※この物語は三ノ眷属であるラミアの過去のお話しです。
これはそうだな。ワタシがまだその辺に咲いている花だった頃の話だ。人間たちからは"ヒマワリ"と呼ばれ、丘の上にある一本松の隣に咲いていた。時期は確か春から夏へ切り替わる時期だ。
「あはは、冷たーい!」
「わー! 待て待てー!」
(んだよ、うるせぇガキだな)
丘の近くには小さな村があるせいで、毎日毎日海辺でガキ共がギャーギャー騒いでいる。今すぐにでもこの場所から離れたいが、一度咲いてしまえば二度と動くことはできない。植物にとって哀しい宿命だ。
(おい、テメェも少しは文句を言えよ)
(……)
隣の一本松は無口な野郎。私が咲く前からそこに生えていたが、今まで一度もワタシの声に応えたことはねぇ。
(あーあ、早く冬にならねぇかな)
風に揺れる草木を眺め、ガキ共の声を聴いて、太陽の光を浴びる日々。話し相手がいるならともかく、この無口な一本松は何も喋らねぇから、ワタシにとっちゃあ地獄のような毎日だ。
「あれ? こんなところにヒマワリさんがある!」
(あぁ? なんだこのガキは?)
そう、アイツと出会ったのはワタシが飽き飽きしていたとき。丘の上を歩いて近寄ってきた少女──"ミア"。
「うわー! すっごく綺麗ー!」
(ジロジロ見やがって……。ワタシは見世物じゃねぇぞ)
「あ、忘れてた! えっと、初めまして! 私はミア! この近くの村に住んでるんだ!」
(聞いてねぇよ……)
植物は人間の言葉が分からないと決めつける馬鹿どもがいるが、ワタシたち植物は人間が生まれるよりも前にこの世界を生きてきた。遠い昔の歴史を知るワタシたちが言葉を理解できないはずがねぇだろ。
「ねぇねぇ! 私ね、お歌が得意なの!」
(だから聞いてねぇって)
「今から歌うから聴いててよ!」
ミアは応答するはずのないワタシに声を掛けるだけじゃなく、歌を聴かせるとまで言い出した。ワタシは嫌気が差しながらも目の前に立っているミアを見つめる。
「海の上で~♪ お魚さんと~♪ 私は踊るの~♪」
(……なんじゃその歌)
ミアは自分で考えたであろう歌を私に聴かせた。歌詞の意味はよく分からねぇが、ド下手ではない。むしろそれなり上手い方だ。ミアは次々と自分で考えた歌を歌い続け、気が付けば一時間以上も経過していた。
「……あっ、もうそろそろ帰らなきゃ! 聴いてくれてありがとね、ヒマワリさん!」
(聴きたくて聴いたわけじゃねぇよ)
その日からミアが毎日のようにワタシの前に現れ、考えた歌を披露する日々が始まった。昼頃にワタシの傍でパンを食べ、日が暮れるまで歌を披露する。ワタシも最初はうんざりしていたのだが、
(このガキ、もしかして歌の才能があるんじゃ……)
聴けば聴くほど、ミアの才能に気が付いてきた。その辺に転がってる連中よりも将来有望。しかも新しい歌を、センスのある歌を次々と考えられる感性。このまま成長すれば、貴族に引っ張りだこにされそうなほどの歌唱力だ。
「ふぅー、今日もたくさん歌ったなぁ」
(なんてガキだ……)
一本松に背を付けてぺたんっと座り込むと、ミアはぼそぼそと話を始めた。
「ヒマワリさん。私ね、歌をみんなに聴いてもらいたいんだ」
(まぁそーだろうな)
「でも、私はおうちで歌ったらダメなんだって。お母さんとお父さんに言われたの。私が歌うと『偉い人たちが嫌がるから』って」
(……貴族か?)
偉い人はおそらく貴族のことを指している……となれば、ミアは貴族出身かそれとも貴族に仕える家系の出身か。
「だからね、ヒマワリさんに聴いてもらったの。それにこの丘なら誰も来ないしね」
どうやらミアは歌うことを禁じられているらしい。貴族が嫌がるというのも気になるが、それよりも気になるのは、
(このガキ……なんでこんな怪我してんだ?)
