マギアレコードRTA noDLC みかづき荘チャートAny%   作:なぁ……相撲しようや……

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Part10 : 置いていくのが妥当じゃない?

「う、うん? ゆりさんだけ、洗脳が解けませんね。おかしいです、お二人に施したのと同じ処置なのに……」

 

 いや、解けてるよ。

 記憶ミュージアムで洗脳を受けて、マギウス達の拠点であるフェントホープへ運ばれて数日。梓さんが私達の監禁された部屋にやってきて、私達の洗脳を解いた。

 マギウスの今回の行動は梓さんにとっても不服だったらしく、それで私達を逃がそうとしてくれた。だけど、まだ調べたい事があるから、梓さんの手は取れない。

 

 時々視察に来るマギウス達の心を読んだ時に……感情エネルギーの収集が予定より大幅に遅延した時の為の、リカバリープランの内容を知った。

 神浜市へと厄災——ワルプルギスの夜を呼び出し、それによって発生した大災害によって生まれる感情エネルギーを収集するというプラン。

 

 ワルプルギスの夜という名前なら聞いた事が、いや、見た事がある。以前電波塔に行った時に会った暁美さん、彼女が倒そうとしている魔女の名前だ。親友が殺される未来を変える為に時間遡行をするきっかけとなった魔女であり、顕現すれば街が一つ吹き飛ぶ程の強大な存在。それを人為的に呼び出そうというだけで実に悍ましい。

 出来る事なら、いや、絶対に何が何でも止めないといけない。

 

 梓さんはこのプランの存在を知らないみたい。教えたら、阻止に協力してくれるかな。……ううん、マギウス——里見は洗脳処置後の経過観察終了後、私を手元に置いておくつもりらしい。

 このまま洗脳が解けていないフリをしていれば、マギウスに最も近い所に侵入できる。だからわざわざ梓さんの協力を取り付けるまでもない。二葉さんとフェリシアちゃんを連れて行ってもらって、私のフットワークを軽くしてもらえればそれで十分。

 

「ゆりー。本当に一緒に行かないのか? 帰った時にメシの味がいつもと違うなんてオレ嫌だぞー?」

「うん。解放の為だからね。それとご飯なら万々歳行きなさい万々歳」

「と、止めない……んですか? 私たち、その……マギウスの翼から逃げるような物ですけど……」

「止めない止めない。解放って押し付ける物ではないからね。誰にも邪魔されず自由で、なんというか救われてなきゃあダメなんだよ」

「オマエほんとは洗脳解けてないか?」

 

 話している途中に、部屋の外から足音が聞こえた。

 

「マギウスです。皆さんもうしばらく洗脳されたふりをしていて下さい」

 

 みんな一斉に身なりを正して……うわっ二葉さん脱力した感じの目にするの上手っ。マギウスの来訪に備えた。

 

「まだ洗脳は続いているかにゃー?」

「はい、ばっちりです」

 

 入ってきたのは里見灯花とアリナ・グレイ。もう一人——柊ねむはいないらしい。

 アリナは私の顔に手をかけ、美術品でも愛でるかのように撫でた。

 

 私は相手の心を読む力を持ってる。いつもはとても便利に使わせてもらっているけれど、今ばかりはこの力を持っている事をちょっと後悔してる。癖でつい無意識にアリナの心を読んでしまった。

 彼女はとても独創的な思考回路をしていて、私の美的感覚だと覗くと正気度が削れてしまうから、以前二葉さんに関する騒動の時に会った時から、絶対に二度と彼女の心を読んだりしないと決めていたのに。癖って怖い。

 ちなみに彼女の今考えてる事はこう。

 

「あぁ、アナタの目玉、抉り出して私のコレクションにしたいわぁ……」

 

 そう、今アリナが声に出して言ったのと全く同じ内容。なんで口にするんだ。目を抉るなんて想像どころか文面を見ただけでもかなり恐ろしいよ。ほら、二葉さんと深月ちゃんも怖がって……えっ、梓さんと里見も引くんだ……仲間同士なんだからアリナの趣味にも理解を示してると思ってたけど、全然そんな事は無かった……

