ようやく辿り着いた母胎館。
鉄製の門を潜り抜け、正面玄関前にある前庭へと足を踏み入れる。私はそこで立ち止まると、辺りを見渡して周囲の観察を始めた。
「趣味の悪い館だ」
三階建ての貴族様式の洋館。
外壁はレンガや石材だが、所々赤みがかった大理石と白骨のような白い柱装飾が使われている。よく見てみると血管のような模様も薄っすらと浮き出ている。
「……不自然だな」
違和感を覚えたのは周囲を取り囲んでいる木々。
そのどれもが外周で止まっている──まるで館を避けて生えているかのように。
(やはり貴族共は拗らせた連中ばかりか)
私を歓迎するように並んでいる彫像はすべて『赤子を抱いた女』の姿。顔は識別できないよう削り取られ、代わりに赤子らしき顔が付いている。
噴水らしき場所に建てられた彫像の胸からは、奇妙な白濁液がぽつんぽつんと垂れていた。
(森で見かけた妊婦の女と似ている)
森で遭遇した妊婦の怪物。
彫像にその面影を感じながらも正面玄関を通り、館の中へと足を踏み入れる。
「……どこから手を付けるか」
まず目に入ったのは中央にある螺旋階段。
赤と黒の絨毯が敷かれ、壁には母と赤子の肖像画が飾られている。周囲には歪んだアーチや先ほど見かけた彫像が置かれていた。
長い間使われていないと思っていたが、蝋燭やランプなどは未だ灯りとして機能する状態。つまり──何者かがまだこの館にいる。
──おかえりなさい
「……? 今の声は……」
広間に響く女性の声。
まるで私が帰ってきたことを喜ぶ母親のよう。その慈しみに溢れた声を耳にした私は辺りを見渡してから、西側の廊下をじっと見つめる。
「……地道に調べるしかなさそうだな」
こうして私は館の調査を始めた。
まずは一階の部屋を手当たり次第に調べる作業。手始めに西側廊下の一番手前にある扉に手をかけ、中の部屋へと足を踏み入れた。
「ここは客室か」
来客用の部屋。
母と赤子の絵画が飾られ、ダブルベッドが一つだけ置かれている。戸棚やクローゼットなどもあったが、中身はすべてもぬけの空だった。
(鉄で窓が塞がれているのは、なぜだ?)
客室をある程度調べた末の疑念。
それは日光が差し込まないよう、鉄の板で頑丈に塞がれている点。私はとある憶測が脳裏を過り、部屋の入り口まで戻ると、扉の表面を何度かノックした。
「扉も鉄で作られているのか」
木材で作られているかと思えば、それはあくまでも外装だけ。簡単に蹴破られないよう、内側には鉄が埋め込まれているようだった。
(客室を装った監禁部屋だな)
人間を閉じ込めるための監禁部屋。
来客を監禁していたのか、それとも別のナニカを監禁していたのか。私は部屋から出ると、廊下に並んでいる客室の扉を一望する。
「……貴族共は、ここで何をしていた?」
その後、東側と西側の廊下を行き来して部屋をすべて調べ上げた。結果として分かったのは、一階の部屋はすべて客間だということ。しかもどの部屋も窓は塞がれ、扉は鉄で作られている状態だ。
「上の階に答えがあるといいが」
もし貴族共が秘密裏に非道な実験でもしていたのなら、扉の外装を隠す必要はない。そうしているのは、見かけだけでも普通の館にする必要があった。
普通の館に見せかけなければならない理由は──ここに呼んだ来客に不信感を抱かせないためだろう。
「……? この館は地下もあるのか?」
上階へ向かうための螺旋階段。
二階や三階だけに続いているかと思ったが、階段は下へも続いているようだった。ただ溶かした金属によって、床ごと固められているため降りることはできない。
「壁にある弾痕……。大型の散弾銃か?」
螺旋階段の近くにある壁。
そこには散弾銃で射貫かれたような痕跡がある。しかも煉瓦の壁を木っ端みじんに破壊している。奥まで続いていそうだが、瓦礫に塞がれて進めはしない。
「……嫌な予兆だ」
監禁部屋に封じられた地下。
