ЯeinCarnation   作:酉鳥

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第37話『皇女と十戒』

 

 私がグローリアを治める皇女となってから数ヵ月が経過した。

 もちろん平和な日々が訪れることも、何の事態が起きないなんてこともあり得ない。なぜならグローリアを混乱に招いた出来事があったからだ。

 

「無事でいてくれ……!」

 

 あれは今でも覚えている。

 両親や十戒がロストベアへ旅立ってから一ヵ月後ぐらいだったか。向こうから何の音沙汰もないため、不安を募らせていた私の耳に飛び込んだ報告。

 

「カミル!」 

 

 同伴したカミルの帰還報告。

 私はすぐさま第四病棟へと向かい、カミルの病室へと駆け込んだ。中にいたのは白衣を身に着けたエリザと、椅子に腰を下ろしているジーノ。 

 

「二人共、カミルの容態は……?!」

「命に別条はないわ。しばらく安静にしていれば目を覚ますはずよ」

 

 二人は私に教えてくれた。

 イーストテーゼの正門前に青色のローブをまとった女性が現れ、両手に抱えていたカミルを門番に引き渡したと。

 

「青いフードを被った女性がカミルを……」

「ええ、そうみたいね。名前を聞いても『名乗るほどでもないわ』とだけ言って、どこかへ立ち去ったらしいわ」

「……その後は、君たちが担当していたのか?」

「うん、そうだよ。エリザさんはカミルくんの身体面を、僕は精神面をケアするためにね」

 

 カミルを助けた奇妙な女性。

 少しだけ引っ掛かるところがあったが、今はカミルのことが最優先だ。私は病室の扉を閉めてから、カミルが眠っているベッドのそばまで歩み寄ると、

 

「ぐっうっ、ここは……?」 

「──! カミル!」

 

 カミルがゆっくりと瞼を開いた。

 私が彼の名前を呼ぶと、エリザが間に割って入ってカミルの顔を覗き込む。

 

「私の指は何本かしら?」

「……三だ」

「自分の名前を言ってみてもらえる?」

「カミル、ブレイン……」

 

 意識を取り戻したばかりのカミルと軽い対話をすると、エリザは「大丈夫そうね」とクリップボードを手に取って記録を始めた。

 

「ここは、グローリアか?」

「サウスアガペーの第四病棟よ。あなたはここまで運ばれてきたの。無事で良かったわ──」

「いいわけねぇだろうがッ……!」

 

 急に声を荒げるカミル。

 エリザと私が呆然としているとジーノだけは冷静に彼の右手首を握った。

 

「カミルくん、少しだけ深呼吸をしてみよっか。ゆっくりと鼻で息を吸って、ゆっくりと口で息を吐いてみて」

 

 不思議なことに強張っていたカミルの顔は落ち着きを取り戻す。そして言われるがままに深呼吸を何回か繰り返し、平常心を取り戻したのか静かに俯いた。

 

「……すまねぇ、取り乱した」

「大丈夫だよ。自分のペースでいいから、少しずつ何があったのか話してみて」

 

 カミルの右手から自身の手を離し、優しく語り掛けるジーノ。

 しかしカミルはまったく顔を上げず、ジーノと視線を交わそうともせず、俯いたまま口を開いたり閉じたりをし、

 

「死んだ」

「……死んだっていうのは、誰がかな?」

「全員だ。全員、死んだ。十戒も、エゴンもディアナも」

 

 拳に力を込め、絶望に満ちた声で私たちにそう報告した。エリザも私も、ジーノですらもその報告に顔を青ざめ、言葉が何も浮かび上がってこない。

 

「俺は、逃がされた。公爵共の情報をグローリアに持ち帰れって命令されて」

「「「……」」」

「何の、何の役にも立てねぇままっ、一人だけ、生き残っちまった……」

 

 自分の不甲斐なさに涙を流すカミル。

 病室に漂い始めるとてつもなく重い空気。私は父上と母上が戦死した事実を突きつけられ、ぐらぐらと眩暈がし、思わず両膝を突きそうになったが、

 

「……それでも、君は生き残ってくれた」

 

 すべてを胸中に抑え込み、カミルの左手を自身の両手で包み込む。彼は涙の粒を頬に伝わせつつも、私の方へと顔を向けた。

 

