冬物語   作:くすはらゆい

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 自分の書きたいところが書けました。


第七話 私の冬物語

 皆様、御機嫌よう。パレオと申します(文字だけでは絶対伝わりませんが、カーテシーをしています)。

 

 さてさて、私は何処かの誰かさんと違って(はす)に構えてはいませんので、早速本題に入りましょう。

 

 と、行きたいところなのですけれど、その前に一つだけ。

 

 今から綴る全てが、私の物語の全てというわけじゃ決してありません。私の人生の全てというわけじゃ決してありません。

 

 一中学生の、一断章。

 

 それも冬限定です。

 

 あくまで、私が見たもの、感じたものをそのまま綴るだけですから、齟齬(そご)誤謬(ごびゅう)があるやもしれません。

 

 それだけ頭の片隅に置いて下さいませ。

 

 

 

 僭越ながら、私ことパレオこと鳰原(にゅうばら)令王那(れおな)について綴りましょう。

 

 身長は162cm。誕生日は3月25日。

 

 星座は牡羊座。好きな食べ物はキャベツ。

 

 嫌いな食べ物はパクチーと生たまねぎ。

 

 趣味はアイドル。

 

 などと、記号的なものばかり羅列しても困りますよね。簡潔に完結させましょう。

 

 私は、学校では優等生然として振る舞っています。あくまで「優等生然」です。私より成績の良い生徒はいますし、私より運動が得意な生徒もいます。

 

 ですが、きっと鹿爪らしくいたのが災いしたのでしょう。同窓生の皆さんや先生は、私を優等生扱いするのです。

 

 皆さんの期待を裏切らないよう、私は励精します。これを受けて、皆さんはもっと私に期待をかけてきます。負のスパイラルです。

 

 相談できる人はいませんでした。干物屋を営む両親も多忙で、まともに顔を合わせない日も少なくありません。

 

 ふと、鏡を見ますと、蒼白になった私がいました。

 

 青ざめて、白けていました。

 

 私こと鳰原令王那は、私こと鳰原令王那のことが嫌いでした。

 

 この考えは、チュチュ様と出会うまで、パレオを生み出してくれるまで変わることはありませんでした。

 

 

 

 

 続いて、桐ヶ谷(きりがや)透真(とうま)君について綴りましょう。彼は、私が末席(ばっせき)を汚す2年7組の副学級委員長を務める人物です。

 

 副学級委員長と言いましても、同窓生のどなたかが、彼を推薦しまして、他の皆さんがそれに便乗する形で、その役職に(じょ)されていました。

 

 その際、特に先生や同窓生の皆さんに反論するようなことはせず、すんなりと受け入れていました。

 

 どうも寡黙な人なのでしょうか?

 

 私の推論は、その日の放課後に雲散霧消(うんさんむしょう)しました。

 

 というのも、私と桐ヶ谷透真は、学級委員長と副学級委員長ということで、先生のお手伝いをすることと相成ったのです。前掲の通り、私がなまじ優等生然とした振る舞いを普段からしていましたから、きっと手伝ってくれると踏んだのでしょう。桐ヶ谷君には、とんだ巻き添えをしてしまいました。

 

 彼はいささかムスッとしながらも、辣腕(らつわん)を振るって、お仕事を片付けていました。

 

 そんなことを言いながら、一方の私も、まだチュチュ様との邂逅を果たしていませんでしたから、きっと能面が張り付いたような表情をしていたのではないかと思います。

 

 それを見かねたのか、桐ヶ谷君は私に声をかけてくれました。内容は本当に益体もないことばかりでした。斜に構えた冗談ばかりでした。けれども、それは彼なりの優しさの裏返しのように思えました。素直になれない、実に中学生らしさがあって何処か可愛さも感じられました。

 

 それからというのも、私と桐ヶ谷君は居残って先生のお手伝いをすることが度々ありましたが、彼はその度に左様な話をしてくれました。

 

 そんなことを繰り返していくうちに、私は彼の不器用さの中にある優しさに心奪われてゆくのが分かりました。畢竟、恋というものです。

 

