マギアレコードRTA noDLC みかづき荘チャートAny% 作:なぁ……相撲しようや……
「で、ここがそのお店?」
「うん。いい店だったからもう一回来たかったんだよね」
フェリシアと二葉さん、二人の歓迎会として、そして私たちの親睦会も兼ねて、外食に行こうという話が出た。そんな中でゆりさんがいい場所があると言って、みんなを連れてきたのがここ、洋食屋ウォールナッツだった。
去年に来た事があって、その時に食べた料理の味がとても美味しかった記憶がある。確かに、ここの料理はみんなで食べに行くのにピッタリだわ。
……ただ一つ、懸念があって。ここにいる六人。鶴乃、ゆりさん、環さん、二葉さん、フェリシア、それから私。全員分の食事代を出すには、持ってきた分のお金だと微妙に足りないかもしれない……!
「……あの。今回は私が全部払うからいいよ?」
懐の寒さを見透かされたためか、ゆりさんがそう耳打ちしてきた。気付かれるぐらい顔に出てたかしら。
「ダメよ。こういうのは大人が払うものなんだから」
「でも鶴乃ちゃんが七海さんはギリ未成年だって」
「シャラッ」
結局、支払額の三分の一だけ持ってもらう事になってしまった。年長者としての威厳が……
◇◇◇◇◇
チリンチリンとドアベルが鳴りました。対応のためにホールへ行くと、昨日に来て頂いていた、私と同じぐらいの年齢のあの人が、今日も来ていました。後ろにはぞろぞろと他の人も連れています。五名とは結構な大所帯ですね。
……あ、鶴乃さんとやちよさんもいるじゃないですか。かなーり前に魔女退治をご一緒した事があります。お三方、互いに知り合いだったんですね。
「ここまなかちゃんの実家だって言ってたお店だったんだ! 久しぶり!」
「お久しぶりです、鶴乃さん。それで、五名様でよろしいですか?」
「ううん、六人だよ」
そう言って鶴野さんは、自分の後ろに隠れていた人を前に出しました。小さなツインテール、おどおどとした様子。その子は紛れもなく——
「さなさん!?」
「ど、どうも……」
「今までどこに行ってたんですか! 探したんですよ!」
まなかが駆け寄って両手を取ると、さなさんは気圧されたように一歩下がりました。こういう強い押しはさなさんは嫌いでしょうが、今回ばかりはしっかりとまなかの気持ちを聞いてもらいますよ。
「電話には出ないしどこにいても見かけなくなるし電波になったなんて変な噂は流れてるし、本当に心配したんです!」
「ご、ごめんなさい……」
「これは、どうしても償いをしてもらう必要があります。さなさんの分の注文はまなかに決めさせて頂きますよ。構いませんね?」
まなかの言葉に、さなさんは豆鉄砲食らった鳩のような顔をしました。
「へ? えと、いいです、けど……」
「よろしい。では皆さん、失礼しました。お好きな席へどうぞ。注文が決まりましたらまた呼んでください」
ふふ。今日は吉日です。特別なお客様が、またウォールナッツへやってきたのですから。
◇◇◇◇◇
「お待たせしました、若鶏のグリルです」
「うぉーすげー!」
みんなの頼んだものが次々に運ばれ出してきました。やちよさんのペペロンチーノ、私のグラタン、鶴乃ちゃんのマルゲリータ、ゆりちゃんのハンバーグ……あれ、ゆりちゃん大盛りのライスまで頼んでる……そして最後に来たのが……
「オリジナルソースのオムライスです。これはさなさんが食べてください」
さなちゃんは頂きますと言ってそのオムライスを一口食べ、そして泣き出しました。
「美味しい、です……!」
「そうでしょうそうでしょう、何せ一ヶ月ぶりのウォールナッツの味ですからね。今までどこに行ってたかは知りませんけど……お帰りなさい、さなさん」
ただいまと言いながらオムライスを食べるさなちゃんの姿は、とても幸せそうでした。
その様子を見ながら、私もグラタンを一口……うん、幸せの味がします。いつか来るだろう、ういと一緒にこの味を分かち合える日が今からとても待ち遠しいです。
◇◇◇◇◇
「——それで、昨日の話、覚えてるわよね。情報源がなんなのか教えなさい」
「それご飯食べながら聞く事かなぁ……?」
ピザを食べていると、何やら面白そうな話をししょーとゆりちゃんがしていた。情報源? なんだか刑事ドラマやら推理漫画みたいな話だね。
「まぁいいよ。……あれ、会話に何かデジャヴを感じる」
「そうかしら? 別に感じないわよ」
「そっか。じゃあ話を戻すけど、情報源は……ずばり、七海さん。あなただよ」
「……え?」
おー、ほんとに推理漫画っぽい話の展開になってきた。
「私ね、実は心を読む魔法が使えるんだ。だから口寄せ神社の時に七海さんの過去についてある程度分かったし、今そこで鶴乃ちゃんが推理漫画っぽいって思いながら聞き耳立ててるのも知ってるよ」
「んなっ!?」
思っていた事を言い当てられて、驚いて声を上げてしまった。推理漫画で読心能力を持ってる人が出てくるなんて、そんなの反則探偵だよ反則探偵!
