ЯeinCarnation   作:酉鳥

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第22話『リゾート大作戦:恋バナ編』

 

 時刻は二十二時、場所は男子部屋。

 天然温泉事件から絶妙な空気の夕食時間を終えたカミルたちは就寝前のルーティーンを各々で刻んでいた。

 

「ったく、今日は大変な目に遭った」

「夕食時に僕から弁明はしている。誤解は解けたはずだ」

「アイツらの視線はずっと冷めてただろうが。温かいのは飯だけだ」

 

 就寝前の読書をベッドで(たしな)むニコラスと机の前で学業に励むカミル。レクスとパーシーは別荘の外で葉巻を吸って一服をしていた。

 

「カミル君、リゾート地に来ても勉強するんだね」

「あー? んだよその言い方?」

「ああ、気を悪くさせたのならごめんね。ただちょっと意外だったんだ。ニコラス君もそう思わない?」

 

 荷物の整理をしているジーノが気になったのはカミル。

 荒っぽい言動とは裏腹に学業に励む真面目な姿を見て、意外性を感じていたのだ。ジーノは同意を求め、本を読み進めるニコラスへ視線を移す。

 

「僕は意外だと思わない」

「えっ、そうなの?」

「カミル・ブレイン、彼の座学の成績は上から数えて三番目だ。僕よりも劣っているがね」

「ちッ、一言余計なんだよ眼鏡」

 

 カミルの座学の成績は三位。

 アカデミーの中では上位の立ち位置。彼はニコラスの一言に苛立ちを露わにしながらも、開いている専門書を読んで勉強を続ける。

 

「……カミル君、こんなことを聞くのも変だけど」

「あ? 何だよ?」

「君は生粋のブレイン家じゃないよね?」

 

 その問いかけに羽ペンを動かしていたカミルの右手が止まった。ニコラスも本から目を離してカミルへ静かに視線を向ける。

 

「ジーノ、どうしてそう思う?」

「ブレイン家の家訓は常に我らは裏を進む。幼少期に必ず左利きへ矯正されるはずなのに──君はずっと右利きのままだ」

 

 ブレイン家の血筋を継いだ者の特徴。

 それは左利きだということ。ブレイン家はアーネット家に仕える天命。表がアーネット家ならば裏はブレイン家である。右利きが表ならば左利きという裏を進まなければならないのだ。

 

「……はっ、流石パーキンス家。そこまで見られてるとはな」 

「不快にさせたのなら謝るよ。でも少し前から気になってたんだ」

「気にしなくていい。ブレイン家の誇りなんてもの、俺にはそもそもねぇからな」

「カミル君、それってどういう……?」

 

 ジーノとニコラスの方へ身体の向きを変えるカミル。

 彼は少しだけ話すのを戸惑った後、窓の外に浮かんでいる半月を見上げつつ自身の過去をこう語り始めた。

 

「ご推察の通り、元々俺はブレイン家生まれじゃねぇ。クソッたれなスラム──クルースニク出身だ」

「……! クルースニクがカミル君の故郷なの?」

 

 ルールなど存在せず、弱肉強食がすべてを語るクルースニク。驚きを隠せないジーノをカミルは鼻で笑い、「ああ」と小さく頷いて肯定する。

 

「けどな、父親も母親も知らねぇし自分の名前もなかった。毎日毎日、クソ共から食料と金を力で巻き上げるだけのガキ。あっちでは『青い獅子』だとか呼ばれていたな」

「ならば今のカミル・ブレインという名は?」

「ヘレンの親に付けてもらった名前だ」

「ヘレンさんのご両親に……? 何があったの?」

 

 より疑念を抱き始めるニコラスとジーノ。

 カミルは「やれやれ」といった様子で息を吐くと、右手に握っていた羽ペンを机に置いてから足を組んで両手を頭の後ろへ回す。

 

「ガキの頃、クルースニクに名家のアーネット家が来ると噂が立った。それを聞いた街のクソ野郎共は当然のように、獲物として狙いを定めたわけだが……」

「返り討ちにあったのだろう?」

「ああ、それも二度と悪さができねぇように足や腕を折られちまった。どいつもこいつもだらしねぇ有様だ」

 

 思い出し笑いをするカミル。

 その表情は人の不幸を本心で笑っているもの。ジーノとニコラスはその表情だけでクルースニク出身なのだと悟る。

 

