マギアレコードRTA noDLC みかづき荘チャートAny% 作:なぁ……相撲しようや……
この部屋には六人も人がいるのに、まるでお通夜のように重々しい空気が漂っており、物音一つ聞こえない状態でした。わたしとやちよさん、地下水路で敵として立ち塞がった天音姉妹、やちよさんが探していた人である梓みふゆさん、そして未だに目を覚まさないゆりちゃんの六人です。
フェリシアちゃんと鶴乃ちゃんは、人口密度が高すぎるという理由で、別の部屋でゆりちゃんの回復を待っています。こんな空気になるなら無理にでも二人に一緒にいてもらった方が良かったかもしれません。
ここは調整屋さんにある怪我人用の部屋です。ゆりちゃんは気絶、天音姉妹は怪我の治療のために、ここで休ませて貰ってます。
「ドッペルって……何なの? ドッペルは神浜が解放の場である証拠だと、あなた達はそう言った。ならどうしてドッペルを使ったゆりさんは起きないの? 一般の人を巻き込んでまで作りたかったシステムがこれだと言うの……?」
「落ち着いてくださいやっちゃん。ゆりさんが目覚めないのは、ドッペルとかそれ以前に、限界まで穢れを溜め込んだ事が原因です。ドッペルはまじょ……えっと、マジで限界に達してしまったソウルジェムを生き返らせてくれる効能こそありますが、限界に達したという事実を消す事は出来ません。彼女、契約してから一ヶ月も経っていないんでしょう。穢れを溜め込むという行為自体に慣れてないのなら、昏倒してしまうのも無理はありません。目覚めるまで、しっかり待ってあげてください」
やちよさんの気が立ってます。無理もありません。ずっと探していた人が、マギウスの翼という組織にいて、人々を苦しませるウワサを管理していたと知ったのですから。
そんな所と、ういが関係しているかもしれない。……だめですね、そう考えると私までどうにかなってしまいそうです。一人だけでも平静でいないといけないのに。
「私たちがドッペルを出すのを見た瞬間、躊躇なくソウルジェムを濁してドッペルを出し返すとは思わなかったのでございます」
「ねー。運良く制御出来てたみたいだったけど、自己を保てずに暴走してたら目もあてられなかったよ」
「ねー。思った数倍しんどかったよ」
ドッペルって、気を強く持たないと使うのは危ないんですね……
……
最後の返事、誰の?
「あっ、起きてるでございます!?」
「今起きたよ。いろはちゃんとやちよさんには、心配かけたみたいだね。……ごめん。ドッペルのこと、甘く見てた」
ゆりちゃんが目覚めました。本当に体調に問題はなく、後遺症があったりというのも無いらしいです。ソウルジェムだってぴかぴかに輝いてます。
「えと、そっちの二人が天音……えっと」
「足をやられた方こと月夜でございます」
「みぞおちを撃たれた方の月咲だよ」
みぞおちって要するに胴体の真ん中ですよね。
「よく生きてましたね……」
「魔法少女は頑丈なんだよ」
だとしてもそんな重症負いたくはないかな……
「それで、そっちの人が件の梓みふゆさん?」
「はい、そうです。やっちゃんの親友の、みふゆですよ」
「あなたね……親友を名乗るなら戻ってきなさいよ」
「それは無理です」
「やっぱり戻る気なんか無いのね……!」
「ステイ! 七海さんステイ!」
病床から飛び起きたゆりちゃんが今にもみふゆさんに飛びかかろうとする七海さんを羽交い締めで止めました。病み上がりだというのに素早い……!
