ЯeinCarnation   作:酉鳥

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第32話『vs 茨姫レプシーB』

「タケシ、ハジメ……」

 

 暗闇に閉ざされた地下の書庫。

 ランプの灯りを頼りに私たちは地上へ戻るための階段を探していた。その最中、ティアナは表情を曇らせて二人の名前をぽつんと呟く。

 

「ティアナ、彼らを信じよう」

「ヘレン……」

「今はグローリアへ帰還し、アカデミーへ報告することだけを考えるんだ。他の犠牲者が生まれないようにな」

「うん、そうだよね。……よし、早く出口を探そっ!」  

 

 眠り姫の書庫に向かっている候補生たちは何も知らない。

 もし立ち入ればレプシーたちの襲撃を受け、被害が広がってしまうだろう。最悪の事態を避けるためのカギは、何とか逃れられた私たち二人だ。

 

「そういえばヘレン、怪我は大丈夫?」

「ああ、問題ない」

 

 先ほどまで機能しなかった不滅(ふめつ)の加護。なぜか今は力を取り戻し、撃ち抜かれた左脚や切り傷を負った右腕は完治していた。

 

「どうしてさっきは治らなかったのかな……?」

「恐らくレプシーが口にしていた『狂愛』が原因だ」

 

 今と先ほどとで違う点があるとすれば、レプシーがそばにいるかいないか。踏まえればマニアから与えられたとされる『狂愛』に原因がある。

 

「確かあの人、『狂愛の根源は異神から』とか言ってたよね」

「その話が真実だとすれば……へメラの加護は狂愛によって抑制されたのかもしれない」

「抑制されたって?」

 

 狂愛と加護の関係性から導かれたとある仮説。私は薄暗い廊下を慎重に歩く最中、隣で首を傾げるティアナへ自身の考えをこう伝える。

 

「あの時、レプシーが茨で書庫全体を覆いつくしたのは何故だと思う」

「えっと、逃げられないようにするためじゃないかな」

「勿論その可能性もある。だがもし本当の理由が──茨で私の加護を抑え込むためだったとしたら?」

 

 かすかに遠方に見える地上へ続く階段。

 私とティアナは辺りを注意深く観察した後、少し離れた場所で足を止める。

 

「じゃあレプシーはヘレンの加護を警戒してたってこと?」

「ああ、もっと言うなら下準備をしないと加護を抑制できないだろう」

「ん~、つまり……?」

「私たちにも勝機はあるということだ」

 

 茨で書庫全体を覆いつくしたのは逃走経路を遮断するためじゃない。狂愛と呼ばれる力を纏わせた茨の鳥かごを作り、私を弱体化させるためだった。

 憶測を聞いたティアナは「そっか」と納得する素振りを見せつつも、どうしてか不安げな顔で私のことを見つめてくる。 

 

「どうした?」

「ヘレン、また独りで戦おうとか……流石に思ってないよね?」

 

 脳裏を過るのは足切り沼での一件。

 私はあの時、ティアナたちを先に逃がしミザリーと独りで交戦した。どうやら私が無理をするんじゃないか、と不安に思っているらしい。

 

「安心してくれ。もう先走ったりしない」

「ほんとのほんとに?」

「本当の本当にだ。今もこれからもずっと一緒にいる」

 

 私は疑心暗鬼のティアナを安心させるように優しい笑みを見せる。しばらくじーっと私の顔を見つめていたが、

 

「じゃあ、ヘレンを信じる」

「ああ、信じてくれ」

 

 やっとのことで信用し、いつもの可愛らしい笑顔を浮かべた。この笑顔をいつでも見ていたいと、守り続けたいと私の頬は自然と緩む。

 

「……行こうティアナ」

「うん、早くグローリアに戻らないとっ!」

 

 私たちは先ほど見つけた階段を一段ずつ上がり始める。ハジメたちは生きているのか、レプシーに回り込まれていないか、様々なことを考えながら一階の書庫へ踏み入れる。

 

「良かった。誰もいないみたいだね」

「だが警戒を怠るな。レプシーがいつ現れるかは分からないからな」

 

 奇妙な静けさ。

 恐らく最初に書庫へ来た時と何も変わらない静けさだ。しかしレプシーの存在が脳内の片隅に置かれているだけで、同じ静寂も異様な静寂だと誤認識してしまう。

 