「だが俺は自分に自信があった。ディアナとエゴンの命すら奪える自信がな」

「……カミル・ブレイン、君が敵うはずがないだろう」

「はっ、そりゃそうだろ。動術も知らない俺が勝てるわけねぇ。ほんの数分で再起不能だ」

 

 ニコラスの言う通り、カミルもまたヘレンの両親に敵わなかった。

 動術を知る者と知らぬ者の実力は天と地の差。カミルは敗北した過去の自分を嘲笑するように語るとニコラスと視線を交わす。  

 

「そん時にディアナから無言で『黒薔薇の冒涜』って本を渡された。今まで本なんて読んだことなかった俺は、自分が想像もできねぇ世界や微塵も知らねぇ言葉に心を打たれてな」

「カミル・ブレイン、君があの小説に心を動かされたのか?」

「あ? ガキだったらああいうのが一番効くだろうが」

「……それもそうだな」

 

 黒薔薇の冒涜。

 リパ島へ来るときにティアナたちと話したことをニコラスは思い出す。そして彼がその小説に感銘を受けていたことにやや驚いていた。

 

「んで、エゴンは俺にこう言ったんだよ。『力で人生を切り開けても、知識と見識がなければ人生を豊かにすることはできない』って」

「それを聞いてカミル君はどう答えたの?」

「……『だったらてめぇらが俺の人生を豊かにしてみろよ』って言葉を返してやった」

 

 王族とも呼べるアーネット家への口答え。

 ニコラスとジーノは世間知らずなカミルの返答に苦笑する。それでも当の本人はしてやったりの表情を浮かべているようだった。 

 

「なるほど、君がブレイン家に引き取られた経緯はおおよそ理解した。十中八九、言葉を返されたエゴン様がその話に乗ってきたのだろう」

「あぁそうだ。んなこと言っちまった以上、俺も引くわけにはいかねぇからな。仕方なくブレイン家になってやったんだ」

 

 口答えに乗ったエゴンによってブレイン家へ連れていかれたカミル。断るのは自分のプライドが許さない、と試してやるという態度でいたのだが、

 

「そっからはバカみてぇに毎日キレられた。礼儀だとか、紅茶の淹れ方だとか、ベッドメイキングだとか……。クソほどどうでもいいような作法を言葉と一緒に叩き込まれてな」

 

 特に甘やかされるわけでもなく普通に教育を受けさせられた。ゼロからのスタートだったため、十分に一度は叱られる日々が続いていたとカミルは語る。

 

「すぐ逃げなかったことに驚きだ。頭に血が上らなかったのか?」 

「脳みそなんてイラつきで破裂寸前に決まってんだろ。……けど勘違いすんな、そのイラつきは自分に対してだ」

「自分に対してだと?」

「ご自慢の腕っぷしが何の役にも立たねぇ無力感。俺よりも弱い連中ができんのに、俺にはできねぇ劣等感。その全部がウザくて悔しくて、イラついてばっかだった」

 

 力では何も解決しない世界。

 頼られるのは知識と見識がある者だけ。まったく異なる世界でカミルは最底辺からスタートし、毎日のように苦渋を舐めさせられていた。

 

「そっからはよく覚えてねぇ。ただひたすら目にもの見せてやろうと這い上がり続けて……気が付いたらこんな島でバカやってやがる」

 

 ほくそ笑んでいるカミル。

 その吹っ切れた笑みは自分の人生に満足感を覚えているものだ。ニコラスとジーノもそんな笑みを浮かべるカミルを見て頬を緩める。

 

「エゴンが俺に言った『人生を豊かにするのは知識と見識』って言葉。あの言葉は嘘じゃねぇ。おかげで色んなことに興味を持っちまうはめになった」

「その本、アークライト家が監修した解剖学の専門書だよね?」

「ああ、エリザから借りたやつだ。人間の身体ってのはおもしれぇ構造してやがる。お前たちも興味があるならエリザから借りて読んでみろ」

 

 カミルが二人に見せたのは解剖学の専門書。

 これは決して医者になるための勉強ではない。単に好奇心がカミルを突き動かしているだけ。つまり何かを学ぶことはカミルの趣味に近かった。

 

「ふふっ、カミル君は『変わり者』だよ」

「僕もカミル・ブレインという男は『変わり者』だと結論付けさせてもらおう」

「あ? てめぇら、それはどういう意味だ?」

 

 ふと語られる過去としんみりした空気。

 これが俗に言う就寝前の男子部屋である。男というのは決して明るい話はせず、この夜という状況にピッタシのしんみりとした話題と空気感が好きなのだ。

 ならば対して女子部屋は何を話しているのか。それは、

 

