迷惑な見舞いを受けたあの憂鬱な日から一週間が経過した。私は無事に退院し、今はこのように教室で座学を受けられるようになったのだが、
(……つまらんな)
エイダから「訓練の時間は見学しなさい」と釘を刺されていた。更に眼帯への移行も実習訓練当日から。身体が
「えーっと、今日は実習訓練に向けて五人組の班分けをしようと思ってるんだけど……。どうやって決めた方がいいかな?」
「はいは~い! 友達同士で集まればいいと思いま~す!」
「ロイくんはこう言ってるけど、他のみんなはどう?」
色々と話し合った結果、ロイの提案が多数決により半数以上を獲得し、友人同士で五人組を作ることになった。私はそんな適当な決め方でいいのか、と呆れてしまう。
「俺とサディちゃんとカイトくんとアリスちゃん。この四人は決まりだね~」
「でもさ、あと一人はどうするんだよ?」
「ん~……テキトーに残り物を入れればいいよ~!」
Dクラスの生徒は三十人。五人組に分けるとなれば、六グループが完成する。それを踏まえると必然的に余りは残らない。
「あの、残り物って誰のことですか?」
「アビーちゃんのことね~!」
「……何故あの女が残り物になる?」
「アビーちゃんって、元々Dクラスで浮いてたからさ~。この前の暴発事件の犯人みたいなものだし、誰も関わろうとしなくて孤立してるんだよ~」
私が医務室で過ごす期間、あの女は腫れ物扱いされていた。ロイの言葉通り、班がある程度固まると、アビゲイルのみがぽつんと教室の隅に取り残される。
「ほらね~? アビーちゃんだけが残ったでしょ~」
「は、はい……ちょっと可哀想です……」
「けどさ、ああなったのは自業自得だろ。アリスさんを騙して、アレクシアに怪我を負わせたんだから」
哀れむアリスとは真逆に辛辣な言葉を口にするキリサメ。私はアーサーと対話をするアビゲイルの様子を窺う。
「でもでも~、きっと俺たちの班に来るよ~?」
「だろうな」
私がロイに共感すればアビゲイルと話を終えたアーサーが私たちに近づいてきた。
「ごめんね、アビゲイルさんが一人みたいだから……。君たちの班に入れてあげてほしいな」
「犯人と被害者を一緒の班にするのって、あんまり良くないと思うんすけど……?」
「他の班からは断られててね。もう残ったのが君たちの班しかいないんだ」
露骨に嫌な顔をするキリサメ。アーサーは申し訳なさそうに、私たちへ頼み込んでくる。特に怪我を負わされた私の反応を気にしているようだ。
「私は大丈夫です。独りはきっと辛いと思うので……」
「俺はあんま賛成できない。あんな酷いことしておいて、謝罪の言葉もまだないんだぞ? アリスさんはともかく、アレクシアにも謝ってないなんて――」
「決定権があるのってサディちゃんだと思うな~! あっ、ちなみに俺は全然ウェルカムだよ~!」
アリスは快く許諾するが、キリサメは頑なに拒もうとする。ロイはそれを見兼ねて、キリサメの言葉を遮ると私に決定権を委ねてきた。
「……どうでもいい。勝手に決めろ」
「じゃあ、二対一でアビーちゃんを班に入れることに決定~!」
「マジかよ……」
私が素っ気ない返答をし、班にアビゲイルが加入することが決まる。アーサーは「助かるよ」と頭を下げながら感謝の言葉を述べた。
「アビーちゃん~! これからよろしく~!」
「アビゲイルさん、よろしくお願いします」
「あぁうん……。よ、よろしく……」
そして班員同士で固まることになり、アビゲイルが私たちの元へやってくる。ロイとアリスは挨拶を交わすが、キリサメは黙ったまま。私も口を閉ざし、考え事をしながら頬杖を突いていた。
「それじゃあ、実習訓練について説明するね」
アーサーは黒板の前に立ち教室を一望すると、実習訓練について話を始める。
「実習訓練はイーストテーゼから更に東の方角にある"
「せんせ~! どれぐらい滞在するんですか~?」
「二泊三日かな。一日目はアストラで宿泊して、二泊目は森林地帯でキャンプをする予定だよ。他の先生方は分からないけど、僕はみんなが仲間と楽しんでくれたらいいなって思うから……あんまり気を詰めなくても大丈夫」
生徒たちが抱くのは実習訓練に対する不安と緊張。アーサーは和まそうと優しく微笑み、教卓に置かれた用紙へ視線を下す。
「この時間は班長を決めて欲しいんだ。決まった班は先生に報告を頼むよ」
班の代表者を決める時間となり、静まり返っていた教室内はガヤガヤと盛り上がった。私たちの班もその代表者を決めなければならないが、
「アレクシアだな」
「アレクシアさんが適任です!」
「サディちゃんよろしくね~!」
案の定ロイたちは一斉に私へ注目をし、班長を一任しようとする。私はワザとらしく嫌な顔を浮かべた。
