マギアレコードRTA noDLC みかづき荘チャートAny%   作:なぁ……相撲しようや……

2 / 17
Part2 : やってやろうじゃないの

 第二章 うわさの絶交ルール

 

 チュンチュン……チュン……

 体力+80 やる気+1されそうなとても晴れやかな目覚めです。

 

「もう、かえでとは絶交だから!」

「あー言った! そう言うなら私もレナちゃんとは絶交だもん!」

 

 水を差されました。体力-20 やる気-1ぐらいでしょうか。

 窓の外から喧嘩の声がこちらまで響いてきています。何やってんだあいつら……

 

 第二章開始後、スタンダードモードであればどこかの公園の近くに学校のない時間帯にいれば秋野かえでと水波レナの喧嘩を聞く事ができます。

 今回はみかづき荘近くにあるちっちゃな公園がフックになったみたいですね。みかづき荘で就寝しており、起床と同時に公園の近くという判定を貰ったので、二人の喧嘩がモーニングコールになったんですね。もう少し穏やかな目覚めをくれても良かったんとちゃう?

 ……あ、時刻、昼前じゃん。ゆりちゃん、だいぶ寝坊助みたいですね。

 

「あら、ゆりさん。今日は日曜日だからそんなに慌てなくてもいいわよ」

 

 支度を終え、やちよさんの用意した昼食と化した朝食を食します。

 このゲーム、食べた物の良し悪しによって、食べた人の好感度が変化するだけでなく、食べた人にバフデバフが発生します。美味しければバフ、50点なら変化なし、不味ければデバフです。

 やちよさんの料理はどうかといいますと、大体70点程度の評価……なんで80点評価報酬の全能力中バフが乗ってるんですか。いやデバフじゃなかったら別にいいんだけど。

 

 ごちそうさまでした。食後の雑談をやちよさんとします。

 そういえば寝起きに外で喧嘩してる人がいましたね、絶交とかなんとか……え? 絶交って口にしちゃいけない? はえーそんな噂がふむふむ……

 これで第二章のクリアに関わる絶交ルールのウワサの情報を得ました。早速ウワサを倒しに行き——ません。いろはちゃんに丸投げします。

 それに今のゆりちゃんにはウワサよりももっと大切な用があります。

 鍵屋行かなきゃ(使命感)

 

 

 ◇◇◇◇◇

 

 

「まさか、目覚ましの魔法でも起きないなんて……」

 

 半分はジョークで作った魔法だから本気で効果を期待してはいなかったけれど、それにしても虹絵ゆりの眠りの深さは凄まじかった。

 ただ、その深い眠りの原因は間違いなく自分にあるから、責める事はできないわ。本人が自信満々で教えたがるからって、遅い時間まで料理を教わっていた私が悪いのよ。

 しばらくそっと寝かせておいて、昼頃になったらまた起こしに来ましょう。そう決めて、ゆりさんに教わったやり方で朝食の支度を始めた。

 

 

「山羊座のあなたはご注意。一悶着あるでしょう——」

 

 テレビの星座占いを見ていると、階段の方からドタドタと何やら騒がしい音が聞こえる。音の主はゆりさんのようで、何やら慌てた様子。どうやら遅刻すると思ってるみたい。

 

「あら、ゆりさん。今日は日曜日だからそんなに慌てなくてもいいわよ」

「えっ? あ、ほんとだ……」

 

 落ち着きを取り戻したゆりさんは、少しばつが悪そうにして私の隣に座って、また何かを思い出したように立ち上がって、洗面台の方に向かっていった。全然落ち着いてないじゃない。

 ふと視界に入った時計を見て、そろそろ昼時な事を思い出した。昨日はゆりさんに作ってもらったから、今日は私が作ろうかしら。そう思ってソファから立ち上がって——

 

「いっ——」

 

 机の脚に自分の足の小指をぶつけてしまった。一悶着って、まさかこの事じゃないでしょうね……?

 

 

 ◇◇◇◇◇

 

 

 解決しました(半ギレ)

 どうやらゆりちゃんの住む家は賃貸のようで、鍵屋ではなく大家の人に相談したらなんとかなりました。お泊まりイベントのおかげでロスは無いんですが……うん……

 

 さて、ゆりちゃんの家は団地の戸の一つです。オートロックあるって言ってたし、そこそこの物件なのでは?