「ねえ、フローラって気になってる人とかいるの?」

「ん、んぐ、ごほっげほっ!? い、いなひです!」

「寝る前に食べると太るわよ……」

「太りまへんよっ!」

 

 圧倒的、恋バナである。

 しんみりとかではない。女子が揃えば口から飛び出るのは愚痴と男と恋バナの三拍子。典型的な女子であるティアナは、まず肉が挟まれたパンを食べているフローラを標的にした。

 

「男の子ってフローラみたいな女の子をどう思うんだろ…?」

「『デブは嫌いだけどいっぱい食べる女の子は好き』という話はよく聞きますね」

「ん~、ちょっとおかしいよね。いっぱい食べて欲しいのに太ってるのは嫌って、女の子に『沢山ご飯は食べてね。あ、でもスタイルはきちんとキープするように!』ってワガママ言ってるようなものなんじゃ……?」

 

 議題は大食い系女子が好きな男子について。

 ティアナとティアが二人で議論を交わしている最中、呆れた様子でエリザは別視点からの言葉をこう挟んだ。

 

「はぁ、『幸せそうにご飯を食べてる顔を見るのが好き』って意味合いもあるでしょ」 

「えっと、じゃあハムスターにひまわりの種をあげてるみたいなこと?」

「それとも池の(コイ)にエサを与えてるようなものですか?」

「違うわよ……。どうも(ひね)くれてるわね、あなたたちは」

 

 二人に全く意図が伝わらず苦言を(てい)するエリザ。

 フローラは「餌付け?」と首を傾げながら両手に持っているパンを凝視する。

 

「エリザ、そういう貴方はどうなんですか」

「どうって、何がよ?」   

「私たちを捻くれてると(くく)れるのであれば、貴方には真っ当な男性像があるということですよね」

 

 ティアはそう言いながら狐の面越しにエリザをジト目で見つめ始め、ティアナも「うんうん」と共感しながらエリザへじーっと視線を送る。

 

「当然でしょ。それぐらいあるわ」

「では教えてください」

「ええ、教えてあげる」

 

 パーシーの股間を素手で握りしめたことを除けば今のところ常識人のエリザ。会話に混ざってはいないが、女子部屋にいるエレナたちもエリザの理想の男性像に耳を傾ける。

 

「まず机の周囲に椅子を二つ(・・)四つ(・・)置けるのが前提条件よ。もし観葉植物も置くのなら部屋の隅に必ず二つ(・・)。カーテンは左右に一枚ずつ付けて二枚《・・》にする」

「「「……」」」

「朝は()時か()時に起きること。寝るときは二十時、二十二時、二十四時が理想。……ああそれと子供は二人産むか、そもそも産まないかの二択を選んでもらうつもりよ。奇数は縁起が悪いから偶数で処理しないと」

 

 流暢に意味不明なことを喋り続けるエリザ。

 対面に座っていたティアたちも盗み聞きしていたエレナたちもドン引き。すると室内の冷めている空気に気が付いたエリザが眉をひそめて辺りを見渡す。

 

「……何よその顔?」

「安心してくださいエリザ。貴方は私たちよりも(ひね)くれていますよ」

「は、はぁ!? 理想なんだからこれぐらいが普通でしょ!?」

「ううん、全然ふつーじゃない。なんていうか、重いかも」

「お、おもっ、い……?」

 

 頬を引き攣るティアナに告げられる無慈悲な一言。

 エリザはガックシと肩を落としてしまい、どんよりとしたオーラをまとう。

 

「フローラはどんな男の人がタイプなの?」

「んんぐ、ごくんっ、ぷはぁ~……私と我が主は心の優しい人がいいです! あと美味しいお店を沢山知っていたり、料理が上手だと嬉しいです、えへんっ!」

「あはは、結局食べ物に結び付くんだね」

 

 持っていたパンを平らげてから胸を張るフローラ。

 想像していた通りの回答にティアナたちは苦笑いを浮かべることしかできない。

 

「それじゃあティアは?」

「そうですね……。まず顔が良いのは前提とします」

「えっ、もしかして()食いなの? 狐のお面(・・)被ってるから?」

「しばき回しますよ」

 

 ティアナの天然な発言に対して取り敢えず暴言を吐くティア。

 その後に「分かっていませんね」と言わんばかりの呆れた素振りを見せ、組んでいた脚を組み直した。

 