「という事は、初めて会った時にちょろっと出てた魔力は……」
「読心魔法を使った時にちょろっと出たやつだね」
「という事は、その時に考えてた事も……」
「ダブル炒飯を注文させようとしてたね。あと、ダブル炒飯って要するにただの炒飯大盛りだよね」
確かに……あ、いや、大事なのはダブル炒飯の事じゃなくて……
「……本当に、全部見たの?」
「全部ではないけど、大体は。鶴乃ちゃんも大変だね……」
「……まぁね。最強への道のりって大変だよ」
そっか、全部見られてたんだ。私が作った仮面の下の素顔まで。……あはは、なんだかバカらしいね。ずっと見られないように努力してきたのに、ゆりちゃん相手には無駄だったなんて。
「……鶴乃?」
「ううん、大丈夫。大変って言われて、昨日の万々歳での事を思い出しちゃっただけだよ。仕入れしようと思ってたのに、忘れちゃってた……」
「それは大丈夫なの?」
「全然大丈夫じゃなかった。ちょっと今からでもやってくる。ごちそうさま。お代ここに置いておくね」
「鶴乃、それは私とゆりさんで払っておくから——」
「知ーらない! じゃあまた明日!」
それだけを言って、わたしはウォールナッツから出た。ほんとは、もうちょっと在庫あるから仕入れは今でなくともいいんだけど……ちょっとね、驚きすぎて動転してるかも。
少し、一人で考え事してくる。次に会ったときは心の内側までいつも元気な鶴乃ちゃんだから、心配しないで!
◇◇◇◇◇
「あれ、鶴乃、どうかしたのか?」
「仕入れ忘れてたって」
仕入れ? あぁ、昨日そんな事も言ってたな。これオレも手伝いに行った方がいいのか? でもオレは万々歳のことそんなに詳しくないから仕入れなんて手伝えないし、呼ばれなかったって事はあんまり勝手に動かない方がいいな。
「仕入れの事を思い出したって事は万々歳の話でもしてたのか?」
「半分は……そうね」
「私の固有魔法についての話をしててね、初めて会った時にやけにダブル炒飯推してたよねって、そんなこと話してたんだよ」
ゆりの固有魔法? それって確か……
「悲鳴から言ってる事が分かる魔法だったっけ?」
「本当にそうだとしたら、使える場面が限定的すぎる魔法ね……」
「実際のところは悲鳴じゃなくてもなんなら黙ってても言ってる事が分かるよ。そういう超能力だからね」
「へー」
じゃあ例えばここでこの間のアイス消滅事件の犯人がオレだって言おうとしたら……
「聞くまでもなく事件当日からもう知ってる」
「マジでか!?」
つまり、ゆりには隠し事が出来ないわけだ……身近にいる分、お天道様よりよっぽど怖い。
「フェリシアちゃん、その件については後でちゃんと謝っておいてね。鶴乃ちゃんは気にしてないけど、だから謝らないってのも違うし」
「うん……」
鶴乃も、オレが勝手にアイスを食べたって知ってて、アイスがどこかに消えたって誤魔化すように言ってくれたのかな。鶴乃には悪いことしちゃったな……
◇◇◇◇◇
ウォールナッツの好感度上昇効果こえぇなぁ……ミックスベリーケーキ並に上がったんですがそれは……
ともかく、これで追加の好感度上げは大体完了です。後は自動発生するイベントの上昇分で足ります。イベント発生まで時間経過を待ちましょう。
というわけで、オート進行で次の週まで飛ばしま……おっと、早速月曜日にイベント発生です。やちよさんの提案で、みんなでマグカップを買いに行く事になりました。