 お邪魔しま〜す(自宅)

 おー、リビングあるし寝室二つだし、いいとこじゃないですか。鍵を開けて貰えるような人がいないと言っていたので、一人暮らしなのでしょう。中々ァ、広いじゃねぇかよ。

 

 実は、みかづき荘に泊めて貰ったので、いま自宅に帰るのは必須ではありません。それでも帰ってきたのは、ゆりちゃんの日記を見る為です。

 『物臭』『怠惰』『不精』のような面倒くさがりな性格でなければ、マギアレコードのプレイヤーキャラクターはかなりの確率で日記を書いています。

 日記にはランダム生成されたプレイヤーキャラクターの経歴が載っており、これを見る事で魔法少女ストーリーの発生条件に目星を付ける事が出来ます。

 

 魔法少女ストーリーというのは個別のキャラクターに焦点を当てたサブイベントの事で、発生するだけで焦点を当てられた魔法少女は様々な能力が強化されます。

 中でも精神力に関する強化は凄まじく、これの有無で第六章の記憶ミュージアムの洗脳に耐えられるかが決まるといっても過言ではありません。

 記憶ミュージアムの事を差し引いても、マギアレコードにおいて精神力はかなり大切です。精神干渉系の魔法をレジスト出来るかどうかは精神力によって決まりますし、ソウルジェムの濁り方も変わってきます。

 極端な話、精神力が低いと『ソウルジェム濁り切ると死ぬ』という情報を知っただけで魔女化或いは発狂しますし、逆に高ければ『孵卵器の真実』を知っても平然といる事ができます。

 なので精神力の強化に時間を割く必要がある訳ですね。第二章の間は第六章に向けた稼ぎを主にやっていく予定です。第二章の初日に発生する、秋野かえで、十咎ももこ、水波レナ、の三人からなるチームかもれトライアングルの喧嘩騒ぎはいろはちゃんに任せてしまいましょう。

 

 で、肝心の日記ですが……ありました。ヨシ!

 さっそく目を通していきましょう。

 

 ふむ……フゥン……ゆりちゃんは今から四日前、魔女と戦ういろはちゃんの姿を目撃したそうです。それで魔法少女の事を知り、いろはちゃんの事を助けたいと思ってキュゥべぇと契約したとのこと。

 そして昨日、いろはちゃんが神浜に人を探しに行く事を知り、一緒に付いていった、とゆりちゃんが日記に書き足しました。

 昨日の砂場の魔女が初めての魔女討伐だったようです。あっそっかぁ……契約から半月の新人という目星を付けていたんですが、まさかの魔法少女歴四日とは。砂場の魔女戦後の濁りも初陣だったからなんですね。

 

 もっと過去のページを見てみます。ふむ、ゆりちゃんには両親の他に一つ上の姉がいたらしいんですが、二か月ほど前に起きた自宅が倒壊する事故によって両親を亡くした際、失踪してしまったようです。名前は虹絵りり。姉妹だからなのかゆりちゃんとは似た名前してますね。

 もともとりりちゃんは何か悩みを抱えていたようで、ほぼずっと疲れを隠すような顔をしていて、しかも夜には家を抜け出して何かをしていたみたいです。本人に聞いてみてもはぐらかされるばかりで答えてくれないので、聞き出すのは諦めて、家にいる間は心底休まるよう環境を整えてあげる方向性でりりちゃんの悩みの解決を間接的に助けようとしたんですね。

 それが自宅の倒壊と同時に失踪したので、りりちゃんの悩みとこの事故とが何かしら関わっている可能性がある、という推測を日記に残しています。これりりちゃんが魔法少女だったんですかね? ゆりちゃんの魔法少女ストーリーが発生するとしたら、りりちゃん関係になりそうです。

 

 ゆりちゃんが日記を書き終わり、ここでゲームを中断して終了するかどうかの選択を聞かれますがもちろん中断しません。RTAだからね。

 

 この後は神浜に戻ります。市内を回り土地勘を養うのと、それからグリーフシード稼ぎが目的です。神浜市外では魔女が少なすぎて一週間粘っても使い魔とすらエンカウントできません。こんなんじゃ稼ぎにならないよ〜

 

 やってまいりました新西区。魑魅魍魎の如く湧く魔女を狩るなら西側が最適です。東側ではマギウスの翼による組織的な魔女狩りが行われていて、グリーフシード稼ぎの時間効率が西と比べ悪いです。

 西と比べての話であって、東西どちらも出る事には変わりないですが。一度に出会えるメタルスライムの数が三体か四体かというような話です。

 さっそく始めていきましょう。結界の入り口をいきなり発見しました。乗り込めー!