「君が帰ってきてくれて、私は嬉しい」

「ヘレン、お前……」

「おかえり、カミル」

 

 けれど涙は抑えきれない。

 私は両親を失った悲しみの感情を、カミルが帰ってきてくれた喜びに無理やり変え、涙を流しながらカミルにそんな言葉をかける。

 

「……すまねぇ、ヘレン」

「謝らなくていい。今はゆっくり休んでくれ」

 

 その日──グローリアは十戒を、私は両親を失った。

 この一件はすぐさまリンカーネーションやグローリアの民衆たちの耳へ届き、哀しみの声、怒りの声、楽観視する声、様々な声が混在する時期が到来する。

 

「め、女神像の下にこんな階段があるなんて……我が主も流石に知りませんでした」

「ああ驚いたぜこりゃあ。一体どうなってんだ?」

 

 そのため、私はすぐさま招集をかけた。

 もちろん対象はリパ島へと共に赴いた仲間たち。女神像の下に隠された階段を下りながら、フローラとパーシーは表情を険しくさせている。

 

「ヘレン、私たちをどこへ連れていくつもりですか?」

「女神へメラの元だ」

「……冗談よね?」

「本気だ」

 

 エリザとティアは互いに顔を見合わせ、私の気でも狂ったのかと疑心暗鬼の状態。それもそのはずだろう。女神へメラとは神であり偶像でもある。そんなものと会わせるなんて言葉、簡単に信用してはくれない。

 

「……ここ、森の中?」

「我々をどこへ連れてきたのかねヘレン殿? 地下室とは思えん景色が広がっているぞ」

 

 地下室に広がるのは森林と遺跡の残骸。

 ルーナとエレナは信じられないといった顔で辺りを見渡した。私は脳の理解が追いついていない彼女たちを奥へと連れていき、

 

「あそこにいるのって……女の子、だよね?」

「ああ、少女だと結論付けられるが……どうも異様だ」

 

 小鳥やリスと戯れている少女へメラと面会させた。

 ジーノとニコラスは少女の姿を見るなり、その身体から放っている異様な違和感に気が付き、眉をひそめつつも観察を始める。

 

「あの子が昼の女神へメラだ」

「へ、へメラ様!? で、ではあの子が我が主ってことですか?!」

「ははっ、落ち着けってフローラっち。今のはヘレンっちのグレートなジョークだぜ」

 

 驚きの声を上げるフローラ。

 しかしレクスは冗談を言っているのだと信じてはくれない。私は「仕方がない」とへメラの元まで静かに歩み寄る。

 

「あれ、いらっしゃい~。あなたたちは~?」

「私はヘレン・アーネット。君から加護を貰った人間だ」

「ヘレン、白い髪の人、キラキラしてる人……。えっと、ちょっと待っててね」

 

 こちらから名乗るとへメラは分厚い本を何冊か手に取り、私のことを思い出すためペラペラとページを捲り始めた。

 そんなへメラの頭に飛び乗るのは一匹のアライグマ。

 

「キュッキュッ!」

「キャップ、君は元気そうだな」

 

 アライグマのキャップ。

 廃村で保護した後、彼とは人魚の沼ではぐれてしまった。だが私やティアナの匂いを嗅ぎつけたのか、グローリアまでやってきたらしい。

 そして街中を彷徨っているところを私が見つけて再度保護をし、動物が過ごしやすいへメラの元へ連れてきた……というのが経緯。

 

(やはりキャップはへメラに触れる……。どういう原理だろうか?)

 

 キャップはへメラの頭へしがみついている。

 それはへメラの実体を掴んでいるということ。私は無言で見つめた後、右手を少女の頭に近づけ、

 

「触れない、か……」

「へ、へぇええぇッーー!? す、すり抜けちゃいましたよっ!?」

「ええ、向こう側まで貫通しています……」

 

 触れない身体に右腕を突っ込んだ。

 もちろん実体は触れず、右手は虚栄を貫くだけ。その光景を目の当たりにしたフローラは大きな声を上げ、ティアは顔に付けている狐の面をずらし、見間違いではないかと何度も確認する。

 

「……これで彼女がへメラだと信用してくれたか?」

「こりゃあどういうことだ? おじさん、状況が理解できなくて頭が破裂しちまいそうだぜ」

「ヘレン、一から説明してちょうだい。女神へメラ様は一体何なのよ?」

 