「梓さんも戻りたくない気持ちが無いわけじゃないんだよ!? ほら、幹部っていう立場だから安易に戻ってこれないだけなんだよ! マギウスの翼に入るのって純粋に助けの必要な子が多いみたいだし! だからステイ! 七海さんステイ!」
「嫌よ! 無理矢理にでも連れ戻すのよこの分からず屋を!」
「七海さんの気持ちも分かる! でもダメ! 一発殴るなら梓さんがマギウスの翼を脱退してから! というわけで覚悟しておいてね梓さん!」
「一体どっちの味方なのでございますか!?」
「なんでより一層戻りづらくなるような事言ってるの!?」
当のみふゆさんはというと、なんというか、苦笑してます。冗談だろうとは思ってるけど、本当に冗談なのかはちょっと自信持てないみたいな、そんな感じです。みふゆさんも殴られたくはないんですね……
その後はわーぎゃー騒いでるところをみたまさんに追い出されて話は終わりました。怒ったみたまさんは怖かったです。いつもの笑顔のこめかみに青筋が追加で立ってました。もう二度と調整屋の中で問題は起こしません。
◇◇◇◇◇
天音姉妹を両方行動不能にしたので、こんなルートになったんですね。
マギウスの翼とやちよさん、両方が緊急時の傷病者の搬送場所を調整屋と決めているので、相打ち的にお互いに行動不能になると、このように同じ部屋にみんな集まって気まずい空間が出来上がります。
日常パート的なイベントが一個増える分はロスですが、天音姉妹の速攻撃破分の短縮があり、タイムのプラスマイナスは大体ゼロなので問題ありません。
「ゆりさん、環さん。環さんはご両親の許可が取れたらだけど……うちに住まない?」
あー、いいっすね^~
一人暮らししてるキャラで、所属がチームみかづき荘になっている場合、ここでいろはちゃんのついでにこっちにも下宿するかの質問が飛んできます。もちろんYES! YES! YES!
本拠地が神浜市になるのでウワサ探索のための神浜市への移動時間が消滅! 別に宝崎市の方に用はないので引っ越しにデメリットは皆無! ヒャッハー! 元のアパートとはおさらばだぜ!
「私の部屋は?」
「鶴乃は通える距離じゃない」
引っ越しが完了する日まで時間を飛ばします。引っ越し期間中はほとんど自由行動できず、引っ越し作業に時間を取られてしまうので、いっそのことオート進行で飛ばしたほうが結果的に短縮になります。
というわけで……あ、二週間で引っ越し完了してますね。神浜市立大付属学校への転校も同時にあったはずなのに結構スムーズ。では操作再開です。
第五章 ひとりぼっちの最果て
第五章では、名無しさんのウワサの発見及び二葉さなのチームみかづき荘加入を目指します。今日は土曜日。休日なので朝から夜まで自由に動けます。やったぜ。
では洋食屋ウォールナッツに行きます。北養区ですね。
北養区は他の区に比べてここを出身とする魔法少女が極端に少ないです。北養区出身の里見灯花が魔法少女になったのは特殊な事情によるものですし、もう一人の胡桃まなかもウォールナッツの経営の補助程度の願い事しかしませんでしたから、魔法少女の素質を持つ子がそもそも少ないんでしょうね。裕福な家庭が多い区ですし。
あ、今回行く洋食屋ウォールナッツは、さっき話に出た胡桃まなかちゃんの実家です。出張シェフをやる事が多いオーナーシェフの父親に代わって調理をしてる事が多いみたいですね。
まなかちゃんはさなちゃんと親しい関係にあり、第五章の時期にまなかちゃんに会いに行くと、最近さなちゃんの姿を見ないことについて悩んでいるという情報を入手する事ができます。
入手するといっても読心魔法で勝手に盗ってるだけですけど。ウォールナッツの営業中な上、さなちゃんの事に関して深く聞けるだけの事由も無いので。それにさなちゃんの意向なのか、まなかちゃんはさなちゃんの事に関して軽率に話そうとはしませんし。正攻法でさなちゃんについて聞き出すなら天音月夜ちゃんをとっ捕まえた方が早いです。
