お姉ちゃんになったお兄ちゃんとイチャイチャしたい。 作:雨宮照
「……それで、オトシストさんはどうしてこのイベントに参加しようと思ったんですか?」
残りのこけしを全て取り上げ、抵抗の意志がないことを確認し。
縄を外したオトシストさんに、疑問を投げかけます。
だって、気になるじゃないですか。
一人前の大人が旅に出て、そこまでして叶えたかった夢ですよ?
確かに、富や名声を手にするために参加するのが一般的で、彼もその一人かもしれません。
だとしたら、そこまでワクワクする要素はないです。その通りです。
でも、手合わせして、縛り上げて。
さらに、傷の炎症が治るまでの時間を一緒に過ごして。
……その結果、なんとなくこの人はただのつまらない人間じゃないような気がしたんです。
そのような信頼感を寄せていたからでしょうか。
見つめると、オトシストさんは照れ臭そうに口を開きます。
……かみ砕かれた蝋が少し飛び出してきました。うわぁ。
わたしたち兄妹が引いていることにも構わず、オトシストさんは話し始めます。
「……俺の実家は、先祖代々のこけし職人だったんだ……。
でも、時代とともにこけしは人気がなくなって、売れなくなってな……。
だから、この大会で優勝して、こけしの人気を再燃させたかったんだ……!
みんながこけしの魅力に気付く世界を、実現させたかった……」
話しているうちに、言葉に熱がこもります。
やがて声は震えだし、瞳も潤み。
神に懺悔するかの如く頭を下げてうなだれます。
「……だけど、結果はこのザマだ……。
大切なこけしをぞんざいに扱って、投げて落として。
……こけしの品位を、地に落とすような愚かなことをしちまった……。
二重の意味で、こけしを落としちまったんだ……。
コケシオトシストって、そういうことだったのかなあ。
……今になって反省してるよ。後悔もしてる。
……でも、こけしドリーム、掴みたかったなぁ……」
こけしを落とす話をしながら、肩をがっくりと落とすオトシストさん。
彼の纏うオーラは悲しげで、寂しげで。
このままでは、この先前を向いて歩いていけそうにありません。
わたしはお兄ちゃんと顔を見合わせて、考えます。
この人を、今後どうしていきたいかを。
オトシストさんは、うちの屋根を壊して二階も突き破った悪い人です。
それに、先ほどまではわたしたちの夢を壊そうとする敵でした。
しかし、目の前の彼は変わり果てた姿になっていて。
……主に鼻の穴がやけどで爛れて、変わり果てた姿になっていて。
……そんな人を放っておけるほど、わたしたちは悪人じゃありません。
だって、昨日の敵は今日の友ですから!
オトシストさんにも、前を向いて進んでいって欲しいです!
視線オトシストには、なって欲しくないです!