初期の状態だとさなちゃんの他者への好感度にはキャップが設定されており、キャップに達してから日を跨ぐとこのイベントが発生し、完了するとキャップが外れます。
ここで買うマグカップは既製品かオーダーメイドかを選ぶ事が出来ます。既製品の場合はカタログから、オーダーメイドの場合はウェブ上のワークショップの中から欲しいマグカップを選びます。
ワークショップには、純粋に良いデザインの物からネタに走ったデザインの物まで、ユーザーの作った本当に沢山の種類のデザインがアップロードされています。
ネタに走った物だと、円環の理の噂(叛逆の物語の冒頭で流れてたやつ)が書いてある物や、マミさんが丁度マミった所が描いてある物やら、フェリシアちゃん(登録名ママ)の変身ムービーのマジックマグカップを再現した物とかが有名所でしょうか。ワークショップを巡ってみるだけで面白いかもしれません。
今回はRTAなので、オート選択機能を使います。既製品の中からプレイヤーに合ったデザインを自動で見繕ってくれます。
そうして選ばれたゆりちゃんのマグカップは……白地に灰色のストライプ。その上に描かれた三角の中に、抽象化された目のマークが描かれています。プロビデンスか何か?
第六章 真実を語る記憶
マグカップ購入イベントも終わり、今度こそ週末まで飛ば……せました。土曜日です。
さなちゃんがみんなでお揃いのコースターを買おうと言い出しました。ここでさなちゃんが買おうと言い出す物は大体はコースターになるのですが、低確率で別の品目に変わったりします。ヘアピンとかスリッパとか、変なものだとワインセラーとかマジック用の道具とか……全員未成年なのにワインセラーって冷静に考えるとおかしくないか?
やちよさんへのサプライズという事で、やちよさんに黙ってコースターを用意したやちよさん以外のチームみかづき荘。居間でいろはちゃんとゆりちゃんがやちよさんの帰りを待ち、サプライズ実施のタイミングを計るという計画でしたが……
◇◇◇◇◇
「ワタシも一緒にやっちゃんを待たせてもらっていいですか?」
えぇぇぇぇーーーー……
みかづき荘に帰ってきたのは、やちよさんではなく、みふゆさんでした……
どうすべきか分からなくなって、邪険に扱うわけにもいかず、とりあえず居間に通すことにしました。
「おかえり七海さ——梓さん!?」
「どうもー」
ゆりちゃんもとても驚いた様子でした。えと、これ、どうしたらいいんでしょうね。招き入れたはいいものの、このままだと物凄く気まずくなってしまいます……!
「いらっしゃーい、お茶菓子あるけど食べる?」
き、切り替えが早い……
ゆりちゃんはみふゆさんをそのまま客人として扱うみたいです。
「お茶菓子! ワタシお茶菓子大好きです! ぜひ頂きます! ……あ、お茶はワタシが入れますね」
「わ、私も行きます!」
なんとなく一人居間に取り残されるのが嫌で、台所にまで付いていく事にしました。
みふゆさんは戸棚の中の……茶葉を探しているようでした。
「うーんと、この辺りに確か……」
「それ、やちよさんのお気に入りなので、勝手に飲むのはあまり……」
「ふふっ、いろはちゃんは心配性ですね。ワタシが飲んだと言えばきっとお咎め無しですよ!」
そ、そうなんでしょうか……? 食べ物の恨みってかなり深いと聞きますし、これがきっかけで恨まれる事になっても私は知りませんからね……!