 13年間で初めての感覚でした。彼の声が、表情が、一挙手一投足すら、燦然(さんぜん)と輝いて見えるのです。

 

 「私のため」と言ってしまえば牽強付会(けんきょうふかい)の域に入ってしまいますが、「私に対して」起こしてくれる挙措(きょそ)が、至上の喜びという他表しようがないのです。

 

 ですから、12月24日。クリスマスイブの日。修了式の日。彼が浮かない顔をしていたので、声をかけてみたのです。告白なんてとても出来ませんので、ちょっとした恩返し的な意味を込めて。

 

「そういえば、桐ヶ谷君は冬休みの予定とかあるんですか?」

 

 ────ですが、あまり上手にお話できとは言い難かったです。

 

 パレオの時に、お話しできていれば、なんて考えてしまう私なのでした。

 

 

 

 

 12月25日。クリスマスの日。「冬物語」はこの日を境に始まったと言っても過言ではないでしょう。

 

 その日は、パレオとして、キーボードメイドとして、チュチュ様のお使いをしていました。

 

 お使いの内容の大部分は、チュチュ様の大好物であるジャーキーを買い込むことでしたが、その前に寄ってほしい場所がある由です。その名も、呉服屋「桐ヶ谷」。ここの店主さんとチュチュ様は良好なお仕事関係を築いているらしく、次のRASの衣装もその方にデザインを依頼するのつもりなのだとか。

 

 その店名を初めて聞いたとき、私は真っ先に桐ヶ谷君を思い出しました。ひょっとしたら、桐ヶ谷君の御実家だったりして。

 

 冗談半分というより、戯言そのもののつもりだったのですが、見事的中してしまったときには(厳密には伯父さん宅らしいですが)、私は何らかの予知能力に目覚めてしまったのかと思ってしまいました(あ、これこそ冗談ですよ? いくら中学2年生だからと言って本気で思うはずないじゃないですか)。

 

 というのも、店主さんとの話し合いを終え、お使いに戻ろうとした矢先、店内に随分と若い店員さんの後姿が見えたのです。興味が湧いたのでお声掛けしたところ、何と桐ヶ谷君その人だったのです。

 

 僥倖と言いますか、その真逆と言いますか、パレオの存在を桐ヶ谷君は知ってしまいました。彼は面を食らったような反応でしたが、私だって吃驚仰天(びっくりぎょうてん)でしたとも。店内でしたので、天は仰げませんでしたけれども。

 

 まあ、彼は同窓生の皆さんの前では寡黙ですから、そう安易に私の秘密を広めたりはしないでしょう。ですが、念押しをしておくに越したことはありません。

 

 ですから、私は人差し指を口に添えて、 

 

「私がこの格好をしていたことは、学校のみんなにはくれぐれも内密にして下さいね」

 

 と、ライブパフォーマンス宜しく、(おもね)るように振る舞うのでした。

 

 

 

 

 クリスマスの日。間もなく逢魔時(おうまがとき)になろうとしていた頃でした。私はチュチュ様からのお使いを終えて、帰路に就いていました。

 

 その道中、公園の前を通りましたところ、冬場にしては薄着で、力なくベンチに座っている男の子がいました。男の子、いっても私と同い年くらいの。

 

 よくよく目を凝らすと、それは桐ヶ谷君ではありませんか! 私は思わず駆け寄り、マフラーを彼の首にかけました。

 

 桐ヶ谷君は「これじゃ鳰原が」と最初は遠慮しましたが、私が鞄の中から予備のマフラーを取り出し見せますと、素直に受け入れていました。

 

 彼はたいそう悄然(しょうぜん)とした様子で、諧謔を弄しながら、私に話しかけてくれたあの時の面影はありません。

 

 いえ、昨日できなかった恩返しを今してみせるのです。私は心中でそう決意しました。幸い、今はパレオですから。鳰原令王那の時よりも上手にお話しできるはずです。

 

 私のその思惑通り、桐ヶ谷君は悩みを打ち明けてくれました。私自身、彼と同じくらいの歳月しか生きていませんし、大きなことを言えるような立場ではありません。

 

