ЯeinCarnation   作:酉鳥

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2:22 Against ─反抗─

 

 私はステラを吹き飛ばした方角を見つめる。逆手持ちをしたルクスαの刀身は、ケルベロスの獄炎で炎上していた。指先で触れても熱さはまったく感じない。

 

(……どういう原理だ?)

 

 両腕だけでなく失った左目も取り戻せた。おかげで視界はすこぶる良好。出血による意識の揺らぎもない。

 

「ビックリビックリだった! お姉様がケルちゃんの力を私にぶつけてくるなんて! しかもその紅い左目って……吸血鬼の血が流れてるってことだよね?」

「あぁ、私の肉体には吸血鬼共の血が流れている」

「じゃあじゃあ! お姉様は人間で、吸血鬼で、人間で、吸血鬼ってこと!?」

「……どうだろうな」

 

 私自身も自分の立場を理解できず、戸惑っている状態だ。吸血鬼なのか、人間なのか、転生者なのか。今は断言はできない。

 

「すごいすごーい! 初めて、初めて見たった! 人間と吸血鬼の血が流れている生物なんて! ん、初めてって最初ってこと? 美少女(・・・)? あれれ?」

 

 肉体が炎上しているというのに、ステラはのんびりと歩きながら、側にあった一本の大木を人差し指で突っつく。たったそれだけの動作で、大木は跡形もなく粉々になった。

 

「……それはやせ我慢か?」

「んん? 私、太ってる?」

「教養のなってない小娘だ」

 

 私はアーサーが動けるかを横目で確認し、逆手持ちにしたルクスαを握り直す。

 

「お前は生徒を連れて逃げろ。生徒を守るのが先生の役目とやらだろう」

「だ、駄目だよ! アレクシアさんも大切な生徒だ! だから君を置いてなんて……」

「私は守られるのも――」

 

 アーサーと会話をしていれば、ステラが炎上したまま、私との距離を一瞬で詰めてきた。私は握り直したルクスαを垂直に斬り上げ、

 

「――守るのも嫌いだ」

「あれれ? 私の手がなくなッ──」

「邪魔だ」 

 

 こちらへ触れる前にステラの左手首を斬り落とした。斬られた左腕の断面を呑気に眺めるステラ。私はその顔面に追撃として回し蹴りを食らわせる。

 

「早く行け」

「……分かったよ!」

 

 そして私がそう催促すると、アーサーはキリサメたちの元へ駆け出した。

 

「んん、あれれ? ちょっと、ねぇねぇ、どこに行くの?」

 

 ステラはその場で一回転して、身体に纏っていた獄炎をかき消し、アーサーを追いかけようと身体の向きを変える。私は追わせまいと、ルクスαをステラの左脇腹へ突き刺し、右脇腹まで貫通させ、

 

「小娘、私は過去に『敵へ背を向けるな』と忠告したはずだ」

「そうだったっけ? それってお姉様が大したことないから、私に背を向けられたんじゃないの?」

「違うな。私がお前に背を向けて忠告した」

 

 後頭部へ右膝蹴りを放ち、そのまま地面に押し倒した。間髪入れずにディスラプターを連射し、ステラの頭へ銀の弾丸を撃ち込む。 

 

「アハハッ! お姉様、私の頭の中を掃除してくれてるの?」

「あぁ、お前の頭にはガラクタしか詰まってないだろう」

「ガラクタかぁ! それで、ガラクタってなに?」

 

 私はありったけの銀の弾丸をステラの頭へひたすらに撃ち込んだ。しかし痛みに悶える様子はない。

 

「私は殺せないよ? 殺せない殺せないよ? 殺されるのはお姉様の方かもしれないよ?」

「黙れ小娘。私が今からお前に質問をする。真実だけを答えろ」

「真実って? どこからどこまでが真実扱いされるの? あっ、そっかぁ! 真実って本当のことだから真実なんだね! じゃあ真実はここからあそこまで――」

 

 会話が成り立たないステラ。私はディスラプターに弾丸を補充しながら、ステラの顔を地面へ叩きつけた。

 

「お前たち原罪は何人いる?」

「千人ぐらいかなぁ?」

 

 ふざけた回答をするステラ。私は脇腹に突き刺したルクスαを押し込んで、ステラの腹部を斬り開く。

 

「……原罪は何人いる?」

「んッ、んん? 何人いるんだろう? この世界の人間たちは」

「お前は答える気がないようだな」

 

 問答無用でステラの胴体をルクスαで切断し、下半身を草むらへ投げ捨て、ステラの上半身を仰向けにした。

 

「あら、あららお姉様、今から私に激しいキスでもしてくれるの?」

「相手は銃口だ」

「アハハッ! 金属臭いねこの金属は!」

 

 尖らせているステラの唇にディスラプターを銃口を突きつけた。ステラは犬のように銃口を舐め始める。

 

「これだけ解体されても焦らない。……やせ我慢ではないのか」

「私は太ってないよ? たった今、体重も減ったところだから!」

「質問を変える。初代十戒のお前が吸血鬼共に魂を売った理由は何だ? まさか吸血鬼共に敗北したのか?」

「はむっ、んんッ、んぼぉあ……ッ!」

 

 私が質問を変えればステラは自ら銃口を咥え、丁寧にしゃぶった。質問に回答する気がないステラの首に、私はルクスαの刃を触れさせる。

 

「小娘、私はお前の御守をしているつもりはない」

「んんっ、んぐぐっ、ぢゅるるっ……!」

「話を聞け」

 

