「ぐあぁあぁあっ!?!」
「きゃあぁっ!?」
薙ぎ払われた茨。
私たちが吹き飛ばされた方角は東西南北。タケシとティアナの叫び声を耳にしながらも、私は受け身を取って床へ何度か転がった。
「ウフフ、受動がお上手なこと」
微笑むのはレプシーと名乗った美少女。
真っ赤な長い髪に黒のティアラ、不気味に輝く赤い瞳に薔薇の形をした瞳孔。寝起きなのか目の下にできた濃いクマ。
(彼女は、一体……?)
身体に巻き付ける赤い布の切れ端。
はだけないよう押さえている薔薇の茨は触手のように蠢く。候補生ではないのは明白。異様な雰囲気を漂わせる少女に私は眉をひそめた。
「げほげほっ、みんな大丈夫か!?」
「あ、ああ、おれはなんとか──ぐっ、右手が動かねぇっ」
ゆっくりと立ち上がったハジメが私たちへ呼びかける。ティアナと私は軽傷だったが、東側に吹き飛ばされたタケシは、右肩から血を垂らしていた。
恐らく茨の薙ぎ払いによって皮膚が切り裂かれたのだろう。
「ハジメ、タケシの手当てをしてあげて!」
「ああ、分かったよ!」
タケシの応急手当てをするよう叫んだティアナ。彼女は鞘から抜いた黒の刀剣を右手に構えて、書庫の中央に立っているレプシーへ敵意を抱く。
「ヘレン、私たちで時間を稼ぐよ!」
「ああ、そのつもりだ」
タケシの治療が済むまでの時間稼ぎ。
ティアナが駆け出したタイミングと同時に私もレプシーへと距離を詰めた。正面と後方から挟み込む形で一撃を叩き込もうと試みるが、
「素敵な殺意ですわ、アナタ様方」
レプシーは一切その場から動こうとしない。むしろ一冊の古ぼけた本を拾い上げ、ペン先のような触手で何かを書き始める。
「是非とも『素敵な
「「──っ!」」
後少しで刀剣の刃がレプシーに触れる、その瞬間だった。身体が勝手に動けば無意識のうちに刀剣を手放し、私とティアナは何故かレプシーを優しく抱きしめてしまう。
「ウフフッ、アナタ様方はとっても優しいですわね」
「君らは何をしてるんだ?! 死にたいのか!?」
「ち、違うのっ! か、勝手に身体が動いて……!」
あり得ない行動に怒声を上げるハジメ。
もちろん私たちの意志ではない。ティアナは動揺しながらも自分自身の行動に脳が処理できずにいるようだった。
「茨の棘はマニア様から与えられた狂愛。全身で受け止めてくださいまし」
「うぅあぁっ!? 茨が、身体に食い込んで……ッ!!」
レプシーの全身には
ティアナの呻き声を耳にしつつ打開策はないかと、視線をレプシーが持っている見開いた本へ向けた。
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皇女の器に 偽装者の新芽
振るう刃を 手放せば
優しさ忘れず 抱きしめるは茨姫
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(この文章は……)
レプシーが現れる前、同じような文言が別の本に書かれていた。
最初はただの詩人が書いた小説かと思ったが、その文言通りの事態が起きて私たちは今の状態となっている。
「そいつらを、放しやがれぇえッ!」
怪我の手当てが終わったのか、タケシは右肩をぶらんとさせた体勢でリボルバー銃をレプシーに向けて発砲する。
キィンッキィンッ──
「アナタ様、乱暴なのは嫌われますわよ?」
「おまえに嫌われようが知ったこっちゃねぇんだよ!」
だがレプシーは茨を巧みに操って弾丸をすべて弾き切った。
どれだけ発砲しようと
「ウフフ、荒っぽい言葉はワタクシ苦手ですの」
(血文字に、茨……)
レプシーが持った見開きの本に書かれているのは血文字。別の茨を操るとペン先から血液を滴らせ、何かを書き込もうとゆっくり本へ近づける。