日数が経てば経つほど、ミアの身体に包帯やらが増えていくこと。最初はその辺で転んだのだろうと気にしてはいなかったが、あまりにも怪我の量が多い。
「あっ、もう日が暮れちゃう! バイバイ、ヒマワリさん! また明日ね!」
丘を駆け下りていくミア。私はその後ろ姿を眺めた。どこにでもいる元気な少女の後ろ姿。ワタシは無意識のうちに「また明日会えるのだろう」とその日を過ごしたが、
(もう一週間ぐらい経つか……)
次の日からミアは来なかった。一日、二日、三日経ってもミアは姿を現さない。だがワタシもミアが来ない理由なんて考えられる余裕はなかった。
(や、やべぇ……! 吹き飛ばされちまう!)
梅雨の時期へと入り、荒れ狂う風と豪雨が入り混じる"嵐"が再来したからだ。ワタシは押し倒されないように地面へと張った根で何とか持ちこたえる。
(クソがッ! こんな丘の上に生えちまったのが運の尽きか!)
丘の上ということも
「──!」
押し倒されそうになった瞬間、どこからともなく声が聞こえ、ワタシの茎を倒れないように誰かが支える。
(なっ、コイツ……!)
その人物はミア。こいつはワタシのことを雨風から身を呈して守ろうとしていた。
「大丈夫だよ……私が、守るからっ!」
(バカなことをしてんじゃねぇよ! さっさと帰りやがれ!)
上空で鳴り響く雷。浜辺で荒れ狂う波。ミアは怯えながらも守るために、着ているワンピースでワタシの全身を覆い隠し、その場にじっと座り込む。
「ごめんね……ヒマワリさんのとこに、来るのが遅れて……」
(あぁ分からねぇ! 何なんだコイツは?! 何で植物のワタシなんかを守ろうとしてんだ⁉)
ワタシが混乱していれば、一夜限りの嵐はあっという間に過ぎ去った。朝日が丘を照らし、木々の雨粒が煌めく。するとミアはワタシが折れないように、ゆっくりとワンピースから出した。
「……だ、大丈夫だった?」
ミアは長い髪もワンピースもずぶ濡れの状態。ワタシはそんなミアを見て、何とも言えない感情を抱く。
「嵐でヒマワリさんが吹き飛ばされたらどうしようって思ったら、すっごく心配になって……お父さんとお母さんに黙って家を出てきたの」
(どうしてそこまでして……)
「えっと、お歌を聴かせることができなくてごめんね。お母さんに家から出ちゃダメって言われてて……」
当然だが喋れないワタシの問いには答えてくれない。どうにか聞き出せないかと考えていれば、ミアはその場に立ち上がり、村のある方角へ視線を向ける。
「あっ、もう行かないと! またお歌を歌いに来るから……その時まで待っててね! 絶対にまた来るから!」
慌てるように丘の上を駆けていくミア。ワタシは感謝の気持ちも伝えられず、モヤモヤとした気分で後ろ姿を見送る。
(関わろうとするな)
喋り出したのは隣の一本松。今まで一言も口に出さなかったこいつが喋れることに驚きながらも、
(関わろうとするなって……どういうことだよ?)
その言葉について追及してみる。一本松はしばらく沈黙を貫くと、たった一言だけこう伝えてきた。
(植物と人間は関わるべきではない)
(関わるべきではない? おい、どういう意味だよ?)
(……)
(おい、聞いてんのか!)
一本松はどれだけ声を掛けても返答してこない。何が言いたいのかさっぱり分からねぇまま、ワタシは梅雨の先に待ち構える真夏を過ごすことになった。
(……ミアのやつ、また来なくなったな)
嵐の日以降。ミアは以前と同じく姿を見せない。親に「家から出るな」と言われているからだろう。それにしても何で家から出して貰えないのか。会えないまま時間は過ぎていくばかり。
しかし何も起きなかった日々は、何の予兆もなく一変することになった。
「くそ! あのガキ、どこに逃げやがった?!」
(……?)