「それで、マグカップは……」
「そこの棚のはやちよさんに触るなって言われてるので、こっちのを……」
「あ、一つはワタシのなので大丈夫ですよ」
「そうなんですか?」
時々やちよさんがやってる食器の纏め漂白の時にも、それは見たことないような……
「みふゆさんのだから、触っちゃいけなかったんですね」
「やっちゃんらしい愛情表現です。さ、お茶を入れて、やっちゃんの帰りを待ちましょう。お茶菓子と一緒に!」
「それずっと洗いもしてませんでしたけど埃とか大丈夫ですか?」
「そんなレベルで触ってなかったんですか!?」
マグカップは軽く水洗いだけしておいて、改めてお茶を用意して、居間に戻りました。先に戻っていたゆりちゃんが既にお茶菓子を人数分用意して待っていました。
「なんか、ホットドッグみたいなケーキですね」
「オムレツケーキって言うみたい。先週に見たのを記憶を頼りに再現してみたんだ」
へぇ、そんなケーキもあるんですね。また一つ賢くなっちゃいました。
「わあぁぁぁぁ! とても美味しそうです! 頂いていいんですよね! 頂きます!」
そう言って一口食べたみふゆさんは、幸せそうな表情のまま固まってしまいました。
「ところで梓さん、マギウスの翼の方は大丈夫なの? 梓さんは幹部的な役割だって聞いたんだけど……」
ゆりちゃんの質問で、みふゆさんがやっと現実に戻ってきました。
「あぁ、それは大丈夫ですよ。実は最近入ってきた人がとても羽根たちの取り纏めの上手い人で……」
「へぇ……」
「……なっ、卑怯ですよ! こんな美味しいお菓子を餌に情報を引き出そうだなんて!」
「これは世間話の内でしょ!?」
ゆりちゃんの言葉に何か引っかかったのか、みふゆさんは何かを考えるような仕草をして、そして何かを思い出したかのように手を打ちました。
「あぁ、そうだそうだ! お茶菓子に気を取られて忘れてました! 今日はお二人がワタシたちと敵対する理由についてもはっきり聞いておきたいと思っていたんでした」
敵対する理由、ですか。同調しない理由としては、何も知らない一般人を巻き込んでいるというだけで十分です。そこから更に敵対行為まで働いているのは偏に——
「灯花ちゃんとねむちゃんを人殺しにしたくない。それだけです」
「あら、もうマギウスの名前まで調べてあるんですね。ではワタシ達の目的である、魔法少女の解放……それが何を意味するかはご存知ですか?」
「はい。魔女化の回避、ですよね?」
知っていてなお敵対する私の意思が確認できたからか、みふゆさんは今度はゆりちゃんに向けて質問をしました。
「では、ゆりさんの方の話を聞かせてもらえませんか?」
「私? 私は……そうだね。よく分からないシステムに自分の命を預けたくはない、って思ってるかな」
魔法少女の解放にエンブリオ・イブが……ういが関係しているとアイちゃんは言っていたけど、それが具体的にどういう意味なのかは、未だに分かっていません。
「なら、魔女化を回避するためのシステムについて詳しく知る事が出来れば、考えを改めるかもしれない、と?」
だから、このみふゆさんの言葉は青天の霹靂に近い物でした。イブの……ういの現状について教えると言っているような物でしたから。ゆりちゃんも聞くべきだと考えたみたいで、みふゆさんに話の続きを促しました。
「明日の夜、記憶ミュージアムにて、ワタシたちの作ろうとしているシステムについて学ぶ為の講義をします。一応は機密なので、ワタシから話すのは裁量を越えてしまいますが……マギウスに頼めば話は別です。参加して頂けませんか?」
マギウスに……つまり、灯花ちゃん、ねむちゃんに会える。
「分かりました。よろしくお願いします」
「色良い返事が頂けて良かったです。場所は……自分で探してください。短時間でウワサを発見できるだけの実力がある事を示して貰った方が、マギウスに講義のために時間を割いてもらう事を納得して頂けますから」
名前からしてそうでしたけど、やっぱり記憶ミュージアムというのはウワサなんですね。明日までに調べられるでしょうか? ミュージアム、という事は博物館なんでしょうけど、神浜市内に博物館ってありましたっけ……?