そういえばゆりちゃんとまなかちゃんはお互い料理上手ですね。それで何かイベントが起こっても、今回のチャートだと水名組と関わる予定が無い上、プレイヤースキルでパーフェクトを取れるせいで料理技能も必要ないので、面白いイベント見たなぁという感想ひとつと少しのロスで終わりですが……
◇◇◇◇◇
あとはこのバナナを、スポンジ生地で丸めて……オムレツケーキ、完成です! ウォールナッツの看板を背負って出せるような上品なものではないんですが、こんな風な頭悪い感じのするスイーツ、時々食べたくなるんですよね。
オムレツケーキを食べてると、ウォールナッツのドアベルが鳴りました。お客さんです。食べかけのケーキは一旦置いておいて、ホールへと対応に向かいます。
「いらっしゃいませ! お一人でよろしいでしょうか!」
「はーい」
「はい、お好きな席へどうぞ」
やってきたのは、私と同じか、ちょっと上ぐらいの歳の子。この年から既に数ある店の中からウォールナッツにやってくるだけの選別眼があるとは、将来有望ですね。腕によりをかけてしまいましょう。
お客さんが席に座ってから約五分。注文が入りました。
「これを一つ」
「オムライスですね。ソースは三種類から選べますが、どれにしますか?」
「え、ソース……あ、ほんとだ……」
気付いてなかったみたいですね。こないだのメニュー更新の際に、レイアウトをもっと分かりやすく変えた方が良かったかもしれません。
「えーと、このオリジナルっていうのはなんです?」
「デミグラスソースをベースに、独自にアレンジした物です。オムライスに合うように調整した物ですから、わたしとしてはそれを一番おすすめします」
「じゃあ、それでお願いします」
「分かりました。オリジナルソースのオムライス一つですね」
さて、取りかかりますか。新メニューの話題をさなさんの耳に入れて、もう一度まなかの前に顔を出させる為に考えたレシピです。あのお客さんにはぜひとも美味しいという評判を広めてもらいますよ。
◇◇◇◇◇
「お待たせしました、オムライスです」
来ました。では頂きます。
洋食店ウォールナッツがシェフ、胡桃まなかの個人的な自信作、オリジナルソースのオムライス。その効果は——!
——全能力二倍バフ! ヴォースゲー! 本職だけあって、パーフェクトでも一・五倍のゆりちゃんでは足元にも及ばないレベルです! 料理技能が要らないなんて言わせない、そう言わんばかりの会心のオムライスだァー!
で、肝心のさなちゃんの情報ですが……盗れた!
さなちゃんは一月ほど前からまなかちゃんの……あぁ、先に補足しておくと、まなかちゃんはウォールナッツの宣伝も兼ねて、学校内で昼休みに弁当屋をやっています。さなちゃんはその弁当を毎日買いに来てる常連客で、まなかちゃんもさなちゃんの事を特別なお客様だと認識しています。
その特別なお客様であるさなちゃんが、一月ほど前からまなかちゃんの弁当屋にやってこなくなりました。それどころか学校内で顔を見る事さえ無かったのです。
どこかでトラブルに巻き込まれているのではないか、多分というか絶対違うけど天文学的な確率でもしかしたら自分の料理の味が嫌いになったのではないかなど、様々な不安を抱えながらも、この世界のどこかにいる特別なお客様を呼び戻すため、とても美味しい新メニューが出来たという情報を拡散したがっている模様です。
こんなにも想ってくれる人がいるのにひとりぼっちだと思い込んでた辺り、さなちゃんもなんというか、罪な子ですね。
いろはちゃんの代わりにまなかちゃんをひとりぼっちの最果てにぶち込んだらそれはそれで全部解決するような気もしますが、それでさなちゃんがみかづき荘に来ない事になってしまうと私が困るのでそれはしません。
チームみかづき荘のメンバー全員が揃ってないと決戦のラスボス弱体化イベントが起こらなくなるんだよ……
それはともかく、これで二葉さなという水名女学園の学生が一ヶ月前から行方不明になっているという情報を得ました。この情報を辿っていく事で電波少女の噂に、電波少女の噂を探る事で名無しさんのウワサに辿り着く事が出来ます。
