ЯeinCarnation   作:酉鳥

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3:23『思想』

 

 ラミアの頭部が地面へと転がり落ちれば、私は首に向けてルクスαを突き刺す。頭部と離れたラミアの胴体や花弁は腐り果て、太い蔓は元気を失くし、生命活動を停止していく。

 

「クソォ、クソォッ……」

 

 私はミアの頭部を真っ二つに斬り裂き、声帯に寄生していたラミアを目にする。花の色は黄色・オレンジ・茶色の三種類。

 

「……"ヒマワリ"か?」

 

 食屍鬼に張り付いていた寄生花とは違い、その色と形だけですぐにその花の名前が浮かんできた。私はしゃがみ込み、うねうねと蠢いているラミアを観察する。

 

「ワタシが、ワタシが側にいてやったのに、こんな、こんなヤロウにッ……ダイナシにされてッ……」

「……」

「ナンなんだよテメェはッ……ナンで、ナンでワタシとコイツのジャマをするんだよぉッ……」

「……貴様は眷属だと聞いた。バートリ卿との記憶を思い出せ」

「ダカラ、ダレなんだよソイツはぁッ……」

 

 ここまで追い詰められたラミアは未だに思い出すことがない。私はしばらく考え、剣の刃へ指先をなぞらせる。

 

「テメェ、何をしてやがるッ……」

(私が血を与えれば……)

 

 原罪に血液を与えられたことでバートリ卿の記憶を失っているのであれば、今度はバートリ卿の血を分け与えればいい。私は一か八かで自身の血液をラミアへと一滴ほど垂らす。

 

「キィアァアァアァッ!?!」

 

 すると急に苦しみ始め、弱り切った細い蔓をジタバタと声帯で暴れさせた。

 

「バートリッ……ワタシはナニか知ってッ……?」

「眷属はバートリ卿に仕えていた。そうだろう?」

「あッ、あぁ、バートリッ……ワタシはドウシテ、ダイジなことを、忘れてッ……」

 

 大人しくなるにつれて、記憶が蘇るような反応を見せるラミア。私は自分の指先から流れる血液をじっと見つめる。

 

(あの時、記憶が戻らなかったのは……私の身体に流れるバートリ卿の血が、原罪の血よりも薄すぎたせいか)

 

 胸元から血液を吸われたが、ラミアはバートリ卿との記憶を思い出すことはなかった。あれは原罪の血液がラミアの体内でまだ濃かったから。更に私の身体にはバートリ卿の血液が半分ほどしか流れていない。吸血されたところで薄すぎて何の意味もないのだろう。

 

「思い出したか」

「オマエまさか、バートリの……?」

「ご想像の通りだ」

「な、ならバートリはどこにッ……!? どこにいやがるんだ!?」

「バートリ卿は公爵(デューク)によって殺された」

「……!!」

 

 ラミアはバートリ卿の死を耳にすると、うねらせていた細い蔓を硬直させる。 

 

「ダ、ダカラ、ワタシは言ったじゃねぇかぁッ……!! 公爵に、公爵に戦いを挑むなんて、ヤメタ方がいいってぇッ……!!」

「……」

 

 上擦った声を出すラミア。ヒマワリ本体からは涙は出ていないものの、何度も蔓を痙攣させているため、バートリ卿の死を悲しんでいるのだろう。

 

「オマエは、オマエはアイツが残したムスメなんだよな……?」

「そうだ」

「こ、公爵の、ミカタじゃないのか?」

「……違うが?」

「じゃ、じゃあ、あのウワサは、ウソだったのか……? それともアイツは、バートリはオマエ以外にも……」

 

 ブツブツと独り言を呟き始めるラミア。置いてきぼりにされた私はしばらくラミアのことを見下ろしていると、

 

「クソ、クソォッ……!! ナンで、ナンでこんなことになっちまったんだよぉッ……!? バートリは、ノゾんでいないのに……!!」

「何を独り語りしている?」

 

 ラミアは花弁をブルブルと震わせて、一滴の"血の涙"を蔓に伝わせていく。

 

「ウワサで聞いたんだ。バートリの子は公爵の元で育てられたって」

「公爵の元だと?」

「だがオマエはここにいるだろ。だから──バートリの子はオマエ以外にもいるかもしれねぇ」

「……本当か?」

「そうとしか考えられねぇんだよッ……!」 

 

 ラミアが耳にした噂が正しければ、私以外にもバートリ卿から生まれた子がいる。しかも公爵の手で育てられた。私は不確かな情報に険しい表情を浮かばせる。

 