 エリザにそう問われた私は知っていることをすべて話した。

 女神へメラは実在し、私たちを守ることが使命であると。記憶は二十四時間で消えてしまうと。十戒に与えられる加護は全部この子が管理していると。

 

「本物の、女神様……ほんとに?」

「私も未だに信じられないのだよ。神が人の前に姿を見せることがあるのかね?」

「ルーナさん、エレナさん。今は信じるしかないと思うよ。ヘレンさんが嘘をついていないし、あんなものを見せられたら疑う余地もないから」

 

 ルーナとエレナは未だに半信半疑。

 だがジーノは私の言葉とへメラの存在を信じてくれたようで、二人の説得を始めた。その間にへメラは数冊の本から記録を見つけたらしく「あっ」と声を上げた。

 

「え~~っと、ヘレンかな? ここに書いてある日記だと、一ヵ月ぶりぐらいだね」

「ああ、なかなか顔を出せなくてな」

「前はお友達のお話をたっくさ~んしたみたい。ティアナって女の子と仲が良かったんだよね?」

 

 へメラはティアナが死んだことを知らない。私は悪気のない純粋な笑顔をへメラから向けられ、自然とぎこちない笑みを浮かべてしまう。

 

「すまないへメラ。彼女は、死んでしまったんだ」

「ふーん、そっかぁ……。お友達、死んじゃったんだね」

 

 ティアナの死を聞いたへメラは同情もせず、表情の揺らぎも見せなかった。彼女の反応を例えるなら「よくあること」で済ませている。

 その関心のない返答によって、こちらを眺めていたエリザたちも少女が「人間ではない」と感じさせた。

 

「ヘレン、そろそろ教えてくれ。君が僕らをここに連れてきた理由を」

 

 私のそばまで近づいてくるニコラスたち。彼からそう問われた私はへメラに背を向け、こちらを見つめてくる仲間たちへこう告げる。

 

「頼みたいことがあるんだ」

「頼みたいこと、ですか?」

「ああ、君たちに託したい──十戒としての責務を」

 

 十戒としての責務を託す。

 それは次の十戒に自分たちが選ばれたことを意味する。私が懐から宝石を削って作られた九つの十字架のネックレスを取り出せば、ティアたちは一瞬だけ戸惑いを見せ、各々が異なる反応を示した。

 

「わ、私がイア様の後を継ぐんですか? ど、どうしましょう我が主……わ、私に継げる気がしません……」

「リアナ嬢ちゃんの後任……。ははっ、おじさんに務まるかちっと不安だな」

 

 フローラとパーシーは自信がなさそうな反応を見せる。先代のイア・アベルはアベル家随一のシスターで、リアナ・プレンダーはプレンダー家随一の偵察兵だった。

 その二人の後任となれば、荷が重いのは当然だろう。

 

「シェリルさんは僕たちパーキンス家の中でも飛びぬけた天才児だった。平凡な僕があの人の代わりになれるのかな……」

「エヴァンだってそうよ。態度は最悪だったけど、医師としての腕は私よりも遥かに上。こんな私にエヴァンの後継ぎが務めるのかしら……」

 

 ジーノとエリザは前向きに検討をしたいが、先代と自分を比較したときにどうしても不安を拭いきれないようだった。

 

「ヘレン、私には人の上に立つような器がありません。他を当たってください」

「俺もだぜヘレンっち。これからどうするかってのは自分でシンキングしたいんだ」

 

 ティアは即答で断りを入れ、レクスは自分の道を歩みたいと主張する。未だに誰も十戒の証である十字架のネックレスを取らない。

 いくら友人であっても頼みではなく責務となれば引き受けてはくれなかった。私は視線を逸らし、諦めて十字架をネックレスを仕舞おうとしたとき、

 

「ヘレン、僕は君の選択を尊重する」

「……!」

 

 ニコラスが紫水晶(アメジスト)を削って作られた十字架のネックレスを手に取る。私が唖然としていると、ニコラスは続けて理由をこう述べた。

 

「僕は君を支えたいと考えている。そのため十戒になることが目的に直結すると結論付けた」

「ありがとう、ニコラス」

「……まったく、ヘレン殿は話が急すぎるのだ」

 

 私がニコラスへ感謝していると、エレナはため息をつきながら私の前まで歩み寄る。そして紅水晶(ローズクォーツ)のネックレスを掴み取った。

 

