マギアレコードRTA noDLC みかづき荘チャートAny%   作:なぁ……相撲しようや……

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Part4 : とても幸運でございますね

 第四章 ウワサの守り人

 

 どうも、出張料理人です。前回、チームみかづき荘所属になった次の日から再開です。

 

 まずはいろはちゃんの今後の計画を確認します。鶴乃ちゃんからの情報提供を受けていた場合は、一ヶ月間毎日万々歳とかいう苦行をやろうとしてるので、絶対に止めてください。最低でも一週間は不毛な時間を過ごす事になりますし、そもそも毎日中華というのが体に悪いので。ゲーム的には能力変化無しだけど。

 あ、毎日万々歳、やろうとしてたな。代案として柊という姓の家をしらみつぶしに尋ねる事を提案します。これなら疲労状態で市内をうろつく事が多くなり、ミザリーウォーターのウワサに遭遇する可能性が高くなります。運が悪くともスタンダードモードなら神浜市内にある四軒の柊さん家を探し終わった時点で確定で遭遇してくれるので、自力で遭遇出来なかった場合の滑り止めとしても働きます。

 

 自分でもミザリーウォーターのウワサの探索は行いますが……参京区全域という広範囲の中で出現場所が完全ランダムという都合上、一日で遭遇するのは難しいです。タイムを攻める場合はここで早期に遭遇できなかったらリセットしますが、今回は完走重視で走ってるので前述の滑り止めに頼らせていただきます。

 

 放課後になりました。宝崎市まで戻って、学校に通って、それからまた神浜市に戻るというのはとても不便です。既にチームみかづき荘所属の判定なので、早いところ引っ越ししたいんですが、早くとも四章終了後になりそうです。

 早速参京区内を周っていきましょう。地道な探索で絵面が地味ですので、

 み〜〜な〜〜さ〜〜ま〜〜の〜〜た〜〜め〜〜に〜〜

 

 (BGMのイントロ)

 (ぷはぁ、今日もいいペンキ☆)

 

 

 ◇◇◇◇◇

 

 

「いろはちゃん。まさかひいらぎさんに出会うまで毎日万々歳に通うつもりなの? 太るよ……?」

 

 神浜市行きの電車の中で、ゆりちゃんに今後の方針を聞いてもらったら、なんというか、至極もっともな指摘が返ってきました。

 いえ、でも、しょうがないじゃないですか。これ以外に手掛かりが無いんですから。例え受け入れ難い事でも、やるしかありません。

 

「ういの為なら、お姉ちゃん、ふくよかにだってなってみせる……!」

「いやいやいやいや」

「止めないでゆりちゃん。これは必要な事なの……」

「柊って名字の家を全部しらみつぶしに見ていくとかあるでしょ?!」

 

 ……確かに。

 実際には物凄く大変なのでしょうけど、万々歳に毎日通うのと比べてしまって、意外となんとかなるかもしれないと思ってしまいました。

 あれ、そういえば、ゆりちゃんの固有魔法って……

 

「探しものを見れるんだったよね? それでういの事を探してもらえたりは……」

「探しものを? あー、ごめんね。それ嘘なんだ。自分の固有魔法を知られたくなくてついた嘘。本当は他人の心、つまり考えてる事とか、或いは記憶とかを読み取るだけの魔法なんだよ。だからういちゃんの現在地はちょっと分からないかな」

 

 考えてる事を、読む……今まで考えてたこと、全部見られてたの?!

 

「大体ね。私への印象も知ってた。いろはちゃんから見たらそれは確かに分からない人って印象になるよね」

 

 あ、あう……改めて意識すると、とても恥ずかしいです……

 訳分からない人だって思っていたのが最初から筒抜けだった事もそうですが、こうして心の中で考えている事まで聞かれてしまっていると考えると、なんだか丸裸にされているようで……

 

「やっぱり嫌だよね。ごめん、秘密にしておけば良かったかな。意識的に読まれようとしなければ記憶なんて読めないし、私が上手くやればそもそも心を読まれている事なんて意識しなくていいし……」