「外見より中身を重視しています、なんて言葉は上っ面。考えてもみてください。見た目が不味そうな料理を手に取る人なんて一体どこにもいませんよ」

「い、意外に食べてみたら美味しかった! ってのもあるんじゃ……?」

「ティアナ、これはリスクとリターンの話です。不味そうな料理を食べて不味いことが最悪のリターンだと言いたいんですよ。それなら美味しそうな料理を食べて不味かったの方がまだマシです。この意味が分かりますか?」

 

 ティアの声は落ち着いているがどんどん早口になっていく。気迫に押されてしまったティアナは視線をわざと逸らしつつ、小さく頷くことしかできない。

 

「人間である以上、面食いになるのは当然。『面食いは悪だ』と批判している人物ほど、容姿に対して何かコンプレックスを抱えている者たちばかりです」

「う、うん。でもちょっと言い過ぎてるような──」

「それに中身なんて何の頼りにもなりません。年齢を重ねるごとに中身なんていつでも豹変します。比べて外見なら惹かれた面影は残り続けますよ」

 

 延々と喋り続けるティアは止まらない。

 どのような人間も自分のことを話すときが一番高揚感を得られる。更に言えば恋愛観などは女子の大好物で、縁が無さそうな人物ほど胸の内に溜め込んでいるものだ。

 

「貴方たちも考えを改めるべきです。世の中、面食いが普通であると。面食いは恥ではないと。むしろ中身が大切だと抜かす者たちがおかしいと──」

(((このまま喋らせるとマズいっ……!)))

 

 どんどんヒートアップするティア。

 その内、良からぬことを口に出す。それが差別的発言なのか侮辱に値する言葉なのかは全員が目に見えていた。その前に誰かが止めなければならない。

  

「ティア殿、些細な疑問があるのだがね……」

「はい、何ですかエレナ?」

 

 ティアナたちがそう考えたとき、ふとエレナが手を挙げる。その表情は空気感を変えようとしているのではなく、純粋な疑問を解決しようと試みているもの。

 

「ティア殿は顔が整っていない男を候補から外しているのだろう?」

「えぇそうですね」

「ならば、その、ティア殿は……」

「……? どうしたんですか?」

 

 言いにくそうに口をもごもごさせるエレナ。

 ティアは目を細めながらも次の言葉を待っていれば、

 

「『残りもの』になる確率が高いのではないか?」

「ごっはぁっ?!」

「あ、ティアに言葉のボディーブローが入った!」

 

 火力の高い口撃(こうげき)を叩き込まれて横向きへ転倒する。しかしそんなティアを他所に、エレナは続けてこう意見を述べた。

 

「面食いとなれば求婚してきた相手と結ばれる可能性も低くなるだろう。それに時が経てば経つほどそんな機会も減って、気が付いたら三十路になるのがオチではないか?」

「ぐふうぅっ……!!」

「踏まえるに面食いであればあるほど──生涯独り身(・・・・・)となる割合が高くなるはずだが」

「うげほぉおっ!?!」

 

 次々と繰り出される口撃によってティアは真っ白に燃え尽きる。何がそんなに突き刺さったのか、とティアナたちが苦笑していれば、

 

「そ、そういえば前の世界でもその結末を辿っていましたね……。選り好みしすぎたせいで出会いも減り、仕事のために生きるような毎日を歩んで……」

「ティ、ティア?」

「こうなったのも学生時代が原因です。まともに異性と交流もせず、小説の中だけで恋愛を完結させてしまいました。だから高望みばかりをして……けど、ですが、顔は良い方がいいじゃないですかっ……」 

「うん、そっとしておこっか」

 

 ぶつぶつとワケの分からないことを呟き始めた。

 ティアナたちは頭がおかしくなってしまったのだとそっとしておくことにする。

 

「エレナはどんな男の子が好みなの?」

「ふっ、決まっているだろう。教官のように勇敢で忠誠心のある男が理想であるな」

「へ、へぇそーなんだ。そ、それじゃあルーナは?」

「……青い髪の子」

 

 何とも言えない答え。

 ティアナは半笑いで相槌を打つ。エレナとルーナは彼女の微妙な反応に気が付くとややムッとした顔で視線を送った。

 

「ならばティアナ殿はどのような男がいいのだ?」

「……答えて」

「えっ? ん~、私は……」

 