この二つが揃うだけでろくなことが起きない。私は上の階まで吹き抜けた螺旋階段を一段ずつ上り、館の二階まで辿り着く。
「まずは西側の廊下だな」
最初に調べるのは二階の西側廊下。
そこは日中だというのに夜かと錯覚するほどの薄暗さと、鉄の錆と甘ったるさが混ざったような臭いが漂っていた。
「今度は肖像画か。より趣味が悪い」
そして何よりも不気味なのは、女性の肖像画が敷き詰められるようにして飾られている箇所。どれも顔の部分が赤黒いインクで塗りつぶされているものばかり。
「……? あの部屋は……」
目に入ったのは廊下の曲がり角と直線状にある扉。
右へ続いている通路とは別に、客間とは違う、やや小綺麗な装飾が施された扉が見えた。私は扉の前に立ち止まると、壁に貼られたプレートに目を通す。
「
用途が分からない部屋の名前。
この目で確認した方が早い、と私はノブに手をかけてゆっくりと扉を開く。
「この部屋は、どうなっている?」
視界に広がったのは異様に天井が高い八畳程度の部屋。ランプや蝋燭が置かれていないというのに、夕暮れのような橙色の光が室内を優しく照らしていた。
「……っ!」
室内を調べるために三歩ほど立ち入れば、一瞬だけ視界が白くなる。私は何が起きたのか、とすぐに目を開いて状況を確認した。
「景色が、変わったのか?」
先ほどまで置かれていたはずのボロボロの家具。それらがすべて真新しいものへと変わり、床にはふかふかのカーペットが敷かれ……まるで子供部屋のようだった。
(……武装も消えた。いや、服装も変えられているな)
更には私自身の格好も変わっている。
武装や制服は忽然と消えてしまい、代わりにワンピース型の寝間着を身に着けていた。ブーツもタイツも脱がされ、裸足の状態で立たされている。
「待ってたよ、マリー」
部屋の中央。
そこに座り込んでいるのは一人の少女。白色の長い髪に純粋無垢な紅い瞳。名家出身だと分かる可憐で品質の高い衣服。そう、この少女は、
「あなたが戻ってきてくれて、とってもうれしい」
(……最も会いたくないモノが出てきてくれたな)
幼少期の私自身。
最初の人生で母親の言いなりになっていた過去の自分。その証拠として両腕には、幼少期の私が大切にしていた『黒い毛糸で編まれた猫のぬいぐるみ』を抱えていた。
「もう疲れたよね。無理しなくていいんだよ」
「何の話だ?」
「大丈夫、ここにいれば怒られないの。誰にも責められないし、頑張らなくてもいいの」
少女は立ち上がると私の前まで歩み寄る。そして両腕に抱えた黒猫のぬいぐるみを持って、つま先立ちをしながら私の前に突き出してくる。
「おともだちのミオもいるよ。いっしょに、ゆっくりしよう?」
「それを近づけるな」
「どうして? マリーのおともだちだよ?」
小さい頃、私は黒猫のぬいぐるみに『ミオ』と名付けていた。親からも愛されず、友達もできなかった私の唯一無二の友人。それがミオだ。
「マリーマリー! ミオ、マリーとあそびたいにゃ」
「……黙れ」
「マリーがひとりぼっちでも、ミオはずぅ~っとマリーのおともだちにゃ」
「黙れ」
ぬいぐるみの演技をする幼少期の自分。
過去を侮辱されているような苛立ちと、過去の自分に対しての嫌悪感。それらを滲み出しつつ、そう言葉で圧をかけ、
「お前は何も知らんようだが」
「あっ……」
幼い自分から黒猫のぬいぐるみを奪い取る。
乱暴に掴んだまま、右手で頭を、左手で胴体を掴み、
「これはもう──死んでいるものだ」
思い切り引き千切った。
綿が溢れんばかりに飛び出して床へぽとぽとと落ちる。私は引き千切ったぬいぐるみのパーツをそのまま足元に捨てた。
「あの時、あの女に壊された。……こうやってな」
脳裏を過るのは過去の記憶。
上流貴族たちが集う舞踏会で、血統と顔が良い男に見限られたことで面目を潰してしまった日。その夜、あの女が私の部屋にやってきた。
『私の顔を潰しておいて一人でお人形遊び? いい身分ね、マリー』