「ここは東棟か」

「ん~っと、出口はこっちじゃないかな?」

「……? あの窓を壊して出ればいいだろう」

「あっ、それもそっか」

 

 わざわざ出口を目指す必要はない。私とティアナは動術の機動を使って本棚の上へ飛び乗り、天窓を突き破りながら屋上へと華麗に着地する。

 

「悪いことしてるみたいで心が痛いけど、今は緊急時だから仕方ないよね」

「……優等生はガラスのように繊細(せんさい)だな」

「むっ? もしかして私のことからかってる?」

「褒めたつもりだが」

 

 やや頬を膨らませたティアナ。

 私はテキトーな嘘をついてから逃げるように建物の屋上を歩く。幸運なことに月明りのおかげで、向かうべき方角をきちんと視認できた。

 

「念のため、あんまり音を立てずに行こっか」

「ああ、賛成だ」

 

 動術の一種である静動。

 あらゆる動作音を消し去ってくれる隠密に長けた動術だ。刀剣の鞘が鳴らす金属音も制服の布が擦れ合う音も何一つ聞こえない。

 私とティアナは眠り姫の書庫の中央棟を目指し、口を閉ざしたまま軽く小走りで向かう。

 

 ドスッドスンッ──

「……っ! ティアナ、音を立てるな」

「ヘレンこそ、音を立てないでよっ……!」

 

 屋上の床から聞こえる低音。

 私たちはお互いに「静動を解除してしまったのだ」と立ち止まって顔を見合わせる。だが互いにミスしたことを自覚していない。

 

「ヘレンじゃないの……?」

「君の音じゃないなら、今のは──」

 

 そう言いかけた瞬間、屋上が左右に大きく揺れる。私たちは嫌な予感がし、後方へと振り返ってみれば、

 

 ドガァアァァンッ──

「「シュルシュルッ……」」

「レプシーの茨……!?」

「ティアナ、走れ!」

 

 何本もの茨が屋根を突き破ってきた。私はティアナの背中を急いで押すと、すぐさまその場から全速力で駆け出す。

 

「シュルルルッ、シュルッ……」

「うそ、前にも出てきた!」

「このまま突っ切るぞ」

 

 屋根を突き破り、私たちの前に立ち塞がるのは無数の茨。足を止めるわけにもいかないため、各々刀剣を鞘から引き抜いて走る速度を上げる。

 

「シュルッ、シュルルルッ!!」

 キィンッ──

「──ッ! 危なかった……っ!」

 

 身体を回転させ、向かってくる茨を刀剣で受け流し、茨と茨の隙間を潜り抜けるティアナ。対して私はすべての茨を斬り裂き、並列で走っていたのだが、

 

(ティアナを、狙っているのか?) 

 

 どうも茨の動きが妙だった。「お前を狙っている」と言わんばかりに、茨の矛先の大半がティアナへと向かっていたのだ。

 

「「シュルン、シュルルッ!」」

「はぁはぁっ、まだ来るのっ!?」 

「後少しの辛抱だ!」

 

 止まる気配のない茨の猛攻。

 だがグローリアへ繋がる小屋まで後少しの距離だ。私は疲れが垣間見えるティアナを鼓舞し、突っ切ろうと刀剣を構えた……その瞬間、

 

「きゃあっ!?」

「ティアナ!」

 

 右足首に茨が巻き付いたようでティアナは前のめりに転んでしまう。その隙を逃すまいと周囲の茨が一斉にティアナを取り囲んだ。

 

「やはり狙われていたか」

「ヘレン、こっちに来たらダメ……!」

 

 私は振り返るとティアナの元まで駆け出す。ティアナは「来るな」と叫んでいたが、唯一無二の親友を置いていくことなどできるはずもない。

 

「違うのヘレン!」

「何が……」

「狙われているのは──ヘレンの方だよ!」

 

 ティアナに近づいた瞬間、水面下で待ち構えていた茨が花弁のように屋根を突き破る。更にティアナを取り囲んだ茨も私へ向かってきた。

 

 ギチギチッ──

「っ……!」

「ヘレン!」

 

 至る箇所に纏わりつくと全身を締め上げる茨。

 私にとってティアナはかけがえのない存在だとレプシーは分かっていた。分かっていたからこそ、ティアナをエサにして私を誘き出したのだ。

 