「あの"犬"からはそんな話を聞かなかったが」

「犬?」

「ケルベロスだ」

「アイツか! あのイヌコロと会ったのか?!」

「あぁ、もう死んでいる」

「死んでんのか……」

「私に血涙(けつるい)と呼ばれる力を託して死んだ」

「……血涙。アイツ、そうだったのか。だからあの炎に懐かしさを覚えて……」

 

 その言葉を耳にしたラミアはすべてを悟ったように、血の涙が伝わった細い蔓を私に伸ばしてきた。

 

「飲め」

「……またか」

「ワタシもアイツも、バートリがずっとワタシたち眷属へ話していた"リソウ"を叶えるつもりでいる。いいや、ゼッタイに叶えないといけねぇ。例えこの世にバートリガいなくてもな」

「……」

「オマエが、託されてくれ」

 

 私は口を閉ざしたまま、ラミアの細い蔓から血の涙を指先で汲み取り、唇へとゆっくり近づける。 

 

「私が……」

「ナンだよ?」

「私がバートリ卿の理想を叶えると思うのか?」

「……」

「私は吸血鬼共の肩を持つつもりなどない。むしろ吸血鬼共をこの世から死滅させようとしている。人間との共存など(もっ)ての(ほか)だ。この力を吸血鬼共を殺すために使うかもしれないぞ?」

 

 私はそう問いかければ、ラミアは細い蔓でこちらを指した。

 

「ワタシには分かるぜ。オマエはバートリの子だが……ただのニンゲンじゃねぇことが。それこそ数え切れねぇほどのジンセイを歩んできたんだろ?」

「……」

「ワタシもこう見えて何百年とイキテきた。だからオマエを見て分かるんだよ。オマエがキュウケツキをコロスのはニクンデいるからじゃねぇ。オマエは"セキニンカン"でキュウケツキをコロソウとしてんだろ?」

「……どうだろうな」

 

 視線を逸らし、指先に乗せていたラミアの血の涙を口にする。身体に染み渡るのは心臓を締め上げられるような苦しみ。しかし苦しみと共に私の折れ曲がった右腕は再生し、折れていたあばら骨もあっという間に完治する。

 

「アレクシア、大丈夫だったか!?」

 

 キリサメたちが私の元まで駆け寄ってくる。辺りを見渡してみれば、燃え盛っていた炎がいつの間にか鎮火していた。こちらへすぐに来られなかったのは、炎が邪魔していたからだと気が付く。

 

「ほぉ、ラミア本体はこの花だったのか」

「……どこからどう見てもヒマワリね」

「うん、ヒマワリだね」

 

 声帯に寄生したラミア本体を観察するセバスたち。キリサメはシビルへ何度か視線を向けながら、ルクスαを鞘に納めている私の耳元まで顔を近づけてくる。

 

「話とか、全部終わったのか?」

「ある程度はな」

 

 視線をラミア本体へ移してみると、ウェンディが傍でしゃがみ込み、何とも言えない表情でヒマワリの花を見つめていた。

 

「ウェンディ……」

「ミアは私の友達だった。あの言葉は嘘じゃありません」

「……」

「もっと、もっと違う形で出会えれば……私たちはきっと今でも仲良くできたのかもしれません」

「なぁ、ワタシは、ワタシはオマエに──」

 

 ウェンディは細い蔓を優しく握り、哀愁の漂う顔でラミアへ言葉を投げかける。ラミアはもう一本の細い蔓でウェンディの手に触れようとした。

 

「……ッ! オマエらどけぇ!!」

 

 瞬間、ラミアが太い蔓で私たちを館とは真逆の方角へと吹き飛ばす。

 

「待ってラミア──」

 

 吹き飛ばされる最中、ウェンディがラミアへ手を伸ばせば、上空から降り立った人影がラミアを踏み潰した。声帯から引きちぎられたラミア本体はヒマワリの花へと戻り、地面へと転がる。

 

「"イケない"子ねぇ? アタシの命令通りにココを守れないなんて」

 

 白髪に僅かな緑色の髪が混ざった長髪。太腿までの丈に、胸を強調する袖丈の長い黒色のワンピース。その女は潰したミアの頭部をズリズリと地面へ擦りつけ、私たちの方を見た。

 

「まさか……」

 

 私は"ソイツ"を知っている。鞘から剣を抜き、逆手持ちで構えた。

 

「あらぁ? "イケなさそうな子"がたくさぁんいるじゃない?」

「……あいつ、かなりやばいんじゃない?」

「うん、かなり危なそう」

 

 その場にいる者たち全員が気を引き締める。その女は明らかにラミアとは桁違いの威圧感を放っていた。

 

「アイツは"原罪"だ」

「原罪……!? どうしてこんな場所に……?!」

「眷属は原罪の(しもべ)だ。鉢合わせしてもおかしくはない」  

 