 しゃぶり続けているステラの口内に何度か発砲する。私が睨みつけていれば、ステラは銃口をしゃぶるのを止め、血塗れの顔で笑みを浮かべた。

 

「私が、どうして吸血鬼に魂を売ったのか分かる?」

「理解ができん。だからお前に聞いている」

「アハッ、アハハッ! それは、それは、それはね!? 私たちにはすっごい神様がいるんだよ! アハハハーーッ!!」

 

 狂ったように笑い始めるステラ。私は眉間にしわを寄せ、ルクスαの刃を首に押し込んだ。

 

「この首を斬り落とした後、アイツが落としていったこの銀の杭をお前の心臓に突き刺す。たったそれだけで殺せる。小娘、命が惜しいならそのちっぽけな脳みそを回転させろ」

「アハッ、アハッ、アッハハハハハッ!!」

「耳障りだ。今すぐその笑い声を止め――」

 

 身を震わせるほどの悪寒に私は言葉を止めると、すぐにステラから飛び退き、数メートル距離を取った。

 

「アッハハハッ! お姉様、どうして逃げちゃうの? 私にもっともっとイタイイタイしてよ?」 

「……今のは」

 

 草むらに投げ捨てたステラの下半身が、その場で犬のように駆け回り、上半身と結合する。私はそれを眺めながら先ほどの悪寒の正体を暴こうと、思考を張り巡らせた。

 

「お姉様、お姉様、お姉様……!」

 

 私が考える素振りを見せれば、ステラは全速力でこちらに向かってくる。逆手持ちにしたルクスαで迎え撃とうと、体勢を変えるが、

 

「――ッ」

 

 再び悪寒を感じたため、ディスラプターで牽制しながら大きく後退した。ステラは私が距離を取ると、その場にピタッと立ち止まる。

 

『情報によれば原罪は災禍(さいか)と呼ばれる力を使うらしい。先生は見たことがないから分からないけど……。多分、十戒や皇女様が使うような加護みたいなものだと思う』

 

 いつの日かの座学の時間。原罪は災禍(さいか)と呼ばれる力を扱うとアーサーに教えられた。私は悪寒の正体を災禍と考察し、立ち止まったステラと視線を交わす。

 

「あれ、あれれお姉様? もしかして私が怖いの? びしょびしょにお漏らししちゃうの?」

「……貴様、何を隠している?」

「アハハッ! 私は私だよ! なーんにも隠してないもん!」

 

 こちらに伸ばしてくるステラの手をルクスαで斬り刻み、私が反撃に蹴りや殴打を叩き込む、近距離での攻防戦。私はその最中で悪寒を感じた瞬間、何度も距離を取っていた。

 

(この身で災禍の正体を確かめたいが、恐らく無傷では済まないだろう。最悪の場合、受けた時点で詰みの可能性もある)

 

 距離を取りつつも、私は銀の杭を心臓に突き刺す機会を窺がう。ステラの取り柄は馬鹿力と災禍。吸血鬼となったせいか、人間時よりも動きが単調。心臓を狙う隙も十分にある。

 

「……賭けるか」

 

 持ち掛けるのは一か八かの駆け引き。私は覚悟を決めるとディスラプターを発砲しながら、ステラに向かって走り出す。

 

「アッハハッ! 今度はお姉様が私を迎えに来てくれるんだ!」

「貴様を迎えに行くのは――」

 

 ステラが目前まで迫った瞬間、私は自身の身体を発火させ、辺りを獄炎で包み込んだ。荒れ狂う獄炎は、周囲の木々に次々と燃え移る。

 

「アハハッ、お姉様にイタイイタイしてあげる!」

「――貴様が殺してきた人間たちだ」

 

 馬鹿力に身を任せた左拳を突き出すステラ。私は逆手持ちにしたルクスαを横向きへと変え、ステラの右拳と衝突させる。生じた衝撃波によって、辺りの獄炎が大きく震えた。

 

「……」

「あれれ? お姉様の剣、折れちゃったよ?」

 

 ルクスαの刀身がステラの左拳に敵わず、真っ二つに折れる。ステラは嬉しそうに微笑み、私の顔を覗き込んできた。

 

「──あれ?」

 

 私が見ていたのは折れた刀身ではなく目の前の胸部。ステラは私の視線を辿り、自身の胸に突き刺さる銀の杭に気が付いた。

 

「発火で貴様の視界を塞ぎ、貴様の心臓にこの杭を突き立てた。だがこんなに上手くいくとは思わなかったな」

「……アハッ」 

 

 ステラが左拳を下ろせば、私はその胸部に煌めく杭の平面に手の平で触れる。

 

「貴様ら初代十戒とは腐れ縁だ。私が貴様に引導を渡してやる、愚か者」

「アハハッ!」

「未来永劫、この世に生まれ変わることなく――」

 

 笑い続けるステラを無視し、私は銀の杭を心臓に突き刺した後、

 

「――永久(とわ)に眠れ」 

 

 静かにそう耳元で囁いた。ステラは背中から地面に勢いよく倒れ、微塵も動かなくなる。

 

「……ステラ・レインズ。愚かな小娘だ」

 

 私は仰向けに倒れたステラの死体を見つめ、アーサーたちが逃げた方角へ歩き出したが、

 

「これで終わりだな――」

「そんな保証どこにあるの?」

「……ッ」

 

 心臓に銀の杭を突き刺したままステラは何食わぬ顔で立ち上がり、背後から私を馬鹿力で締め付けてきた。

 

 


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