「……! ハジメ、彼女の持っている本をっ……」
考察した結果、点と点が繋がった。
私は勘が鋭いハジメに本を狙うようにと指示を出す。彼は私の意図を汲み取ったようで、すぐさまタケシの方を見た。
「……そうか! タケシ、あの本を撃ち落とせ!」
「本を? まぁよく分かんねぇけど、やってやる!」
タケシが撃ち出した一発の弾丸。
狙いを定めた先はレプシーが持っている古ぼけた本。
「ウフフ、妥協ができない方だこと」
諦めが悪いという皮肉。
上品な言葉づかいで口走ると、身体を纏った茨で弾丸を薙ぎ払おうと試みた。だがタケシもそこまで馬鹿ではない。
ドスンッ──
「あらあら?」
タケシが所持する
茨と弾丸が触れ合う瞬間に発動することですり抜けさせ、レプシーが持っていた本を見事撃ち抜いた。その衝撃で本は床へ落下し、どろどろに溶けて消えてしまう。
「今だ二人共!」
身体が自由に動くようになった。
ハジメの呼びかけと同時に私たちは落とした刀剣をそれぞれ拾い上げ、
「今度は私の番だよッ!!」
「──ッ! ウフフッ……」
刀剣の
「ヘレン!」
「ああ」
そしてその茨を切断できるのは私だけだとティアナは考えた。だからこそ二発の打撃で狼狽えたレプシーに私はゼロ距離まで近づき、
「ウフフッ、ウフフフッ……」
「加減はしないぞ」
うすら笑いを浮かべるレプシーを斜めに斬り捨てる。
加護の力によって頑丈な茨ごとレプシーの肉体を斬り、真っ赤な鮮血が飛び散った。更に動術の鼓動を込めた一撃によって、あばら骨は小枝のように折れ、書庫の本棚を貫きながら吹き飛んでいく。
「ふぅ、危なかったね……」
「ああ、奇妙な人間だったな」
手応えからして間違いなく死んでいる。
運が良ければ致命傷で済んでいるだろうが、命が尽きるのも時間の問題だ。私とティアナが破壊された本棚を見上げていると、ハジメとタケシがこちらに近づいてくる。
「はぁ、何とかなって良かったね」
「ハジメ、君が私の意図を汲み取ってくれて助かった」
「いや、ヘレンさんの気付きがなかったら僕も予想できなかったよ。まさか『本に書いた通りの未来を実現できる力』だなんて」
そう、レプシーの奇怪な力。
それは本に記した未来を定められること。私とティアナの身体が勝手に動いたのは、本に書かれたことが原因だった。
「引っ掛かる箇所はいくつかあるんだが……」
「今は考えるのをよそう。どうせ答えは出ないよ」
「……それもそうだな」
なら本自体を狙えばその力を無効化できるんじゃないか。
確証がない分、半ば賭けに近かったが上手くいった。私はハジメに言われた通り、深く考えるのは止め、タケシとティアナの様子を見る。
「どうだぁ? おれの天才的な援護射撃は?」
「うん、おかげで助かったよ! それよりもタケシ、怪我は大丈夫なの?」
「へっ、これぐらいどうってこと──いっててぇ!?」
「無理して動かすなよタケシ! 本当に軽い処置しかしてないんだぞ!」
多少の怪我は負ったが何とか対処できた。ティアナは少しだけ安堵すると何かを思い出して、焦燥感に駆られた顔で私たちの方を見る。
「そうだ、早くここから出ようよ! 他の候補生たちが来る前に卒業試験を中止しないと!」
「ああ、間違いない。まずはグローリアに戻って──」
被害者を出す前に試験を中止しなければならない。
私は帰還するべきだと言いかけ、ふと自身の右手を見る。理由は液体で濡れていることに気が付いたからだ。
「どうしたの?」
「いや、些細なことだ」
右の手の平についたのは血液。
レプシーを斬ったときの返り血なのか、と一瞬だけ納得したけたのだが……どうも右ひじ辺りから血が流れているように思え、その部分を視認してみる。