「そんな事ない! 仲間なんだから、心を読む魔法を持ってるってこと、私が受け入れるべきなんだよ。びっくりはしたけど……」

 

 心を読まれるというのも、悪い事ばかりではないです。すっごく恥ずかしいけど。

 記憶を読めるって事は、私の持ってるういとの思い出も共有出来るという事なんですよね。

 えぇと、意識的に読まれようとしないと読めないんでしたっけ。

 

「ほら、見える? ういとの思い出……」

「見えるけど……あぁ、この自室に飾ってる変な自撮り、元はういちゃんが写ってたんだ」

「変な自撮り!?」

 

 確かに、ういが最初から写り込まなかった前提であの自撮りを見てみると、変な自撮りにしか見えないかも。無に手をかけていたり、無を抱き寄せてたり……

 

「あれ、いろはちゃん、この写真は今でもういちゃんが写っていないままなの?」

「え? うん、今でもこの通りだけど……」

「という事は今でもウワサとしてはういちゃんの存在は消えたままで、だったらウワサはういちゃんの存在を思い出したいろはちゃんをぶっ殺そうとして来るはずだよね」

「ぶっころ!?」

「ほら、絶交ルールと口寄せ神社もそうだったでしょ? 仲直りした二人を連れ去ろうとするのを邪魔した私たちは殺されそうになったし、逢った人と共に眠ろうとしなかった私たちはウワサに葬られそうになった。だったら、ういちゃんに関わってるウワサも同じはず」

 

 ういちゃんの存在を無かった事にしようとしているなら、ゆりちゃんの言う通り、ウワサの本体が出てきて私を、ぶ、ぶっころしようとするのは道理かも。

 でも、そんなウワサは今のところ出てきてません。

 

「もしかしたら、ういちゃんを消したのはウワサじゃないのかも。魔女と考えるには手段が凝りすぎているし、魔法少女の願いと考えるといろはちゃんというイレギュラーが出るのはおかしい。では誰かの固有魔法かと考えると、そんな大掛かりな事ができるとは思えないし……」

「私がういのことを思い出す事それ自体はウワサの内容に反していない、とか? 存在を消したり、忘れさせたりはするけれど、その後に思い出すのは自由だよ、みたいな」

「小さいキュゥべぇに触れたら思い出すっていう内容だったのかもね。あっ、小さいキュゥべぇの名前を考えるの忘れてた。今日の放課後に決めよう、絶対」

 

 次、宝崎駅——

 アナウンスが鳴りました。そろそろ到着です。

 

 ◇◇◇◇◇

 

「え、小さいキュゥべぇの名前?」

「そう! やちよさんの意見も聞きたいと思って」

「仕事中なのだけど……」

 

 撮影中に掛かってきたゆりさんからの電話。私の番はまだ遠いから多少は話せるけど、正直言ってどうでもいいわね……

 

「そう思って十咎さんと一緒に候補は絞ってきたよ。ジュウべぇ、モキュ、ちび助の三つのうちどれがいい?」

 

 そこまで気を遣えるなら撮影が終わった後に聞くという選択は無いのかしら……

 

「ジュウべぇ以外の二つだったらどっちでもいいわよ、ジュウべぇだけはなんだかキュゥべぇみたいで嫌だわ」

「分かった。残りの二つで話を進めておくね!」

 

 そう言い残して電話を切ってしまった。本当に名前を付けるつもりなのね……

 

「七海さーん!」

「はい、今行きます!」

 

 私の番になった。今の電話は忘れて、撮影に集中しましょう。

 

 ◇◇◇◇◇

 

「やちよさんはなんて?」

「仕事中だって」

「そうだろうなぁ……」

 

 電話越しのゆりちゃんの声はどこか悪びれない物だった。やちよさん怒ってるかなぁ。電話に出たって事はまぁ出られるタイミングだったのだろうけど、それでも後でもいいような話だったから。

 肝心の小さいキュゥべぇはアタシの膝の上で寝てる。名付けられる本人ですらこれなんだからほんとに後でやればいいような気がするんだけど、ゆりちゃんが後だと忘れるからと言って譲らない。忘れたのは間違いなく思いついたタイミングが悪かったからなんだよな、ウワサと戦ってる途中だったし……