 自分の答えを決めていなかったティアナは考える素振りを見せる。しばらく部屋の中で(うな)る声が数秒ほど経過すると顔を上げ、こう答えを導き出した。

 

「どんな時でも笑顔を忘れない人、かな」

「ほう、それはどういった理由なのだ」

「そんなにむずかしー理由とかはないよ? ただ好きな人とは笑っていたいだけ。辛いことがあったり、喧嘩したりしても……最後には笑顔で乗り越えちゃう。そんな関係がいいなぁ~って」

 

 ティアナが述べるのは理屈ではなく感情に近い理由。エレナとルーナは顔を見合わせて少しだけ微笑むと、ティアナは徐々に両頬を赤くさせて慌てふためき始める。

 

「あ、あははっ! な、なんかちょっぴり恥ずかしいかもね!」 

「そうでもあるまい。この中では貴殿だけ(・・)が唯一まともだったぞ」

「……うん、私もそう思う」

「えっ、すみません、あの、私と我が主は……?」

 

 エレナとルーナに顔を見せないよう背を向けるティアナ。

 彼女はすぐ隣で手を挙げるフローラを無視し、横向きにベッドで寝ているヘレンのそばまで歩み寄る。 

 

「ヘレン~! 理想の男の子教えて~!」

「……理想なんてものないが」

「少しぐらいあるでしょ~?」

 

 背を向けたまま気怠そうな返事をするヘレン。しかしティアナは引き下がらず、身体を揺さぶりながら強引に答えさせようとした。

 ヘレンはため息をつくとゆっくり身体の向きを変え、

 

「君のような女性が好みだ」

「……へっ?」

「男性には興味がない。付き合うなら可愛らしく振る舞う……君のような女性がいい」

 

 ティアナを見上げながら自分から顔を近づける。

 エレナたちは目を見開いて愕然(がくぜん)とし、ティアナは両頬から広がるようにして顔を林檎のように赤く染め上げ、

 

「な、なななっ、何言ってるのヘレン!? わ、わわっ、私みたいな女の子が好きなんて!」

「……」

「あっ、ち、違うよ? 女の子同士がダメってわけじゃなくて、少しだけ心の準備が必要かなって! ほ、ほら、あんまり聞かない話だし、教会の人に罰せられちゃうかもしれないし!」

 

 あたふたしながらも自然と拒まないよう振る舞う。

 ティアナは優しさが故にヘレンからの告白をきちんと受け止め、どう返事をしようかと考えた結果、

 

(ごくりっ……ヘレンと、結婚したら……)

 

 あれ、意外に悪くないんじゃないか。

 思考回路が正常に働かず、自然とそう思い始めた。ティアナの脳裏を過るのはヘレンと共に歩く花嫁のバージンロード。

 

『まさかあのような恋バナから結ばれるとはな。盛大に祝ってやらねば』

『ええ、どんな形であれ……愛は愛だもの』

『私と我が主はお二人に祝福があらんことを祈ってるですよ~!』

『うぐぐっ、先を越されてしまいましたかッ……』

 

 教会で祝いの声を上げるエレナたち。

 花嫁衣装のティアナとヘレンは祭壇の前へ立つと互いに向かい合う。

 

『ティアナ』

『ヘ、ヘレンっ……』

 

 徐々に近づいていく二人の距離。互いに見つめ合う視線。その唇同士が二人の心の距離間を縮め、互いの愛へ触れあう。

 あり得る未来を想像していたティアナは意を決すると、

 

「で、でもね、ヘレンだったら……女の子同士でも私は──」

「……? 嘘に決まっているが?」

「──」

 

 とある言葉を喉まで出しかけ、とんでもない返しに言葉を失う。

 嘘だった。からかわれていただけだった。ティアナは羞恥心でさらに顔を真っ赤にさせ、口をあわあわと動かし、

 

「ヘ、ヘレンのアホんだらぁあぁあぁーーッ!!」

 

 そう叫びながら女子部屋から出ていった。

 エレナとルーナは死んだような顔でヘレンへ冷めた眼差しを送る。  

 

「ヘレン殿にはデリカシーというものがないのかね?」

「本気にするとは思わないだろう」

「馬鹿者、言い訳は後にしたまえ! すぐティアナ殿を追いかけ、謝ってくるのだ!」

「……ああ、分かった」

 

 ヘレンは納得いかなったがエレナに一喝されたことで重い身体を起こし、白いサンダルを履くとティアナの後を追いかけるため部屋を出て行った。

 

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