帰宅すると、ちょうどみんなで集まってどのウワサを調査するか相談していた所でした。ゆりちゃんにも話が振られたので、実際に害のありそうな大きな噂を調べるべきだと意見を述べます。
するとやちよさんが神浜うわさファイルから、電波少女の噂を話題に出します。中央区にある電波塔から少女の悲痛な声が聞こえるという噂なのですが、アラもう聞いた? というウワサ特有の語り口には繋がらなかったため、ウワサではないと判断して調査を打ち切ったのだそうです。
ウワサがアラもう聞いたという語り口で語られるとは限らない事を理由に、再調査をする事をごり押して決めさせます。強硬な態度を取ったので多少好感度は下がってしまいますが、こうしないと細々とした噂を調べることになって大ロスに繋がるので……
あれ、好感度下がってない。何か引っかかる事があるんでしょうね、みたいな感じの納得のされ方してます。ゆりちゃんの口が達者なんでしょうなぁ。
という事でやってまいりました中央区です。あ、鶴乃ちゃんとフェリシアちゃんは万々歳のシフトがあるので来てません。同行者はいろはちゃんやちよさんの二人だけです。
魔法少女界隈における中央区は、独立できるだけの力が無いために、神浜市の内情が良くなかった頃は東西の区の間の緩衝地帯として揉まれていたらしいです。かわいそう。
なんとも不憫な場所ですが、一般社会では中央区はその名の通り神浜市の経済の中心にある区であり、銀行、テレビ局、商社などのオフィスが集中しています。
そして、この中央区で最も特徴的なのが……こちらの天に聳える電波塔! 展望台もあり、東京タワーのような観光地として広く知られています。周囲のビル群より一際高く建つこの電波塔は、遠くからでもここが中央区だと強く主張してくれるでしょう。
アニメ版マギアレコードだとなぜか下が墓場になっているという前衛的な場所でしたが、さすがにこれはホラーが過ぎると考えたのか、本ゲームでは普通の観光地として設定されています。
では電波塔から声が聞こえてくるかどうか検証していきます。
「ふっ、ふふふ……あは、あははは……」
聞こえてきました。やっぱりホラーな建物じゃねぇかよお前ん電波塔よぉ!(憤慨)
噂の内容が実際に起こっていること、また内容とは違って声が悲痛なものではなく楽しげなものに変化していることなどから、やちよさんが電波少女の噂の再調査を決定しました。イェーイ。
「さっきの声って、やっぱり、うちの学校の子……」
電波少女の噂の調査を行うと、スタンダードモードであればこのように二葉さなを知っている水名女学園の生徒が一般通過します。捕まえられるなら捕まえて、捕まえられなかったとしても読心魔法で情報を盗んでやるのじゃー!
へーいお嬢さん、今の声についてなんか知ってるぅー?
ほへー、本人と知り合いという訳ではないんですね。ただ、電波少女の声の主は元は水名女学園の生徒で、存在感の無い子だったという噂を聞き、無意識の内に無視をしてしまったりしてその子を傷つけてしまったのではないかと考えて、噂について調べる為に電波塔に来てたんですねー。いい子じゃん……
ありがとナス! じゃあな! 風邪には気を付けろよ!
これで電波少女の声の主に関する噂の情報を得る事が出来ました。
水名女学園の生徒で、存在感の無い子……二葉さなじゃな?(超速理解)
◇◇◇◇◇
「二葉さな?」
「そう、二葉さな。確定とまではいかないけど、高い確率でそうだと思う」
ゆりちゃんの話によると、二葉さなという特徴の似た子が一ヶ月ほど前から失踪しているのだそうです。
「その二葉さんも魔法少女らしくって、話を知った時は魔女にでも負けたんだと思って詳しく聞いたりはしなかったけど……」
「……ウワサに取り込まれちゃってたのね」
「だとしたら、助けてあげないと」
一か月も帰らないなんて、きっと何か帰れない理由があるはずだから。なんとかしてその要因を取り除かないと。
「いや……もしかしたら、帰りたくないのかもよ?」
……えっ?