『ご、ごめんなさい』
『……それを寄越しなさい。持ち物は身分にふさわしい者だけが許されるわ』
あの女が目を付けたのは両腕に抱えていたミオ。汚らわしいと言わんばかりに冷めた眼差しを私に送ると、乱暴にぬいぐるみを取り上げる。
『ミ、ミオっ……』
『ああ、こうやって不出来の証を抱きしめていたのね。ならこれは、あなたそのもの』
ビリィッ──ッ
黒い糸が弾け、白い中綿が宙に散る。
頭がもげた。腹が裂けた。ボタンの目が片方、弾かれ転がった。唯一の友人だったぬいぐるみの無残な姿。私は呆然と立ち尽くす。
『明日から稽古を倍にするわ。一から躾け直してあげる』
『……はい』
『あとその
反抗だけは決してできない。
涙を流せば平手打ちをされる。恐怖によって顔を青ざめた私の返事を聞けば、あの女は足早に部屋から出ていく。
『私のせいで……ごめんね、ミオ』
面影すら残らない黒猫のぬいぐるみ。
その場に
「今すぐ失せろ、小娘」
そう、唯一無二の友人はその時に死んだ。
あの女によってズタズタに引き裂かれ、頭と身体を目の前で千切り捨てられたのだ。嫌悪感を露わにした私は、幼少期の自分に鋭い睨みを利かせると、
「あ~あ、今のあなた──あの女とそっくりだよ?」
両頬を吊り上げながらニタァと笑みを浮かべ姿を消した。途端、室内は踏み入る前の状態へ、私の格好や武装もまた元の状態へと戻る。
「嫌な記憶ばかり思い出させてくれるな」
その後、
「……次は哺乳瓶と来たか」
先ほどは肖像画が敷き詰められていたが、今度は台座に乗せられた哺乳瓶が壁際に並べられている。もはや悪趣味というよりは狂気に近い。
「行き止まり……」
意外にも早く辿り着いた廊下の突き当り。ふと右脇にある扉へ顔を向ければ、『
「……気は進まんが、調べるしかないな」
今は少しでも手掛かりが欲しい。
奇怪な部屋の名前ならば何かしら見つかるだろう。私は部屋のノブに手をかけ、ゆっくりと扉を押して、中の様子を窺ってみた。
「キツイ臭いだ」
扉を開けた瞬間、鼻の奥を突いたのはねっとりとした臭い。腐った果実と蜜が混ざり合ったような、吐き気を誘う臭いだ。
「……この部屋は、何のために作られた?」
一歩だけ足を踏み入れてすぐに目を細める。
何故なら壁面には乳房を模した白い突起が無数に生えていたからだ。柔らかく膨らみ、わずかに脈動している。
「あの男たちは……生存者か」
部屋の中央にはベッドが一つだけ置かれ、その周囲には数人の男たちが俯き、黙り込んだまま正座をしていた。
「おい、そこで何をしている?」
「「「…………」」」
警戒を怠らず、少し離れた位置から声をかける。
だが男たちはピクリとも反応しない。私はしばらく考えた後、一歩ずつゆっくりと、最も出口から近い位置の男の前まで歩み寄った。
(生きているように見えるが……)
裸足でくすんだ上着をまとう男たち。
表情は何も浮かべていない。目を閉じて、微動だにせず、ただそこにいるだけ。そんな存在のように見えた。
「おい、返事ぐらいしろ」
「…………」
「私の声が聞こえんのか?」
右肩を軽く叩く。
身体はかすかに揺れた。しかし何の反応もない。まるで意識だけが抜け落ちた人形のようだ。
(床に残された足跡……。自分の意志でここへ来たようだな)
床には男たちの足跡が残っている。
その足跡から一切の迷いもなく、今の場所まで辿り着いたのだと見て取れた。
「……? あれは手帳か?」
中央に置かれたベッド。
血の染みと白濁液が付着した小汚いシーツの上。そこに赤黒い手帳が置かれていることに気が付き、私は早足でベッドまで歩み寄ると、手帳を拾い上げる。
「……誰かが残した記録か。何か手掛かりがあるかもしれん」
やっと手掛かりらしきものが見つかった。
私はすぐさま手帳のページを捲って、中身を読み始めた。
──────────
『9時50分』