 なし崩し的に目を差し出す事になっても困るので、ここはちゃんと否定を入れておく事にした。

 

「目が無いと解放に協力する事も出来ないから、それはちょっと勘弁……あ、見るだけならいいよ」

「ドントウォーリー。本当に抉り出す気なんてさらさら無いカラ。綺麗だとは思ってるケド」

 

 私が一言入れなかったらそのまま抉り出すつもりだったくせに……

 

「アライブとデッドの境界線を越える瞬間。アナタのそれなら生きている人間が決して理解し得ない事柄でさえ見る事が出来る。その事に気付いてから、アナタのこのアイがとってもビューティフルな物に見えるのよネ」

「仮に読心魔法という存在を学者やら世間やらに認めさせる事が出来れば、その用途で医学はめざましい発展を遂げるだろうねー? ま、私たちの目的が達成されればそんなの必要なくなるけど」

 

 そう話した里見は私達を一瞥して、そして二葉さんとフェリシアちゃんを指さした。

 

「虹絵ゆりの扱いはもう決めてるけど、そっちの二人はどうしようかにゃー? 今まで散々苦しめられてきたから、なるべく苦痛を与えてあげたいよねー?」

 

 ものっそい恨んでいらっしゃる。まぁ、主力級のウワサをいくつも消されたら、恨みたくもなるかな。

 どうしよう。せっかく梓さんが逃げ道を用意してくれていたのに、無駄になってしまいそう。ただ梓さんはこの状況も想定していたようで、事前に考えていた文言をそのまま口にしました。

 

「そうだ。仲間は仲間同士、傷つけ合ってもらうというのはどうですか?」

 

 その発言に里見とアリナは豆鉄砲を喰らったハトのような顔をして、そして梓さんの言った事を理解し、にやりと不気味な笑みを浮かべた。

 

「洗脳された仲間に傷つけられて、それでもやり返せない……あぁ、エモーショナルでいいネ……」

「くふっ。みふゆも吹っ切れた感じがするねー」

「はい、覚悟は出来ました。そういうわけでお二人は私に任せてくれませんか?」

「分かった、みふゆに任せるよ」

「結果、楽しみにしてるカラ」

 

 そして二人は部屋から出て行った。小さく響く足音が離れていくのを確認して、深月さんが口を開いた。

 

「……で、どうすんだよ」

「とりあえずお二人はこのままやっちゃんの所に行かせるつもりですが……ゆりさんはどうしましょう。洗脳の解けていない状態のままだと何があるか分かりませんし……」

「まぁ危ないし置いていくのが妥当じゃない?」

「なんで本人がそれ提案できんだよオマエ」

「脱走が発生したという前例が生まれることになりますから、ここで一緒に行かないとゆりさんへの監視が強化されてしまい、私が手引きして逃がすのが難しくなってしまいます。出来うるならここで一緒に行かせたいのですけれど……」

「でもほら、洗脳解けてないし。置いていくしかないよ」

「ですが……」

 

 押し問答になってる。梓さんはどうしても全員を助けたいと思ってるし、私はどうしてもここに残りたいと思っている。なんとかして納得してもらわないと。そう思った矢先にこの問題を解決したのは二葉さんだった。

 

「あの……! ゆりさんの言う通りだと思います。本当に残念ですけど、諦めないと……」

「さな? 正気か? ここに残したら、マギウスに何をされるか分からないんだぞ?」

「それでもです。せめて私たちだけでも帰って、やちよさんに顔を見せましょう。ね?」

 

 私の意図を汲み取ってくれた。具体的に何をしようとしてるのかは分かってないけど、とにかく私のフェントホープに残りたいという意思は伝わったみたい。

 

「私達二人でみかづき荘に帰って、それからまた、ここにゆりさんを助けに来ましょう。やちよさん、いろはちゃん、鶴乃ちゃん、みんなを連れて一緒に……」

 