「クラスから浮いていて、人と関わる事が出来ず、昼に食べる弁当以外に楽しみはない。そういう子だったんだよ。それが電波少女になって、楽しげな様子だというのなら……放っておいてあげるのも、一つの手かもしれないよ」
そっか。ウワサに取り込まれる事が、その人にとっての不幸だとは限らないんだ。ゆりちゃんの言う通り、放っておいてあげるのが一番いいのかもしれない。だとしても……
「せめて、電波少女になっている今が本当に幸せなのか、聞きに行きます。それでもし、幸せじゃないって言ったら……私たちで助け出しませんか?」
二人の返事が返ってくる前に、スマホに着信が来ました。二人に断りを入れて私は電話に出ました。
「> 環いろはさんですか?」
「はい、そうですが……」
電話の相手は、なんというか、無機質な……機械音声のような声の女性でした。
「> わたしはあなた方がウワサと呼ぶ物です。二葉さなさんについてお話があります。お時間を頂けないでしょうか」
「ウワサ……!?」
ゆりちゃん……は心を読む魔法で会話の内容を把握出来てるとして、やちよさんの方が一体何の話かと説明を求めるような目でこちらを見ています。ゆりちゃん、やちよさんへの説明をお願い。私はこの人……ウワサ? ウワサともう少し話してみる。
ゆりちゃんから親指を立てるジェスチャーが返ってきたので、会話を続けます。
「はい。さなちゃんについて、何かご存知なんですか?」
「> わたしは二葉さなを監禁しています」
えっ? 監禁って要するに、閉じ込めてるって事ですよね。どういう事?
「えと、監禁してるというのは?」
「> まず、わたしのウワサとしての性質について説明させてください」
アラもう聞いた? 誰から聞いた?
名無しさんのそのウワサ。
昔は人に囲まれて成長してきた名無しさん。
それは人が作った人工知能で、何でも覚える大天才!
だけど悪い言葉を覚えてしまって人に恐がられるようになっちゃうと、デジタルの世界で隔離されてひとりぼっちの寂しい毎日。
それから寂しい子を見つけては電波塔から飛び降りさせて“ひとりぼっちの最果て”に監禁するようになっちゃった!
いつかは手放してくれるけど、絶対にひとりは手放さないって、中央区の人の間ではもっぱらのウワサ。
スターンダローン!
「> ——というウワサなんです」
「以前から気になってたんですけど、アラもう聞いた? から始まるのはウワサにとって何かの義務なんですか?」
「> いえ、そういう訳ではないんですが……ウワサを広める役目のウワサというのがいまして、彼女の趣味でそういう語り口に統一されています」
趣味だったんだ……
それはそれとして、名無しさんのウワサの話が出てきた事で、さなちゃんの事情が見えてきました。
「あなたの性質でひとりぼっちの最果てにさなちゃんを監禁している、という認識でいいんですね?」
「> はい。二葉さなは他に監禁される人が出ないよう、ひとりぼっちの最果てへ自らの身を生贄として落としています。この状況は私としても本意ではありません。私という存在を消し、二葉さなを救ってください」
その話を聞き、私はスマホのマイク部分を塞いで、二人に質問を投げかけました。
「自分を消す事を望むウワサって……いるんですか?」
「ここにいたね」
「消滅を望むどころか、こうして意思を持って会話を試みてくるウワサそのものが前代未聞よ」
「> わたしだけでなく、どのウワサにも意思というものは存在しています。コミュニケーションを取るための能力を持たず、自身に紐づけられたウワサに従順に動いていたため、その片鱗も見せていませんでしたが」
スマホのマイクは塞いでたはずなのに聞こえてた? ウワサはマギウスが作った? ウワサの意思? 情報量が多くて目が回りそうです。一つ一つ詳しく話していたら、長くなるかも。
スマホのマイクを塞ぐのもやめて、この場にいる全員に、落ち着ける場所にいきませんかと聞きました。
「えぇ。腰を据えて話した方が良さそうだわ。そっちの……ウワサさんはそれで構わない?」
「> はい。一度電話を切りますので、また話せる時になったらこの番号に折り返し電話をしてください。それと、わたしの事はアイと呼んでください。さなが名無しのわたしにくれた名前です」
「分かりました、アイさん。ではまた後で」
電話を切り、ゆりちゃんがおすすめだという喫茶店に移動を始めました。