質の良い衣服に整えられた髪。明らかに貴族の家系だろう男二人が丘の上までやってくる。
「ここにもいないとなると……森の中まで逃げたのか?」
「手間を掛けさせやがって! おい、お前は西の森を探せ! 俺は東の森を探す!」
「あぁ分かった!」
この男たちは血眼になって誰かを探しているようで、ワタシと一本松へ一瞬だけ視線を向けると丘を駆け下りていく。
(あいつら、誰を探してんだ? ガキって言ってたがまさか……)
何か嫌な予感がする。あの男たちは『心配になって探している』というよりも『探し出さなければ大目玉を食らう』という焦り方をしていた。もしやとんでもない事件に巻き込まれているのだろうか。
「はぁはぁっ……」
(ミア!)
男たちがこの場を去った数分後、汗だくになったミアがワタシの元までやってくる。恐怖と不安に陥っている表情だ。
「こ、ここにはいない……よね?」
(さっき変な連中がここに来たぞ!)
「ヒマワリさん、どうしよう……わ、わたし、このままだと……」
(ミア、何があったんだよ!? お前は何で追われてんだ!?)
言葉が届かないことは分かっているが、聞かずにはいられなかった。ミアは辺りをきょろきょろと見渡し、一本松の裏に隠れると座り込む。
「い、嫌だよ……お母さんとお父さんからお別れするなんて……」
(……お別れ?)
「海の向こうに連れて行かれるなんて……。私、お勉強を頑張ったのに、どうして? お勉強頑張ったら、お母さんとお父さんといられるって、約束したもん……」
(海の向こうに連れて行かれる……?)
「お歌だって我慢して、お友達だって作らないようにして……全部、言うことを聞いたのに……酷い、酷いよ……」
嘆くような独り言。そこから得られる情報でワタシが立てた憶測は、
(──ミアは、売り飛ばされんのか?)
ミアが奴隷として売られるということ。いくつかは不明な点もあるが、貴族の家系である男たちが捜索していることも踏まえればその可能性は高い。
「ちっ、東の森にはいなかった!」
「西の森にもだ! 痕跡すら見つからない!」
(あいつら、戻ってきやがった!)
丘の上まで帰ってきた男たち。ミアはすぐに両手で口を押さえ、一本松の裏側で小刻みに震える。
「くそっ、見つけたらただじゃおかねぇ!」
「……っ」
イライラを抑えきれない男の一人が一本松を蹴り上げる。その衝撃に裏側にいるミアはビクッと身体を震わせた。
「あの"ドレイク夫妻"に噛みついたんだ! 奴隷としての受け入れを反発しやがって! 取引に亀裂が生まれるだろうが!」
(うあぁあぁッ!?)
「……!」
次にもう片方の男がワタシの茎を握り、グラグラと乱暴に揺らす。地面に張り巡らせた根っこがブチブチと嫌な音を立てる。
「あのガキ、一体どこに逃げて……!」
(ご、ごの……クソ野郎が……!)
このままだとワタシはこの男に殺されてしまう。抵抗する方法もない。ワタシは死を覚悟すると、視界に映ったミアの表情に私は息を呑む。
「……」
(ま、待てミア……や、やめろッ……)
その表情を見たとき、一瞬で悟った。ミアはワタシが殺されかけているのを見て、必ず──
「やめてッ!」
「うおっ!?」
(このバカ野郎がぁあぁ!!)
──助けようとすると。
「このガキ、こんなとこに隠れてやがったのか?!」
「きゃあぁあぁ!!」
突進された男はワタシから手を離し、ミアへと掴みかかる。大人相手に少女は無力。すぐに地面へと取り押さえられてしまった。
「よくも俺たちに手間をかけさせてくれたなぁ!?」
「いやぁあぁあぁ! 離してぇえぇッ!!」
(クソッ! クソッ! 動けよ、動いてくれよワタシの身体!!)
目の前にいるのに助けられない。ワタシは感情を高ぶらせながら、茎を、葉を、花を動かそうと必死になる。
「やっと見つけたか」
「ド、ドレイク様……!」
「私の手を噛みついた生意気な娘はその子で間違いないかね?」
「は、はい! この小娘で間違いありません!」
ドレイク家の人間。立派な髭を生やし、シルクハットを被った男性。ミアを取り押さえていた男たちは動揺し、
「私は子供嫌いでね。特に反抗する子供は嫌いだ」
ドレイク家の男は取り押さえられたミアの側まで歩み寄ると、
「腹を括り、役立つだろうと引き取ろうとしたが──」
コートの懐へと片手を入れ、
「──もう必要ない」
リボルバー銃を取り出し、ミアへと何発も発砲した。周囲に血が飛び散り、男たちへの衣服を濡らす。
(ミ、ミア……おい……)
「たすけ……てっ……」
(ミア!)
