お姉ちゃんになったお兄ちゃんとイチャイチャしたい。   作:雨宮照

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影響されるタイプ。

「――で、お姉ちゃんになるって……どういうことだ?」

 

 一時間くらい経って、整理がついた様子のお兄ちゃんがやってきました。

 随分悩んでいたようで、髪がボサボサです。

 告白の件といい、今回の件といい、とっても大変そうです。

 元凶の私が言うことでもないですが、もう少し休んだらいいのに。

 でも、それだと本当に間に合わなくなっちゃいますよね!

 ……それにしてもお兄ちゃん、かっこいいなぁ……。

 ボサボサの頭でも、ワイルドなかっこよさが滲み出ています!

 それも、嫌なワイルドさじゃないんです!

ええと、オオカミみたいな落ち着いた野性というのでしょうか。

少しシャイだけど奥に眠る情熱みたいなものを感じて、きゅんきゅんしてしまいます!

観察して身悶えていると、お兄ちゃんがジトっとした目でこっちを見ていました。

あれは、本当は照れてるのに隠して攻撃的になっている目です!

素直になれないお兄ちゃんが、最高に愛おしいですっ!

そんな目で見られたら……ああっ。

 

「……赤ちゃん、出来ちゃいます……」

「なんで⁉」

「……お兄ちゃんが悪いんですよっ」

「なにもしてないんだけど!」

 

 お兄ちゃんが不本意そうな顔で首をかしげています。

 本当に面白い人です!

 こうしている間にもお兄ちゃんは頭を抱えて悩んでいます。

「お姉ちゃんになる……赤ちゃん…………新しい妹……?」

 なにやらブツブツ呟いていますが、聞こえませんね……。

 今度からはよく聞こえるように盗聴器でも仕込んでおきましょう。

 後から聞き返せて便利ですし!

 悪いことに使ったら犯罪ですが、これは問題ないですよね?

 だって、家族ですし……彼氏ですし……。

 ……彼氏ですし!

 嬉しくて、もう一回言ってしまいました。

まったく、私はチョロい妹ですね。

 でも、嬉しくて仕方ないのは事実です!

 ニヤニヤしてしまいますが、気にしないことにしましょう。

 私は改めてお兄ちゃんに向き直ると、説明を開始します。

「私は、お兄ちゃんのことがずっと好きでした」

「あ、ありがとう……」

「ですが!」

 赤くなるお兄ちゃんに、人差し指を立てて近寄る私。

 お兄ちゃんは、これまでと違う私の様子にビクッと反応して見せます。

 小動物みたいでかわいいです。

 これからは少し苛めてみたくなっちゃいますね。

 またニヤけてしまいそうになりますが、それよりも気持ちを伝えることが先です。

 間をおいて、口を開きます。

「ですが、私はお姉ちゃんといちゃいちゃしてみたいんです!」

「だからそれはなに!」

 再び簡潔に気持ちを述べた私に、お兄ちゃんがツッコミます。

 でも、仕方がないじゃないですか。

 これが私の本心なんです。

「最近、小説や漫画でガールズラブとか百合が流行ってるじゃないですか」

「……うーん……まあ、そう言われれば……」

「……で、私ってよく作品に影響受けるじゃないですか」

「……確かに、昔から海賊になりたいとか急に言い出すことがあったかも……」

 昨今、アニメや漫画では多くのコンテンツが取り上げられます。

 登山や釣りなどのアウトドアに関するもの。

 歴史上の出来事をドラマチックに描いたもの。

 そして、ファンタジーや探偵もの。

 これまで私は、それらの作品たちに影響を受けて自己形成をしてきました。

 それをよく知っているお兄ちゃんは、納得してくれるでしょう。

「つまり……どういうことだ?」

 確認するように聞くお兄ちゃんに、私は簡潔に答えます。

「……つまり、そういうことです」

 ……全部把握したとばかりに、顔を覆って天を仰ぐお兄ちゃん。

 諦めがついた様子です。

「お前はまた、そうやって……うわぁ……ぁぁ……」

 何やら、本気で嫌そうな感じを出して唸っています。

 海賊になりたいと言い出したときのことを思い返しているのでしょうか。

 あの時は……お兄ちゃんも私も中学生でしたが、大冒険をしましたからね……。

 海に行って実際の海賊を見つけるまで帰らないと言い張ったのはいい思い出です。

 ……まあ、本当に見つけて仲良くなったんですけどね!

 未来海賊のウィリアムさんは元気にしているでしょうか。

 私が懐かしさに思いを馳せていると、お兄ちゃんが溜息を吐きました。

 説得でもしようとしているのでしょうか。

 お兄ちゃんが口を開きます。

「でも……どうして、百合で俺なんだ? 俺じゃなくても友達の女の子がいっぱいいるだろ。ほら、仲のいい……ミキちゃんだっけ? あの子とか」

 ……出ました。

 絶対言われると思ってたんですよ、この質問。

 私は両手を上にあげて、やれやれとポーズして見せます。

「お兄ちゃん、バカにしないでもらえますか?」

 さすがに無神経なお兄ちゃんに、語気を強めてしまう私。

 

「私は百合とかそういう以前に、お兄ちゃんのことが好きだったんです!」

 

 言い放って顔を見ると、照れた様子のお兄ちゃん。

 なんですか、私ちょっと怒ってたのに。

そんな顔をされては……愛しさが勝ってしまうじゃないですか!

「大体ですね、私は女の子に恋愛感情を抱いたことが今までにはありません。ミキちゃんだって、ずっと一緒にいますけど、あくまで友達として仲がいいんです」

「お、おう……悪かった」

 怒られて、お兄ちゃんがしゅんとしています。

 抱きしめて慰めてあげたいですが、怒っていたのは当の私です。

 私はフォローをすることが出来ず、自分の主張をまとめにかかります。

 

「……つまりですね、私が言いたいのは……大好きなお兄ちゃんだからこそ、お姉ちゃんになっていちゃいちゃして欲しいってことです!」

「……いやごめんまだちょっと分からない!」

 

 これだけ丁寧に説明しても、私の考えはまだお兄ちゃんに伝わりませんでした。

 二人の道のりは、まだまだ険しいみたいです。

 


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