 普段気弱な子の押しというのはフェリシアちゃんには中々に威力が強かったらしく、ほとんど二つ返事のように私を置いていく事を受け入れ、梓さんもみんながいいと言うのならと意見を変えてくれた。ありがとう二葉さん、帰ったら好物のブリで何か一品作るからね……

 

「では、お二人はこれに着替えて下さい。黒羽根用のローブです。後でウワサを守る担当の白羽根が来ますから、彼女と共にウワサの防衛に参加して下さい。やっちゃん達がウワサを派手に消して回っているという話がワタシの耳に届いています。ですからきっと合流出来るはずです」

 

 ウワサを消して回っている? ……まずいかもしれない。ワルプルギスの夜を呼ぶリカバリープランの実行が早まった可能性がある。受動的でない、能動的な情報収集を行わないと、阻止が間に合わないかもしれない。

 それと、二人にはみかづき荘のみんなにマギウスを刺激しないよう伝えてもらう必要がある。もう遅いかもしれないけど、リスクを減らすためだからやっておかないと。

 悩んでいる間に梓さんが部屋を出て行き、後には私達三人だけが残された。

 

「……で、アイツがいたから言えなかったとかじゃなく、本当に洗脳されてるのか?」

 

 フェリシアちゃんの質問への返答として、私は手招きでフェリシアちゃんを近くに寄せて、その耳元で小さく囁いた。

 

「ハイルマギウス……」

「何なんだよオマエ!? 意味深な行動からしょーもないこと言いやがって!」

「うわぁ暴力反対!?」

 

 流石にからかい過ぎたのか、深月さんに飛びかかられ、襟元を引っ張られた。そうすると首が絞まって苦しいので転がって抵抗するけれど、中々に深月さんの握力が強く、全く離れない。ドタバタドタバタと暴れている内に、白羽根の人が部屋にやってきた。

 

「うるさいぞ、何をやって……本当に何やってるんだ?!」

 

 その白羽根の人に間に割って入られるまで組み合いは続いた。なんというか、疲労がすごい。特に何の意味もない喧嘩だったから尚更。服の皺を軽く引っ張って直した。

 あぁ、二葉さんとフェリシアちゃんが部屋を出ていく前に声をかける。

 

「くれぐれもウワサを消されないように! 友人知人にもウワサには手を出さないよう伝えるんだよ! ほんとにね!」

「……いやオマエ、心配しすぎだろ」

 

 伝わってなさそうな反応だけど、実際にはフェリシアちゃんにはちゃんと伝わってるから問題ない。ウワサを消さないようみかづき荘のみんなに伝える。フェリシアちゃんはそれを理解し、了解の返事を心の中でした。洗脳にかかっていない事はバレたけど、洗脳されたフリをしたいという私の思惑も一緒に把握してくれてたから、そこは構わない。

 白羽根が二人を部屋から連れて行き、そして部屋の中が静かになった。さて、次のマギウスの視察まで……いや、晩ご飯が運ばれてくる方が早いか。それまでまだ時間がある。その間に部屋から抜け出して、このホテルフェントホープの中を忍びながら周り、情報を集めていかないといけない。まずは内部構造の把握からだね。

 

 ……という方針を決めて行動を始めて二日目。フェントホープの地下で、とんでもない物を見つけた。エンブリオ・イブの本体、つまりいろはちゃんの妹さんだ。

 地下はとても広い植物園のような所で、エンブリオ・イブはその中央に鎖を繋がれて閉じ込められていた。エンブリオ・イブ——環ういは、この場所で眠りながら、夢の中で姉をずっと探しているらしい。

 姿形が魔女で、本能も魔女のそれに支配されているにも関わらず、心の内に絶望以外の思考が未だ存在しているのは、彼女が半魔女という特殊な状態だからだろうか。

 早速助け出したい所ではあるけれど、今はダメ。マギウスによるとイブはドッペルシステムの根幹を成している。ここでドッペルシステムからイブを切り離した場合、何の通知も無く唐突にドッペルシステムは無効化されてしまう。

 通知が無いというのが最悪だ。ドッペルが既に使えない事に気付かずソウルジェムを濁してしまって魔女化してしまった、そういう事例が山ほど起きるのが今からもう目に見える。イブから環ういを助け出そうと思うのなら、事前にドッペルシステムの無効化を広く周知させておかなければならない。だから今はまだダメだ。