 

「ジュゥべぇじゃなければどっちでもいいとも言ってたね」

「あ、返事は貰えたんだ……」

 

 モキュとちび助の二択で本人に選ばせるという事で話が決まった。ジュゥべぇはやちよさんが拒否したし、残りの二つの内どっちがいいかというのが決まらなかったからだ。

 アタシとゆりちゃんで意見が分かれたから、丁度ゆりちゃんの横にいたらしいいろはちゃんにも意見を聞いてみたら、どっちも良い名前じゃないですかと言って回答をはぐらかした。これで小さいキュゥべぇの意見もどっち付かずだったらどうしようか……

 ゆりちゃんとの電話を切って、机に置こうとして手を滑らせてしまった。床に落ちたスマホはガタンと大きな音を鳴らして、小さいキュゥべぇを起こしてしまった。

 

「モキュッ!?」

「ごめん、起こしちゃったか」

 

 丁度いいと思って、このまま小さいキュゥべぇに名前を選ばせてみた。

 小動物みたいな鳴き方しかしないけど、意思疎通は身振りとかで問題なくできる。小さいキュゥべぇは迷いなくモキュと書かれた方を選んだ。

 

「もしかしてちびって呼ばれるのが嫌だったのか?」

「モッキュモッキュ」

 

 小さいキュゥべぇ呼びもちょっと気にしてたのかな。

 という訳で、小さいキュゥべぇ改めモキュの名前が決まった。

 絶交ルールのウワサの調査後、面倒を見ておけと言われた時は生態なんて知らないからどうなる事かと思ったけど、ご飯は必須じゃないしお世話も必要としないし、何よりいい子だからむしろアタシの方が助かってる。

 昨日なんか出かけている間に部屋の掃除をやってた。このままだと面倒を見る側ではなく見られる側になりそうで怖い。もしかしたらやちよさんとことか、他の人の所に移した方がいいのかも……

 

 

 ◇◇◇◇◇

 

 

「あら、なにかしらこの紙……」

「……今、上から落ちてきました?」

「えぇ……」

 

 見つけられませんでした……(血涙)

 ま、まぁ、代わりに今こうして滑り止めが効果を発揮してるのでいいんですよ。ハァ……(くそでか溜息)

 

 このイベントはいろはちゃんがフクロウ印の給水屋を利用する事で発生します。

 初めは24、そして23、22と順に数字の書かれた紙がいろはちゃんの元に落ちてきます。まるで何かをカウントダウンしているかのように見える紙に対し、何かに巻き込まれたかもしれないと話すやちよさん。

 ……そして次の日の朝。いろはちゃんの枕元には大量の紙が!

 

「昨日も言ったけど、何かに巻き込まれてるわ、あなた」

「何かって、なに……?」

「悲しい顔しないでちょうだい……」

 

 神浜うわさファイル……やちよさんが書いた、神浜市内で信憑性の高い噂を纏めた手帳ですね。それに目を通して、今回の事態に対応しているであろうウワサが載っていないか確認していきます。

 

「こういう時の為の、神浜うわさファイル、だからね」

「やちよさーん!」

 

 ……最後のページまで見終わってしまいました。

 

「書いてないわね」

「やちよさん……」

「悲しい顔しないでちょうだい……」

 

 最近できた新しい噂の可能性が高いので、内容を推測する為、最近に何か変な事が無かったか聞いてみると、いろはちゃんは昨日にフクロウ印の給水屋という所の水を飲んだ事を話しました。バカモーン、そいつが原因だ!

