太陽神のやり直し〜繰り返す世界で友を想う〜 作:ポプラと琥珀
矢を放つ度に反動で頭が真っ白になる。
「たしか…記憶が少しずつ入れ替わるんだっけ」
しかし、そんなことお構いなしに、見上げても、見上げても、その頂きが見えない怪物に矢を放ち続ける。一撃で山を穿つ攻撃のはずだが、怪物の鱗状の下半身には傷一つ付いていない。
「まぁ、俺の役割はこいつを仕留めることじゃないからな。」
ふと、自らの記憶を探った。もう家族の顔も、恋人との最後の別れすら思いだせない。そして、その代わりに脳内で再生される記憶はどれも、今の自分の状況に酷似していた。
「そうか…俺の前に何人も、同じ宿命を背負った人がいるのか。アポロン様ったら、こんな大事なこと何で言ってくれないかなぁ!」
続けて矢を放つ。もう消える記憶が無くなると、今度は意識が薄れていった。その焦燥感と、人間の身で抱え過ぎた重荷によって、ついに感情が暴走した。
「あんただけで背負うなよ! 俺たちは、あんたの駒じゃない! あんたの友達だ!」
叫んでいる間は自我を意識出来たが、それも止めると、今度こそ意識は消えようとした。
「まぁ、いいや。俺たちを思っての事だったんですよね。最後まで貴方らしい貴方が見れて良かった。…俺の体、ちゃんと使ってくださいね」
届かぬはずのメッセージを残すと、宿命を背負った人間は静かに息を引き取った。
***
「逝ったか、我が友よ。そなたとはすれ違ってばかりだったが…約束は果たそう」
意識の消えた屍に神の魂が宿り、その体は不死の肉体へと変化した。
「我は光明神アポロン。我が生涯最後と決めた盟友の約束に従い、悠久の時の果てに、お前を今度こそ射抜く」
アポロンは黄金に輝く弓を引く。彼にしか引けないとされる、事実上世界一の弓だ。
次に、右手から業火が溢れ、やがて矢の形になると弓に収まった。
巨大な怪物は危機を察知し、身を捩らせたが、アポロンが弦から手を離す方が早かった。
「さらばだ。我が盟友と共に散れ」
アポロンが放った矢は、光輝と轟音を纏ったが、やがてその両方を置き去りにすると、怪物の胴体を二つに裂いた。その上半部は灰となり、空に吸い込まれる様に散った。
しかし、下半部はまだ崩壊を始めない。
それどころか未だに蠢き、膨張を始めた。
「……まさか!! ここまでやってもまだ足りぬと言うのか!!」
意思のない怪物は、やがて、元のサイズにまで膨らむと爆ぜて、世界に黒い灰を撒き散らした。
アポロンがこの灰を体験するのは4回目だ。そのいずれの結末も、生命体の消えた世界しかなかった。
「またも失敗か」
黒い灰は空を覆いつくし、世界の終焉を告げた。それを見て、アポロンは呆然と立ち尽くすことしかできない。
「私は…あと何人、犠牲にすればよいのだ」
彼の零した涙が地に吸い込まれると、そこから14の葉の植物が生えた。その葉の数は、アポロンが最後の友と決めた人間の数と同じだった。
「私には分からない。あの怪物を滅ぼす方法も、汝らにどう償えばいいのかも!」
そう言うと、植物から葉は全て枯れ落ち、代わりに一つの種を宿した。
「分からぬ。汝らは私に何を求める。せめて一度でいいから、汝らと再び会話がしたい。…しかし、汝らがそれを拒むというなら、私は進み続けるしかないのだろう」
アポロンは植物から種を取り出し、力強く握ると、地に落とした。やがて、彼の希望が籠った種は発芽し、弱々しくも懸命に、終わる定めの世界で呼吸を始めた。
それを見届けると、彼は覚悟を決めた。
「次こそは、最後の友にしよう」
宿命を背負った男神は、瓦解する世界の中、15回目の誓いを立てた。