「──怪我が、治っていない?」
見つけたのは茨のトゲによって負わされた切り傷。
その傷から血液がどんどん溢れてきていた。それは当然のことなのだが──私の肉体は加護の力で再生するはずだ。
「ヘレン、その怪我……」
ティアナも私の切り傷に気が付くと目を見開く。
普段ならば既に再生しているはずだ、と。
「ウフフッ、女神へメラから授かった加護はその程度ですの?」
「なっ、あの野郎生きて……!」
「それにどうして身体に掠り傷すら残ってないんだ……?」
その答え合わせをするように瓦礫の中から現れたのはレプシー。斬り捨てた茨はおろか、肉体の傷さえも完治させた状態で、微笑みながらこちらに向かって歩いてくる。
タケシとハジメは驚きに満ちた顔をしつつも臨戦態勢に入った。
「君はなぜ生きている?」
「ウフフッ、狂愛さえあればワタクシは──不死となれますもの」
そう言うと躊躇うこともせず、触手のような茨を自分の心臓に突き刺してみせる。当然だが真っ赤な鮮血は溢れるのだが、
「う、嘘っ……勝手に傷口が塞がって……」
「マ、マジかよ、あの野郎は死なねぇのか……?」
死を迎えることはなかった。
茨によって胸に空いた穴は瞬く間に塞がっていく。その光景を目の当たりにしたティアナたちは唖然とした表情を浮かべていた。
「そしてマニア様の
「君は加護の何を知って……?」
「ウフフフッ、
「──! なぜ知っている?」
私とティアナだけしか知らない加護と異神の情報。それを常識だと言わんばかりに微笑むと、身体に巻き付いた茨を椅子の形にして静かに腰を下ろす。
「だってワタクシたち黒薔薇の使徒は……アナタ様と同じ立場」
「君と私が同じ立場だと?」
「『加護』も『狂愛』も異神が生み出した力。たとえ名は違えど、根源に変わりないですもの」
茨姫レプシー。
茨の椅子に腰を下ろせば右脚を上にして足を組む。一切染みもなく毛すら生えていない両脚は、どこか
「黒薔薇の使徒は愛しきマニア様の
穏やかな語り口調で説明しつつ、持て余した茨を手繰り寄せペットのように愛で始めるレプシー。不気味なのは鋭利なトゲによって手の平が傷ついてるのにも関わらず、気にすることなく撫で続ける振る舞いだ。
「アナタ様もそう、女神へメラの
「……仮に君と私が同じだとしてだ。なぜ私たちを襲う?」
「ウフフフッ、それは愚問でしょうアナタ様」
そんな質問など馬鹿らしい。
そう言いたげに上品な笑い方を見せると綺麗な脚を組み直し、
「転生者を偽ったリンカーネーション。愛しきマニア様を苦しめ、ワタクシたちを迫害した人間たちに……素晴らしい復讐劇を果たすためですわ」
「壁から茨が……!」
「くそっ、逃げられないようにするつもりか……!?」
既に無数の茨を壁の裏に伝わせていたようで、逃走経路を遮断するため茨に囲われた牢獄を形成する。ティアナとハジメはすぐ出口を目指したが、間に合わず茨の壁に塞がれてしまう。
「そうでしょう──ワタクシの
次々に姿を現す人影。
数人、いや数十人の規模。子種と呼ばれたのは先ほど遭遇した化け物のことか、とよく人影を認識してみれば、
「えっ? アカデミーの、候補生たち?」
「……しかも僕らと同じ異世界転生者しかいない」
武装を持った候補生たちだった。
更に言えば異世界転生者ばかり。ハジメは眉をひそめて冷静に状況を分析し始める。
「おいおまえら、こいつは危険だぁ! 今すぐここから逃げろぉ!」
「「「……」」」
「あぁ? おい、おれの声が聞こえてねぇのか──」
逃げるよう呼びかけるタケシ。
しかし候補生たちはまったく動じずに持っていたリボルバー銃を取り出したため、私はタケシの元まで駆け寄ると、