 

 いろはちゃんに付いてフクロウ印の給水屋があった場所に行くか、やちよさんに付いてウワサの内容を確認しに行くか選択が出ます。今回のチャートではいろはちゃんの方を選びます。

 いろはちゃんの方を選んだ場合は、深月フェリシアが裏切るイベントが無くなります。読心能力を持っているのでマギウスの翼に遭遇さえしてしまえばミザリーリュトンのウワサの所在を視る事ができ、そもそもスパイをさせる必要が無く、マギウスの翼にフェリシアを裏切らせる為の交渉をさせずにストーリーを進める事が出来ます。

 逆にやちよさんの方を選べば参京院教育学園で佐倉杏子と会う事ができます。杏子ちゃんはこの後にイベントを重ねる事でマギウスの翼に潜入するようになり、そこから情報を仕入れる事が出来ますが、読心能力のあるゆりちゃんには恩恵が薄いです。

 ですのでより直接的にイベントの数を減らせるいろはちゃんルートを選びました。

 

 という訳で、いろはちゃんの案内でフクロウ印の給水屋があった場所まで来ました。

 現場は見事にもぬけの殻で、いろはちゃんの言う水を配ってる人などどこにもいませんでした。しかし読心により昨日は確かにいた事が分かっているので、痕跡を掴む方向で捜索を行おうと思——った所に深月フェリシアがやってきました。さすがスタンダードモード。世界が私に優しいです。

 

「あー! おまえ、昨日一緒にいたヤツ!」

 

 深月フェリシアは神浜市内で活動している傭兵魔法少女です。グリーフシードかもしくは千円相当の物品を元手に契約する事ができ、契約してから数回の間だけ魔女戦に参加してくれます。

 千円で一緒に戦ってくれるというのはとても安いし、フェリシア本人の戦闘力も高いしで、一見すれば優良物件のように見えますが……その実、フェリシアとの契約は不良物件です。

 単純に、フェリシアの戦法がチーム戦に向いていません。でかいハンマーをひたすら振り回すという力押しの戦法を取るので、近くにいると巻き込まれてしまいます。

 更に、魔女と見れば目の色を変えるベルセルク的な性格。味方の事を考えずに動くので、前述の戦法と合わせて味方からすればたまった物ではありません。正直言って扱いづらいです。

 でも契約します。

 

「え!? こんなにくれるのか!?」

 

 たかだか千円や二千円程度でハルクが仲間になると考えれば安いよなぁ!?

 近くにいれば巻き込まれるというのなら、遠くにいれば良いのです。幸いゆりちゃんの武器はその戦法を容易に取れるマークスマンライフルですから、少なくともフェリシアちゃんと二人だけで戦う場合はフェリシアちゃんの短所は無いも当然です。

 

 さて、三人一緒に捜索を再開します。ここで捜すのは給水屋のおっちゃんではなく、ウワサを広めるウワサであるウワサさん、もしくはウワサを守る存在であるマギウスの翼のどちらかです。これらを見つけることが出来れば芋づる式にミザリーリュトンのウワサを発見する事が出来ます。

 

 ……発見しました。マギウスの翼です。意外と早かったなぁ。それもそのはず、隠密してても心の声は聞こえてくるので、読心対策をしてない黒羽根がゆりちゃんの目から隠れられるはずが無いんですよね。

 隠密を看破された彼女は、姿を現して、こちらに要求を突きつけてきました。

 

「ウワサを消しても良いことはない。手を退いて欲しい」

 

 彼女はマギウスの翼という組織に属しています。マギウスの翼は、マギウスの理念を叶える為に動く実働部隊です。

 ヒラ隊員たる黒羽根、黒羽根を纏め上げる士官である白羽根の二種類が存在します。彼女は黒羽根ですね。名前の通り黒いフードローブで全身を覆っており、全身を隠す事で匿名性を高めています。

 

 ほむほむ……彼女は最近やちよさんと共に活動し始めた市外の魔法少女、つまりゆりちゃんといろはちゃんについての調査を担当しているようです。

 ミザリーウォーターのウワサにいろはちゃんが掛かったという話を聞き、ウワサの所にいる担当者に詳細を聞きに行こうとしたら、ゆりちゃんに見つかったみたいです。隠れているのが見つかったなんてカッコ悪いから澄ました顔して如何にもあなたに用がありましたみたいな雰囲気を出してるだとか。

 ウワサの所に行こうとしたら。……読心の出番だゴルァ! この黒羽根に上手く誘導尋問をして、警戒されてても読めるぐらいの表層にまでウワサの情報を引っ張り上げます!

