ЯeinCarnation   作:酉鳥

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2:13 Practice ─実習─

 

 旭光(きょっこう)が照らすは更地。南風(はえ)を受けるは私たち。実習訓練を行うために、東の方角に存在するアストラと呼ばれる村に向かわなければならない現状。

 

「も、もう疲れまじだぁー……」

「お、俺もだぁー……」

 

 アリスとキリサメがげっそりとした顔で根を上げる。そう、目的地までの移動手段は馬車ではなく徒歩。先頭からAクラス、Bクラス、Cクラス、Dクラスの二列で並び、アストラまでの長い道のりを歩いていた。

 

「後ちょっとだって~! 頑張ろうよ二人とも~!」

「あの、同じことを一時間前にも言ってましたよね……?」

「ん~、そうだったっけ~?」

 

 アカデミーを出発してから、休憩なしで三時間は歩き続けている。私とロイはまったく疲れを感じていないが、アリスとキリサメは既に息が上がっているようだ。

 

(……眼帯になっただけマシか)

 

 左目を覆っていた包帯は黒色の眼帯に変わった。包帯から眼帯へ変えただけでも、鬱陶しさは遥かに軽減される。

 

「俺の膝が、悲鳴を上げてるぜ……」

「ならお前の口は膝と変わらん」

「はいはいうるさいってことですね、すんませんでしたー!」

 

 それから一時間かけ、やっとのことで"アストラ"へと辿り着いた。アカデミーから森林地帯へ四時間はかかったが、森林地帯からアストラまでは三十分も経っていない。

 

「や、やっと着きまじだぁあぁぁあーー!」

「も、もう歩けねぇよ俺はぁ……」

「二人ともお疲れ様~!」

 

 アストラは村と区別されている割にまるで人気(ひとけ)がなかった。好き放題に生えた雑草。崩れ去った数々の建築物。言い表すなら廃村に近いだろう。

 

「アレクシアさん、体調の方は大丈夫かい?」

「……この二人よりマシだ」

「ははっ、それもそうだね」

 

 所有領地はクラスごとに四等分され、班別にテントを立てる作業が始まる。ロイとキリサメが二班と書かれたテント用具を運んできた。

 

「そんじゃあ、テントを立てようぜ」

「アリスちゃんとアビーちゃんはそっちの方を支えといて~! サディちゃんはそこで指示よろしく~!」

 

 私はテントの組み立てを客観的に観察し、形が崩れないように指示を出す。とても簡単な作りをしているのか、十分程度で迅速に組み立てられた。

 

「うわぉ~! 思ったよりもテントの中って広いんだね~!」

「そうですね! 五人で入ってもまだまだ余裕があります!」

「お喋りは後にしな。集合時間に遅れないよう外の荷物を中に入れるよ」

「へいへいー」

 

 ブーツを脱いで、続々とテントの中へと入ってみれば、八人は入れるほど広さ。私たちはアビゲイルに声を掛けられ、外に置かれた荷物や寝袋などを運ぶことにする。

 

「ていうか、実習訓練は女子と共同のテントなのか」

「共同なのは嬉しいね~! サディちゃんと夜に沢山お話しでき――」

「お前は向こうだ」

 

 私は浮かれているロイの寝袋をテントの左端へと放り投げ、逆に自分の寝袋はテントの右端へと放り投げた。

 

「じゃあさ、俺たち男子は左側に固まって、女子は右側に固まればいいんじゃね? テントの中央に仕切りのカーテンも取り付けられるみたいだし」

「はい、そうしましょう!」

「え~? 折角皆で仲良くできると思ったのに~……」

「お前の野蛮な行動は俺が死ぬ気で止めてやるからな。覚悟しておけよ」

 

 キリサメはロイに釘を刺す。こうしてテント内の荷物整理を終えた私たちは、アーサーの元まで集合した。

 

「えーっと、今から軽く準備運動をしたら対人戦をするよ」

「……対人戦」

「形式は一対一。武装はここにある木製のルクス零式とプラスチックの球形弾が込められたディスラプター零式。一人一セットずつ手に持ってね」

 

 古い(かご)に入った木製のルクス零式と、新品の箱に詰め込まれたディスラプター零式。他の生徒が取っていく最中、私も武装へ手を伸ばそうとしたが、

 

「アレクシアさんは見学だから駄目だよ。無理をさせたら先生がエイダに怒られる」

「……そうか」

 

 アーサーに止められ、仕方なく見学を受け入れることにする。その一方でロイたちは武装を手に取り、軽く振り回していた。

 

「まずはDクラス内で対人戦の練習をしてみよっか」

「まずはってことは……この後、もしかして全体で対人戦とかするんすか?」

「うん、トーナメント形式でね。……とはいっても、他のクラスとの交流会みたいなものだから、そんなに気張らなくても大丈夫だよ」

「交流会なのに戦わないといけないんですね……」

 

 アーサーの返答を聞いたキリサメは思わず苦笑してしまう。これは交流会というよりも、クラス同士の技術の競い合いに近いものだ。 

 

「先生も普通にバーベキューとかで交流会をすればいいのにって思うけど……。昔からずっと対人戦を続けてきたせいで、実習訓練の醍醐味みたいなものになっているんだ」 

「これって最後まで勝ち残ったら、何か貰えたりするの~?」

「えーっと、何も貰えないと思う。貰えるものは他の生徒からの注目、かな?」

 

 つまりこの競い合いは教師同士の自慢大会。自己顕示欲と承認欲求を満たすために生徒を戦わせる。生徒の為ではなく教師の為に開催される対人戦だ。

 

「それじゃあ、まずは準備運動でも始めよう」

 

 対人戦の前に準備運動を始めるアーサーと生徒たち。私は見学者として他のクラスの様子を窺うことにする。

 

(……あれがCクラスか)

 

 見覚えのある顔はデイル・アークライトとイアン・アルフォードの二人。アカデミーに入学してから共に行動しているようで、仲睦まじく言葉を交わしている。

 

(……次がBクラス)

 

 歩みを進めれば次にBクラスが目に入る。見覚えのある顔はクレア・レイヴィンズとジェイニー・アベル。こちらの二人も同様に仲睦まじく、微笑み合っていた。

 

(最後にAクラスだな)

 

 Dクラスの領地から最も離れた位置にAクラス。見覚えのある顔はナタリア・レインズただ一人。あの女は片眼鏡を掛けた男子生徒の読書を邪魔している。

 

「……対人戦か」 

 

 私はDクラスの領地まで戻ると、ロイやキリサメが木製の剣を衝突させ合う姿が目に入った。アリスは一本の大木を標的にし、プラスチック弾が装填されたリボルバー銃を構えている。

 

「生徒の実力を図れるいい機会だが……」

 

 ほんの僅かに湿った切り株へ私は静かに腰を下ろした。森林地帯に囲まれているせいか、普段よりも湿気があり、妙に蒸し暑く感じる。

 

「……期待はできんな」

 

 私は蒸し暑さに吐息を漏らしながらも腕と脚を組み直してから、キリサメたちの練習姿を眺めることにした。

 

 


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