 バーンと魔女を飛ばして終了! 次だ次!

 結界発見! 殲滅! ヨシ!

 

 というのを何度も繰り返し、グリーフシードを計四つ入手しました。やっぱりこの町魔女の数がおかしいよ……

 日も落ちてきましたし、今日はこの辺りで切り上げましょう。グリーフシードはいくらあっても困りませんからね、明日も稼いで稼いで稼ぎまくりましょう。

 

 おや、いろはちゃんとやちよさんが一緒にいる所に遭遇しました。病院帰りのようです。

 ういちゃんの手掛かりを得るために病室へ行ったいろはちゃん。しかし病室はもぬけの殻で、ういちゃんはおろか同じ病室だった柊ねむと里見灯花すらもいません。

 失意のまま病院を出たいろはちゃん、記憶の中で喧嘩をするねむと灯花が言っていた、絶交という単語を呟いた所をやちよさんに聞かれてしまう、という場面です。

 ちょうど絶交ルールの噂をいろはちゃんにも教えようとしている所だったみたいですね。噂の内容はこうです。

 

 アラもう聞いた? 誰から聞いた?

 絶交ルールのそのウワサ。

 知らないと後悔するんだよ? 知らないと怖いんだよ?

 絶交って言っちゃうと、それは絶交ルールが始まる合図!

 後悔して謝ると、嘘つき呼ばわりでたーいへん!

 怖いバケモノに捕まって、無限に階段掃除をさせられちゃう!

 ケンカをすれば、一人は消えちゃうって、神浜市の子ども達の間ではもっぱらのウワサ。

 オッソロシー!

 

 ゲーム演出上ではウワサを広めるウワサであるウワサさんが上記のウワサの内容を語ってくれているんですが、実際にはやちよさんが口伝で一言一句同じ内容を喋っているのでしょうか。ちょっと見てみたい。

 いろはちゃんがこの情報を聞いて、そういえばかえでちゃんが一人でいるのを見た、というのを呟きました。こちらも今朝の喧嘩騒ぎを思い出し、かえでちゃんともう一人とが喧嘩していて絶交だと言っていた事を話しておきます。

 するといろはちゃんが二人を心配し、どうにか出来ないかと考え出します。この場では二人の問題は時間が解決してくれるとしてお開きになりますが、これでいろはちゃんが明日中に何かしらのアクションを起こしてくれる事でしょう。

 じゃあな! 風邪には気をつけろよ!

 

 

 ◇◇◇◇◇

 

 

 ヒトガタの使い魔が何かのシールを貼ろうとしてくる。それを避けて避けてトライデントで刺す。何度目か分からない攻防の繰り返し。使い魔の数が減る気配はなく、このままじゃ魔女を倒すより先に魔力切れに陥るのは明らか。でも逃げられない。包囲されている訳じゃないけど、自分の矜持が逃げの一手を許さない。

 

「レナだって、一人で戦える……!」

 

 少し考えれば分かる。一人で戦えるのは、やちよさんとか、さっきの金髪ロールの人とか、その辺りの本当に強い魔法少女だけ。それでも、一人で戦えるようにならないと。

 そうでないと、かえでが。レナが絶交だって言ったばっかりに。

 パチン。何かの音が足元から聞こえた。下を見ると、たったいま使い魔がレナの足にシールを貼ったところだった。使い魔はレナの視線に気付くと、こちらを見つめてニンマリと笑った。

 

「ひっ!?」

 

 反射的に使い魔を蹴り飛ばしたけど、もう遅かった。なんだか体がおかしい。なんというか、魔力を込められない。少しでも強い攻撃をしようとしたら魔力が霧散してしまう。

 やられた……! 気づけば退路にも使い魔がうじゃうじゃいて逃げられない。

 

「タンマ! またダメなの!?」

 

 今度も都合よく救いの手が差し伸べられるなんて、そんな奇跡は多分起きない。だから、今度こそは自らの手で勝利をもぎ取る!