掠れた声。ミアはまだ生きていると決して届かない言葉を掛ける。
「おか……さん……おとっ……さんっ……」
(クソッ! ミア、ミア! おい、しっかりしろ!)
「まだ生きているのかね」
弾丸を補充するとドレイク家の男は銃口をミアへと向け、
「君の両親はもうこの村にはいない」
(やめろ、やめろぉおぉぉおぉおぉおぉッ!!!)
そしてトドメを刺すかのように弾倉に込めた弾丸でミアの全身を撃ち抜いた。
「い、いいんですか? こ、殺してしまっても……?」
「構わない。取引通りの金は支払った。殺そうが生かそうが私の勝手だろう」
真っ赤になったミアは動かない。私は突然の出来事に整理が追い付かず、何も感情を抱くことができなかった。
「この村にはもう用はない。私は自分の領土へ帰らせてもらうよ」
「は、はい」
「これからも期待はしておくが……次にまたこのようなことが起きれば、どうなるか覚悟はしておくことだね」
「しょ、承知しました! 寛大なお心、感謝致します!」
ドレイク家の男も、貴族の男たちも、丘から去っていく。でもワタシのすぐそばには、まだミアが仰向けに倒れていた。この時、やっとのことでワタシは感情を取り戻す。
(あいつら、あいつらだけは!! ワタシが、殺してやる……!!)
込み上げてきた感情は怒りと憎しみ。思い出したのはミアが楽しそうに歌う光景。
(だから言っただろう。関わるべきではないと)
(てめぇ、今のを黙って見てやがっただろ?!)
ぐちゃぐちゃにかき混ぜられた心境に陥るワタシへ声を掛けてくるのは一本松。ワタシはすぐ側で涼しい顔をしていたこいつに怒りをぶつける。
(我々植物は博識だが、無力な存在だ。故にこうなることはお前にも分かっていたのではないか?)
(黙れ、知ったような口を利いてんじゃねぇよ! てめぇに、てめぇに何が分かんだ!?)
(……お前よりも長く生きているからこそ私には分かるとも)
(あぁ?! 何でてめぇに分かって──)
(私もまた、お前と同じ過ちを犯したからだ)
ワタシはそう返答する一本松に思わず言葉を止めてしまった。
(……どういうことだよ?)
(私の根元にはな、十年以上も人間の死体が埋まっている)
(……!)
(愛を誓い、愛を育み、新たな命を授かる。私はその過程に情を抱いてしまった。抱いてしまったからこそ、この根元に埋められるとき、お前と同じように怒りと憎しみを抱いた)
(だからてめぇは、ワタシに関わるなと……)
(……私が言いたいのはそれだけだ)
一本松は言葉を発さなくなる。ワタシはそばに転がっているミアの死体を目にし、自身の無力さを呪った。
(何も、何もできねぇじゃねぇか。ワタシは、ミアに、何もしてやれてねぇ)
嘆いて、嘆く。それしか、今のワタシにはできない。
「……哀しい」
女性の声、そいつはいつの間にかワタシの前に立っていた。紅の瞳から血の涙を頬に伝わせ、倒れているミアを見下ろす。
(なんだコイツ……? 人間、なのか?)
「いいえ、私は吸血鬼です」
(吸血鬼だと? てめぇ、ワタシの声が聞こえんのか……?)
「聞こえます。だからあなたの哀しみも伝わってくるわ」
その吸血鬼は冷たくなったミアの身体に手を触れる。
「魂は、もうこの世にいない……」
(おい、てめぇは何してんだ?)
「ミアを助けようとしたの」
(なっ、助けられるのか!?)
「……残念ながら助けることはできません」
(んだよ! ハッタリなんてワタシは求めていな──)
「ですがあなたが望むのなら、その命をミアへ吹き込めるわ」
(その命を吹き込むって、どういう……)
吸血鬼の女は血の涙の一滴を指先に乗せると、ワタシのすぐ側まで近づけてきた。
「あなたがミアとして生きるということよ」
(ワタシが、ミアとして……?)