「だが私に十戒を託す判断は間違ってはいないのだよ」

「エレナ……」

「さあ、貴殿たちは構わんのかね? 不名誉な小心者(・・・)という勲章を担いだままで」

 

 十字架を受け取らない者に対して挑発するエレナ。

 するとルーナがその場から前進を始め、いつもの無表情をこちらに見せながら右手を前に突き出すと、

 

「……私もやる」

「いいのかルーナ?」

「ティアナなら、きっとそうしたから」

 

 蒼玉(サファイア)のネックレスを手に取る。

 煌めく十字架を見つめた後、私の問いに対してそう返答した。確かにティアナがこの場にいれば、真っ先に引き受けてくれただろう。

 

「……そうだよ、ティアナさんなら僕たちのように迷わない」

「仕方ないわね。やるだけやってみましょう」

「ジーノ、エリザ、ありがとう」

 

 ティアナだったら。

 その言葉に心を動かされたジーノは緑柱石(エメラルド)の十字架を、エリザは日長石(サンストーン)の十字架ネックレスを掴んで見せた。

 

「おじさんにはちっと厳しいが、嬢ちゃんたちが覚悟決めたんなら……年長者が黙って見てるわけにもいかねぇな」

「わ、私も十戒になります! わ、我が主が『さっさとなれ』ってお告げをくれた気がするのでっ!」

「ありがとう、二人共」

 

 パーシーは紅鉄鉱(ヘマタイト)、フローラは月長石(ムーンストーン)のネックレスを手に取る。私が決意を固めてくれたことに感謝をすれば、エリザとパーシーが先ほど断りを入れたティアとレクスへ視線を送った。

 

「ティア、あなたが一番分かっているはずよ。トレヴァー家に自分ほどの逸材はいないって」

「お前もだぜレクス。武装の開発や鉱物の改良において、お前の右に出るやつはニュートン家にいねぇだろ?」

 

 そう言われた二人はしばらく口を閉ざし、深く考え始める。一体何を考えているのかは分からない。けれど自身の考えを改めようと、思考を張り巡らせているのだと見て取れた。

 

「……はぁ、本当に気が進みませんね」

「あーあ、フリーダムな毎日とグッバイしないといけないのかよ」

 

 考えた末、ティアとレクスもまた決断を下す。

 ティアは煙水晶(スモーキークォーツ)、レクスは黄水晶(シトリン)で作られた十字架のネックレスを掴んだ。

 

「へメラ、彼女たちに加護を」

「加護……ってことは、この人たちが新しい十戒さん?」

「ああ、そうだとも」

 

 十戒にのみ与えられる加護。

 私が加護の付与を頼むとへメラはワイン色の薄い本を取り寄せ、最初のページを開くと書いてある文字の音読を始める。

 

「え~っと、え~っと……今から加護について説明します。よく聞いておいてください」

「何だか、子供向けの説明会みたいね」

「加護とは継承されるものであり、継承される度に強くなるものです。加護はあなたの肉体の外側に付与されます」

 

 加護の説明。

 拙い言葉で音読をしているへメラに全員が頬を引き攣る。だがへメラなりに頑張っているようで、そんな反応に気が付くこともなく説明をこう続けた。

 

「注意点が二つあります、です。まず一つ目、加護は人間を傷つける力じゃないので吸血鬼にしか効果はありません。……でも例外はあります」

「例外、ですか?」

「他の不思議な力を持っている人間です。この相手には加護は効きます」

 

 加護は本来であれば吸血鬼にしか効果がない。 

 しかし加護のような力を持つ相手は例外。例えるならレプシーが所持していた呪印だ。彼女がその例外に値する。

 

「そして二つ目、加護を肉体へ取り込まないでください。何十倍にも膨れ上がった加護の力が使えますが、人間の肉体は脆いので耐えられなくなって死んでしまいます」

「死ぬ……?」

「あっ、いま死に方を聞きましたね? それはとても地獄のような死に方です。血液が真っ白になって、臓器とかがぐちゃぐちゃになって、この世で最もすさまじい死が待っています……です」

 

 肉体に加護を取り込めば死ぬ。

 想像もしたくない死にざまを音読するへメラに、ジーノたちは表情を険しくさせる。すると何かを思い出したエレナが、私の方へ顔を向けた。

 