 

 キミ名前は? いくつ? どこ住み? 学園の近く? それともこの辺? 連絡先教えて? 好きなマギウスのアジトは? 実はおすすめのお店が近くにあって万々歳って言うんですけど——

 

「ひぃっ!?」

 

 あれま。詰め寄りすぎたのか、逃げていってしまいました。ナンパ失敗です。

 でも情報収集は成功です。咄嗟に逃げようとした先である地下水路への入り口までの経路の情報を読心により入手しました。

 

 

 ◇◇◇◇◇

 

 

「今のアイツ、すごい顔で逃げてったけど……」

 

 古典的なしつこいナンパ師みたいなゆりちゃんの言動に、面倒そうな顔をしながらも途中までは耐えてた変な格好の人ですが、万々歳の名前を聞いた瞬間に脱兎の如く逃げてしまいました。

 

「超薄味派らしいよ。なのに友達と一緒に万々歳に行って、その時に豚骨ラーメン大盛りの早食い大会をして、それから万々歳の事がトラウマになってるって」

「薄味派が豚骨ラーメンの早食いなんてなんでそんなアホな事やったんだアイツ……?」

「しかも大盛り……?」

「その場の空気だって」

 

 昨日の夜、鶴乃ちゃんに出前で万々歳の料理をご馳走してもらったんですけど、確かに万々歳の料理は全体的に味が濃かったです。しかも普通盛りでもお腹いっぱいになって余りあるぐらいの量でした。

 

「それはともかくとして、ウワサの本体の場所が分かった。下水用の地下水路の奥に隠してある、らしい」

「今のアイツの悲鳴から一体どう考えたらそれが分かるんだ……?」

 

 あ、なるほど、心を読む魔法で情報を引っこ抜いたんですね。

 

「鶴乃ちゃんとやちよさんを呼んでおいた方がいいかも。彼女は他の仲間と一緒にウワサを守っているから、ウワサを倒そうと思ったら、多分、戦う事になる」

「さっきのアイツの悲鳴からどう考えたらそれが分かるんだ!?」

「実は私……超能力者なのです!」

「うぉーすげー!」

 

 たしかに、魔法少女はみんな、ある種の超能力者とも言える……のかな? どうなんだろう。

 それはともかくとして、二人に連絡を入れておきます。鶴乃ちゃんの方は私が、やちよさんの方にはゆりちゃんが電話をかけます。えと、電話アプリはどこに……

 覚束ないながらも一手ずつ操作をして、プルルルと発信音が鳴りました。これで電話が出来てるんですよね?

 

「あ、鶴乃ちゃん? いま大丈夫?」

「ん、どしたの?」

「今からウワサを倒しに行くんだけど、来れないかな?」

「え、今から?」

「うん」

 

 電話の向こうから音がしなくなりました。あれ、故障かな?

 

「鶴乃ちゃん?」

「は、はい! 鶴乃ちゃんです! 今すぐ行くから待っててね!」

「え、うん、分かった。待ってるね」

 

 待ち合わせ場所も決めて、電話を切りました。

 

「鶴乃ちゃん、なんて?」

「今すぐ来るって。やちよさんは?」

「こっちも同じ。少し待ってようか」

 

 にしても、ウワサを守る魔法少女なんているんですね。あの人たちは何を思って、そんな事をしてるんだろう……?

 

 ◇◇◇◇◇

 

「待たせたわね、みんな」

「あ、ししょー!」

「やちよって……思い出した! すげー有名なヤツじゃん!」

 

 待ち合わせ場所にはもうみんな集まっていた。ゆりさん、環さん、鶴乃と……ん? この子、見間違いでなければ……

 

「深月フェリシアよね?」

「おう、そーだぞ! 有名人に名前覚えてもらえてるってなんかすげーな!」

「あなたも有名だからね」

「強い傭兵としてだろ!」

「いえ、悪い傭兵としてよ」

 