 そうしてケツイをみなぎらせた途端、目の前に迫ってきていた使い魔が爆散した。まさか、土壇場になってレナの秘めたる力が覚醒した……?

 

「そこの魔法少女、まだ戦える?!」

 

 そんな筈も無く、新たに結界に入ってきた他の魔法少女の、単なる援護攻撃だった。多分そうだろうなって少しは思ってたけど!

 

「ちょっと、手は出さないで! また助けられたらレナの沽券に関わるの!」

 

 これはレナが絶交を覆さなくても何も問題がないことを証明するための戦いなの! 人の手を借りるなんて、言語道断よ! 死にそうになったら考えるけど……

 

「分かった! 幸運を祈る!」

 

 その魔法少女は得物のスナイパーライフルを抱えたまま結界の入り口近くに立って、静観を決め込んだ。あれ、もしかしてレナ、意図せずして背水の陣にしてしまった? 多分あれレナがピンチになっても割って入ってこないよね。

 ……

 やってやろうじゃないのこのやろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!

 

 

 ◇◇◇◇◇

 

 

 やちよさんにウワサの事を教えてもらった翌日の夕方です。平日なので学校終わりのこの時間からしかまともに活動出来ません。限られた時をやりくりしとっとと魔女を見つけてとっととぶっ潰すのじゃー!

 

 ひょっ? 結界を見つけたはいいんですが、先客がいますね。友好を広げるチャンスだ! 乗り込めー!

 クォクォハ……名無しの魔女の結界ですね。名無しの姿という意味ではなく名前が設定されていないモブ魔女という意味での名無しの魔女です。

 さてさて先客はどなたかな……おや、ワンピースにサッシュリボンを巻いたあのシルエットは……

 

「タンマ! またダメなの!?」

 

 ツンデレツインテドルオタ魔法少女、水波レナとは彼女のこと。属性が多すぎないか?

 手こずっているようだな、手を貸そう。

 

「ちょっと、手は出さないで! また助けられたらレナの沽券に関わるの!」

 

 えぇ……? あー、おそらくですが、見滝原市の魔法少女である巴マミの視点で進むアナザーストーリーのイベント、疑惑のさざ波の直後なのでしょう。

 巴マミの視点からは神浜市の異常性を認識するお話でしたが、レナちゃんの視点では、一人で戦っていたところを神浜出身ですらない外の魔法少女に助けられるという、面目丸潰れなイベントですから、多少気が立っているのでしょう。暴れればすっきりすると思うのでここは見ていましょう。

 

 レナちゃんはアクセル偏重型の魔法少女で、ブラストゴリラやちよさんやももこさんほどの殲滅力はありませんが、一度マギアが発動すると大変身。これがレナの通常攻撃だと言わんばかりに高威力のマギアが発動しまくります。

 ただ……スイッチが入りませんね。マギアを一度も発動できていません。戦闘時間から見ても、マギアを発動する為のMPは溜まっているはず。

 ……おや? レナちゃんに掛かっているデバフ、どこか見覚えが……

 

『マギア不可』

 

 うっ(発作)

 なんで第二章に出てくるようなモブ魔女がこんなの持ってるんですか(血反吐)

 これを付与されていると、マギアを発動する事ができません。呪いほど直接的に強力な状態異常ではないのですが、マギアに依存した魔法少女だとこれを付けられるとほぼ詰みを意味します。ちょうどそこのレナちゃんのように。

 これは、介入した方がいいのでは。好感度が下がる可能性がありますがここでレナちゃんが退場する方がまずいです。絶交階段のウワサ、引いてはウワサそのものと遭遇するのが難しくなります。

 ウワサと早期に遭遇しないと、いろはちゃんがマギウスとの接触に消極的になり、結果として環ういの救出が遅れます。そうなるとタイム的にまずい。

 

 介入開始です。マギア不可は生かしておけない——

 

 

 ◇◇◇◇◇

 

 

 格闘戦をしていたら、目の前の使い魔が爆散した。またあの魔法少女か!