「下がれ!」
パァンッ──
「うおぉっ!?!」
強引に突き飛ばした。
弾丸は私の左脚を容易く貫き、ポタッポタッと血が滴り落ちる。どうしてか傷は再生せず、ドスンッと片膝を突いた。
「ヘレン!」
「何をしているんだ君らはッ!? この子は吸血鬼じゃなくて人間だ!」
「「「……」」」
「何とか言えッ! 君らは人殺しをしようとしたんだぞ!」
怒りの感情を露わにしてそう叫ぶハジメ。
だがこちらに向けられるのは底辺の存在を見下している視線。ハジメは何も言わない候補生たちにもう一度だけ大声で叫ぼうとすれば、
「うるせぇな。俺たちはレプシー様についていくことにしたんだよ」
「はっ?」
「ごめんなさいねー。こっち側の方が面白いし、楽しめるのよー」
「そーだよそーだよ。せっかくの異世界、やっぱ最強のレプシー様といたほうが面白いしさー?」
ハジメを軽くあしらった。更にあしらうだけでなく、レプシーを
「君らは、君らは何を言ってるんだよッ!? あいつがしようとしているのは、人間を殺すことだぞ?!」
「それがどうしたんだよ?」
「どうしたって……。僕らは吸血鬼から人間を守るためにこの世界にいるんだ! それなのに、人間を殺そうとするやつの味方をするなんて──」
「それってあんたの中での
気怠そうに言葉を遮るのは茶髪の候補生。うざったらしそうに二階の手すりに身体を乗せ、ハジメのことを見下ろした。
「知ってるでしょ? 異世界は何でもアリだってこと」
「だけどッ……」
「私たちはね、成り上がりタイプの異世界が好きなの。人間にひどい目に遭わされた黒薔薇の使徒たちが、最強の力で人間たちにざまぁするみたいな?」
「そーそー! ざまぁ系って呼んでてスカッとするから好きなんだよねー!」
歯軋りするハジメ。
呆れて何も言えない。こいつらは全員狂ってる。怒りと失望が滲んだ表情を浮かべ、何とか落ち着いた声色でタケシの方を見る。
「……タケシ」
「ああ、分かってんぜ」
呼びかけでハジメの隣に立つタケシ。二人は膝を突いた私と隣で立ち尽くしているティアナを真剣な眼差しで見つめる。
「ヘレンさん、ティアナさん、僕らが時間を稼ぐ。その間に逃げてくれ」
「茨で塞がれて逃げられないんじゃ……」
「この下には地下の書庫がある。幸いなことに床は塞がれていないから、タケシの能力で君らを逃がすよ」
タケシの能力は床の実体をなくせる。
その力を利用すれば私たち二人だけを下の階まですり抜けさせ、逃がすことができると言いたいのだろう。
「しかし君たちは……」
「僕らは大丈夫さ」
「ああ、おれとハジメがんなしょうもねぇやつらに負けるわけがねぇ」
余裕の笑みを浮かべる二人。だがその余裕の笑みは決して本心ではない。作っているものだと私とティアナはすぐに悟った。
「逃げきれたらグローリアに戻ってこの事態を報告してくれ」
「……また、また会えるよね?」
「がははっ、あたりめぇだろうが!」
タケシがその場にしゃがみ込む。
幸運なことにレプシーは私たちがどのような行動を起こすか予測できておらず、ただ勝ち誇った笑みで傍観しているだけ。
「ヘレンさん、ティアナさん」
「……何だ?」
「短い間だったけど、君らと一緒にいられてとても楽しかった」
ハジメが吐露したのは本心。しみじみとそう思っているのだろう、と見て取れるほどまでに表情は和やかなものだ。
「それとごめんね。ああいうクソみたいなやつらに代わって、僕が君らに謝るよ」
「ううん、ハジメが謝る必要は──」
「どうか異世界転生者を嫌いにならないであげてほしい。僕らのように、分かり合える異世界転生者だって絶対にいるから」