 

 イブの目前にはテーブルがあり、その周りには椅子が三つ、そして卓上には使用済みのティーセットと、書類が置いてあった。

 書類を手に取って目を通す。タイトルは……感情エネルギー収集の障害発生時の対応について。

 仮に感情エネルギーが不足する状況に陥った場合、電波塔から周波数約1420MHzの電波、通称21cm線を利用し、ワルプルギスの夜を神浜市へと誘導、エンブリオ・イブに食わせ、魔女化に必要なエネルギーを一括で入手する。……といった感じの内容だった。

 里見の計算によればこれを行うだけで必要量のエネルギーの確保は可能で、所々に貼られた付箋に書かれたメモから見るに、里見自身はこのプランを実行したがっている。キュゥべぇに発見されてドッペルシステムを崩壊させられるのがよほど怖いらしい。

 なるほど、確かにその為にワルプルギスの夜を呼ぶというのは完璧な作戦だ。それによる街や人への被害を完全に無視すれば。

 ドッペルシステムによる恩恵が確認されている今なら、神浜市内の魔法少女に協力を要請すれば、大半が快く引き受けてくれる、はず。だけどそれも、ワルプルギスの夜の招来という最悪の事態を引き起こした張本人になってしまえば、叶わなくなってしまう。ルビコン川が渡られてしまう前に早く対策をしないと。

 

 マギウスの利用可能な電波塔を全て破壊する、というのはどうだろう。……厳しいかも。この案だと中央区の電波塔も壊さないといけないけど、それで影響があるか分からない。

 じゃあマギウスを行動不能にさせてどこかに監禁して……いや、他の羽根を使ってワルプルギスの夜を呼ぶ可能性もある、マギウスの翼まで全員の身柄を抑えるのは無理——

 

「探し物は見つかったかな、虹絵ゆり」

 

 唐突にかけられた声に、振り返る。この植物園の入り口には里見灯花が立っていた。

 

「……いつから見ていたの?」

「うーん、今日あなたが部屋を出た辺りからかな。驚いたよ、あんなに強固にかけた洗脳が解けてるなんて。一体誰の手引きなのかにゃー?」

 

 変身。あいつの肩を狙ってライフルを撃つ。

 しかし弾丸は命中せず、里見の手前で時間が止まったかのように停止し——こちらに向かって飛んできた。

 ……右足首の痛みが、弾丸がどこに命中したのかを鮮明に語った。

 

「——ッ!」

「あ〜あ。脳味噌働かせて考えないからそーなるんだよー? わたくしが最も強く力を振るえるここで、万一にも勝てる可能性なんてあると思う?」

 

 里見から追加で放たれた魔力の攻撃が左足首を貫通した。痛覚はシャット済みだから痛みは無いけれど、足が動かなくなって尻餅を付いてしまった。もう歩けないけれど、戦うだけならまだなんとかなる。ドッペルなら足の代替になってくれる。

 私に見せて——!

 

 ——あれ。高速で穢れを溜める魔法を使ってるのに、一向にドッペルが来る気配が無い。そうだ、ソウルジェム! ソウルジェムを見れば、どうなってるのか分か……うわぁ……

 私のソウルジェムは爛々と光り輝いていた。魔力を使っても使っても、一向に穢れの一片も現れる気配が無い。そんなソウルジェムを見つめる私の様子を見て、里見は口元に笑みを浮かべた。里見の仕業だった訳だ。

 

「一体、どんな手品を使ったの?」

「穢れを吸い取る装置が真横にあるんだよ? ちょっと設定を弄れば、ドッペルを介さず穢れを集める事だって出来るんだよー?」

 

 逆に言えば魔力を無限に使えるという事だけど……それでも、里見と戦って勝てるビジョンが見えない。そもそもの出力が違いすぎる。燃料無限という同じ土俵に立てたからといって、エンジンの性能が変わるわけじゃない。

 