母胎館の調査を依頼されここまで来た。
警護のラズ、司祭候補のサリィ、見習いの修道女セラ、そして記録係の私、ナリアの四人。
道中の母還の森はとても不気味だったけど、特に何も起きなかった。サリィは十字架をずっと握りしめてたけど……セラは体調が優れないのか、ずっと俯いたままだった。
ラズは「どうせ何にも起きねぇって」とセラを励ましている。
『10時00分』
母胎館へ入った。
館内、音が吸われているみたい。足音がぜんぜん反響しない。
サリィが「お許しください」とつぶやいて、十字架を逆さに掲げていた。
セラは終始無言。ラズは「ビビりすぎだろ」と軽口を叩いているが、目が笑っていない。
その時にはもう、なにかが狂い始めていたのかも。
──────────
「……母還の森で何も起きなかった、か」
引っ掛かったのは母還の森についての記録。
『何も起きなかった』と一言だけ添えられているがあり得ない。もし本当に何も起きなかったとすれば──この洋館が起こす事象の範囲が広がっているということになる。
私は憶測を立てながらも次のページを捲った。
──────────
『10時47分』
最初に消えたのはラズだ。
廊下を抜ける途中で、彼が「右の方で声がした」と言って走っていった。
壁の向こうから「おいで」と子どもの声も聞こえた。
次の瞬間、悲鳴もなくラズの気配が消えた。
追っても痕跡なし。壁がぬめっていた。……腐った果実の匂いがした。
なぜかセラが「もう、戻ってこない」とだけ言った。
『11時18分』
サリィが母語の間で立ち尽くす。
何かを聞いていた。彼女は耳に手を当てて、こう言った。
「お母様……やっぱり、私が間違っていたんですね……」
それから、床に手をついてうつ伏せになり、
次の瞬間、背中からぐちゅ、と音がして消えた。
赤子の笑い声が部屋中に響いていた。
その瞬間、部屋の中心には彼女の司祭服だけが畳まれて置かれていた。
セラは顔を青ざめ、泣いていた。私にはどうすることもできなかった。
──────────
(……失踪の原因はこれか)
失踪の詳細は不明。
だがどのような経緯で仲間が消えたのか……それがハッキリと書かれていた。恐らく失踪のきっかけは『精神的な干渉』だけでなく、『物理的な干渉』も含まれているだろう。
そう頭の中で整理しながらも、私は手帳の最後のページを捲った。
──────────
『12時03分』
今、私とセラだけが残っている。
でも、セラの
私のことを「ナリア」って呼んでくれない。
さっきは名前を思い出せないような顔をしていた。
「ねぇ、私、産まれてこなければよかったのかな」って、ぽつりと言った。
私は「そんなことない」って答えたけど、言葉が届いてる気がしなかった。
『12時35分』
私は知ってる。
この館は母になりたい者も子に戻りたい者も飲み込む。
選ばせるふりをして、全部奪うために呼んでる。
セラは、私のことを覚えていない。
名前が、崩れていく。
記憶が、滲んでいく。
言葉が、脈動する肉の壁に染み込んでいく。
『12時46分』
セラ、
まだあなたの名前を呼べるうちに、書いておく。
これ以上消える前に。
あなただけは、帰って。
私の名前を思い出して。
ナリアって、一度だけでもいい。
私が子になる前に、
せめて誰かに「母じゃない私」を覚えていてほしい。
『───』
セラ
セラ
セラ
せら
セラ
セ ラ
──────────
最後は時刻すら記されていない。
ただ赤黒い文字で『セラ』という名だけ書かれている。私は貴重な情報源を手に入れたため、失くさないよう懐に手帳を仕舞った。
ズサァッ──
「……?」
その時──背後から聞こえるのは布が擦れる音。
反射的に振り向こうとしたが、何者かによって両腕が左右に掴まれ、ベッドに仰向けで押し倒されてしまう。
「……っ」
私を取り囲んでいたのは正座をしていた男たち。