「ただいまー。環さん、帰ってるの?」
あっ、やちよさんが帰ってきました。
「コロッケがまた安くなってて——え、みふゆ?」
「お帰りなさいやっちゃん」
ビニール袋のガサガサとした音とともに、居間に入ってきたやちよさんは、みふゆさんを見た途端に思考が止まったかのように硬直してしまいました。いや、そうなりますよね……突然来たんですから……
「……何しに来たの? お茶会?」
「あ、いや、それはゆりさんの好意で用意して頂いただけで……マギウスの翼に来てくれないかと思いまして、お話に来ていたんです。やっちゃんはどうですか?」
「そんな答えが分かりきった事を聞きに来たの? そちらに付くつもりは毛頭ないわ」
やちよさんの剣呑な視線に晒され、それでもみふゆさんは全く動じていませんでした。最初からこういう返事をされると思っていたようです。
玄関の方から、次々に人が入ってきました。あ、外で待機してたみんなだ。連絡をしてなかったので、焦れて来てしまったのでしょう。
「もう、連絡してよいろはちゃ……みふゆー!?」
「んだよ鶴乃、うるせ……あっオマエなんかマギウスの翼のエライやつ!」
「は、はわわ……」
み、見事に会う人会う人全員が驚いています。それはまぁそうなるんですけど……
「あらあら、騒がしくさせてしまいましたね。ごめんなさい、ワタシはこれで失礼しますね。あ、皆さんも気が変わったらマギウスの翼に——」
「帰ってちょうだい!」
「あれー」
やちよさんに押されるようにして、玄関の方まで二人とも行ってしまいました。姿が見えなくなった直後、みふゆさんからのテレパシーが飛んできました。
『いろはさん、先ほどの講義の件、皆さんにも伝えておいてください』
『分かりました』
えっと、どういう風に話せばいいかな……
◇◇◇◇◇
はい、というわけでみふゆさんから講義への招待を頂きました。会場は記憶ミュージアムのウワサ内。ホイホイついて行くとウワサの力を応用した洗脳によってマギウスの翼に無理矢理させられてしまいますが、行かない訳にもいきません。ここで灯花ちゃんにアプローチをかけないと本拠地への侵攻の際に負けイベントが一つ増えてしまいます。
講義に参加してなんやかんやあって神浜ローラー作戦が実施されることで、灯花ちゃんへ魔力を供給しているウワサがいなくなり、灯花ちゃんにかかった超バフが無効化されて常識的な強さにまで落ち着きます。なお、これを見越して先にウワサを消そうと思って動いても、なぜかウワサと遭遇する事が出来ないので、講義に参加してから動いた方が早いです。これも強制力って奴の仕業なんだ。
講義をするにあたって、会場である記憶ミュージアムの所在については自力で調べろとのお達しですが、固有魔法の読心によって会場は把握済みです。なので今から講義の開始時間までフリーです。やったぜ。
とはいっても、特に今やる必要がある事はありません。無いよね?(チャートガン見)
あった……
この自由時間を使ってやちよさんのドッペル解放を準備しておく必要があるのでした。現在のやちよさんは未だ心の迷いが払拭出来ておらず、ドッペルを発現させると暴走してしまう状態にあります。
この暴走を克服するフラグは二つ、記憶ミュージアムの講義への出席、かなえさんとメルちゃんの遺品の確認です。後者の方は実は現段階からフラグ立てが可能で、先にやっておく事で出席直後からドッペルの発動が可能になります。
なので……今から墓を漁ります。
◇◇◇◇◇
「ゆりさん? ……何を探してるの?」
既に鶴乃が帰ってみんな寝てるような遅い時間、照明も落ちていて暗い居間で、ゆりさんが押入れの中に頭を突っ込んでいた。何やってるのかしら。
「……七海さんか。えと、なんでもない」
あら、言い淀むなんて珍しい。隠し事するならするで結構上手く隠すタイプだと思ってたけど。
「あ、そういう印象だったんだ」
「嫌味ではないわよ?」
「それは分かってるから大丈夫」
探し物をしていたみたいね。私への返事が終わった後に押入れの中をガサゴソとやりだした。やがて目当ての物を見つけ、押入れの中から四角い物を取り出してきた。
暗くてよく見えないけど、たしか、これは……
「雪野さんと、安名さんのだよ」
やっぱり。二人の遺品を入れておいた箱。それの存在をゆりさんに教えた記憶は無いのだけれど。
「いつ盗み見たの?」
「ごめんって。ほら、二葉さんを助けに行った日、二人について話題にしたでしょ。その時にこの箱の事をぼんやり考えてたから」
うん? ……思い返してみると考えてたかも。
でもどうしてこんな夜に?