「みふゆにはこれまでマギウスの翼を支え続けてくれた恩がある。だから二葉さなと深月フェリシアをみかづき荘に返す事については目を瞑ってあげる。でもわたくし達の懐を漁ったわるーい人のあなたはダメ。今この場で死んだ方がマシだったと思うような、強烈な絶望を味わわせてあげる!」

 

 里見から追加で放たれた魔力を喰らって、私の視界は真っ黒になった。

 

 ——次に目を覚ました時、私はウワサになっていた。心の内は遊園地の管理をしなければならないという義務感でいっぱい。再度洗脳をかけられたようだった。

 魔力のこもった大きなゴーグルを付けられており、これのせいか私の固有魔法は無力化されている。足の怪我はとっくに治っていて、ウワサの分の魔力が私の体を巡っている分、以前よりむしろ頑健になった気がする。

 

「お目覚めかな、虹絵ゆり。死刑執行人になった気分はどーお?」

「眠い」

「頑張って?」

 

 周りには、里見灯花、アリナ・グレイ……それから最後のマギウス、柊ねむがいた。他人の記憶の中で見た事は何度もあったけど、実際に会うのは初めてだ。

 柊ねむは私に遊園地を作れと言った。その言葉を聞いて私は思った。まだ出来てもいない遊園地の管理をしなければならないと思っていたんだなと。

 ともかく、私はどんな遊園地を作ろうか考えた。その最中、目が痒くなったので掻こうとしたら、ゴーグルに邪魔をされた。洗脳のせいか、ロックがかかっている訳でもないのにも関わらずゴーグルを外す事が出来ない。まずい。生命の危機だ。洗脳を施した張本人だろう里見にゴーグルを外す許可を求める。

 

「目を掻きたいんだけどこのゴーグル外していい?」

「バイザー」

「え?」

「ゴーグルじゃなくてバイザー」

 

 私が名称を間違えたのがよっぽど頭に来たのか、頼んでもいないのに里見はゴーグル……あ、いや、バイザーについての説明を始めた。

 簡単に外れないよう顔に張り付く設計で、かつ広い視野を得られるよう工夫も施しており、寒い時期なので曇ったりしないようコーティングもしていて……などなど、このバイザーの仕様を長々と語っているのだけど……聞けば聞くほどバイザーではなくゴーグルと呼ぶのが適切なように思えてくる。

 それと、私の固有魔法が使えないのはやはりゴーグルの仕業のようで、なんやかんやで魔力の流れを制限し、固有魔法が働かないようにしているとのこと。具体的な技術については全く理解出来なかったけどそういう事らしい。

 あとゴーグルを外す許可は貰えなかった。目の痒みに一生悩まされ続けていろとのこと。柊さんからの同情の視線が身に沁みた。

 

 遊園地の設計も建設も終わり、いよいよ開園が迫った夜明け前の夜。みかづき荘のみんな……いや、二葉さんとフェリシアちゃんがいないな。その他の三人、いろはちゃんと鶴乃ちゃんと七海さんがキレーションランドへとやってきた。

 どうやら向こうは私の所に二葉さんとフェリシアちゃんがいると思っていたようだった。入れ違いというか、上手く合流できなかったみたい。という事はウワサを消すなという私の言葉も届かなかったに違いない。

 洗脳で植え付けられた遊園地の管理人としての本能が、このまま話が続くのならみんなを叩き出すべきだと訴えかけてくる。更に言えばみんなは私をここから連れ返す気満々だから、もはや武力行使は避けられない。戦いのゴングが鳴る音が聞こえた。

 

 先にゴーグルを外してもらって私の読心魔法が働く状態にし、物理(?)的に心が通じ合っている状態にして、ウワサを剥がしてもらう事に成功した。

 これで私は助かり……そして感情エネルギー収集の障害が発生した。

 キレーションランドのウワサにかけられた労力はかなりの物だ。神浜市中の人間を集める勢いで噂を広め、魔力リソースもふんだんに注ぎ込んでいた。それだけこのウワサから得られる感情エネルギーに期待していたという事だ。