 他の人の反応を見るに……ゆりさん以外は知らなかったのね。

 深月フェリシアについて、概要を話す。暴走癖あり。裏切る可能性もあり。関わっていていい事は無い。

 

「契約したの、環さんでしょ。今すぐこの子と解約しなさい」

「あの、いえ、契約したのは私じゃなくて……」

「私です!」

 

 と、ゆりさんが挙手をした。

 あれ、ゆりさんはフェリシアについて知っていた風な様子だったけど。もしかして……

 

「知ってて契約したの?」

「そう。今回のウワサは団体戦になる可能性があって、人員が少しでも多く欲しかったから。それに裏切りなら大丈夫だよ、報酬を多く持たせてるし」

「ほら、見ろ! にせんえんだぞ!」

 

 そう得意げにお札を掲げるフェリシア。確かにお札には二千円の文字が……え、二千円札? きょうび珍しいものを見たわね……

 正直、裏切りに対する懸念は消えてないけれど、フェリシアが地雷であると知ってなお抱えたがる理由であろう、団体戦に関して先に詳しい話を聞く事にした。

 

「今回のウワサだけど、魔法少女が守ってる可能性が高い」

 

 ……ウワサを守る魔法少女? 何よそれ、寝耳に水だわ。

 マギウスの翼という組織が存在するらしく、目的は不明だけど、組織全体としてウワサを保護しようとしている点は確実だとゆりさんは話す。

 

「ウワサを消して回っている私たちを危険人物であると捉えていて、今回のウワサにいろはちゃんが関わった事をきっかけに何かしらの行動を起こそうとしてるみたい。穏便なものではなさそう」

 

 だから、万が一マギウスの翼なる組織と交戦する事になってもいいよう、フェリシアという戦力を欲しがっていたのね。

 

「なるほど、事情は理解したわ。考えあっての事ならいいのよ。じゃあ、次は私が得た情報を共有するわ。今回のウワサは——」

 

 アラもう聞いた? 誰から聞いた?

 ミザリーウォーターのそのウワサ。

 むかし懐かしママチャリの、荷台に乗った保冷箱。

 おじちゃん一杯くださいなって、貰った水を飲んだなら、ゴクゴクプハーッって気分は爽快、元気も一杯!

 けれどだけども、それはまやかし。飲んだ水はヤバイ水!

 二十四時間経っちゃうと水に溶けた不幸が災いを引き起こすって、参京区の学生の間ではもっぱらのウワサ!

 モーヒサーン!

 

「——という内容よ」

「急に口調変わってびっくりしたぞ」

「うるさいわね。これで原文ママなのよ」

 

 最後に落ちてきた紙の数字を確認してもらったら、もうたったの二時間しか残っていない事が分かった。つまりあと二時間経ったら——

 

「環さんは不幸になってしまう!」

「あ、その水、オレも飲んだけど大丈夫なのか?」

「うーん、貰った二千円札を失くすとか、そのぐらいの事はとりあえず起きそうだね」

「そんな!? ぜってー止めねぇといけないじゃんか!」

 

 鶴乃の言葉に驚いた様子のフェリシア。その程度で済めばそれこそ幸運な気がするわ。

 

「という訳で、早いとこウワサの本体を叩きましょう。電話をした時に、ウワサの所在が分かったとも言ってたわよね。どこなの?」

「参京院教育学園の地下水路。三十分もせずに行けるよ」

「地下水路……もしかしてミザリーウォーターってそこの水を」

「いろはちゃんそれ以上いけない」

 

 

 ◇◇◇◇◇

 

 

 地下水路に入って少し経ったら、全員のソウルジェムを一旦確認しておいた方がいいです。十中八九で濁ってる人がいますので。

 今回は……鶴乃ちゃんといろはちゃんが少しだけ濁ってますね。下水用の地下水路内にいて環境が悪いからです。が、浄化しなければいけないほどではありません。このまま進軍を再開します。

 残り時間が既に一時間を切っているため、かなり急がねばなりません。別に世界は私に優しくなかった。時間切れになってもゲームオーバーになる事はありませんが、ウワサの効果により戦力が大幅ダウン、チャート通りのルートを通れなくなる可能性が高くなります。