(引きずり込まれるっ……)

「ヘレンーーッ!!」

 

 茨によって建物内へと引きずり込まれ、ティアナは私の名を腹の底から叫ぶ。穴が空いた屋根は何重にもなった茨で塞がれ、

 

「あらあら、アナタ様……またお会いできて光栄ですわ」

「レプシー……」

「素晴らしいおもてなしだったでしょう?」

 

 落下した先は茨の塊に覆いつくされた書庫。

 今度は逃げられないように、と床にまで張り巡らせている。私は茨の椅子に腰を下ろすレプシーを視界に捉え、身体に纏わりつく茨を素手で千切り捨てた。 

 

「これがおもてなしか?」

「ウフフッ、強引なのがお好きかと思いまして」

 

 災厄の芽は先に摘んでおく。

 レプシーが私を狙った理由はいずれ脅威となるから。閉鎖空間に引きずり込んだということは、この場で決着を付けようとしているのだろう。

 

「最初に会った時、黒薔薇の使徒は人類を憎んでいると言っていたが……君自身も人類を憎んでいるのか?」

「勿論ですわ。ワタクシは薄汚れた書庫に幽閉されていた──正真正銘の眠り姫ですもの」

「待て、君は逸話にある眠り姫本人なのか?」

 

 眠り姫を自称するレプシー。逸話にある眠り姫は故人だと思い込んでいた私は、驚きのあまり思わず眉をひそめた。

 

「ウフフフッ、そうですわよ。ワタクシはアナタ様方が知る……予知夢の王女、逸話の眠り姫」

「眠り姫の話は百年以上前のことだ。生きているはずが──」

「代償」

「……何?」

 

 たった一言そう述べるレプシー。

 私は『代償』という単語の意味が理解できず、疑念を抱きつつ聞き返した。

 

「マニア様から狂愛の欠片を授かる為に必要な代償──それは人間性の欠片」

「人間性の欠片だと?」

「ワタクシが捧げた人間性は『脳』。何十年、何百年と目が覚めず、ついこの間まで延々と夢の中に囚われ続けていましたわ」

 

 レプシーは何百年も眠っていたと語るが、普通ならばあり得ない話だ。歳も取らず、肉体も腐らず、時の流れの影響を受けずに生きていたなんて。 

 

「そしてついに目覚めましたのよ」

 

 壁の隅に作られた茨の塊がもぞもぞと(うごめ)くと、一本一本が触手となり私に対してその鋭利なペン先を向ける。

 

「ワタクシの中に眠る狂愛──『残夢(ざんむ)の呪印』が」

 

 右頬に浮かび上がる本とペン先が組み合わさった黒の紋章。

 輪郭は黒い薔薇を彷彿とさせるが、どこかその紋章は私たちリンカーネーションという組織を象徴する紋章とやや似ているように感じた。

 

「ワタクシをありとあらゆる薬を与え、道具のように眠らせた人間たち。ワタクシをこの薄汚い書庫に幽閉した人間たち」

 

 眠り姫の逸話。

 考えてみればおかしい話だった。この量の予知夢を記録し続けるには、人生の大半を眠りに捧げなければならない。そんな過酷な所業を自ら成す必要も勿論ないだろう。

 

(人類の英知とされる眠り姫は……人間たちに利用されていたのか)

 

 だからこそ課せられていた。

 この書庫へ幽閉されて、人間たちに睡眠薬などを投与され、ひたすら夢を見せられ続けてきた。現実なのか夢なのか、気が狂いそうな状態で生かされてきたのだ。

 

「人間たちがワタクシの定めた運命がままに死んでいく……その様を想像するだけで、ああ、ゾクゾクしてきますわね」

「レプシー、君は……」

「愛しきマニア様、かつてアナタ様がお会いした眠り姫は……」

 

 彼女に同情出来るかもしれない。

 だが眠り姫が求めているのは同情ではないだろう。

 

「復讐を告げる茨姫となりますわ」

 

 渇望するのは人間たちが悶え苦しむ姿。

 レプシーは茨の椅子から立ち上がると自身の周囲に茨の触手を集合させる。そして自身へ向けさせるのはペン先のような先端。

 