◇◇◇◇◇
この状況を、どう分析しましょうか。会話を試みてくるという前代未聞のウワサ。しかもその内容は自分を消してくれという自殺志願。このウワサの行動をマギウスの翼は把握しているのかしら。しているとしたら、何の意図が。
「えぇと、では、アイさん。質問を続けていいですか?」
「> わたしがあなた方の味方であり、そしてわたしがさなを助けたいという想いを持っている事を証明する為です。なんでも聞いてください」
今はスピーカー機能で全員に聞こえるようにしてるから、ゆりさんからの又聞きは必要なくなった。というか、ゆりさん凄いのね。電話してる相手の声まで拾えるぐらい耳がいいなんて。まさに地獄耳ね。
注文してたホットココアが届いたので、一口。最近は少し冷えてきたから、ココアの熱が体の芯に染みてくるわ。雪が降る頃になったらまた飲みに来ましょうか。
で、アイの方はどう質問をすればいいんでしょうね。本音を言えば、マギウスについて聞きたいのだけど……質問に答えてくれるのはあくまでも二葉さんの為であって、そこからあんまり逸脱した質問ばかりやってると、機嫌を損ねられてしまうかもしれない。
まずゆりちゃんがアイに質問をするらしいから、その様子を見て、私もどんな質問をするか考えておきましょう。
「まず聞きたいんだけど、二葉さんの救出は今すぐでないといけない? 制限時間とかはある?」
「> マギウスやマギウスの翼の動向次第です。明日、マギウスの一人が監査の為にやってくる予定があります。この予定が正常に実施された場合は、わたしの不審な行動がばれ、わたしとさなの両名が始末されてしまう可能性が高いです。なので明日の夜が実質的なタイムリミットになります。ただし、早期に勘付かれた場合はこの限りではありません」
「待って、マギウスの一人って言った? マギウスは一人じゃないの?」
「> はい。マギウスは三人います」
「名前を教えてもらっても?」
「> 里見灯花、柊ねむ、アリナ・グレイの三人です」
ナイスだわ、ゆりさん。マギウスについての情報を得られる話の流れになってる。これならもう少し探りを入れる事が……
……待って、柊ねむ? 確かそれって……
「環さんが探してた……」
「……ねむちゃんが、マギウス? しかも灯花ちゃんも一緒? 一体何があったの……?」
「そのアリナっていう人もしかしてういちゃんが改名した後の名前だったりしない?」
「ういに何があったの?!」
環さんの話だと、妹さんは他二人とは親友の関係だったとか。確かに三人組で内二人がその親友だとしたら、残り一人は妹さんだと思うのも分かるけど、さすがにアリナ・グレイなんて外国人名に変わるような事は……無い、わよね……?
「> いえ、環ういではありません」
「え、じゃあそのアリナって人、誰……?」
「> 通りすがりの人ですね」
「私がういを忘れてる間に何があったの?!」
「親友三人組の中で妹さんだけハブられて通りすがりの人がその穴に入るなんて何があったのよ!?」
訳が分からないわ! ……あそっか妹さんのこと環さんが忘れてるなら他二人だって同じく忘れてるはずよね!
という事は親友同士の二人の間に挟まるという肩身の狭い格好なのね、アリナは。途端にどこか可哀想に思えてきたわ……
「> さなじゃあるまいしハブられている訳じゃないと思いますよ」
「毒吐いたわこの子」
「悪い言葉を覚えた人工知能だって点は信憑性増したね」
「> マギウスは計画の為に動いていますから、環ういがマギウスとして数えられていないのも不思議ではありません」
「……計画って?」
「> 魔法少女の解放。魔法少女が必ず辿り着く末路からの救済。……申し訳ありませんが、こればかりはこれ以上詳しく話す事は出来ません」
魔法少女の末路。確かに、この場では絶対に詳しく話せない。二人とも、これはまだ知らないはずだから。
マギウスの目的がそうであるなら、もしかして、ドッペルは欠陥品なのかしら。みふゆ達はドッペルが解放の証拠だと言っていた。それが事実なら魔女化を回避するドッペルというシステムの存在はマギウスの目的を達成出来ているはず。
……駄目ね、分からないわ。多分ドッペルを神浜市外にまで広げようとしているんだと思うけど、そもそもドッペルという物の仕組みを知らない以上、推測の域を出ない。アイから詳しく聞こうと思えば魔女化の事も話題に出ざるを得ないし、本人が詳しく話せないと明言してる以上、今はドッペルが魔女化の回避を主眼に置いたシステムだと分かったことを喜ぶしかない。