 それが、私がウワサから剥がれたという形で頓挫しようとしている。そうなったら、マギウスはワルプルギスの夜を呼ぶ。確実に。

 災厄が神浜市にやってくる。悪夢が神浜市にやってくる。

 止めないといけない。早く。手段はない。でも早く止めないと——

 

「——落ち着いて下さい!」

 

 パシン、と。いろはちゃんに、頬を叩かれた。

 

「ゆりちゃんはいつも冷静で、私が取り乱した時にも支えてくれた。でも今のゆりちゃんは本当に焦ってる。らしくないよ、一体何を見たの? 私達にも教えて。ゆりちゃんがみんなの悩みを共有するだけじゃなくて、私達にもゆりちゃんの悩みを共有させてよ……!」

 

 いろはちゃんが心の底から心配をしている事が伝わってくる。

 ……うん、確かに焦っていた。目の前の仲間にとりあえず情報を渡すのを失念するぐらいには。私にはワルプルギスの夜の招来を止める手段が分からなかったけど、みんななら何か思いつくかもしれない。そんな簡単な事にも気付かず、喚くという非生産的な事をやっていたんだね、私は。

 

「このウワサは……消すべきじゃないかもしれない」

 

 当然だけど、私のこの一言を聞いたみんなは目を丸くした。まぁ、理由を説明してなかったらこうなる。だから続けてそう考える理由を述べた。

 マギウスにワルプルギスの夜を呼ぶプランが存在する。ウワサが多数消された事に加え、一発逆転を狙ったこのキレーションランドのウワサまで消えたら……確実にマギウスはそのプランを実行するだろう、と。

 

「……だからといって、この遊園地に人々が殺されてしまうのを見過ごすのは嫌だわ」

「それはそうだけど、この遊園地を取り壊したらワルプルギスの夜が現れて、神浜市中が大災害に襲われる。それならいっそ、ウワサに誘われてやってきた人々のごく一部を犠牲にした方が——」

「いつだったか、あなたが暁美さんに言った言葉、覚えてる? どちらかだけを選べないなら、両方を選べばいい。あなたはそう言った。今回の事も同じよ。遊園地のウワサを消して、ワルプルギスの夜もやっつける。難しい事かしら?」

「無理だよ。ワルプルギスの夜には勝てない。巴マミでさえ勝てなかったんだ。仮に勝てたとしても、その時にはまた別の絶望がやってくる。七海さんもアレがどんなに強大な魔女かは知ってるでしょ?」

「もちろん知ってる。その上でワルプルギスの夜をやっつける、倒せると私は本気で言っているってあなたなら分かるでしょう?」

 

 ワルプルギスの夜を倒した時にはまた別の——鹿目さんの魔女が街を滅ぼすというのに。

 

「七海さんは分かっていない。あれは倒せない」

「実際に見た事があるような言い方ね。……もしかして本当に見た事があるの? 巴さんの名前が出てくるって事は、見滝原の子が?」

「そう、その内の一人だよ」

 

 七海さんは困惑した。見滝原の、鹿目さん暁美さん美樹さ……美樹さやかって誰? あぁ、鹿目さんの友達なのね……そこはともかく、七海さんは彼女達にワルプルギスの夜と相対した経験があるようには見えず、困惑していた。が、そうであるならばむしろ僥倖だと思い直した。

 

「なら、その子にも協力をしてもらいましょう。皆がいるんですもの、力を合わせればどんな困難だって乗り越えられるはずよ」

 

 なんというか、七海さんは変わった。最初にあった頃は一匹狼というか、固有魔法の件があったから人を遠ざけようとしていたけれど、今はみかづき荘の仲間に限るという注釈が付くものの人を頼る事を覚えた。それが嫌に感じる。仲間と助け合えばいいとかなんとか言って、折れてくれないから。

 ……待てよ。して貰えばいいじゃないか。協力。なんでこんな簡単なことに気付かなかったんだろう。もしこれで何か致命的な結果になったら、その時は暁美さんに時間を巻き戻して貰えば全て無かった事になる。

 

「分かった。後でかけ合ってみる」

「えぇ。今はウワサをなんとかしましょう!」

 