 

「手を出すなって言ったでしょ! 聞こえなかったの?!」

「あなた、死ぬよ? 自立は大事だけど、命だって同じぐらい大事。そうでしょ!」

 

 うっ。逆にキレ返された。いや、話してる内容自体は正論だわ。レナ、ちょっと焦ってたみたい。自分一人で戦える力を急ぐがあまり、視野が狭くなっていたのね。

 強くなるのはゆっくりでいい。みんなに助けてもらって、そしていつか助ける側に回るのだわ。その一歩目として、かえでと仲直り——これはダメ。絶対。それを回避する為に強くなりたいのに。うん、やり方を考える時間を作る為にも、今はきっちりと生きて帰らないと。

 

「——分かった! なら、しっかりサポートしてよね!」

 

 レナたちの戦いはこれからよ!

 

 

 ◇◇◇◇◇

 

 

 勝ったぜ。グリーフシードは落としませんでした。はぁ……(くそでかため息)

 で、レナちゃんの方はというと、やはりマミさん(金髪のお姉さん)と会った直後のようです。

 二度も人に助けられるなんてと意気消沈中のレナちゃんと会話を交わし、かえでちゃんとの仲直りに話を誘導します。選択肢は上上下上……

 ヨシ! これでレナちゃんの方は仲直りに積極的になるでしょう。

 

 いろはちゃん達がレナちゃんを説得する手間を省けたので短縮、に見えますが、レナちゃんとの会話イベントを行った分グリーフシード稼ぎの方の手が止まってしまっており、稼ぎをする時間を増やさないといけないので差し引きゼロです。

 一見短縮出来ているように見えても、その為に無理をした分、別の所でツケを支払う事になる。まるでエントロピーみたいだぁ(適当)

 

 という訳なのでツケを消す為に稼ぎを続行しましょう!

 じゃあな! 風邪には気をつけ——

 

「待って! ……その、手伝ってくれない?」

 

 ——えぇ……(困惑)

 

 

 ◇◇◇◇◇

 

 

 携帯の着信音が鳴る。誰からだろうと画面を見てみれば、ゆりさんからだった。

 

「もしもし、七海さん? ウワサの事でちょっと頼みたい事があるんだけど、今からいい?」

「今から? 具体的には何を頼みたいの?」

「昨日、絶交ルールのウワサが話題に上がったと思うんだけど。水波レナって子が、あれを気にして仲直り出来てなくて。だから仲直りをさせるためにウワサを倒したいんだよ。一緒に戦ってくれない?」

 

 水波レナなら知ってる。ももことかえでと一緒にチームを組んでる子。見かける度にかえでと喧嘩して絶交しているような子で、それでも毎回よりを戻している辺り、馬が合うんだか合わないんだか、よく分からない子だ。

 ゆりさんと環さんに注意をしておいてなんだけど、あの噂を信じて仲直りしない人がほんとにいるのね……噂が現実になる事があるなんて知らないはずなのに……

 でも、そのおかげで絶交ルールのウワサの真偽を確かめる事ができる。だからゆりさんの頼みを受けるのはやぶさかではないのだけれど……

 

「……仮にウワサが出てきたとしてちゃんと戦える?」

「大丈夫、七海さんがいれば!」

 

 放っておいたらダメなパターンね……

 

 ゆりさんに言われた待ち合わせ場所。そこにはももこも居た。昨日も会ったのだけれど、かなり気まずい。だけど今は二人の円満かつ円滑な仲直りの方が大事だから、お互いにあの事は置いておくことにした。

 対面するかえでとレナ。二人が仲直りしたらウワサが出てくる。環さん、ゆりさん、ももこと互いに目を見合わせ、何があってもいいように先に変身しておくことにした。

 そういえば、環さんの魔法少女姿を見るのは初めてね。環さんは修道服風のマントで……どこかで見たことあるわ。目線を環さんから横にずらすと、既視感の正体、魔法少女姿になったゆりさんがいた。二人とも衣装が似ているけれど、性格が似ているのかしら。

 

「……ごめん、かえで! 買ってきたチョコ菓子が気に食わないからって捨てたりして!」

「ううん、レナちゃんがきのこ派だって知りながらたけのこを買ってきた私が悪いんだよ、もう面白がってあんな事したりしないよ」

 

 どっちもどっちね……

 ——反応が出た。二人が謝るのと同時。場所はここ。

 赤い紐の巻き付いた南京錠、そうとしか言い表せない物が現れ、かえでとレナの二人を捕まえた。階段掃除をさせようとしているんでしょうね……!