 ですが、私はチュチュ様と出会って変わったこと、嫌いだった自分を好きになれたことを例に引いた上で、自分を好きになれる理由を見つけてほしい、と語りました。傍から見れば、終始口幅ったい言い草だったかもしれませんが、どうしても彼の助けになりたかったのです。

 

 拙い説法ではありましたが、桐ヶ谷君は元気を取り戻した様子でした。帰り道、いつもみたいに斜に構えた発言をしながら滔々(とうとう)と語ってくれました。

 

 ただ一つ。彼は「悪いな。鳰原」とお礼をしてきたのです。

 

 私は「悪いな」という類の謝辞が好きではありません。素直に「ありがとう」で良いではありませんか。

 

 それと鳰原、ではなくパレオと呼んで貰うことにしましょう。謝辞を貰うべきなのは、鳰原ではなく、パレオなのですから。

 

 

 

 1月1日。お正月の出来事について綴ります。

 

 その日、私は意を決して桐ヶ谷君を初詣に誘いました。デ、デートのお誘いじゃありませんよ!? 先日貸したマフラーを返して貰おうと思いたっただけです。まあ、あわよくば仲良くお話しできれば、という希望もありましたけれど。

 

 かくて、私と桐ヶ谷君は初詣に行くことと相成りました。集合場所で、約束通りマフラーを返してくれました。マフラーのほつれを直した上で。

 

 優しいなぁと思っていますと、神社へと向かう道中で、桐ヶ谷のお腹の虫が盛大に鳴っていました。恥らっている表情が可愛らしいかったです。

 

 神社について、手水を終えて、参道を行こうとする私たちですが、ここでこの不肖パレオは大失態をしてしまいました。

 

 余りの人の多さに、「はぐれないように」との意を込めて、桐ヶ谷君に手を刺しだしてしまったのです。普段はチュチュ様をエスコートする時にしかしないことなのですけれど、つい条件反射的に斯様な行動を取ってしまいました。

 

 まあ、桐ヶ谷君なら諧謔(かいぎゃく)(ろう)してスルーしてくれるでしょう……と思っていたら、何と私の手を取り始めたではありませんか!?

 

 拝殿につく迄、その手は繋がれたままでした。ですがその間、二人は沈黙していました。桐ヶ谷君は何故か急に口数が減らしていましたし、私も周章狼狽してうまく言葉が出てきませんでした。

 

 ただ、雑踏と早鐘を打つ私の心臓の音が、かまびすしくて堪りませんでした。

 

 

 

 

 冬休み明け。私はある事を桐ヶ谷君に伝えようと腹に決めていました。

 

 斯様な切り出し方ですと、(あたか)も告白を決心したかのような表現ですけれど、全然違います。

 

 その週の休日にマスキングさんとパスパレのライブに行く予定だったのですが、彼女の予定が急に悪くなったとのことなので、桐ヶ谷君をお誘いしようと思ったのです。

 

 メッセージなどでも良かったのですが、折角学校で会うのですから、口頭で伝えなければ不自然かと思いまして。

 

 しかしながら、その選択肢の所為で、私は忸怩たる思いに苛まれることになるのです。

 

 当然パレオのまま登校するわけにはいかないので、学校では鳰原令王那として振る舞います。ですが、鳰原令王那の格好では、こんな簡単なことすら口にできないのです。いえ、むしろ冬休みにパレオとしてお話ししてしまった反動といった方が、正しいのでしょうか。

 

 彼を人目が付かないところ──体育館裏に呼び出して、漸く話題を切り出すことができました。

 

 後から気付いたのですが、一周回って告白感が増していましたね。

 

 

 

 

 1月下旬のことです。僭越ながら私の提案で、桐ヶ谷君がRASの衣装をデザインすることに相成り、チュチュ様のマンションを訪うてきました。

 

 ですが、チュチュ様はまだお若い桐ヶ谷君の仕事ぶりに不安が残るのか、御機嫌麗しからざる御様子でした。

 

 険悪なムードが流れる中、それを断ち切ったのはマッスーさんでした。

しかし、何故か私は席を外すように言われたのです。

 

 戻ってみると、チュチュ様も桐ヶ谷君もまったく隔意がなくなって、トントン拍子でお話しを進めていました。

 

 私が居ない間にどんなことを話していたのでしょう?