「ウフフッ、ご覧になってマニア様。人間たちの血液はこんなにも穢れてますの。とても気分が悪いですわ」

 

 先端から噴き出すのは真っ赤な血液。

 人間たちから大量に吸血したのか、すべての茨から凄まじい勢いで噴射していた。レプシーは血を全身で浴びながらも、どこか愉悦に浸る笑みで顔を上げる。 

 

「君は一体何をして……」

「さあ、狂愛と人間たちの血肉を(にえ)に──」

 

 すると徐々に赤い血液が黒ずみ、インクのようにドロドロした液体に変わり始めた。レプシーの全身を黒く染め上げ、素肌と顔が埋もれ、

 

「──『黒薔薇の開花』を始めましょう」

 

 そう告げると姿が完全に見えなくなってしまった。

 視線の先に映るのは黒のインクによって模られた薔薇のつぼみ。私はその奇怪な光景を眺めることしかできない。

 

(止めなければならない。だが……) 

 

 レプシーごとつぼみを斬り捨てようとも考えた。

 だが第六感はこのまま傍観すべきだと警告をする。手出しをすれば間違いなく、自分の命を捨てることになると。

 

「黒い薔薇は今ここで──」

 

 レプシーの声と共にゆっくりと開花を始めるツボミ。一枚ずつ黒の花弁が捲られ、私の視界に映ったもの。 

 

「──可憐に咲き誇りますわ」

 

 それは黒い茨の模様が全身の肌に浮き出たレプシー。

 真っ赤な髪色は黒く染まり、燃えるような瞳孔は黒くにじんでいく。何よりも不気味なのは肌の下で蠢くようにして、茨の模様から黒い薔薇の模様を咲かせていく様。

 

(彼女は危険だっ……)

 

 口の中にこもる濁った空気。鼻元まで漂う薔薇の香り。聞こえてくるドロドロとした液体が滴る音。黒い薔薇となったレプシーの可憐な姿。呪印と呼ばれる力による威圧感。 

 五感ごとの感覚があまりにもかけ離れており、私は思わず後退りをしてしまう。

 

「怖がらないでくださいまし」

「──ッ!」

 

 背後から聞こえてくるレプシーの声。私は耳元でそう(ささや)かれた瞬間、振り返りざまに刀剣で斬りかかろうと試みた。

 

 キィイィンッ──

「……っ! 刃が、通らない?」

 

 だが漂っていた茨によって受け止められる。

 さっきまでは容易く斬れたはずだ。それなのに一ミリたりとも刃が通らない。

 

「ウフフッ、お返しですわ」

「ぐうぅッ──?!!」

 

 刹那、漂う茨が左斜めに捉えきれない速度で私の身体をなぞった。たったそれだけの動作で左肩から右脇腹にかけて斬り裂かれ、軽々と吹き飛ばされる。

 

「シュルシュルッ……」

(茨にぶつかるのはまずいッ!)

 

 このまま地面を転がり続ければ、私を待ち構えた茨の塊へと衝突してしまう。それだけは避けなければならない、と床を浸食している茨を掴んで堪えてみせた。

 

「……っ!」 

 

 右手に突き刺さる茨のトゲ。

 微かに感じる痛み。私はすぐに脳が理解した。

 

(へメラの加護が──封じられているのか)

 

 捉えきれなくなったレプシーの動き。再生しない斬り裂かれた肉体。感じるはずのない鋭い痛み。恐らく加護が呪印に押し負けているのだろう。

 

(……これが痛みなのか)

 

 生まれた時から加護のせいで痛みがよく分からなかった。だから吸血鬼と戦うことを怖がる人間の気持ちも分からないまま。ただの臆病者だと心のどこかで決めつけていた。

 

(今なら、気持ちが分かるな)

 

 痛みは思考を惑わせる。

 痛みは自分自身を臆病にする。震えてしまいそうなほどの恐怖も抱きかねない。

 

「あらあら、どうなさいましたの?」

「君をどう倒そうか考えていただけだ」

「ウフフフッ、可愛らしい見栄だこと」

 

 レプシーは私が動揺していることに気が付いているようで、動物の赤子でも眺めるような視線を向けてきた。

 私は深呼吸をするとゆっくり立ち上がり、落ちていた白の刀剣を拾い上げる。 

 