 

 そこから更に進み、黒羽根の集団と遭遇しました。彼女らは自分たちがマギウスのために動いている事と、目的が魔法少女の救済である事を語ります。

 最低限聞くこと聞いたらとっとと攻撃して戦闘を開始させます。この手に限る(筋肉式時短術)

 

 戦闘が終わり、更に水路を奥に進んだなら、そこには天音姉妹が待ち構えているでしょう。

 天音姉妹はまともに相手してたら一時間二時間は余裕で稼がれてしまうので、ここはゆりちゃんとフェリシアの二人で当たって残りの三人にウワサを叩きにいかせます。

 

 二人って双子なんだよね?

 

「そうでございますが……」

「それが何か?」

 

 じゃあなんで発育に差が……?

 

「それは関係ないでございましょう!?」

「今どこ見て言ったの!?」

 

 タウント成功です。これで天音姉妹はこちらの方を優先して狙うようになり、ウワサの方に行った三人に意識を向けなくなります。

 天音姉妹戦開始です。この戦闘で最も気を付けないとならないのは、姉妹が同時に演奏する事によって発動する、笛花共鳴による強制スタン。初代ポケモンのこおり状態やねむり状態並に厄介なので、発動する予兆を見せたら即座に笛を落とさせる必要があります。

 

 笛花共鳴によってスタンできる人数は最大二名なので、三人で当たれば一人はスタンを喰らわないから戦闘が安定するのではとお思いの方もいるでしょうが……確実に笛花共鳴を無力化するには四人必要です。

 笛花共鳴によるスタン状態の味方を読心すると読心した人にスタンが伝搬する性質があるので、三人で当たってもゆりちゃん以外の二人が笛花共鳴の対象にされると詰みます。魔法少女姿だと読心魔法がパッシブ能力になるので読心魔法を使わないという対策も取れません。

 天音姉妹に四人も割くとウワサの方に戦力が行き渡らなくなるため、多くとも三人が天音姉妹に割り振れる限界です。

 

 では笛花共鳴と相性の悪いゆりちゃんをミザリーリュトンのウワサの方に向かわせたらどうかというと、その代わりに鶴乃ちゃんを天音姉妹の方に置く必要があります。

 そうしなかった場合、天音姉妹の攻略が出来ずに敗北し、敗北ルートにシナリオが分岐、イベントが増えてタイムロスになっちゃいます。

 

 だからといって鶴乃ちゃんを天音姉妹戦に参加させてしまうと、今度はミザリーリュトンのウワサ戦の方が厳しいです。鶴乃ちゃんは対ミザリーリュトンのウワサ特効を持っており、戦闘に参加させるだけでウワサが著しく弱体化。素早く安定した撃破が可能になります。

 

 以上、天音姉妹の戦術、ゆりちゃんの特性、鶴乃ちゃんの対ウワサ特効性能などを考えた結果、ゆりちゃんとフェリシアの二人だけで天音姉妹と戦うのがベターだという結論を出しました。

 フェリシアの猪突猛進な戦法であれば笛花共鳴を発動させる暇は生まれませんし、僅かに生じた隙を狙って発動させようとしても、高威力高精度のゆりちゃんの射撃で妨害できます。

 頭数が同じであり実力に大きな差がある訳でもないので、勝つ事は難しいかもしれませんが、負ける事も無いでしょう。今回の目的は天音姉妹の撃破ではなくミザリーリュトンのウワサの破壊。鶴乃ちゃんとその親衛隊をウワサの方に向かわせる事は出来たので、後は耐えていればいいのです。

 タイムリミットまで残り十五分。かんばれ鶴乃ちゃん一行。

 

「ふふふっ……これは好都合にございます……」

「ソウルジェムが穢れてきてる。ウチらには好都合だよ」

 

 こちらも勝負所です。天音姉妹のソウルジェムが穢れた時、天音姉妹の行動パターンが変化。残り少ない魔力をとにかく使い切ろうとするような行動を取ります。

 この時、しっかりとゆりちゃんの読心魔法を働かせておきます。

 