 ライフルを構えて、ウワサへと向き直る。

 ごめんね。遊園地を作ってる時はそれなりに楽しかったけど、それはそれとしてウワサとしての活動をするのは許容できない。虫の良い話だけど、どうかここで消えてほしい。

 

 

 ◇◇◇◇◇

 

 

 キレーションランドのウワサの討伐に成功しました。いやー、やっぱりゆりちゃんの武器の方が手に馴染むね。いろはちゃんのクロスボウも悪くはないけど、やっぱりマークスマンライフルが一番。戦争は貫通力だよ兄貴!

 

 ウワサ空間から脱出した先では、もはや争う理由を失ったマギウスとかもれ達がウワサ空間への入り口であるゴンドラの様子を伺っていました。ゆりちゃんが無事なことが確認されると、かもれとなぎたんは安堵の声を出し、マギウスは消沈の表情をしました。

 そんな中、最後のマギウス——柊ねむがやって来……吐血した!?

 えーと、挨拶をして自分の名前を述べた直後、盛大に血を吐いて倒れました。ウワサを作った直後という弱った状態で出かけてきたので、ぶっ倒れたらしいです。え、それってそんなに重いの?

 これでも一応ねむちゃんの顔は見れたので万年桜のウワサに繋がるフラグその二は回収出来ており、RTA的には別に問題ないんですけど、いろはちゃんの寿命縮んでそうだな……ただでさえ手首吹き飛んだなんて髪の毛薄くなりそうな事やらかしちゃったのに今度は妹の親友の死にかけの場面を見るなんて……

 

 落ち着いて話を出来るような状況ではなくなってしまったので、里見灯花に搬送されていくねむちゃんを見送り、アリナとみふゆさんとも別れ、かもれとなぎたんとは明日に情報を共有する場を設ける事を約束して、解散になりました。

 

 

 ◇◇◇◇◇

 

 

「ハァ〜、やっと帰って来れたって感じがするよ、ねぇゆりちゃん!」

「まぁ……そうだね」

 

 間もなく日付も変わりそうな……あ、まだ日が回ってなかったんですね。ともかく、そんな感じの遅い時間に、私達はやっとみかづき荘に帰ってきました。

 なんというか今日はとても濃い一日でした。十七夜さんにあって、月夜ちゃんと月咲ちゃんにゆりちゃんの居場所を聞き出して、そして……えっと、ねむちゃんが血を吐いて……私が願いを叶える前の頃に抱えてた不安がまた刺激されて……うん……この話やめよう。

 見れば、ゆりちゃんは未だ落ち着かない様子でした。ウワサから剥がれた直後に言ってた、ワルプルギスの夜について、明日に話し合う事は決めてるんですが……それでも、憂いは消えないのでしょう。

 

「ほら、悩んでる事あるでしょ! 言ってみて! たまには他の人も頼ってみよー!」

「よりによって鶴乃ちゃんに言われるのは心外だよ……えと、全部終わったみたいな空気で言いにくいんだけど……」

 

 二葉さんとフェリシアちゃん、まだ助けてないよね——

 

 そんなゆりちゃんの言葉に、私だけでなく、やちよさん、鶴乃ちゃんまで凍ったような気がしました。

 

 

 ◇◇◇◇◇

 

 

 第七章はチームみかづき荘が全員集まるまで終わりません。ゲーム続行です。

 明日は既にかもれとなぎたんとの予定を入れているので、救出はだいぶ遅れそうですが……なぜかゆりちゃん達は今から助けに行く気満々なので、これを利用してそのままさなフェリのいる場所へと直行します。もう真夜中の十二時回って深夜なのに今からまた出かけるとかご苦労様やでホンマ……

 

 今回はここまでです。ご視聴ありがとうございました。




一方その頃さなフェリは……

「フー、ズルッ、ズルッ……」
「この寒い中で食うカップ麺は最高だなー。トマトスープもうめー」
「明日の分無くなる……明日の分無くなるこれ……でもうま……」

白羽根の人と共に、カップ麺を啜っていた——
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