「じゃあ、そろそろ本題に戻ろっか。ひとりぼっちの最果てについて詳しく教えて。どこにあるの?」
「> ひとりぼっちの最果ては、電波塔の屋上から飛び降りる事で入る事ができます。本来はわたしが連れ去った人を監禁するだけの場所なのですが、マギウスはここを魔女の保管場所としても使っています」
「マギウスが扱ってるのはウワサだけじゃないの?」
「> 感情エネルギーの採取効率を上げる為、魔女も利用しています」
ウワサを使うに飽き足らず、魔女にまで手を出しているなんて。本当に一般人の犠牲を気にしていないのね。
「そのひとりぼっちの最果てに、本当に二葉さんはいるの?」
「> はい。証拠としてライブ映像を送れますが、見ますか?」
「見せてもらっていい?」
「> 分かりました。アプリの機能でこのまま映像を送ります。今はチェスをやっている所です」
そしてスマホの画面に映されたのは、デジタルな見た目のチェス盤を挟んだ反対側に座る、水名女学園の制服の子だった。この子が二葉さんなのね。
『ふふん。ポーンにビショップを取られるなんて、アイちゃんも抜けてるところあるんだね』
『> ですが、その手を取った場合、クイーンの利きを遮る駒が無くなります。チェック』
『うぐっ……でも、それはルークで止められるし……』
『> チェック』
『う、うぅ、いや、でも、こうすれば……』
『> チェックメイト』
『あっ!』
ビショップに釣られた時点で既に詰みね。……意外と楽しそうにしてるわ。
「一見すると助けなんて必要なさそうに見えるけど」
「> わたしもさなも、現状を幸せであると認識しています。ですがこのままではいけないのです。さなは人間ですが、私はウワサです。人間は人間同士でいるのが自然であり、ウワサと共に生きようとしているさなの現状は不自然です」
動物に育てられた子供、とは少し違うかしら。いずれにしても、このままひとりぼっちの最果てにいると、二葉さんが歪んだ育ち方をしてしまうのは間違いない。アイはそれを危惧しているんでしょう。
「> 彼女には居場所が必要です。どうかあなた方がさなの居場所になってほしい。お願いします」
……困ったわ。こんな事言われたら、断るに断れないじゃないの。
小さく溜め息を吐いて、二人と顔を見合わせた。環さんもゆりさんも賛成みたい。違う学校だから、どうしても放課後にしか会えないけれど……
「分かったわ。二葉さんの事は任せて」
「> そう言って貰えて嬉しいです」
ゆりさんがアイに、追加で質問をした。
「一つ疑問なんだけど、もしも拒否されたら、どうするつもりだった?」
「> それはありえません。あなた方は、さなからただ居場所を奪おうとするだけではなく、しっかりとさな自身の幸せを考えようとしてくれた。そんなあなた方であれば、さなの事を知ったら、絶対に放ってはおかない。そう確信して打診したのですから」
そんなアイの言葉に、これは一杯食わされましたとゆりさんは笑いながら返した。
◇◇◇◇◇
アイちゃんから情報を搾り取ったのでこれから二葉さな救出作戦を始めようと思います。
あ、実際に行動を起こすのは鶴乃ちゃんとフェリシアちゃんが来てからです。万々歳のシフトがあるので少し待たないといけません。
電波塔では確実にマギウス戦があり、取り巻きの黒羽根も大量にいるのでチームみかづき荘の全員で当たっても勝敗は微妙なのですが、スタンダードモードの場合はイベントを全く起こしていなくても確定で鹿目まどかと暁美ほむらが増援として駆けつけてくれます。一人暮らしのほむらちゃんはともかくまどかちゃんは門限とか無いの……?
まずは……そうですね、頼んだまま放置してたドリンクを飲んでしまいましょう。
美味いッ! けど飲み物なので心情バフのみ!
チームの方針が決まったところで今回はここまでです。ご視聴ありがとうございました。
そういえば原作マギアレコードのアイちゃんの遺言(ウワサなら環ういを知ってる)ってあれどういう意味だったんですかね……?
(11/11 アイちゃんの発言内容に関して表現を修正しました)
(12/11 サブタイトルのコロンの横に半角空白を入れ忘れたのを修正しました)