 

 チュチュ様に訊いても、マッスーさんに訊いても、レイヤさんに訊いても、ロックさんに訊いても、一様にニヤニヤしながら誤魔化すだけで、詳らかにはしてくれません。況や桐ヶ谷君をや、です。

 

 皆して何ですか、私を仲間外れにして! スネちゃいますよ〜!

 

 

 

 

 2月14日。特筆しなくても、もうお分かりでしょう。そう、バレンタインデーです。

 

 女の子が、恋慕を傾けている男の子にチョコレートを渡す、という素敵な行事です。

 

 街に繰り出せば、至るところから甘い匂いが漂ってきます。恋する乙女の心中に咲く花の香りです。

 

 かく言う私も、勿論桐ヶ谷君にチョコレートを渡すために、準備を着々と進めていました。

 

 マッスーさんも、終始ニヤニヤしてはいましたが、積極的にお手伝いしてくれました。

 

 かくてバレンタインデー当日を逢えた私ですけれど、結論から言って、桐ヶ谷君にチョコレートを渡しませんでした。

 

 校則で、学校にお菓子を持ち込んではいけない、とされているからです。鹿爪らしいと言われようが規則は規則ですから。

 

 翌日、衣装の件でチュチュ様を訪うた桐ヶ谷君から、チョコレートを渡していないことがマッスーさんに伝わったようで、彼女にこっぴどく怒られてしまいました。

 

 剣幕というか、剣呑というか、剣そのもののような目つきで。しかしながら、前掲の旨を話しますと、何とか溜飲を下げた様子でした。

 

 そう。仕方がなかったのです。

 

 断じて、“鳰原令王那”に出来ないからといって、“パレオ”に渡して貰ったわけじゃないです。

 

 ─────ないはずです。

 

 

 

 

 バレンタインから1ヵ月が過ぎました。ホワイトデーです。

 

 桐ヶ谷君も、お返しをくれました。中身は手作りのクッキーでした。牽強付会かもしれませんが、私の“手作り”に“手作り”で応えてくれたのでしょうか。

 

 しかも、プレゼントはそれだけではありませんでした。10日後、私に伝えたいことがあるのだそう。

 

 一体どのような御用事なのでしょう?

 

 などと蒲魚ぶる私じゃありません。

 

 思い返せば、この冬を通して、私と桐ヶ谷君の距離はぐんと縮まりました。

 

 きっと私が望み続けたお話しをしてくれるのでしょう。

 

 その時は、真面目に話すのか。それともいつものように諧謔を弄しながら話すのか。

 

 はてさて、どちらなのでしょう。

 

 

 

 

 3月24日の未明。

 

 夢を見ました。とんでもない悪夢を。

 

 真っ白な空間、あるいは真っ黒な空間だったかもしれません。そこは朧気です。

 

 ともかく、何もない空間に“パレオ”が居たのです。

 

 “パレオ”は意地悪そうに言いました。

 

「鳰原令王那。貴方、本当に桐ヶ谷君に告白されると思っているんですか?」

 

 頓に投げかけられた質問に、私は押し黙ります。それをいいことに更に“パレオ”は追い打ちをかけてきます。

 

「クリスマスの日も、お正月の日も、バレンタインも、全部“私”だから上手くいったんですよ。

「ホワイトデーだって受け取ったのは、いや、桐ヶ谷君がプレゼントをくれたのは“私”です。伝えたいことがあると言ってくれたのは“私”です。

「断じて貴方じゃありません。

「桐ヶ谷君は、“私”を見てくれているのです。

「鳰原令王那。貴方は、桐ヶ谷君と一緒にいるべきではないのです」

 

 翌朝。最悪の目覚めでした。朝食を摂ろうとリビングに入りました。当然の如く、両親はいません。きっとお仕事でしょう。

 

 私は、学校へと架電しました。

 

 

 

 その日、私は初めてのズル休みをしました。




 次回、最終回!
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