「みんな寝てると思って。七海さんはこの箱を怖がってるみたいだったから、私一人でこっそり見ようとしたんだ。だけどこうして見つかっちゃった」
私が、怖がってる?
「二人の本音を知るのが怖いんでしょ。だから押入れのこんな奥深くに箱を入れた。違う?」
事実上私が殺してしまった人の遺言だもの。内容がどのような物だとしても、私はきっと見た事を後悔する。たしかに知るのが怖いわ。でも。
「私が殺したのではなく、二人が私に命を託してくれただけなのだとしたら、私は二人の想いを受け継ぐ責任がある。遺品の確認だってその一環だし、そうね、怖くても見ないといけないわね」
「耳が痛い」
「あなたのお姉さんの祈りは要するに幸せに長生きして欲しいってことじゃないの。強く生きていればそれは想いを継いでることになるわよ。……箱、開けましょう。待ってね、いま電気点けるから——」
そうして点けに行こうとした瞬間、物音が聞こえた。足音だった。一体誰の——
「……あれ? やちよさんと、ゆりちゃん? 何してるんですか?」
環さんだ。騒がしくしちゃったから起きてきたのかしら。眠そうな顔をして、少し足元も覚束ない様子だわ。
「私の昔のチームメイトの置き土産を見ようとしてたのよ。良かったら環さんも一緒にどう?」
「昔のチームメイト、っていうと、口寄せ神社の時に鶴乃ちゃんが名前を書いてた……」
「その安名メルと、実はもう一人いるのよ。雪野かなえっていうんだけどね、生きていたら私と同じ年齢になるかしら」
「えと、置き土産って……そんな大切な物、私が見てもいいんでしょうか?」
「別にいいのよ。ゆりさんが勝手に見ようとするぐらいには他愛も無い物なんだから」
三人一緒に見る事になり、電気を付けて、居間の机上に箱を置いた。
「じゃあ……開けるわよ」
蓋を開けて、中に入っている物を覗き込む。入っていたのは……ただの紙だった。
「かなえが歌詞を書いていたのと……メルの占いの結果?」
一点、独りで突き刺す。二点、ふたりで切り裂く。三点、角が取れて初めて円に向かって丸くなってゆく——
これは人の円、ボク達魔法少女が紡ぐ円。この時はきっと今よりも危険だけど、同時に優しさも満ちている——
「かなえさんにとって、やちよさんが本当に大切な仲間だったって事、伝わってきます……」
どうしようもなく、感情が溢れてくる。かなえ、あなたを未来へ連れて行く事が出来なかった。メル、あなたをみんなに合わせる事が出来なかった。
「安名さんの占いは絶対に当たるんだよね。だったら……安名さんだってしっかりと見守ってくれているよ」
私の願いが殺したのではないのかもしれない、でも私が二人を殺したようなものだというのは変わらない。私の判断ミスが無ければそもそも誰も死ぬ必要なんか無かったのだから。
二人の遺した物から二人の想いを知って、大切な仲間を殺してしまったという事実を、改めて認識した。もう二度とこんな事は繰り返さない。
「……それで、チームは解散するの?」
「なんで、そうなるのよ……そんな事少しも考えてすらいないじゃない……」
「いや、二度と繰り返さないとかいうから……」
もう絶対に仲間を死なせたりしないって意味よ……
この紙がどうしようもなく愛おしく思えて、手で覆うようにして抱え込んでしまった。間違いなくシワが出来てる。せっかく二人が遺してくれた物なのに。
そんな私を、環さんとゆりさんは何も言わずにぎゅっと抱きしめてくれた。ほんの少しだけれど、心に空いた穴が埋められていっているような気がする。
この事自体は別に良いのだけれど……
「免停って何……?」
ゆりさんがボソッと呟いたその言葉だけは、全く意味が分からなかった……
◇◇◇◇◇
遺品の確認が完了したので、後は明日に記憶ミュージアムへ行けば自動的にドッペルが解放されます。
じゃあ……寝ようか(就寝)
オッハーーーーー! オッハァァァァアアアアアアア!(爆音)
さぁ、今日は記憶ミュージアムに行く日です。では予定の時間まで飛ばしますね……
——記憶ミュージアムの場所はここ、神浜記録博物館の跡地です。やちよさんが一時離脱しなかったので、最初からチームみかづき荘のフルメンバーで来ていますね。
中に入ると、みふゆさんとそれからマギウスである里見灯花がお出迎えしてくれます。……あれ、なんでバリアなんか張ってるんですか……ゲェッ!? 読心魔法対策の結界だこれ!?