「……私は医者から止められている身だ」
「ん~、やっぱりダメだよね~。班長どうしよっか~?」
「じゃあロイがやればいいんじゃね?」
「むっり~! 俺は真面目なのは無理系だから嫌だね~!」
キリサメはロイを推薦しようとするが、ヘラヘラとした笑みを浮かべながら班長になることを拒む。
「俺には絶対に務まらないしなぁ」
「そうですね。私も同じく班長に相応しくないですし……」
「えっ? アリス、今さりげなく俺のこと貶さなかった──」
「あたしがやるよ」
キリサメを遮るようにしてアビゲイルが言葉を挟み、実習訓練の班長に立候補した。
「お前さ、本当にできるの?」
「やれる」
「……変な気は起こすんじゃねぇぞ」
怪訝そうに尋ねられたアビゲイルは小さく頷く。キリサメは返事を聞くと渋々承諾した。
「じゃあ、アビーちゃんよろしくね~!」
「アビゲイルさん、お願いします……!」
アリスとロイは少しだけ躊躇したが異論を唱えることなく、アビゲイルへ班長の役目を一任する。
「あんたはどう?」
「勝手にしろ」
「そっ、なら班長はあたしで決まりだね」
私は誰が班長であろうと興味がないため、アビゲイルに雑な答えを返した。この女が返事をする姿は、妙に張り切っているように見える。
(……左目を損失したのは痛手だ)
左目をアリス・イザードの為に
(実習訓練か……)
生徒の
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グローリアを象徴する城。その内部に作られた皇女の王室にて、ヘレン・アーネットはとある人物と机越しに向かい合っていた。
「ヘレン、私が提案した体制の改革は検討してくれましたか?」
狐の面を顔に付け、奇妙な衣服を身に纏う黒髪の女性。ヘレンは机の上に置かれた一枚の用紙を手に取り、じっと見つめる。
「一つ目は『六十歳以上の金貨支給を停止』。二つ目は『六十歳以上の一般市民や貴族はグローリアから追放、もしくは安楽死を推奨させる』。三つ目は『子供を育成する市民には
「はい、間違いありません」
「……この体制へ変える理由は?」
「一つ目の理由は無駄な資金を消費しないため。二つ目の理由は人口増加を減らすため。そして三つ目は若者に子供を育成させるためです」
黒髪の女性はヘレンにそう伝えると、支給額が記載された用紙と、グローリアの人口数が記載された用紙を机の上に置いた。
「こちらに目を通してください。グローリアの人口はここ十年間で急激に増えています。加えて、総人口の平均年齢も上へ上へと押し上げられている」
「あぁそうだな」
「支給金は老いた人々へ多く支給されている現状です。このまま月を重ねれば重ねる程、必要な支給金が増加していくばかり。その為に六十歳以上の金貨支給を停止する必要があると考えたのです」
ヘレンが頷きながら納得をすれば、畳み掛けるように黒髪の女性は人口数の用紙を指差す。
「ならば働けない身となり、生活できない人々はどうするのか。それを解決するのが、二つ目の体制」
「この体制は間違いなく反発を受ける。それを承知の上でこの体制を?」
「はい、当然です。反発をされようとも、私たちは吸血鬼を滅ぼさなければなりません。その為にあの方々には犠牲となってもらいます」
狐の面を被っているせいでその表情は窺えない。しかし彼女の声色はとても冷たく、人情味の薄れたものだ。
「そしてこのグローリアでは、若者に貧困者が多い傾向があります。貧困が故に満足して子供を産めない現状。この事実が原因となり、若者は子孫を残そうとしません」
「なるほどな。貧しい者たちが新たな生命を誕生させられるよう、育児に費やすための金貨を支給するということか」
「はい。若者が増えれば増えるほど、私たちも人員補強が容易くなることでしょう。吸血鬼たちに後れを取ることも少なくなるはずです」
ヘレンは机に置かれた二枚の用紙を手に取り、狐の面を付けた彼女の顔を見る。
「すぐにこの体制へ変えることは難しいだろう。実行するとしても慎重に動き出す必要があるはず――」
「後々では手遅れになります。今すぐに少子高齢化問題……いいえ、私が提案した体制へ変えるべきです」
「少子……何だって……?」
「言葉の表現を誤りました。今の発言は気にしないでください」
彼女は即座に誤魔化すとヘレンに背を向けた。
「ですが、すぐにでも検討するべきです。私はこの問題を長年抱え、滅びかけている国を知っています」
「博識だな。それは何という国だ?」
「……時が来たら話しますよ、ヘレン」
黒紙の女性は静かに部屋を出ていく。ヘレンはその後ろ姿を眺めながら、閉じた両扉を見つめ、
「四ノ戒、
幼少期から共に過ごしてきた旧友の名を呼んだ。