 私が反応するよりも先に、南京錠は体に風穴を開けられた。ゆりさんのライフルの射撃だった。

 それをきっかけとしたように新たにウワサの結界が現れて辺りを包み始めた。

 

「七海さん!」

「分かってる! みんな構えて!」

 

 風景が変わって、結界の中に全員が引き摺り込まれた。

 空に向かって伸びる沢山の階段。その姿は空に伸びる木の枝か、あるいは空に張られた木の根のよう。先ほどの南京錠も辺りに漂っている。

 誰もが豆鉄砲を食らったような顔をしている。初めてウワサを見た時、私もあんな顔をしていたのかしら。

 

「これが、ウワサ……?」

「えぇ、そうよ。噂を守る為の存在。戦わないと排除されるわよ」

「階層が無い。いきなり本体が登場してくるなんて、魔女じゃありえないな」

 

 私達を取り囲んだ使い魔は、体に巻きついているのと同じ赤い紐を使って攻撃してきた。

 遠くにいる使い魔は他の子に任せて、私は近くにいる使い魔にターゲットを絞った。赤い紐の動きはとても直線的。真正面から伸ばして刺そうとするだけだから、とても簡単に避ける事ができる。だけど使い魔の数が多いから攻撃の密度が高い。気を抜いたら当たる。

 地上に近い使い魔は地面を蹴り、少し浮いた所にいる使い魔は階段を蹴って近づいて、得物の槍で突き刺した。感触は良好、使い魔なら問題なく一撃で葬れる。

 埒が明かないわ。一体一体潰していたら時間がかかる。本体を叩いてすぐに終わらせたいのだけど、その本体がどこにいるか……

 

「モッキュ!」

「待って! 危ないよ!」

 

 小さいキュゥべぇと、それを追いかける環さんが目前を横切っていった。小さいキュゥべぇは階段を使ってどこか一点を目指しているようだった。

 

「追いかけないで環さん! 孤立するのは危険だわ!」

「でも、小さいキュゥべぇが!」

「なら全員で動くわよ! 最後尾はももこ! ゆりさんを守りながら動いて! 私とレナが先頭、かえでと環さんは隊列の真ん中を維持して!」

「ねぇ、小さいキュゥべぇの名前でも考えない?」

「後にしてゆりさん!」

 

 小さいキュゥべぇを追いかけて上へ上へと登っていく。地上と比べて狭い足場と激しい攻撃で息が詰まりそう。本体を倒すか、退くか。早く状況を変えないといけない。

 ふと突然小さいキュゥべぇが立ち止まった。その視線の先には大きな鐘のオブジェがあった。

 

「キュップイ!」

 

 こちらを振り向き、オブジェを指すようにして鳴いた。その仕草は私たちに何かを教えようとしているよう。もしも好意的にそれを解釈するなら——

 

「あれがウワサの本体って事ね!」

「あっこら待て! やちよさんが孤立するなって言ってたろ!」

 

 階段を蹴って飛び、鐘へと真っ先に飛んでいった影が一つ。カンコンという鐘の音が聞こえたと思えば、その影は空中で見えない壁にぶつかって、そのまま重力に従って落ち始め——よく見たらあの影、レナじゃない!

 

「何やってるのあの子!?」

「ふゆっ!? レナちゃーん!」

 

 階段から生えるようにして伸びた蔓がレナを掬いとった。ぶつかった所が悪かったのか、気絶してしまっている。

 

「かえではそのままレナを守って! ももこ、一緒に鐘を壊しに行くわよ。環さんとゆりさんは露払いをお願い!」

「分かった。じゃあ環さんはかえでちゃんの方をお願い。七海さんの援護なら私一人でもいける」

「わ、分かりました!」

 

 階段を辿って一歩一歩確実に鐘に近づいていく。見えない壁がどこにあるか分からないから距離を一気に詰めるのはダメ。こちらを狙っている使い魔の大半をゆりさんが倒してくれているから、対策を考えるだけの余裕がある。しっかりと攻略法を考えないと。