異世界転生者を嫌いにならないで。
心の底からそう願うハジメの言葉。しばらく無言のまま私たちを見つめた後、ゆっくりとこちらに背を向け、
「タケシ」
「ああ、じゃあなおまえら!」
掛け声と共に私たちの身体は床をすり抜けて、薄暗い地下室へ自由落下を始めた。
────────────────────
「パチパチパチっ、アナタ様方は頭が回りますのね」
わざとらしい拍手で二人を褒め称えるレプシー。ハジメとタケシと大きく深呼吸をすると覚悟を決めて、二歩三歩とレプシーに向かって歩き出した。
「へっ、おまえは頭がまわんねぇんだなぁ?」
「おいてめぇ、レプシー様になんてことっ!」
「うるせぇんだよ脳無し共がぁ!」
罵詈雑言に対して大声で威嚇するタケシ。
レプシーは両手で耳を塞いだ後、茨の触手で一冊の本を見開きで見せつけた。
「こちらをご覧になって」
「その本は……何だ?」
「ウフフ、本当に覚えがありませんの?」
見開きの本。
そのページをゆっくりと捲れば、記されているのは生徒たちの名前の数々。
「まさか、卒業試験のサイン!? なんで君が持って……!」
「さあ、どうしてでしょう?」
卒業試験を受けるためのサインが記された本。
どうして持っているのか、とハジメが声を上げれば壁を覆った茨からツボミが生え、
「ぶひひっ、レプシーちゃんっ! ボクがたぁっぷり可愛がってあげるからねぇ!」
「カルロ先生ッ!?」
「ちッ、そういうことかよ! あの
茨によって包み込まれたカルロが現れる。いかがわしい夢でも見ているのか、気色の悪い寝言を何度も口から出していた。
「この方はワタクシのためにせぇ~いっぱい働いてくれましたわ。なので約束通り、予知夢を差し上げましたのよ」
「そうか! カルロ先生がアカデミーであの本を……!」
「そしてワタクシの狂愛は『本に名前を書いた者の運命を自由に調整』できますの」
何かに気が付き、目を見開く二人。
タケシは怪我を負った右腕を押さえながら、一歩だけ前に足を踏み出してこう問い詰める。
「待てよ、んじゃああいつらは!」
「ウフフッ、ご想像の通り……ワタクシの子種となる運命を辿らせてあげますのよ」
「くっ、寝返ったんじゃなくて操られているってことか!」
自分の意志ではなくレプシーの力で操られているだけ。その真実を知ったタケシとハジメはすぐさまレプシーを止めようと武装に手をかけた。
「ウフフフッ」
「何を笑って……」
「他人事、だと良いですわね」
ペラッと何度かページを捲るレプシーの姿。
他人事だと、自分には関係のない話だ、と思い込んでいた二人は一瞬だけ思考を張り巡らせ、
「タケシ、僕を殺せッ──あっくぅ!?」
「か、らだが、動かねぇッ……!!」
互いに自害しようと試みた。
そう、自分たちも名前を書いてしまっているのだ。しかし判断が遅かったことで、身体の動きが鈍くなると同時に脳が焼けるように熱くなっていく。
「ウフフフッ、ウッフフフッ」
「あっ、ぐぁあぁああっ……!?」
「詰んでいましたのよ、最初から」
レプシーが持つ本には卒業試験に参加する者の名前がすべて書いてある。それはつまり、ハジメとタケシもまた同じ運命を辿るのを意味した。
「あががっ、頭が、焼けてッ……」
「素晴らしい感覚だと思いませんこと? 運命が夢に浸食される感覚は」
「二人にッ……伝え、ないとッ……!」
「でも安心なさって。後悔も正義も掲げた夢も──」
人間を守りたいという想いは、人間を蹂躙するという快楽的欲求に変わる。貫いていた正義は一度反転してしまう。
二人は自分が自分でなくなる感覚と共に、
「──すぐに消えてしまいますもの」
「ティアナさんッ、ヘレンさんッ、ごめ、んッ」
あらゆる