「今のアナタ様は『()を抜かれた獣』のようですわ」

「残された()が脅威にならないとでも?」

「ウフフッ、たかが動術ですもの」

 

 たとえ牙を抜かれても戦わなければならない。初めて感じる痛みで己を奮い立たせ、レプシーと死闘への第一歩を踏み出そうとしたとき、

 

「ヘレンさん!」

「──! 君たちは……」

「おいおい、ボロボロじゃねぇか?」

 

 ハジメとタケシが二階から姿を現した。私は彼らが無事だったことへの喜びと、独りで戦わなくてもいい安心感で少しだけ緊張がほぐれる。

 

「君たちが生きていてくれて良かった」

「へっ、んな簡単におれらは死なねぇよ!」

「そうさ。僕らも作戦が無かったわけじゃないからね」

 

 レプシーと初めて会った時、異世界転生者だけが持つ奇妙な力は封じ込めていなかった。これらを踏まえれば、レプシーへの決定的な一打を与えるためのカギはハジメたちが握っている。

 

「ウフフッ、ウッフフフフ……」

「注意しろ二人共。レプシーは呪印と呼ばれる力を開花させたらしい」 

 

 しかしレプシーは不気味に微笑むだけ。

 たかが二人増えたところで何も変わらないという憐れみなのか。私はハジメたちに背を向けた状態で眉をひそめ、

 

「ああ、知ってるよ」

「なんたっておれらは」

 

 その微笑みが私にではなく、ハジメたちへ向けられているのだと気が付いた時には、

 

「レプシー様の味方だからなぁ!」

「がはッ……?!」

 

 背中に鋭い痛みが走り、前のめりに倒れていた。

 何が起きたのかと背後へ顔を動かせば、刀剣を血で濡らしたタケシが立っている。私は斬り付けられたのだとすぐに理解が及んだ。

 

「どうしてっ、私を……」

 パァンッパァンッ──

「あッ、ぐぁあッ!?」

 

 ハジメは躊躇(ためら)いもせず、リボルバー銃で私の両脚を撃ち抜く。間髪入れずに痛みを何重にも与えられ、歯軋りしながら顔を歪めた。

 

「おらぁッ、どうだぁ!?」

「ごふっ、がはっ……!?」

 

 身動きが取れない私はタケシに何度も脇腹を蹴られる。皮膚が裂けた傷口を敢えて狙っているのか、蹴られる度に声を上げてしまった。

 

「お~らよぉ!」

「シュルシュルシュルッ」

「あっ、くっ、はなせッ……けほっ、ごほっ」

 

 軽々と投げられた先は茨の塊。

 私の四肢を拘束するように巻き付き、トゲを皮膚に食い込ませた。首元へ巻き付いた茨は酸素が脳にいかないよう軽く締め上げてくる。

 

「なんで、こんなことをっ? 私たちは、仲間だったはず……」

「はははっ、違うよヘレンさん。僕らは君の仲間を装ってただけさ」

「装って、いた……?」

 

 ゴミを見るような視線を送ってきたハジメ。彼は茨に縛り上げられた私のそばまで近づくと、ほくそ笑みながら見上げてくる。

 

「グローリアで最も厄介な敵は君だ。加護を与えられ、最強になった君にかなう相手なんてどこにもいない。だから……」

「──! まさかレプシーの命令で、私をここにっ!」

「そうさ、すべてはレプシー様のため! 君はまんまと引っ掛かって、こんな(てい)たらく晒してるってわけ!」

 

 タケシとハジメは共犯。不死の私を殺すためにレプシーが有利になる書庫へ誘導した。すべては最初から仕組まれていたのだ。

 私が茨に拘束されたことで、隠れていた他の異世界転生者がぞろぞろと書庫の至る箇所から姿を現し、蔑む視線を私へ浴びせてくる。

 

「だったらなぜティアナも巻き込んだ? 彼女は無関係だろう……!」

「ウフフッ、それは本人に聞いてはいかが」

 

 レプシーが視線を移した方角は中央入り口側。

 壁を覆っていたはずの茨は、来客を迎えるためのゲートとなっている。そしてそこにぽつんと立っていたのは、

 

「……ヘレン」

「ティアナ?」

 

 グローリアへ帰還したはずのティアナ・イザードだった。

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