 カンコンという鐘の音がまた聞こえた。それと同時に鐘から魔力の奔流が放たれていた。射線をよく見て体を捻ってかわす。さっきは気付かなかったけど、レナを撃ち落としたのはこれね。魔力は注視しないと見えないから、このまま鐘の攻撃が続けば厄介だわ。

 ゴンという一際重い音が響いた。また鐘の攻撃かと身を固くしたけど、どうやらゆりさんの射撃が跳弾した音だったみたい。

 

「七海さん。合図したら強力な魔法をあの鐘に叩き込んでくれないかな。複数名の魔法を同時に受けるのが弱点みたいだから、そこを突く」

「待った、アタシにもやらせてくれ。三人同時の方が確実に行けるだろ」

「分かった、お願い。タイミングもそっちに合わせる。二人の魔法で防壁が揺らいだ瞬間を私が狙う」

 

 ももこは自分の背丈ほどもあろうかという大剣を振り回して炎を撒き散らし、そして構えを取った。大剣に魔力が集中しているのが分かる。

 私も同じように、構えを取って槍に魔力を溜める。構えをとる事それ自体に効果は無いけれど、こうするとこれから大技を使う事が視覚的に分かりやすいから、チームを組んでいた頃はこの方法を積極的に取っていた。発案はメル。

 

「今ッ!」

 

 ももこの合図で魔力を解放する。巨大化した大剣が振り下ろされ、槍から放たれた魔力の奔流が防壁を抉る。同時に耳を裂く激しい轟音を伴う弾丸が、防壁ごと鐘に穴を開けた。

 粉塵が舞っているせいで鐘の状態は確認できないけど、結界が崩れ始めたという事は、倒したのでしょうね。

 武器をしまったももこが、私に面と向かって、何か言いたそうな、でも決心が付かないというような顔をしている。大方、あの事について言いたい事があるのでしょう。

 

「やちよさん。あの時、チームを解散したのって……アタシが気に食わなかったからなのか……?」

 

 ……? 一瞬、言われた意味が分からなかった。てっきり、罵倒の一つや二つ飛んでくると思ってたのに。私がももこを嫌いになるなんて、そんな可能性、カケラも考えてなかったから。だから、ももこのその言葉に、思考が止まってしまった。

 

「……は、はぁ?! どうしてそうなるのよ?!」

「ちょっ、レナの口調移ってるって」

「ん、んっ! ……ももこ、それはとても大きな間違いよ。私があなたを嫌いになる訳がないじゃない」

「じゃあ、なんでチームを解散するなんて言ったんだ?」

「それは! ……私が――」

 

 最後まで言わせてもらえないまま結界が崩れた。なんでよ……

 

 

 ◇◇◇◇◇

 

 

 討伐完了です……

 ほんとはいろはちゃんに任せる予定だったんですが、性格補正のせいでレナちゃんの頼みを断れず、ウワサ戦に強制参加になりました。六章に向けた好感度稼ぎ、全く出来なかったよ……

 まぁでもこれはこれで経験値は美味しいし、いっか……

 

 仲直りのお祝いとして、レナちゃんが焼きプリンを用意してくれました。一日二十個限定のなんかいいやつらしいです。よう四個も用意できたな……待ってなんで四個も持ってるの?????

 ま、まぁ、個数はおいておいて、この焼きプリンは絶対に食べてはいけません。食べた場合、二日ほど行動不能に陥ります。なので回避します。幸い、いつの間にかいなくなっていたやちよさんを抜きにしても、この場には五人います。対して焼きプリンの数は四つ。上手くババを引いてやりましょう。

 

 あ、ごめんね? 甘いもの苦手なんすよ~、いろはちゃんにあげるから食べてクレメンス。

 ……え? 半分こ? いやいやいやいや今回の功労者は仲直りを積極的に手伝いだしたいろはちゃんであって私はレナちゃんに呼ばれてきただけのただの助っ人であってア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!!!!

 あっ……まい……(意気消沈)

 

 第二章が終わったので今回はここまでです。ご視聴ありがとうございました。




強制力と性格補正には勝てなかったよ……

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。