそうだから参加したいけど……邪魔にならないかな?」 

「ううん、ならないよ! ジーノも一緒に楽しもっ!」

「ありがとうティアナさん。それじゃあ参加させてもらうよ」

 

 ジーノは屈指の優男(やさお)

 いつも穏やかなでどんな相手にも謙虚に優しく接する平和主義者。ティアナが想定していた通り、遠慮しながらも首を縦に振ってくれた。

 

「お、おはよっ! エリザ、フローラ!」

「ええ、おはよう。……あなたは確かティアナ・イザードよね? 私たちに声を掛けてくるなんて何かあったの?」

「えっと、少し話したいことがあって……」

「話したいこと、ですか?」

 

 第二候補として声をかけたのはアークライト家のエリザとアベル家のフローラ。

 二人とは初対面だったためティアナは緊張しながらもリパ島のリゾート計画について話をする。

 

「ええっ!? あのリパ島ですかぁ!?」

「フローラ、もしかしてあなた……行ったことあるの?」

「えへんっ、聞いたこともありません!」

「じゃあ何なのよ今の反応は……」

 

 フローラは食いしん坊のムードメーカー。

 エリザはフローラとよく行動を共にしている理系女子。どちらも比較的に接しやすい空気感があるため、ティアナは第二候補として選んだ。

 

「話によるとね? リパ島の魚や果物はほっぺが垂れ落ちるぐらい美味しい──」

「行く、行きます! エリザちゃん、行きましょう!」

 

 何よりもフローラは美味しいものに目がない。

 食事の話題をあげると想定通りすぐに食いついて首を縦に振った。

 

「フローラ、あなただけで行けばいいじゃない」

「エ、エリザちゃんがいないと孤立しちゃいます……。孤立してご飯だけ食べてたら、ほんとにただの大飯食らいに……」

「わ、分かったわよ。私もついていけばいいんでしょ」

 

 フローラが参加することになればエリザも付き添いとして必ず参加することになる。ティアナが思っていた通りに事が進み、無事に二人を勧誘できた。

 

「──リパ島ですか?」

「うん、息抜きにどうかなって」

 

 ティアナが次に声をかけたのはトレヴァー家のティア。

 彼女は第三候補として挙がっていた。

 

「ですが初対面でリパ島へ誘うなんて奇怪ですね。何か裏があるのでは?」

「う、裏なんてないよ? 私はティアと遊びたいな~って思っただけで……」

「……分かりました。折角のお誘いなので断るわけにはいきませんね」

「ありがとティア!」

 

 唯一の課題は勘がいいこと。

 ティアは裏があると必ず探ってくる。そんな彼女にティアナはたじろいだが何とかやり過ごして誘うことに成功した。

 

「リパ島……ふむ、悪くない提案ではあるな。訓練浸けも身体を壊しかねん」

 

 第四候補はオリヴァー家のエレナ。

 彼女はリパ島に誘われると比較的に肯定気味になるのだが、

 

「ティアナ殿、我々を嵌めようと企んでいるわけではあるまいな?」

「ま、まさか! 私はただ、その、楽しそうだからエレナに声を掛けたりしただけで!」

「……仕方ない、その誘いに乗ろう。貴殿の好意を無下にするわけにもいかんからな」

 

 ティアと同じように探りを入れてくる。

 しかしこれもどうにか乗り切って勧誘することに成功した。

 

「グッドアイデアだぜ、リパ島! パーシー、俺たちもジョインさせてもらおうぜ?」

「バカ言っちゃいけねぇ。子供の青春を邪魔するおじさんになっちゃダメなのよ。んだから、参加すべきじゃねぇな」

 

 第五候補はニュートン家のレクスとプレンダー家のパーシー。

 ティアナたちにとって二人は年齢的に数個上であり、いわば年上に値する大人だ。

 

「そんなこと言わずにお願いパーシー! どうしても参加してほしいの!」

「よぉくシンキングしろよパーシー。折角のインスピレーションを逃したらダメだろ?」

「……あー、ティアナ嬢ちゃん。なら条件を付ける」

 

 なぜ大人が第五候補なのか。

 理由は至極単純で。レクスはともかくパーシーが若者であるティアナたちの遊びに混ざろうとしないから。言い換えれば邪魔をするべきではないという考えだった。

 

「おじさんたちも参加する。けどそれは保護者としてだ。その条件なら構わねぇぜ?」

「パーシー、そりゃあグッドアイデアだぜ!」

「うん、それでもいいよ! 参加してくれることが大切だから!」

 

 だが機転を利かせて参加だけする形を取る。

 パーシーはティアナの話を聞いただけで何か事情があるのだと察したからだ。

 

「ル、ルーナぁ~……」

「……なに?」

(や、やっぱり少し怖い……) 

 

 最後の候補。

 レインズ家のルーナである。なぜ彼女が最後の候補として挙がったのか。それは彼女がまとっているオーラ。氷のように凍えた威圧感をいつも放ち、誰も寄せ付けなかった。

 

「長期休みに、リパ島へ行かない?」

「……私と?」

「う、うん、ルーナと行きたいなぁ~って……」

 

 無表情で無感情。

 だからこそ何を考えているのかまったく分からない。だからこそ威圧感だけが残って誰も彼女に声をかけていなかった。

 

(初めて遊びに誘われた! この子は私と、仲良くなりたいのかも……!)

 

 だが実際は違う。

 心の中ではめちゃくちゃ歓喜している。感情を表に出せないだけで本当は友達が欲しいの一心。けど自分から声をかけたら逃げられるため、ひたすら待ち続けることしかできなかったのだ。

 

「……行く」

「えっ、本当に?」

 

 即答である。

 迷うはずもなく当たり前の返事だった。更に言えばルーナの脳内では、ティアナと食堂でご飯を一緒に食べる姿すらも想像できる。

 

「……だめ?」

「ううん、ダメじゃないよ! むしろ来てくれて嬉しい!」

(嬉しい、嬉しいって言われちゃった……)

 

 大歓喜である。

 その一言でルーナにとってティアナは一方的な親友になった。既に街中へ買い物に出かけているぐらいには友情が深まっている状態だ。

 

「あとねルーナ、ソニアについてなんだけど……」

「……大丈夫」 

「へっ、まだ何も言ってないよ……?」

「……ソニアは勝手についてくる。どこへ行っても、絶対に」

 

 親友の言葉すらも先読みできる。

 ルーナの中で関係性は死闘を共に潜り抜けた仲、背中を預け合った仲まで到達していた。脳裏を過るのは硬い握手を交わす自分たち。

 

「そ、そっか、なら良かった! また日程とか時間が決まったら教えるね!」

「……うん、また一緒にお風呂に入ろう」

「えっ、私たち今日あったばかりだよね? ……ちょっと待って、またって言わなかった!?」

 

 こうして名家全員の勧誘が成功したティアナ。

 彼女は胸を張りながらカミルとニコラスの元まで向かい報告をすると、

 

「──っていうことで、約束通りカミルとニコラスも参加してね!」

「マジかよこいつ……」

「……僕たちは彼女を侮っていたようだ」

 

 二人は顔を見合わせて唖然とすることになった。

 

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