「あなたがたはとても幸運でございますね」

「不幸なのに幸運だね。なんたって、神浜が解放の場である証拠を——」

「——その目でご覧になれるのですから」

 

 隔絶のドッペル。その姿はテラリウム。

 この感情の主は、自身の機嫌や感情に囚われず、理解者たる自らの半身に依存する。

 

 無縁のドッペル。その姿はアクアリウム。

 この感情の主は、自身の環境や境遇に囚われず、理解者たる自らの半身に溺れる。

 

 出ました。天音姉妹のドッペルです。両名共に半球状のドッペルの内側に感情の主を入れている形であるため、ドッペルの発動中は攻撃を外殻に防がれてしまい、感情の主にダメージを与える事ができません。

 一体出れば戦況が変わる。そんな強力な存在であるドッペルが二体もいては、とても戦いにはなりません。

 なので同数まで持ち込みます。

 

 まだMPが溜まってませんが強引にマギアを発動します。マギアにより銃弾が超強化。対物ライフルもびっくりな貫通力になります。これで感情の主を一人無力化だぁ!

 

「あ゛ああああぁっ!」

「月夜ちゃん!?」

 

 いよっしゃ! 隔絶のドッペル、撃破! 天音月夜の無力化に成功です。

 天音姉妹に対しドッペルの発現中にダメージを与えることは出来ないと言ったな。あれは嘘だ。このようにマギア級に強力でかつ貫通力に優れた攻撃であれば、外殻を貫通して内部に加害する事ができます。

 強引にマギアを発動した事でソウルジェムに穢れが満ちてしまいますが……天音姉妹の言葉を借りるなら、これは好都合です。天音姉妹がドッペルを出した事によって——ゆりちゃんもドッペルの制御が可能になってますから。

 

 凝望のドッペル。その姿は片眼鏡。

 この感情の主は、誰かの為になろうとしているが、自らの目では求められている物が見えないため、ドッペルに頼っている。

 

 ドッペルを出す瞬間に読心して制御下に置く方法を天音姉妹の心から覗き見たので、ゆりちゃんにも出せないはずが無いんですよ! ここでドッペルを制御状態で発現させる為に天音姉妹がドッペルを出す時に読心をしておく必要があったんですね!

 頭から伸びた棒の先端に、大きなレンズが繋がっています。視界の全てがレンズ越しになっていますが、ゆりちゃんはそこに不便を感じていない模様。

 ライフルを構え、レンズ越しの無縁のドッペルに射撃。このレンズは感情の主の攻撃だけを透過させ、かつ透過した攻撃を強化する特性があるみたいです。

 ドッペルという同じ土俵に立った為か易々と無縁のドッペルの外殻を貫通出来ていますね。不意打ち気味のドッペルという事もあり、この初撃で無縁のドッペルが受けたダメージは相当なもののはず。

 凝望のドッペルは初回使用でゆりちゃんが慣れていない状態なので発現可能時間がかなり短いです。ここからさらに畳みかけねば……!

 

 ……更なる一撃を叩き込み、無縁のドッペルが消滅しました。つまり、天音姉妹、両名の無力化に成功。戦術勝利を勝ち取りました。

 凝望のドッペルのクリティカル率上昇の効果でダメージが上振れしたので、決着がかなり早かったです。

 状況をひっくり返すドッペル顕現という絶望を更にひっくり返すだけの力を振るった代償として、ゆりちゃんは疲労困憊、気絶してしまいました。

 気絶自体は大丈夫、想定の範囲内です。近くにはフェリシアもいますし、ウワサを撃破した鶴乃ちゃんご一行がすぐに戻ってきて対処してくれます。

 気絶中は何も出来ないので、起きるまで時間をスキップします。

 

 第四章が終わったので今回はここまでです。ご視聴ありがとうございました。




凝望のドッペルは全重量を頭で支えるような構造なのですが、そんなに負荷が集中してたら首が痛そうだというのは、内臓出てたり左手をずっと上げてなきゃいけないドッペルがいる時点でどこかズレた感想でしょうか。

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