「ええ、ミアの魂はこの世にはいないけど肉体はまだここにあるわ。あなたの魂をミアの肉体へ与えるの」
(……)
ミアの亡骸を見つめる。ワタシは何もしてやれなかった。守られてばかりだった。それは無力な植物だったから。こんなワタシができる、ミアに対しての償いは──
(あぁ、ワタシはミアとして生きていくぜ)
「分かりました」
──ミアがこの世界で生きている証を残すことだ。
「――
(うぐぁぁあぁあぁッ!?!)
血の涙がワタシに触れた瞬間、全身が焼けるように熱くなる。
「私はバートリ卿。あなたの哀しみは――私の哀しみよ」
そしてワタシはその場で気を失ってしまった。
―――————————————
「バートリ、ワタシは何をすればいい?」
「そうね。屋根の修理でもお願いしようかしら」
自由に動かせる手足。自由に喋れる声帯。ワタシはミアの空っぽの肉体に寄生することになった。
「おほほ、愉快なお仲間が増えましたのね」
「えぇ、これで三人目よ」
「あらまぁ、これからもっと賑やかになりそうなこと」
スカーレット卿と茶会を開くバートリを他所に、壊れた屋根の修理を進める。ここはバートリの住処で、ワタシのように血の涙を与えられた連中が住まう居場所。
「まさかまさか、ミアちゃんがお亡くなりなってしまうなんて」
「あなた、あの子について知ってるのね」
「あらあらまぁ、ミアちゃんのフルネームをご存知で?」
「知らないわ」
「"ミア・フローレンス"。フローレンスさんは音楽においてはとても楽しい方々ばかりですのよ。ミアちゃんの両親はお金に目が眩んでしまうあまり楽しくない方々でしたけども、おほほ」
「そうだったのね」
「いつの日かワタクシの部下に、逃げてしまったミアちゃんの両親を殺してもらいましょうか。ワタクシが覚えていたらの話ですけど」
スカーレット卿からミアのことを色々と聞かされた。家系が音楽の分野において長けていたと。ワタシはその話を聞いて、ミアに歌の才能が垣間見えたことに納得した。
「それにしてもドレイク家の方々は随分と好き勝手やってらっしゃるのね。バートリさん、近頃不快な音も増えているように思えません?」
「私たちは人間に干渉してはなりませんよ。いつか分かり合える、その時までは」
「おほほ、バートリさんは乙女な夢をお持ちなのね」
「スカーレット卿、あなたは人間と共存できるとは思わないの?」
「あらまぁ、共存なんてとんでもありませんわ。ワタクシは心地の良い音だけを聞いていたいもの。ですがワタクシの為に一曲奏でてくれるのなら話は変わりますけど、おほほっ」
ドレイク家の人間に復讐をしたかったが、共存を目指しているバートリとの約束で人間には手を出さないと誓った。だからここで大人しく暮らしている。
「ただいまー! 帰ってきたぞー!」
「あらあらまぁ、お帰りなさいませ」
「ス、スカーレットさん……!? どうしてここに!?」
「スカーレット卿とお茶会をしていたのよ。あなたもどう?」
「い、いや……俺は遠慮しときます……」
「おほほ、照れていますのね」
この住処にはバートリと相思相愛の人間の男がいた。顔は冴えないし、度胸もない。人間としては中の下ぐらいのレベルだが、
「そういやミア、君に新しい名前を考えたぞ」
「あぁ? ワタシはミアって名前がついてんだろうが」
「いやいや、ミアはミアって名前でさ! 君だよ君!」
「……ワタシのことか?」
「そうそう! "ラミア"ってのはどうだい?」
ただ発想力だけはずば抜けている。不思議な人間の男だった。
「いいわね。ラミアって名前」
「だろ? 三人目だから……三ノ眷属のラミア! どうだ、カッコいいだろ?」
「ええ、そうしましょうか」
「てめぇら、勝手に決めんな!」
ワタシはラミア。ミアの肉体と共に生きているヒマワリ。ワタシは必ず──
(ミア、ワタシはオマエの為に生きていくからな)
──この世界にミアが生きていたという証を残してみせる。
Recollection : Lamia_END