 ステラ・レインズとは違う異様な雰囲気。ステラの威圧を"爆風"と例えるなら、この女は"毒々しい"と例えればいいだろうか。

 

「いいわよぉ? "イケない子"は──アタシが"イカせてあげる"わぁ!」

「退け」

 

 その女が舌なめずりをした瞬間、私は剣を持っていない左手を握りしめ、右へと振り払う。するとその女の身体は森の中へと引きずられるようにして、吹き飛ばされた。

 

「アレクシア、今のは……」

 

 私は自身の左手を見る。手の平からは蔓が生え、あの女が立っていた位置まで伸びていた。キリサメはその手を視認すると、目を丸くする。

 

(これがラミアの力か)

 

 体内の"血管"を体外へ放出する際に"蔓"へと変化させる力。ラミアの血の涙を口にしたことで新たに芽生えたらしい。

 

「おい、この力に名前を付けろ」

「は!? 名前ってどういう──」

「理由は後だ。とにかく考えろ」

「えーっと、蔓だよな? ウィップ? いや流石にダサいよな。だからといって長い名前でもおかしいし……くそぉ、全然思いつかねぇ!」

 

 西の方角から迫りくる気配。私はその方角へ走り出し、逆手持ちにしたルクスαを斬り上げる。

 

「あらあらぁ? やっぱりアナタはあの"メス猫"じゃない?」

 

 私の剣と衝突するのは鋼のような左腕。あの女は私の顔を間近で見ると、愉快そうに笑みを浮かべた。

 

「久しぶりだな"痴女"。この時代でも男漁りか?」

 

 この女の名前は"ミランダ・アークライト"。アークライト家の"始祖"。つまりこの時代では原罪の一人だ。

 

「うっふふ、生意気なメス猫ねぇ? 相変わらずだからお姉さんちょっと嬉しくなっちゃったわぁ」

「前に言ったはずだ。"歳は偽るな"と」

 

 左腕を剣で弾き返し、左脚でミランダの顔面を蹴り上げる。

 

「偽っているのはどっちの方かしらぁ?」

 

 しかしまったく効いていない。ミランダは鼻で笑うと、その場でくるりと回転しながら袖丈で横払いをしてきたため、ルクスαで受け止めようとしたが、

 

「……っ!」

 

 衝突した瞬間、真っ二つに斬れる。折れるのではなく綺麗に斬られた。私はすぐさま後方へとのけぞる。

 

「あらぁ? "お胸が小さくて"助かったわねぇ?」

 

 袖丈は鼻先ギリギリを掠めた。ミランダに挑発された私は左手から伸ばした蔓を傍の木々に巻き付け、

 

「小さい方が身軽だろう」

 

 自身の身体を引っ張り上げる反動でミランダの顎に膝蹴りを食らわせ、そのまま木の上へと着地をした。

 

「メス猫にはピッタリな場所ねぇ?」

「あぁ、こうやって貴様を見下ろせるからな」

 

 私は左手をかざすと、ミランダの身体へ蔓を巻き付けていく。

 

「あらぁ? アナタはそういう"プレイ"が好きなのねぇ?」

 

 しかしミランダがその場で一回転すれば、蔓はバラバラに切断されてしまう。私は蔓が切断されたことで左手に痛みを感じ、視線を向けてみると、

 

(なるほど。血管を切られているのと同じか)

 

 左腕が内出血を起こしていた。放出した蔓への損傷は、血管の損傷として扱われるらしい。

 

「まだ思いつかないのか?」

「んなこと言われてもさ! 簡単に思いつくほど俺にはバリエーションが──」

「あらぁ? それじゃあ、お姉さんと"イケる"ように頑張りましょ?」

 

 ミランダはキリサメへ標的を変えると、その場から高速で駆け出す。私は舌打ちをすると木から飛び降り、ミランダの背中へ折れた刀身を投擲した。

 

「うっふふ、アタシはそんなものでイケないわよぉ?」

「──ッ!!」

 

 しかしミランダは即座に振り返り、刀身を一瞬にしてこちらへと弾き返す。私は反応できず、折れた刀身が右肩を貫通し、背後にある大木に打ち付けられた。

 

「さ、させないわ……!」

「サラ、待ちなさい!」

 

 振り返るミランダ。サラは呼吸を乱しながらも抜刀の構えを取り、シビルの呼び止める声を無視し、迫りくるミランダへと斬りかかるが、

 

「ダメじゃない? イクのにも順番があるのよぉ?」

「きゃッ……!?!」 

「うぐッ!?」

 

 右手で迫ってきたサラの頭部を掴むと、前方に立っていたセバスへと軽々と投げつける。クライドは首に巻いたマフラーへ左手を触れ、リボルバー銃を構えたが、

 

「そんなオモチャじゃ、満足して"イケない"わよぉ?」

「……!」

「きゃっ!?」

 