一人の男に両腕を上げた状態で押さえられ、暴れられないよう両脚をもう一人の男が押さえ込む。特に動揺はしなかったが、
「あったかい……ここなら、きっと、産ませてあげられる」
「お前、一体何をして……」
男たちに殺意は感じられないことに疑念を抱く。
理解が及ばない私を他所に、左側に立っていた男は押さえ込まれた私の胸を触ると、両手で優しく下腹部まで撫で始める。
「空っぽだ……」
「でも、大丈夫……たくさん、育つ……」
「産ませてあげたい。このお腹に、命を……ね」
更に男たちは全身の至る所を撫でてくる。
タイツの上から両脚をさすってきたり、拘束された両腕を優しく揉んできたりと。しかしどの手も終着点は私の下腹部。赤子を宿すであろう部位を、何度も何度も男たちは愛おしそうに撫でてきた。
「産ませ、産ませてあげるッ……」
ギチギチッ──グチョッ──ッ
「──ッ」
一人の男が顔を近づけるのは私の股間部位。
奇妙な戯言を述べていれば、口元が裂けて喉奥から一本の肉の触手が這いずり出てきた。例えるなら触手の形状は
更には先端から気味の悪い白濁液が溢れ出ている。
「中身は化け物だったか」
ガシィイッ──ッ
「ぐ、ぐぐぐぐぃ……ッ?!!」
私の中の疑心は敵意へ変わった。瞬間、両膝を曲げて太ももで男の頭部を触手ごと挟み込む。そして押し潰す勢いで徐々に締め上げ、
「失せろ」
バキンッ──ッ
下半身を捻って男の首をへし折る。
私はそのまま両足首を拘束していた男の顔面に、ブーツのヒール部分を叩き込んで壁まで吹き飛ばした。
「退け」
ドゴォッ──グシャッ──
ベッドの上で上半身を滑らせるように回転させ、うつ伏せの体勢になると、背後に立っていた男の顎へ後ろ蹴りを放つ。骨が砕け、肉が裂ける音がハッキリと聞こえる。
「ああ、丈夫なおなかだ。産ませたい──」
「黙れ」
グシャアッ──ッ
焦る様子も見せず戯言をぼやき続ける男。
私はその狂った頭を両手で掴んでから、右脚を前へと突き出して膝蹴りを顔面に叩き込んだ。聞こえたのは鼻の骨が潰れる音。
男は血を噴き出しながら、床に後頭部を打って倒れた。
「……この男共は、何者だ?」
私は倒れている四人の男共を一望して目を細める。口が裂けたり、奇妙な触手を出した時点で人間ではないのは明白。だが食屍鬼や吸血鬼共とは程遠い性質だ。
(眷属……。もしくは変異型の食屍鬼か?)
変異型の食屍鬼。
今までの経験上、そう捉えることもできる。……となれば、眷属と結びつく可能性もあるだろう。私はこの母胎館とやらが思ったよりも深刻な事態に陥っていると理解し、部屋を後にしようと背を向けた。
「母に、ははに、なろう」
「……っ」
瞬間、背後から聞こえてきた男の声。
振り返ってみると四人の男はふらふらしつつも立ち上がっていた。首が折れた状態で、顔面がぐちゃぐちゃになった状態で、私を飛び出た眼球で見つめてくる。
「母、はは、ハハ母ハハハ母ハハハッ」
ギチッギチィッ、グチャッグチャッ──ブシャアッ──ッ
男共の見た目が変貌していく。
腹部だけが異様に膨張し、裂け目からは産道が形成されている。下腹部からはへその緒のような触手が何本か垂れ、意識を持つように床を這う。
「ウ、ウゥウゥ、産ませてあげよう、か?」
「ヤ、ヤ、ヤ、宿しししし、てあげようか?」
(変異型の食屍鬼……とは思えんな)
丸く湾曲した背中。
肩甲骨は『母親が抱擁する両腕』のように肥大化し、人間のままの顔は口元だけが笑ったように裂けている。まるで母親の微笑みを模倣するかのように。
「ア、アナタナラ、あなたなら、きっと立派な母になれる」
「……私が立派な母親、か」
右手で鞘から刀剣を引き抜き、左手で銃をホルスターから抜いた。私の中の敵意は殺意へと変わり、今考えなければならないことは、
「だ、ダカラ、わたしの、ア、赤ちゃん、ウ、産ませてぇえぇえぇぇえ!!!!」
「貴様は見る目がないな」
この