プレイヤーキャラクターの脅威度が高いと灯花ちゃんが判断した場合、今回は対テレパシー用遮断結界ですが、遮音結界や幻惑魔法の常時展開、スキルやマギアの妨害結界など、専用の対策魔法をわざわざ開発してこのように使ってきます。
その脅威度の指針となるリスクレベルは通常のストーリーイベントをなぞるぐらいであれば無視できる程度にしか溜まらないのですが……今回は無視できる程度の低確率に当たってしまったようです。原作マギアレコードのガチャ単発引きで最高レアの魔法少女が出るぐらいの確率です。ヴァアアアアアアア!!!!!(癇癪)
まだあわわわわわわわ慌てるような時間じゃない……講義への参加ついでに灯花ちゃんから情報を盗む必要があるチャートだけどまだ希望は……希望はある……
この対テレパシー用遮断結界は、薄い結界で自分の周りの空間を覆っているだけのようです。伝わるかどうかは分からないんですが、某宇宙戦争や某辺境植民のパーソナルシールドを想像してくれれば分かりやすいと思います。
あくまでこの結界によりファイアウォールを張っているだけなので、この結界の内側に潜る事が出来れば問題なく読心できるはずです。自然に接近できるタイミングがあれば……
セリフ送りをしているうちに、灯花ちゃんの講義が始まりました。魔法少女理論基礎一! 基礎二! 記憶の追体験! 応用一! 応用二! みんな既に知ってると思うのでスキップスキップ。
一応補足しておくと、基礎一はソウルジェムが砕けると死ぬ、基礎ニはソウルジェムが穢れで満ちると魔女になる、応用一はドッペルシステム下では魔女化しない、応用二は感情の映しに魔女化を押し付けた際の挙動についての理論です。
……あれ。灯花ちゃんは通常、応用一までしか説明しないはずですが……ドッペルシステムの具体的な仕組みである応用二まで講義内容に含めています。マギウスの翼に入る事を決めた訳でもないのにここまで話すとは、これもリスクレベルの影響でしょうか?
最後に行われたマギウスの翼への勧誘をきっちり断り、みふゆさんの記憶の中から現実へと戻ってきました。
ここでは自分と同じ選択をした人と同じ部屋にぶち込まれます。今回は……灯花ちゃん? なぜか灯花ちゃんと二人きりでいるのですが何故なんでしょう……?
——あっ、遮断結界切れてるじゃん。灯花ちゃんの本音を覗くチャンス!
変身! オラッ、いま何考えてるのか吐け! ついでにワルプルギスの夜を呼んで感情エネルギーを集めるペーパープランが存在するのも吐け! 読心!
「——くふふっ。引っかかったね」
あ、ありのまま今起こった事を話すぜ……灯花の心を読んだと思ったら、ゆりちゃんにスキル不可マギア不可アンド拘束のデバフがかかっていた。
しかも——効果時間、永続。
「あなたの固有魔法は今までの状況から推測して、テレパシーの類。危ないよー? テレパシーというデジタルインタフェースを、セキュリティの一つも考えずに使ったら、こうなるんだよー?」
完全に操作不能。固有魔法に対するメタを張ってくる場合があるのは先ほど言いましたが……ここまで完全にメタって来るのは初めての経験なんですよねぇ! 読心魔法にマルウェアを読み取らせて確定で状態異常にするとか想定してる訳ないだろ!
えっこれどうしよう、ここで灯花ちゃん直々に手を出してくる事は無いだろうと思っていたので対策なんて用意していません。遮断結界ですらガバ運による物だったのに……
「虹絵ゆり。わたくし達の為に、たーっぷり働いてね!」
……虹絵ゆりの操作権を完全に奪われました。虹絵ゆりを操作する事も、視点を見る事も、情報の確認も、一切合切が不可能になりました。事実上の……キャラロストです。
——里見灯花ァァァァアアアアアアア!!!!!!!!