 黒の袖丈で銃口を真っ二つにし、クライドを地面へと薙ぎ倒した。クライドは薙ぎ倒される寸前、衝突しそうになったウェンディを庇うように地面へ背を打ち付ける。

 

「アナタ、可愛いわねぇ。アタシのことを怖がってるのかしらぁ?」

 

 キリサメは妖艶な笑みを浮かべるミランダを見て後退りをする。

 

「怖がらなくても大丈夫よぉ? すぐに"イケる子"になるから」

「く、来るなぁっ……!!」

 

 鞘から剣を抜いたキリサメ。ミランダはじりじりと詰め寄ろうとするが、キリサメを守るようにして、ルクスαを構えたシビルが間に割って入る。

 

「あなたの相手は私よ」

「あらぁ? イクのを我慢できない子がまだいたのねぇ?」

 

 キリサメを守ろうとするシビルを見て、上機嫌になるミランダ。私は右肩を貫通した刀身を握りしめ、引き抜こうと力を込める。

 

「アタシには分かるわよぉ。アナタは銀の階級でしょう?」

「答える義理はないわ!」

 

 残された左腕で剣を振るうシビル。銀の階級に相応しい熟練者の動きだが、ミランダの肉体には掠り傷一つ与えられない。

 

「"アイツ"から聞いたわぁ。実習訓練で銀の階級を一人だけ殺したって」

「何を話して……!」

「イカせられた人間の名前は確か──ルーク・ブライアンだったかしらぁ?」

「っ……!!」

 

 その言葉を耳にしたシビルの表情が一変する。瞳に殺意が宿り、剣を持つ手に力が入り始めた。

 

「ルークさんを、殺した……?」

「あらぁ? もしかしてお知り合いかしらぁ?」

「原罪、お前たちがルークさんを殺したの?」

「アタシのお仲間がイカせちゃったわよぉ? 聞いた話だとぉ? 関節を折り曲げながら拷問をしたみたいねぇ」

 

 シビルはミランダの話を聞けば聞くほど、怒りのあまり身体を震わせていく。

 

(……まずいな)

 

 感情的になれば、冷静な判断ができなくなる。常に強者が敗北するきっかけとなるのは"感情"。しかもシビルの立場はミランダからすれば強者ではなく弱者。

 

「"あの二人"のように"イケないカラダ"を受け入れれば、イカせられることはなかったのに残念な男だったわねぇ」

「……黙れ」

「素直になればいいのに、最後まで口を開かなかったらしいわぁ。その後、"生徒"が情報を垂れ流したみたいだから、無駄にイカせられただけね──」

「黙れぇッ!!」

 

 シビルが怒りの感情に支配され、左手に握りしめた剣でミランダへ斬りかかる。

 

「あの人は私の"恩師"だ!! どんな時でも私たちを想いやってくれた!! 私たちを誇りに思ってくれた!!」

「あらあらぁ? 少しは落ち着きなさいよぉ」

「私がここまで強くなれたのも、銀の階級まで上がって来れたのも……全部あの人のおかげだ!! あの人は私たち銀の階級が敬意を払うべき人……!!」

 

 闇雲に斬りかかるシビルの剣を、ミランダはひたすらに受け流していた。まるで赤子の手をひねるかのように。

 

「何も知らない吸血鬼が──あの人を冒涜するなぁッ!!」

「うるさいわねぇ」

「くっ……!?」

 

 ミランダは怒声と共に迫りくる剣の刀身を右手で掴むと、地面にシビルを転がすようにして投げ飛ばした。

 

「うふふっ、それじゃあアナタは──」

 

 ミランダは不敵な笑みを浮かべ、シビルとキリサメへ交互に視線を向ける。

 

「──恩師のように想いやれるかしら?」

「……ッ!!」

 

 そしてキリサメの前まで接近し、袖丈をなびかせ、

 

「ほら──()っちゃいなさい」

「うぁあッ!?!」

 

 大きく片腕を振り上げると、

 

「え?」

 

 キリサメの前にシビルが立ち塞がった。

 

「シ、シビルさん?」

「……」

 

 シビルへの呼び掛け。シビルは何も答えない。

 

「だ、大丈夫ですか──」

 

 キリサメが再び呼び掛けた瞬間、シビルの肉体の額から股関節の中央に切れ目が入り、血が溢れ出すと、左右に別れた半身の肉塊が地面へと倒れる。

 

「……」

 

 何がおきたのか分からず、地面に転がっているシビルだったものを見つめていたキリサメはしばらく経つと、徐々に顔を青ざめ、

 

「うッ……うぁあぁあぁあぁあぁッ!?!!」

 

 辺りはキリサメの悲鳴に包まれた。

 

 

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