「待ちたまえ! ヘレン殿はレプシーとの死闘で、加護を肉体に取り込んだのではないか?」 

「そうでしたね。ヘレン、身体に異常はないのですか?」

「ああ、問題ない。私には不滅の加護、不死の加護、不屈の加護というものがある。それらが働いているはずだ」

 

 不滅の加護で肉体の怪我は再生する。不死の加護で外的要因では死なない。不屈の加護で痛みなどは感じない。この三種類の加護によって、身体の内側に加護を取り込んでも無事なままでいられるのだろう。

 

「え~~っと……今ので説明は終わりです。では早速、加護の継承を始めましょう」

「わ、我が主から加護を貰えるなんて……き、緊張しますね」

「緊張しなくても大丈夫です。ピカッと光ってすぐに終わります」

「へぇ?! き、緊張を予言されてる……?!」

 

 先読みされたフローラが間抜けな声を上げ、加護の継承がすぐに始まった。継承に特別な儀式も何もない。ただへメラの前に立って、奇妙な光を浴びるだけ。

 

「……頭の中に、変な言葉が浮かんでくる」

「それは加護の詠唱文~」

「加護の詠唱文?」

「加護を使う時には詠唱が必要なの。忘れたら大変だから、ずっと覚えておけるようにしたんだよ」

 

 私の十二聖の加護には詠唱など必要ないが、十戒に与えられる加護には詠唱が必要。へメラはルーナに説明すると、次へ次へと新しい十戒に奇妙な光を浴びせていく。

 

「頭の片隅に違う詠唱文が浮かんできますが……」

「それはもう一つ詠唱文!」

「もう一つの、ですか?」

「加護を肉体に取り込むための詠唱文だよ。これは最期の手段だから……ほんとのほんとに危ないとき以外は、ぜぇ~たいに読んじゃダメだからね」

 

 加護を肉体に取り込むのは最期の手段。

 ティアにそう答えるへメラの顔は幼さが垣間見える中で、かなり危険だと訴えかけているようだった。私たちはへメラの注意喚起によって、軽はずみに使うものではないと理解する。

 

「……ふ~う、これで全員かな~」

「まるで職人さまのような反応だなおい」

 

 全員に加護の継承を終え、一息つくへメラ。

 仕事終わりの職人のような素振りにパーシーは思わず苦笑する。私はへメラに「ありがとう」と感謝を伝え、十戒となった彼女たちを一望した。

 

「これで君たちは十戒となった。今のグローリアに必要な人々の希望だ」

「「「……」」」

「十戒はへメラから与えられた加護を使い、吸血鬼や新たな脅威と戦わなければならないだろう。だからこそ常に心にとどめておいてほしい言葉がある」

 

 十戒とはどんな存在であるか。

 その方針を私はずっと考え続け、一つの答えを導き出した。

 

「不可能を可能にする──それが十戒であると」

 

 不可能を可能にする。

 どんなに絶望的な状況でも、どんなに過酷な戦況でも、不可能だと現実を突きつけられても、十戒は諦めずに打開策の一手を可能にさせる存在だと。

 

「はははっ、ヘレン殿らしい言葉だな」 

「ええそうね。でも嫌いじゃないわ、その言葉」

 

 エレナとエリザが微笑むと、他の者たちも自然と頬を緩めた。しかしニコラスだけが「ん?」と眉間にしわを寄せ、私へこう尋ねてくる。

 

「ヘレン、人数を数えてみたが僕らは九人だ。十戒として一人足りないが……」

「もう一人はソニアになったが」

「え"、ソニアっ……?」

 

 変な声を上げて驚くルーナ。そう、残り一人はソニア・レインズ。

 既に紅玉(ルビー)を削って作られた十字架のネックレスも渡し、へメラによる加護の継承も済んでいると説明した。

 

「ヘレンさん、どうやってソニアさんを説得したんだい?」

「説得はしていない。十戒になれと言ったら二つ返事で引き受けたが」

「二つ返事……。まさか率先して十戒になったのがソニアさんだったなんてね」

「一体何なのだあの狂犬は? まったく思考が読めん……」

 

 ソニアへの謎が深まり、誰もが両頬を引き攣るこの状況。絶妙な空気感の中、新たな十戒がこの場に誕生した。

 

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